幽明 灯の都市怪奇譚 電気街に現れる虚空の蛸
「電気街にバカでかい軟体生物?しかも透明!?」
私、幽明 灯は、
影が濃く落ちる、昼下がり電気街のメイド喫茶で、新たな依頼の話を聞いていた。
私が専門とする超常的な依頼の話。
だが、それにして、映画みたいにSFチック過ぎやしないか?
「ホントよ、灯ちゃん。既に、4件の大規模な器物損壊の報告が出てるの。普通なら、暴走族とかを疑うんだけど……ちょっと確証が多過ぎてね」
ブロンドヘアーが似合う、スーツ姿の長身の女性。
目つきが柔らかく、瞳は焦げ茶色。
私の自慢の友達。
すばるさんは、グラスにささるストローを意味ありげにかき回す。
カフェラテが渦を描いて沈んでいく。
「どんな確証だったんですか?」
私は、パフェを食べているスプーンをピッとすばるさんに指した。
「現場の定点設置カメラの映像を見るとね、道幅の半分を埋める程の、大きく透明な何かが確かにいるのよ」
「なんで透明なのにいるってわかるんですか?」
「不均一なリズムで、脈動を打つみたいに、プリズムに発光してるの。神秘さえ感じちゃったわ」
「プリズムに発光ですか……」
事実なら、少し厄介かもな……
プリズムってのは、魔術の属性の中でも、かなり強力な部類の純粋なエネルギーで、特殊な存在しか扱えない。例えば、ヒノやシスイみたく別次元のレベルの能力者みたいな……
「それにね、その破壊された建造物を見ると、物凄く大きな吸盤みたいな生体組織が張り付いたままだったわ」
そこまで言われたら、もう事実じゃん。
単独で迷いこんだ異形かな?
しかし……この電気街は、なんやかんや異形関連の問題が多い。
地母神様が変化したのっぺらぼうにせよ、未知の扉の支配者、怪人フュージョンもそうだけど。
「そこまで証拠があるなら、確定ですね。で……私にそれをどうしろと?正体はもう分かってるんでしょう?」
私は最近、なんでもかんでも退治する事を躊躇している。
それらの存在が、そこの現実に現れるのは、絶対に意味があっての事だ、
それが、私が介入して良い、縁かはわからないからだ。
触らぬ縁を選ぶのも大切だ。
「勿論、退治して欲しいけど……無理は言わないわ。100人が救われてもあなたが救われなきゃ私イヤだし」
私も同意見。退治はイヤだけど、すばるさんが一人で傷つくのは、ほっとけない。
すばるさんのグラスの水滴が、ショーウィンドウガラスから入る木漏れ日に、反射して光っている。
「退治ですか……実際にその存在を見てみないと、はい、出来ますとは言えないですね」
私は店の奥に目を向ける。
知り合いのメイドが出勤したのを見て、手を振った。彼女は手を振り返す。
りゃんめと言う、気の良い少女だ。私は少し前、彼女の呪いを祓った。
あれから、上手くやっているみたいだ。
「そうよね。相手がどんな存在かも不明なのに、戦えってのはおかしいよね。ごめんなさい。もしかしたら、地球を助けに来た戦士かもしれないし……」
微妙な空気を捨てたいと言うように、すばるさんはボケを挟んできた。それも微妙なボケを。
「ちょっと待った!ツッコミ待ちですか?」
「えぇ。思いっきりいっちゃって」
目を伏せる、すばるさん。見た目は洗練された綺麗な女性だが、こういう所は子供っぽい。
「助け方が不器用!!!そして戦士呼びに違和感!!!」
私は左右の人差し指を交互に掲げる。
「ふふっ。口にクリームついてるわよ」
おっと、ツッコミ自体はあんまりだが、口から噴き出たクリームに救われたな私。
私は手鏡で自分の顔を見た。
いつもどおり、砕けたダイヤモンドみたいな瞳が光り、蒼い髪が鮮やかな色で空間を彩っている。
「まっ、現地行きますか?」
私は、申し訳無さそうに笑うすばるさんを許す様に、目尻を下げて笑いかけた。
「ホントに!?ありがとっ!助かるわ、灯ちゃん!絶対お礼はするわね。いずれの現場も、ここから遠く無いの、気楽に行きましょ」
パッと顔が明るくなる、すばるさん。手でハートを作って、ウインクする。
あんた政府の刑事だろ。アイドルみたいだな。悪くは無いけど……
「ちょっとその前に失礼……おーい、りゃんめー!こっち来てー!」
私は、店内の奥に手を振った。
そこには、隅々まで真剣に掃除している、りゃんめがいる。
「はーい!幽明さーん!どしたんですか?」
笑顔で振り返る彼女。
目が大きく、緑のインナーカラーが特徴的な明るい女の子。八重歯が犬っぽさを強調させている。
私の特異な瞳から見た、彼女に満ちるエネルギーは薄いレモンイエロー。
以前、のっぺらぼうにかけられた、無垢な呪いは、もう破片すら無い。
手を振る腕にも、自傷の傷は一つも無い。
「おっつー!元気そうだね。ちょっと聞きたいんだけど良い?」
「あぁ!この子が、りゃんめちゃんね。すごい良い子そうじゃない。
私は、怪丘すばる。ちょっと特殊な刑事よ。よろしくね」
「いいですよ幽明さん。あなたの為なら、私なんだってします!!!
あなたは……刑事さんですか、恐れ入ります!私はりゃんめです。花が好きです、よろしくお願いします」
りゃんめは、テーブル中央に活けてある、アマリリスの花を指差した。
すばるさんは、花に顔を近づけ、上品で蜜っぽい甘い香りを、大袈裟なジェスチャーで吸い込んだ。
りゃんめはその仕草だけで、以前は恐れていた刑事と言う存在を受け入れる。
「りゃんめー、メイド喫茶近辺で最近おかしなモノ見た?」
私は敢えて濁して聞く。
「んーーー……結構噂は聞きますねー。人生相談屋の紫血王るりめあちゃんだとか、宙を漂う真っ赤な鎖だとか、絶対怒らせちゃ駄目な超不良メイドだとか、顔がブラウン管の徘徊男とか、知る人ぞ知る幽霊メイド、夜海さん(ヨミ)だとか。あと、巨大な透明宇宙人」
うん、魔窟か何かかな?この電気街は。
異界と交わりまくりじゃん。
その内、いくつかは身内の気がするけど。
てか、巨大な透明の宇宙人てビンゴだね。
怪丘さんは頭を抱え、私に苦笑いする。
「そっか、大変なとこで働いてるねりゃんめ、偉い!それでさ、その巨大な透明の宇宙人って噂はどんなの?」
りゃんめは、でもこの街は楽しいんですよ?と言わんばかりに、にこやかに微笑んだ。
彼女は、この街への積み重ねた奉仕活動の功績が自治会に認められ、若くして異例の電気街の自治会役員になったらしい。
「あぁ……たぶん、見た方が早いんじゃないですかね?探したらいると思いますよ、この辺に?私の友達はすぐそこの路地の壁にくっついてるの見たって言ってましたし」
私とすばるさんは目を見合わす。ぎょっとする。
「えっ……それは、昼もよく居るのかしら?」
すばるさんは、固まった笑顔で首を傾げながら、無理矢理笑ってみせている。
「えぇ。普通に。なんなら、餌あげてるメイドとか、オタクもいますよ」
えぇ……どういう状況だよ。みんなちょっとズレてないか?アニメ文化が背後にあるから空想と親和性が高いのかな……?
「灯ちゃん……ちょっと急ぎましょうか?」
きっと、すばるさんは、未知の軟体生物が、餌の基準を間違えるイメージを浮かべてしまったんだろ。誰かが、バクっとイカレた瞬間、この街はモンスターパニック映画の舞台と化してしまうのだから。
「はい。そうした方が良さそうですね。りゃんめ、これ、少ないけど情報料」
私は、りゃんめに茶封筒を渡した。
「そんな、受け取れません。幽明さんが話に来てくれただけでも、凄い嬉しいんですから」
ぶんぶんと首を振る、りゃんめ。
以前より心地良い、花の様な香りの香水がテーブルに漂う。
「いいからいいから、私はこの何倍も、すばるさんから貰うからさ」
私は、おどけてみせた。
「そうよ、政府の仕事ってお金がいいの。貢献したあなたには、当然の権利よ、りゃんめちゃん。貰っときなさい」
すばるさんの雰囲気が、行政の人間っぽくなった。凄い説得力に、りゃんめは簡単に促される。
「……では、ありがたく頂きます。その代わり、出来る事があったら、なんでも言って下さいね?」
「ありがと。じゃあ、たまにこの街の裏情報教えてよ。あと、私の奇妙な仲間達も
今度ここに来させて?あ、後、沢山言って申し訳ないんだけど、メイド仲間とかオタク達に、あまり異形に近づかない様に促して貰えると助かるかも」
私は、茶封筒を押し付けて、りゃんめに、頼りになるよと言う様に見つめた。
「勿論です!」
彼女は、腕まくりをして張り切る。きっと彼女が自治会にいる限り、この街の未来は安泰だろうなと、ほんのり温かい笑みがこぼれた。
「では、行きましょ灯ちゃん。車を回すから先に出るわね」
すばるさんは、そう言って、お金をテーブルに置き、りゃんめやこの店の人に、
人懐っこい瞳でウインクし、すこし色っぽいポーズをして、先に店を出た。
ぼーっとして誰も動かない。
みんな、すばるさんに魅入ったみたいだ。前世は魔性の吸血鬼かサキュバスかもしれない。
一人になった店内で、私はガラス越しに電気街の大通りを見る。
多種多様な人の往来に、店頭でセール売り出しのパソコン機器、甘い言葉や目線のビラ配りにメロメロなオタク。
様々な記号で溢れている。
全部が記号であるなら、その全部を並べると、この街は一体、どんな意味になるのだろう。
ふと、店奥から声が聞こえた。
「店長!このお金で、電子レンジ買っちゃいましょう!」
りゃんめの声だ。
私は、こんな記号が不意に見えるこの街が結構好きだと、鼻で笑い、
すばるさんのアイスカフェラテを一気に飲み干した。
すばるさんの車が窓越しに見える。
黒曜な艶めきが、通行人の目線を引いてる。
さぁ、行こうか――
車内――
私が、閉じ込まった車独特の匂いが苦手なのを知っていて、すばるさんは、暑いのに窓を開けていてくれた。
「取敢えず、どこ行く?」
人混みの大通りを、ほぼ徐行で進みながら、すばるさんは言う。
「んーーー。この辺、ぐるっと一周してみます?」
「そうね。まずは、全体を見るのが良さそうね。何か、目に留まったら教えてね」
「はい、きっと異常だらけでしょうけど ふふっ」
「そうね。気楽に行きましょ」
私達は、大通りを四角形に時計回りし、一周する事にした。それには、ものの十五分もかからないだろう。
私達は、暑い外から、羨ましそうに見てくる歩行者を尻目に。スムーズに街を移動する。
何の変哲も無い世界。今流行りのアニメフィギュアが店頭に溢れんばかりに置かれたり、ジャンクフードの露店の前で、くねくねと迷う気の弱そうな集団がいたり。
客の来なさに、頭で腕組みをして、メイドの幻想を壊す、親しみやすい女の子がいたり。
普通だ。
極普通。
「普通ですねー」
私は、刑事ドラマの相棒の様に、すばるさんに言った。
「そうねー、やっぱ夜の方が良かったのかしら?」
すばるさんが、そう言い、私達はまるで現代絵画を美術館で眺めている様に、静止画の街にぼーっとする。
ほぼ、一周して中央通りに戻る――
さっきと変わらない景色。
目の前の通行人にクラクションばかり鳴らす、迷惑な車すら、単調に見える。
そう、単調に……
……
って!
浮いてんじゃん!
目の前の、五月蠅い車が、魔法の様に、ぐねっと宙を浮いた後、宙でぶらんぶらんと揺さぶられている。
中から、チンピラの様な、野太い悲鳴があがる。
「すばるさん……」
「降りましょ」
私達は、路肩に車を停めて、距離を取りながらその光景を注意深く見る。
数秒ごとに、車に巻き付いた透明な何かが、陽の粒子に反射して見える。
それは、荒々しい大蛇が獲物を噛んで振り回している感じだ。
動物園の、怒れる巨象の鼻って例えでは弱すぎる……
そんな光景が普通であるかの様に、淡々と自分の事をこなす通行人達に、すばるさんは、避難を叫ぶ。
通行人は、自業自得だろ?と言う様な人がほぼで、暗黙の了解で何かを知っていそうな顔をしている。
私は、騒動の発端の生物の、本体に目を凝らす。
あぁ、厄介だ――
異界の神獣の類かもしれない……
私は魔視で見る。
物理的な世界を、別の層のフィルターを掛け合わせて見てみる。
その瞬間、私の世界は、極彩色に姿を変え、より現実的な世界を現した。
魔視で見たその姿は、軟体生物と言えど、タコやイカや蛇などの類では無く、
象徴的で神聖な翼や、巨大で宝石みたいな蹄、魔炎の様に揺らめく無数の髭がある。
オーラはプリズム色で、体から、どぷどぷと無尽蔵に湧き上がっている。
なんつー見た目だ。
これは、きっと私がどうにかしていい存在じゃないな。
でも……
その割には、怯えた感情が揺れている……
「すばるさん……これ、ダメなやつです。最小限の被害に抑える作戦しかありません」
「そうね。一瞬見えたわ、私も」
幽体だよ?どうやって?一瞬、魔視したって事?
この人もたまに計れない……
すばるさんが、言うと同時に、ガッシャ―ンと車は地面に落ち、エアバッグが車内に広がり、街に甲高いブザー音が響き渡る。
奴は、奇妙なうねり声をあげて、コンクリートや放置自転車を破壊して、裏路地に入って行った。
通行人達の幾人かは、パニックで走り出すが、この街に根付いた人間達は、いつもの事だろ?それより邪魔だ、と言わんばかりに、その車を避け、元の波長で歩き出す。
あれ、異常ってなんだっけ?
私は、目を擦った。
「すばるさん、追いましょう。誰かがきっと救急車呼んでますよ」
「えぇ。でも追って大丈夫なやつなのあれ?」
「五分五分です。最悪、全速力で逃げましょう。今逃したら、結構探すの面倒そうなんで」
「そうね!弱気になってこんな仕事やってられないもの」
私とすばるさんは、少しハイな半笑いで、駆け足で裏路地に入り込む。
やつは、ドンドンっと壁を弾き潰し、一目散に逃げていく、逃げる程、弱い存在では無いのに、やはりこの感じ違和感がある。
そして……すばるさん滅茶苦茶に足が速い。
アクション映画の主人公みたいだ。
それを追うのが精一杯の私が、目を向けた先に、コスプレをした様な二つの人影が喧嘩をしている。
危ないのに何してんだよ。
「こんな時に面倒ね!」
すばるさんも、少しイラついた様に言う。
そして、続ける。
「そこは危ないわ、二人とも逃げ……」
言葉は途中で途切れた――
それもそのはず、片方は、我がシェアプリズムの同胞。紫血王ルリメアちゃんだ。
アメジストみたいなクリアな紫の髪がにゅるんと、路地裏には勿体ない、絶大な存在感を出している。
そして、それより濃い赤は無いだろうと思えるド派手な血色のマントをたなびかせている。
対するは、体にコードが複雑に絡んだ男。
しかし、明らかに人では無い。
顔がブラウン管テレビだ。
被り物でも無い、生粋の家電人間。
この街は、本当にどうなってるんだ?
すばるさんは、走行のスピードに自分が耐えられず、強靭な足だけで、天宙を披露し
、二人の前に立った。あなたも結構バケモンだなと私は心に浮かぶ。
「あ、幽明!すばるちゃん!奇遇ね!てか、聞いてよ!!!こいつ、私がこの場所先に取ってたのに、自分が先だとか言い張るの!まじで、信じらんない」
あぁ、この辺で人生相談の占いで、小遣い稼ぎしてるって、この前言ってたやつか……
って、そんな問題じゃない。このテレビ男だれ?
「自分の都合の良いように言うんじゃありません!私だって、ずっとここに目をつけてましたし、それに、占いの精度じゃ私の方が断然上です!権利は私にあります!
ねぇ?」
ブラウン管男は、私とすばるさんに、賛同を求めて来た。
画面は砂嵐。
いや、まず何者?怖い怖い。
超変な奴の匂いがするんだけど。
「ねぇ?って言われても、まずあなた何者?それに今、化け物を追って忙しいの!!!」
すばるさんは、あらゆることが同時に怒ってイラついている。
ブラウン管男すら殴り倒しそうだ。
「美しいレディーに名を聞かれたら、名乗るしか無いでしょう。ふふふ。
どうか、聞いて驚かないで下さい!私の名は、ムービィです。以後お見知りおきを」
丁寧なお辞儀だ。悪い気配も無い……
「騙されないで二人共!こいつクソ厚かましいから。私に場所だけでなく、水晶貸せとか言ってくるんだよ!?」
むしろ仲良いだろ、あんたら。
「あーーーー!!!わかった。ムービィ、ルリメアちゃん!話はまた後でじっくり聞くから、こっちに来たやばいやつどっち行ったか知らない?」
すばるさん、さすがに判断が早い、脅威で優先度を絞っている。
「あぁ、あの方なら、信仰の空き家の地下を根城にしてますよ?あそこはあまり近づかない方がいいですけど……」
物知りだな。底知れない不気味な雰囲気はあるが、味方にした方が無難かもしれない。
「ムービィ君だっけ?ありがとう、君、詳しいね。そのモニターもカッコいいし、今度なんか奢らせてよ?」
私は、ムービィの肩にポンと叩き、少し女の子っぽく微笑む。
異形にもボディタッチは効くのかな?
「なんと!!!可愛らしいお嬢さんだ事だ!!!あなたも見習いなさい、デッドパープル」
あ、効くんだ。
私はムービィと握手した。彼の手は少し電流が流れている。
それからは確かに生命の気配を感じた。
ルリメアはムキーっと地団駄を踏んで、悔しさに涙目になりながら自分の水晶を放り投げようとする。
「あわわわわ、物は大切に。勿論、ルリメアちゃんにも奢るよ?大事な仲間だからね?」
私は、ルリメアちゃんの肩に手を回し、親友感を醸し出す。
少し、癇癪が治まった、ヴァンパイア少女。
「本当、幽明?こいつより、良いやつじゃ無いと私イヤよ?」
ムービィは自分の顔のボタンをプンスカと連打し、チャンネルを変え捲る。
画面に映る映像は、この世界の映像では無い。
「と・に・か・く、その信仰の空き家ってどこにあるの?」
すばるさんは、茶番劇にイライラがピークに達し、大ぶりなジェスチャーをして叫び出す。
ムービィは画面に、地図を映し出し、喋り出した。
「そんなに知りたいんですか?まぁいいでしょう?電波に免じて。
駅の東口からちょっと行った、錆びれた公園の裏手ですよ。家の上部をよく見れば
ゾアリア信仰の文様があるので、わかるはずです。あくまで自己責任でお願いしますよ、私とて追われたくありませんからね」
「ゾアリア信仰……?」
私はムービィに聞き返す。
ムービィは、画面がカラーバーになり、ピーっという音を出し固まる。
「ポンコツー!」
ルリメアちゃんが足を蹴っ飛ばした。
「痛いのなんのって!」
ムービィは、ルリメアちゃんを指差し、良く分からない感じで叫んだ。
「ふふふっ!あなた結構面白い奴ね。また話しましょムービィ。ルリメアちゃんも、お小遣いならいつでもあげるから、喧嘩はダメよ?」
決定的情報に、目の色が変わり、コロッと機嫌が良くなる、すばるさん。
私に、さぁもう行こうと合図する。
「きゃっほぅ!お小遣いー!!!」
ルリメアちゃんはそう言って、ムービィの体に頭突きを連打する。
「あっこら!コードが切れたらどうするんですか!?電気が吹き出しますよ!?
本っ当最近の子は、何を考えてるやら。常識が無いって言うか……」
ムービィはルリメアちゃんに、好き勝手にされながら世を嘆く。
でも、お前が常識語るなよ。
「取敢えず、じゃーねー」
私とすばるさんは、そのまま走り出し手を振った。
後ろから、紫とテレビが、同じリズムで手を振る。
結局、絶対仲良いわあの二人。
ふぅ……てか、常識捨てよ。
横を見れば、すばるさんが笑っている。
「どうしたんですか?」
「いえね……なんだか分かんないけど、すごくおかしくって」
「その気持ち分かります!」
私達は、ケラケラ笑いながら、駅の方に向かい、例の家を目指した。
駅、東口から徒歩数分、錆びれた公園――
私とすばるさんは、例の錆びれた公園に入った。
たばこの吸い殻ばかりが目立つ、緑に囲まれた普通の寂しい公園。
湿気た土の匂いがする。あまり好きでじゃ無い。
私は額の汗を拭い、呼吸を整える。
「たぶん、この林の奥の家ね」
すばるさんは、ベンチ裏の林の中を覗き込むようにして言った。
その緑地は、道路側とは正反対の、清廉なる静けさだ。
「行きますか?あのムービィってやつ曰く、ちょっとやばいみたいですが……」
私は、眼鏡の汗を拭いながら言う。
すばるさんは、私をじっと見ている。
「灯ちゃん、やっぱ眼鏡外すと印象変わるわね……冷たい花みたいで綺麗……」
唐突だな……どういう意味だろ?てか、ちょっと恥ずかしいよ。
「私の見た目は、いいですから、どうします?」
「あ、そうね、ごめんごめん。行きましょ?逆に灯ちゃんは、ここまで来て何があるか見ずに帰れる?」
「無理ですね はは」
私達はシニカルに笑った後、ザクザクと林に足を踏み入れた。
目の前に大きな白い家が現れる。
どこか教会チックだが、あまり見た事ない荘厳な雰囲気だ。
黄金色のステンドグラスが、不純な者の一切の立ち入りを禁ずる結界にすら見える。
家の天辺には、既視感がある赤い羽の様な文様がある。
「やばそうですね……」
私は、林の中で微か幽かな声を出す。
「……ぞくぞくするわね」
すばるさんは、おもむろに正面玄関に立ち、躊躇い無くドアを回すした。
その扉はやけに大きい……
不法侵入……この人に言うのは野暮か。
木製の扉が、うねり声を上げて鳴いた。本当に泣き声に近い。
私達は、禁忌の場所に足を踏み入れた――
そんな気がする。
「お邪魔しまーす」
すばるさんは、今現在持ち合わせている、ほんの少しのモラルを全てその言葉で支払った。
その家の一階は主に祭壇だった。
ステンドグラスを背後に、黄金色の女神と騎士の像が二体並んでいる。その二体の後ろには、幾何学模様の棺と、銀の卵と、大きな天国の扉の様な置物達。
私達が知る、既存の何にも属さないその信仰。
埃すら異常が無いか嗅ぎながら、固唾を呑んで眺める。
私は、頭に何か引っかかるものを感じた。これらの総合的なデータが、過去に何処かで手に入れた重要な情報と一致すると、無意識の私が言っている。
「灯ちゃん、これ何かわかる?」
「いえ、ちょっと今はわからないですね」
すばるさんの目は、きりきりと血走り、未体験の何かに心が囚われている様だ。
この人は、本来、探求者なのだろう。
「二階に行って見ましょう」
すばるさんは、そう言い、私の前を歩く。大人の女性の汗の匂いが私をくすぐる。
私達は、中央祭壇を後にし、二階へ向かった。
私はこの時に、この信仰の空き家の秘密がある場所を既に悟っていた。
祭壇付近の地面を歩いた音の響きが、どうも空箱を踏んでいる感じ近似していた。
この部屋の建築は、一階のみで反響していると錯覚を起こす仕様となっている。
その作為がどうも怪しい。
きっと、正体は地下にある。それが結論だ。
私達は、悪魔の鍵盤の様に、異質で不穏に鳴る階段を、一歩一歩と踏みしめて登る。
そして、二階の扉の前に立つ。
私とすばるさんは、目を合わせ、息を殺し、頷き合う。
そして――
ぎゅっとドアノブを捻り、扉を引き開けた。
「二人共、こんにちは」
――
――
私とすばるさんは、そこに立ち尽くした。
目の前の光景に理解が追い付かない。
何故なら……
こんな場所に、一番居て欲しく無い、私達の仲間がいたからだ。
そこには、ヒノがいた――
「……ヒノ」
「え……ヒノちゃん」
ヒノはいつも通り、女の子らしい部屋で、にこにこと笑っている。
綺麗なシーツのベッドに、漫画や小説の沢山入った本棚。
ピンクのカーペットに、お姫様みたいな化粧棚。
食べかけのお菓子に、脱ぎ捨ててほったらかしの洋服。
「そうだよ?ヒノちゃんです。靴はちょっと脱いで欲しかったなー」
私達が来た事を知っていた顔だ。きっと気配で掴んでたんだろう。
すばるさんが、ヒノの声が聞こえて無いかの様に言った。
「何故ここに?」
「だって、私の家だもん」
驚愕――
そうか、そう言う事か。
頭に引っかかっていた事が徐々に全部繋がる。
「ヒノちゃんの家?」
すばるさんが、冷や汗を垂らして、もう一度聞き返す。
「うん、そうだよ……もう、そろそろ誤魔化せないよね?ううん、これ以上、誤魔化すのがもう辛いや…へへ……全部言っちゃうね……許してダーリン」
ヒノは私達を見ず、心底悲しそうに俯いて喋った。
そして続ける。
「正式にはね、私達魔族組織の拠点だよ……フィジャナーク兄様に了解を得て
私は住まわせて貰ってるの……幾つかの条件と引き換えに」
ヒノは、私達に言っているのだが、その気持ちの先は、そうでは無さそうだ。
恐らく、シスイに自白したかったんだろう……と直感した。
「魔族組織……?条件……?」
私は部屋を見回しながら、ヒノに聞き返した。
「ちょっと……あんまり見ないでよ幽明。恥ずかしいじゃない」
諦めた笑顔で笑うヒノ。
「ここに、尋常では無い化け物が逃げたから追って来たんだよ。ヒノちゃんはあれと関係してるの?」
すばるさんは息を呑んで聞く。
「えぇ。でも……それを話すと、あなた達も追われる事になるよ?フィジャナーク兄様に……私のダーリンみたいにね」
シスイが追われてるって、ヒノのお兄さんにだったのか――
大規模な魔族組織の闇か……これは、ホントに、突っ込んじゃいけないレベルの問題かもしれない。
「じゃあ、今は、深くは聞かないよ。でも、まとめると、シスイが魔族組織に命を狙われているって言ってけど、その黒幕の魔王が君のお兄さんって事でいいのかな?」
「んーーー。黒幕はフィジャナーク兄様で間違いないわ。でも、魔王は違う……」
「それって……」
私は、もうわかっていた。
「魔王は私」
ヒノは、深紅の翼膜を広げ、窓からの木漏れ日に神々しく透かせて見せた。
私とすばるさんは、いつものヒノとは違う目つきの、目の前の魔王の威厳に、沈黙した。
だが……
「そっか、辛かったね」
すばるさんの、おおよそ予想外のいきなりの言葉に、ヒノは硬い表情を崩し、
薄っすら涙を浮かべた。
やっぱり、ヒノはヒノだ、彼女の心が魔王に戻る前に、なんとかしなければ……
「ヒノ……シスイはそれをどれだけ知っているの?」
「ほとんど知らない。だから、出来ればもう少しだけ、あとほんの少しだけ、このままでいさせて」
いつの間にかヒノのルビー色の瞳から、ポロポロと大粒の涙が零れていた。
私とすばるさんは、すぐさま駆け寄り背中をさする。
ずっと一人で抱えていたのだろう、ヒノは溢れ出した気持ちが抑えきれず、
髪まで濡れてしまう程に、声を上げて泣きじゃくった。
そして、少し落ち着いた後……
「さっき言ってた、条件って何?ここに逃げ込んだ異形と関係あるんでしょ?」
私は、充血したヒノの目を見て聞いた。決して敵では無いよ、と意思表明しながら。
「うん……でも、それを言っちゃうと、本当に二人共、フィジャナーク兄様や魔族組織に追われちゃうわ……」
そんな、ヒノの鬱々とした不安な表情を砕く様に、すばるさんが言う。
「大丈夫よ!秘密にしてたらバレないって」
子供の様にいたずらな笑みだ。
この人、肝、滅茶苦茶座ってるなぁ……
「ヒノが魔王なら止めれないの?」
私は素朴な疑問を述べる。
「魔族組織も、ある程度しか止めれないわ……それに、フィジャナーク兄さんには誰にも敵わない……」
ヒノは、兄の名を口に出して、すごく怯えた目をする。こんなヒノ初めてだ。
いつぞやの海岸で見た、ヒノの能力は異形達の中でも別次元だ。
そんなヒノがここまで怯えるのは、恐らく理解出来ない程の存在なのだろう。
「じゃあ、何故ヒノちゃんが魔王なの?女の子だし、お兄ちゃんの方が強いんでしょ?」
すばるさん、最もな疑問だ。
「私は、禁断魔法が使えるから……大規模な集団転移魔法と、赤翼の女神ゾアリア様の復活の卵の召喚……」
大規模な集団転移魔法……それは、ちょっとこの世界の常識が変わっちゃう代物じゃないか……
それに、女神ゾアリア……魔王すら崇める存在の顕現か……
「その転移ってどんなレベルなの?」
すばるさんはやっぱりそっちが気になるか。
「これ以上言うと本当に危ないの……あなた達以外も」
私とすばるさんは、頭を抱える。
それでも、内心打ち明けたいヒノは言い出した。
「ヒントを……ヒントを最後に渡すから、それで全てを察してくれない?」
ヒノは私達に望みを託した瞳で言った。
「えぇ」
すばるさんは、ヒノの頭をよしよしと撫でて優しく頷く。
「うん」
私は、ヒノの手を強く握りしめた。細くて小さな手だ。
そしてヒノは少し虚ろな顔で立ち、歩き出した――
私達はその後をついていく……
ヒノは、階段を降りて、祭壇まで行き、女神ゾアリアの像に一礼し、祭壇付近の座椅子を、グーっとスライドさせるように、押し出した。
床が擦れる音が、教会全体に響き、埃が宙を舞う。
そこに現れた空間には、小さな階段があり、地下へ続いていた。
「この下に、秘密があるのね」
すばるさんは胸ポケットから、ライトを取り出し、地下を照らす。
ヒノは私達に振り返り、覚悟を問う表情をする
私とすばるさんは、顔を見合わせて、少し沈黙した後、固く頷き合う。
ヒノは、それを見た後、その空間を無言で降りて行った。
私達は、ヒノの後に続き、地下へと降り立った。
地下――
そこは、予想外の場所だった。
壁面一杯に、黄金の歯車が所狭しと敷き詰められ、それらがガタガタと回転し、それらの歯車の表面には、ダイヤル式の数字がゆっくり変化している。その数字は、この世界の数字では無い。
これはきっと魔具だ。
恐らく、人類より遙に進んだ世界のテクノロジー。
複雑な魔術のコードを具現化している物体だ。
ヒノの可愛らしい部屋とは対照的な、重苦しくて、強制的な進行を押し付けてくる様な、逃げる事を許してはくれない様な部屋。
「これは、ゾアリア様の崇高な魔術を模した装置よ。これを守りながら、私の無垢な魔術エネルギーを流し続ける事が、この世界に私がいれる、兄様からの条件」
とんでも無い事の、装置かもしれない……
「これにヒノちゃんのエネルギーを流し続けると、どうなるの?」
すばるさんは、考古学者みたく、ライトであちこち照らしながら質問する。
「いつか、海岸で私は様々な召喚をしたでしょ?あの中に卵があったの覚えているか?あれが、女神ゾアリアの復活の卵だと言い伝られているの。その卵が恐らく復活する。つまり……女神ゾアリアが再臨するわ……」
「そうか、そのフィジャナークとやらは、自分達の信仰や力を、この世界で取り戻し、完成させ、異形を集団転移しようとしているんだ。
恐らくは、この世界を自分達の世界に塗り替えようとしているんだろうヒノ……?」
「そう……」
ヒノの、返事に私とすばるさんは、複雑な心境になる。
それを、感じたヒノは続けて言う。
「でも、安心して。私は、この世界にとっては、異形が溢れかえる事が正しいとは全く思っていないわ、どちらも否定する気は無いけれど、単純に住む世界が違い過ぎるし……だから、完成するまでにこれは壊そうと思っているから……」
「そんな事したら、ヒノはそのお兄さんや、魔族組織に……」
「えぇ、全てを敵に回すわね……きっとその時が、私の終わり……かな」
ヒノは簡単言うんだが、体がそれを受け入れず、翼膜が震えている。
「ちょっと待ってね……整理させて、そんな壮大過ぎる話は一旦置いて、
まず、何故"この世界"で女神ゾアリアを復活させる必要があるの?
そして、今日の化け物はこれらとどう関係するの?」
すばるさんは、しっかりしなさいと、ヒノの肩を支える。
「報われなかった女神ゾアリアは、永遠の愛を誓った、広大な世界の王リリスと
の間に、生前、約束をしていたの。この世界が選ばれたのは、その予言に従っての事だわ」
世界の王リリス……どっかで聞いた事があるような……
ムズムズする……
「あなたが、生まれ変わった地に、私は復活すると……今度こそ、平和な地であなたと共に居たいと……魔女と女神の混合血が合わさりし我の末裔はその地を必ず辿るだろうと……」
「魔女と女神の混合血が合わさりし末裔……それって、もしかして……ヒノちゃん?」
すばるさんが、ヒノを漠然と見つめる。
「うん……そう。私はこの日本に昔から引き寄せられるように、転移して遊びに来てたの、それは、文化が面白かったってのもあるけど、きっとこの血が原因だったの」
「それじゃ、ヒノは女神ゾアリアの末裔?」
「そうね……」
驚きだ……
「厳密には、末裔と言うか、王リリスと女神ゾアリアの血を受けた召喚体みたいなモノらしいけど……二人共女性だったらしいし」
点の事件が、こんな思わぬ大河に繋がっていたとは。
「かなり複雑ね……でも、やっぱり現実なんでしょうね。世界って広いわね。
それで、私達が追ってた、あの神獣みたいな存在は結局なんだったの?」
すばるさんは、妹の反省を聞く様な態度だ。
「あれは、フィジャナーク兄様からの条件の一つよ。数十日毎に一体、この世界に魔族組織の中から、この世界に異形を送れと命令されているの」
これは……まずいな。政府の人間であるすばるさんや、ミコトちゃんは、この件をきっと受け入れられないぞ。
案の上、すばるさんの表情はかなり曇っている。
「それに対してヒノちゃんはどう思うの?」
すばるさんは、偽りのない気持ちを聞きたいと言う目をしている。
「毎回、すごく怖いわ……だから、なるべく穏やかで、私の味方だった異形を、この世界に転移しているの」
ヒノの良心溢れる心で、そんな事を強制されていたんだ、本当に辛かったのだろう。
そこで、シスイと出会って、別の幸せな世界を体験した。
ヒノがシスイにあんなに執着する理由も分かる気がする。
「今まで私達が遭遇した、異形全てが君の仕業ではないんだろ?」
私は、一応確認を取る。
「えぇ勿論よ。この世界にいる異形の1%にも満たないわ。この世界や、
この国はあらゆる異界の存在達に、とても人気だし。それに、フィジャナーク兄様も小規模な転移なら扱えるし……」
すばるさんは、目を瞑って何かを考えている。
「やっぱりそうか……この世界は異界に狙われているだねヒノ。
すばるさん、依怙贔屓するわけでは無いけど、ヒノが何かしなくとも危機はあるんですよ。むしろ、ヒノの力が無ければきっとすぐに、別の脅威に晒されます」
私は、すばるさんを説得する様に言った。
「ふふふふっ」
すばるさんが突然大声で笑い出し、私とヒノは目を丸くする。
「灯ちゃん。勘繰り過ぎよ!私がじゃあヒノちゃんをみんなで退治しようと、言い出すとでも思った?見くびらないで。最終、私は全てを失っても、あなた達を守るし、あなた達のお姉さんで居続けるつもりなんだから」
まじで、カッコよすぎるよ、すばるさん――
「すばるさん……」
ヒノの目に光が戻る。
「すばるさん、やっぱりあなた最高です」
私はすばるさんの腕に抱き着いた。
「そうよ、今更気づいたの?二人共、しんみりしちゃ駄目!ネガティブ禁止!まだ、最悪の事態は起こっていないわ。私達シェアプリズムのメンバー全員が集まれば、きっと何とかなるわよ。そのクソ兄貴にだって、きっとシスイちゃんが一発ガツンとやってくれるって」
「ふふっ」
ヒノは涙をぬぐい笑う。
「そうですね。あの子なら本当にしてくれそうです!」
私は、全部を解決してくれるような、シスイの頼もしい笑顔を思い出した。
「だから、みんなに話そう……?」
すばるさんは、ヒノに促す。
ヒノはギュっと目を瞑り、不安と葛藤する。
そして、少しの沈黙の後、勇気を出し、こくりと頷いた。
「よく頷いたねヒノ。後は、私達に任せて。絶対みんな助けてくれるよ」
私はヒノに手を伸ばした。
ヒノは私の手を掴む。
「ありがとう、二人共……名探偵さんね……気持ちが解けたわ」
私とすばるさんは拳を突き合せてイェーイと言った。
「というか、あの化け物は結局何処行ったの?この家にはいないみたいだけど……」
すばるさんは、思い出したように、首を傾げて、顎に人差し指を当てる。
「元の世界に返してあげたの。あの子、まだ子供で臆病だから」
ペットみたいだ……
「そ……そう。じゃあ、その件は解決って事で良いわね」
すばるさんは、あれが本当に子供?と言う顔をしている。
異界の獣は、やはりレベルが違う。
「じゃあ、顔がブラウン管テレビのムービィってやつもヒノが召喚したの?ちょっと面白い奴」
私は、きっとそうなんだろうと聞いてみる。
「あぁ、ムービィ君!?あれは、私全然関係無いわ。たまに電気街で見かけるけど。
結構みんなから人気あるよ。面白いで奴でしょ?」
「うん……まぁ、若干怖いなその状況も」
すばるさんは、微妙な顔をしたが、私はそれが少し面白かった。




