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円環ミレアの恋煩い


うふ。


うふふ。


恋って、なんでこんなに世界が輝くのかしら?


よっほほ。


朝。


繁華街の綺麗とは言えないアパートの屋上で、一人立ち尽くし、街が始まりの陽光に染まるのを私は眺めている。


地平線から順々に建物が陽色に染まっていく。未曾有の恋をした心も相まって、叫びたくなっちゃうわ。


突然、色のある風が吹いた。


私のルミナスピンクの髪が、どろどろっと朝に似合わない風に煽られて、この街が息を始める狼煙みたいになった。


まだ誰も起きていない静寂、街の空気がゼロからスタートする様に、冷たく張りつめている。


恋しちゃったのっちゅ♡……うふふ。


屋上を囲う柵は、焦げ茶色に錆びていて、無造作に植物のツタが絡んじゃって、

地面のタイルも、あちらこちら剥がれているし、空き缶が無常を謳うように転がっている。


私の頭の中に、ずっと同じ男の子がいる。


考える度に、自分で服をぐーっと引っ張っちゃうくらい、好きで好きで仕方が無い。

それに、心がぐーっと広がり、曇っていた世界を簡単に肯定する様な高ぶりを感じさせるホルモンがゴーゴーと列を成して分泌される。


今の気持ちを、どこかの世界のお姫様が知ったら、きっと羨むでしょうね。うふふ。


いけないわ――


すごく、どきどきしてきた――


好きが、火山みたいに大爆発しそう。


私は自分の腕と腕を擦り合わせる。切り替え切り替え。


私は、パチンと静けさを破る様に、指を鳴らし、何の変哲も無いヴァイオリンを魔術で召喚した。


ただの木と弦。


でも、これで、私のどうにもできないこの気持ちを、現実に表現できるのだから、音楽って凄いわね。


よっほほーい。


本当に大好きのっちゅ♡


我慢できないよ……のっちゅ♡


きゃー♡


入り乱れた複雑なパズルみたいな私の心の底から、未曾有の感情が湧き上がり、勝手に世界へ握手する。


私はおかしいのかもしれないわ。それは昔からだけれど。今は、もーっとおかしい。

ふふっ、狂っちゃった。


なんだか、世界中の恋する女の子を応援したい気分だわ。


私は、朝の外気で、かじかみ、蒼白を増した指で、弓を持つ。


複雑怪奇で欲求暴走の私の世界を、ヴァイオリンの弦に滑らせた。


ミルクの様に滑らかな音が、寝ぼけた始まりの朝に流れ出す。

みんな、恋の素晴らしさを知ってと、自己中心的な押し付けの濁流にも聞こえるかもしれない。


うぅ……好き過ぎるよぉ……


今、この電気街は、私の新しい住居を発端として、くるみ割り人形の花のワルツの舞台と化した。


電線に止まる鳥、ゴミ箱の上の猫、虚ろな眼の徘徊者。


私と交わる事の無いあなた達が目を丸くしてる。

やっぱり、恋は世界を超えるんだわ。

この気持ちを起点として、言葉を超えて世界が繋がったもの。よほ。


よほよほ。


みんなに愛を分けてあげるわー!のっちゅ♡


「おいっ!!!うっせーぞ!!!何時だと思ってんだ!!!」


下の路地の酔っ払いが、舞台を立って罵声をあげた。


どうして、こんなにとろけてしまうような、奇跡の朝に、怒っているのですかねー?


女の子の恋の邪魔は重罪ですよ?うふふ。


えいっ☆


私は、価値観の違うモンスターさんを、秘術の真紅の鎖で、幾何学模様に拘束した。


めっ!!!反省してなさい!!!のっちゅ♡


「ばっ……バケモンだーーーっ!!!誰か、警察呼んでくれーーーっ!!!」


大袈裟ね。おっほ。


はぁ……気持ちが満ち満ちてるわ。


今なら、千の軍隊にでも勝てそうだわ。

私の大きな胸の中にある心臓が、あらゆるもの制し、あの人を掴み取れと、バクバク鼓舞しちゃってる。


うーん、もぅ!怒っちゃうよ?


誰に?


……


あの人の優しさに満ちた手に触れたい。融合したい。


指と指を絡ませ、死ぬまで見つめ合っていたい。


あの人の心に闇があるなら、その皿まで舐め尽くしたい。


完全に受け入れたい。だから、私も受け入れて欲しい。


ふぅ……変態かも。


いえいえ、みんなこんなもんじゃない?


あーーーん、もう!!!もう一回、キスして欲しいー!!!


私に入り込む、世界のあらゆるノイズが、轟速で恋のデータにアップデートされる。


もう、止められないわ。


……


でも……


ちゃんと生活しなきゃ。


ね♡


私、賢い子だよー、のっちゅー♡


私は、演奏しながら、ひとしきり妄想を終えて、少し気持ちを発散出来たところで、現実との線引きをするように、最後の弓を引いた。


それと、同時に、屋上の扉がギーっと錆びた音を鳴らし、開く。


「ミレア―、こんな所にいたのっ!?朝ごはん買って来たよ?今日は新居の荷ほどきで忙しいから早く食べてね。ほらっ」


そう言って、トドリは以前よりも柔らかい笑顔で、缶コーヒーを放り投げて来た。


私は、ヴァイオリンを放り投げて、それをキャッチする。


「おっほほ。私、ナイスキャーッチ!」

私はトドリにウインクする。


同時に、ヴァイオリンはハートの泡になって空間に消えた。


「最近、その魔術好きだよねー?恋でもしてるのミレア?」

ふふっと嬉しそうにトドリが笑う。


「そそそ……そんな事ありません!!!私は、簡単に誰かに靡く女の子じゃないのっ!!!」


嘘をついた。ごめんねトドリ。好きな人ができたよ。

でも、ホントに恥ずかしくて言えないの……


「そうだよねーっ!あの底知れない魔術師で有名だった、賢者ミレアが、恋してどうしようもなくなるなんてあり得ないよねー」

トドリは、意地悪な笑みを浮かべて言う。


ギクっ……


「そうだよ。私、そんなやわじゃないんだからっ!疑わないでのっちゅ!」


「ごめんごめん。とにかく早く食べて荷ほどき手伝ってね?幽明も手伝ってくれるらしいよ?」


灯、来るんだ……


もしかしたら……


あの子の召喚でまた会えるかも!!!


よほほーーーーーい!!!テンションぶち上げ―!!!


最高じゃないですかのっちゅ♡


「任せてトドリ!!!ほどきまくるわ!!!」


「それは頼もしいね。へへ。じゃっ、先に降りるから。ご近所迷惑はほどほどにね。

……後、ポエムはその辺に置いとくのはちょっとどうかな?グフッ」

トドリは振り向き様に、顔を赤くして恥ずかしそうに言う。


ぎょっぴーーーんっ!!!!!!!!!

やばやばやばやば!!!!!

私の、大好きな気持ち殴り書きノートがぁーーー!!!!!


「あ……あ……ああ!!!!あれは違う!!!違うのよーーー!!!あれは……実験!!!」

恥ずかしさに形があるなら、マグマみたいに口から出そうだわ……


「なんの実験だよ。ふふ。 とにかく早く食べてね。恋が宇宙を埋め尽くして星みたいに輝く、ま・え・に」


私の、ポエムだわ……

恥ずかしさに、涙が出る。

拭う。

ピンクじゃない……

私ってもう!


一人になった屋上には、カラカラと空き缶が転がる音だけが響き、外気は世界が起床した匂いで満たされている。


振り返って、街を見た。

既に、陽色一色に染まっている。完全に世界は起きた。


それはまるで、無抵抗のまま、魔炎の恋に染め上げられてしまった私の心のようだった。


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