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ノウコ・スプラッシュ



「ノウコスプラッシュ!!!」

私の親愛なるお嬢様、ミコト様が、腕をクロスさせ私の背中に突撃してきました。


「ダメですよミコト様。お熱なのですから、ゆっくり寝ていて下さい」

ベッドの中で顔を赤くし、額には冷感シートを張り、ゲホゲホと咳き込むミコト様。


「でもね、ノウコ。私、あなたの必殺考えたから、今やらなきゃって思ったの」

まだ、高校生になりたての、一風変わったこの可愛らしい女の子は、私にとっての全てなのです。


「ありがとう御座います。ミコト様はお優しいですね。その必殺、ありがたく使わせて頂きます」

私がそう言うと、嬉しそうに灰桜色の瞳を輝かせて笑いました。


「でも……寝てれないの。今、花岡家に緊急の異形討伐依頼が入ってるみたいで、応接間にどっかの企業の偉い人が来てるんだって……私、早く……行かなきゃ……ゲホゲホ」

おいたわしい。出来るなら変わってあげたいです。

この花岡家は、日本有数の霊媒の名家で、その当主がミコト様なのです。

政府や大企業の人間が、自分達で対処できなくなった超常の出来事の大半を、こんな小さな女の子に任せています。

私は、月原ノウコ、花岡家当主 花岡 命様の女執事です。

自分で言うのもなんですが、そこそこスタイルの良い美人で、アニメやBLが大好きな明朗快活な22~26歳の間の女性です。詮索は無しです。

あと、刀が好きです。


「ミコト様、最悪断れば良いのです。どうしても無理なら私が行って参ります。

ですので、今はゆっくりお休み下さい」

私は、ミコト様のベッドに転がる、ヘビやゾウやサメのぬいぐるみを、顔の近くに寄せて並べました。


「ありがと」

高い熱で、私にこれ以上何かを返す気力も無いミコト様は、ぬいぐるみ達と共に眠りました。

素敵な夢を見て下さいね。


ミコト様は、人知に及ばない雰囲気を見せる時もあれば、このようにとても子供らしい素顔を見せたりもします。

私はそのどちらも大好きなのです。





応接間――


私は、皺ひとつ無いスーツの上に背中までの黒髪をたなびかせて、無駄の無い動作で着席しました。


応接間のソファーには、気難しそうな年配の社長と、気の弱そうな中年の部下が座っています。


「遅い!誰を待たしとると思っとるんじゃ」

年配の社長が言いました。めんどくさい人ですね。


「申し訳御座いません」


「謝ればいいと思っとるからのー最近の若い奴等は。プライドだけはデカい癖にのう小賢しい。お主は胸もデカいがの。ガハハハ」

下衆が。この下衆が。


「お上手ですね」

私の殺気のある目に気づいた部下が、社長に耳打ちをしています。

注意でもしているのでしょう。


「お前は何様じゃ!!!」

年配の社長は、恐らく注意をした、勇気ある部下の頭を分厚い手で、容赦無くはたきました。

部下はしきりに謝っています。


ミコト様がこんな穢れた場にいなくて良かったと心底思います。


私は、社長の叱責を止める様に、切り出ししました。

「今回はどのようなご依頼で?」


部下が、助け舟に乗ったように言い出しました。

「今回の依頼なのですが……」


「まてぃ……」

年配の社長が会話に割り込みました。お前は黙ってろよ。


「この儂に当主を出さんとは良い度胸やな?腕の立つちっこい娘がおるってきいとるで?そいつを、はよだせい」

私、月原ノウコは大概の事では怒りません。しかし例外があります。

この下衆は、そこに少し踏み入れています。


「申し訳ございませんが、現在当主は病により休んでおられますので、依頼の方は私が代役を務めさせていただきます」

断ってもよかったが、あそこまで責任感を持って依頼を受けようとしていた、ミコト様のお気持ちを考えると、適当な事はできません。


「何を甘えとる!!!これは仕事じゃ!!!ちんまい娘やからと言って儂は容赦せんぞ!!?第一、当主でもないお前みたいな雑魚になんか用あるか!!!儂の横で、踊っとれボケナス!!!さっさと当主の場所教えんかい!!!儂が叩き起こしちゃる!!!」



ギリオド――


次の瞬間、秒間数百発の刀の斬撃を目の前のテーブルは浴びる事になりました。


粉々です。


誰のせいでしょうか?


下衆のせいです。刻んだの私ですが。


深淵の調伏師を憑依させた私が愛刀で刻みました。


どんな風に?ですか。


数秒前、静かで底知れぬ怪しさを背負った魔界の風が、イカレテ、シューシューと鳴いてるように刻みました。


意味不明ですよね。でもそんな感じです。


見た目ですか?


そうですね……大理石のテーブルが、バターのようにあっさりと賽の目になって無数に飛び交っていましたね。


私と下衆を隔ててくれていた、巨大な大理石のテーブルは、私の刀、怪乱桜によって、見るも無残に超難易度のブロック玩具へと変形しました。


「なにもんじゃおま……」


私は、一つのブロックを怪乱桜で突き刺して、目の前の不愉快な男に突きつけました。


「黙れ、下衆めが。我が主人を愚弄した罪、闇の底で骨の中心から感じて貰うぞ」


「ちょちょちょっとまちーな。冗談やがな!全部冗談!あんた本間強いな!

誤解しとった、ごめんごめん!あんたでも全然いいわ!って事で、後は部下に

聞いてや!儂は用事あるから、先に帰らして貰うわ!お前ちゃんと、このお姉ちゃんに依頼伝えとけよ!ほな、行かせて貰います!」


調子の良い奴……


そう言って、不愉快な男は視界から消えてくれました。


私は、目の前の部下を見ました。

失禁して、気絶してます。


男ってホント弱いですね。二次元以外ですが。


この男が起きたら依頼内容を聞きましょう。




えーとぉ……


このテーブル……確か8桁するやつでした……


ガーンです。実家の奴を持ってきます。


実は私は、ミコト様の執事になる前、財閥のお嬢様だったのです。びっくりしましたか?


そして……怒りは何も生みません。肝に銘じます。


でも、すやすや眠るミコト様の寝顔を守れたので万事OKです。

後で、こっそりお写真撮らせて頂こっと。

ホーム画面確定です。




私はその後、目が覚めた少し臭い男から依頼の内容を聞き、依頼場所である、

大企業が運営する巨大プールに、車で移動し到着しました。


もう時刻は夜です。

閉館まで、後一時間ほど。

後一時間は、車のアンダーボックスに入れてる、読みかけのBLでも呼んで、

行きしに買った、チキンナゲットでも食べて暇を潰しましょう。

私はマスタード派ですが、ミコト様は、何もつけずにムシャムシャ食べる派です。

恐竜になった気持ちになるらしく美味しいらしいです。

全く……

世界一可愛いです。ミコト様LOVE!!!



閉館後――


機密情報の為と言って、カメラは全て止めて貰ってます。

運営社員、監視員、警備員全く誰もいません。

一人だけのナイトプールです。

暴れ放題です。

ヒャッハーです。



私は、上下白いビキニに着替え、二本の秘刀、怪しく光る怪乱桜と、三日月そのもののような伝記の秘刀、暗夜白冥を持ち、颯爽とプールへ向かいました。

ビキニである意味はありませんが、私だって女の子なので、偶には可愛くしたいです。

私は、アンドロイドみたいに長い四肢を豪快に振り、白磁の滑らかな肌を自分だけに見せ付け、真っ黒な長髪を振り乱して、プールサイドを走ります。


完全に遊び気分です。


今回の依頼は、変形するスライムだそうです、ワニやサメなど水性の生物に変化するらしいです……

悔みます。

ミコト様が一番好きなタイプの依頼じゃないですか。

恐らく、ミコト様がいたなら、きっと捕獲して屋敷の庭の池で飼うと言い出していたでしょうね。

あそこの池はそれを繰り返して、おぞましい事になっています。


さて、もはや見えてますね。

プールの中央から、プールサイドに向かって、太古のバージョンのワニやカニ、アンモナイトなどがわんさかやって来てます。


私の女の子の魅力に引き付けられましたかね?

なんてね。

年齢的にきついですか?

うるさいです。


さて、準備体操。

おいっちに、いっちにと。


ちょっと下がって広い足場を確保。

全部の個体が、太古のバージョンっぽいので割かし大きいですね。

三メートル級がゴロゴロいます。


おぉっ速い速い。いきなり食いかかってきました。


でも避けれます。

私は結構運動神経が良くて、バレエでも子供の頃、世界チャンピオンになりました、すぐ辞めましたけど。


さて、じゃあとりあえず、

憑依無しで片づけましょう。

少し筋肉質を気にしてる太もも当たりにぶら下げてる、二本の刀を抜刀……

なんかビキニと刀は変態チックですね。

いやーんです。

こういうのは、二次元だけにしましょう。


抜刀――


もとい、ノウコスプラッシュ!!!



薄緑の様々な形態のスライムは、私の巻き起こした、小さな建屋なら根こそぎ吹き飛びそうな、極限のかまいたちに霧散しました。


一瞬です。


私の身体能力?この二本の秘刀?


えぇ、それもあります。それぞれ個別のそれだけで、脆弱な部類の種族の魔王なら勝てます。強力なら足元にも及びません、いえ、爪先にですら……


まぁそれはいいとして。

すごいのはノウコ・スプラッシュです。

ミコト様ヤバ過ぎます。この技、どこで考えたのですか?

こんな愛らしく強い技を。

夢の中で、不思議な国でも旅されていたのですか?


あ、再生しましたね。


おおぉぉ、いいの選びましたね。


ネッシー。


それも、プールの水ほとんど吸って、超でかくなってるじゃないですか。

ほぼ、底なしの世界の門番、ドラゴンゾンビみたいです。

プールほぼ全部、あなたで埋まってるじゃないですか。

そんな見つめられても、興味ありませんよ?

ミコト様と二次元のショタ以外、興味ありません。


あぁ、一発勝負ですか。そうですよね。


じゃあ、私も居合でいきます。



ギリオド――


憑依しました。世界が全然違うように見えます。体の細胞全てが万能感に歓喜してます。


そして奴も来ました。一瞬で決める気ですね。口がデカいこと。


コンマ一秒狂うと私の体は、あの巨大な口の中で、あの世行きですね。


しかし……


極光千閃・ノウコスプラッシュ!!!!!!!!!


私にはこれがあります。


もうあなたは遙後ろです。ちょっと遅すぎますよ?


私の背後で、水分が爆塵して蒸発する音がしました。


依頼終了です。


……


私、ちょっと太ったかな……?





屋敷、ミコト様のベット前――


「ミコト様、お体は大丈夫ですか?スライム……間違えました、ゼリー買ってきましたよ」


「ありがとノウコ」

少しマシになったみたいです。本当に安心しました。


「ノウコ、どんな依頼だった……」

ミコト様は、少しおぼろげな感じです。さっきまで寝ていたのでしょう。


「えぇそうですね、スライムがサメ……」

言いづらいな……


「え!?」

一瞬、ミコト様が絶望みたいな顔しました。


「いや、クサいゴミが街中でダンスしてたので、はいておきました。ボランティアみたいなものでしたよ」

なんですかこの嘘。苦し紛れ過ぎます。


「そっか、よかったわ」

よし、誤魔化せました!


「で、どんなダンス?」



「ブ、ブレイクダンスです」


「えええ!!!見たかった!!!」


ドツボにハマってます。


「あ、そうだ。ノウコ、言い忘れてた」


「はい?」


「ノウコスプラッシュなんだけど、あれね、ノウコの私に対する愛で威力が変わるのよ」

ミコト様は、心底楽しそうに手をクロスさせて、私の肩を叩いてます。


「えぇ、知ってますよ。目の前で見ましたから……」


「ん?」


ふふっ



私、結構意外な人でした?

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