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始まりの王 リリス・パンクライヴ 記憶の断片



これほどまでに、満たされた暗闇があるか?


私と、ゾアの頭上には、億を超える砂金を散りばめたような、明るい闇夜が広がっている。


そこから視線を落とせば、終わりが無いように果てまで続く砂浜。


私の素足に触れる、冷たい海の水の感覚は、目の前にいる最愛のゾアリア・レ―ドとの、この時を紛れもない真実だと認識させてくれる。


無量の時があろうとも、数多の世界があろうとも、私達はここに確かにいたんだ……




ゾアは、無限に響き合う空の輝きが反射した海を背に、私に微笑んでいる。


彼女が着るローブも、彼女の瞳も、散りばめられた光が泳いでいる。


「ねぇリリスー!そんな顔して、浸っちゃってどうしたのー!?こんな綺麗な景色で笑えないと、何処へ行っても笑えないわよー!キャハハ冷たーい」


くるくる水辺を踊りながら、バシャバシャと騒ぐゾアは、精霊達ですら敵わない、

無邪気さに満ちている。


「笑ってるさ。ただ顔に上手く出せないだけだよ。君を前にして私の心が笑わない訳がないでしょ?」


あらゆる異界を統べる、広大な世界の王になってから、どうも私は感情を素直に出す事が出来なくなった。


「まぁ!お上手な王様!」


気分が良くなったのかゾアは魔術を唱えだす。

なんとなく、浜辺全体の波の動きが変わる。ゾアの魔圧で周辺の海水が、虹のビードロのようになる。


彼女の悪い癖だ、楽しみたいだけで、色んな世界からヘンテコな存在を召喚する。


「ワンツーのスリー」


大賢者や、星の裏に住む魔術師ですら理解出来無いような魔術を、長々、唱えていたくせに、最後はどこの世界の言葉かよく分からない、変な言葉で締めちゃうがちょっとおかしい。


「ゾア、その言葉は一体なんなのさ?」


「ひ・み・ちゅ!」


私とゾアの前には、木製で出来た古めかしい大きな扉が出現し、それが、眩い光と

空間を捻じる様な音と共に開いた。


「みーんな、久しぶりー。うふふっ」


「うわぁ」


中から、人形や、布などで、つぎはぎになった、ぬいぐるみのような小動物達が沢山、列をなして出てくる。

恐らくは、この前二人で行った、十字の月の世界に住む者達だろう……

ゾアは、すぐ誰とでも友達になるんだから。

もうちょっと、その少しを私に注いで欲しい……なんては言えない。


「変な召喚も程々にね?」

私は、やれやれと手を上げる。


「変じゃないよねー?可愛いもんねー?」

ゾアは召喚達を順番に撫でてあげている。

十字の月の住人達は、キュピキュピと、可愛いだけに特化した言語を発し、ゾアに群がっている。


「ちょっとみんなくすぐったい!うふふ。じゃあ次は、茨の世界の眠り花姫を出すわ!おっとりしてるけど、ホント可愛いのよ!見ててねリリス!」


ゾアは、ワクワクした様に、ピョンピョン跳ねだす。

あー踏んでる踏んでる。さっき可愛いって言ってた子達踏んでる。


私は、ゾアのむちゃぶりに合う召喚達がいたたまれなくなったので、

両手でバチンと指を鳴らし、強制解除の呪文を行った。

解除する魔術のランクが高く無い時だけの裏技だ。

ボロ人形の様な召喚達はバイバーイと私達に手を振り消えてった。


「ではでは、次は、さいっこうにカワイイお姫様のお出ましお出ましー……」

ゾアは、魔術師の老婆の声真似をし、再度呪文を唱えだす。

あぁやばい。星が幾つか揺れている。


「ゾア待った!!前もそれ言ってたよ、あげく出てきたのは、世界樹に100年絡みついていた、巨蛇竜だったじゃないか。こんな時間から、前みたいな大騒ぎは、私イヤだよ?」


ゾアは、好奇心が過去の想い出に移ったように、ピタッと呪文を止めた。


「ふふふっ。あれすごい笑えたわね。結局、近くの村の、紫の魔の種族の人達全員に手伝って貰って、調伏したんだよね。最後にはみんなで、宴なんか開いちゃって……ホンットすごく楽しかったわ。あの蛇ちゃん?久々に会ってみる?」


「いーいーいー。てかゾア、何体、契約してるの?」


私は、ダメダメと息が切れるぐらいに手を振りる。


「私の星が一個作れるくらい!!!いつかみんなと、リリスと私で暮らすのが夢なんだ!!!」


ゾアは星夜に瞳を輝かせ、神のような夢を語る。

そんな彼女はとても綺麗で、私は気づけば、時が止まる呪文をかけられたように固まっていた。


「ん……どしたの?リリス」


「いや、おかしな夢だなって。はは」

誤魔化す私。


「むーっ!正直じゃないの可愛くないよ!」

頬をぷくーっと膨らますゾア。


「正直って?」

とぼける私。


「分かってるでしょ?次嘘ついたら、蛇ちゃん出すから」

手をパクパクとするゾア。


「あーもうっ!かわいいなっ……て思っただけ、ゾアが」


「ふーん、それだけ?もっと思ったんじゃない?例えば――」


ゾアは、私を抱き締めて、ぐっと顔を近づけた。


「こんな感じにしちゃったりして、キスとかもしたかったり?」


「あ……ちょ……まぁ……ちょっと……そんな……感じ……」

頬を染めて、熱い吐息を吐くゾア。


「素直でよろしい。では」


ゾアは、私の頬にスッと優しくキスをし、赤黒い瞳で見つめてこう言った。


「魔女と女神の血を引く、ゾアリア・レ―ドの名に誓って言うわ。私は私の夢を絶対に叶える。みんながおかしいって言っても、気になんてしない。私は出来るって信じてるもの。だから……だから!リリスだけは、私の夢をおかしいなんて笑わないで!?」


彼女の無垢白の髪が、星の瞬きに透けてる。


「……うん。……ごめん、一緒に叶えよ?」

ゾアの幸せが私の幸せだ。ゾアの夢が私の夢だ。


「リリスだーいすき!!!」

ゾアは私をギュっと強く抱き締めた。優しい匂いがする。

こんなにも愛おしいなんて。


生まれて来て、幸せだ……


私達は、そのまま砂浜に寝転がる。


私は、ゾアの前髪を撫でる。


ゾアは、くすぐったいと言う様に、私の懐に潜り込む。


そして、甘えるような小さな声で、私の心臓辺りを撫でて言った。


「あのね、もし私達に子供がいたとして、その子達が大喧嘩したらどうする?」

ははは、変な質問だな。


「そりゃ止めるよ」

うん、世界は広いのにわざわざ兄妹で揉める必要は無いんだから。


ゾアは、そうだねとクスクス笑って、私の顔を見ている。


「なんで、そんな事聞くの?」

やっぱり子供欲しいのかな?私達なら二人で血を分け合う特殊召喚で、出来ない事もないだろうけど……


「ううん、理由はないの。ただ、あの海のもっと向こう、もっと先の未来に、そんな世界がある気が、ちょっとしただけ……」

ゾアは地平線を指差す。


「あるかもね……でも……」


私は、ゾアの差す指を掴む。私の心臓に戻す。


「今は私を見てくれたら、嬉しいかな」


私は言葉に愛を乗せて続ける。


「未来は未来に任せよう。私は今ゾアといたいんだ」


ゾアは、咎の無い瞳を揺らし、私だけを捉えて言った。


「ワガママなダーリン」

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