エレクトロニックシティ、いやいや電気街って言えよ
おおよそ、社会から浮いてる俺等五人組は、とあるメイド喫茶の店内で土下座していた。
「こんなエレクトロニックシティで、細けぇ事言うなよ相棒」
俺は、年下の女に土下座させらつつも、尚残った最後のプライドでサイバーパンク感を出した。おぉー!と言ってるのは、俺のバカな仲間だけだ。
「いやいや、電気街って言えよ。お前等さー、散々調子こいて遊んで、金無いってどう言う事なの?」
目の前の結構カワイイ女、異形霊媒師の幽明 灯は、俺等ダメダメ人間達を睨みつけてそう言った。
「すまねぇ幽明!マジで許してくれ!こいつらが金あるって言うから、ノッただけなんだよ」
俺、ドミノ・アースは、他の四人をビシッと指差し、自分だけに慈悲を求めた。
間違いなくこいつらが悪い。
「ドミノさーん!それは無いですよ!あなたが、私達を誘ったんでしょ、今日は俺に任せろって?私は最初から、お金無いのにこんな所で遊ぶのは良くないなぁーって思ってたんですよ」
頭がブラウン管テレビで、体がコードだらけの異形、ムービィが言う。
「おいおい、其方ら、誇り高き同盟を忘れたでござるか?其方等みたいな、裏切り者とは、拙者は金輪際関わりたくは無いでござる。では拙者はこれにて……」
小太り眼鏡で少し汗臭いが、やけに凛々しい顔の健司隊長が言う。
「待てよ、健司さん。あんたが、ドミノにくっついてったら、ワンちゃんタダ飯あるかもって俺を誘ったんしょ?一番闇深いのマジであんただわ。俺は、あん時せっかくリラックスしてネカフェで調べ物してたのによー。って事で、こいつらに払わせちゃって!俺悪くねーから」
茶髪でサンダルの何にもやる気のなさそうなニートのスガモが、あぁ、めんどくせぇーと言う風に言った。
「いやいやいやいや、待って下さいよ!スガモさん。どうせまた呪いについて、調べてたんでしょ?それに比べ、ボクはまだ高校生ですよ。まぁ……学校行ってないですけど。皆さんが悪いとは思いませんが、一応……やっぱりね、未成年ですし。そろそろ帰らないと。はは」
顔だけは女みたいな、チビのチヒロが言う。
「うっせーな、俺の自由だろ?俺だってやらなきゃなんねー事あんの」
スガモは呪いの話になると、いっつもなんか隠してる気がすんだよな。
前も酔っぱらって、死んだ街がどうとかほざいてたし。
「はーい、お前等全員アウト。責任逃れが超見苦しいキモイ、後クサい。んで、チラチラ、トドリの足見てんのも変態過ぎ。よって刑に処す」
このメイド喫茶"プリズムフィーユ"の店長、超天使、流図トドリちゃんは、俺達を見た後、むーっと睨んで、少し赤くなった太ももを隠した。
俺達五人は顔を見合わせ、今のむーっ超可愛くねー?と一瞬、下品に盛り上がった後、俺は見てねよーよ、お前が見たと言い争い合う。
「うるさい!!!!!」
幽明が俺達の頭を、雑誌で一発ずつ叩いた。
「痛ぇっ!!!何すんだよ怪獣女、ムービィ画面バグッちまったじゃねーか」
俺は幽明に言った。俺はムービィのテレビ頭を叩いて元に戻そうとする。
みんなは、ドミノ落ち着けよと、俺をなだめてくる。
ムービィの画面が元に戻った。
真夜中に流れそうな、サスペンス映画が流れる。俺達は、幽明そっちのけで、これ知ってるー!と盛り上がり、ムービィが何故か照れた。
「遊んでんじゃねーよお前等。てかドミノ、最近偉く反抗的だよな?あ、あれか、そいえば、お前、夜海ちゃんってメイドにぞっこんらしいな?一時期は私の事、マジで綺麗だ!とか言って、名前で呼ばせてくれまで言ってたのによ?ちょっと悲しいな……私。興味なくなった途端、名前じゃ無くて、怪獣って言われるんだもん……辛いよ」
他のバカ四人を含めて、店内全員が俺を最低男として見ている。
目の前の幽明は、笑いが堪えきれない口を手で押さえ、魔王みたいに、やってやったぜとほくそ笑んでいる。
「違う!違うんだ!誤解なんだ!あぁ!!バカだから全然説明ができねぇ!!」
ムシャクシャした俺は健司隊長に関節技を極める。
「ギブで御座る」
「あっごめん!健司隊長」
てか、風呂入れ。お前ちょっとマジでクセェよ。あ、俺か?いや、みんなか?
チヒロは多分違うな。無駄に女っぽいから。
「ドミノさん。色んな女の人に手を出し過ぎでは?」
ムービィが、いやいやと両手で俺に対してストップする仕草をとる。
「おい、ムービィ。わざとややこしくなるような事言うなバカ。ブルートゥース繋ぐぞ」
「ひぃっ変態」
ムービィは頭を手で覆い、蹲る。
「ドミノー、お前やっぱ最低なんだな。マジで幻滅だわ。フハハ。あと、2000返せよ?」
最低はお前だろ?初めて会った時、チンピラ10人ボコって、俺に罪なすりつけて逃げやがったからな。しかも、揉めた理由が、たこ焼き屋で順番抜かされたからだったけ?マジクソが。
「スガモ、誰に聞いてもお前のが最低だぞ?あと、お前が先に10000返せ、クソニート」
「ぼぼぼぼくは知りませんからねドミノさん」
チヒロー……お前も罪深いよ?可愛い顔してるけど、性欲丸出しだし童貞だし。
それにいっつもちょっとズルい。この中のだらしなさではスガモの次だ。オメデトウ。
一個訂正があるとしたら、童貞はお前だけじゃねーな。たぶん俺等全員だ。オメデトウ。
「いいんだなチヒロ?お前がチンピラに絡まれても、もう助けてやんねーぞ?」
「それは別の話じゃないですかー!!!」
ほら、ズルい。
俺等五人、ダメダメチームは最近毎日集まって、こんなくだらないやり取りを飽きずにしている。
そう、毎日。
昼になったら、なんとなく電気街周辺に集まって、ダラダラしたり、ゲームしたり、クソみたいな事に無駄にテンション上がったり、超どうでもいい事で喧嘩したり、今日みたいに、みんなで無いカネ集めて遊び廻ったり……どうしようもなく最悪な集団だ。
「おい、うるさいぞバカ男共、早くお前らは金を出せ」
幽明……お前いつから取り立て屋になったんだ?マジで口悪ぃし。(男には)
そんなお前の事が、なんでこんな好きなんだろう俺。
蒼い髪か?ダイヤみたいな瞳か?偶に優しいとこか?
ぜんっぜんわかんねぇ。
「でも、ないもんは出せないだろ?」
スガモが、当然かのように言う。
「そうでござる。無い袖は振れぬ」
健司隊長は、無駄に大きいリュックを揺さぶった。
カネもねーのに、何入ってんだ。
「じゃーあれだな。通報するか」
俺等五人は、すかさず幽明の足元に集結し、深い土下座を繰り返し、誠心誠意許して下さいと頼みこむ。
「幽明、それくらいにしてあげなよ。今日はお金、いいからさ」
トドリちゃんが言う。
マジで天使だ。夜海サンと幽明の次ぐらいに好きだ。
トドリちゃんのソロチェキ、俺等全員の財布にあるぐらいだからな。
俺等五人は、天使トドリちゃんの足元に集まる。
「トドリ油断しちゃだめだよ。隙あらば裏切るよこいつら。ほら、また太もも見てるし」
トドリちゃんは、きゃっと高く短い悲鳴を上げ、再度むっー!っとトレイでスカートを隠した。
俺達五人は同時に腕を組んで目を瞑り、トドリちゃんの愛しさを噛み締める。
全員がトドリちゃんとの将来を想像しただろう。
「通報が、どうしてもイヤなら、一つ方法があるんだよなぁー……それなりにスキルがいるんだけど……もしかしたらお前等ならなー……」
……わざとらしい。
「むむ、幽明さん方法とは?」
ムービィが、顔のテレビ画面にアルバイトのCMを映す。
「うん、普通の異形霊媒の仕事なんだけど、特殊な奴らしかできないんだよ。人数が大事な条件で、仲が良い五人ってのが必須」
「じゃあ無理だ、俺等犬猿の仲だもん」
スガモが言う。
「いやー……ボクら毎日遊んでません?」
チヒロが最もな事を言う。
「幽明殿、我等のような選ばれし民の仕事と言う事で間違いないでござるか?」
健司隊長、お前死ぬまで中二病だろ?いくつだよ?
前、公園で誕生日パーティーした時がー……
いや、仲良いじゃん俺等。
「うん、そんな感じ。簡単に言うと、この近くの公園に現れた、五芒星の魔法陣を、強い絆の五人が同時に踏んで、呪文を唱えれば良いんだよ。詳しくはこの都市伝説サイトに載ってるから、適当に見て。ちゃんとやってくれたら、報酬は私から20万。お前らの、今日の無銭飲食代金差し引いても、17万は稼げるぞ?しかも人の為になる。電気街で起こる脅威を未然に防げるんだ。自治会が大元の依頼主、気味悪いから早く消してくれって話だ」
俺達バカ五人は、ひゃっほぅーと飛び上がる。
「マジか幽明、俺等それやるわ!今日やる!みんなもやるだろ?」
「もち!前払いでラーメン行こう!」
スガモがうっし!とクズな事を言う。
「我の力が必要とされる時が来たでござるか……」
健司隊長、それちょっと悲しいよ?
「先に、マーモットに餌やりに帰っていいですか?」
お前、その辺しっかりしてるよなムービィ。偉い。
「ボクは全然やります。メイド喫茶行くお金欲しいですし」
チヒロ、相変わらず頭ん中、女ばっかだなー。悪くはねーけど。
「じゃあ決まり。都市伝説サイト曰く、1時にやるべきらしいよ?
今が22時だから、あと三時間ってとこだな……準備とかして適当に暇潰ししなよ。詳しくはその都市伝説サイト見といて。URL、ドミノに送っとくから。以上 バーイビー」
幽明は、あぁー疲れた、と帰る用意をする。
トドリちゃんが家に泊まりなよと言って、ホントにー!?と女子らしいやりとりをしている。トドリちゃんはこの喫茶の二階に住んでいるらしい……
バカクソ羨ましい。
「ドミノ氏どうしますか?」
健司隊長が俺に聞き、みんなが俺を見る。
「取敢えず、コンビニ行こうぜ。俺腹減ったからカップ麺食うわ。ムービィと用事ある奴は、先に済ませて来いよ。俺等、時間までこの辺ずっといるから」
ワンチャン、夜海サンのメイド喫茶行っても良かったが、流石に、こいつら全員連れてくのは悪い気するしな。あの聖域が汚れるし。
よし、今度一人で行こう。今回入った金で、なんかプレゼントしよう。
あー!夜海サンの事考えたら、テンション上がって来たー!
俺はそんな事を考えつつ、コンビニでカップ焼きそばを買った。スガモも俺を真似して焼きそば買ってる。
「なぁ、ドミノ。お前さっきの怪獣女好きなのか?」
手慣れた様に、包装を剥がし、にやにやと笑いながら聞いて来る。
「あぁ、まぁちょっとな(実は無茶苦茶好き)」
変な事聞いてくんなコイツ。いつもそんな感じじゃねーのに。こいつは一見チャラそうだが、コイツの女に対する発言は全部嘘くさい。
「まぁあれだ、上手くいくといいな。好きな女に会える場所にいれるってのは幸せな事だぜ」
やっぱ、マジで変だな。柄じゃねー。
「お前、なんかあったのか?」
俺は聞く。
「なんもねーよ、ずっとな……だから起こそうとしてんだ」
後半は聞き取れない程、小さな声だった。
その時の、スガモの瞳はとても虚ろでもあった。
起こそうと……?
スガモは俺が聞く前に、コンビニ前の健司隊長とチヒロの所へ行った。
マジで金が無いあの二人に、ジュース買ってやってる所が、地味に良い奴だな。
俺があいつといる理由だ。
十分後――
「お待たせしましたー」
ムービィが帰って来た。
「おう!早かったな、ムービィ。マーモットにちゃんと餌やったか?」
俺はコンビニの外で座り込みながら聞いた。
「はーい、二杯も食べてくれましたよ」
「へー、結構なついてんだな」
そういやギガビート、最近会ってねーな。
「はい。彼らは、私の顔なんて見ませんから。ご飯をくれて撫でてくれたら、それが正義なんです」
そうか、ペット視点だとそうだよな。
「ギャハハハッ、おい二人共見てくれよ。健司隊長が、バケモン出てきたら必殺食らわせるとか言って逆立ちしてんぜ」
スガモが、腹を抱えて爆笑している。
「重いです健司隊長!!もう離していいですか?」
チヒロは健司隊長に足を持たされ、すげぇ迷惑そうだ。
「ダメでござる。チヒロ氏が離すと、ユニットコンボが発動しないでござる」
顔に血が上り、真っ赤な状態で叫ぶ健司隊長。
「じゃあ俺が、その技が異形に通用するか確かめてやる」
俺は、健司隊長の腹を、両手の人差し指で連打した。
「ギュヒィィィッ!!!辞めるでござる!!!」
チヒロは声に圧倒され、完全に手を離してしまい、健司隊長はと言うと、ワイ字に足を広げ静止するミラクルを成し遂げた。
「おお、健司隊長すごい」
ムービィが真剣に感心する。
「健司隊長!頭ぶつけますよ」
じゃあ離すなよチヒロ。
「ぎゃーーーはっはっは!!!お前等マジでバカだな」
スガモは目に涙を浮かべて笑った。コイツかなり感情豊かだよな。
偶に死んだような顔するけど。
俺達は、そんな感じでバカ騒ぎをし、とうとうコンビニの店長さんに、どっか行けと言われ、追い払われた。
夜の電気街のネオンの下を歩きながら、俺達は相変わらずじゃれ合って闊歩する。
コンカフェ嬢が通りにずらっと並び、行き交う男に声をかけている。
外国人がわんさか土産屋や飲食店に列をなしている。
ゲーセンの店内から、アニメのOPが聞こえてくる。
これが、俺等の日常だ。
「どうしますー?まだまだ時間ありますけど」
チヒロが退屈そうに言う。
「カラオケでも行きますか?」
ムービィは地味にカラオケ好きだ。
「だから、金ねーだろ俺等」
俺は即座に突っ込む。
「ごめん電話」
スガモは、目の前で電話する。
(あー宇空木さん?はい、はい、そうです。うまく描けたんすけど、俺がやる羽目になっちゃって、えぇ、大丈夫です。因果応報ってやつっすかね。はは。せっかくだからやってみます。名前?ちゃんと書きました。はは、エネルギーは……)
スガモは俺等を見た。
(あんまないです。ふはは。でも、縁はありそうです……では)
「誰と話してたんですか、スガモ氏?」
健司隊長が不思議そうに言う。
「エクソシストの師匠だぜ!!かっけーだろ!?」
スガモは走り出し、道のど真ん中で、大きく手を広げた。
コンカフェ嬢達に不審者を見る目をされている。
「あいつ、今日なんかおかしくねーか?」
俺はみんなに言う。
「確かに、今日10%増しで良い人ですし」
チヒロが真剣な顔で言う。
スガモが、コンカフェ嬢にウザがられ戻って来た。
「儀式の前に神社行こうぜ、駅近くの階段多いとこ。俺、呪われんのイヤだし。アイス奢るからさみんなに」
スガモは頼むよ言う感じで手を合わせる。
「いいぜ俺は」
俺もちょっと人混みがダルくなってきた。
「いいですね―アイス。ボクはカップのチョコチップにしまーす」
チヒロはしあわせーと言う顔をしている。クソ、ちょっとカワイイじゃねーか。
その趣味はねーぞ。
「領主殿よ助かる」
健司隊長……アイス奢ってもらうだけで、その格上げ、流石にダセーぞ。
「いいですね。私は当たり付きのやつにします」
ムービィはそう言うの好きだよな。
俺達は、駅の方に移動し、コンビニに寄った後、そそくさと繁華街を離れ、
暗がりの神社へ向かった。
健司隊長やチヒロが階段でヒーヒー言うのを笑いながら登り、俺等は境内に到着した。
神社、境内――
真夜中の境内、繁華街とは正反対の、張りつめた穢れの無い雰囲気がする。
周りが林に囲まれている為か、温度もやけに低く、それでいて深緑の匂いが鼻の奥や心の内まで、じわっと染みわたる。
この落差も電気街なんだよな。
俺達は手水舎で、汚れきった手と口を清め、本殿の前へ行き、五人並んだ。
「これって、どうしたらいいんですか?」
チヒロは俺達をキョドりながら見て、賽銭の入れ方や、拝み方を真似しようとする。
「心が大事でござる」
健司隊長は眉間に皺を寄せ、自己流で拝む。
「ドミノさん、知ってますか?」
ムービィが、能みたいな映像を流しながら聞いてきた。
「一応な。依頼で幽明と神社回ったりも、すっからな」
チヒロだけでは無く、ムービィも健司隊長も、正しい参拝の方法を知らなかったので、俺は教えてやろうと思った。
だが……
「どうか、あらゆる存在が幸せでありますように……」
スガモは、他のみんななんてまるでいないかのように、一切のノイズは無視し、完璧な所作と、背筋を伸ばした心が研ぎ澄まされた立ち振る舞いをする。
他四人の俺等は、スガモに圧倒され固まったが、せっかくのお手本を見逃すまいと、見様見真似で、スガモ流の正しい参拝した。
スガモは自分の事を、エクソシストだとか、死んだ街出身だとか、変な事を偶に言うので、俺達は馬鹿にしていたが、本当にそうかもしれないと、みんな胸の内で思っただろう。
それ程までに、今のこいつの気配は、チンピラみたいな見た目に反して、何か浮世離れした感じがある。
「みんな終わったか?突き合せちまって悪かったな。アイス、溶ける前に食おうぜ」
スガモは、手から下げている、コンビニの袋から、アイスを取り出しみんなに配る。
「これは、エリクサーなり」
健司隊長はアイスを月に掲げる。一周回って可愛いなお前。
「ひゃっほぅー、ありがとうございます」
チヒロは年相応な喜び方をする。マジで女みてぇだな。一回メイド服着てみて欲しい。断じてその趣味はねーけど。
「当たりますように」
ムービィ、さっき祈ったからいけんじゃねーの?
「ありがとよ、スガモ」
俺もアイスを受け取り礼を言う。スガモは、いいってと軽やかに笑った。
俺達五人はアイスを食べながら、ぶらりと境内の帰り道を歩いた。
「月綺麗だな」
俺は青い夜空を見て言った。今日は輝く星が多い、奇跡でも起こりそうだ。
「魔の儀に最適な夜ですな。ムービィ氏、魔法少女スピカ・マインドのOPが流せるでござるか?」
そう言う、健司隊長の目は、大袈裟な言葉に反して、等身大で。何か自分を憂いてるようだった。
「ええ、可能ですよ」
ムービィは、ブラウン管テレビの顔に、アニメのOPを流し出した。
神社の境内にそぐわないはずの、そのリズムは、この夜と静かな雰囲気も相まって、妙にマッチしている。
「おお、ナイス選曲です。健司隊長」
チヒロは鼻歌を歌いながら、ダンスする。
そんな三人を見て、俺とスガモは、こいつらやっぱ変わってんなと、顔を見合わせ笑った。
俺は思った。こいつら、もしかしてマジで俺のダチなのか?
なんとなく一緒にはいたけど、お互いそう言い合った事なんて無い。
でも、俺達が今まで共にしてきた思い出は、この人は友達ですって簡単な言葉より、根深い気がする……
俺は、時間が早く過ぎる様な気がして、不意に時計を見た。
零時半だ――
「そろそろ行こうぜ、時間やべーわ」
俺はみんなに、もう行こうと促した。
「そうですね、儀式に条件は、大切な要素ですし」
ムービィ、実は詳しいんじゃねーの。
「そだな……」
スガモは感慨深い顔だ、やっぱこいつなんか知ってんな。
そうして俺等は、すこし早歩きし、メイド喫茶プリズムフィーユ近くの公園へ向かった。
魔法陣の出現した公園――
「人っ子一人いねーな」
俺はそう呟く。
電気街の駅前で溜まるのが飽きたら、俺等はいつもこの公園で溜まっている。
メイド喫茶が近くに大量にあるのと、コンビニが近いのが丁度良い。
あと、無駄に広い。
「ホントですね、貸し切りじゃないですかー」
チヒロは、広いグラウンドに、遊具が点々とする並ぶ公園内を子犬のように駆け回る。
「魔法陣は何処でござるか?」
健司隊長が言う。
「たぶんこっちだ」
スガモは迷いなく向かう。
俺はスマホを出して、幽明に送って貰ったURLから、都市伝説サイトに飛び、例の呪文を覚える。
――ジーム……ジムイーヴァ……シマーゾ……フィーユ…ソエーヌヴァ…ビャンネメ――
ややこしいな。
でも、本格的な魔術の呪文だ……
俺達は、なんとなくスガモの背中を追う。迷いが無いその後ろ姿に、ついてった方が良い気がしたからだ。
スガモはグラウンドの隅、小さな象の滑り台と、穴の開いたドーム型の遊具の近くでピタッと止まった。
その前方を見ると、確かに五芒星の魔法陣が、淡く光っている。
これは、遊びではなく本格的な召喚術だと、俺は直感する。
その円を俺達は、一人一人が星の頂点の位置になるように囲む。
「じゃあみんな、呪文教えっから、それ通りに唱えろよ?呪文は――ジーム……ジムイーヴァ……シマーゾ……フィーユ…ソエーヌヴァ…ビャンネメ――だ……」
魔法陣が少し反応して強く光る。
「ややこしいでござる」
健司隊長が言う。
「もっかい言ってください」
チヒロが頭をグシャグシャと掻く。
「――ジーム……ジムイーヴァ……シマーゾ……フィーユ…ソエーヌヴァ…ビャンネメ――だ、俺が言った後に、ついて来てくれてもいい」
ムービィはと言うと、意味ありげに、ずっとスガモを見ている。
「……すまねぇ」
スガモは、真剣な表情で急に謝りだした。
俺達はなんだ?と視線を集中させた。
「どうしたスガモ?」
俺は、大丈夫かと問いかける。
「すまねぇ、訳アリだ。なんも聞かず、俺の言う通りやってくれねーか……?」
「やっぱそうか」
俺は、納得した様に言った。
他の面々も、勘づいていたのか、ふーんと頷く。
誰一人として、スガモに何か言う奴はいなかった。
「スガモ氏はどうしたいんでござるか?」
「あぁ健司隊長。ドミノの言ってくれた通り、呪文を唱えてくれればいい。
けど、最後に"ミホシ"ってつけてくれねーか?あと、ムービィは、クラシックの"花のワルツ"を流し続けてくれ」
「……なんか、変わった注文だな。悪い感じはしねーが。バケモンとか出てこねーよな」
一応確認する俺。
「ふふっ、でねーよ。もしかしたらバケモンみたいに可愛い女が出て来るかもだけどな」
スガモは懐かしそうな顔をして言った。
「是非やりましょう」
チヒロが万歳で叫ぶ。通報されんだろ静かにしろ。
「魔法少女の顕現……スガモ氏、さすがでござる」
健司隊長、都合の良いように考え過ぎだ。
「私の知る限り、最高の花のワルツを流しましょう」
ムービィは、スガモにグーと親指を立てる。
「おっしゃ、じゃあやりますか」
俺はみんなに笑って言った。
「助かるよ。お前らはマジで良いダチだ」
スガモはしんみりそう言った。みんなは嬉しそうに笑ってる。
やっぱ俺等……ダチか。
俺達は声を合わせ呪文を繰り返す。
――ジーム……ジムイーヴァ……シマーゾ……フィーユ…ソエーヌヴァ…ビャンネメ…ミホシ――
五芒星の魔法陣が反応し、キラキラと光の粒子を夜の公園に排出する。
ムービィの画面から、クラシックの音楽が優雅に流れる。とても良い気分だ。
スガモの瞳から頬に涙が伝っている。
俺達は呪文を繰り返す。
魔法陣の中央に、光の柱が現れだす。
ムービィの画面には、どこかの高校生達が花のワルツを踊っている映像が流れる……
「頼む!頼む!あいつを!ミホシを!この世界に返してくれ!!!」
スガモが、心に蓄積した感情を吐き出す様に叫んだ。
「我の力も!!!」
健司隊長も叫ぶ。
「ボクだって!!!」
チヒロも。
ムービィは、間の抜けた男の子が、優しそうな女の子にキスされる映像を流している。……よく見ればスガモじゃねーか。
「みんな本気出せ!!!」
俺も、俺が異形である証の、悪魔の右腕をかざした。
(いつもは、呪われていると蔑まれる原因の、厄介なお前だけど、今だけは、俺のダチに力を貸してやってくれねーか?)
俺は腕に問いかけた。
その時だった――
光は最高潮に達し、その中に、人のシルエットが淡く現れる。
「ミホシッ!!!」
スガモは叫んだ。
そして……
五芒星の魔法陣は、役目を終えた様に、バンッ!と光が消えた。
中央には、今のスガモと同い年程の、ムービィの映像に映っていたっぽい女の子が立っている。
彼女は暗い公園で、綺麗な黒髪と優しい瞳を、月光に反射させて固まっていた。
表情には少し恐れがある。
……
スガモ以外の俺達は唖然とする。
「成功でござるか……?」
健司隊長が言う。
「綺麗な人だ」
チヒロは見惚れる。
「スガモさん……」
ムービィは何か言いたげだ。
その時だった――
召喚された彼女は、まるで、迫りくる呪いから逃げる様に、慌てて走り出した。
手を伸ばすスガモ。
「いけ!スガモ」
俺は背中を押す様に叩いた。
「もう、どこへも行かないでくれ!!!!!そばにいてくれ!!!!!君が好きだミホシ!!!!!」
涙を、玉のようにポロポロ流し叫ぶスガモ。
「あの時!!!!!ずっとずっと言えなくて後悔してたんだ!!!!!君が呪いで、いなくなってから、いや、君と初めて出会った日から!!!!!」
彼女はピタッと立ち止まり、スガモを見て、引き返してくる。
スガモは瞬く星と月夜を背に、彼女を見ている。
「スガモ……君?」
ミホシと呼ばれた彼女は、目をひそめて、スガモを見つめる。
「あぁ……そうだ。ずっと探してたんだよ?」
スガモは、少し子供の様なあどけない声を出し、両手を差し出す。
彼女は、ハッと全てを思い出したかのように目を見開き、次の瞬間には、スガモ以上に大粒の涙を弾けさせ、その懐に飛び込んだ。
ムービィが花のワルツを、再度流し出す。
スガモとミホシは、手を取り合い、とても愛しい表情で、相手に寄り添いながら、軽快なリズムにステップを取り、懐かしいように踊り出した。
俺達はそれに釘付けになる。
こんな美しい光景……
そして――
二人は、お互いの瞳に、相手の瞳と、星々をきらりと反射させ、愛しさに吸い込まれる様に、キスをした。
……
「ずるいでござる!!!」
健司隊長がスガモを指差す。
「確かに!!!ずる過ぎです!!!」
チヒロも、うーっと心底雑魚そうな牙をたてている。
「まぁまぁお二人共。愛する人は自分で探しましょう。スガモさんはちゃんと"自分で探し出した"んですから」
ムービィが優しい声で眺める。
「確かにずりーが、こりゃどうみても完敗だろ!?てか、愛やべーな!羨ましいぞスガモこらっ!!!」
俺もスガモを指差した。
スガモは、俺達を見て言った。
「ありがとなっ」
「スガモ君……あの人達は?」
「あ、うん……親友だ」
スガモは俺等を見て、お前らに出会えて良かったよ、という風に笑った。
その笑顔を起点に、俺達のバカ騒ぎは一晩中続いた。
――もう一度、君とあのワルツを……完――




