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ネビュラタワー 無比なる者達の決戦場 前編


「世界、終わっちゃうかもしれません……」




アーテマさんが、重い口を広げた。アーテマさんに顔は無いが。




世界が終わる?




は?どういう意味だ。せっかく萌えの極意が何たるかを掴めてきて、面白くなってきたのに。





俺、ドミノ・アースはいきなりの理不尽な言葉を受け入れられず、アーテマさんの発言に目がテンになり固まってしまう。


周りにいる禁忌級な強さのアンセイン・マリオネットの仲間は、それに対して日常茶飯事のニュースの様に聞き流している。




俺達は、限界集落のど真ん中に建てた、拠点である派手なサーカスのテントの前にある、カラフルなパラソルの下で、テーブルを囲んで座っている。


紅茶なんかも飲んじゃって割りと優雅に。




「そうなんです。だから皆さん、どうか力を貸して欲しいんです」




タキシードを纏った、サーカスの団長の出で立ちのアーテマさんが言う。


アーテマさんは、綺麗に加工された金属の指でステッキを持ち、何も無い空白の顔の上にハットを被っている。




「なんで、世界が終わるんすか?」




俺は、アーテマさんに理解出来無いと聞き返す。


こんな時に幽明がいればいいのに……


最近、幽明はアンセイン・マリオネットにあまり顔を出さない。どうやら、シスイやヒノとかと秘密結社を作ったらしい。シェアプリズムだとかなんとか言う名前だった。




「えぇっと、ドミノ君。時々ある事なんで、まずは落ち着いて下さい」




アーテマさんは、ポリポリと金属の指で、無い頭を掻いた。




「時々あったら、今俺はここにいねーでしょ!!!」




「うるさいなー、落ち着きなよドミノ。あんたが知らないだけで、世界への脅威ってのはいつでもあったの。あんた以外のアンセインの私達だけでも、なんどか阻止してんのよ?あんたが遊んでる間にね。ねぇみんな?」




レイス姉は、アクアマリンみたいな色の髪をかきあげて、あー五月蠅い五月蠅いと言う顔をしながら、周りのみんなを見た。




「そうだぞドミノ……この世界に限らず、どの世界でも、危機とは結構あるものなのだ、その分それを阻止する存在が偶々いたりもするがな」




上下、渋い革の装備を身に纏い、戦いが過ぎ去った勇者みたいな雰囲気のメノノスは、目を閉じて腕組みをしながら言った。


そう言えばこの人、色んな世界を渡り歩いて、ダンジョンや神殿を一人で攻略しまくっていたが、そういう為だったのか?




「おい、ドミノー。お前最近、肝が小さくなってないか?前はもっと適当な感じだったじゃねーか?もしかして……好きな女でもできたか?兄貴に隠し事は無しだぜ?」




吸血鬼の王子みたいな顔のポルジオルは、それに似合わず、煌びやかな装飾のド派手なサーカス団員の衣装を着ている。王子みたいなでは無く、本物の王子だった。




ギクッ――


俺の頭には、幽明と夜海サンがちらつく。同時に胸が高まる。


頭に可愛すぎる二人の妄想が止まらない。




「んなことねーよ!!!」




俺は、テーブルをドンッと叩いて反論した。




みんなの視線が集まり、図星かと言う表情をされた。




「いいのよ?ドミノにぃ。それは普通な事だよ?」




不思議な国のアリスの様な、衣装を纏った小さい女の子、血は繋がってはいないが、まさしく俺の大切な妹フリルが、そう諭してきた。


クソッ……分かったように言いやがって、俺の掴んだ紛れも無い光、この飛び上がりたくなるような嬉しい衝動を簡単に分かられてたまるか。




「こいつ最近発情期だからねー、お姉ちゃーん、こ・わ・い」




レイス姉がセクシーポーズで俺をバカにして煽りやがる。みんなが薄っすら笑っている。


恐らくこいつらは、俺のいない所で、俺のオタク関連の話だかとか恋の話を、酒のつまみにしている。いつだって正しいやつはバカにされるんだ、耐えろ俺。




「あーもう、俺の事はどうでもいいんだよ!でも、マジでどういう事、アーテマさん?さっきの言い方の雰囲気だと、結構やばい感じに聞こえたけど?」




俺はアーテマさんに、早く全容を教えてくれと懇願する。




「えぇ、まずまずです。適当になんとかなる事案ではないでしょう。今回の原因となっているのは、あのネビュラタワーですから……」




ネビュラタワー――




俺はその言葉に目が飛び出そうになった。


さっきまで、余裕の表情だったこいつらも、少し緊張している。




ネビュラタワーとは、異界にある正体不明なバトルタワーで、戦闘に勝利すれば、自動で報酬が貰えるシステムのダンジョンみたいなものだ。


管理している団体はいないらしい……俺達が認識できる範囲外の次元の存在が管理しているのかもしれないが。


別の世界では伝記に乗る程に、遙昔から存在したりもしている。


レイス姉は、ギャンブルで借金を作る度、それを返す為に幾度となく足を運んでいるが、あの観測不能級な化け物のレイス姉ですら、30階辺りでめんどくさくなると言ってるんだから、弩級に最高峰のダンジョンだ。




「アーテマ、ネビュラタワーがなんで関係してんの?あそこは何も介入出来ないはずでしょ?」




レイス姉はテーブルに身を乗り出す。


久々に近くで顔を見た気がする。


粗暴な雰囲気に反して、俺の姉ちゃんはどの異界でも目を引くぐらい超綺麗な女だ。


絶対にそんな事本人には言わないが……


後、姉ちゃんて言っても血は繋がって無い。




「はい、そうです。誰も介入してません。ただただ、何の前触れも無く、いきなりネビュラタワーの景品表示板の100階層の欄に、この地球が表示されたんです」




えええ……


神様の遊び?俺等試されてるんじゃねーの?




「アーテマよ、ネビュラタワーは一体、何階層まであるんだ?」


メノノスは、茶髪と焦げ茶の瞳を一切動かさずに、アーテマさんに尋ねる。




「はい、メノノスさん。ネビュラタワーの頂上は1000階層です」





……




一同沈黙する。




100階以上は、ホントに神格や別次元の戦いなんだろうな……


マジで世界って無限に広いんだな。




「よぉ、アーテマ。でもどうすんだよ?100階を仮にクリアして阻止したとしても、また景品としてどこかの階に再出品されたら意味ねーじゃねーか。二度ある事は三度あるって言うぜ」


赤い蝶ネクタイと真紅の瞳で、にーっと笑いながら喋るポルジオル。




そうだ、再出品される限り、脅威は止まない。





「それは大丈夫です、ポルジオルさん。報酬をネビュラタワーから譲渡される段階で断った場合、その景品が再度出品された事は、調べれた限り過去のデータでは御座いません」




そういう事か……




「つまりなんだ、俺達全員で、ネビュラタワーの100階層までを攻略したら、それでこの地球を救えんだな?てか、個人での出場でなくていいのか?」




ポルジオルが身振り手振りをわちゃわちゃ動かしながら、説明を詳しく聞いてる。


この人最近変わったよな……


前なら絶対、めんどくせーってほったらかしにして遊びに行ってたぜ。


俺もそうだけど、この人こそ、まるでこの世界に守りたいモンが出来たみてーな雰囲気になっている気がする。


俺の男の勘が正しければ、響ちゃんの写真を見てからだ……


タイプだったのか……?


いや、絶対そんなアホみたいな簡単な話じゃねーな……





「はい、切にお願いしたいです。チーム戦攻略で大丈夫です。各階層のボス達も複数で出現する場合もありますし。しかし五人までです。あと、遠隔での出場は厳禁です」




「つまり、アーテマはダメなのかぁ……てか今更だけど、各階層のボスもネビュラタワーとは関係ない存在達でしょ?出場してメリットあるの?」


レイス姉が、近未来的な飛行服を、暑そうに袖まくりしながら言う。




「彼らはタワーを登らなくとも、一定期間役目を務める事で報酬を貰えるのです。


挑戦者を阻止した数が多い程、報酬のレベルは格段に上がります。それに命懸けでもありますので、恨みは無くとも間違いなく本気で仕掛けてくる事でしょう。どんな存在でも絶対に油断してはいけません」


アーテマさんが言った。




え……?やっぱりアーテマさんの本体ってここにいないの?


さらっと衝撃なんだけど……




「はい。言い出した私が出場できないなど、言語道断ですが、


今回の件、皆様に心の底からお願いしたいです。時々あるとは言いましたが、このままいけば、きっと近い内に正体不明の異界の連中に、この星は獲得されてしまうでしょう……この星は他の世界から人気が非常に高いので」




そういって、アーテマさんが珍しく頭を下げる。




俺はみんなを見た。




みんなは、しょうがないなと言う表情をして、各々何かを考えているようだ。




その時アーテマさんが小声で何か言った。


その言葉は俺ぐらいしか、聞き取ってなかったと思う。




(やっと、ここまで来たんです……ここで終わる事はできません)




「アーテマおぢちゃん顔を上げて」




フリルが人形を抱えながら、ハートの虹彩を不安そうに揺らす。




「フリルはアーテマおぢちゃんの味方よ?」




フリルは無垢な笑みで首を傾け、薄緑のハーフアップの髪をたらんと落とした。




「フリルさん……」




「俺も、ネビュラタワーには興味があった。上まで覗ける丁度良い機会だろう」




メノノスは、持てる百鬼夜行みたいな渋い大剣を肩に乗せる。




「メノノスさん……」




「まっ、暇潰しだ。俺みたいに最強な男は、暇潰しで世界すら救ってやれる余裕があるからな」




ポルジオルは魔術で出した、カラフルなボールをくるくる回転させ、最後にはクラッカーの様に、パチンと弾けさせて、辺りに色とりどりの煌びやかなテープを振り撒いた。




「ポルジオルさん……」




「100階層行くまでの景品は当然山分けよね?後、私の戦闘の邪魔は誰もしない事。


 私がどんなけ暴れても絶対止めない事。ふふっ久々に腕が鳴るわね」




レイス姉は、鋭い眼光からオーラを滲み出して、指をバッキバッキ鳴らす。


怖ぇ……




「レイスさん……」





そして、みんなが俺を見た。




はぁ……




仕方ねーか――




「正直言うわ。俺はこの世界が大好きになっちまってる。それはここまで、導いてくれたアーテマさんや、あんたらも含めてだ。だから……全然この戦い……命懸けれるぜ!」




みんなは俺を見て、言うじゃないかと微笑んでくれた。




「ドミノ君……私も君を引き取ってから、今まで楽しかったですよ」




アーテマさんが、そう言った。


俺は知らぬ内に積み重なったこの人との思い出が頭に駆け巡り、涙が出そうになった。


孤独な孤児の俺を、呪われた存在の俺を、何のためらいも無く、笑顔で引き取ってくれ、普通に育ててくれた優しい人。


父さんみたいな人。




みんなが、俺とアーテマさんを見て、神妙な顔をしている。




「何言ってんのよあんたら、死んじゃうみたいに。湿っぽすぎ、あーいやいや。勝ちに行くんでしょ!?」




レイス姉が、俺達に喝を入れる。




「そうですね……絶対勝ちましょう。こんな意味不明な出来事に、私達の愛する世界が負けるはずありません」




アーテマさんの空白な顔から強い意志が溢れてきた。




「おっけぇぃ!!!なんか楽しくなって来たぜ相棒共!っで!いつ行くんだ?」


ポルジオルが言った。




「明日にしましょうよ?どうせみんな予定ないんだし。先に攻略されたら終わりじゃない」




レイス姉が、巨大な隕石すら砕けそうな、眩い正拳突きを、光が擦れる音を出しながら何度も宙に繰り出している。




「あぁ、そうだな。早い方が良い」


メノノスがそう言った。




「じゃあ、明日のお茶会は、お断りしておくわね」


フリルは、毎日人形達とお茶会をしている。




「あぁ、このテンションのまま行きてーから、明日にしようぜ」


俺も悪魔の右腕をぶんぶん振り回し。眠れる災厄を叩き起こした。


ポケットの財布の中にある、幽明の写真と、夜海さんのチェキを体に感じながら。




「じゃあ、決まりだな、アーテマ。それでいいか?」


ポルジオルが、無駄にかっこつけてアーテマさんを指差す。




「はい……皆さん。本当にありがとうございます」




「泣くなオッサン」




レイス姉が、アーテマさんの背中をドンっと強めに叩き、アーテマさんが咽る。




それを見た、俺達は和やかに笑う。




うん。間違いなく俺はこの世界が好きだ――




「なぁみんな……」




俺は言う。




「どうしたのドミノにぃ?」




フリルが、はにゃっと首を傾げる。




「ネビュラタワー……ぶっ潰してやろうぜ!!!!!!」




俺は、災厄の右腕を天を貫くように突き上げた。




そんな俺を見てみんなは、狂気すら孕ん瞳で、一斉に宙に拳を突き上げた。




それは、俺らの上空の雲に、ぽっかり穴が開いてしまう程の、恐ろしい気迫で。





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その夜、アーテマの部屋――




「なんか大変みたいだねアーテマ」


空間から声がする。




「えぇ……予想外でした」


アーテマが言う。




「でも、もう少しで君の願い、叶いそうじゃんか?さっさと下らない事は片づけときなよ?」


子供みたいな声。




「はい……」


アーテマの神妙な声。




「ボクの見立てでは、恐らく復活するね女神ゾアリアは」


子供の軽い声。遊びのような声。




「……」




「宇宙の棺も、もうじき、この世界に飛んで来ると思うよ?」




「あなた様のおかげです」


アーテマは空間に、一礼する。




「ハハハ。君が頑張ったからだよ?長かったね、お疲れ」


どこまでも、軽い声。




「えぇ、気の遠くなる程に……」




「君が、ボクに願った日の事覚えてるよ。懐かしいね」


凄く優しいのに、ちょっと怖い声。




「はい。しかし、昨日の事の様です……」




「それは、盛り過ぎでしょ?ハハ。一体どんなけ時間が経ったと思ってるの?」


何も考えて無いような、簡単な声。




「そうですね」




「時間経ち過ぎて、忘れてないよね?約束」


感情の無い法則的な声。




「はい……」


アーテマの震えた声。




「よかったぁ。ボクがどうとかじゃないんだ。願いには代償って必ず必要だから」


子供が安心する声。




「理解しております」




「結構楽しかったよ君。後、アカリサマも楽しい子だ。すごく……楽しい子。紹介してくれてありがとね」


悦に浸る声。




「幽明さんには……何も……」


慈悲を願うアーテマ。




「わかってるって、あれはホントに暇潰し……最高の暇潰し」


無邪気な苦笑い。




「そうですか、ありがとうございます」




「じゃあ、お休み。明日早いんでしょ?」




「はい」




「じゃっ!バイバーイ。頑張ってねー」




「失礼します……"特喜天王ルオク様"」




そして、その部屋から、一つの気配が消え、アーテマと沈黙だけが残った……

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