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新人バイト大集合 最強の新人メイドちゃん達


私、元アイドル、流図トドリは、凶悪な異形を召喚し、その力で自由な世界を作ろうと企んで、盛大に失敗した。

とても盛大に。

涙も鼻水も心の傷も、全部全部さらけ出して、見事に失敗させられた。

秘密結社シェアプリズムに失敗させられた。

違う。

彼女達が失敗させてくれた。

本当は失敗したかった。

重荷を捨てて、生きたかった。

だから――

心の底から、ありがとう。みんな。



私は、"お店"の買い出しの帰りに、穏やかな電気街の街並みを、るんるんと歩きながら、現在の仲間達に心の中で感謝を伝えた。

現在の仲間達。

そう。私と、幼馴染で壮大な計画を共にした悪友の円環ミレアは、今や、その秘密結社シェアプリズムのメンバーなのだ。

えっへん――


大激闘の末、全てを失った私達は、電気街に引っ越し、アイドル時代の貯金と、異形配信で稼いだお金で、メイド喫茶"プリズムフィーユ"をオープンさせた。

幽明が手伝ってくれたので、オープンまでは時間も労力もお金も最小限で済んだ。


何故、メイド喫茶かって?

んー……ミレアがそう言ったから。

もう一回、昔みたいにアイドルをやってみようかなとも思ったけれど、

親友や新しい仲間達と、ひっそり楽しく暮らすのも悪くはないなって思ったんだ。

そう、私は自分の小さな世界をちゃんと守ろうと、部をわきまえる事にしたんだ。

まぁ、もう少し落ち着いたら、今度は、みんなに夢を与えるような配信をしてもいいかなとか思ってるけど――



という事で、午後からは、新人メイドちゃん達の教育があるからファイトなんだ。

頑張れ私。

オー!!!



私は、新居兼、私達のメイド喫茶に帰宅した――

一階がメイド喫茶で、二階が事務所と更衣室、三階が私達のマイホームで、屋上は休憩場。

幽明のつてで、土地込みのボロアパートを丸ごと格安で買い取ったのだ。


「ミレアー、ただいまー。もうすぐ新人メイドちゃん達来るよー。ミレアもメイド服に着替えてねー」


「よほー、トドリ―。了解でござりますた」

ミレアは、自分の部屋の中から、間の抜けた声を出した。

緊張感無いな……なんか変な日本語だし。



私は、先にメイド服着替える――

これでも、昔は、人気ナンバーワンのアイドルだった。

旬のアニメのヒロインの声を演じた事もあるし、ドラマだって出ていた。

ライブはしょっちゅう。

そんな私に、メイドを演じる事なんて、ちょちょいのちょいなのだ。


私は、パーカーとジーパンを脱衣所で脱ぎ捨て、

小柄な体に、童話のお姫様の様な、フリルの可愛いメイド服を着る。


鏡を見て、髪をオールバックに結い直す。

絹の様に滑らかで、キラキラ光る、くすみの無い自慢の金髪は、バレエダンサーみたく、丸くまとまった。

透き通るクリアな金の瞳に、目薬を差す。

ウインクを左右、三回。

パチパチパチ。

よし!可愛いぞ。

化粧下地をヒタヒタと顔や首に染み渡らせる。その上に、柔らかな色のファンデーションをパタパタと乗せる。

桃色のリップをポーチから取り出し、小さな唇に滑らせ、すり合わせた。

全部、最小限で良い。

主役は新人ちゃん達だ。私は基本事務処理の予定だし。

しかし、エチケットは大事。

故に、鏡を見て最終確認。


うん、オッケィ。


……でも。


そろそろ、オールバックやめよっかな……

心機一転てな感じでね。


それにしても、ミレア遅いな。何してるんだろう?



最近ミレアの様子がおかしい――

大体理由は知っているんだけど……

幽明から、こっそり聞いたから。それに、変なノートも拾ったし。


ミレアは、たぶん……


――恋している――


ふふっ


ミレアが恋しているだって。


あの、実は超真面目で、経験豊富に見せて、男の子の手も握った事が無い、大魔術師の賢者ミレアが恋だって……(私も握った事無いけど……)


ミレアの変な堅物さと、奥手さを知って入れば、ホントに嘘じゃないのかって思う。


親友としては、幸せそうだから全然いいけど。

でも、ミレアにあった底知れなさみたいなエネルギーが、全部、恋に移行しちゃったら、ちょっとやばい気もする。

あの子は、そう言う制御が下手だから、行く所まで行っちゃうタイプだ。


きっと、相手は大変だろうな。

幽明曰く、相手の名は、"ルオク"と言うらしい。

それも、結構おかしくて、

ルオクって言ったら、今はもう無くなってしまった……私の生まれ育った故郷の村に言い伝わる、不思議な神様の名前なんだ。

私の村というか、かなり広い範囲の異界に伝わる話なんだけど。

――特喜天王ルオク――

楽しみの為なら、なんでもする神様。

願いを叶えてくれる良い神様。

代償を必ず取り立てる恐ろしい神様。


そんな神様の名前をしているから、言霊で、あのミレアすら魅了してしまう存在になったのかな?一度見てみたいな。

ミレアの秘密ノート曰く、超超超美少年らしいけど。

親切に絵まで書いてあった。

――下手っぴ過ぎて笑えたけど、本当に好きなんだなって伝わる絵だった。



てか、ミレア遅すぎだよ――

新人ちゃん達あと三十分で来るのに。


「ミーレーアー、早くーーー!準備ぃーーー!」


私は、急かすように声を上げた。


ミレアの部屋の扉が開く。


「よほっ、お待たせー。おはようのっちゅ」

もしゃもしゃの髪で投げキッスする、恋する乙女。


「おはようのっちゅって……もうお昼だよ。もしかして、今まで寝てたの!?」


「そうだよー。えへ、昨日は夜中の三時まで、漫画を読んでたからね(キラ)」


はぁ、ミレアが、どんどん怠惰になっている。

きっと呼んでた漫画も恋愛少女漫画なんだろうな。


「キラッじゃないよ!今日から、新人ちゃん達来るから、しっかりしないと。

お店潰れちゃうよ?」


「大丈夫ブイ。だってトドリが店長なんだもーん。余裕余裕」

くるくる回りながら、牛乳を飲むミレア。


早速、店長の苦悩が身に染みてきた……


「ミレアだって、先輩のリーダーメイドとして、みんなの模範にならなきゃダメなんだよ?後輩ちゃん達が言う事聞かなくなったらどうするの?」

私はテーブルの椅子に座りながら、腕組みをして問い詰める。


「よほよほっ。そん時は、鎖でぐーるぐるの、魔術でびーりびり、のっちゅ!だよ」


こんな先輩絶対ヤダ。やっぱり、真面目なミレアを支えていた何かが崩れてる。

この感じのミレアが、理外の魔術を保有しているのは、さすがにシェアプリズム案件だわ……


「で……でも。ミコトちゃん曰く、新人ちゃん達、滅茶苦茶強いらしいよ!?

それに、かなり癖ある性格だって。クオリアちゃんみたいに、素直じゃないよ?たぶん」


クオリアちゃんは、既に働いてくれてる女の子。かなり可愛いし素直だけど、表情がかなり硬くてロボットみたいだ。というか、たぶん異界のアンドロイド。気配からそんな感じ。


今日来る、慈十ジトウ キョウさんと万上 リョクさんは、実は顔はまだ見ていない。ミコトちゃんのお願いの手前、雇入れを断れなかった。だから即採用の今日が初出勤。なんと奇遇にも、クオリアちゃんの友達だったみたいだからまだ安心だ。

断れなかったのは、ミコトちゃんが、結構根に持つタイプだから。

シスイの困った感じを見てたら、良く分かる。一生いじられてるもん。

あ、ちなみに私はシスイが滅茶苦茶好き。

かっこいいし、優しいし、マトモだし。実は結構タイプなんだ……



ミレアは、強いと言う言葉に反応した。意外とそういうプライドは高い。

「それは困っちゃうわねー、でも、お姉ちゃんとしての威厳、発揮しちゃうんだから!ぜんっぜん大丈夫!」


「だから、その威厳を発揮する為に、早く着替えて欲しいの!」


「んもーーー、まだ、朝ごはんも食べて無いのにー!ケチトドリー」


ミレアは、ボサボサの髪とパジャマ姿で、フローリングをぴょんぴょん跳ねて、駄々をこね出した。


はぁ……


――こりゃ、先が思いやられるな。


その後――

私は、急いでミレアに、お昼ご飯を作り、その間に、メイド服姿に着替えさせ、

化粧をさせた。


洗面所で、変わった自作の歌を熱唱しながら、用意するミレア。


「よしっ完璧!今日も私、ピカイチカワイイのっちゅ!」


私は、近寄って、ちゃんとメイクしたか確認する。


濃いピンクの長髪をポニーテールにし、ところどころに入るオレンジのメッシュには動きをもたせてる。

蒼白の肌には、レッドのチークをのせて、いつも通りあざとさをアピールし、

淡いピンクの瞳に被さる長いまつ毛は、ビューラーでくるんと上向きに、

その瞳の奥は、生まれつき、文字や記号がランダムでぐるぐるしている。今はハートだ。


ミレアは、私を見て、グーっとしてウインクした。



「うん、可愛い可愛い。それももう、昔から知ってるから、早く食べてご飯」


私は、ミレアの背中を押して急かす。


「えへへ。トドリ、マネージャーさんみたーい。ふぃー美味しそう!いっただっきまーす!」


誰が、マネージャーだ。


そんなこんなで私は、午前には既に大忙しで、そのまま休む間もなく午後になり、

新人メイドちゃん達を迎えた。




午後――


店のドアが開く、呼び鈴の音が鳴った。


「ミレア来たよ!いこ」


「あーいあいさー。わっふーん」


私達は、一階に降りる。


そこには三人の女の子達が立っていた。

全くもって雰囲気のバラバラな女の子達。


「店長、ミレアさん、おはようございます。こちらが私の友人の、慈十 叫さんと万上 リョクさんです」


クオリアちゃんが、トワイライトみたいなグラデーションの長い髪を、ジトっとしたライムグリーンの瞳にばっさりとかけ、人形みたいに喋る。


「おはよう、クオリアちゃん。ミコトちゃんから聞いてるよ。こんにちは、ジトウさん、万上さん」


「クオリアちゃんおっはよー。今日も可愛いねーのっちゅ」


ミレアはクオリアちゃんをムギュっと抱き締めた。ミレアのクオリアちゃんの扱いは、人形そのもので、抵抗しない事を良い事に、色んな髪型に変えたり、色んな化粧を施したりと、好き放題実験する。


「あっどうも。俺ん事はキョウって呼んで下さい。配信見てましたよ。やっぱ二人共可愛いっすね」


ふーん……予想外だ。

この子、シェアプリズムのメンバーとの大激闘に、急に現れた女の子じゃないか。

私達の未知災の異形を圧倒してた、超バイオレンスな子……

ショッキングなオレンジ髪を外ハネにし、タイトなアクアマリン色のジャージを着こなして、琥珀色の凛々しい瞳を輝かせていて、かなりボーイッシュ。

でも、よく見れば、かなり品のある顔立ちのお嬢様にも見える。ミコトちゃんの従姉妹だけあって、何処か似てる。


見つめている内に私は、この子の大激闘を思い出した。

たかだか木材一つで、禁忌の魔獣を速さでも、気迫でも圧倒し続け、あげく見た事も無い、創作魔術でほぼ一人で倒していた……


正直、あの光景は身震いする――


……怖くなってきた。


「キョウちゃんでいいかな?かっこいいね……あ、ごめん、かわいいの方が良いかな?」


「大丈夫っすよ、トドリさん。全然どっちでも嬉しいっす」


新たなスタッフ、バイオレンス少女キョウちゃんは、高い身長から私を見降ろして、爽やかな笑顔で笑った。

意外と、しっかりした感じの子だ。

ちょっとかっこいいし……


「よほよほー!イケメン美少女なりー!キョウちゃん、私が今日から、あなたのメイドお姉ちゃんだからね?よろしくのっちゅー」

絶賛、少女漫画にハマり中のミレアは、キョウちゃんに飛びつき、うふうふと周りとをウロチョロしている。キョウちゃんはちょっとタジタジだ。


「あーミレアさんっすね。動画のまんまで変わった人っすね。はは。メイドの事とか全然わからないんで、よろしくお願いします」


頭を、ペコっと下げるキョウちゃん。


「任せなさい!えっへん」


すぐ、ボロが出そう……



「私は万上リョクでーす。リョクって呼んでください。お二人の配信は大好きで、

ずっと見てました。是非、仲良くして頂ければ幸いです」


この子は、ミレアと同じタイプの子だ。一見普通だが、底知れない何かを隠している。眼がそんな感じ。


スラっと四肢の長い高身長を、クラシカルな黒を基調としたワンピースで包んでいる。

黒曜石みたいな艶やかな黒髪を、垂れ幕みたいに、だらーと背中まで落とし、にたーっとした笑顔。

ラインの揃った前髪は、ギャップの幼さを演出して非常に可愛い。

それらの黒が、白磁のような肌をより強調して、影のあるご令嬢って感じだ。

それに反して、ペリドットの宝石みたいな緑の瞳と八重歯が、とても人懐っこい。

片方には眼帯をしている。

が……そこから、感じた事の無い、寒気がする気配が漂う。

上品に口元を抑える手にも、同じ気配の、目のような文様があり、一つの生き物の様に、不穏に色を変えている……



……この子も、別の感じで怖い。


……私、やってけるのかな。




取りあえず、ちゃんと挨拶しよう。


「じゃあ、リョクちゃんでいいかな?なんだか、ちょっと影のある、お嬢様みたいで凄く綺麗だね!メイド服凄く似合うと思うよ。」


私はリョクちゃんに微笑みかける。

リョクちゃんは、何もしていない私を許してあげる、みたいな眼で見て微笑む。

お嬢様でなく、女王様っぽいな。


「こいつ、ホントにお嬢様ですよ。呪われた一族のですけどね!ふはは!なぁリョク!」


呪われた一族!!!さらに、怖い!!!店長ってこんなに大変なの!?


「ちょっとキョウちゃん、変な事吹き込まないで!」


ふんっと、そっぽを向くリョクちゃん。二人共すごく仲良さそうだな。親友って感じ。

クオリアちゃんは相変わらず、ぼーっと上の空だけど。


「おっほ、私と同じ匂いがするわリョクちゃん!では、質問です!恋についてどう思すか!?」


いきなり変な質問するなよミレア。


「え……恋ですか……そうですねー……裏切りには応じた罰を……ですかね?その分、答えてくれたら……全部あげたい……かも?」


あぁ……やっぱちょっと過激なタイプだ。


「……大正解のっちゅーーー!!!すごく気に入ったわ。あたしキュンときちゃった!」

ミレアの瞳がマルに変わる。


「ありがとうございます……ちょっと嬉しいかも」

ミレアとの相性は良さそうかも……


「リョク、全部あげるって何をあげるんだ?」


キョウちゃんが、笑いながら茶々を入れる。


「うっさい、キョウちゃん!スケベバカ!」


顔が赤いな。案外、女の子らしくて可愛い子だな。言葉が丁寧だし。


「じゃあ、自己紹介も済んだ事だし、早速着替えて、練習しよう。その後ビラ配り!

クオリアちゃん、更衣室案内してあげて」


一応、仕事だ。テキパキ行かなきゃ。

アイドル時代の過酷な日々を思い出す。


「はい、店長」

クオリアちゃん、トテトテ歩き二人を誘導する。


私とミレア二人だけになった。


「ミレアどう思う?」


「んーーー、いいんじゃない?」


「ざっくりだね はは」


「私は、トドリが楽しそうならなんでもいいのよーーー」


ミレアは、にこっと私に微笑んだ。何にも考えてないようで、私の事をずっと考えてくれてきた、大親友。彼女がいなければ、今、私は笑えていないだろう。


「ありがとね。ミレア」


「どういたしましてのっちゅー」

ミレアは私の頬を両手で抑えて、ぶるぶるっとこね出した。


「恥ずかしいからやめてよ、もう」


私は、仕方ないなーという風に頭を掻いた。


「やめません、私の、ばぶちゃん」


私は赤ちゃんか!




ミレアとじゃれ合ってる内に、三人の準備が終わったみたいだ、階段で降りてくる音がする――




これは――


私は、三人組のあまりの尋常では無い可愛さに、思わず固まってしまった。


ボ―イッシュなキョウちゃんは、メイド服とのギャップで、妙に色っぽい女の子と変化した。

露わになった、太ももを照れくさそうに隠す、おしとやかさが、本性のお嬢様を思わせる。



リョクちゃんは、その長く白磁のような四肢を生かした、立ち姿がなんとも恐ろしい程の威厳で、ビラ配りで立てば、きっと一番目立つだろう。

ビラ配りどころか、ファッションショーで歩こうとも、他のモデルには負けないかもしれない。

怪しく揺れる垂れ幕みたいな髪と、メイド服に似合わぬ不穏な笑みが、逆に、虚構のように日陰に佇む高貴でいわくつきな令嬢を思わせる。

ささる層には、かなりささるな。


その間に立つ、クオリアちゃんは、メイドとしては少し大きめな二人のバランスをとる様に、小さく美しくまとまっている。

まるで、曲線美に生涯を懸けた偉大な芸術家の、晩年の集大成のマリオネットみたいだ。

この子のトワイライトのグラデーションの髪は、いつ見てもメイド服との相性ばっちり。ビラ配りでも、他の店のメイドより、いつも一番映えている。



私は思った。

これでも、芸能界で様々な美を見てきたが、この三人のコンビは、ほぼ最高峰に位置するかもしれないな。とんでもない新人達だ。


「どうすっか?なんか変じゃないですか俺?」

キョウちゃんが言う。


「私もー、私にしてはちょっと可愛すぎる衣装かも……」

リョクちゃんは、あちゃーとした顔をしている。


「私は特に、いつも通りですが、二人と並ぶと見劣りするかもです……」

クオリアちゃんに、不安が彩る。


私が言う前に、ミレアが叫んだ――


「ちょーーー可愛すぎるよーーー!!!よよよよほほーーー!!!」

ミレアは、祈る様に手を組み合わせ、瞳に星を散らしている。

これは、ミレアの一番の賛辞。

文句抜きの感激だ。


「うん!!!ホントに凄く綺麗だよ君達!!!もはや、ビラ配りに立たせて、人だかりが出来ないか心配するぐらいだよ!」

私は腕を組み、感心しながら頷く。本当にマネージャーかプロデューサーみたいだ。





「まじっすか!?やーりぃ。ちっと股がすーすーするが、悪くない気分っすね。バチバチいくか!」

バチバチって何?あと、キョウちゃん、ガニ股は辞めて欲しいな。


「ホントですか!?嬉しいなー!ねぇ、キョウちゃん、オタクの人を、沢山配下にした方が勝ちね?」

ちょっ、なんか趣旨勘違いしてるよ!リョクちゃん。


「その時は、クラシックをかけてダンスでもしましょう……るーららー」

勝手に踊り出さないで、クオリアちゃん。マイペースの不思議っ子なんだよな、この子。


「ぜーんぶやっちゃいなさい!!!うふふ」

ミレアごめん……君、ダメな先輩だ。




「こらこら、みんな。個性を出すのは、基本を押さえてからだよ?礼儀、愛想、おもてなし、これをきっちり覚えよう。そうすれば、君達は想像以上に、いや、信じられない程に、きっと誰よりも可愛くなれるよ?協力してくれるなら、店長の私が、きっとそうして見せるから!」


私は店長として、意を決し、少しきついかもしれない言葉を熱意と共に吐いた。



「あいよートドリ店長」

キョウちゃんは、少しめんどくさそうながらも、しっかり応答してくれた。



「りょーかい。トドリ店長」

リョクちゃんは、軽いノリだが、協力的な笑顔だ。


「失礼しました。仕事をきっちりこなします。トドリ店長」

クオリアちゃんは、分かりづらいが、最初より素直になっている。



ウザがられると思ったけど、確かに今、気持ちを返してくれた気がする。



「みんな……」



……なんだか、愛する生徒を持ったみたいだ。初めての感情が胸に沸く。




「トドリ店長に、ぜーんぶ任せれば、おっけぃだね!頑張れピッピのピーっちゅ!」


ミレアが一番の問題児かもしれない。



「ミレア……き・み・も、先輩メイドとして頑張るんだよ?」


「あいあいさーです、ごしゅいん様」


私は、参拝の印か!!!


「ミレアさんウケる」

リョクちゃんが手を叩き笑う。


いきなり、後輩に笑われてんじゃん……




「じゃあ、せっかくです。みんな挨拶から、やってみましょう。私に続いて」

私は、手をパンパンと叩き、切り替えを促す。


「手を前で丁寧に組んで、背筋を伸ばし、相手の目の少し上を見ながら、敵意の無い笑顔で、(お帰りなさいませ、ご主人様♡)はい、こんな感じです」


おぉーーーと、少しどよめく四人組。


「じゃあ、みんなもやってみて。同時でいいから。じゃあ、いくよ?はい、せーの」


「うううぅ……っす」

猫背のまま、軽い会釈をするキョウちゃん。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

言葉は正しいが、完全に下僕を見る目のリョクちゃん。


「お帰りななさい……ませ……いや、お帰りなさいませ……うーん難しいですね、ご主人様」

融通の利かないAIみたいなクオリアちゃん。そして、何故ご主人様に共感してもらおうとしたの?


「よほほ☆おっかえりーん、ダーリン。大好きのっちゅー」

ミレアは……もう、手遅れだ。




これは、相当骨が折れるぞ――


まぁでも、初日だし。堅苦しいのはよそう。


「み……みんな……上手じゃないか……才能あるよ」

私は苦笑いで拍手する。


みんなは、やっぱりー?と笑顔になりお互いの挨拶を褒め出した。


世界を変えるって言ってた自分が恥ずかしくなる。

目の前の数人すら変えるのが、こんな難しいなんて。


少し落ち込む私。


「俺、初バイト、二人の店でよかったすよ。こんな俺でもやってけそうなんで」

キョウちゃんが、ちょっと照れくさそうに言った。


「ホントホント、二人共、超優しいし、可愛いし、絶対こんな良いバイト無いよね?」

リョクちゃんは、影の無く笑う。


「はい、トドリ店長とミレアさんは、良い人なので、働きやすいです。頑張りたい気持ちが沸きます」

クオリアちゃんは無表情で、拳を握る。


「でっしょー!?トドリは最高なのー!」

ミレアは、みんなに向かって大袈裟に笑う。


「……みんな」


ちょっと、涙でちゃった。恥ずかしい、店長なのに。一番に泣いちゃった。

今までの色んな事が、今噴き出ちゃった。


「ちょっと泣く程嬉しいんすかトドリ店長、なんか心配っすよ俺?」

キョウちゃんが心配そうな顔をしてくれた。


「あ……ごめんごめん、ちょっと思い出し泣き。変だよねー はは。気にしないで」


と、私は言ったのだが、皆は私を囲み、心配そうに大丈夫ですか?と声をかけてくれたり、背中をさすってくれた。


「ありがと、みんな。研修の邪魔しちゃってごめんね。取り合えず、一旦、ビラ配りでもやりに行ってみよっか?やってみて覚える事もあるだろうし。お客さん来たら、私とミレアとクオリアちゃんで対応するから」


「はーい、トドリ店長。配りまくります。手裏剣の如く配りまくりまーす。シュシュシュシュシュッ」

リョクちゃんは無邪気な笑顔で忍者の真似をする。ちょっと素が出て来た。


「じゃあ俺は、バイクでバーっとばら撒くぜ!拾いたい奴は拾えっってな!ははは」

自由だな君達。


「あわわわわ、二人共、ビラは大事にしないとー……」

クオリアちゃん、自由奔放な二人に戸惑う。


「もっと良い方法があるのです!まとめてポストに入れちゃいましょう!うふふ」

なんてやつだ、ミレア。


「はいはーい。私はみんなを信じてるよー。じゃあ、そろそろ時間勿体ないし、出発しまーす」


私は、それぞれに日傘を支給し、ビラの段ボールを持って、電気街へ繰り出した――





電気街中央通り――


私達は、淡い陽射しが降り注ぐ昼過ぎ、街路樹の影が濃くなった歩道に並んでビラを配り出した。


意外と……人が素通りする。


みんな、結構自分にしか興味ないもんなんだよなー。スマホ見てる人が大半だし。


キョウちゃんと、リョクちゃんは駄弁りだし、クオリアちゃんは木に止まる小鳥をじーっと見てる。


「ねぇミレア。どうしよっか?場所とか変える?」


「同じ場所で顔覚えて貰った方がいいんじゃない?」

素の顔で言われた。

いきなりめっちゃマトモじゃん。たまに、テンションわからん。


「……だよねー」

でも、この一時間に時給3000円として、掛ける3で、一万円飛んでるんだよね……


アイドル時代の貯金と、異形配信で、お金はあるけど、勿体ない気分に苛まれる。


その時だった――


小太りのチェック柄の服を着た、眼鏡の男性が、十人程の様々なオタクっぽい人達を連れて、キョウちゃんの所へ、進軍するが如く向かっている。

ガリガリだったり、無駄にデカかったり、頭がブラウン管テレビみたいな変なコスプレしてたり、凄く変わった集団だ……


ひと悶着ありそうだ……


「ミレア、ちょっとまずいかも行こ」


「よほ、バトル開始だね」

言ってる場合か!


その時だった――


先頭の男が叫ぶ。



「物申す!!!!!」



それが、第一声だった。

通行人達は当然避ける。


キョウちゃんは、オタク達を前にして、仁王立ちする。


「あんだ?」


キョウちゃん……それじゃチンピラだよ。


「吾輩は健司隊長なり、吾輩の同胞に変わり、お主に一言、申したくて参った」


私とミレアはギリギリの距離で様子を見る。最悪、オタク達を守れる位置で。


「キョウちゃん、この人彼氏?」

リョクちゃんは、ケラケラ笑いながら言う。


キョウちゃんは、健司隊長の目を貫かんとする程に、点で睨みつけ言う。

「いいぜ。でも、その一言によっちゃあ、お前どうなるか分かってんだろうな?健司隊長殿よ」


キョウちゃんは、健司隊長の同胞が乗る、ボロボロのママチャリのハンドルを両手で持ち、あっさりと垂直に曲げた。


「ふふぃ……」

幾人かが、腰を抜かして尻餅をつく。


「そんなモノを曲げても、我等の意思は曲げれまい……」

健司隊長は遠くを見つめている。

微妙にかっこいいの何?


「へーーー男らしいじゃん、あんた。私の下僕になる?」

リョクちゃんは、健司隊長に近寄り、怪しげに見つめて、そっと首を傾げた。


「魔女よ……静まれ」

健司隊長は、静かに一言。まるで、声だけ聴けば、アニメの主人公じゃないか。


「誰が魔女よ。キョウちゃん今の聞いた?こいつ結構飛んでるよ?ははは」


「お二方、落ち着いてくだい。こういう時のマニュアル私読みました」

今度は、クオリアちゃんが、前にでる。


「お仕事探しで悩んでいるのですか?ここにはございませんよ、おぢさん」


あぁひどい。今のはひどい。何のマニュアル呼んだの?


「よほっ!今のは、私が貸した同人誌のセリフ!」

ミレア、あんたの仕業か……


「……可憐な魔法少女よ、その年で弱点属性を見抜くとは、あっぱれである。敬意を払おう」


弱点属性って、かっこよく言ったね。



「はぁ……やはり悩んでいるのですね。でも、もう少し痩せないと、メイドは無理そうですね……残念です」


……ひどい。


「クオリア……さすがに可哀想だぞ?」

キョウちゃんはそう言って、落ち着けと、ペットの様にクオリアちゃんの髪を撫でる。

当の本人はきょとんとして、健司隊長のお腹を見ている。



健司隊長は、我が最強新人メイドちゃん三人組に囲まれた。


ごめんね……ご愁傷様。



「……で、俺に一言ってなんだよ?早く言え」

キョウちゃんは、健司隊長を上から見下ろす。

琥珀色の瞳がこの距離から見ても、かなり鋭く光っている。


健司隊長軍団も、前ににじり寄る。

意外と骨があるな……


冷静に考えたら、何この状況。


ミレアの瞳の文様は、剣と盾に変わり、煌めいている。

観戦をとても楽しんでいるみたいだ。


健司隊長が、禁忌の魔術を口にするような、重い口どりで言葉を吐き出した。


「そなたは……」


「おぅ、俺がなんだ?」


「そなたは……」


「早くいいなさいよ」

リョクちゃんは、いーっとしだす。



健司隊長の眼が閃光する――




「そなたは……星降る丘に咲く幻花より美しい……どこのメイド喫茶でござるか?」



なんだよそれ!!!



健司隊長含め同胞達は、一斉に跪く。

まるで、異星間の同盟が結ばれたような、映画的な光景だった。


「ふははははははっ、キョウちゃん告白されてやんの!!!」

リョクちゃんは笑い過ぎて、お腹を抑え地面に跪く。


キョウちゃんは、顔を真っ赤にして固まっている。


「ジトウさんやりましたね!あなたの恋、勉強になります」

クオリアちゃんは、まぁ素敵!と、花束を駆けるように、踊り出す。



「あぁぁぁぁ!!!!もう!!!全員黙れ黙れ」

予想外の愛の言葉に、パンクしてモジモジしている。


「怒れる花よ……どうか教え給え」


「お・ま・え・が一番黙れ!健司」


そろそろ、タイミングだな。このままだと本当に追い払っちゃう。


「トドリ、今日は貸し切りかもですね!ふふ」

ミレアが両手を双眼鏡のように、しながら言う。


「そうだね。結果オーライなのかな?取りあえず、行こうミレア」


私とミレアは、キョウちゃん達の所へ向かった。


「やっほー皆さーん。そこにいる、すんごく可愛い女の子達は、私の店のメイドちゃん達だよー」


私は、アイドル時代の対応で、健司軍団に呼びかけた。

健司軍団は少しどよめき出す。

当たり前だ、この人達の何人かが来ているアニメのシャツのキャラの声優をやってたぐらい、私はその界隈では名は知られているんだ。



「あぁ……やはり、奇跡の元を辿れば、女神がいらっしゃった」

健司軍団一同は、修道女のように、私に祈った。

ちょっと大げさだなぁこの人達。はは



「う……うん。ありがとー。君達も凄くかっこいいね(嘘)出来ればなんだけどー……そんなかっこいい君達と、涼しい所で、もっとお話したいかも私達……だから、どうかな?私達全員とお喋りできて、冷たい飲み物がある、オープンしたての最高にキュートなメイド喫茶"プリズムフィーユ"に来てみない?初チェキとかどう?」



台本を一気に読み上げるように、私は言った。

勿論、舞台並みの演技を交えて。



健司軍団は喝采を上げる。

それはまるで、活気ある村の祭りを祝う若者達の様だった。



「では、キョウちゃん殿、天啓故、我はこれにてあなた方の配下となります、以後お見知りおきを」

健司隊長はキョウちゃんに一礼した。


私は、キョウちゃんに目配せする。

キョウちゃんは、しゃーねーなーと言う顔をした後、


「あぁ……勝手にしろ。茶ぐらいは出してやるよ」

完璧なツンデレだ。ナイスキョウちゃん。サービス的に当たり前だけど。


「いぇーい、配下ゲットォ!!!結構面白いね電気街」

リョクちゃんの甲高い笑い声に、街路樹の鳥が飛び立った。


「こんな大漁凄いですね。餌がいいと、魚は沢山来ますね」


「クオリア……あいつらは魚でも、俺は餌じゃねーぞ」

キョウちゃんは半ギレだ。


「星降る丘に咲く幻花だもんねー」

リョクちゃんが、キョウちゃんの肩を揉みながら言う。


「美しい響きです」

クオリアちゃんが言う。


「うっせぇ」

キョウちゃんが吐き捨てる様に言い、電気街のビルに挟まれた狭い空を見上げた。



その時――


色んな意味で気迫がある集団達の中に、半泣きの少年が飛び込んで来た。


「まっ、まーったーーー!」


みんなの視線が、その中性的な少年に集まる。肩までの長い髪に、凄く大人しそうな表情と、冴えないシンプルな服装。


「ふっ、ふぇっ」

少年は、全員の視線に圧倒されて、勝手に尻もちをつく。


「まーた、変なガキが増えたぜ?」

キョウちゃんが呆れた様に言う。


「あら、結構可愛いじゃない。蹴ったら飛んでっちゃいそうだけど」

リョクちゃん、蹴ってあげるな。


案の上、少年は座ったまま震えている。


「おしっこ漏らしそうですね?」

クオリアちゃん、さすがにそれは可哀想だよ。


「貴殿は何者でござるか?」

健司隊長軍団は、その少年を、キョウちゃんの護衛隊であるかのように取り囲む。


「ぼ、ぼくは……水鏡ミカガミ チヒロです。ぼ、ぼくも……綺麗なお姉さん達の所に連れてって下さいぃ!!!」


長いまつ毛は既に濡れている。ホントに男の子か?


「正直でよろしい」

リョクちゃんは、ぐぅっとチヒロ君の顔を覗き込む。


チヒロ君は、恥ずかしがって、地面のアリを見ている。


「その勇気と無垢な心、同士とみたり。チヒロ氏、我が同盟で良ければ、好きについてき給へ」


女の子と言っても、過言で無いような、その少年は、とても嬉しそうに奇天烈な集団、健司隊長軍団の最後尾に加わった。



「じゃあみんな行こっか?」


私は、全員を見渡し、ニコッと笑う。

そこにいる、全員が同じく、頷いた。


こうして、私達メイド一同は、健司軍団と共に、我がメイド喫茶"プリズムフィーユ"の帰路を辿った。



これから忙しくなりそうだ――



――



ふと、お店への帰り道、私とミレアの隣を歩くキョウちゃんが言った。


「そういえば、シェアプリズムってボランティアにも、二人共いるんすよね?」


え!!!私とミレアは顔を見合わす。


「え……キョウちゃんなんでその名を?」


「なんでって、俺とリョクとクオリアもメンバーですし。ミコトのやつが、

店長達のメイド喫茶に紹介する代わりに、シェアプリズムに入れって条件だしてきたんすよ。まっボランティアぐらいならいいかなって」


リョクちゃんと、クオリアちゃんも、うんうんと頷く。


えええええええ!!!!!


そう言う事か……


「ミレア……」


「よほ……ミコトちゃんにやられましたね」


これじゃあ、話が変わってくる。


新人バイトちゃんどころか、宿命を共にする仲間になるってわけなんだから……


「ミコトのやつなんか企んでるんすか?あいつわけわかんねー事するからなー」


「あぁ……まぁね。また、ゆっくり話すよ」


「そうっすか。でも、悔しいけど、あいつに感謝しねーとな。なんか俺、今日結構楽しいですし」

キョウちゃんは、私を見て、ちょっと信頼した眼差しで笑ってくれた。


「私もだよ」


小さく聞き取れない声だったかもしれないが、確かな気持ちを吐いてみた。


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