ドミノの居場所
俺、ドミノ・アースは、UFOでみんなと赤い月に行く気満々だったが、幽明に、お前は電気街で留守番を頼むと言われたので、言われた通り巡回している。
UFOと幽明って発音似てんな……まぁどうでもいいや。
フィジャナーク王とか言うヒノの兄貴が代わりにUFOに乗るんだってさ。
……
いや、そこ俺の席じゃね?とか思ったが、これもまぁいいや。
あいつらの事を手伝ってやりたい気持ちはあったけど、電気街の異常事態が酷くなってからは、1秒でも早く、夜海サンの所に行きたい気持ちもあったからな。
今じゃ、中々に激しい大乱闘過ぎて、簡単に移動すら出来ない状況になってやがるし……
俺が愛した電気街は、今や過去の面影が薄れる程に変貌を遂げている。
あんなけ賑やかだったのに、今や人なんてほとんどいない。
その代わり、ハイレベルな異形、妖怪軍団、赤目の宇宙人、神格の存在達が、ド派手な大乱闘を巻き起こしている。
そこかしこの建物は崩壊し、置きっぱなしの道路の車は吹っ飛び、地面はアイスクリームみたいに抉れている。
俺が、よく使ってた自販機は真っ二つに引き裂かれ、オタク仲間達と溜まってたフィギュアショップには、魔族の一味みたいなのがアジトにしてる。
顔なじみの婆さんがいる無線機の店には、全然知らねー異形が婆さんの椅子に座ってやがった。
大通りを歩けば、デカい角が生えてる大蛇が我が物顔で道路を占領してるし、見慣れたゲーセンのデカい看板には、大型トラックぐらいの白い蝙蝠がくっついてる。
裏道に行って見りゃ、バカでかいコブラみたいな鉄のロボット集団が光線銃持って、作戦会議してるんだ。
マジふざけんな!!!なんか色々ルール無視し過ぎだろ?
まだまだあるんだ、この際、聞いてくれよ。
そんな多種多様な奴等とは格が違うような、トルコ石みたいな肌の赤目のエイリアン集団が、誰彼構わずボコボコにして回ってたり、似たような種族の山でも食いそうな超巨竜が、血色のブレスでビルを溶かしたりしてんだ。
でも敵みたいな存在ばっかりでもねぇ。赤目のそいつらも葬り去れるような、直視すらできない眩い光の存在みたいなのが時々空から舞い降りて来たりして、暴れ過ぎている奴等を退治してくれたりもするんだ……
でも……もう……電気街は地球じゃねぇよな。
俺はその光景を最初に見た時、本気で号泣した。
遊び疲れるまで歩いた、俺達のこの想い出の道路の上に、涙をボタボタと落としてな。
冗談じゃねーよ。
ざっっっっっけんな!!!!!!!!!!!
て、な……
楽しかったこの街での想い出が、頭にどんどん流れて止まなかったんだ。
なんの権利があって、こんな事が許されんだ?
強けりゃ、何してもいいのか???
ちげぇ……
そんなの……絶対にちげぇ……
そんな感じで俺は今、電気街を歩いてる。
心底ブチギレながら。
己の身さえ飲み込むブラックホールみたいな魔圧を発しながら。
悪魔の右腕を魔竜の牙の様にブンブンと回しながら。
取敢えず、早く夜海サンの所へ行かないと……
逃げ遅れていたらやばい……
どっかから、お前は女の事ばっか考えて、世界を守らねーのか?って聞こえてきそうだな。
世界を守る……?
俺はそんな柄じゃねーし、そんな力もねー。
でも、夜海サンは俺の世界を綺麗に色付けしてくれた。
みんなが俺を適当に扱う中、しっかり俺を見て笑ってくれた。
いつの間にか、彼女が俺の世界になっちまったんだ……
だから、俺はちゃんと世界を守るぜ。
ただし、俺の世界をな!
夜海サン待っててくれ。
全部抜きにしても、君を困らす奴は俺が全員ぶっ倒すから。
夜海サンのメイド喫茶へ向かう為、俺は電気街を闊歩していた。
このエリアを歩いてると、もはや、数十分単位で襲われる。
俺はさっきも、腹ごしらえに寄ったコンビニで、海老みたいな見た目の十刀流を扱う妖怪に、突然切りかかられた。
勿論ワンパンで、刀ごと全部へし折って、コンビニのバックヤードまでぶっ飛ばしてやったけど。
ある種俺も、あいつらと変わらなくなっちまっている。
だが、決定的に違う所がある。
それは、この街を心から愛してるって事だ。
それがあるのとないのでは天と地の差がある。
って事で、さっきから俺をつけて来てる、クソ雑魚オーラのお前等を、そろそろぶん殴るか……
俺は、スタスタと後ろへ戻り、デカいゴミ箱を空き缶の如く蹴っ飛ばし、その後ろにいる連中に挨拶した。
「やあ、悪魔だぜ?」
……
「お前等……」
「ど……ども、ドミノ氏」
そう言ったのは健司隊長だった……
後ろには、スガモ、チヒロが、腰を抜かしてへたり込んでいる。
ムービィはその後ろで、キョロキョロと辺りを警戒してる。
「お前等マジでなにしてんだ!!!!!こんなとこいたら死ぬぞ!!!!!流石に来ねーだろこんな時ぐらい、どんなけオタクなんだよ!!!」
俺は、尋常じゃないぐらい怒鳴った。
「い……いや……我が愛する街の一大事に、逃げるわけにはいかぬと……」
健司隊長が、チェックの長袖シャツに腹の肉を食いこませて言う。
その手には、部不相応な異界の剣。
以前、健司隊長は、まとめサイトの記事を作る為、電気街の都市伝説である風の神殿という所に転移したらしく、そこでバケモノ達と出会ってしまい、諦めの極致で突撃した結果、そいつらに気に入られて、この剣を貰って帰還したらしい。
それからこいつは、ずっとこの剣を大事そうに持っている。
まるで、自分の誇りみたいに。
「アホか、見て分かんだろ!?お前等に何が出来る!?」
俺は全員の頭をはっ叩く。
「いてーなぁっ!アホドミノ!!!おめーも同じだろ!!!」
スガモが、半ギレでそう言ってきた。
「お前は、せっかく異界から取り戻した彼女を大切にして、どっか別の街にでも引っ込んどけよ!」
そうだ、お前と再会してあんな嬉しそうに泣いてた女を悲しませちゃいけねーぞ……
「うっせーな……わかってるよ」
スガモは罰が悪そうに言った。
「まぁまぁドミノさん。みんなはドミノさんを心配してたんですよ」
チヒロが、空に飛び交う異形を見て、チビりそうな顔で言った。
「俺を……?」
俺は、みんなを見渡した。
みんなは恥ずかしそうにしている。
「そうですよ、ドミノさん。私達はあなたを放っておけなかったんです」
ムービィが、オクラホマミキサーのような映像を、顔面のモニターに流して、そう言った。
「お前等……」
その時だった――
洗濯バサミみたいな頭をした、中型の飛竜種が、上空からムービィに飛びかかろうと急降下してきた。
「ムービィ!!!」
やべぇ!!!!!!全員引き裂かれる!!!!!
しかし……
俺の視界から、洗濯バサミ飛竜が突然消えた。
ドドドドドド!!!!!!!
次の瞬間、洗濯バサミ飛竜は何者かに掴まれ、隣のビルの壁に打ち付けられ、めり込んだまま最上階まで引きずられて、放り投げられた。
その黒い影は、ふわりと俺等の元に降りて来る。
俺は、焦って警戒する。
「ウツロギ師匠!!!」
スガモがそう叫んだ。
降りて来た影は、スーツ姿で黒マントを着ている人間だった。
「やっほー、スガモ君。元気ー!?」
その男は、どっかで見た事のある顔で、目元は優しく、色白で眼鏡をかけていた。
少しハーフっぽくて、年は俺より二つぐらい上っぽい。
「元気っすよ!!てか、ここで何してるんすか!?」
スガモは随分と親しげだ。
「世の為人の為だよ、フハハ。あ、周りにいるのはお友達かい?
私は、宇空木 天鳴でーす。しーくよろよろっす!」
ムービィは何故か、UFOの映像を流している。
健司隊長とチヒロは、はぁ……と言う感じで挨拶する。
そして、今度はひどく強い属性の気配がした……
滅茶苦茶速い、こっちに向かってきてる。
俺は最大限警戒する。
すると、その気配は、ウツロギと言う男の背後に瞬間移動してきた。
すかさず俺は、その場に先取りしながら殴りかかろうとする。
だが……
ウツロギが、やって来たそいつと俺の手の間に、顔色一つ変えずに、さっと手を出して、俺の動きを制止する。
どんなけ速ぇーんだこいつ……
そこに来た奴は、三メートルぐらいの宇宙人で、戦隊物のヒーローみたいながっしりした肉体の奴だった。
目が無く、顔にはエラが沢山あり、体からなかなかに迫力のある電気をバチバチと放っている。
まるで、雷のエイリアンだ。
そいつは、ウツロギによくわからない言葉で何か言い、しきりに首の骨を鳴らしている。
「だって仕方無いだろジュルメンス君?僕の弟子が、後数秒で引き裂かれそうだったんだから」
「あ、ジュルメンスさん、ちわっす」
スガモが後輩みたく言う。
ジュルメンスと呼ばれた、雷のエイリアンは、ペコっと頭を下げた。
そして、そいつは電気をバチバチと激しく体に巡らせて、またもや抗議するよな声を上げてる。
俺のバカな仲間は、呆気にとられてぼーっとしている。
ムービィは、勝手に体のコードで電気をパクッて気持ち良さそうにしてる。
「はいはい、わかったジュルメンス君、チームワークに気を付ければいいんだろ?」
ジュルメンスは、うんうんと頷いた。
その時――
近くで巨大な爆発音が聞こえた。
「取敢えずここは危ねぇ。みんな行こう」
俺達は、物陰に隠れながら歩き出す。
こいつらを安全な場所までやらねーとマジやべーな。
早く夜海サンの所行きてーのに……
俺は、先陣切って駅の方に向かって歩く。
「ドミノ氏、何処に向かっているのですか?」
健司隊長が、使えもしない剣を構えながら言う。
「駅だよ。あっちの方は政府関連の奴等がいっから、頼めば車で送ってくれるだろーからな。俺は、お前等を置いて、早く夜海サンの所に行かなきゃいけねーんだ」
俺は歩を速める。
ウツロギと、ジュルメンスは、涼しい顔で付いて来てやがる。
そのタッグを見て、同業にも色んな奴がいんだなと俺は思った。
「なんでですか!?僕等せっかくドミノさんを助けに来たのに、意味無いじゃないですか!?」
チヒロが、健司隊長の背中にしがみつく程に、ビビりながら言った。
「あんなー……お前のそのガクガクの足で何が出来んだよ?」
俺はめんどくさそうにそうに返す。
「ざっけんなドミノ!そんな言い方ねーだろ?確かにチヒロはここまで来るのに怖すぎて何度もゲロ吐くぐらいだったわ。でもな、そんな状況でも、お前を助けるって言いいながら、一度も逃げようとせず、こんな魔境を突っ切ってきたんだぞ!?」
スガモがブチギレた。
「そうですよ……みんないつも一緒だったじゃないですか、ドミノさん」
ムービィは、いつ撮ったんだか、俺等のバカ騒ぎの日常の映像を流した。
「ドミノ氏、ドミノ氏と出会ってから、ニートの拙者でも毎日が凄く楽しかったんでござるよ……拙者の人生、友と呼べる存在はいなかったでござるから、こんな嬉しい日々に戸惑ったぐらいでござる。そんな場所を作ってくれたドミノ氏を置いて逃げるなんて、逃げ続けて来た拙者でも無理でござるよ」
健司隊長は、仄かに笑った。
「そうかお前等……一つ言っていいか?」
みんなは、超感動ムードで頷く。
「後ろ……」
全員が、え?っと言う顔をする。
そこには、十五メートルはくだらない、真っ白な異形蝙蝠がいた……
「ぎょええええーーーーー」
ウツロギとジュルメンス以外、全員が俺の背中の後ろへ隠れた。
「お前等即効、俺を盾にしてんじゃねーーーかあああぁぁぁ!!!」
そう言った時には、俺は爆発的スピードで大ジャンプしていた。
さらにはそのまま、蝙蝠の顔面にフルスイングを叩きこむ。
ドドドドドドドドドン!!!!!
白蝙蝠は、いつもならコンカフェ嬢が並ぶ通りに、派手に吹っ飛んで行った。
「ヒュウーーー君やるね」
ウツロギが口笛を吹き、余裕な表情で笑う。
ジュルメンスは、白蝙蝠に電柱伝いに極雷の稲妻を落としている。
みんなは俺を見て、口開けて固まってる
そんな中、スガモはボソッと言った。
「ドミノ……今度2000円ちゃんと返すわ……」
「おう……4000円だけどな」
電気街外れ、大きな公園――
あれから、色んな物陰や建物に身を隠し、かなりの距離を進めた。
もう少しで、夜海サンのメイド喫茶に辿り着ける!。
勿論、威勢だけは良い、俺のダメダメなダチ共も、ついて来やがった。
若干面倒だが、俺は夜海サンが好きなのと同じく、こいつらにかなり情を持っちまってるらしい。
さっきまで、怒りでこの街を彷徨っていたが、こいつらといれば、こんな時でも面白く感じられる。
こいつらの事を考えると、ひとまずはこの公園で休憩だな。
俺達は近くのコンビニに寄ってから、いつもたむろしてた公園で少し休憩する。
広い砂場にある、コンクリートで出来た山のような遊具で、一同は、菓子パンやら、
缶詰やらスナック菓子を頬張る。
「にしても、流石にこの状況はやべーよな?もうゲームの中の世界じゃん」
スガモがメロンパンをムシャムシャと食べながら言う。
「こんなのばっかで溢れたら、僕、外なんて出れません」
チヒロも、女みたいな顔に不安を浮かべながら、ホイップパンを食べてる。
この状況で、傷みやすそうなの選ぶかよ普通。
「拙者もでござる。もうたまにしか外に出たくないでござる」
健司隊長は、スナック菓子をバリバリ食べながらアプリゲームをしてる。
「お前等、バケモノ云々じゃなくても、前から引きこもり傾向あったじゃねーか」
俺は、高カロリーな炭酸ジュースを一気飲みする。
「それはそうですけど……」
チヒロは俺をちょっとウザそうに見た。
「逆にこんな状況で活動的になるパターンなんなんだよ?」
俺そう言いながらは、健司隊長に掌を見せる。
健司隊長は、その上にスナック菓子をバラバラを乗せた。
阿吽の呼吸だ。
「もしこのまま、電気街が復活しなかったら、何処にたまります?」
ムービィが、おにぎりを五つぐらい食べたゴミを散らかしながら言う。
ウツロギとジュルメンスは、缶詰や珍味を食べながら俺等の話を聞いている。
「じゃあ、もっと都会に行きましょうよ!?」
チヒロが大きく手を広げて、楽しそうに言う。
「てか、まだ、たまんのかよ?流石にウケるわ。いっその事、みんなで会社でもすっか?」
スガモが、フハハと笑いながら、地面の小石を投げる。
「それはすごくいい案でござるな。就職決定。即幹部。ゲームにフィギュア買い放題、メイド喫茶行き放題でござるよ!」
健司隊長は、もはや栄養補給というか、快楽の為にスナック菓子を三袋も食べた。
そりゃその体形なるわ。
「それ、超良いじゃねーか……」
俺は、ボソッと呟いた。
俺達五人は、各々顔を見合わせて、まんざらでもない顔をして頷き合う。
「じゃあ、最終的にはハリウッドにたまりましょう!!!」
ムービィは立ち上がり叫ぶ。
「ボクは水の都ヴェネツィアがいいです!!!」
チヒロも同じく大ジャンプ。
ウツロギが、俺達をぼーと見て言う。
「君らホント面白いねー」
ジュルメンスは、うんうんと頷いている。
「でしょ?師匠。こいつらマジでバカなんすよ」
スガモが俺達に大笑いする。
俺達は、いつも通り全員で、スガモを羽交い絞めにしては、小突いて騒ぐ。
ウツロギが、俺達を眺めながら小さな声で言った。
「まっ君達みたいなのがいる限り、世界が暗闇に包まれる事はないんだろうね……」
意味深なやつだなー。
「でもさー……ちょっと騒ぎ過ぎたかもよ?ほらあれ」
ウツロギがそう言って公園の入り口を指差した。
ジュルメンスは立ち上がり、体に稲妻を這わす。
俺達は、じゃれ合った体勢のまま硬直した。
そこには、見るからに毒々しい恐竜がいた。
見た目は、ティラノサウルス寄りだが、皮膚の色が黄色に赤の斑文様。
頭部と下顎に、巨大な目がボンボンと四つ付いている。
長くて太い尾が三本、フレイルみたいにぶらぶらしている。
そいつは俺等を見るなり、電気街中に聞こえそうな雄たけびを盛大に上げた。
それはホントに凄まじく、俺達のいる砂場の砂が、一瞬浮くぐらいだった。
「逃げるでござるか?」
健司隊長がそう言ったときにはもう遅く、こちらに尋常でないスピードで猛突進してきていた。
ダメだ。何人かはこの速さじゃ逃げ切れねぇ――
「お前等は先に行け、俺が足止めすっから」
俺は返事も聞かずに、毒ティラノに向かい全速力で走っていた。
このサイズなら、全然ぶっ飛ばせる。
俺は、そう思い、奴より遙手前から大跳躍して、奴の顔面付近まですっ飛んだ。
空中で、奴と目が合った。
やっぱな、そこまで速くない。
しかし……その時だった――
そいつの口の中の顎の骨が、滑るように前に飛び出した。
クソッ!!!!!!!!やべぇ!!!!!!
宙で避けるにも避けられず、俺はそのコンマ一秒の間に、何故か振り返ろうとした……
本能的に、最後にダチの顔を見たかったのかもしれねー……
ガチンッ!!!!!
……
あれ……
痛くねぇ……
俺は、目の前にしっかり意識を持って来た。
ジュルメンスが、奴の上下の顎を、両手で渾身の力を出し押さえていたのだ……
そこからは、ビデオの早送りの様に意識が進んだ。
俺は、そのまま体を横に数回、回転させ勢いつける。
そのまま位置をずらし、毒ティラノのこめかみ向けて、超フルスイングでぶん殴った。
毒ティラノはぶるんと巨体を震わせ吹っ飛ぶ。
地面に着地した、俺とジュルメンスは奴の動きを見守った。
やったか!!?
……
しかし、奴は倒れる事は無く、巨大な二本の足で地面を抉りながら踏ん張った。
「あんがとよ。命拾いしたぜジュルメンス」
俺は、隣にいる巨大な雷のエイリアンに礼を言った。
ジュルメンスは、首を鳴らしながら頷く。
「いやー危なかったね。今の顎はずしは、ミツクリザメ系統だね」
ウツロギがいつの間にか横に並び、眼鏡をクイッと上げながら、先生みたいな事を言った。
「アイツ、かなり硬いぞ?タフさも論外にやべぇ」
俺は、二人に言った。
「ほぅーじゃあ、あれだね。ジュルメンス君、プランHだ」
ウツロギが言い出した。
目の前の毒ティラノは怒り狂っており、すぐにでも突進してきそうだ。
なのに……
下ネタ?
「え……プランHってなんだよ。こんな時に下ネタぶっこんでんじゃねーよ」
俺は、毒ティラノそっちのけでツッコむ。
「ドミノ君、普段からそんなことばっかり考えてるからそう思っちゃうんだよ。ねぇ、ジュルメンス君?」
ウツロギがそう言うと、ジュルメンスが頷いた。
「す……すまん。七つもアルファベット飛ばすからつい……」
俺がそう言った時には、ジュルメンスが毒ティラノを青白く輝く極雷ボールの中で感電させ始めていた。
激しく鋭い電撃音が鳴り、毒ティラノは口を180度に開けて絶叫している。
これで、終わりかな……?
雷ってのは便利だな。
そう思っていた。
「ドミノさーん大丈夫ですかー!?やりましたねー!!」
チヒロがそう叫び、こちらに走って来る。他の面々も後ろに続く。
「おいお前等、逃げろつったろ!?あぶねーから離れ……」
その瞬間。
「ドミノ君!!!!!」
ウツロギが切羽詰まった声を上げる。
毒ティラノは雷を受けながらも、次第に平常に戻っていき、体の色が雷と同化していく……
さらには、まるでエネルギーをチャージしたように、目をたぎらせて、特大な咆哮をあげた。
咆哮と共に、口から出た稲妻の息が宙に美しく散る。
そして、そのパワーアップした狂気の視線を次に向けた先は……あいつらだった。
「逃げろーーー!!!!!」
俺とウツロギ、ジュルメンスは、すぐさまそちらへ向かおうとする。
だが……
毒ティラノは、オンオンオンと奇妙な遠吠えする。
「まずいっ結界だ!!!」
ウツロギがそう言った瞬間には、俺等三人の足元に、黄色と赤に光る魔法陣が浮かび上がり、同じくその色の光の壁に四方八方包まれた。
俺達三人はタックルしたり、魔術を施すが、一向に破壊できる気配が無い。
これが、こいつのホントの持ち味でもあり、捕食スタイルだったのかもしれない……
毒ティラノは、余裕を見せる足取りで、ゆっくり地響きを立てながらあいつらに近寄る。
「君達今すぐに逃げるんだ!!!」
ウツロギがそう叫んだ。
「早く逃げろーーー!!!」
俺も喉が潰れる程の大声を上げる。
こんな……いやだ……
やっぱりあそこで、こいつらを逃がしておくべきだったったんだ……
俺の責任だ……
その時だった――
ムービィが後退りした際、石に躓き尻もちをついた。
その反動で、顔面のモニターから映像が流れる。
俺は目が良いから見えるが、この場に似合わぬ魔法少女アニメだ。
健司隊長はそれを見て、ぼーっと突っ立ている。
チヒロとスガモは、毒ティラノが間近にいる恐怖から、足が動かなくなっている。
「おい、お前等!!!何してんだ!!?頼むから早く逃げろぉぉぉーーー!!!」
俺は涙を流し、血が出る程に壁を叩いていた。
「ウツロギ!!この壁潰せねーのか!!?」
苦い顔で毒ティラノを見るウツロギに、怒鳴って聞く。
「残念だが、奴本体を倒すか、魔女級の魔術師の解呪でしか、この壁は破壊できない……」
その顔は、本当に打つ手無しのような顔だった。
だが、次の瞬間――
健司隊長が、毒ティラノの方を向き異界の剣を突き立てた。
毒ティラノは数秒かからず、健司隊長を丸呑み出来る位置にいる。
全員が唖然として固まっている。
だがスガモは、はっとした顔になり、何やら健司隊長の方にブツブツ言って手を伸ばし出した。
雲一つない快晴。
毒ティラノは、まるで余興を楽しむかのようにじっとして、大きな目玉を健司隊長に向けている。
健司隊長は叫んだ。
「無数の世界を巡る星彩よ……七色の光となりて我に集え……万象の祝福の輝きの虹、私が今ここに顕現する!!!!!!!!!」
虚空に一人のちっぽけな男の誇りが響いた……
毒ティラノは、あぁつまらなかったと言うように、大きく口を開いた。
「私が愛の力でみんなを守る!!!」
異界の剣が光り出した。
全員がそのあり得ない光景に驚愕した。
毒ティラノは、危険を察知したのか、特大の咆哮を健司隊長に浴びせた。
そして、勢いよく噛みつこうとする!!!
「ティンクル・プリリズム!!!!!!!!!!!!!!」
健司隊長が鬼人の如く叫んだ瞬間、光出した異界の剣は、毒ティラノに向かって激しく閃光し、破滅的な魔弾を連射放出し出した。
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」
無尽蔵に湧き出る魔弾を放つ異界の剣の振動に、歯を食いしばって耐える健司隊長。
!!!!!!!
!!!!!!!
!!!!!!!
それは、まるで魔法少女アニメの最終回みたいな光景だった。
確かに、このちっぽけな公園に、愛の魔法が顕現したのだ。
次の瞬間――
俺、ウツロギ、ジュルメンスを囲う結界はパリンッと割れて消失した……
同時に、健司隊長の剣は光の放出をやめた。
それを、見ていた俺の心の中に言葉が浮かぶ。
(キュートな愛は世界を照らすんだよ)
魔法少女 スピカ・マインドじゃねーか……
健司隊長に駆け寄る俺達。
放心状態のチヒロやスガモ。
未だに、剣を抱えたまま遠くを見つめる、健司隊長。
ムービィは、魔法少女スピカ・マインドのOPを流して尻もちをついたままだ。
「お前等大丈夫か……」
俺はみんなに声をかける。
ウツロギが健司隊長の肩をパンッと叩いた。
「なかなかやるじゃん君、そいつ、かなり強力な異形だよ?」
ウツロギが指差したその場所には、大きく口を開け、反りかえったまま動かない毒ティラノがいた。
「……なんとか大丈夫です。……健司隊長……魔法使いだったんですか?」
チヒロが茫然としたまま言う。
「……この剣がただ反応しただけでござるよ。拙者の愛に……」
健司隊長は剣を誇らし気に眺めている。
スガモが、健司隊長を信じられないような目で見る。
「解呪してみたんだ……その剣。でも普通あんなにまでは、なんねーぞ……?」
「その剣が、健司隊長を認めたんですかね……」
ムービィがボソッと呟いた。
「まぁ何より、お前等が無事でホントよかったぜ……マジで無理すんなよ?」
俺は心底安心して、大きなため息をついた。
安心した途端、俺の頭に夜海サンの笑顔がよぎった……
「……早く行かなきゃ」
俺は一人で呟いた。
だが、みんなは俺を見て、真剣な顔でゆっくり頷いた。
メイド喫茶アルデバランの地平線――
駆け足で向かったので、先程の公園からさほど時間はかからなかった。
しかし俺は、店の前で茫然と立ち尽くした。
見慣れた看板がぐちゃぐちゃに潰されて転がっていたのだ。
店の扉も破壊され、内部も痛々しく破壊されていた。
みんなはそれを見ている俺から離れていた。
何故ならその時の俺は、過去一ブチギレており、悪魔の右腕も、勝手にうねってる尻尾も、いつもの数倍膨れ上がり、周囲をおぞましい禍々しさで溶かす程の魔圧を放っていたからだ。
俺の悪魔の右腕が、ただの表現では無く、本当にグツグツと煮たっていたのだ。
みんなが理由をつけ、外で待っててくれると言ったので、俺は一人、アルデバランの地平線の中に入った……
俺の思い出が詰まった、ソファー席は滅茶苦茶に引き裂かれている。
夜海サンが大切に掃除していた、店内の小物やカウンターも、クソみたいな引っ掻き傷がある……
俺は、気が付けば前が見えなくなる程に涙を流していた。
「あーーー……こんなの……こんなのあっかよ……あーーー……」
みっともない声を上げて、泣きじゃくる俺。
夜海サンとの想い出が一気に頭に流れ、息が出来ない程嗚咽し、自分で溺れるぐらいの涙が噴き出た。
俺は、膝から崩れ落ち、心が真っ暗になっていた。
「頼むからっ!!!!!頼むから神様!!!!!あの子を返してくれ!!!!!」
俺は天を見上げて懇願した……
頼む、あんな優しくて泣き虫な女の子を、怖い所へ連れて行かないでくれ……
チャンスをくれたら、俺は二度と離さないから……
……
……
「ドミノ……さん?」
幻聴か?
俺が一番好きな声が聞こえた。
「夜海サン……?」
……
……
「ドミノさん……ですか?」
カウンターの下の扉がスーッと開く。
!!!!!!
「夜海サン!!!何処にいるんですかっ!!?」
俺は声上げて、カウンター下に目を凝らす。
すると、その中に青白いスモッグがボフっと現れた。
あれは……
「ドミノさーーーん!!!」
夜海サンはカウンター下から飛び出て変身し、俺の名前を大声で叫んだ。
さらには、カウンターを飛び越え、俺にギュっと抱き着いた。
夜海サンは、光が射した海の底のような瞳を、まさに海の如く盛大に濡らし、泣きじゃくってる。
「夜海サン!!!怪我は無いですか!!?何があったんですか!!?」
俺は、強く抱きしめながら言った。
「えーーーん……グスグス……げがはあじませんが……お店がぐじゃぐじゃに……なっちゃいまじだー……えーーーん」
俺は抱き締めながら深く祈った。
あぁ神様、本当にありがとうございます。
一生この子を見守ります。
俺は夜海サンを真正面から見つめる。
「夜海サンが無事で本当に良かったです……俺はもう他になんにも要りません……」
夜海サンは俺の懐の中で、俺の目を見つめて言った。
「ドミノざん……わたじの事……本当に……ずぎなんですか?」
……
今しかないよな。
何かあったなら言えなかったんだしな。
「はい……」
「どのぐらいでずか?」
「俺と……結婚して欲しいです……そのぐらいです」
……
……
夜海サンは、泣きながら笑っていた。
いつもみたいに笑顔のまま、ただ幸せそうに黙っていた。
そして、俺の頬を指で撫でながら、一言。
「いいでずよ……ふふっ」
そして、そっと唇にキスをしてくれ、いつもみたく悪戯っぽく笑った。
この時、俺の世界が変わった――
一つが二つになった感じだ。
きっと、俺と夜海サンは、同じ気持ちを共有している。
……
……
外で大きな音がした。
こんな時にも、世界は騒がしい。
夜海サンがビクついたじゃないか……
「夜海サン。ちょっとここで待っててくれますか?絶対帰って来るんで」
俺は、とても落ち着いた顔で笑っていたと思う。
「はい、いつまでも待ちますよ。お嫁さんなので」
夜海サンは、いってらっしゃいと言う顔をしてくれた。
俺は立ち上がって夜海サンを背にし、暗がりの店を出た。
何だかその時、もう自分が自分で無いような感覚だった。
外に出ると大惨事で、ほぼ全員がボロボロにやられて地面に倒れていた。
全員、息はあるようだが、骨は何本かいってるようだ……
どいつが俺のダチを……?
敵がいねーな……
その時だった――
俺の目の前に、ウツロギが現れた。
左肩に、長い宝剣みたいなのが刺さってる。俺に刺さる寸前だった。
「おい……」
俺はウツロギに声をかける。
「良かったー……グフッ……間に合った……こいつ速いよ……フフッ……グハァ……」
ウツロギは血を吐きながら笑ってる。
その笑顔でやっと分かった、こいつは"響ちゃん家族"だ。
既視感の正体はこれだったんだ。
剣を持っているのは、やけに羽が多い、十メートル級の人型の魔族王かなんかだ。
顔に包帯巻いて、半分だけ仮面みたいなのをつけてる。
魔圧が、さっきの毒ティラノより桁違いだ、禁忌の魔術すら使えるレベルかもしれねー……
そいつは、ウツロギからズボッと剣を抜き、血を近くの壁に振り撒いた。
俺に剣を向ける……
そんな状況で、俺の口から出た言葉は意外だった。
「なぁみんな……俺が結婚するって言ったら、式、来てくれるか?」
俺は、地面に転がる仲間達に言った。
「行く……彼女と」
スガモが腹を抑えて言う。
「母さんにスーツ買ってもらわなきゃ」
ビビリのチヒロが笑ってるぜ。
「あなたの物語、最後までお供しますよ?」
ムービィが砂嵐を走らせながら言った。
「拙者も行っていいですか?」
大事そうに剣を抱えて健司隊長が言う。
おめーが来なきゃ始まんねーよ。
「響ちゃんの事、助けてくれてありがとね」
ウツロギは口から血を流しながらウインクした。
やっぱな。お前等そっくりだよ。
庇ってくれてありがとな……
「……」
ジュルメンスが俺は手を伸ばしてる。
あぁわかったよ。式場ではビリビリ抑えろよ?
俺は、大きく息を吐いた。
「てことは、全員出席でOKだな!?」
みんなは同時に頷いた。
目の前の、どっかの魔族王が、包帯の下でケラケラ笑ってる。
「おもしれぇか?……よかったな……最後だからしっかり笑っとけ」
奴は真顔に戻って、俺に剣を振りかざした。
「じゃな」
挙式――
「いいぞーーードミノーーーキスしろーーー!!!」
俺のダチ共が、スーツを着て松葉杖をつきながら笑っている。
「キースキースキースキース」
大声でそう言いながら、折れた腕を高く掲げている。
俺の前には、ウェディングドレスを着た夜海サンがいる。
「ああ言ってますよ?ドミノさん。ふふっ」
夜海サンは、パステルカラーの薄いピンクの髪を、無垢白なウェディングドレスに垂らし、俺だけの為に微笑んでいる。
今までで見た女の人の中で一番きれいだ……
「じゃあ、そのー……」
俺は、頭を掻きながら照れ笑いする。
「どうぞどうぞ!」
夜海サンは、眼を閉じて唇を突き出す。
薄っすら目を開けて、笑っている所がやっぱり夜海サンだ。
俺は、小さな肩に出来るだけ優しく手を当てる。
緊張して、手が震えちまった……
「くすぐったいです。うふふ」
「ご……ごめん。夜海サン」
「許します!結婚してくれるんですから!」
夜海サンは、目尻を下げて幸せそうに瞳を輝かせた。
世界一綺麗な瞳だ……
俺と夜海サンは見つめ合う……
「夜海サン。君を愛してる。ずっと一緒にいて下さい」
「はい!ずーーーっと!一緒にいましょっ!大大大好きです!」
沢山の歓声が聞こえる中、聞き慣れたダチの声が俺の耳に響く。
あいつらと電気街で過ごした日々が俺の中に一気に流れた。
あぁ、そっか。全部宝物だったんだ。
お前等と出会えて本当に良かったよ。
ありがとう……みんな。
俺の瞳から頬に涙が伝った。
「……」
夜海サンが、俺の涙を見て微笑んだ。
「帰ったら一緒に泣きましょうか?」
「はい。よろしくお願いします」
俺と夜海サンは、クスクスと笑いながら、そっと唇を重ねた。
大歓声が巻き起こる。
間違いない……
やっと見つけたんだ……
俺の居場所はここだ――




