慈十 叫の異形霊媒譚 ――風の神殿――
「キョウちゃん、風の神殿って知ってる?最近この辺で有名な都市伝説の」
リョクが隣で、ラーメンをズルズルすすりながら言う。
「あんだそれ、ゲームみたいだな。どんな話?」
俺もズルズルすする。やっぱこってりだわ。
「知ってますよ私、お客様から聞きました。電気街にある魔法陣から、何処か別の星にある風の神殿にワープできるって話ですよね?」
クオリアも口いっぱいにラーメンを頬張り、もにょもにょ喋って、汁をズズっと飲んでる。
俺達三人は、メイド喫茶プリズムフィーユで一緒にバイトしている。
今はその休憩中だ。
三人そろってフリフリの可愛い服を着て、近所のラーメン屋で麺を豪快にすすっている。
宣伝の意味も込めて着替えずに来た。
ちなみに店でのキャラ設定は、リョクが呪われたお嬢様、俺が最強不良少女、クオリアがジト目魔法少女だ。
もはや、店というか現実でもそのまんまな立ち位置なんだが。
「ふーふー、ズルルルルー……へー、クオリアちゃんそれって何処にあるの?」
リョクが切り揃えられた黒い前髪を汗で濡らしながら聞いた。
「はい。ズルル……深夜零時以降に、大通りの一番大きいゲームセンターの屋上に行くと、ズルズル……転移できるらしいです」
食べるか、喋るどっちかにしろよこいつら。
クオリアはジトっとした、ライムグリーンの瞳で俺の煮卵をチラチラ見ている。
欲しいのかよ。
「クオリア食うか?」
俺は煮卵を箸でさす。
「ホントですか?ありがとうございます!」
無表情だが、これは喜んでる顔だ。
「キョウちゃんやっさしー、私の煮卵、キョウちゃんにあげちゃう!」
リョクは、にたーっと肘をついて笑った。
「いらねーよ。気ぃ使うな」
何故か、強制的に煮卵が戻って来た。
「リョクさん、流石です。私の煮卵あげます」
クオリアが、ロボットみたいにバサッと横を向き、リョクに言った。
なんでそうなるんだよ!!!一周しただけじゃん!!!
しかも私の煮卵って、結構言うなお前。
「ありがと!クオリアちゃん」
リョクが、やだー嬉しい!という風に手を組んで、ペリドット色の瞳を輝かしている。
もう片方の黒い眼帯の下は笑っているんだろうか?
リョクの眼帯の下には秘密がある。
「てか、食いたいんならなんで俺に渡した、リョク!」
「ノリ?」
まぁいいや。毎日こんな事ばっかだからもう慣れた。
「てか、さっきの風の神殿だっけ?それってマジ話なのか?」
俺は、スマホの内カメで顔を見ながら喋る。
さすがに、汗びっしょりで化粧が崩れたら、メイド失格だからな。
……
うん可愛い。
性格に反して、お嬢様みたいな顔の俺が、こっちを見ている。
ファイアオパールの外ハネが上手くキマッテるぜ。俺のお気に入りの髪だ。
「恐らく、本当の話ではあると思います。この話が頻繁に噂された時ぐらいから、あのゲームセンター辺りに、妙な気配が漂うようになりました」
クオリアは、ラーメン鉢を持ち上げ、ゴクゴクとスープを飲んでいる。
精巧に作られた人形みたいな見た目からは、想像できない光景だ。
「マジ話なんだー、めっちゃ面白そうじゃんか、行こうよ!てか、風の神殿の事呟いてる人結構いるわ!」
スマホをスクロールして、テンションが上がるリョク。
俺達にスマホを見せる。
「マジか!どれどれー……」
そこには、電気街周辺を住処にしているだろう、オタクアイコンの様々な人間が呟いていた。
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風っつーか草原だった。
あーし、やばめの異形見て、今これ。
勇者の剣を貰ったでござる。黒い人から。
彼氏、風の神殿行って帰ってこないんだけど、大丈夫そ?
流石に、ガチ神殿は草
お前らのノリ飽きたわー。
クール系魔法使いちゃんいた。かわいい。
みんな情報ありがとだよー。21時から配信しまーす。
宣伝乙。
ロアノヴァ。by RGB式部って、ペンネームの人いたらセンスあるよねー?さん
は?クソつまんね。
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俺等は、三人顔を寄せ合って、リョクのド派手な紫カバーのスマホを覗き込んでいる。
「おぉ。これガチっぽいな」
俺は目をパチパチさせ、コメントを読み込む。
「やばめの異形ですって。少し気になりますね」
クオリアは、俺の顔の隣で、レインボーみたいな髪から石鹸の匂いを漂わせて興味ありありで言った。
「ねっ!行こうよ三人でさ!風の神殿うちらで攻略しちゃお?そんで財宝山分けして人生あがろ!」
リョクは、お願いっと言う風に手を合わせる。
「財宝山分けかー……(そりゃ、最高過ぎるな。んで、最近暇だし)……んーーー、よし、俺はいいぜ!」
神殿って所に少し引っかかるが、まぁどうにかなんだろ。
基本的に俺の慈十家でも、神殿関連の異形霊媒は、みんな用心してかかっていた。
滅茶苦茶強敵なやつがいる頻度が高いからだ。
「私もいいですよ。山盛り稼いで、ラーメン沢山食べたいですし」
単純な欲望だな、おい。しかも今食ったとこだろ。
「よーし、じゃあ決まり!今日バイト終わった後、軽く行ってみよー」
リョクは、立ち上がり会計しに行こうとする。
「えー、今日かよ!?バイト終わりは流石にダルくね?」
かと言って、何も無い日の夜中の零時に電気街行くのもだりぃ。
「終わってから三時間ぐらい時間あるからいいじゃん。あっ、ねぇクオリアちゃん。神殿行くまでお家お邪魔させてくれないかな?」
確かクオリアの奴、この辺で一人暮らししてるらしいな。
それにしてもリョク、お前急過ぎ。
「いいですよ。特に何もありませんが」
クオリアはこくりと頷く。
「うっそー最高じゃん!じゃあ、ついでに泊めて貰ってもいい?」
リョク流石に図々しいぞ。
「いいですよ。全く問題ありません」
クオリアは、当然のようにあっさり承諾した。
「お前いいやつだな?」
俺はクオリアを肩に抱き寄せる。
「何がですか?」
ジトーとした目で、なんで?と純粋に見つめてきた。
「やっほーい!楽しくなってきた!じゃあ、バイト終わったらコンビニでご飯買って
クオリアちゃん家直行だ!ハイセーノッ!おっとまり会、おっとまり会」
なんか、趣旨変わってきてね?
「おっとまり会。おっとまり会」
クオリアも手拍子で調子を合わす。
お前もかよ!!
そんなこんなで、俺達三人は騒ぎながらラーメン屋を出た。
メイド喫茶プリズムフィーユの店長、トドリ店長に、戻るの遅いよ!とか怒られながら、ビラ配ったり、適当に接客したりして、後半の勤務時間をこなした。
二十一時、クオリアの家――
「おおー意外と広いんだな」
俺は、クオリアの部屋を見渡した。
物凄く簡素で、家具とかも全然無い。
冷蔵庫、カーペット、テーブル、ノートPC、ベッドという最低限の生活必需品がポンポンポンと置かれている感じだ。
清潔感には溢れている。
案外俺はクオリアの部屋を気に入った。
「窓開けていいか?クオリア」
少し、解放感が欲しかったのだ。
「ええ、どうぞ」
俺は、窓を開けて新鮮な夜風を部屋に通す。
「クオリアちゃんらしい部屋だね。とりあえずダーイブ!!」
リョクはいきなり人の家のベッドにダイブした。
「おいリョク、ちょっとは遠慮しろよ。自分の場所いきなりズカズカ侵略されたらお前も嫌だろ?」
そういうのが、礼儀としてあるだろ、礼儀として。
「ごめーん、クオリアちゃん。お礼に髪の毛わしゃわしゃしてあげる」
むしろ、嫌がらせだろ。
「全然いいですよ。わしゃわしゃは……一応して貰っておきます」
全部許すじゃねーか、我がないなクオリアは。
というか、一応貰うってなんだ。
リョクはクオリアのトワイライトみたいなグラデーションの髪を盛大にグシャグシャっとして、ギューっと抱き締めた。
クオリアは、うわぁぁぁと、されるがままだ。
俺はその光景をスマホで撮った後、SNSでフォローしてる人達の、今日一日の呟きをザーッと見た。
ほぼ、自撮りか、飯の写真ばっかだ。
まずまず推してる、女の子の歌手グループが、新曲の告知してたから、なんとなく聞いて見る。
……
なんか前も似たような曲だしてなかったっけ?
「なあ、クオリアお湯沸かしてくれ。カップ麺食いてーんだ」
寝転がって動画見ながら俺は言った。
「はい」
クオリアは新しい命令が入ったロボットのように動き出した。
「あ!私の分のお湯もお願い」
リョクもベッドでスマホをいじりながら言う。
最低だろ俺等。
「はい、分かりました。お二人共、冷蔵庫にデザートがあるので、よかったら食べて下さいね」
クオリアは、優しい声で私達のお湯を沸かしながら言った。
最高かよお前。
「クオリアちゃん尊過ぎ!じゃっ遠慮なっくー!」
「あんがとよクオリア」
リョクは、四つん這いでドダダとお化けみたいに這いまわって、クオリアの冷蔵庫をおばあちゃん家の冷蔵庫みたいに開けた。
「うっほー!お宝ゲットー!あたしプリン大好きなんだよねーん、前世はプリンの惑星で生まれたのかも?プリンのプリンセスなんちゃって」
「そんな惑星あってたまるか」
俺は、SNSを見ながら適当に答える。
「キョウちゃんは、乱暴な惑星のじじいだよねー」
リョクはケタケタと笑いながら、クオリアにスプーン借りるねーと言っている。
「今のは聞き捨てならねーな。なぁクオリア、こいつ最低だよな?」
「はい。最低ですね」
お前なんでも承諾する癖あるだろ。
「えーん。クオリアちゃんひどいよー」
リョクは、ポカポカとクオリアの背中を叩く。
「それ見ろ、天罰だ。クオリアもっと言ってやれ」
俺は、へへっと笑った。
「ねークオリアちゃん。私って世界で一番可愛いと思うんだけどそう思わない?」
お前、何を、、、
「はい。リョクさんは、世界で一番可愛いです」
クオリアは、俺達のカップラーメンにお湯を注ぎながら言う。
「クオリアちゃんさいこー。そんでキョウちゃんのまけー」
リョクは、よしよしとクオリアの頭を撫でた。
「戦った覚えねーよ。年中充血女」
「あ、それひどすぎ!私の右目は充血じゃないっつーの。そんな無礼にバカにしてきた人初めてだよ?これは一族の、"の・ろ・い"、なんですー!」
リョクは眼帯を指差して言った。
さすがに俺は言い過ぎたかもけど、呪いの方が嫌じゃね?
「じゃあ、胸そこそこ女。クオリアそう思うよな?リョクはそこそこだよな」
「はい、リョクさんは胸こそこそ女です」
おい、こそこそってなんだ、ちょっとおもしれーじゃねーか。
「私、どう反応したらいいの?そこそこって、そこそこ嬉しいんだけど。あと、クオリアちゃん、後で、足コショコショの刑!」
リョクは、クオリアに襲い掛かる様なポーズで怪しく笑う。
「うわぁぁ、足コショコショは許してください。気持ちがこしょこしょするので」
こんな馬鹿馬鹿しいゆるい会話を、俺達はずっと繰り返している。
でも、昔よりかはマシだ。
俺は、花岡家と慈十家と言う異形霊媒の名家の連中に挟まれて、ずっと堅苦しく育ってきたんだ。
あんなクソみたいな真面目な事しか言わねー連中より、こいつらの方が、そこそこ最高だ。
その後、俺達は腹が減っていたのか、大喰らいの男達みたいに夕食を一瞬で平らげ、各々好きなようにダラダラと過ごしていた。
リョクはベッドでスマホをいじり、クオリアはそのベッドにもたれかかり、携帯ゲーム機でRPGのソフトに夢中だ。
俺は、床に寝転んで、動画見たり、SNS見たり、半分寝かけの状態でリラックスしていた。
……
……
時間が過ぎる。
……
……
「ん……」
部屋が暗い。いつの間にか寝ていたのか俺等。
二人を見る。
疲れてたのかスヤスヤ寝ている。
いい寝顔だぜ……
窓のカーテンだけが、暗い部屋で夜風に揺れている。
スマホで時間を見る。
23時半。
そろそろ時間じゃねーか。
すまんなお前等。
俺は電気を点けた。
「おーい、お前等そろそろ行くぞ!」
パンパンと手を叩いて起こす。
「んーーー……いや!……いかない!」
リョクはもっと寝ていたいと言う様に、駄々をこね出した。
「じゃあ、俺等だけで行くわ」
「行く!」
どっちなんだよ。
「朝ですか?」
クオリアがむにゃむにゃと目を擦って言う。
「んな訳ねーだろ。何の為に集まったんだよ、ほらっお前等用意しろ!」
俺は、寝ぼけた二人と一緒に、顔洗ったり、うがいしたり、水飲んだり、着替えたりして用意して、クオリアの家から出た。
真夜中、電気街中央通り――
ネオンが灯り、歩く人の層が変わった。
空気もリセットされたように静まり返って、少しひんやりしている。
この格好じゃ寒かったかな?
俺は自分の服を見た。
肌にピタッとつく、お気に入りのアクアマリン色のタイトなジャージ。
もうそろそろ、別のジャージ買おっかなー。
こいつらとお揃いにしたらおもしれーかも。
前を歩く二人を見る。
リョクは、スタイリッシュな白のワンピース。
クオリアは、クラシックな黒を基調とした異国の制服のようなドレスだ。
風の神殿って言うぐらいだから、もしかしたらここより寒いんじゃ……
俺は、三人揃って装いを間違えた可能性に頭を抱えた。
風の神殿、転移場、大手ゲームセンタービルの裏口――
「で、どうやって屋上まで行くんだ?正面結構人いるぞ」
俺は、ぽかーんと上を見る二人に言う。俺一人なら、魔術で出現させた魔法陣を蹴って行けるが。
「私、魔術使おうか?」
リョクが眼帯を指差す。
「いや、お前のは派手だからな」
それに、魔術使いだすとお前性格変わるし。道化女。
「では、私がふわふわの魔術を使いましょうか?」
ファンシーだな……
クオリアが空間から、大賢者が使うような杖を取り出した。
「いいねー!ふわふわ。あたしそれが良い」
リョクは、クオリアに後ろから抱き着く。
「じゃあ頼むよ。なるべく静かにな」
「はい」
「では……雲海に住まう精よ、白く麗しき奇跡の雲を、この小さき我等に分け与え給へ……パフィーヌービー!」
クオリアの杖の宝玉から、放射状に光が発散された。路地が一瞬フラッシュみたく明るくなる。
そして……
俺達の足元に、三人が乗れるサイズの積乱雲が現れた。
「さぁ行きましょう!」
クオリアはピョンっと先に飛び乗って、振り返った後、自慢げに笑った。
「カワイイ魔法!」
リョクもえいっと飛び乗る。
「ソファーみたいだな」
俺も飛び乗り、雲の上でジャンプする。
小さな積乱雲は俺達を乗せ、エスカレーターみたいに屋上まで運んでくれた。
ゲームセンター屋上――
ただ真四角で、殺風景で錆びれた屋上をイメージしてたから、少し驚いた。
そこには、屋上全体にもなる魔法陣が、淡く緑に閃光して、とんでもない魔圧と風を放出していた。
「ほうこりゃすごいね!」
リョクは、感心しながら円のギリギリを歩く。
「だな。これ作った奴、なかなかだぜ」
俺はしゃがんで、魔法陣を凝視する。
「えい」
クオリアが俺の背中を押した。
「おい!あほかっ!いきなりどうしたんだよ」
「いえ、友達はこういう時、こうすると思ったので……」
クオリアは、少し罰が悪そうに言った。
「クオリアちゃん、ホント面白いね うふふ」
口に手を当てて笑うリョク。
「俺とお前はダチだし、間違えじゃねーけど、普通に危なくね?」
「反省します。ジトウさん、どうぞ私を押してください。罪滅ぼしです」
クオリアは魔法陣の前に座り、俺を見た。
……こいつは微妙にずれてんだよな。
「じゃあほれ……」
俺はクオリアの背中を押す。どうせ避けようとしてコケるくらいだろう。
……って
クオリアが消えた!!!
「ちょっとキョウちゃん!!!クオリアちゃん消えちゃったじゃない!!!サイッテーね!!!」
リョクはタックルしようとしてきた。
「ちょちょちょっと待て!悪気なかったんだ!てか、あいつマジで何処?転移したの?」
と、言いながらリョクを避けた。
……
あれ、リョク。
!!!!!
リョクも消えた!!!
俺は魔法陣を見つめる。
「そして誰もいなくなったじゃねーんだよ!!!行くしかねーじゃねーか!!」
俺は、勢いよく助走をつけて、魔法陣に飛び込んだ。
風の神殿――
俺がこの場所に来て最初に思ったのは、これはダンジョンの入り口などではなく、最深部のボスのフロアだ。
何故なら、目の前の古めかしい石柱の神殿は、奥に階段があり、その上には明らかに魔王専用みたいな玉座がある。
それだけじゃない。
その玉座の前には、明らかに普通の強さでは無さそうな三体の異形が、じーっとこっちを見ているからだ。
最後のボスと、強力な配下達、そんな感じだ。
この寂しくも荘厳な石柱の神殿以外、この転移先は、何処までも草原が続いて広がっている。
まさしくその名前の通り、穏やかな風が吹き、無限に近い草達が一斉に踊っている。
ちなみに空には、月のような巨大な惑星が幾つもあるので、地球では勿論無い。
こんな場所で一つ安心だったのは、俺のバカなダチ達、リョクとクオリアもここに居たって事だ。
「なぁリョク、クオリア……帰ろっか?」
俺は、玉座の異形達を指差しながら二人に言う。
「そうだね。面倒臭そうだし、お宝ダンジョンって感じじゃなさそうだしね」
リョクも、やれやれと呆れた様に言って、踵をプイっと返す。
「あの三体は非常に強力です。引き返した方が良いでしょう」
クオリアも、迷いなく後ろへ向き直った。
「だよな。帰ってもっかい寝ようぜ?」
「賛成!んで明日休みだから、昼に起きて一緒にパンケーキ行こうよ」
リョクが、良い事思いついたと言う風に言った。
「ありですね。私パンケーキ大好きです。あと、靴も買いに行きたいです」
クオリアはバイトの帰り道みたいな空気で言う。
「じゃあ、靴屋もだな、俺は服が欲しい。なんかアガッて来たわ。って事で……」
俺は、魔法陣に足を踏み入れた。
だが……
反応しない――
神殿から、エコーが響く大きな声が聞こえた。
「帰れぬぞ」
恐らくそれを発したのは、三体の異形の中心にいる、機械生命みたいな奴だ。
奴等三体は、浮遊してかなり近くまで来ていた。
俺達三人は、既に構えをとっていた。
「キョウちゃんどうする?一気に片づける?」
リョクが眼帯を外そうとしている。クオリアも既に詠唱を始めている。
「待て、お前ら。ギリギリまで様子見るぞ。SNS見るに、好意的に呟いてたり、帰還してる奴もいるから、まだこいつらが敵かわかんねぇよ」
って、言っても見た目は結構敵っぽいんだけど……
一番左の奴は、見た目的には、かなりダークで禍々しい。
全身が灰色で、ボロボロの包帯を巻いている。封印の類かもしれない。
翼膜はかなり鋭く、刃のようで、頭は王冠のような角が生えている。
図体は三メートルぐらい。
真ん中のは、恐らくこの三体の中で一番強い。左と同じぐらいの体格で。
全身が煌びやかな青。
鎧と言うよりか、コイツの全身が、青い波動を固めた様な、変形可能な鉱物のような体だ。ナノボットとか極小の物質かもしれない。
肩口は錨みたいに上げていて、マントが魔圧で揺らめいてる。
右の奴は、少しクオリアに似たような魔術師の女の子で、何故こいつらと居るのか?というぐらい可愛らしい感じだ。
艶のある長い黒髪ストレートで、前髪で顔半分が隠れている。
大剣の様な重みのある杖に跨って、涼しい顔で飛行している。
もう目前にいるそいつらは、俺等を品定めするように見ている。
リョクとクオリアは最大限に警戒し、今にも殴りかかりそうだ。
真ん中の奴が喋った。
「私の名は勇者ロアノヴァ。右にいるのが、亜流鎖、左にいるのが、ルルミューズだ」
急な挨拶だ……
え、しかも勇者だって?
見えねー……ブラフかもしれねーな。
「俺はジトウ キョウ。左がリョク、右がクオリアだ」
ロアノヴァはうむ、と頷いた。
「ちょっとキョウちゃん、勇者って絶対嘘よ」
リョクが小声で耳打ちする。
「そうです!悪の集団です!」
クオリアも同じく。
お前等、左右で耳打ちすんな!
しかもちょっと失礼だぞ!
「あのさぁーロアノヴァだっけ?お前達の土地荒らす気はねーんだ、だから帰らしてくれよ?魔法陣お前のんだろ?」
明らかに奴の気配と、魔法陣の気配が一致する。
「ここは私達の土地ではないぞ?私達は"きたる時"の為に待機してるだけだ。
帰るのは構わないが、その前に確かめなければならぬ事がある」
ロアノヴァはがっしりとした体躯で地を踏み、本当に勇者であるかのような素振りで話した。
「きたる時とは?」
クオリアが聞いた。
ルルミューズと呼ばれた、魔術師の女の子が答える。
「新たな世界の顕現。既存の崩壊。限りない種族達の共存です」
……
「何の話だ?俺達に関係あるのか?」
俺はロアノヴァに聞いた。
「あるぞ。私達がお前達の世界に転移の陣を置いたのもそれが理由だ。
お前達の世界こそが、私達の見たかった世界を見せてくれる可能性がある。
女神ゾアリア、噂には聞いていたがな……本当に蘇るやもしれんとはな……」
ロアノヴァはしみじみ言う。
「あなた達は、私達の世界に何かしようとしてるの?」
リョクが少し前ににじり出た。
アルサルと呼ばれた不穏な異形も、それに反応して前に出る。
ルルミューズが答える。
「何もしません。私達は観察するだけです。数多にある世界の中であなた達の世界は、どのような結末に進むのかを知りたいだけです。私達の敵である存在も、救いたい存在も、あなた達とは全く無関係なのです」
ルルミューズはハキハキと自分の気持ちを述べるように言った。
「私達はあなたたちの観察対象ではありません。あなた方にご自分達のストーリーが本物と思い、真剣であるように、私達は今、自分達の世界のストーリーを真剣に生きています」
クオリアはルルミューズに言い返した。
俺とリョクはクオリアを見て、やるじゃねーかと笑う。ルルミューズはちょっと悔しそうだ。
「そうだな、その通りだ、良い事を言うな少女よ。しかし、そうかっかするな。
私達は成功として、お前達の世界を、ある種羨んで観察しにきているのだ。
何故、そうに至ったかを知りたくてな。お前達の世界風に言えば、ファン……なのだよ」
ロアノヴァが少し笑いながら言う。
「推しでは?」
ルルミューズが無表情でロアノヴァに言った。
……
沈黙。
……
話が見えねぇ。
とにかく、今の俺等には関係ねぇ。帰る事が最優先だ。
「なんとなく意味はわかったぜ?だが、俺達にはどうにもできねぇ話だから、
一旦帰らせて欲しい。そうだ!さっき言ってた、帰る前に確かめる事ってなんだ?それ終わったら返してくれるのか?」
俺はなるべく、敵意無くロアノヴァに言った。
ロアノヴァは答える。
「確かめたい事とは、予言を成す者達であるかだ。幾人かが、お前達と同じように、この場に入り込んだが、予言を成す者達では無かったので、我等はすぐさま元の世界へ返した。我等の思惑が正しければ、予言を成す者達はここに来て我等と出会うはずなのだ、縁に導かれてな」
「予言を成す者達って何?何の予言?私達はそんなんじゃないから元の世界に返しなさいよ」
リョクが前に出て強く言った。ちょっとイラついてきてんなー。
「予言は扉が開かれる事です。予言を成す者達は、扉を開く者では無く、開かれた新たな世界で調律を保ち、私達が憧れる世界へと変えられる者達の事です。奇跡の縁の集まりです」
ルルミューズは、ブレる事無い視線で言った。
「そうなのだ、奇跡の縁の集まり達が重要なのだ。混沌の世界が現れ、しかしその混沌の世界の数多の存在ですら、救済へ導く奇跡の者達なのだよ」
俺達三人は黙り込む。
壮大過ぎて全く無関係にも思えるが、どっかで聞いた話にも思える。
「俺達とそれがなんか関係あんのかよ?」
俺も、ややこしい話が面倒臭くなり、三体の異形を睨みながら言った。
「うむ、あるやもしれぬ。確かめるに値する気配がするのだ……」
そう言って、三体の異形は踵を返した。
「おい!ちょっと待て!俺達を元の世界に返せ!」
三体の異形は、ピタッと止まり、ロアノヴァが言った。
「返すさ、答えを見てからな。期待してるぞ」
その時だった――
ルルミューズが大剣の杖を構え、草原に向かって呪文を唱えだした。
大きな黒い魔法陣が、円の層になって出現する。
その中から、神殿程に大きい異形がぬべーっと這い出て来た。まさに怪物クラスだ。
それは、クジラのような見た目の六足歩行の怪物だ。
背中から触覚みたいな糸が無数に出ており、金色の麦畑のようだ。
そいつは、巨大な真紅の鎖に拘束され、瞳を閉じている。
今度は、その得体の知れないクジラ型の異形の元に、アルサルと呼ばれた異形が、ほぼ瞬間移動の速度で飛んで行き、強引に真紅の鎖を引っ張り出した。
おおよそ切れるはずの無い、封印の魔術が施されたようなその鎖を、アルサルは両腕を開くようにして、極限な力で引き裂こうとする。
物凄く野蛮な奴に見える。
少し時間はかかったが、結局、その破滅的な引き裂きで、アルサルは鎖を力の熱で溶かすように裂き切った。
正直、ありえねー光景だった。あれは物理でどうにかなるもんじゃねーはずだ。
自由を得たクジラ型の異形は、大地を割ってしまうんでは無いかと言うぐらいに、弩級のエネルギーで、地面を叩きだした。
そして、ロアノヴァはその異形に向かって、片腕から非常に明るい光線を放出した。
攻撃と言う感じの光では無かった。手術のような感じだ。
次の瞬間、クジラ型の異形の筋肉や皮膚は、とても若返ったようにみなぎり、地面を叩くエネルギーは、巨大隕石でも落ちたかのように別格になり、自分がこの草原の王であると言わんばかりに、風の神殿が潰れる程の咆哮を上げた。
それと、同時にロアノヴァ達は、一瞬の内に光となって何処かへ転移した……
「マジかあいつら!?」
俺は二人を見て言った。
「訳分かんない事言って、怪獣おいてどっか行っただけじゃないの!!!」
リョクは地面をバンバンと踏み、怒り出した。
リョク……あの異形に影響されたのか?
「恐らく、あの怪物を倒さないと元の世界には返してくれないのでしょうね、
私の転移魔法では帰還出来ませんし……」
クオリアが顔をしかめながら言う。
「クオリア転移魔法使えるのか?」
俺は予想外な発言に突っ込んだ。
「ええ。私が知ってる世界同士で個人単位であれば可能です。ちなみに同じ世界内で移動のみに使用するのは勿論出来ません。意味が違うので」
「そうか……」
やっぱ、あのデカブツ倒すしかねーか。
俺達三人は草原に降り、クジラ型の異形から距離をとるようにして、三人で奴を囲んだ。
クオリアは、盛大に杖を掲げ、何やら原色がドロドロと渦巻く属性の魔法を唱えている。
リョクは、既に眼帯を外して立ち尽くしていた。
リョクの足元には、なみなみと暗黒物質が満ち溢れ、草原を自分の配下にでもするように飲み込んでいる。
じゃあ、俺もやりますか。
今日はどれで行くかね……と。
あれは海洋系の異形かもなぁ……
じゃあれだ。
俺は、左右に十字の刃がある巨大な槍を空間から出現させた。刃は白く燃えながらギラギラと輝いている。
俺の慈十家の能力は武器顕現に特化している。
この武器は代々受け継がれてきた物の一つだ
海の未知災の魔物を専門に討伐していた、遥か昔の神格の異形霊媒師の武器らしい。
さーて……どうするか。
いきなりだった――
クジラ型の異形は、器用に六足を使い、あろうことかあの巨体を一回転させ、
リョクの方へ背中からダイブしたのだ。
まるで、都会の中心のビルが一回転したみたいだった。
「リョク!!!!!」
地面がグラグラと揺れ、激しい爆音が耳をつんざく。
砂煙で一帯が覆われた。
俺とクオリアは、すぐさまリョクを目で追いかける。
「やっほー」
リョクはさっきいた場所と反対側で、トルコ石のような色の滑らかな肌をした、俺等の倍の背丈ほどのエイリアンに抱き抱えられていた。
前にも見たぜあのエイリアン。確かリョクの召喚だ。
「びびったぜ、前のやつか?」
「うん、ギャノウェよ。ありがとうギャノウェ」
リョクはそう言って、エイリアンの懐から降りる。
そして、クオリアが叫んだ。
「アンカーニフィーユ!!!!!」
クオリアの杖の先端から、至極眩しい光が放出され、それは螺旋を描くようにして、クジラ型の異形一直線へと向かう。
とても粘着質な危うい炎だ。
その炎は、余すことなくクジラ型の異形の体に蛇のように絡みつき、さらに眩く燃焼し出した。
クジラ型の異形は激怒する様に元の体勢に立ち返り、白い炎を纏ったまま、
草原全体を揺らす特大咆哮を上げ、クオリアに突進する。
「させるかよ」
俺は創作魔術で、クジラ型の異形とクオリアの間に、幾重にも重なるネオン色のガラスを出現させた。
クジラ型の異形は、それらをガシャガシャと割り、物凄い音させながら、クオリアに猪突猛進する。
しかし……
それらのネオン色のガラスは全て、クジラ型の異形を追尾し、まとめて一斉に刺さり始めた。
膨大な量が刺さり、毒が蓄積されたように動きが鈍くなるクジラ型の異形。
ただのガラスじゃねーよそれ。
「よし、もういっちょ」
俺は奴の周囲に、再度膨大なネオンガラスを出現させる。
今度は囲むように渦巻き状に。
そして――
「おらよっっっ!!!」
俺は、秘武器の槍を思いっきり放り投げた。
槍は、ジェット機のように異形を追跡し、周辺にある渦巻き状のガラスを全て壊した挙句、クジラ型の異形の背中に突き刺さり、巨大な幾何学模様の閃光を発して、中へのめり込んでいった。
クジラ型の異形は、天を仰ぎ大咆哮する。
さらに追い打ちをかけるように、ネオンガラス達が先程の倍の量で、異形の全身に砂鉄のように素早く集結した。
もはやガラス玉だ。
リョクとクオリアが顔お見合わせている。
決める気だな。
「ジムルート」
恐らくリョクはそう呟いた。口だけでわかる。
今回は、他に化け物は召喚しねーんだな。
まぁこのレベルならそうか。
リョクの手から紫電に輝く糸が現れ、それは虚空に何処までも伸びた。
リョクはその糸を手放しで操り、ガラス玉のようになった異形を、あらゆる方向から編むように縛り付ける。
それを見て、チャンスと思ったクオリアが叫ぶ。
「ラルム・ド・グラス!!!!!」
クジラ型の異形の上空に、天の涙のように巨大な一滴の水滴が出現し、そのまま奴の元へ落ちていく。
クジラ型の異形は、膨大な量の水に包まれ、水中にいるかのような状態になった。
次の瞬間――
それは、絶対零度のように凄まじい冷気を放ち出し、異形を閉じ込めたまま、巨大な氷へと瞬時に変化した。
……
……終わったな。
そして――
俺達が最初にいた場所から、強い緑色の光が空に伸び出した。
恐らく、転移の魔法陣が起動したのだ。
これで帰れる。
「二人共お疲れ!帰れるみたいだぜ!」
俺は魔法陣を指差し、二人に笑顔で手を振る。
「マジ疲れたー、クオリアちゃん帰ったらシャワー貸して?」
リョクは、クタクタな顔だ。それもそうだ、バイトと連チャンだからな。
「はい!どうぞ好きなだけ使って下さい。やはりお二人共、本当にお強いですね!私感動しました」
クオリアはまだ少し興奮してるみたいだ。
「お前もすごかったぜ。最後の氷とか、芸術点満点だったよ」
お世辞じゃ無く、コイツは才能あるぜ。
「うん、マジでよかったねあれ。キョウちゃん、私のギャノウェは?」
あのエイリアンか、てかいつのまにか消えてるし。
「んーーー、独創性満点!!」
「イェーイ、今度紹介したげる」
「いや、いいわ」
「私に紹介して下さい、さっきのエイリアンさん」
クオリアは目を輝かせている。
「いいよー、物好きだねークオリアちゃん」
そんなこんなで、俺等は転移魔法陣の前まで行き、クオリア、リョクと順々に飛び込んだ。
そして――
俺は、最後に風の神殿に振り返った。
やっぱな。
三体の異形は、神殿の玉座からこっちを見ていた。
俺は叫んだ。
「満足したかっ!!?」
ロアノヴァは俺に向かって指を差した。
両脇の二人は軽く拍手している。
ふー……何だったんだあいつら。
俺は溜息をつき、魔法陣に飛び込んだ。
その後――
俺ら三人は、疲れた足でタラタラと深夜の電気街を歩き、クオリアの家に到着した。
シャワーの順番で俺とリョクが少し言い争ったり、もっかいカップ麺を食べたり、ごちゃごちゃどうでもいい話をしている内に、いつの間にか仲良く揃って、みんなで眠りこけた。
寝る直前、明日何時ぐらいに遊びに行く?とか、お昼何食べる?とか他愛無い話をして、みんなでクタクタな顔で笑い合った。
きっと明日は、また元気な顔になり、クタクタな顔になるまで三人で遊び惚けるのだろう。




