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ネビュラタワー 後編

俺達は、異界にある正体不明のバトルタワーにいる。

まさしくスーパーヒーローの如く、正真正銘地球を守る為だ。

一癖も二癖もある微妙にとち狂った、正義とは逆に位置しそうなチーム、アンセイン・マリオネットの俺達。

能力だけはピカイチな俺達が、天をも貫くバトルタワーを腕組みして睨んでいる。

流石に1000階層まであると、高所恐怖症とかではない俺でも、見上げるだけで足がすくむ。


俺等、"アンセイン・マリオネット"の足元には、巨大な転移陣がある。

レイス姉の転移術とこの魔法陣を使い、こんな辺鄙な異界まで来た次第だ。

目の前には、タワーの入口へと続く通路のみ。他は宇宙みたいな亜空間だ。

ただただ、静寂しか存在しない異様な空間だ。



俺達は、特に躊躇なく入口へ足を運んだ。

ネビュラタワーの外装は、太古の叡智みたいな古めかしい見た目だが、入り口は自動ドアだし、エントランスは、かなり未来的な雰囲気だ。


俺等は、無人のエントランスの受付前に、横一列に並んだ。


俺こと悪魔の右腕を持つ、ドミノ・アース。

数多の世界を駆け巡る、戦闘の天才、レイス姉。

数えきれない神殿とダンジョンを攻略して来た、元勇者、メノノス。

吸血鬼の狂人、ポルジオル。

未知の召喚師、少女フリル。

体の無い俺等のリーダー、アーテマさん。


アーテマさんが、受付のクリスタルの機械に、懐から出した金のカードを差し込んだ。


俺等の頭上の掲示板が光り、地球の言語で文字が表示された。


……

……


50F 双銀の神子 ―― ザイア & エルノ

60F 星海の獣王 ―― タイタニア

70F 腐敗の帝王―― 不死帝シュパーム

80F 深淵の魔女――シシ&天蛇皇

90F 異冥府王  ――リリリ・ルルド・ネザ&リュカ・ネザ

100F 人間   ――ナズナ



「かーっ!!!私達くじ運悪いわね。王とか魔女とかいるじゃない!!てか、100Fの人間て何よ?」

レイス姉が、透き通る水色の髪をわしゃわしゃと掻きながら、ぐずった。


「これってどうなんだ?」

俺はみんなに聞く。


「幾つかは偶に名を聞くが……詳細は分からん。ただ……一筋縄ではいかん奴等だろうな……」

メノノスが凛とした顔になった、過去、勇者だった頃はこんな顔だったのだろう。

数多の世界のダンジョンを制覇したメノノスが言うのだから、論外な強さの奴等には違いない。


「シシ……フリルちょっと怖いかも……」

不思議な国のアリスみたいな服を着た、俺の妹格のフリルが言った。

泣きそうな顔をしてる……戦闘までとっとけよ。

フリルが泣きだすと、俺達ですら引くぐらいのバケモノが異界から召喚される。


「おいおい、お前等ビビってんのか!?さっきまでの気概はどうした!?せっかく盛大に暴れるチャンスなんだぜ?見て見ろよ!?ネザ一族までいるぜ……」

そう言うポルジオルの手は、珍しく力が入り、紅蓮の瞳は瞳孔がギラギラと揺らいでいた。


「これは……皆さん、申し訳御座いません……私は皆さんを信じています」

アーテマさんが、無表情な仮面で掲示板を見て立ち尽くす。


「アーテマさんが謝るくらい強いのか……きびしーアンド帰りてぇっ!!」

俺は少しひょうきんに言った。


……


沈黙が続く。


クスクスと笑い声。


みんなが、俺の言葉に笑ってる。


「まぁ、いいや行こうぜ!どうせヤバくなっても、ドミノが一番にやられるだろ。

その隙に逃げようぜ」

ポルジオルがカッカッカと笑いながら、エレベーターに向かった。


みんなも、そうだそうだと笑いながら後ろをついていく。アーテマさんのみが真剣な表情だ。


「え……みんな冗談だろ?マジで嫌だよそのノリ?」

俺は理解できないと言う顔をしながら、泣く泣く後ろをついて行った……


あー、こんなとこ来ずに、夜海サンのメイド喫茶でも行けば良かった。


アーテマさん以外の俺等戦闘組は、エレベーターに乗る。

アーテマさんは、エレベーターが閉まる前に、神に祈るように手を組み、その後俺達に仰々しく一礼をした。

俺達は無論、笑顔でガッツポーズだ。心配をかけない為に。

こういう所は良いチームだと思う。



俺達はその後、まさに闘技場って感じの作りの巨大な円形フロアを、何度も同じように敵を薙ぎ倒しながら駆け上がった。

49F階層まではほぼ一人でも余裕で、たまに体力温存の為に、複数で軽く連携して攻略した。

レイス姉は個人技ばっかだったが。

とにかく、今の段階は全然問題ない。




50F 双銀の神子 ―― ザイア & エルノ――


俺達が50Fに上がると、そこには銀髪の双子が、だだっ広いフロアの中心に虚しく立っていた。汚れの無い白いワンピースを着て、まるで場所を間違えて降りて来た天使みたいに。


俺達は警戒しながら近寄る。


「ザイアちゃん、大人が沢山いるね」

片方の少女が、ふわふわ浮く様な声で言った。


「エルノちゃん、子供もいるね」

ザイアと呼ばれた女の子が言った。


結構可愛いな……

何考えてんだ俺!カスか!?こんな時に。


ポルジオルが前に出た。

「なぁ嬢ちゃん達、降参してくんねーか?俺等は、女と小さい子を、殴る趣味はねーんだわ。その可愛い花みたいな見た目のまま、どっか別の安全な場所で咲いててくれねーか?」

ゴージャスなサーカス団員みたいな服装のポルジオルが、キザなセリフを吐く。

血を欲する王子の、紅蓮の目は笑って無い。


「ザイアちゃん、可愛い花ですって。ふふっ」

片方の少女が楽しそうに言う。


「エルノちゃん、あの人お兄ちゃんにしてみる?ふふっ」

ザイアと呼ばれた女の子は不穏に笑った。


「ザイアちゃん、そうしましょ!」


次の瞬間――


ザイアは、ポルジオルの背後に瞬間移動して抱き着き、あろうことか、いきなり自爆した。


「ポルジオル!!!!!」

俺達は、激しくオレンジの閃光を放って広がる、容赦ない爆風をしのぎながら叫んだ。


「おうおう、困った嬢ちゃん達だ」

ポルジオルはいつの間にか、エルノちゃんの後ろに立ち、絹のような金髪の上にハットを乗せ直し、鋭い爪をエルノちゃんに突き立てた。


「お兄さん……男クサいわ」

エルノちゃんがそう言う。


「そりゃ、ちょっと心外だな。男だから仕方ねーだろ?」

ポルジオルは苦笑いで俺達を見た。


「クンクン……ホントだ、男クサいわ。ふふっ」

何故か生きてたザイアちゃんは、ポルジオルの耳元辺りで、空間に寝そべるようにして言った。


ポルジオルはさして驚きはせずにこう言った。

「お兄さん、お風呂は好きな方だぜ?」


三人は、なかなか動かない。



「なぁ、俺等も行くか?」

俺は、他のメンバーに言う。


「いや、任せよう。一人で行ける限りはそれで行かせたが良い。周りは体力の温存に務めるべきだ。全員が一気に負傷したら厄介だしな」

メノノスが、渋い黒革の上下着から魔圧を滲み出しそう言った。

もう、戦いたくてうずうずしてるじゃねーか。


「あのバカは、一人で大丈夫よ」

そう言いながらレイス姉は、ゴキリッと拳を鳴らした。

いつでもスタンバイの状況だ。動きやすそうな近未来チックな戦闘服のジッパーを少し降ろしている。


「フリルは歩いて疲れたから、お茶を飲むわね」

フリルは、空間から水筒を出現させ、紅茶を飲んでいる。

自由だな……



その時だった――


ザイアちゃんとエルノちゃんは、宙に浮いて手を繋ぎ出し、もう片方の腕を合わせ、

フリルに向かって、輝く空間から、光の柱を発射させた。

物凄い量感のある物体が宙を一瞬で滑る。

それは、神殿の石柱が溶けたような変な物体だった。


しかし、フリルには当たらなかった。

ザイアちゃんと、エルノちゃんからフリルの中間地点に、ポルジオルが立ちはだかり、片腕だけで別の方向に投げ飛ばした。


……


その代わり、ポルジオルの右半身は消失していた。

そのまま、後ろに倒れるポルジオル。


ザイアちゃんとエルノちゃんは、ハイタッチして笑ってる。


「いやーーーーー!!!!!ポルーーーーー!!!」

フリルが泣き叫ぶ。


俺は、ポルジオル半身を抱え退避する。

他のメンバーも。


フロアが怪しく揺れた。

ザイアちゃんとエルノちゃんは、不穏な表情に変わり辺りを見渡す。

二人の真後ろに、淀んだ虹色の空間が出現した。


それを察知した二人は逃げるでもなく、悲しそうな表情をした。


「ザイアちゃん、私達終わり?」


「エルノちゃん、いいえ。でも一旦ありがとね」


二人が凛とした表情で最後の言葉を交わした瞬間、空間から爪の長い紫色の巨大な魔の手が現れ、二人を鷲掴みにして、空間に引きずり込んで行った。

おおよそ、何処に行っても捕まえられてただろう……

そこまでの、絶対的な気配だった。



「あー痛てぇー、あいつらどうなった」

ポルジオルの不死身の体が、ほぼ元に戻ってる。おまけに指を鳴らして、服まで元に戻った。


「終わったよ。フリルがやった」

俺は、コイツの体ってホント便利だなーと思いつつ言った。


「良かったわ!!ポル生きてたのね!!助けてくれてありがとっ」

フリルは今まで何度も見ただろう、ポルジオルの再生の光景を見て、初めてのように言った。そして頬にちゅっとキスする。


「俺はお前の兄貴なんだ、当たり前だぜ?怪我ねーか?」

何そのセリフ、かっこいい。

レイス姉とメノノスも笑ってる。



そして、俺達は50Fを制覇した。

ボスフロア以外は、かなりレベルが低い雑魚ばっかだ。

階層が上がるごとに、微妙に強くはなっているが、知れている。



60F 星海の獣王 ―― タイタニア



「でけぇーーー、こいつがタイタニアか。マジで名前負けしてねーぜ」

俺は、目の前の蛸の化け物のような存在見上げて言う。

蛸と言うのは足だけの話で、十頭ぐらいのティラノサウルスっぽい恐竜が円形に連なっているようなやつだ。

刀みたいな牙を無数に生やして、口をあんぐり上げてぶらぶらしてる。

全部の顔が滅茶苦茶迫力ある。

一人で来てたら、チビってるだろうな俺。


「まさに、宇宙サイズだな」

メノノスは感心してる。


「誰が行くの?」

レイス姉が言った。


が、同時にタイタニアは、フロアの地面を潰しながら、全員に突っ込んで来た。


「うわああぁぁ!!!!!」

俺は、皆と一緒に逃げる。みんなはアトラクションみたいにゲラゲラ笑ってる。


あれ、レイス姉だけいない。


あいつと一体一で見合ってる。


「レイス姉!!!!!」

叫んだけど聞こえて無い。

レイスの姉の体から、眩しいぐらいの金色の魔圧が出て、拳からメラメラとトロピカルな色のオーラが蒸発している。その空間周辺だけ、黒色の亜空間になってる。


あ、やば。

潰れるぞ。

あいつ。


ビルが走って来るように、迫りくるタイタニア。

鋭い殺気で立ち尽くす、レイス姉。


俺は賭けても良い。勿論全財産だ。

誰に賭けるかって……?


レイス姉は次の瞬間飛んだ。

無音で。

遅れて、フロア全体が絶叫する衝撃派。

タイルがバリバリと潰れて飛び交う。

流星が走った。

レイス姉だ。

タイタニアが、瞬きするぐらいの速度だろう。


次の瞬間――


大量の何かが激しく粉砕した音が聞こえ、その方に目をやると、フロアの壁面に、円形の恐竜オブジェが、一瞬で完成していた……


タイタニアの連なる頭達は牙を剥き出し、憎しみを吐きだすように吠えている、が、もうあそこから抜けられなさそうだ。


レイス姉が一歩前へ進むと、タイタニアは静かになった。


レイス姉が戻ってきて一言。

「そういや、報酬ってどうなってんの?」


みんなの顔が引きつる。ポルジオルが言った。

「全部終わったら、まとめて貰えるって、アーテマが言ってたぜ?」


「あ、そう。良かった」

レイス姉は、涼し気な顔でそう言った……





70F 腐敗の帝王―― 不死帝シュパーム



「そろそろ俺にやらしてくれないか?」

メノノスが、いぶし銀のような重厚感のある黒い大剣を肩にかけて、そう言った。


その目線の先には、宙に浮かぶ、何が入っているんだろうか?物凄くデカい闇の棺。

高級感があり、黒い瘴気が周りで渦巻いている……


「んじゃあ、任せよーぜ」

ポルジオルがフリルを肩車し、呑気に隅っこに行った。

俺は、レイス姉を見る。


「ドミノ、お姉ちゃんばっか見るんじゃないの」


「悪ぃ……癖だ。レイス姉に頼り過ぎだよな俺……」


「まぁいいけど。好きな女の子出来たんなら、もうちょっとしっかりしなさいよ?お姉ちゃん安心して離れらんないじゃない?」

レイス姉は、ちょっと呆れた様な、それでもいつもの優しい姉の顔で言った。


「うん、そうだよな……ごめんレイス姉。だから俺はモテねーんだよな……ホントいつもありがとな」


「んもー!いいのよドミノ!最悪お姉ちゃんがずっと一緒にいてあげるし!」

レイス姉は、俺の腕に抱き着き、ほら笑ってと言う顔をした。


「レイスはブラコン過ぎねーか?」

ポルジオルが、フハハと笑いながら茶々を入れる。


「弟好きなお姉ちゃんで何か悪い?」

レイス姉は、ポルジオルに拳を突きつける。


「はい、悪く無いです。どうぞ好きなだけ」

ポるジオルは逃げるように離れて行った。






そうこうしてる内に、棺がガガガっと音を立てて、開いてる。


メノノスは、瞳を閉じてじっとしてる。

今日は、召喚術使うんだろうか?


棺が完全に開いた。

自分の翼膜にくるまった、腐敗色が濃い割に神秘的な奴が、胎児みたいに宙で浮いてる。

かなりおぞましい魔圧だな……フロア全体に黒い霧が出てる。


メノノスの後ろに、白く閃光した魔法陣が出て来た。

やっぱり召喚だ……今日は何をだすんだろう?

それに反応して、あいつは胎児の状態から盛大に翼膜を広げて、咆哮した。

なんつーか、狼みたいな声だな。知的な感じだ。

……

地に降りて、メノノスに近付いてる。

不死帝シュパームだっけ?メノノスの7倍ぐらいか……デカいな。

メノノスとシュパームは、静かに睨み合っている。

どっちもかなり風格があるぜ。


でも、メノノスは一気に片を付けるみたいだ。

魔法陣から、シュパームぐらいの頭の大きさの黒龍を召喚してる。

あれは、メノノスの召喚の中でもかなり上位の魔獣だからな。



次の瞬間――


メノノスは居合を一撃――

水平に一直線に、フロアに鋭い傷跡が入る。

だがシュパームはそれを、三つ指の大きな手で簡単に止めやがった。

メノノスの背後のドラゴンはそれを見て特大の咆哮を響かせた。

シュパームは後方に飛ぶ。

メノノスもさっと後方にジャンプし、黒龍の頭に着地した。


シュパームが両手を広げると、地面に幾重にも魔法陣が現れ、そこから

腐敗した異形が大量に出現した。


フロアには、半分を埋め尽くす程の大きさの黒龍と、過ぎ去りし勇者メノノス、

美さえ兼ね備える腐敗の王、大量の異形ゾンビだ。

それらを怪しい黒い霧が包んでいる。


メノノスの黒龍が、フロアの地面一体に猛火のブレスを放つ。

黒い霧が烈火の焔に飲み込まれていく。

それはまるで、ここは自分の領土だと言わんばかりのマーキングな行為。

さらにはメノノス自体が鋭い光刃となり、灼熱の中を稲妻みたいに貫いて駆け巡る。


一瞬にして、フロア上の腐敗した異形達は消滅した。


でも、シュパームはまた同じ魔術を唱えている。

ぞろぞろと腐敗した異形が、あちらこちらの壁から這い出て、メノノスのドラゴンに纏わりつく。

俺等の周りに来る奴は、レイス姉がラリアットして一瞬で葬っている。


流石に、メノノスはシュパームへと向かう。

シュパームの体に一直線に大剣を向けたと思えば、一蹴りで弾丸みたいなスピードの跳躍を見せて、作為なく突っ込んだ。

でも奴は、ギリギリまで動かないままいながらも寸前でかわし、そのままメノノスの背中に隕石みたいな膨大な熱量の魔弾を撃ち込んだ。

魔弾がメノノスをしつこく追尾する。

その魔弾に怒り狂ったメノノスの黒龍が尻尾であっさりと撃墜する、王獣のような物凄い雄たけびをあげながら。

それを見たシュパームは少し考えた後、腕を時計の針みたいに垂直と水平に伸ばした。


次の瞬間――


メノノスのドラゴンの左右の翼膜上に、超特大の十字の槍が二本現れる。

それを見たメノノスは壁面を蹴り天井へ、奴の一直線真上で呪文を唱えている。


シュパームは瞬間移動し、ほぼ分身したみたいに、その十字の槍を持ち、まるで裁きの杭を打つかのように、メノノスのドラゴンの翼膜に突き刺した。


巨竜の絶叫がフロアに響き渡った。

地を這い藻掻く巨大な黒龍。


シュパームは羽ばたき、黒龍の頭の前に降り立つ。

さらには、膨大な異形が、黒龍に噛みつく。

その時だった――

黒龍はメノノスを見て合図したように、軽く叫んだ。

今までの反応が演技だったように……

メノノスが掲げる大剣は、いつの間にか黒いクリスタルのようになっていた。

メノノスは黒龍に向かって頷いた。

そして……

あろうことか、その大剣を自分の召喚獣に放り投げて、ズボッと突き刺した……

黒龍の静かな悲鳴。


俺達は呆気にとられる。

勿論、シュパームも腐敗した異形達すらも。

メノノスは、急いで逃げるようにこっちへ飛んで来てこう言った。

「恥ずかしい戦いだった。俺もまだまだだな」


「メノノス、何言ってんだ?」

俺は、訳分かんねーよと言う感じで言った。


次の瞬間――


メノノスの黒龍周辺は、巨大な針だらけになり、腐敗した異形も、シュパームさえもが一斉に貫かれている。

体中から太い針を生やし、そこから膨大な竜種特有の魔圧を垂れ流して、様々な属性の魔術を嵐のように巻き起こす。

絶対的な光景。

あのドラゴンこそが王獣だと、ここにいた誰もが思っただろう。


最後にメノノスは、自分の召喚獣を見て、乾杯の様に大剣を掲げた。

ドラゴンは、俺達の鼓膜が破れる程の咆哮をフロアに響かせた。





80F 深淵の魔女――シシ&天蛇皇



あぁーそろそろ俺の出番だよなー……

でもさ、俺あいつらみてーに強くねーんだよな……

不死身じゃねーし。

あ、ちなみにメノノスは、昔ダンジョンかどっかで、飲料と間違ってエリクサー飲んだらしくて、そこから基本不老不死らしい……


だからさー……

"こいつら"は、強いみんなでやって欲しい。ホントに。


俺達の前には、地面までつきそうな長い黒髪の陰気な魔女と、その横に、さっきのメノノスの召喚獣ぐらいの大蛇がいる。

ただの大蛇じゃなく、王冠を被り、体に煌びやかな装飾をしている。

ルーツを辿れば、世界樹で生まれた蛇かもしれない、育ったのはもっと別の異界だろうが。


って、冷静に解説してる場合じゃねーっ!!

明らかにやばいだろ……



深淵の魔女シシが、フリルを指差して言った。意外と見た目は若く見える。髪でほとんど顔は見えないが。

「あら、可愛いのがいるじゃない……フフフ」


「シシ……」

フリルが俺の後ろに隠れて震える。


「知り合いか……?」

俺はフリルに尋ねた。


「ちょっとだけ……」


天蛇皇が装飾をジャラジャラと動かし、俺達に詰め寄って来る。バカでかい口は俺達五人でも簡単に丸呑みできそうだ。

恐らく、あの距離からでも数秒もかからず、バクっとここまでこれるだろう。


「ちょっとだけとは、連れないわね……そんなちっさい見た目になったから、記憶、忘れちゃったのかしら?あんなに仲良しだったのにね……フフフ」


ちっさい見た目になったってなんだ……

俺達は一斉にフリルを見た。


「女の子には秘密があるものよ……」

フリルのその声は少し大人っぽかった。


みんなは、今までのフリルが実は大人だったとしたらと考えてるのだろう、そんな顔だ。

俺も考えた、勿論おっきいフリルについて。

サラサラとした黄金の髪、宝石みたいな瞳、その奥にあるハートの虹彩、穏やかで優しい性格、全て可愛い要素満載だ。

もし、これが大人になったら……


「なんつー可愛さだ……」

つい、想いが口から出た。


「ドミノにぃどうにかした?」

フリルは俺の足にしがみついて離れない。


「俺の事ずっと好きでいてくれよな!!」

予約しとく。


「勿論よ!ドミノにぃは、ずっと私のお兄ちゃんだわ」

フリルは俺を見上げて笑った。


「話は済んだかな?」

深淵の魔女シシは、色っぽい先生みたいにそう言った後、魔術を唱えだした。


「みんな下がって!!!」

フリルが叫び、地面をコンコンと可愛い靴で二回蹴った。





すると、目の前に数十体の白銀の鎧の兵士が現れ、すぐさま俺達の前で盾を構えた。

魔女シシは、空間から煮えたぎったマグマの火柱を放出し、そのまま俺達の方向へドクドクと生き物みたいに発射させた。

尽きる事の無い極熱。

しかし、白銀の兵士達はかなり屈強で、全く溶ける事なく、計り知れないエネルギーを押し返し進んで行く。



その時――


天蛇皇が、巨体を宙に浮かせ上空からフリルに向かって、体をうねらせて、一気にむしゃぶりつこうとしてきた。

奴の跳躍の反動で、地がぐらりと揺れる。


俺はすかさず体のバネを極限に生かし大ジャンプを決めて、天蛇皇の顎辺りに悪魔の右腕でフルスイングを決め込んだ。

まるで、地球を殴ったみたいに重かったが、そのまま振り切った。

流石に、天蛇皇の体自体は吹き飛ばせなかったが、奴の頭はのけ反り、白銀の兵士達の前に、ドロリと落下した。

再度、地が大きく揺れた。

魔女シシは、一旦魔術を止めて、俺を睨んだ。


「ありがとうドミノにぃ!」

フリルが嬉しそうに飛び跳ねている。


「任せろ、お前は安心して自分の技に専念してりゃいい、そして大人になってもおれをお兄ちゃんと呼び続けりゃそれでいい」

フリルは、はい?と言う表情で首を傾げた。


「ほードミノ、なかなかやるな」

メノノスは、天蛇皇を興味深そうに見ながら言った。


「今のは男気があったな。その調子だドミノ」

ポルジオルはちょっと他人事だ。


「お姉ちゃん、なんか泣けてきたわ。しくしく」

参観日か。


結局、俺にやれって事だよな?

まぁ、でもそうか……


俺とフリルの前には、不敵な笑みを浮かべた微妙に色っぽい魔女シシと、凄まじい殺気で俺を見る天蛇皇がいる。


フリルはまた靴を二回鳴らした。

白銀の兵士達は一箇所に集まり、何やら合体のような行動をとりだした。


「ドミノにぃ、良い作戦があるの」

フリルが耳を貸してと、せがむ。


「なんだ?」




その時だった――


深淵の魔女シシは、杖をペンライトのように一振りする。

たったそれだけで、空間が歪む程の重力を纏った黒い岩石が、百を超える程に奴の頭上に出現し、それを躊躇なく俺とフリルに放った。

一瞬終わりが見えた。

もし、俺がメノノスの黒龍のような存在でも、同じく走馬灯が過ぎっただろう。

それ程までに終焉な攻撃。


しかし、走馬灯を強制終了してくれるように、真っ赤な舞台幕が俺とフリルの前に現れた。


「チッチッチ、やりすぎだぜ?ミステリアスな、ねーちゃん?」


無数の黒い岩石は、舞台幕に衝突すると同時に姿を消し、深淵の魔女シシと天蛇皇の背後から出現した。

深淵の魔女シシは瞬時に、絶対零度の分厚い氷の壁を幾重にも生成し続けて、自分の魔術に抗い続けた。


俺は、フリルを抱きかかえ飛びのき距離をとる。

その間にも白銀の兵士達は、どんどん姿を変えてロボットみたいになっていく。


フリルはこしょこしょと俺の耳元でさっきの続きを言った。

「ドミノにぃ、あれに乗って」


「え!!!あれ乗れんのか!!?」


「うん。乗った人のパワーで強さが変わるの」

フリルが、にひひと笑う。


少し不安になった。

この局面で、こんな玩具みたいな作戦で大丈夫なのかと……


天蛇皇は、俺達の違和感に目を細め、轟速で尻尾アタックを白銀の巨大ロボットに

食らわせようとしてきた。



レイス姉はあろうことか、巨人の本気の鞭のような、天蛇皇の尻尾に向かって飛んで行き、ぶっ飛ばす気オンリーで、思いっきり真っ向から蹴りを放った。


「邪魔すんな馬鹿タレ!!!!!」

恐らくそう叫んだ。


信じられない光景だった。

途轍もない重量感の尻尾は時計回りに半周し、天蛇皇の装飾はバラバラと騒がしく地に落ちた。

大蛇は、巨大で真っ赤な口を180度開けて、怒りの咆哮を天に放った。


うん、間違いなく俺の姉ちゃんは最強だ。



「行け!!!ドミノ!!!乗るんだ!!!」

メノノスが叫んだ。


「あんたなんで知ってんだよ!?耳良すぎだろ!!ちょっと怖いわ!!」

俺がそう言うと、ポルジオルがロボットアニメの最終回の如く、俺の背中をパンッと押して満面の笑みでこう言った。


「お前しかできねーよ、ヒーロー……」


……


みんな……


俺の仲間全員が、俺を見て笑ってる。期待してくれてる。


そして目の前には、滅茶苦茶にかっこいい白銀のロボ……


このシチュエーション……


超アチーじゃねーーかーーー!!!!!!


「俺に任せろーーーッ!!!限界のなんて秒で超えてやらぁーーー!!!」


俺は叫びながら盛大に走り、超大ジャンプを決めて、白銀の巨大ロボに乗り込んだ。


ギュイン!!!!!

操縦席が光って起動する。



……


「って!!!ゲームのコントローラーじゃねーか操縦席!!!単純すぎんだろ!!!」


既に、天蛇皇が俺の機体に巻き付き、締め潰すが如く憎悪に満ちた呻きをあげてる……

機体が壊れそうに軋んでる。

深淵の魔女シシが、山でも簡単に切り裂きそうな猛烈な斬撃の魔術を操縦席に向かって繰り返してる……


「どうしよう……破壊された瞬間俺は、あの世行きだ……と、とりあえず、何かしなきゃ……こ、この赤いボタン押してみよっか」


ポチ。


「ドミノにぃ聞こえる?」

フリルの声だ。


「おぅどうした!?本部」


「なりきってるねドミノぃ。重要な事を伝えるからちゃんと聞いてね。とても簡単だからドミノにぃなら絶対大丈夫だよ」


「あぁ頼む」


「基本的に、自由に入力していいわ。どれも超強力な対魔王用の攻撃だから、きっとシシ達相手でもかなり通用するはずだわ。その代わりなんだけど……赤いボタンだけは何があっても絶対押さないでね……これでお終いよ?ほら、簡単でしょ?」


……


「……」


「どうしたのドミノにぃ?」


「おせーよ」


「……まさか……」


操縦席から見えるフリルが、仲間を集めて何か言ってる。

仲間というか、もはや相手の魔女にまで休戦ポーズをとり、何かを訴えかけている。

そして、相手の魔女は、天蛇皇に何か言ってる。

天蛇皇は、呆れたように操縦席を見た後、興味を無くしたみたいにスルスルと、俺の機体から離れた。


アラームが鳴り出す。


キュインキュインキュイン!!!


機体の中は、真っ赤っかだ。


……


え、マジで何?超怖いんだけど。



え……しかも、みんな次の階層の方行ってるし……

深淵の魔女シシと天蛇皇どうすんだよ!?

ってフリル、あの魔女に手振ってんじゃねーか!仲悪かったんじゃねーのかよ!

振り返してるわ、深淵の魔女シシも。

天蛇皇すら、尻尾振ってバイバイみたいにしてるし。

何があったんだよ?

一体どうゆう事だよ?

んで、相手の二人、超こっち睨むじゃん。俺だけ悪者!!?

と思いきや……

あいつら空間に穴開けて転移しやがった……


「え!!!俺だけしかいないじゃん!!!俺何してんの!!!何が起こんの!!?」


アラームが最後を迎えそうなその瞬間、誰かが素手で操縦席をぶち破って入って来た。

緑を主としたカラフルな髪色の、小さくて真っ白な女の子だ。



「はよ、逃げんかい!!!あほんだら!!!」









90F 異冥府王  ――リリリ・ルルド・ネザ&リュカ・ネザ



「いやーーー、ドミノかっこよかったなーーー!!!」

ポルジオルがそう言い、みんなが、うんうんと笑っている。


レイス姉すら、手叩いて笑ってんじゃねーか。さっきの弟想いどこ消えたんだよ。


俺は亜空間からそれを眺めてる。

90Fのボス達と共に。

……

いや、マジで。どういう状況だよ!

あいつら裏切りやがって!!!


「君、嫌われてんの?」

90Fのボスで、俺を助けてくれた、リリリ・ルルドちゃんが言った。


「もしかしたら、気づかないだけで、そうだったんかもしれません、仲間と思ってたのは俺だけだったんかもしれません」

俺は早口でそう言った。

リリリ・ルルドちゃんと、もう一人横にいる女の子の匂いを、気づかれないように多めに吸いながら。

超良い匂い、異界の女の子の匂いだ。

二人は、死んだような目で俺を見てる。

恐らく……気づかれたか……



「嫌われてそうな顔」

リリリ・ルルドちゃんとは反対で俺を挟む、カラフルなチャイナドレスを着た、真っ青な髪の女の子が言った。


「これ、リュカ!初対面の人に失礼な事言うたらあかんやろ。しかも童貞に!」

え?なんで知ってんの。


「はい、リリリ様。童貞には気を付けます」

無表情で淡々と喋るリュカちゃん。


「それは、意味が変わって来ると思うぜ?」

俺は突っ込んだ。


「そうや!気ぃつけ!あいつら目が血走っとるからな!」

リリリ・ルルドちゃんが言う。


「俺、そんな目赤いですか?」


二人はスルー……

匂い吸った罪、償いたい……


「リリリ様、ここ童貞臭いからもう出たい」

リュカちゃんが言った。


……


「そやな……ちょっとキツイな……勝手に匂い吸われて、臭い匂いに変換されたらかなわんしな」

リリリ・ルルドちゃんが、適切な答えを語るように言った。


「すみません……」

俺は勝手に、あらゆるやつらに不信感を抱くようになった。


「スネんなやイケメン」

リリリ・ルルドちゃんが俺の背中を叩く。。


グウェッフ!!!!なんだこの子……えげつねー魔圧が入った力だ……

一瞬で眩暈がして、ゲロを吐きそうになった。


「すぐスネンなや、フツメン」

リュカちゃんは、ちょっと容赦無い子だな……バカ可愛いけど。



俺達は空間から出て、90Fのフロアに降り立った。



「ドーミーノーにぃー!!!生きててよかったぁ!!!」

フリルが歓喜の叫び上げながら、踊り出す。周りのみんなも拍手してる。

全てが嘘くさい。


「あーーー嘘くせぇ!!!全部見てたんだからなお前等!俺が超ヤバイ状況なのに、簡単に見捨てやがって!!!しかもヘラヘラ笑ってただろ!!?マジの最低か!!!俺を助けてくれたのは、なんとまさかの敵様だったわ!!!」

俺は仲間を指差しながら、マジ切れした。



「へー、お前ついてんなー」

ポルジオルが鼻をほじりながら言った。


「反応うっす」

みんな、含み笑いしてるし……

もう、マジで帰ろっかな……


「お姉ちゃんは信じてたよ?きっとフリルギガントから脱出して帰ってくるって」

レイス姉が、演技っぽく言った。ぜってーアニメの真似してるだけだ。


「名前あんのかよあれ!!!」


今の面白いみたいに、全員がケタケタ笑ってやがる……



「おいお前等、漫才はそこまでや。そろそろこのお兄はん本間に可哀想やで?」

リリリ・ルルドちゃんが俺を庇ってくれた。


「そう。こいつすぐ拗ねるから気を付けた方が良い」

リュカちゃんは簡単に、無表情で毒のある言葉を吐く。


「お前等、幽式の使い手ネザ一族だろ?それにお前、冥府の中の一つ、幽安郷の異冥府の王じゃねーか。ここで何してんだ?」

ポルジオルが言う。


「物知りやなコウモリ君。今日は一番弟子のトレーニングの日やねん。こいつゲームであそんでばっかやから根性叩き直そうと思ってな」

リリリ・ルルドちゃんが空間に雲を出現させ、そこに寝転がった。


「練習きらい。リリリ様帰ろ?わたし帰ったら強くなれる気がしてきた」

地面の石ころを蹴っ飛ばし、つまんなさそうにするリュカちゃん。

時々、体が透明になっている。


「ホントね、手がかかりそうな弟子だわ」

レイス姉が鼻で笑う。


「おばさんうるさい……ってこいつが言ってたよ?」

リュカちゃんが、俺を指差し言った。


ひええええええぇぇぇぇぇぇ。

俺は、もげそうな程に首を横に振る。


レイス姉の顔から、黒煙の様なオーラが出ている。


「おう、分かってくれるんか?ええ友達なれそうやな、おっぱいはちっさいけど美人のお姉ちゃん!!あと、話変わるけど、君ら100F制覇しようとしてるんやったら、100%無理やで??」


レイス姉の足元の地面が魔圧で隆起してる……


「どう言う事だ?異冥府王よ」

メノノスが前に踏み出して問いただす。


「どうもこうも、ただお前等より強い相手がいるってだけや。お前等地球におんのに、ナズナちゃん知らんのか?」


なんか聞いた事あるな、確か幽明が従姉妹がそんな名前って言ってたような……


「知らねーな。俺達はこの世界出身じゃねーからな」

ポルジオルは、リュカちゃんに手品を見せながら言う。

リュカちゃんは、おーーーと目を見開きパチパチと拍手している。


「人間一人に、俺達がどうすれば負けるんだ?」

メノノスは単純な疑問の様に聞く。


「甘々やな君らも。世界は広いんやで?とりあえず、うちらに勝ってみぃ。全員でかかって来ていいから。リュカ、こいつらちょっと強いから、気合い入れろよ?頑張ったら後でゲーム買ったるからな」

リリリ・ルルドちゃんは構えをとった。

たったそれだけで、フロア中の地面がバキバキと連鎖的に割れて、極彩色の魔圧が全体を占拠する。


「イエッサ」

リュカちゃんは一言短くそう言い、隣にいる俺の体に軽くアッパーした。



っ!!!!!!

――

――


気が付けば俺は、フロアの天井に衝突し、落下していた。

少し意識が飛んだらしい。

骨も何本か折れている……


レイス姉がキャッチしてくれた。

「癇に触ったわ。あんたら全力出して行きなさいよ?」

レイス姉は仲間すら睨んでいる。


言われるまでもなくみんなは、稀に見る強敵に、血が湧き立っている風だった。



死闘開始――


すぐさまレイス姉は、ワンステップで流星みたいに、リュカちゃんを躊躇無くぶん殴ろうとした。

しかしリュカちゃんは幽霊の如く消えた。

リュカちゃんは、メノノスの背後に現れ掌打を一つ。

メノノスは、持てる百鬼夜行みたいな大剣でがっちりとガード。

しかしメノノスは、踏ん張る地面が、溶けたアイスクリーム程に抉れて吹き飛ばされる。

メノノスは、先の戦いで召喚した黒龍を躊躇なく呼び出した。

伽藍としたフロアに、ハリネズミのような王獣が再び現れる。先ほどの進化の術は溶けて無いらしい。

王獣はけたたましい咆哮をあげた。


「へー……ええもんもっとるやん。これは、手加減せんでええっぽいな。リュカ!!!このデカブツ先片付けるぞ!!!」

リリリ・ルルドちゃんが叫ぶ。リュカちゃんが可愛らしくイエッサと言って、師匠の隣に移動した。


「そうわさせないわ!!!」

フリルが靴を二回、地面にコンコンとして、手をパチパチと二回叩いた。


すると、空間が裂け、巨大な歩く目覚まし時計が現れた。

もはや、異形ではないだろう。フリルの空想の存在かもしれない……

それはドシドシと歩いて、メノノスの黒龍の前で、守護する様に仁王立ちした。


レイス姉が、光速に近いダッシュでリリリ・ルルドちゃんを、背後から襲撃する。

しかし、リリリ・ルルドちゃんは、未来が視えてるみたいに、ふっと避けて、寸分狂わない正確さでレイス姉の足を引っ掻けた。

レイス姉は、惨めにザザァーとこけてしまった。


そして、リリリ・ルルドちゃんは上空を瞬間移動した後、大きな声で叫んだ。

「中途半端な召喚出すなや!!!!!」


可憐で細い体を捻じり、大きく振りかぶって、時計の召喚を真正面からぶん殴った。

オーラも属性も纏わせず、衝撃的な素殴りで。


巨大な目覚まし時計は、ただの玩具みたく吹っ飛んだ。

無数の歯車を宙にばら撒き、ガシャンッ!!!と強烈な破損音を鳴らながら、メノノスのドラゴンに激しく衝突した。

その威力は凄まじく、二体揃ってフロアの壁面にのめり込む。

一瞬、タイタニアを思い出した。


「こいつらやべーな」

ポルジオルが笑う。


「私の、ジリリンちゃんが……グスグス」

フリルは今にも泣きだしそうだ。


レイス姉は、態勢を立て直しながら、相手を見直したかのように様子を伺っている。


メノノスの黒龍が、体中の鋭く太い針から、爆雷や絶氷の属性を漂わせて、リリリ・ルルドちゃん達に猛突進し出す。


リリリ・ルルドちゃんは、いつの間にか、リュカちゃんの隣に移動して、迫りくる黒龍に構えをとっている。


俺はその傍らで、脇腹を抑えて座り込んでいる。



「リリリ様、おしっこ行きたい」

リュカちゃんが言う。


「ほな、遊んでんと、はよ終わらせ」

リリリ・ルルドちゃんのその言葉には冗談が混じって無かった。


「ほーい」

リュカちゃんは、一瞬俺を見てウインクした。

骨を何本か折ってきたくせに、何考えてんだ。




次の瞬間には、瞬く間に驚くべき光景が繰り広げられた。

メノノスの黒龍は、針から出現する自分の属性攻撃を遙に上回る、嵐のような無数の閃光に包まれて滅多打ちにされているのだ。

勿論、その張本人達は、数妙前まで俺の目の前にいた、論外の強さのあの二人だ。

あの二人はスピードが速すぎて、ほぼ分身となっている。

百人以上の化け物が、計り知れない威力の一閃を、容赦なく乱れ打ちしている。

メノノスの黒龍は、体中の針を潰され、反撃する余地すら全く無い。


メノノスは、すかさず、その場に稲妻の速さで向かった。

しかしメノノスが、その激震の渦の中に飛び込んだ瞬間、ドラゴンへの猛攻は途端に終わる。

その代わり、そこから現れたのは、リリリ・ルルドちゃんに捕縛され、羽交い絞めされたメノノスだった。

あの、メノノスがこんな状況になっているのを、俺は初めて見た。


リュカちゃんは、メノノスの目の前で、綺麗な透けた青色のオーラを、拳にユラユラと溜め込んでいる。


「やーーーめーーーてーーー!!!」

フリルがそう叫び、天井に魔法陣が現れる。


その隙にポルジオルが魔術で、メノノスの体に手品で使うような赤い布を遠隔から召喚させ被せた。

そして叫ぶ。

「イッツショーーーターーーイム!!!」

紅蓮の瞳孔が完全に開き切り、強敵との戦いに歓喜して絶叫している。


メノノスに被せられた布を、リリリ・ルルドちゃんがうざったそうに払いのける。

しかし、そこにいたのはポルジオルだった。

メノノスと位置が入れ替わっている。

さらには、するりと二人の間を簡単にすり抜け、二人に真紅の手錠をかけて逃走した。


「詐欺師が」

リリリ・ルルドちゃんが、ふと笑う。


メノノスは、ボロボロになった自分の召喚獣の上に乗り、なにやら途轍も無い咆哮をあげている。もはや、獣みたいだ。

メノノスの黒龍はそれに反応し、二足歩行の形態に変化した。

その後の光景は、長い付き合いの俺でも初めて見る物で、なんと、黒龍の胸の黒い淀みの中に、メノノス自体が入って行ったのだ……

次の瞬間――

メノノスの不死の影響か、黒龍の外傷は、瞬く間に回復し、メノノスと融合した巨人竜となった。


全員が異次元の光景に目を奪われていた間に、天井の魔法陣からは、既視感のある銀髪の双子が天使のように舞い降りて来た。


「ザイアちゃん、勝手に呼び出されたわね」


「エルノちゃん、横暴よね」


二人の女の子は、両手を繋いで、ふわふわ落ちる。


「ザイアちゃん、エルノちゃん、あの二人をやっつけて!そうしたら元の世界に返してあげる!」フリルが大声で、リリリ・ルルドちゃん達を指差した。


二人は少し沈黙した後、声を揃えて悪戯気っぽくこう言った。


「だって、ふふっ」




「わー天使」

リュカちゃんがぼーっとしている。


「おい、リュカ!!ぼーっとすんな!!」


次の瞬間には、レイス姉は容赦なく、手錠の施されたリュカちゃんの髪の毛を掴んでいた、そして破壊的な魔圧を出しながら、鬼のような形相で頭をくっつけて睨んでいる。


リュカちゃんは、とても痛そうな顔をしている。


巨人竜となったメノノスは、灼熱の息を吐きながら、神獣の様な風格で、二人にゆっくり近寄る。


ザイアちゃん、エルノちゃんは、手を繋ぎ、その手に見るも美しい天上の剣のような白銀の剣を携えて笑っている。


ポルジオルも、地面に巨大な闇沼の空間を出現させ、そこから尾が異常に長いバカでかい蝙蝠を召喚して、支離滅裂に叫んでいる。


リリリ・ルルドちゃんは、終焉のような光景をぐるりと一周見渡した。


俺は、見えるようにポーズをとった。

腕をクロスさせバッテン。


……


次の瞬間――


リリリ・ルルドちゃんが叫んだ。

「降参!!!!!!!!!!」


みんなが、ピタッと止まる。

リュカちゃんは、レイス姉から解放された。


「可愛い弟子のトレーニングで来ただけやねん、堪忍して!?てへっ」

リリリ・ルルドちゃんがは、自分の頭をコツンと叩き、物凄いスピードでリュカちゃんを拾い、天井付近に上昇した。


「ほな、さいなら!!次は、お茶でもしよな!!」

そう叫んで、俺達に向けて投げキッスをして、転移して消えた。



急に取り残された俺達は、そんな終焉の光景のまま、しばらく沈黙した。







100F 人間   ――ナズナ――




「やっほー、よろしくね」

フランクで優しいその女性は、幽明に似ていた。日本人の女性だ。


「あんた100Fのボス?」

レイス姉が聞く。


「そうだけど……そんな大層なもんじゃないよ。ふふっ」

とても感じの良い、綺麗なお姉さんだ。みんなは無意識に警戒を解いている。


「ねーちゃん何者だよ?ここは危ないぜ!?良かったら俺が、外まで案内しちゃったりしてもいいぜ」

ポルジオルはナンパし出した。その足には、ザイアちゃんがくっついてる。

エルノちゃんは、フリルに紅茶を入れて貰ってる。

……なんでついきてんだ。



「ザイアちゃん、この人達面白いね」


「エルノちゃん、この人達可愛いね」


「貴女みたいな穏やかで麗しい方が、ここにいるべきではない」

メノノスは、若干の好感度をアップを狙っている。

恐らくタイプなのだろう。


それらを静かに聞いた後、ナズナは答えた。

「私、地球守らなきゃいけないんだ。改めて言うと変なセリフだよね。ハハ」


「あんたは、地球の味方なのか?」

俺は聞いた。


ナズナは不思議な瞳でこう言った。

「うん、そうだよ。だから誰にも負けられないんです!ふふっ」


「この子、嘘は言ってないわ……本当に私達に勝つ気よ……みんなどうする?私達が勝って、地球を誰にも奪わせないか、この子に任せるか……」

レイス姉は、無意識にナズナを信じている自分を不思議に思うような顔をしながら、俺達に言った。


俺達はむーーー……と考える。


「君達仲良しで素敵なチームだね。私も久しぶりに仲間に会いたくなってきたなー」

ナズナは懐かしそうに言った。


褒められて、みんな恥ずかしそうにする。


「ありがと……」

レイス姉が対等に話す感じ、初めてみたかも。

ちょっとナズナと友達みたいだ。


「でも、ねーちゃんどれだけ強いんだ?それを知らなきゃ、俺達は、安心して任せれねーよ」

ポルジオルが言った。

ごもっともだ。


「じゃあちょっと、証明しますかっ」


俺達は、ほんの少し身構えた。


ナズナはボソッと呪文を唱えた。

「……ホピュリスエコー……」


一瞬だった。

俺達は、フロアを埋め尽くす程の、数多の世界の未知なる存在に取り囲まれた。

言葉に出来ない……

こんな光景は、今までで初めて見た。


「これは……勝てないね」

レイス姉すら諦める。


「無理だな」

メノノスも。


「笑えるぜ……可愛い顔して」

ポルジオルが伸びをする。


「白の女王までいるわ……」

フリルが聞かない名前を口にした。


「ザイアちゃん、パーティーなの?」

「エルノちゃん、違うよ」


俺は言った。

「最後に一つ聞かせてくれ」


ナズナが答えた

「なにかな?」


「幽明って知ってるか?」


ナズナちゃんはきょとんとしている。

「え!私の苗字じゃん……知り合いだったっけ君?……あ、そっか。アカリちゃんの事か!そういう事かー……うん、知ってるよ!仲良くしてあげてね。ふふっ」


どういう事だ?


その後、俺達はすぐさま正式に降参した。


ナズナにエレベーターまで見送ってもらい、手を振って別れた。

エントランスまで降りた俺達は、ここですよー!と俺達の無事を喜んで出迎えてくれたアーテマさんに、一部始終を簡潔に報告した。

アーテマさんが、「見てましたよ」と言うものだからどこから見てたんだと思いつつ、これで良かったのか?と俺達が聞くと、最後にアーテマさんはこう言った。


「大丈夫ですよ。地球は守られました……上には上がいるものですね……ハハハ」

ちょっとだけ安心したような言い方だった。

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