王と女神の再会 ――天の扉の開門――
私達の世界、よくUFOが出現する山頂、広大な展望台――
「さぁー皆さん、今から何度生まれ変わっても見られないような、奇跡の瞬間をが始まりますよ!!」
私達の目の前で、サーカスの司会のように喋るのは、幽明の妖魔ルオク。
先程まで、透明な体で私の首を絞めていた張本人。
しかし、既にコイツは透明では無く、肉体を出現させている。
その容姿は、背の低い真っ白な少年。
グレーのストレートの髪、その上に星屑のような文様がある。
王族の様な気品ある礼装を身に着け、眩しい程の宝飾を贅沢に纏っている。
瞳は真っ白でホワイトオパールのようだ。角度によって青く輝く。
それは、絵に描いた様な絶世の王子様。
性別を超えた美しさを持つ何か。
「んーーーいい香りだ、ここの霊脈は凄まじいですねー、皆さんそうは思いませんか?」
ルオクの前には、アーテマの魔術で空間に張り付けられた、ノウコさん、フィジャナーク王、幽明がいる。
喋る事すら封じられているみたいだ。
私とヒノのみ自由が許されている。
「あっ、喋れないんでしたっけ、そこの三人は?まぁアカリサマに関しては、その状態でホント良かった。きっとボクの事を、死ぬ程罵るでしょうからね。ウー怖い怖い」
幽明は、動けないが涙を流している。
それに気が付いたルオクは、一瞬、感情の無い顔になり、目を逸らした。
私は、そんなルオクの隙を見て、雷刃の魔術を飛ばそうとした。
ルオクは瞬時に移動し、ノウコさんの刀をノウコさんの首に突きつけた。
「チッチッチ駄目ですよ?いっその事、シスイちゃんとヒノちゃんも張り付けにしましょうかねー……せっかくの主役達だから、自由にしてあげてるのに」
ルオクは続ける。
「今から、大事な舞台なんです。変な事したら許しませんからね?ね、アーテマ」
ルオクは、私とヒノをジーっと見て、薄ら笑いで言った。
アーテマの仮面は無表情で、体はピクリとも動かない。
そしてルオクは、ヒノの目の前に瞬間移動した。
「では、ヒノちゃん。その気味の悪い宝石、ボクにくーださい!」
「これは……ダメよ」
ヒノは、手に持っている女神ゾアリアの心臓と、先程自分が召喚した、女神ゾアリアの卵を交互に見た。
「いいんですかー?」
ルオクは、グーっとヒノの顔を覗き込み、念動でノウコさんの刀を宙で舞い踊らす。
ヒノは泣きながら、女神ゾアリアの心臓をルオクに渡した。
張り付けられた、フィジャナーク王は鬼の形相で、ルオクを睨んでいる。
「なんで、こんな事するのさ!!!」
私は、ルオクとアーテマに叫ぶ。
「アーテマああ言ってるよ?君、間違えたんじゃない?」
ルオクは、立ち尽くすアーテマに言う。
「いいえ、私は間違えたとは思えません」
アーテマが、自分を信じるような言い方でルオクに返した。
「冗談だよ」
ルオクはクスっと笑い、女神ゾアリアの心臓を、お手玉みたいに放り投げて遊ぶ。
「意味が分からないんだよお前達!お前達の望みは、一体なんなんだよ!?」
私は再度叫んだ。
横のヒノは、真っ青な顔で、混乱して頭を抱えている。
「ハハハハハ傑作だ!!!聞いたか、アーテマ?ボク達の望みだって!
超ウケるよね」
ルオクは腹を抱えて笑う。アーテマは少し悲しそうだ。我慢している感じに近い。
「あなた達は、女神ゾアリアを復活させてどうしたいの?」
ヒノが口を開いた。
「だから違うんだって、いや、アーテマに関してはあってるけど。
女神ゾアリアの復活を、最初に願ったのは君達二人だ、シスイちゃん、ヒノちゃん」
私とヒノは驚いたように顔を見合わせる。
しかし、お互い身に覚えは無いという表情だ。
張り付けられた三人も、目線だけこっちに向けている。
「まっいずれ、全部思い出すんじゃないの?思い出さなくても、君達は二人は、
君達本人に聞けばいい話だからね……おーっとヒント終了。
一応、擁護の為に言うと、アーテマは君達二人の願いの為に、代償を払ってまでボクに願ったり、今まで遥かな時の中、一人孤独を背負いながら生きて来たんだ。感謝ぐらいしなよ……」
「アーテマ……」
私とヒノの声が重なった。
アーテマは、虚空の顔の仮面の模様が、大泣きの表情に変わる。
しかし、すかさずそれを顔から剥がし、虚空のまま私達を見つめた。
「じゃあ、キリが無いしそろそろ始めよっか」
ルオクはそう言って、女神ゾアリアの卵に、女神ゾアリアの心臓を重ねた。
私が、「やめろっ!!!」っと叫ぶのもむなしく、ルオクは、「もう遅いよ」と、
軽く笑った。
すると、真っ赤なその宝玉は、神々しい金の卵の中へ、溶けるように吸収されて行った。卵は少し揺れる……
ヒノは、止められなかったと膝から崩れ落ちる。
アーテマは祈るように手を組んだ。
「ねぇ、シスイちゃん。ちょっと頼み聞いてくれないかなぁ?
聞いてくれたら、そこで固まっている三人と、君達二人の安全は必ず約束するから」
「ホントかルオク?嘘はつくなよ?」
私は、激しく睨んでルオクに迫る。
「ちょちょちょっと怖いなぁもー、嘘なんてつかないよホントに。ちなみに僕はこれでも、一神様なんだ、もうちょっと敬って欲しいね。ハハっ。その名も特喜天王ルオク様だよ!!かっこいいでしょ?」
特喜天王ルオク???変わった名前だな。
私は幽明を見た。初耳だと言う顔をしている。まつ毛が涙で濡れているのが痛々しい。よっぽどルオクを気に入っていたのだろう……
「で、頼みってなんなのさ?」
私はルオクに早く言えと促す。
「簡単だよ。この卵に触れてあげて」
ルオクは、そっと目を閉じ、とても優しい顔で言った。
「ダメシスイ!触れちゃ駄目!!その卵、凄くあなたを求めてる気がするの!」
ヒノが大声を上げながら私を止めようとする。
「ヒノちゃん、勘イイね。でも、ホントにもう遅いって。シスイちゃんが触れようが触れまいが、もう、この卵は割れるよ?ずっと割れたくて仕方なかったはずなんだ、最後ぐらいこの卵の望み、味合せてあげたら?」
ルオクがヒノに、君が持ち主だったんだから、と言う風に言った。
しかし既に私は、無意識に卵に近付き、手を伸ばしていた。
「ダーリン!!!」
私の手は、女神ゾアリアの復活の卵に触れた――
その時だった―
卵は、ガタガタと揺れ出し、とても眩い血色の閃光をあらゆる方向に放ち出した。
竜巻みたいな強い風が卵を中心に巻き起こり、山全体が騒ぎ始める。
私は目を凝らし、魔蔵視する。
山の霊脈から来たのだろう、生き物みたいにうねるエネルギーが、ドクドクと女神ゾアリアの卵に入り込んでいく。
卵の中に、一つの気配が生まれるのを感じた。
とても愛しい気配。
何故か、ヒノと同じ気配……
張り付けられた三人は、声も上げられぬままその光景を凝視する。
「いよいよだねアーテマ」
アーテマの隣で腕を組んで誇らしそうにするルオク。
「ルオク様……ありがとうございます」
アーテマは卵に釘付けになりながら言う。
「この世界で復活しちゃった……」
ヒノは、こんなことが許されていい訳ないと崩れ落ちた。
「ゾア……」
私の口から勝手に言葉が出た……
そして――
卵はとうとう、殻がパキパキと割れていき、内部からローブを着た
人影が現れた。
その人影は、卵を蹴って押し割っては跨いで、地面に完全に両足をついた。
そして、ローブのフードを捲り、無垢白な髪を露わにした後、大きく天を仰ぐように
伸びをした。
「うううぅぅぅ良い天気ねー!気持ち良いわー!」
その場にいる全員が、神秘的で美しい女神に魅入っていた。
――女神ゾアリアは、遥かな時を超え復活した――
そして、目線を降ろし、私達を見て言った。
「あなた達は……?」
驚いた……
ヒノそっくりじゃないか……髪は私の色にそっくりだ。
ヒノ自体も、鏡の自分を見るように不思議そうな顔をしている。
フィジャナーク王は、目の前で跪けない事を、心から悔しがっているような顔だ。
「ゾア様、お久しぶりで御座います」
アーテマは、女神ゾアリアの前に行き、こうべを垂れた。
「あら、アーテマじゃないっ!!よかったー!!パンクライヴで戦ってたら、なんか訳わかんない世界に来ちゃって、ここ何処なの?てというか、私なんで生きてるの?」
復活したてなのに、結構喋る人だな。
と、考えてたら、女神ゾアリアは私に近寄り、クンクンと匂いを嗅ぎ出した。
「クンクン……不思議ね、ダーリンの匂いがするわ……隣のあなたは……うん!とても可愛い子ね!」
私とヒノにそう言った。
私達は動けずにいる。
アーテマは、女神ゾアリアに駆け寄る。
「ゾアリア様、全て正直に話しますが、お気を悪くしないでください。
あなたは、先のパンクライヴの大戦で、異界から多くの民を守り、亡くなられました。あなたが最後に放った天の扉の魔術により、パンクライヴ郷は野蛮な者共より救われ、あなたは女神ゾアリア・レードとして長い間崇拝され、遙時を超えて、こんにち、復活の儀が行われました」
女神ゾアリアは、アーテマの話を聞いて、少し考えたのち、答えた。
「そっかぁ……そういう事ね。アーテマ……寂しかったでしょ?ごめんね」
恐らくアーテマは泣いているのだろう、声を震わせて言った
「滅相も御座いません。今、貴方様にあえた喜びで全てが癒えました……」
「そっかよしよし」
女神ゾアリアはアーテマの仮面を撫でた。
ヒノは、この世界に彼女を復活させる事を、とても恐れていたが、こんなに優しそうな女神なら悪い事は起こらないんじゃないか?
「で、ここにいる人達は?」
女神ゾアリアは、私達全員を見て言った。
「それは……」
アーテマは言葉を詰まらせている。
「そんな事よりさ、ゾアちゃん!あれ見てよ」
ルオクがいきなり喋り出し、空を指差しだした。
女神ゾアリアは言われるがままに空を見る。
そこには、昼間なのに黄金の星が輝いている。
女神ゾアリアが、大きく目を見開き言った。
「万劫の星棺……ダーリンだわ!!!!!!」
黄金の星は、物凄いスピードで地上に接近する。
よく見れば星では無く、黄金の棺だ。
それは、半転重力のように飛行し、女神ゾアリアの前でピタッと止まった。
女神ゾアリアを含め全員が、その黄金の棺に注目する。
すると――
棺の上蓋が横にスライドし、黄金の眩しい光と共に、ウィトルウィウス的人体図のようなポーズの人影が中から顕現した。
その人影は、深紅の長い髪で、深紅の機械的な鎧を纏い、白磁よりさらに白い肌を持ち、まさに、女神のように綺麗な女性だった。そのままだが、アンドロイドの女神、そんな感じだ。
自分で言うのもおかしいか。
何故なら、背丈や年齢による顔つきは違えど、その顔は、私そっくりだったのだから。
みんなも、私と宙に浮いてるあの女の人を見比べている。
さながら、女神ゾアリアと、あの深紅の女神は、背が大きい版の私とヒノみたいな感じなのだ。
顔を手で覆い号泣しだす、女神ゾアリア。
「あああああぁぁぁぁぁ……こんな事!!!こんな……こんな奇跡って!!!!」
アーテマは、その背中をさする。
深紅の女性は瞳を閉じたまま、女神ゾアリアの目の前に、そっと舞い降りた。
そして――
瞳をそっと開けて、独り言のように言った。
「ここは…………私は死んだはずじゃ……?」
女神ゾアリア、彼女の鎧が外れそうな程に激しく抱き着いた。
「リリスリリスリリス!!!!!!あぁ!!!この匂い……あぁぁ!!!本物のダーリンだわ!!!!!私よ!!!???ゾアよ!!??あなたのゾアよ!!??」
「リリス……」
ヒノもボソッと呟いた。
リリスと呼ばれた女性が、女神ゾアリアを見つめる。
「……ゾア?……ゾア…ゾア、ゾアッ!!」
「ゾア!!!本当に君なのか!!!いや、その声……間違いない!!!あぁぁぁゾア!!!夢じゃ無いのか?」
女神ゾアリアは、宝石みたいに綺麗な涙を流して言う。
「ええ!!!!!そうよっ!!!ダーリンったらそう言ってるじゃないっ!!!!!夢なんかじゃないわ!!!ほらっ!見て!!アーテマだっているじゃない!!!あなたの夢に、とんちんかんなアーテマなんて出ないでしょ!!!」
アーテマは拍手して、仮面は笑ってる。
私は、こんな状況なのに、ちょっとだけひどいと思った。
「アーテマ……アーテマじゃないか!!!」
リリスと呼ばれた女性の表情に、段々と生気が戻る。
「お久しぶりで御座います、黄金郷パンクライヴを統べる王、リリス・パンクライヴ様」
アーテマは、膝をつき、手の甲にキスをした。
「久しぶりだなぁ!万劫の星棺で飛び立って、少ししてからだから、どのくらいだ?」
リリス・パンクライヴはアーテマに尋ねた。
少し……?
女神ゾアリアとアーテマは反応に困る。
「そこまで!!!泣けるねー!うん、泣けるよ!」
ルオクがまたも会話に割り込む。
女神ゾアリアとリリス・パンクライヴは少し警戒し、構えた。
「おっとっ、ひどいな。ボクは君達の味方なのにさ?君達が今、感動の再会が出来たのは、ボクが結構頑張ったんだよ?いや、ホントに。ねぇアーテマ?」
「お二人共、それは本当に間違い御座いません」
アーテマは言い切った。
女神ゾアリアとリリス・パンクライヴは、真剣な顔でお互いを見合わす。
女神ゾアリアがルオクに言った。
「ありがとね……これ以上の喜びは無いわ」
リリス・パンクライヴも続けて言った。
「私は、君がなんであっても構わない。私の生涯で一番の望みを叶えてくれたんだからね、ありがとう」
「どういたしまして、頑張ったかいがあったよ。ハハハ」
ルオクは仰々しくお辞儀した。
リリス・パンクライヴは、不意に私達を見て、何か考えるような仕草もしている。
「やっぱりナイスカップルだね!素直で、優しくて、凄く美しい!お似合いのカップルだ!そんな君達に、ボクからささやかなプレゼントをあげよう!新郎新婦には新居が必要だよね!」
リリス・パンクライヴと女神ゾアリアが、どういう意味なんだろう?と言う顔をして、一々行動が五月蠅いルオクを見る。
「さぁ、アーテマ手伝って」
ルオクはアーテマに、こっちへ来てと手を振る。
「はい、ルオク様」
アーテマはそそくさとついて行った。
ルオクとアーテマは私達から少し離れた場所で、一緒に空を仰ぎ見た。
なにやら二人して呪文を唱えている。
すると、再び、山は騒ぎ出し、鳥たちが一斉に空へ飛び立った。。
そして――
山全体を覆う程の、フラクタル的構造の星紋が空に現れた。
その星紋は、歯車みたいにくるくると回転している。
カラフルな彩の星紋が、テンポよく色を変えては濃い光を放つようになる。
やがてそれは、全てが完成したかのように光煌と輝きだし、キューブのように立体的に、さらに上空に伸びていった。
次の瞬間、カラフルな立体の中に、物凄く巨大な教会のような建造物が現れた。
浮かされてるというより、天空に浮かぶよう設計された城という感じだ。
まるで、ライブ中継の手品みたいだ。
しかも、そのお城の周りに、異形と言っていいのか、なんて言って良いのか分からない、怪獣のような大きさの三体の幽体が彷徨っている。
それぞれが別の種類で全く未知な感じの存在。
原始的なような、超文明のような、概念的なような、統一感の無い三体だ。
「電脳都市の女神ゾアリアの大聖堂だわ……丸々移動させるなんて……あいつらどんな能力なの……」
ヒノが末恐ろしいと言うように呟く。
「それって、こっちへ来て大丈夫なモノじゃないよね?」
私はヒノの隣で言う。
「勿論、電脳都市に住まうあらゆる異界の存在の心の拠り所だもの、きっと大騒ぎだわ。もし、女神ゾアリアが復活し、その場所に聖堂が移動したと、みんなが知ったら……」
ヒノは息を呑んで止まる。
続きは聞かなくても分かった。
きっと、この世界に電脳都市の連中が一斉になだれ込んでくるのだろう。
ルオクとアーテマが、女神ゾアリア達の前に戻る。
「あれは君達二人の新居として好きに使っていいよ?中身は追い払ったからね。どうだい気に入ったでしょ?大豪邸だよ。これから君達は、何の心配もせず、邪魔もされず、好きなだけあそこで幸せに暮らすと良い。これがボクからのプレゼントさ」
ルオクは、大袈裟なジェスチャーで言った。
「さいっこうじゃない!!!みてダーリン!!お城みたいなおうちよ!!??あれ、くれるんだって!すぐにでも住みましょっ!?もーーー!!貴方やっぱりいい子ね、本当に嬉しいわ!!きっと神様か何かでしょ!?」
女神ゾアリアは目を輝かせて、天空の大聖堂を見た後、ルオクに心底ありがとうと言う表情をした。
「ゾアちゃん流石だね、良いノリだよ!っそ、ボクは神様神様!」
ルオクはとても調子の良い奴みたいな喋り方をした。
「あぁ、そうだね。勿論だよ。ゾアとあんな所で静かに暮らせれば、どれだけ幸せか……何度も暗闇の中で夢見て願った光景だ……でも……こいつが私を自由にはしてくれないんだよ」
リリス・パンクライヴは、とても憧れるような表情をした後、黄金の棺を見た。
そして拳を握る。
その浮かない表情と黄金の棺を見て、女神ゾアリアは心底悲しそうな顔に戻った。
「心配ご無用さ!」
ルオクが戦隊ヒーローのように言った。
ルオクは、二人に少しどいてと促して、掌を黄金の棺に向けた。
次の瞬間――
神聖な光のような、無垢白で激しい光線が、ルオクの掌から破壊的に放出され、一瞬にして、黄金の棺は消え去った……
「これで、大丈夫。リリス・パンクライヴ、君は晴れて自由の身だ。今ボクが、
君にかけられた魔術毎、あの下らない物体を、全くの無に消し去ったからね。今までご苦労様、頑張ったね」
ルオクは、リリス・パンクライヴを労う様に笑った。
「そんな……こんな奇跡があっていいのか……」
リリス・パンクライヴは驚きを隠しきれないように唖然として、頬に涙を伝わす。
「リリス様、お疲れ様でした。確かに、貴方を束縛する魔術が消え去った事を確認しました。もう、あれに精神を乗っ取られる事は御座いません。
ゾア様と同じく、その不老の肉体をご自分の為だけにお使い頂き、誰にも邪魔されず自由に生きられるのです」
アーテマは、全ては成功しましたと報告する部下のように、跪いて言った。
「……ゾア、私……」
リリス・パンクライヴは女神ゾアリアを抱き締めた。
「うんうん、もう大丈夫だよ、ダーリン」
女神ゾアリアは、優しく抱擁しながら頭をよしよしと撫でる。
……
みんなは、奇跡を喜び抱きしめ合う二人を眺めていた。
「でも、一つ問題があるんだ」
ルオクの声のトーンが少し変わる。
二人は、全ての奇跡を与えてくれた恩人のルオクを見る。
「君達二人の存在はとても強大だ。この世界にも、君達を勝手に勘違いして、引き裂こうとする奴等が、再び現れてしまうだろう。他の世界から来る可能性だってある。もし君達が、やっと手に入れたこの幸せを守りたいのであれば、今すぐやるべき事がある」
ルオクは、二人に語って聞かせる。
「やるべき事?」
女神ゾアリアが尋ねた。
「率直に言おう、女神ゾアリア。――天の扉を開け――」
ルオクが、啓示の様に言った。
女神ゾアリアは、一瞬で表情が不安一色に変わる。
「あれは……」
「どうしたんだいゾア?」
リリス・パンクライヴが女神ゾアリアを肩に抱き寄せて言う。
「説明しにくいだろうから、ボクから言うよ。」
ルオクは、遥か昔を見つめるようにしながら言った。
「リリス。君が万劫の星棺で空に飛ばされた後、パンクライヴ郷は異界から一気に侵略されかけたんだ、端的に言えば、君は嵌められてたんだよね」
「……」
リリス・パンクライヴは苦い顔をする。
「その時、大活躍したのが、君のフィアンセのゾアだよ。女神や魔女と契約し、ボクですら計りがたい理外の力と、君と再度出会う為のその真っ赤な翼を手に入れた。そして、世界を混乱に陥れる者達から、民とパンクライヴ郷を守る為に、無限に繋がる天の扉を開き、世界を変えてしまう程の膨大な数の神聖な存在達を顕現したんだ。それはもう、救済者のオンパレードだったよ。そんなこんなで、結局彼女のおかげで、パンクライヴ郷は守られ、未来の今でも民達は、そこにいる愛の女神ゾアリア・レードを信仰しているのさ」
そのルオクの語りは、私達にも聞かせているようだった……
「ダーリン……わたし」
女神ゾアリアは、何かを伝えようとした。
「いいんだよ……ゾア。私は、何があっても君を信じるし、いつまでも君の味方だ。みんなを守ってくれてありがとうゾア」
リリス・パンクライヴは、すべてを理解したように言った。
「ダーリン……わたし……頑張ったの……」
女神ゾアリアの瞳から、感情がとめどなく溢れる。
私とヒノは、そのある種危うい会話を聞いて顔を見合わせるが、
入り込める余地の無さに動けずにいる。
ノウコさんや、幽明、フィジャナーク王も三者三葉の顔をしている。
「さぁ、女神ゾアリア。時は来た。無限に繋がる救済の扉を開くんだ。
愛を開くと言う約束を、女神や魔女に果たせ。
この世界の混沌を、君の力で統べろ。
世界を変容させ、未知の成功を作り上げろ。
君達の奇跡が、他の無数の存在にも起こりうるように。
二度と、忌まわしい奴等が君達を引き剥がさぬように。
常識を捨て、最高のイマジネーションを持って、世界を完成させろ」
「……リリス」
「……ゾア」
二人は見つめ合った。
そして――
揃って歩き出した。
肩を抱き寄せあって、天を見ている。
私とヒノは、二人に向かって走りだそうとした。
ルオクが、私達の前に来る。
「君達は自分の答えを探すべきだよ」
私とヒノは、ルオクが恐ろしかったわけではないが、ただ
目の前の光景と、ルオクのその言葉に、体が動かなくなってしまった。
何が正しくて、何を成すべきか分からなくなってしまったのだ。
女神ゾアリアが、ローブから出ている真紅の翼膜を盛大に広げ、詠唱をしている。
隣で、リリス・パンクライヴは、彼女を抱き締めながら、祈るように魔力を供給している。
この山の魔蔵にある霊脈も、それを賛美する様にエネルギーを供給し続けている。
私は思った。
もう止められない。
そもそも私は、世界の流れをどうにか出来る程の存在じゃない。
自分の幸せの答えすらまだ分かっていない。
……
……そうか。
私は、どうにもできない外部の世界でなく、私の中に答えを見つけるべきなんじゃないか……?
間もなく、山はおろか、街を覆う程の巨大な天の扉が顕現した。
荘厳な装飾が為されて、煌々と眩く、この世のどんな建造物より偉大に感じる。
その下の虚空には、プリズムの粒子を纏う、タワーのような大きさの黒い鍵が回転して浮遊している。
女神ゾアリアとリリス・パンクライヴは繋いだ手を天に伸ばし、念動でそれを掴む。
そして、二人はお互いの気持ちを確かめる様に見つめ合った後、天の扉の鍵穴にそれを差し込んで回転させた。
――天の扉は開かれた――
中が見える。
この世界の概念では、表現できない色をしている。
次の瞬間――
数々の異形を見た私でも絶句する、信じられない光景を見た――
天の扉からは、かつて見た理外の異形、終末の鬼よりも、遙に巨大な異形が、ぞろぞろと出て来た。
それは、私達の認識外のような形状をとる存在もいれば、派手な彩の単細胞生物のような存在もいる。
また、不明な形をとりながら、どことなく飛竜に似ていたり、昔図書館で読んだような、伝説上の神獣に似た存在などもいる。
そんな巨大なタイプに加え、程々の大きさの存在もいる。
また、既視感のあるような、この世界に準拠し、この世界の事を私達より知っているであろう、上位の存在のような美しく神々しい存在もいる。
他には、凄く宇宙感がありつつ神秘的な、人型や獣型の異形達もいて、それは銀河以上に遙遠くから来たのだろうと感じさせられる。全くの別ルートで、私達より進んだ文明達と言う感じだ。
そんな存在達は、街を覆う程の巨大な天の扉から、ひっきりなしに、この世界に出てきて、空を覆わんばかりの膨大な数になり、まるで曇り空のように地上を暗くた。
その存在達は、あらゆる方面に飛行したり、歩行したり、乗ったりしながら、この街を駆け抜けて行き、世界中に霧散して行った。
不思議なのは、あの膨大な数で、全くの別の枠組みの存在達が、一切の争いも見せずに、速やかに移動して行った事だ。
――その後、全ての異形を解き放った無限に繋がる天の扉は、ゆっくりと閉じた後、何事も無かったように、黒い鍵と共に消えた……
「よくやったよ。本当にお疲れ様」
ルオクが、からっと言う。
「リリス様、ゾア様、心よりお祝い申し上げます」
アーテマも拍手する。
「君達こそ、お疲れ様。本当にありがとう。この恩はどう返せばいいかわからないが……いつか返すよ」
リリス・パンクライヴが言った。
「ホントにね、お世話になり過ぎて困っちゃうわよ。ふふっ!またゆっくりお茶でも飲んで、お話ししましょ」
女神ゾアリアは、荷が降りたかのような顔をした。
「難しい話は、また今度だね。さっ、今日はもう疲れたろ?帰ってゆっくり休みなよ。でも、イチャイチャは程々にね?ハハッ!ボクはまた、その内訪ねるよ」
「ええ、そうさせてもらうわ。待ってるからね」
女神ゾアリアとリリスは、ルオクに微笑みかけた。
そして――
女神ゾアリアは、特徴の無い鳥のような召喚を出現させ、その上に二人で乗り、虚空に浮かぶ大聖堂へと飛んで帰って行った。。
ルオクと、アーテマはそれを見送る。
二人が大聖堂に到着したのを確認し、こちらへ来た。
ルオクが一言、
「みんなお待たせ。どうだったかな?ボクはこれが、ハッピーエンドに思えるんだけど。でもまぁ、君達の物語はまだ終わってないだろうから、陰ながら応援してるよ。頑張ってね」
「あっさりし過ぎ?いいじゃない。ハハッ!じゃねっ!」
そう言って、ルオクはアーテマと共に、瞬時に何処かへ転移した――
「ルオクゥッ!!!!!!!」
幽明が叫んだ。
幽明達にかかっていた魔術が解けたらしい。
茫然と天を見て立ち尽くす私達。
そこには、空を舞う膨大な数の異形達で溢れていた。
私は、一言こう言った。
「もうどうにもできないよ。一旦帰ろう?」
皆は、私を見た。
軽蔑しただろうか?
しかし、みんなの目は、きっと私と同じ目をしていたと思う。




