呪われた一族の道化少女
「うっは!私最っ強ぉー!!!」
そう言って、私(万上 リョク)は、尋常では無いスピードで飛んで来る、千を超える刃を純粋な身体能力だけで全てかわす。
超絶にハイになりながら。目の奥をグリグリたぎらせながら。
なんで当てれないの?と大笑いし、相手を道化のように散々馬鹿にしながら。
ビュンビュンと飛んで来る、眩い十字閃光を放つ無数の刃達は苛立つように私を追尾する。
私は側方宙返りや、バク中、ロンダートなどを、恐るべき速さで繰り出し、体を自由自在に空中回転させ、暗い神殿の中を私が主人公であると歓喜し飛び回る。
楽し過ぎて、バカみたいに暗いその場所に、私のピュアな涙が光って落ちるのが見えた。
光、光、光、避、避、避、笑、深、闇、目、笑、
意識している所は、私の長い四肢と垂れ幕みたいな長い黒髪が、相手にも美しく見えるように、軌跡を描く事――
「おい、リョク!魔術使え!遊んでんじゃねー!」
キョウちゃんが叫んでるわ。遊ばずに戦って何が楽しいの?苦しくて面倒なだけじゃん?
「そうだよ、リョク!魔術を使うんだ!友達になったばっかなのに死なれるのは凄くイヤだ!」
幽明 灯がそう叫ぶ。もはや、私の舞台に手すら出しそうな勢いで。
確かに、ふふっ。面白い良い方じゃん。気に入ったよ幽明。でも、もう遅いよ?
退屈な私は死んだ。
今、天国にいる。
……
駄目だわ、また思考が暴走しちゃってる。
深呼吸。
落ち着いた私は、今生きている。
……
鼓動が少し戻ったわ。
これでいい。
魔術使うか……
このままハイな戦闘繰り返し続けたら、私の本性二人に見られるし。
私は、左手親指で、ずるりと黒い眼帯を上にずらして唱えた――
「ジムルート」
私の眼帯の下から出て来た、瞳か?災厄の玉か?なんなのか分からない、ルビーの如く真っ赤なガラス玉の組織がビカビカと激しく点滅する。
暗い神殿内全体を、写真を現像する暗室のように変えた。
激しい魔圧で、温度がグッと下がる。
程なくして、構える私の両手の間から、未知なる狂気の糸を丸めたような、不穏で甘美な物体がジュルルルルと出現した。
私は、足だけを高速可動させ、変幻自在の怪盗のように宙を舞いながら、その物体を天井へと放り投げる。
次の瞬間――
私の魔圧で少し冷えた神殿が、今度はビクついて温度を上昇させた。
ビィーっと鋭いアラームの様な音が、その糸の紫電の発光と共に四方八方に広がる。
あまりの鋭い衝撃に、この階層は色と音だけで崩れそうだ。
「おいおい!リョク何しやがった!こっちに飛んでこねーだろうなぁ!?」
キョウちゃんが幽明と神殿内を走りながら叫ぶ。
「ちょっと君!こんな場所で危険な魔術は控えてくれよ!死んじゃったらどうするんだ!」
「もうっ、二人とも!さっきと言ってる事が違うじゃない!」
私はその場で、女の子らしく飛び跳ねて二人に言った。
ふと見た、私の白磁の腕は、様々な彩に照らされ、なんだか妙に美しく見えて、とても高ぶったので、少し自分の腕を舐めてみた。
すると、興奮が瞬時にピークに達してしまい、私の垂れ幕みたいな黒髪が勝手にカーテンみたくゾワーっと浮き上がる。
きっと、普段は人懐っこい私の目は、今、吊り上がって正気のその先を見ているだろう。
私は、そのテンションで、その場でステップを踏み、無数の刃をかわす。
物理法則的にかわせないのは、物理的に潰した――
ジムルートで出現した"それ"は次第に赤く閃光しだし、銀河に浮かぶ寄生虫のように虚空を彩る。
そして、軽やかながら、とても冷酷な音を出して、ヒュインヒュインと私の周囲を飛び回りだした……
私は、ビカビカと赤く点滅し続ける左目で、神殿内を見渡す。
捉えた――
私を狙う張本人。
自然に、にたっと口角が上がってしまう。下品だわこんなの。ふふっ
「リョク、何止まってんだぁ!マジで死ぬぞバカ」
キョウちゃんは、もはや私の所に駆け寄ろうとしてる。
ぶっきらぼうだけど、そういう本気で心配してくれたりする所がたまらなく好き。
「もう、リョクが強いのは、十分わかったよ!早く出よう!」
幽明が言う。
なんだか今の言い方、ジャンヌダルクみたい。あんまり知らないけど。
今、私達がここにいるのは幽明が発端だ。
私の呪われた一族が所有する、血霞の銀海神殿と言う、一族に課せられた試練の場の話をすると、頼むから見せてくれと懇願してきたのだ。ついでに私の能力も見てみたいと……ちょっと軽率に。
フランクに接されるのは嫌いじゃないけど。
じゃあ、この辺で、そろそろこの階層は終わらせよっか。今日はハイになり過ぎた感もあるし。
私は、闘牛士みたく刃をかわしながら、両手を掲げて手を叩き、パンパンと乾いた音を神殿内に僅かに響かせた。
赤く閃光した糸は、私に絶対服従する様に、即座に動き出し、刃をも容易く超える速さで、それらに猛速で近付く。
神殿内部は、激しく光る糸が通った軌跡の残像で満たされる。
ガーネット色が、とても綺麗……
キョウちゃんと幽明も、それに見惚れながら、何が始まるんだと呆気にとられている。
私は、さぁショータイムの始まりよ!と言う、早く観客に見て欲しい気持ちを胸に一杯にする。
そして、体中の人外なスプリングを最大限に活かし、ビョンビョンビョン!っと、遙、後方へ大跳躍した。
私が、後方へ到着する頃には、もう"それ"は完成していた――
無数の刃は、私のジムルートで出現した物体が全て括り終え、闇の宙で。その活動を静止していた。
ガーネットのチェーンに、鋭く光る無数の刃、洒落たネックレスじゃない。
「リョク……お前信じらんねーぜ」
キョウちゃんが言う。そうそう、その反応もっと頂戴。気持ち良くなるから。
「たまげたね……キョウ……君の友達は、本当に何者なんだい?」
そう!それ!聞こえないと思ってるだろうけど、私耳良いから全部聞こえてるよ!
もっと言って!お願い!言え!
「俺もあいつの一部しか知らねーよ。普段はマジでいい奴なんだ、誰にでも何にでも優しいし、すげーマトモだし……でも、不意になんかスイッチが入ると、俺ですら引く様な、ピエロ女になりやがる」
前半は良いけど、後半はちょっとデリカシー無いんじゃない?
未だに宙には、ぶらんぶらんと、危険色で塗り固められたネックレスが揺れる。
「さーーー!!!1000本!!!いえ、私が128本潰したから、872本ね。きっちりあなたに返すわ!!!準備は良いかしら?ふふ。利子もちゃんとつけて、どーんと10000本!!!サービスしちゃう!!!ちゃんと受け取ってよね♡?だーれかさん」
私は、神殿内に叫ぶ――
キョウちゃんと幽明は、悦に入り過ぎて、とうとう気が狂っただの失礼な事を言っている。
「オーヴェリトゥ」
私は、野次なんて気にせず、自分だけで、自分の舞台を、この劇場に合った最高の言葉で締めくくった。
次の瞬間――
先程の、危険色のネックレス付近の空間に、小型の銀河のような渦が左右合せてニ十個程出現した。
瞬く間に、その中から、危険色のネックレスにそっくりな物体が多数出現し、計、十一本程になった。
これは、巨人相手の宝石店でも開けそうね。
「なんつー大袈裟な能力だよ!エネルギー法則無視かお前」
あんたも大概でしょキョウちゃん。
「あははー、是非このまま仲間でいてくれよリョク」
うん、いいよ。幽明達が裏切らなければね……
私は自分が召喚した物体達に言った――
「じゃあ、いっちゃって!でも、なるべく優雅にね。今この一瞬を美しく描きなさい」
すると……
全ての、巨大ネックレスは弓なりにギューッと、しなって、不可視領域のアートを感じる弧を描きだした。
「そうそう。でも、曲線にえっち差が足りないわね。まー、あんた達にはわからないか……いいわ。もう、やっちゃいましょう!ほれ!シュッポッポ!」
私が、半分ふざけたポーズでそう言った瞬間、全ての刃は、糸から外れ、それぞれが一つの光の線となり、神殿の天井部の隅一点に飛んで入った。
轟音と共に、神殿の一部が崩れる――
「おいおい、バカ、こんなとこで生き埋めで死ぬのはごめんだぞ」
キョウちゃんと幽明は私の所へやって来る。
「そうだ、もう本当に引こう」
幽明は入り口を指差し、私達に早くと言う。
しゃーないね、これから楽しいんだけど。
私達は、地上への入り口に進もうとする。
その時だった――
「娘よ、我を追い詰めたと本気で思うたのか?その甘過ぎる思慮で、我を愚弄した事、罪と値する。よって、呪われた一族に罰を下す」
その怪人は、ボロボロの体のくせに、まだ自分が上だと言いたげな感じで、入り口の前に立ちはだかる。
涼し気な仮面の怪人。
恐らく、物体に憑依しているタイプか……この神殿、色んな奴がいるわねホント。
仮面の怪人は、両手でぐるりと円を描く。そして拳をぐりっと回した。
空間に陰陽の渦が出来る。
次の瞬間には、怪人の体は、完全回復して、カラフルな太極拳のようなコスチュームにチェンジし、カゲロウの羽みたく、薄く軽やかな羽が生えた。
「おま……」
キョウちゃんが怪人に何か言おうとしたけど、私は静止した。
私の呪われた一族の、もう一つの証の両手の目の文様が光る。
いえ、光らせている。
「へー結構お洒落イケメンじゃない。仮面も好みよ、シンプルでいいわ。でさー、話変わるんだけど、あんたって、本体じゃないよね?」
「不埒な喋り方だ、道化め。ここで屍となる前に教えてやろう、これは遊戯なのだ。
我は遠くで、其方等、哀れな一族の、咽び泣く姿をしかと笑い……」
言葉は止まり、嗚咽に変わる。
「グハッ!!!……」
仮面の怪人は傍らに立つ存在を見上げる。
「なんだ……こいつは……」
仮面の怪人は、その仮面含め、体の半分以上が、消失していた。
その傍らには、怪人の倍の背丈はある、トルコ石のような滑らかな色をしたエイリアンが俄然と立つ。
ゾーっと地響きが聞こえてきそうなくらい、不穏なオーラを垂れ流している。
「ごめーん!ちょっーと話長かったから、先やっちゃった!許してね」
キョウちゃんと幽明は、私の顔を見て、あれ何?と目を見開いている。
「愚かなのは我か……」
そう言って、怪人は妙にかっこいい言葉を残し、砂塵となって消えた。
エイリアンは、即座にドゥテドゥテとこちらに歩いて来た。
「リョク……こいつ大丈夫なの?」
キョウちゃんは、武器を顕現しようとしてる。
「さすがに怖いね。この状況」
幽明は、袖を捲り、銀色の数珠を露わにした。
エイリアンは私に一直線に近づく、近づく程に息が荒い。
私は仁王立ち。
私の直前まで来たエイリアンは、じーっと私を見る。
「よくやったわね、ギャノウェ」
エイリアンは、私の声を聞いた後、すぐさまその場にしゃがんだ。
私は、ギャノウェに手を差し出す。
ギャノウェは、私の手の甲の文様に、決して傷つけないようにキスをした。
私は言う。
「下がって」
私が命令すると、ギャノウェの足元はドロドロと真っ黒な沼地のようになり、その中に、すぐさま沈んで行った。
「ふぅー、一丁アガリね!どうだった!?」
私は二人に感想を聞く。
「どうもこうもねーよ。もはや何から言えばいいかわかんねーわ」
キョウちゃんが理解できねーという顔をしてる。
「リョクの一族はみんなそんな強いの?」
幽明が聞く。
「いいえ、弱いわ。みんな言葉通り、呪いに怯えてるかな。私は結構楽しんでるけど。ホンット臆病って損よねー」
一族の人間曰く、私が出現した事により、私の一族は呪われているのでは無く、呪いを扱う一族と変わったらしい。
生意気な……そもそも、誰も何の呪いかもわかってないくせに。
「あはは……肝が座ってるね。いつから楽しんでいるの?」
幽明は私を観察するみたく質問する。
「いつからかー……うん、最初からかな。いえ……待って……生まれる前からかも」
私は、悦楽の記憶を辿ると、私以前から、それがある事に気づいた。
「生粋だな」
そう言う、キョウちゃんの唇に少し見惚れた。まだ、興奮が冷めて無いらしい。
「じゃあ、もう行こっか!」
私は切り替える様に、普通の女の子を演じ、光が射す入り口を、指で示した。
早く出よう。
声が聞こえるから。
私が入る度、ずっとずっと聞こえる。
早くこの場所から出て言ってと、怯える声。
呪われ場所にさえ、避けられるのは、
……
……ね。




