慈十 叫のシャウト・オブ・ジョイ
「頼むよ頼むマジ頼む!!ミコト金貸してくれっ!!!」
俺、慈十 叫は年下の従姉妹の女の子に、金の無心をして、広い屋敷の広間で土下座している。
しかも、友達 万上 リョク(バンジョウ リョク)と魔法少女クオリアの目の前で。ただただ、恥ずかしげも無く……
「いいよ。象かウサギの真似してくれたら」
無表情で、三白眼の淡い紫の瞳をぼけーっと広げ、ミコトは俺にそう言ってきた。
あ、そうだ。こいつ、ぶっ飛んでたんだ。
リョクとクオリアは、初めて合う俺の従姉妹の色んな意味での強烈さに、黙り込む。
ミコトは、紫彩のビスクドールみたいな見た目に反して、異形霊媒の名家の当主だ。
達人級のエクソシストですら、想像できない程の、三体の理外の存在を顕現できる能力を有している。
「あほか。俺の、この見た目で、そんなサファリパーティーみたないなショーできるかっ!」
俺は、俗に言う不良だ。つっても、その皮を脱いだら、ミコトと同じく、ただの名家のお嬢様だが。家の奴等の言いなりになって、自分がおしとやかなお嬢様になってしまうのを想像すると、マジで吐きそうに気持ち悪ぃ。
「そう。じゃあ……だいだらぼっちでもいいよ?」
ミコトは、豪勢なソファに怠惰に乗っ転がり、肘をついて言った。
こいつ、あんまり会わねー内に、超生意気になってんじゃん。
俺の、ショッキングオレンジの外ハネ髪が、怒りで、より逆立っちまうぜ。
「ねぇ……キョウちゃん。象にしときなよ」
リョクが、ペリドットみたいな透き通るグリーンの瞳で、俺に諭す。
二つで見つめられたらきっと陥落していただろう。しかし、一つは眼帯をしている。
「そうです。象が無難です」
クオリアは、白磁の人形みたいな見た目に、トワイライトのグラデーションの長髪をぼさっと顔に被せ、感情無く言った。
「あほかっお前等、俺の象見たいだけだろ?死んでもやるか!てか、だいだらぼっちってなんだよ?ミコト……お前の感性がマジわかんねぇよ!」
きっと俺の額には、血管がブチ切れそうに浮かんでいるだろう。
アンバーな瞳からは、怒りの思念が駄々洩れかもしれない。
「キョウ、大人になりなよ。お金を借りるならそれなりの事をしないといけないのは
世の中の常識だよ?象かウサギかだいだらぼっちか、あるいは魔法少女スピカ・マインドか……いずれかの真似をしないといけないのは当然でしょ?」
ミコトはそう言って、蛇の様にくねり、ソファに顔を押し込めた。
未曾有の変人。
こんな奴に、日本の異形霊媒が結構懸かっている。まさに、悲惨な現実。
「グフッ」
リョクは耐え切れず笑う。両手で口を隠すが、その手の甲の、不吉な目の文様の色が、ミコトに反応して変化している。
こいつもこいつで、名を伏せた方が良い様な、得体の知れない禁域の獣達の女王だ。
「……」
クオリアはライムグリーンのジト目で、俺達をじーっと眺めている。
何を考えているかわからんやつ。
ただ、こいつは原初の魔術を自在に扱える程の大魔術師だ。
何者かは詳しくは知らない……
あぁー……こいつら、連れて来るんじゃなかった。
なんかやりづれー。
てか、ミコトなんかに金借りに来るんじゃなかった。
イラついてきた。
「ミコト、お前の常識クソみてーだから、お前がもっと世の中見ろ!かつての姉ちゃんからの忠告だ。てか、一個オタクっぽい望み増えてるしよー……」
「ムカムカ―……いいじゃない……なんだって。バカ……バカボケ」
ミコトは顔を埋めたまま、ドンドンとソファーを叩く。
慣れない罵りがちょっとカワイイが、今こいつにその気持ちを悟られたら、きっと取り込まれてしまう。
俺は、先程からミコトの傍らに立つ、唯一の常識人のノウコ姉ちゃんに言った。
血は繋がっていないが。
「もぅ……マジで話になんねーよ!ノウコ姉ちゃんこいつどうにかして!金とか以前に、こいつ、滅茶癖強い、我が儘になってねぇ?」
ノウコ姉ちゃんは、アンドロイドみたいに、完成された長い四肢をあたふたさせ、気まずそうに言う。
「あ……いや……そこがかわいいんです……いえ……とにかく、久しぶりに、みんなでゆっくり話せるんですから仲良くしましょうよ!そうだっ!私ケーキ取ってきますね!」
ノウコ姉ちゃんは、月光を吸った夜のような黒髪をたなびかせ、急いでどっかに行った。
はぁ……この人にも問題あるな。
「て・か・さ!前に、お前等を助けたよなぁ俺。しかも、お前が無茶言いやがって、幽体のまま召喚されて、底知れねーバケモンといきなり戦わさせたよなぁ!?あの報酬は?」
マジで、この件に関しては、報酬貰わねーと、慈十家を通した依頼だったら、億発生すんぞ、こら。
「まぁまぁキョウちゃん。こんな小さな女の子に、カネカネ言ったり、恐い口調使うのは良くないよ?」
リョクは、女神みたいに優しく眉を下げ、俺の肩を抑える。
こいつの、こんな所は結構好きなんだが、今はその願いは聞けねーな。
リョクはミコトを知らねーから、そう言えんだよ。
「……忘れてた、ふふ……」
ミコトはクスクス笑いながら嘲笑するように言った。
ほら、イカレテやがる。
他人の命懸けを、従姉妹の命懸けを、何とも思ってねー。
「まぁまぁ、ジトウさん。お金なら一緒に稼ぎましょうよ。私良いバイト見つけましたし。結構稼げますよ?」
クオリアは西洋の制服みたいな、黒いドレスを、ふわりとさせ、一回転した。
え……今、なんで回ったの?
「バイトー?そんなもんやってられっか!なんで俺が他人に頭下げて金貰わなきゃなんねーんだ」
「ふふっ、矛盾してるよキョウちゃん」
リョクは、八重歯を見せクスっと笑った。
「お待たせしましたー。今日は皆さんがいらっしゃるって聞いていたので、私とミコト様で、午前の内に、一緒に作ったケーキです!!!」
ノウコさんは、大きなホールケーキを嬉しそうに持ってくる。
「えーーー!すごーーい!超美味しそうじゃん!ありがとうございます、ミコトちゃん、ノウコさん!」
リョクはキラキラと目を輝かせて、丁寧にお辞儀をする。
コイツの、こういう社交的な所は、やっぱお嬢様だな。
一応名家出身だしな、呪われた一族だけど。
「これは、見事なセレブレーションケーキですね」
クオリアのジト目が少し揺れる。
変な言い方だなぁ。
一応、俺も礼言うか……
「……ん……まぁありがと、ノウコ姉ちゃん」
俺は、頭を掻きながら、礼を言った。
クソ―なんかずりー気がするんだよなー。
俺が頭固いだけか?
「どういたしまして皆様!私と、ミ・コ・ト様が頑張って作ったんですよ!」
ノウコさんが、ソファーに突っ伏した、ミコトを見た後、意味ありげに俺を見た。
そう言う事か。
「はぁ……ミコトありがとよ。まずまず、うまそーじゃねーか」
少しぶっきらぼうに、礼を言った。折れただけも評価して欲しい。
チラッと俺を見るミコト。
「ノウコ、キョウにはイチゴ乗せないで。ククッ」
クソみてーな事言って、笑ってやがる。ブチ切れそうだ。
しかも、みんな半笑いじゃん。
マジで、俺の事舐めてんじゃねーか?イライラし過ぎて、何が何だかわかんねぇ。
「キョウちゃん深呼吸……」
いきなり、リョクが耳元で囁いた。
溶ける様な静かで優しい声。恥ずかしいぐらいに優しい音。
俺の怒りの感情は、全く別の感情に変換された。
一生誰にも、言う事は無いだろうが、ここで言ってやる。
実は、俺とリョクは一回キスした事がある……
それから、なんかこういう事をされると、俺はおかしくなるんだ。
別に付き合ってる訳ではないんだが……
「……イチゴはいらねーよ。俺には甘すぎるかんな……」
俺は拳を握り、薄っすらミコトに笑いかけた。
「キョウちゃん偉い!」
リョクは心底嬉しそうだ。
「ノウコ……私もイチゴはいらないわ。甘すぎるかんな」
ミコトは、俺の口調を真似をした。
どういう感情か、何をしたいのか全く読めない。
でも、嬉しそうだ……コイツ。
「そんなぁー、みんなでイチゴも食べましょうよ?せっかく実ったのに、捨てられるのはイチゴさんが可哀想ですよ?」
ノウコさんは、母親の様に俺らに言った。
「……じゃあ、食べる」
早。
ミコト喰いたかったんじゃねーか。
もう、なんでもいいや。
好きにさせてやろう。
――その後、俺等は意外と上手いケーキに黙々と舌鼓を打ちながら食べた。
「なぁ、クオリア。さっき言ってたバイトってなんだ?」
「あぁ、あれですか。メイド喫茶です。家から近い、電気街で募集してたから、応募してみたら受かったので、週に二回行ってるんですよ。私に足りないのは、他人に対するサービス精神だと思いましたので」
「お前マジか!?超意外じゃん」
こいつなりに結構考えてるんだな。全ては愛する人の為らしいけど。
確かユウミョウとか言う名前の子だったか?また、会えると良いな。
「偉いですね、クオリアちゃん。というかクオリアちゃん、魔法少女スピカ・マインドに似てますね!ねぇ、ミコト様」
ノウコ姉ちゃん、完全オタクになっちまったなー……
昔は、この人以上のお姫様はいないって感じの人だったのに。ミコトの影響だろうな。
「うん、そうね。二期の作画に似てる……ねぇ、あんた。ティンクルプリリズムーって叫んでみて」
唐突だな、おい。
ミコトは、テーブルを登り、クオリアに顔を近づける。
礼儀も何もあったもんじゃねぇ。
「クオリアやらなくていいぞ」
俺は、即反応した。
「ケーキのもてなしがありますし、それくらいやりますよ」
クオリアはふふっと鼻で笑う。
「ミコトちゃんって不思議っ子で超可愛いですね。ノウコさん」
リョクはミコトの横顔を愛しそうに見ながら、ノウコ姉ちゃんに言った。
「わかりますー!?ミコト様はホンット最強可愛いんですよ!人と感性が合うって嬉しいですね!あなたとは良いお友達になれそうですリョクさん!」
この二人息合いそうだな。
「ティンクルプリリズムーーー!!!!!!!」
クオリアは、トワイライトなグラデーションの髪を振り乱し、爆音で叫び出した。
紅茶のカップが震える程に。
「おぃっ!!!クオリアどうした!!!マジびっくりするわ!!!」
コイツも、結構変わってんな。ミコトと相性が良さそうだ。
ミコトは、ぼーっと固まってる。まつ毛一つ動かさない。
「合格」
なんの?
「おい魔法少女座れ、メイド喫茶でそんな事すんなよ。情緒不安定は周りから嫌われんぞ。てか、バイトなんかで時給幾ら貰ってんだ?」
「3000円です」
「高っ!」
リョクがバッとクオリアに顔を向けて突っ込む。超同感だ。
「ふーん……まぁまぁじゃん、ちなみに客、結構来んの」
まぁ、そんなけ高いのには絶対裏があるよな。無リスクな良い話なんて、ねーねー。
「いえ、全然です。最近出来た店舗で、ほぼビラ配りです。異形配信で有名な
トドリとミレアがプロデュースしてる店なんですよ。あの人達優しいから働きやすいですし」
その言葉を聞いた、ミコトとノウコ姉ちゃんは、顔お見合わせて、不思議そうな顔をした。
その後、嬉しそうに、ふふっと笑った。
「マジか!?立ってるだけで3000円!?今すぐ紹介しろクオリア!!」
俺は、自称不良だが、女の子ではある。カワイイ格好は嫌いじゃない。
むしろお洒落は好きだ。
俺のメイド姿で、電気街全部跪かせてやる。
「え!!?キョウちゃんバイトすんの!?あたしもしたいっ!絶対一緒に行く!!」
リョクは急に羨ましそうになり、手をわしゃわしゃとジタバタさせる。
「おう、行こうぜリョク!お前がいれば、退屈しねーしな。クオリア、早く紹介してくれよ」
「えぇ……でも、ただの新人ですから、私の言葉が通るかは……微妙ですよ」
確かにそうだ、クオリアだって色んな想いを持って応募したんだろうし、押し付けはダメだ。
というか、ミコトがやけに静かだ、何かを考えてるっぽい。
こいつが、こういう時、超冴えた案を出す時が偶にある。
俺と、ノウコ姉ちゃんは何度かこれに命を救われている。
その後、ミコトはノウコ姉ちゃんに耳打ちし、ノウコ姉ちゃんは物凄く嬉しそうな顔でブンブンと頷いた。
ミコトはスマホを取り出し唐突に電話を掛けだす。
俺等三人は黙って、その光景を見る。
耳にスマホを当てて喋るミコト。電話口から女の声がする。
「うん。二人。まぁまぁかな。最強。たぶんメンバーに入れる全員」
なんの話だ?
ミコトは電話を切り、俺達に言った。
「そのメイド喫茶、合格だって二人共、オメデトウ。キョウとリョク、協力して頑張ってね」
ミコトは意味の分からない事と、ダジャレを無表情で言う。
「は?どういう事だ?」
俺はノウコ姉ちゃんを見る。
リョクもちんぷんかんぷんの顔だ。
「実はですね、円環ミレアさんと流図トドリさんとは、お友達なんですよ私達」
ノウコ姉ちゃんが笑いながら言う。
俺等三人は驚愕する。
「えーーー!!!マジ凄い!!!超予想外なんですけど!!!」
リョクは感激してる。こいつは、結構あの配信者達が好きだったからな。
「私の上司の御友人でしたか、世間は狭いですね」
クオリアは緑茶でも飲んでいるかの様に、紅茶を飲みながらしみじみ言う。
て事は、時給3000円、もう確定か!?最高じゃん!
貧乏生活はおさらばー。
「やっりぃ!!!ミコト、結構やんじゃん!!!お前いつの間にそんな社交的になったんだよ!?」
ミコトは俺達三人に怪しい笑みを浮かべながら言った。
「でも条件がある……それさえ受け入れてくれたら、このバイトは即合格。そして、キョウの前の異形討伐の報酬と、三人のメイド喫茶入店祝いで、みんなに30万円ずつあげる。私のお小遣いから」
30万!!!!!!
ボーナスやべぇっ!!!ドキドキするわ!!!
俺に、運が向いてきたぁっ!!!
……
ミコト超笑ってる。
……
マジ怪しい。
……また変な事言いだすんじゃねーか。三人で三匹の子豚やれだとか……
リョクも、クオリアもミコトの不気味な笑顔に警戒してらー。
俺達は息を呑む。
「条件ってなんだ?」
俺は先陣切ってミコトに尋ねた。
「私達の秘密結社に入ってもらう。活動内容は主に異形討伐と世界平和が使命。名はシェアプリズム」
「なんだそれ?はは ボランティアみたいなもんか?」
まぁ、籍だけ入れて、30万と時給3000円なら全然いいわ。
「そんな感じ」
そう言った、ミコトをノウコ姉ちゃんは苦笑いで見ている。
たぶんなんか隠してるな……まぁいいや。
「いいねー!!!私、そういうノリ結構好きだよ!世界平和とか陰謀とか都市伝説系。全然OK。むしろ楽しみかも」
リョクはかなり乗り気みたいだな。
「俺も全然良いぜ。基本学校サボって暇だし」
一応、ミコトとノウコ姉ちゃんが前みたいな危ない橋渡ってんなら、見ててやんないとだしな。
「私もいいですよ。メイド喫茶意外、魔術の修行してるだけですし」
クオリアもこくりと頷く。
ミコトとノウコ姉ちゃんは、ちょっと真剣な顔で頷き合って、俺達を見た。
「決まりね、じゃあ詳しくはまた説明するから、みんなの連絡先教えて。グループチャットに招待しとくから」
ミコトは、ほれっと言う様に、スマホを出す事を俺達に促した。
「おう」
俺は、淡白な返事。
「りょうかーい。二人共ヨロシクお願いしまーす」
リョクも、軽い挨拶。
「よろしくお願いします」
クオリアは、当たり障りのない挨拶。
そして、俺達はシェアプリズムと言う、良くわからないボランティア活動のメンバーとなった。
しかし……
それは、俺らの人生や、幾つかの世界を変えてしまう程の出来事の起点でもあった。その宿命に、今の俺達はまだ、気づいてすらいなかった。
まるで、ミコトが豪勢なケーキの中に、こっそりと、からしを入れていた事程に……
「ゲホッ!!!バカ辛ぇ!!!」




