表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/90

血の占い


真紅の瞳のヴァンパイア少女は、犬歯で自分の親指をプスリと噛んで、私達の前で、にぃーっと悪戯気に笑った。


その親指から、たらーっと零れ落ちる、エキゾチックなジュエリーの鎖にも似た、真っ赤な血液は、テーブルの上にある、日本地図の上に落ちた。


否、落ちるはずだった――


その空間だけが無重力であるかのように、地図寸前で止まり、無数の細かなビーズの血滴となった後、それぞれが意思を持って、日本全国に朱渦を巻きだした。


「シスイ。この子達が、あなたが行くべき所へ導いてくれるわ!」


ヴァンパイア少女ルリメアちゃんは、満足そうに、日陰の幽鬼のような蒼白な体を、ソファーに深く掛け、先程噛んだ親指を、ぺろりと舐め、鉄味を味わい、よくやったわね!と言うように、自分の血液に、ふふっと微笑んだ。


まるで、涼しい美術館で「赤と白に染める少女」と言うタイトルの絵画を見ているようだ。


「あぁー……えーっと、どこから突っ込めばいい?」


私、(冥 シスイ)は、自分が焼き菓子なら、きっと穴が開いている事だろうと思う程に、ぽかんと口を開けて、聞き返した。


ドーナツは好きな方だ。特に、中までクリームが入ったやつがとても。


「あ、ごめんねシスイ。説明不足だったね。君がよりアップグレードする為の武器が

あるって、ルリメアちゃんが言うもんだから、ちょっと任せてみたんだ」


褒められるのを、るんるんとスタンバイしている冷たい肌を持つ不老の異形ルリメアちゃん。

手を探偵の様に、わざとらしく三角形に組む、親友の幽明 灯が、よかったじゃないか?さぁ行こう!と、前のめりになっている。


まぁ、この状況も仕方ないか、ちょっとばかし灰汁が強いシチュエーションだけど……


私は、事前説明無しで、流図トドリと円環ミレアが営む、メイド喫茶プリズムフィーユに来てくれと、幽明に言われ、日本晴れが肌に眩しい休日の昼前、ヒノと二人でその場所へ向かった。


「ルリメアちゃん痛くないの、その魔術?」

ヒノが心配そうに聞く。それもそうだ、結構な血が流れているじゃないか。

未だに、宙を漂っているよ。

トドリもさすがに店の奥から、他のお客さんが見ないかと冷や冷やした顔をしている。


「えぇ、あたしの唾液には、鎮痛効果があるからねー」

蚊か。もしくは湿布か君は。


「ねぇ、幽明。私のアップグレードって一体何の事?」

私は、幽明のダイヤモンドを砕いたみたいな瞳を、ちーっと見つめる。あくまで、ちーっと。悪魔で、血ーっと。


「あぁ、それね。君達が前のシェアプリズムの集会で、熱烈にイチャついてくれた後、ルリメアちゃんが、私に言ってきたんだ。シスイは、もっと強くなる必要がある、その方法、私は知ってるわってね。詳しくは本人から聞いて。実は私もあんまり分かって無いんだ。ルリメアちゃん、たまに支離滅裂だから」


熱烈にイチャついたって……ひどいなぁ。

否定は出来ないけど。今朝だってそうだったし……

駄目だ、地図に私の鼻血まで落ちちゃう。


ルリメアちゃんは、両手をカメラのようにし、フレームを私とヒノに合せる。


「前の、あなた達の愛のぶつけ合いには、とても感動したわ。興奮して、久々に血を探しに、夜を出歩いたぐらいよ。ぶらぶらブラッドってね……ジョークよ……で、思ったの、結局の所、あなたが強くならなければ、あなたに関わる物語は全てバットエンドじゃないかってね。バットエンドいこーる、前の感動は、ただの絶望をより絶望たらしめるエッセンスだった事になっちゃうじゃない?それって結構サイアクよ?分かる」


両手のフレームを崩壊させ、ざんねーんと言う顔をする、ルリメアちゃん。

ノリが軽い。


確かに、もし私があっけなく何処かの異形に殺されていまい、ヒノを奪われ、

シェアプリズムメンバーもトラウマを抱えて離散すれば、今までの私の幸せのシーンは、ホラー映画なら、不穏なBGMを加えられることになるだろう。

……でも、確かに、その時は幸せだったのだから、最後で全てが決められるってのは極論に感じる。

それじゃ、みんな人生悲劇じゃないか。

そんな訳無いよ、最後の1ピースで全体の絵柄は、さほど変わらないだろう?



私は、テーブル上の日本地図と、その上で、一点に集まる、血滴達を見て、人生って言うモノ考える……



「なんとなく言ってる事はわかるよ。結局、私が強くならないと、全員報われないかも?って話でしょ。私もそう思うよ。波及的に考えたらだけどね。でも、ちょっと、自意識過剰っぽい気もするんだよねー」


幽明は、地図の上の血玉を、ふーっと息で吹き飛ばし、吹き飛ばした血玉が、変えられぬ宿命のように、同じ場所に戻るのを眺めながら言った。


「自意識過剰では無いよ、シスイ?恐らくだけど、君か私、もしくはミコトちゃんのだれかが誤った選択をしたり、立ちはだかる障壁を乗り越えられなかった場合、

あらゆる事が崩壊する恐れがある。私は、今までの私達の縁の繋がりと、その波及を考えてみたけど、それをほぼ確信している。だから、全員が一発のチャンスを上手くこなし、大団円を成功さす必要があるんだけど、ゲームやアニメでも無いから、相当難しいんだよね、まさに現実辛し」


ヒノがきゅぴんと、レーダーみたく反応する。


「それ、わかるわ。私もすごくそんな状況の気がする。でも、私はポジティブに考えていて、なんの力かは分からないけど、今の所その大団円に、みんなが大きく導かれてる気がするの。だから、不意に舞い込んだ、この状況を逃さない方がいいわシスイ」


バトンを受け取る私。


「確かにね……あの時、ヒノがルリメアちゃんを助けなければ、このチャンスは無かったし、トドリやミレアを仲間に入れる選択肢をとらなければ、このメイド喫茶すらオープンしてなかったもんね。だけど、不思議な事に、現に私達はここにいる……こんな偶然では考えられないような事が、私達全員に積み重なりまくって、しかもそれが、正規ルートをなぞってるって事だろ?」

私は、数々の出来事を思い出し、壮大な物語のパズルに当てはめていく。

薄っすら浮かべた完成の絵が、まさしく大団円だろう。


「まさしく、その通りだよシスイ。話が早いね」

幽明は、水滴垂れるグラスのアイスティーを啜った。結構時間経ったな。


唐突な、シロップすら降参する甘い声。


「シーちゃん、あったま良い!だーいちゅき」

ヒノは私に全てを打ち明けてから、もう手が付けられない程の甘々だ。

目の前の灰汁強な二人ですら、今のべったりに、恥ずかしそうに顔を背けている。

公衆の面前では、もうちょっと控えて欲しい。家の中なら全然もっとちょーだい。


ルリメアちゃんが地図の上の血玉を何滴かアイスティーに念動で注ぎ、バチンと指を鳴らす。紅茶はシェイクされて、自分の血液のブラッドティーとなった。

ナルシストの極みじゃないのさ。

彼女は犬歯を、魚眼レンズみたく強調して喋り出す。


「ビンゴね。数百年生きて来たけど、こんなにも何かが起こる予兆を感じたのは初めてなの。私はこの時の為に鬱々とした、吸血異形としての生を渡り歩いてきたんじゃないかとすら思うの。だからね……ゴクゴク……あーまずい!!!無限にある世界の中、もし私達の世界を見ている高次元の存在がいるなら、その存在達も目が眩んじゃう程の物語見せ付けて、私達全員も最高にハッピーで終わりたいじゃない?」


はー、驚いた。

あまりこの子を知らなかったけど、実は物凄く鋭いんじゃないか?

でも、500年は生きてきたって言ってたから当たり前か。

二十分の一すら生きて無いのに、上から目線やめよ。

でも、響とふざけている印象しかなかったもん、バカみたいに。


「わかった。じゃあどうすればいい?もはや、考えるより、身を任せて、行動するよ」

私は、年長者を敬い、扱いやすい人間へと変化した。


「うん、それがいいね。考えると、無駄に力んで失敗する事も結構あるし」

言いながら、幽明が、ルリメアちゃんを抱き寄せる。富豪が変わった猫を抱くみたいな感じ。


「そうしな、そうしな。今回は、あたしが、ぜーんぶ上手くいかせてあげるから!ちょっとその前に、今回の報酬を……」

ルリメアちゃんは、真紅の瞳孔を、魔の扉のように広げた。

一瞬、部屋の温度が下がり、部屋全体が赤く染まる。


ルリメアちゃんは幽明の前腕を、カプッと予防注射のように、害無くシニカルに噛みついた。


「きゃーっ!」

ヒノが悲鳴。


「うわぁ!なにしてるのさ」

私も唖然。


「ちょーっと、お店で変な事しないで!」

トドリは掃除しながらご乱心。


「よほほ。ルオク君……私の鎖、勝手に触っちゃ……ダメ……ふふっ」

ミレアは、遠くの席で変な夢見てご就寝。


「あぁ、いいんだいいんだ。こういう約束だから。吸血鬼に血を吸われるってのも、

異形霊媒探偵として、興味あったし」

幽明は、大胆な女博士のように言った。

吸血鬼を傍らに飼いならす、狂気の女史。

こっちが甘々なら、あっちは一体なんだ?


「さいっこうだわ……はぁ……エネルギーが強すぎて、クラクラするけど」

そう言う、ルリメアちゃんの瞳は、一瞬だけ、幽明の砕いたダイヤモンドみたくなった。

似た気配が二つになる。

吸血で、能力コピー?まさかな……


「なんかすごいわね……シスイ」


「うん……ちょっとびっくりだねヒノ」


少しの間、恍惚に浸ったルリメアちゃんは、天井を見た後に、無垢な天使のように目を瞑り、深く息を吸い、日本地図を指差して早口で言った。


「この場所に行きなさい!そこに、あなたの異冥府の十の秘武器ゼスパの対となる、もう一つの秘武器ルアナがあるわ。それを手に入れて!あなたは、異冥府の破壊と救済の使者となれるわ。異冥府王の顕現すら、可能になるかもしれない……

血が指し示す、大きくて深い森の奥にある滝壺に、異形が一体いる。それが、ルアナを体に取り込んでいる。超硬いから気をつけて。細かい事は抜きで、そいつからそれを絶対に奪って!以上!」


言い終わった瞬間に、ルリメアちゃんは千里眼を終えたイタコの如く、テーブルに突っ伏してバタっと倒れた。


「ルリメアちゃん!!!」

ヒノが手を伸ばすが、幽明が大丈夫任せてを、それを静止する。


「お疲れ様……」

幽明が、眠りについた蒼白の少女の額を撫でる。


「あ、えー……大丈夫なの?」

私は、幽明に尋ねる。


「あぁ大丈夫だよ。予め本人が言ってたし。それより、ほら、それ」

幽明が指差した、薄く血に染まった日本地図。その一部に、血色の十字型の結晶が出現し、押しピンみたく、小さく直立して刺さっている。


私とヒノは覗き込む――


「ここに行けばいい……って、事だよね?」

私は少し曖昧な感じで聞く。


「へー……案外近いのね」

ヒノが、恐る恐るそれを触ろうとしてる。なんでも触る癖があるんだこの子。


この場所なら、車で行けば、今から言っても往復で、午後九時までには帰れるな……



「ねぇ、幽明、さっきの感じでいくと、この話ってすぐ行った方がいいんだよね?

でも、ルリメアちゃん曰く、硬い異形がいるから注意した方が良いっぽいし、なんか準備とかした方がいいのかな?準備ってあんまないけど」


私は、困った時はルールーブックみたく幽明に尋ねる癖がある。


「勿論、すぐ行った方がいいよ。君が動かなくても、世界は動いてるから、刻一刻状況は変わってるからね」


AIみたいに的確だ。幽明が世界に知れたら、大企業で奪い合いになるだろう。

勿論、彼女が相手している尺度は、一企業には到底理解できないだろうが……

あの眼で一体何を視ているんだろう……

宇宙を束ねる巫女……プフッ、なんだ今のイメージ。

幽明はもっと底知れないぞ?


「ダーリン今日行こ?」

ヒノはそうした方が良いってと、私にせがむ。


「そうだねー、それはいいんだけど、一応、強力な異形いそうだしなー……」


「異形に関しては、君とヒノがいるなら、まず大丈夫だよ。私も行ってあげたいけど、ちょっと用事でいけないんだよなーマジごめん……確かに秘武器を持ってるなら、念の為ってのも必要かもだしー……あっそだ、トドリーーー!!!ごめんけどさ、今から、二名程借りられないかな?今日一日のレンタル料、二人で10万でどう?」


生々しい、あともう少し周りの目を……


店長自らせっせと隅々まで掃除する、元トップアイドルらしからぬトドリに言った。


「え!!!10万!!!全然いいよっ!!!そこで寝てるの連れてって。

後は……私はお店いないとだしなー……ちょっとぉ待ってね」


トドリは金ピカの瞳でウインクする。

そして、スマホで電話を掛けだした。


「クオリアちゃんが幽明さんの役に立たせて下さい!!だって彼女で良い?」


「え!?私……はは。私なんであの子に、こんな好かれてるんだろう?

怪我してるツルとか助けて覚えないよ?鬼ならあるけど。まぁいいか。

全然いいよ!大満足さトドリ!!ありがと」

幽明はトドリにオッケーと言う風に、手で合図する。


「いいえー。頑張ってね二人共。ミレアはこき使っていいからね。クオリアちゃんはちょっと優しくしてあげてくれたら嬉しいかな、うん、そだなー、見学ぐらいの感じで」


「はーい!トドリありがとね!皆の為に、ベリーベリー頑張ってくるわね」

ヒノはカンフーみたくポーズをワチョー、ワチョーと取る。


「助かるよトドリ。すっかり店長さんが板についたね、すごいよ。クオリアちゃんには、なるべく危ない事はさせないから安心してね」

私は感謝の意を示す。


「うん、応援してるよ。私、全然ダメダメ店長だけど、みんな慕ってくれるから、結構楽しいんだ。へへ」

そう言って、汗を拭いながら、雑務をこなすトドリは、私的に超可愛くなったと思う。

何故かな?アイドル時代よりホント可愛い。


「じゃあ、幽明行ってくるよ。色々ありがと。後、ルリメアちゃんお願いね。

武器ゲット出来たら、またメッセージするから」

私は、まるで買い物行ってくる、のノリで幽明に、今日の別れの挨拶をする。


「幽明バイバーイ!あんま血吸わせて、吸血鬼幽明になっちゃ駄目だよー。

一緒に、ニンニクマシマシラーメン行けなくなっちゃうから」

ヒノは、気軽なジョークを混ぜて後、アイスティーを飲み干し、席を立つ。


「りょうかーい。無事帰って来てね。やばかったら、最悪逃げていいから、そん時はドミノ向かわすし」


久しぶりに聞いたなドミノ。あいつ今何してんだろ?

噂では、電気街の超癖のある面々連れて、幽霊の異形メイドちゃんにご執心らしい。

あいつと命懸けで戦ったあの日が懐かしいな。


そんな、想いでを振り返り私は言う。


「ドミノに無茶振り、お腹捩れるからやめて!」

私と幽明は顔を見合わせて笑う。


「ドミノちん可哀想じゃん。ふふっ。でもちょっと想像すると笑えるけど」

ヒノは、なんで俺がこんな目にーーー!!!っとドミノの口癖を真似をして、

クスクスと笑って言った。


そして、私とヒノは、気持ちよさそうに眠っているミレアの背中を二人でバシバシと叩いて起こし、「よほほほほー!!なんなんですかー、あなたたちー、暴力反対のっちゅ」と寝起きでも、無駄にぶりっ子するのを、あざといねーとか簡単にいなして、がっしりと捕獲し、ビラ配りから帰って来た、クオリアちゃんをボールの如く拾って、そそくさと私の車に乗り込んだ。


その時、幽明はクオリアちゃんに、私の為に頑張ってくれるの?とお姉ちゃんぽく聞いた後、ギュっと抱き締めて、栄養満タンな状態にしてくれといた。

クオリアちゃんは原初の炎とか、なんかすごいやつを使えるらしい……

炎って色々あるんだ。


私の車の中は、思い出し笑いをしながら、異形との戦闘の作戦を立てている私と、

キャンプ気分で、お菓子をバリバリ食べているヒノ、

こんなの、無茶苦茶です!っと、仕事中、寝ていたくせに正義ぶるミレアと、

頬を真っ赤に染め上げ、唇を噛み締めて、外を眺める青春少女のクオリアちゃん、

そんな四人で、カオスと化している。


さて、一体どうなる事やらと思いつつも、微妙にこのメンツでの行動が楽しみでワクワクする私でもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ