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宿命の決闘



ヒノの家、女神ゾアリアの祭壇前――




私とヒノ、幽明とノウコさんは、ヒノの自宅から、今まさに異界へ転移しようとしていた。


場所は、電脳都市という地球より遙に文明が進んだ世界。


その世界の、アシュトリクエルムという神秘の塔で、ヒノのお兄さんのフィジャナーク王と私は決闘する。




「じゃあシスイ、みんな、準備は良い?」


ヒノが私達を見て、最後の確認をした。




「うん、行こう」


私は言った。


もう覚悟は出来ている。生き抜く為の強い覚悟が。




「ええ、大丈夫です」


ノウコさんは、腰に差した二本の秘刀に触れる。




「とうとう、この瞬間が来たね。勿論、準備は出来ているよ」


幽明が、みんなのリラックスを促す様に、微笑んだ。




「みんなありがとう……じゃあ、行きましょ……」


ヒノは一瞬憂いた顔でそう言い、静かに魔術の手を組んだ。





そして――





「エテルシフトラ」




ボソッと、呟くようにそう唱えた。









電脳都市街の外れ、転移の塔アシュトリクエルム、最上――




そこは、雲の上の様だった。


この頂上には覆う物も囲う柵も一切が無い。


周りを見渡せば、膨大な雲海がゴーゴーと漂っており、それを貫いているという事が、この塔の高さを実感させる。


地面は、まるで巨大なコンサートドーム程に広く、自分がちっぽけに感じられる。




「立派な場所だねー」


幽明は観光客のようなトーンで言った。




「この塔は、この地の神様達が作ったって言われているのよ」


ヒノが、敬意を示すように静かに歩く。




「これが異界ですか……スケールが違いますね」


ノウコさんは、圧倒的な風景に唖然としている。




「いい空気だ」


私は、ただただこの場所の解放感と新鮮な空気が気に入り、大きく息を吸い込んだ……




その時、私達の前方、霧がかった場所から人影が現れる……




「……お兄様」


ヒノがその人物を見て言った。




「あれがフィジャナーク王か……」


私は、無意識に歩を前へ進めた。




その見た目はヒノに似て、とても美しい。


スラっと高い背。色白な肌。


鎧の外からでも分かる、バネが強そうな、凝縮された筋肉。


静かな海のような透き通る青い髪。


この場からでも光って見える、宝石みたいな優し気な瞳。


堅苦しくない渋い黒の鎧。


穏やかさの一線を越えたような、無の帝王のような魔圧。




わかる。


恐ろしく強い。




「想像してたより、ヒノに似てるね?」


幽明が淡白に言う。




「似てますね。思ってたより意外と幼いです」


ノウコさんは、そう言いながらも刀から手を離さない。




「ノウコさん、アリですか?」


幽明の笑い声が、広い塔に霧散する。




「ちょっと!幽明さん!」


ノウコさんは、少し恥ずかしそうに言った。




「クリシュマヒノよく来たな、待っていたぞ。友人の皆も、


遙遠いこの世界までよく来てくれた、歓迎しよう」


フィジャナーク王は落ち着いた声でそう言った。




ヒノの友達である私達を、心から歓迎してくれるような言い方だ。本当にそうなんだろう。


フィジャナーク王は自分の心情と、目的を全く切り離さるタイプなんだと思う。





「フィジャナーク兄様、女神ゾアリアの心臓は今何処にあるの?」


ヒノが強い口調で言った。




「あるさ、ここに。肌身離さず持ち歩いている。自分の心臓より大切なモノだからな」フィジャナーク王は軽い冗談みたいに、ふふっと笑った。




「そんな事ないわ!お願いだから、それに魅入られないで!」


やっぱり、まだお兄さんが好きなんじゃないか。


私とフィジャナーク王、どちらも失いたくないんだね……




「……お前には分からんよ」


フィジャナークは、哀愁漂う声でそう言った。




「それより……」


フィジャナーク王は私を見た。




「君が、冥 シスイだな。やはり、その面影……いや、なんでもない。何も知らぬ、クリシュマヒノをいつも助けてくれてるようだな礼を言う」


近くで見るとやっぱりデカいな。




「いえ、私の方がいつもヒノに助けられてばっかです。とても感謝していますよお兄さん」


私はペコリとお辞儀した。




私とフィジャナーク王は、ヒノを誰よりも愛すると言う点では、この上なく共感できる間柄なのかもしれない。




ヒノは少し涙ぐんでいる。




フィジャナーク王は、私がお辞儀したのを少し固まって見ている。


ちょっと印象が違ったのかな?




そして、フィジャナーク王は幽明とノウコさんを見て言った。


「君達は?」




「偉大なる都市を統べるフィジャナーク王よ、私は幽明 灯です。以後お見知りおきを」幽明は、忠実な執事のような立ち振る舞いをする。




「ふむ……君はあれだな、何にも似つかぬ不思議な存在だな……俺達とは別の尺度で


生きているような……面白い。期会があればまた話そう」


フィジャナーク王は、兄でも王でも無く、哲学者のような顔をして言った。




「王よ、期会は幾らでもありますとも、貴方が設けさえしてくれましたら」


幽明は、にこっと笑う。




フィジャナーク王は、食えぬ奴だと幽かに笑った。




というか幽明、最近コンタクトに変えたな、どうしたんだろう?





「あ……あの、私は、月原ノウコです。ヒノちゃんの友達です、よろしくお願い致します」


珍しいな、ノウコさんがちょっと動揺している。




「……ノウコと言うのか、優し気な雰囲気が美しいな君は、少し母様に似ている。よろしくなノウコ」


あ、美しいって言った。




「あ、はい。ありがとうございます、フィジャナークさん」


ノウコさんは、照れくさそうに首を掻いている。そして幽明が悪戯気げに笑っている。




……




私達と全員と挨拶を交わしたフィジャナーク王は、二、三歩下がり、瞳を閉じて、瞑想に入ったように黙り出した。




ちょっと、マイペースな人だな。




ヒノは眉間に皺を寄せ、自分の兄を凝視している。





「では、始めようか、シスイ」


その言葉は、電脳都市の魔王から唐突に切り出された。




先程とはまるで人が変わったみたいに、研ぎ澄まされた孤王の魔圧が辺り一帯に漂う。




「フィジャナークちょっと待って!あなただって、私の仲間達を目の前にして


分かったはずよ!?この人達に恐ろしい要素や、悪い気配なんて一切無いでしょ!?なのに戦う意味なんてないじゃない!もう一回話し合いましょ!?」


ヒノは、声を荒げ説得しようとする。




「今更、話し合う事など無いさ。これは、善悪の戦いでは無いからな」


フィジャナーク王は、私の瞳を見て、すまんなと言った。


その王の綺麗な瞳には、私が悪者で憎いなんて思いが微塵も灯って無かった。




「でも!!!」


ヒノは、もはや自分の兄にとびかかろうとしていた。




これは……




そうだな……




きっと私の宿命だ――




そんな感じが過ぎった。






「ヒノ、みんな、私やるよ……みんなは一切手を出さないで」




みんなが神妙な顔つきで私を見る。




「……ごめんね。たぶんこれは、私とフィジャナーク王の宿命なんだ」





沈黙が落ちる――





「ダーリン、いやよ……」


ヒノは泣きだし、私に抱き着く。




「大丈夫さ、信じてヒノ」


私はフィジャナーク王を見ながら、ヒノを抱き締める。




フィジャナーク王は、空っぽのような目で私を見る。




「シスイいいんだね?」


幽明が私に問いかける。




「うん、もう迷いは無いよ」




「任せたよ、頑張ってね」


幽明のダイヤを砕いたような瞳に、陰りは一つもなかった。




「シスイちゃん、無理してない?」


ノウコさんが私の肩に手を置く。




「してないですよ。私がヒノやみんなの為に、戦いたいんです」


この言葉に、嘘、偽りは無い。




「そう……強くなりましたねシスイちゃん。ちゃんと、生き抜いて下さいね?まだあなたと沢山お話したいんですから」


ノウコさんは、フィジャナーク王を見て、悲しい顔をした。




フィジャナーク王は少し悲壮な顔になる。恐らく母を重ねたのだろう……




「では、正々堂々戦いましょう。ヒノのお兄さん」


私は、フィジャナーク王の前まで進み、胸を張って言った。




「あぁ……そうだな。始めるとしよう。勇気ある少女よ」




――そして私達の宿命の戦いは幕を開けた。







転移の塔、中央、一騎打ち――





「詫びよう、冥 シスイ。俺はお前を見くびっていた」


あらゆる場所に瞬間移動しながら、フィジャナーク王は大声で言った。




それも、そのはず。とどまれる空間など、私の周りの地面にも空にも一切無い。


今、私の周囲には一寸の隙間も無い程に、極雷の嵐が吹きすさんでいる。


世界の地下深くにいる伝承の大蛇のように、なんぴとも寄せ付けずに、轟いているからだ。


こうでもしなきゃ、近寄られたら終わりだから。


フィジャナーク王の速さは理解不能で、未来視すら追いつけずにズレてしまう程だ。




フィジャナーク王も対抗するように、多様な属性攻撃を遠距離から発射するが、私に到達するまでに、私の魔術に潰される。


打開しようと、強烈なエネルギーの一撃を放とうともしてくるのだが、私は虚空を舞うフィジャナーク王のさらに上空に、100を超える程の激しく燃焼した隕石と、プリズム属性を纏わしながら光速回転させた、異形の鎌ゼスパを、常時展開し阻止している。


フィジャナーク王は、一瞬でも隙を見せれば、木っ端微塵か、神々しい光の円にスライスされるので何も出来ない。




「降参する!!!???」


私は、なるべく聞こえるように大声を出した。




「生意気なやつめ、クリシュマヒノのようだ」


遠目に、フィジャナーク王は少し楽しそうに笑った。




「この偉大なる都市の魔王たる力、とくと見せてやろう」


生き生きしてきたな。さっきまでの空っぽじゃない。





「レードプリズミア!!!!!」




まずい。


わたしは、念動で圧縮していた、スマホサイズの金の塊を展開し、黄金の盾に変えた。


一瞬、フィジャナーク王の方から、私と同じプリズム属性の高出力エネルギーが見えた。




防御――


ヒュン……ドドドドド!!!!!




私は、全て黄金の盾で受ける。


余りの威力に、私の踏んでいる地面は、溶けたアイスのように簡単に抉れ、数十メートルは吹き飛ばされた。


頭が揺れすぎて、眩暈がし、とても吐きそうだ。


こんな場で吐きたくない。何故かそれが死より怖かった。




遠くからヒノ達の声が聞こえる。


幻聴かも。




駄目だ。また来た。


ヒュンヒュンヒュン……ズドドドドドドドドッ!!!!!




私は、先程の三倍ほどの威力のその技に、盾は介しているものの、ほぼ乱れ打ち状態になり、気が付けば塔から落ちそうな場所にまで吹き飛ばされていた。


私が先程居た場所は、巨人がフルスイングしたように、地面が一部が消失していた。


よく生きてたな私。




「降参するか?冥 シスイよ」


フィジャナークは意地悪な兄のように言う。




降参……


その手があったか……それで、許してくれるのか?


……


いや。


駄目だ駄目だ。


ふっざけんな。


イラつく。




「うるさい!!!!!!!」




まだ少し眩暈がする私は、それを振り払うように咆哮をあげた。




100を超える隕石は、フィジャナーク王を追尾し、激しくぶつかり合い、えも言えぬ神秘的な爆発を連鎖的に起こした。


流石のフィジャナークも出来るだけ遠方に逃げだした。




しかし、それを追うように、私の異形の鎌ゼスパは、光速のプリズム色の円で、裁きの天使の如く、さらに追い込みをかける。




幽かに見えた。


フィジャナーク王が虚空に少し揺らめいた。


恐らくだが、あの真紅の翼膜を少し傷つけれたのだ。




次の瞬間――




幻覚に見える程に、恐ろしいスピードで目前にやってきたフィジャナーク王。


フィジャナーク王の辿った軌道には、濃い虹のような残像が出来ている。





「やってくれたなぁぁぁ!!!!!ルルムマスカーーートォォォ!!!!!」


フィジャナーク王は大絶叫してブチギレている。小難しい感情抜きのシンプルな激昂。




翼に、青、緑、無垢白、深紅の炎がどろどろと循環している。恐るべき速さで、


輪廻のように再生と消炎を繰り返している。




あと数秒で、あの得体の知れない威力を背負った攻撃が、私の体を引き裂くだろう。




奴の背後には、私を助けるべく、プリズム色の円と、膨大な数の隕石達がまだ追っている。




変形!!!




私は黄金の盾を、大きな鐘に変形し、中に潜り込んだ。


そして、侵入してくる衝撃に耐える為に、中から魔蔵視を生かした膨大な魔圧を放出する。




「うおおおおおぉぉぉぉぉりゃああああぁぁぁぁぁ!!!!!!」




私の魔圧で、外の気配はどんどん染まっていく。




フィジャナーク王は気にせず、鐘を計り知れない程のエネルギーで攻撃してくる。




一発一発が城でも全壊できるんじゃないかと思える威力の衝撃派が、盾の内部に侵入しようとする。


私の魔圧がそれに対抗し、喰らわんと全力で噴出し続ける。




気配を視る。




私が放出している魔圧で、巨大な雲が出来てるぞ……


雲か……こんな場所で……ふふっ


皮肉だ。


……雲?




「出てこい!!!!!卑怯者があぁぁぁぁ!!!」


それにしても、怒り過ぎだろ。


恐らく、あの翼膜を傷つけられた事が相当頭にきている。


何故ならあれは、ヒノと同じく、誇り高き赤翼の一族の証であり、ゾアリア・レードの末裔の証でもあり、彼の王たるアイデンティティーを形成する上で無くてはならないものだろうからだ。


それは、ただの飛行に使う羽なのだが、彼の全てなのだ。




「出る訳無いさ!!!病気みたいに怒っちゃってさ!!!そりゃヒノにも嫌われるよ!!!めんどくさいお兄ちゃんだってね!!!ふふふ!!!」


これでもう、私に逃げ道は無い。


でも言ってやってスッキリした。




「なんだとおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


フィジャナーク王は、視野が狭く柔軟性が無い。真面目過ぎる。それが結論だ。




そんな、どろどろとした、こだわりや、執着は、雨にでも流した方がいい。


私は、鐘の暗闇の中、心を研ぎ澄ましていた。


思い出す。


強力な魔術。


魔女シビャクが使った、逃げようの無い光の雨。


無限に思える光の裁き。


使える。


完全では無いが。


その時――


未来が視えた。


あぁそうなるのか……じゃあ、ああしよう。




「フィジャナーク逃げて!!!!!!!」


咄嗟にその言葉が出た。


無意識だった。


その言葉の意味を確かめる様に、鐘への攻撃がほんの一瞬止まった……






そして――




「ああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」




私は、全細胞に最大の魔力をよこし出せと命令する様に叫んだ。


喉は潰れ、体中の血管が開くようだった。




気配を感じる。




雲海と化した私の魔圧から、その一滴が隕石に匹敵するような威力の、浄化の雨が降り出す。


小雨はどんどん激しくなり、瞬く間に無限の大雨となった。


その後は、私の噴出した気配が濃すぎて、真っ白で何も見えなくなった。




私は、黄金の盾を元に戻した。




もう脅威は無いからだ……




目的の場所まで歩く。




そこには、フィジャナーク王が、ほぼ倒れるように座り込み、首元には私のゼスパの刃が怪しく輝いていた。




私は見降ろして言う。


「ヒノのお兄ちゃん、怒って無い時の方が全然かっこいいよ?」




フィジャナークは私を見て、ハッとした顔をした。


恐らく私にヒノを重ねたのだろう。




そして――





――私は、魔族組織の王、魔王フィジャナークに勝利したのだ――







みんなが駆け寄ってきた――




ヒノが、抑えきれないの、と言いたい程に嬉しそうに走ってきて、私に飛びついた。




「やっぱりだわ!!!!!やっぱりよ!!!!!出会った日からずっとずっと、


あなたなら全部変えてくれると思ってたの!!!!!」




物凄い勢いで抱きしめてくるヒノ。


く……くるしい。




「なんか映画を見ているようだったよ。とても神秘的な映画。神様のドキュメンタリーみたいな感じ」


幽明は私を見て、途方も無い顔をした。相変わらず独特な表現だな。




「シスイちゃん!!!オメデトウございます!!!魔女シビャクの技を使うなんて狂ってます!!!狂ってて最高過ぎです!!!痺れました!!!」


ノウコさんは飛び跳ねてる。


この人偶にすごい女の子っぽくなって可愛いな。


私、勝ったんだ……


妙に実感が湧いた。




私達三人は、フィジャナーク王を見る。




王は黙って俯いている。




「フィジャナーク、約束よ?」


ヒノは詰め寄った。


私達の世界から手を引きなさい、と言ってるのだろう。




「あぁ……」


暗い表情のまま、懐から心臓の形をした真っ赤な宝玉を取り出す。




しばし、離れがたいように、それを見つめるフィジャナーク王。




「貸しなさい」


ヒノの声には容赦が無い。




フィジャナーク王は、ゆっくりヒノを見た。


「母様は、今の俺を見てなんて言うだろうな……」




ヒノは、無表情の顔に、優しさを少し隠しきれずに、こう言った。


「強くなったね……って言うんじゃない?」




その瞬間、フィジャナーク王は、ポタポタと涙を流した。


誰の目も気にせず、ただポタポタと母を想って、涙した。


その涙は、女神ゾアリアの心臓の上に落ちていく。




フィジャナーク王はそのまま、その宝玉をヒノに差し出した。




ヒノは、さっと受け取る。




私達三人はそれを見つめる。




ヒノが太陽に透かす。


高濃度のプリズムが煌めいた。




「これが私達の世界にあって私がいれば、もう迂闊に、異界は攻撃してこれないわ……」




ヒノが真剣な瞳で、真っ赤な宝玉を見つめた。




しかしフィジャナーク王は、宝石をもう見ず、先程のヒノの言葉に、ずっと涙を流しているだけだった……




「これで、全部解決かな?」


幽明が言った。







その時だった――




(ハイ!アカリサマ!全て解決です!)


空間から声がする。




これは……幽明の妖魔の声か?確か、ルオクだったけ?


次の瞬間私は、巨大で透明な何かに首を掴まれ、宙に浮いていた。




「な……なん……なのさこれ……」




「おい!!!!!ルオク何してる!!!!!」




(アカリサマ、今まで楽しかったですよ……アリガトウゴザイマス……)




「何言ってんだ!!!!!」


幽明は、必死に手を動かしたり、呪文を唱えたりして、ルオクを制御しようとするが、私は宙に浮いたままで変わらない。




(さぁ!!!ヒノちゃん!!!この愛しい恋人の命が惜しければ、今すぐに


女神ゾアリアの卵を召喚して下さーい!すぐにですよ!?待つのはキライです!5・4・3……)




「え……あぁ……えぇ……なに……」


ヒノは一気に泣きそうな顔になり、頭が真っ白のパニックと言う感じだ。




「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」


その顔を見たフィジャナーク王は、私を掴んでる虚空に向かい魔術を放とうとした。




ノウコさんも同じく居合の態勢をする。


幽明も、ルオクを止めるべく魔術を唱え出す。


全てがスローモーションに視える。




(アーテマ)


ルオクが素早く言った。





次の瞬間――




フィジャナーク王とノウコさん、幽明の体は、マリオネットのように何もない空間に張り付けられた。





「ア……ア……テマ?」


私は、目の前に現れた、懐かしい声の主の名を呼んだ。




「全てはあなた達の為なのです、許して下さい」




「は……?」


頭の中に、私の記憶では無い記憶が浮かび、勝手に涙が流れた。




(アーテマ、感動の再会は後にしてよ?ヒノちゃん、ホントに良いの?ボクは


容赦なんかしませんよ?)


物凄く静かな声で喋るルオク。


こんな奴だったけ?




ヒノは、わけが分からないままに、放心状態で呪文を唱えだし、目の前の空間に眩い光が溢れ出した。




(うんうん、いいこいいこ)




そして――


光の中から、人程の大きさの神々しい卵が出現した。




(それだよソレ!!!仕事早い人ってだーいすき!ヒノちゃんLOVE!


でも……あれかー……ここでは女神ゾアリアの顕現は出来なかったよね、むぅーーー……そうだ、あそこへ行こう!!!では、皆さん転移しますよ!エテルネシフト!!!)






次の瞬間――




私達は、山の展望台のような場所に転移した。


私はいつの間にか解放された。


ゲホゲホ……


周囲を見渡す。


ん……


ここは……


響がUFOに攫われた時の山じゃないか。

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