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女神ゾアリア・レ―ドの記憶 愛を開く



私とリリスの最後の別れは、あっけなかった。




最後に抱きしめる事さえ許されなかった。




手に触れる事でさえ許されなかった。




私に、生きる事をこんなにも楽しく、奇跡で満ち溢れていると思わせてくれた、


その感謝を伝える事さえできなった。




リリスは最後、私に手を伸ばした。




万劫の星棺に入れられ、決して私になんて届かないはずなのに、音すらも届けられないはずなのに、ただただ、何度も何度も、手を伸ばしていた。


まるで、私と生きた日々の想い出たちに、いかないでくれ……と、懇願する様に。




最後の最後、リリスは何かを言っていた。




唇だけでは上手く分からなかったのだけれど。




恐らくは、こうだ。




(またあおう)




もしくは




(ありがとう)




だった……






-----------------------------






私(ゾアリア・レ―ド)は、戦火のパンクライヴ郷で、空に襲来する異界の艦隊を睨みながら、何故こうなったかを思い出していた――





全ては、欲で頭がおかしくなった異界の元老院共の仕業だ。


リリスを、この世界から追い出し、尚且つ万劫の星棺という兵器を手に入れ、このパンクライヴ郷でさえ、完全に自分達の物にしたかったのだ。


私は、生命に備わる底知れない身勝手な欲を恨んだ。




下品な声の呪詛師が、各異界の将軍級の異形を引き連れて私を街中で囲んだ。


呪詛師は、恍惚に浸りながら、自己の両指を全て切り落とし、その代償で、私に禁呪の魔術をかけてきた。


それでも私は、ゆうに奴等を一掃出来たのだけれど、タチの悪い呪詛師と連中で、呪詛師はトカゲのように指を何度も生やし、重複する呪いを私にかけ続けた、その上、将軍級の異形は、街の民や、子供すら人質にとり、私を捕らえようとしてきた。


私のみなら難なく逃げられただろうが、怖がる街の人達の顔に、胸が痛んだのと、この連中が、今後何をするか分からなかったので、探る意味をこめて、私は仕方なく連行された。




これが、安易だった。




それを知った、リリスは尋常じゃない怒りに支配され、異形の元老院が住む城を、次々と念動で、都から根こそぎ引き抜き、グシャグシャに潰しては、荒野や砂漠に放り投げた。


神の怒りに触れたとは、あの光景のことだろう。




だが、例の呪詛師は、私の横で「これはいい!」と笑い、その膨大なエネルギーに目が眩んでいた。




呪詛師は、万劫の星棺が収められている施設にリリスを呼び出し、交渉を持ちかけた。


リリスは即座に、やつを手にかけようとしたが、自己の命を代償として、私の命を奪う術をかけていると脅し、リリスの無力化に成功した。




リリスは、私には手を出さないでくれと、腐った元老院共の交渉に応じた。




交渉は、リリスが万劫の星棺に乗り、長い時の間、無数の世界の均衡を保つ事だった。


耳に言い言葉を並べているだけだと思ったが、もしかするとやつらは本当に何を犠牲にしても達成したい歪んだ正義があったのかもしれない。


それが、正義か?と考えれば、私は違うと思うのだけれど。




パンクライヴ郷の中枢を担う、超知能機械生命のアーテマでさえ、万劫の星棺の乗り手として動力が足りず、役不足だったのだけれど、リリスは、類稀なる神族の末裔であり、その中でもさらに特殊な才を持ち、文明の叡智を取り入れたデザイナーズベイビーでもあったので、その役を担う事が出来ると判断されていたのだろう。


完成形に近い不老不死を持っていたのが、リリスしかいないと言う点も重要な要素だったかもしれない。


思えばこの計画は、初めからリリスを乗せる前提として進められていたと考えるのが妥当だ。そう考えれば色々な事に辻褄が合う。




結果、私の命を救う事と、広大な世界の王としての責務を果たす事を考えたリリスは、反抗すること無く、万劫の星棺に乗った。




それは即ち、私との永遠の別れを意味した。


次元を超えたエネルギーを必要とする万劫の星棺に、生体組織毎、ドッキングされてしまえば、自分の意思ではほぼ動けないだろう。


いくらリリスと言えど、エネルギーはいつか尽きてしまい、消耗し自分を忘れてしまうだろう。





だから私は思う。


そんな事を、私より理解してる癖に、(またあおう)なんて言うんだから。


私は……


わたしは……


どうにも出来ない程に、あなたを待ってしまうじゃないの。


期待しちゃうじゃないの。


涙が止まらないじゃないの。


ダーリン……


お願い、もう一度……


もう一度……


お願い……






------------------------------------






気づけば、涙で空が滲んでいた――




ダメ。今はやるべきことがある。


異界の元老院共は、リリスが空に行った瞬間、パンクライヴ郷を数多の艦隊で襲撃し、乗っ取ろうとしてきたのだ。


さっきまで、人質だった私には全く目もくれず。


リリスが身を粉にして守ってきた、この世界の民が、私の目の前で危機に瀕している。


リリスが嫌いな欲深い奴等によって、散々苦しめられている。


私は、どうしてもそれを阻止しなければ行けない。


リリスが、砂漠にある砂粒一粒程の奇跡を起こし、もう一度私と巡り会った時に、


胸を張れるように。


この戦いだけは、負けられない。




私の血は、ここで朽ちてもいい。




全てを守る為に、全ての力が欲しい。




いつか、リリスに会いに行くための翼が欲しい。




この、心の奥底から湧き上がる、命の素晴らしさを賛美する気持ちを、共に分かち合えるような禁断の魔術が欲しい。




私が今まで契約してきた、惑星ホシを作れる程の数限りない召喚達で空を覆い尽くして。




女神と魔女よ、私にあなた達の血が流れているというなら、それを証明して欲しい。




全部叶えてくれたら私は……いつか……




愛と言うモノを、この世界に開いて見せるわ。




きっと、あなた達が見たかったモノのはずよ?




だって……血が巡る、私の鼓動が、こんなにも跳ねているもの。






その瞬間――





私、ゾアリア・レ―ドは"愛の女神"として、生まれ変わった。




新たなこの生は、きっとすぐ尽きるだろうが。




全ての願いが叶った代償として……





------------------------------------------------------





私は、始まりの王の城の最上に立ち、黄金に輝くパンクライヴ郷を眺めている。




今や、黄金だけでは無い。




無数の異界の艦隊。乱雑に発射される光線、暴れ狂う魔術、火の海。


深い欲から生まれた、醜い兵器と術。




空を覆う、果ての世界から来た巨大な異形達、別の次元の神格達、銀河より先に住まう神秘の獣達。それらは、属性を超えた魔術の波で浅はかな艦隊を滅ぼしていく。




全てが、争っている……




それを見る私は体が軽い。生まれ変わり呪いが全て解けたのだ。




でも、背中が裂けたように痛い。ローブが真っ赤だ。




私の血で染まった、真紅の大きな翼膜が生えている。




「これは……いいわね」




私は、その場を飛び立った。




空を舞う私と同盟の異形達は、パンクライヴ郷を、一瞬で新たな世界に染め上げる。




無数の非力な艦隊は、異形に飲み込まれ、かみ砕かれ、燃やし尽くされ、握りつぶされ、別の世界へと転移され、すり潰された。




火の海に揺れる、一凛の花すら、艦隊の敵と言いたげだった。




圧倒的な勢いに成す術もなく、逃げ帰ろうとするが、一つとしてそれは叶わず、


初めて真の恐れを知って散った。




いつの間にか、パンクライヴ郷に住まう全ての民が、私の方に跪いていた。


元老院も孤児も異形もすべて。誰一人、例外などなく公平に頭を下げていた。




私は、都市中央の上空で、全ての民の記憶に残る様に、血に染まった翼膜を広げた。




これで、全てが終わった。




最後に私は、地ではなく空を見た。




そんなとこにあるはずのない場所に、黄金の星が一つ。




ほろりと涙が落ちた。




「また会いましょ?ダーリン」



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