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べリンジギット ――最強の刀使い――


深夜、大都会の中心に位置する、スクランブル交差点が機能を停止しています。

不穏です。

交差点内はおろか、その近辺にも誰もいません。

語弊です。

私こと、ミコト様の女執事、月原ノウコと異形が二体います。


雨が降った後で、アスファルトは湿り、独特の匂いをまとわりつく湿気と共に充満させています。

だだっ広いそんな空間を睨むように、激しく降り出しそうな灰色の雨雲が上空に居座っています。

睨まれた交差点の信号は、赤、黄、青をイカレタみたいにランダムにチカチカと点滅させています。

あ、ちょっとかっこつけちゃいました。すみません。

文豪みたいに言いましたけど、普通に異形の仕業で狂ってるだけです。

今回の問題の張本人である、上空にいる方の異形の仕業です。




「スベラン!ボンダンボー!いやはや人間よ、クリアしてみせろ!私のゴージャスなこの挑戦を!完璧に美しいサービスを!!数えきれない褒美を手に入れたまへ!!!バッハイヤー!」


上空から、訳の分からない言葉と日本語を混ぜて、この天気には暑苦しい程のテンションで叫んでるのは、人型ですが全身が宝石のサファイヤらしき物で出来た異形です。

ただそれだけなら、美しいかもしれませんが、その前身には、包帯がぐるぐる巻きで、所々に毛が生えて、人間そっくりな目玉が頭に一回転、十二個ぐらいあります。

異常ですね。



「スベラン!ボンランボー!褒美はいらないので、早くここから消えてくれませんかー!!?」

私は叫びました。


若干、あの異形の言葉の真似をしました、意味は分かってませんけど。

私の任務は、この交差点の機能を回復させる事。真夜中と言う事もあり、ミコト様は

今、お屋敷でおねんねしています。

ミコト様のおねんね顔は、万の宝石より価値があります。しいて言えば、私のカメラロールは宝物庫と言った所でしょう。

話は戻りますが、天の扉が開いてから、超強力で正体不明の異形が増えました。

恐らくは、元からいた存在達が、無数の異形の出現に刺激されて表出したと私は考えます。



「おおぉ同士よ!!!スベラン!ボンダンボ!それは、出来ぬな。願いは自分でつかみ取れ少年よ。どうしよう?と迷うな。同士ならな!バッハイヤー」

あ、なんか感動してくれました。やはり、挨拶は大切ですね。

ですが、ツッコミどころ満載です。



「あのー!私女の子なんですけどー!それに、ジョークがちょっと寒いです!」

そうです、どっからどうみても女性なはずです。

結構綺麗な女性なはずです。

髪だって、こんなに黒々として背中まであるし、腕も足も白くて長いので、見栄えは良い方だと思います。目だって、ミコト様がいつも「ノウコの目はかわいいね」って言ってくれますし。


包帯サファイヤの異形は、ぐっと目を凝らして軽く笑いながら言った。


「どっからどう見ても、26歳ぐらいだろ!?ヘイよー!?それは、女の子ではないずだぜ!ヒャッハー!」

失っ礼な!!!なんでそこだけ妙に的確になるんですか!?

最後のヒャッハーも微妙にウザイです!


私は、手に持つ二本の秘刀を奴に向けて言いました。

「人間のせかいでは、26歳でも女性は「おんなのこ」なんです!!!!!」


私の怒りが、雨雲の神様に届いた様に、雨が降って来ました。

スーツが少しだけ重く感じます。



「ほぅ……覚えておこう……」

包帯サファイヤの異形は雨雲を見上げながら言いました。

雰囲気が変わりましたね……そろそろ始まります。


雨が降り出し、上空の異形がもう一体の異形に目配せした事で、私と同じく地上の交差点にいる、それは動き出しました。


――戦闘開始です。






雨降る、静寂が佇む巨大な交差点――


恐らくは、ヒドラ種ですね……

あまりふざけてもいれません。

私の五十メートル程先にいる、"それ"は異形霊媒の世界では、タブーの敵とされ、あったらまず逃げた方が良いと言われている類の存在です。

色んな意味で厄介で、不思議な相手故に。


体格は大型の像程で、長い首があり、口もそこにあります。

目や耳は無いので頭と言う感じではやはりありません。首です、太いですが。

その先端に触手が12本生えてます。その首が、ずっしりとした四足の体幹へと繋がおり、少しケンタウロスっぽいです。

妙に人間っぽい肌色も特徴的です。

今回のヒドラ種はこの形態ですが、個体によって全然に形態は違います。


さて、行きますか……

ちょっと、荷が重いですが……

応援してくれますか?

たまに、女の子とか出してみます。



――


私、ノウコは、アスファルトに足を滑らせて、一歩ジャリっと踏み込みました。


その時です――


「ビーーーナスタイム!!!!!」

包帯サファイヤの異形が、上空で叫びました。

ボーナスタイムと言いたかったでしょうか……?

ダジャレが好きなあの存在は、微妙に私に気を遣ったのかもしれません。


私は、肌に違和感を感じました。

とてもひんやりします。

目の前のヒドラ種も、長い触手をウネウネと動かして、何かに反応してます。


その後の光景に私は、異形の仕業ながら息を呑んでしまいました。

あまりの荘厳な美しさに……


辺り一面に振る雨が、輝く氷粒になり、落ちる速度も重力に反しだして、かなりゆっくりと空間を舞ってるのです。

世界一のテーマパークでもこんな演出は無理です。


まるで、神様に結婚指輪を貰ったような気分です。


しかし、あれですね。

ヒドラ種にはあまり、響かなかったみたいです。

ウィンドウショッピングのガラスを片っ端から割っていくように、私に突進して来てます。


私が上空を見上げると、包帯サファイヤは、やれやれと手をあげて、口元の包帯を楽しそうに揺らしてます。


やれやれはこっちです。





では、そろそろノウコ行きます――


取敢えず刀ですね。刀が無ければ私の戦闘は成り立ちません。

私は、右手に持つ暗夜白冥と、左手に持つ怪乱桜を水平に掲げ、ピョンッと飛び跳ね十回転。

その間に、刀を縦横無尽に振り回します。

イメージとしては、世界樹の根を貪る、渇欲止まぬ蛇集団のようにです。

例えヘタクソですか私。


斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃斬撃……――


私の周囲の氷粒が、ギシャシャシャシャ!!!と猛烈な音を立てて、粉々に爆塵しました。

ちょっと勿体無い気もしますが、これで動きやすくなりました。

バレエ習っておいて良かったです。半年で辞めましたが。


呪文を唱えます。魔法少女のように可愛くは無い呪文ですが我慢してください。


「ギリオドよ。ワレが代償により得た力、今こそ授け給へ。この身に稀なる奇跡を授けよ。アヤシビよ、そなたの崇高なる火炎、目の前で拝見したいと切に願う。出でん事を私が許す」

空間から二重の声がしました。


「我らが力、ヌシに集わん……」


深淵の調伏者ギリオドが、私に憑依しました。

生物的にアップデートされ、万能感を感じます。

ふぅーはぁー……しちゃいます。

私の視界がぎゅっと絞られ、全てが鮮明に見えだしました。

交差点に広がる、無限の氷粒の細部まで視えそうです。


ヒドラ種が、私に猛突進しようとする中、その間に二十を超える化け提灯が、ひゅーどろどろと言う、いかにもな音と共に現れました。


アヤシビ達は、大きな裂けた口から乱雑な牙を何本も生やし、長いベロをいやらしく振り回し、よだれを垂らしています。

ちょっと下品な妖魔です。

主人と妖魔の品は無関係です。


ヒドラ種は警戒して止まり、太くずっしりとした足でホイップみたいに地面を削って、再突進の機を伺っています。


アヤシビ達に恐れの感情などは無く、ただ噛みつきたいと言う自己の意思だけに翻弄され、ヒドラ種にユルルルルーと向って行きました。


あらゆる方向から囲むアヤシビです。

口が180度に裂け、中にある蒼白の炎が美しく輝いている子もいます。

出来た子です。

やはり、主人に似るのでしょうか?


ヒドラ種は当然ウザそうにして、全身を神話の斧のように豪快な迫力でぶん回し、

アヤシビ達を潰しています。

噛みつかれた部位や、紫煙を放つ不気味な火炎放射ブレスを吹きかけられた部位は、動画の巻き戻しのように治癒してます。

まさに、あらたな再生ですね。


では、私も――


私は駆けます。

氷粒でまみれたアスファルトの上を。

五歩ぐらい助走をした後、地が割れる特大ジャンプを決め込み、上空の氷粒も破圧で吹き飛ばしながら、数秒程でビルの最上階程飛びました。


「ベラボウ!!!!!」

そんな声が、同じ上空から聞こえました。

今は無視です。


私は空間で止まります。

実際は止まってません。気持ちの問題です。


……


――愛しき者達を守る力を下さい――


天に近い場所で、心を無垢にして聖女のように祈ります。


では――


次の瞬間私は、思いっきり体を相手とは逆に捻じり、肉体を横に向け、二本の刀を縦に向けました。

そして、相手の方向に向かって、持てうる全ての力を振り絞るような気迫で、刀を大回転させます。

私で発電したら環境問題が解決しそうです。

私は、刀達の計り知れない推進力により、はじき出された駒の様になって、ヒドラ種に向かって打ち放たれました。


到着まで3秒もかかりませんでした。

一瞬見えた地上の交差点に、怪獣の爪痕みたいなものが出来てしまいました。

異形のせいにしましょう。


私と言う大車輪が、ヒドラ種に対して猛烈に回り続けます。

ホントなら、通過してるはずですが……

ギリギリで魔術のガードを施されました。

私は魔術ガードに対して、物理一直線で相対します。

魔術はあまり知りません。脳筋です。

あ、バカにしましたね?あとでお仕置きですよ?

私には、上位魔術のような二本の秘刀と、力を貸してくれる強力な妖魔さん達がいるからいいんですよーだ。

それはそうと魔術の壁は、無類の衝撃を受けて、巨人が溶接でもしてる様なあり得ない轟音を立てながら、プラズマの炎まで周囲に撒き散らかしています。


そんな状況なのに、ヒドラ種の触手は、ぶらんぶらんと何も考えず、虚空に揺れています。

アヤシビ達だけが、この破壊の所業に巻き込まれ、無残に地面に散っていってます。

この子達は、炎さえ残ってれば生き返るので気にしなくていいです。

でも一応……ごめんね。

謝っても分からないでしょうけど。

前なんか、私の足に噛みついてきたし。


そろそろ、推進力が無くなって来たので作戦を変えます。

私は回転をずらし、ヒドラ種の垂直に位置する上空に移動しました。


ギリオドに体を委ねます。我をなるべく捨てて……

すると、私の体にさらに変化が起きました。

私はその感覚を最大限に使い、上空でピタリと逆さ立ちしました。


上空に地面があるように静止してます。


ヒドラ種は不思議そうにあの無数の触手で私を見つめています。

案外可愛いですね。


では、その脳天に――


私は空を蹴り、ヒドラ種真っ逆さまに落ちます。

そこからはもう、人の概念を捨て、ただギリオドと、刀と一体になります。

数秒で1000発、乱雑で至高の斬撃が、ヒドラ種のガード魔術に叩き込まれます。

その空間に漂う、魔術の気配を何万回と断ち切ります。

超脳筋です。

イジワルです……そんな事言わないで下さい。

これでも学生時代は、お嬢様学校の図書館で、窓から射す穏やかな日差しを受けながら、静かにページを捲っていたんですよ?

懐かしいです……

って、いつの間にか魔術ガード砕けました。

もらいです!




――


「ウウグッ!!!」

このみっともない声は私のです。


気が付けば、ヒドラ種に触手で四肢を拘束されてました。

気の緩みが原因ですね。

あなたたちのせいです。

嘘です。すみません。

奴の触手が光ぐらい速かったからです。


このまま魔術を流されたり、さっきより大きくなったあの不気味な口で噛みつかれたら、私はこの物語から消え去るでしょう……


誰か助けて……


なんて、可愛いセリフが浮かびません。

今浮かんだのは、"こんなハレンチな終わり方はイヤ"です。


私は無償に抵抗したくなり、おもむろに私の右腕を掴むヒドラ種の触手に噛みつきました。アヤシビを真似る感じで。


私からのチューです。

レアですよ?

ふふっ


ヒドラ種はあろうことか、こんなことで絶叫し、触手をこんなにも簡単に私の全身から離しました。


失礼な……私のチュー、そんな酷かったですか?


ですが、もう油断はしません。

コンマ一秒以内には居合をかまし、ヒドラ種を真っ二つにしました。


更には、上半身を先程の乱雑至高切りで、壊滅状態に。

私の目の前では、ヒドラ種の崩壊した上半身と、再生し出す下半身があります。


私は、上半身の方をじっと見ました。

こっちも再生してますね。


私は、壊滅した上半身が乗っかるその地面に、相手を冥府に送る刻印を刀で刻み、最後に円形をマルっと引きました。


次の瞬間には、闇の泥沼が現れ、ヒドラ種の上半身は何処かへ連れ去られました。


……


次は、もう片方もそうします。


その時でした……


「イャーウィナー!!!まさにベリンジギット!!!!!それ!約束を果たそう!褒美だ褒美だ!!ホールミータイド!!!」

包帯サファイヤの異形は、私を止めるようにそう叫びました。


「べリンジギットって何ですか!!?」

私は、大声で叫び返します。


「ユー……」

包帯サファイヤの異形は、さも楽しそうに包帯を揺らしながらそう言いました。


次の瞬間――


交差点に、玉石混在の無数の宝石と石の雨が降り出しました。

ジャラジャラジャラーっと。


私は、恐らくこの世界では見る事の出来ない、眩い反射の嵐に目を奪われました。

様々な透過した原色の輝きが、滝のように流れてるのです。

どこもかしこも宝石だらけ。


不意に、ヒドラ種の下半身に目を向けました。

完全に再生してるじゃありませんか!

もしかして、財を投げ売ったフェイク技ですか?


しかし、ヒドラ種は全く敵意は無く、それどころか牛のように、地面の宝石をムシャムシャ食べてます。

あなた、ゆるキャラですか!?


あまりの可愛さに、私はあろう事かヒドラ種に近付いて、肌色の皮のソファーみたいな肉体を撫でました。

切ってごめんね。再生するから大丈夫だよね?と自己弁護の気持ちを含めて。


ヒドラ種は、私なんかそっちのけで、ムシャバリ中です。


もしや……と閃きが降りました。


私は、少し離れた場所の地面に、契約の刻印を刀で刻みます。

調伏の儀を行うのです。


ヒドラ種は私の陣を見て固まり、触手を一斉に同じ方向に揺らしながら、私が描いた陣の中へ、トボトボ入って行きました。


そして……

触手で、私の刀をぽんぽんと叩いた後、口をクパクパ動かしました。


「はい。友達ですね。さっきは切っちゃってごめんなさい」

正直、何を言ってたか全然分かりませんでした。


ヒドラ種は、段々と眩い光に包み込まれ、私の刀を触手でグッグッと引っ張ります。

私は、鬼の握力でそれを阻止し、バイバーイともう片方の刀を振りました。

最後には諦めた様に、刀から触手を離し、何処かの世界へ飛び立って行きました。


……


まさかの、ヒドラ種調伏完了です!!

これからは、私の妖魔として戦力になってくれるのです!!

大成功!!!

これは、アガります!!

早く、ミコト様に伝えたいです!!


私は空を見上げました。

包帯サファイヤの異形は、満足そうにうんうんと頷いた後、パッと消えました。


私の目線の先には、晴れ出した空しかありません。


「雨のち、氷。氷のち宝石ですか……ふふっ」


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