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メイド・オーバー・ザ・ムーン


うぅ……こんな格好恥ずかしいよ。


巨大な屋敷の気品ある大広間――

私(冥 シスイ)と幽明、ノウコさん、流図トドリは、肩を寄せ合いながらくっつく。

それもそのはず、私達は自分達の性格に一致しない、際どい衣装を着ているからだ。


メイド服――


白と濃い黒の二色が特徴的な、ゴシックなタイプ。

だが、スカートの丈が短く、胸元も微妙に強調される、布面積の少ないスタイルとなっている。

確かに、こう言うのには、女の子として少し憧れてはいたが、いざ着てみると

物凄く恥ずかしい。


私達、一応クール組は、露わになった太ももを隠す様に、もじもじしながら、

こそこそと四人で密集する。


「まだまだね!恥ずかしがってちゃ、カワイイの壁は乗り越えられないわよ?」

ヒノが、ずんずんと私達の前を歩き、楽しそうに仁王立ちする。


完全に着こなしている。それもそのはず、ヒノはメイドのバイトをしているからだ。

私は、最近それを知った。


「そうよ、みんな。服に身を任せて」

ミコトちゃんは無表情で、掌大きく広げ、駒の様にぐるぐると自転しながら、私達の周りをさらに回る。

鮮やかな紫の髪が、自由気ままに舞い、彼女らしい神秘的な匂いが私の鼻孔まで届いた。

ちなみに、この屋敷はミコトちゃんの家だ。童話に出てくるような、お姫様のお城みたいだ。作りが西洋っぽい。


「ミコト様、そうは言っても、私は恥ずかしいです。だって……その……

なんだか……すごく卑猥じゃありませんか?」


高身長でスタイルの良いノウコさんなら、尚更だろう。

長く伸びた四肢が余計に、露出が多い様に見える。胸だって、ボンッとタイトな服からはみ出してしまいそうだ。

後ろから見た、ノウコさんの太ももは、それ故、迫力があり、恥ずかしさが滲み出て、赤みがかっている。

本人の言葉通り、かなり煽情的だ。

私は目に焼き付けた。私の恥ずかしさを支払っても、全然お釣りがくる。


「ノウコも一緒に回って見たら?気が変わって平気になるかもしれないわよ」


いい加減、目が回らないのかなミコトちゃん?ホントつくづく天然な子だ。そこがチャーミングではあるのだけれど。


「懇親会って聞いたんだけど……流石に、この格好をいきなり間近で見せるのは、気が引けるかな……はは」


流図トドリは苦笑いで、スカートの前と後ろを抑える。

彼女のメイド姿は、輝度が高く、絹の様に滑らかな金髪ロング髪も相まって、異国のお嬢様みたいだ。


「おっほほーい。トドリ照れてるねー、かっわいいーの!でも、いいじゃない?裸の付き合いって言葉あるじゃない?皆と仲良くできるチャンスだよ?」


円環ミレアは、そう言って、私達恥ずかしがり屋組に、盛大な投げキッスを飛ばす。

その手から、朱色のハートが出現し、宙を飛んだ。彼女が良く使う魔術である。

彼女の濃いピンクの髪は、この服と組み合わせてはいけないぐらい、魅惑的だ。

メンバー随一の豊満なスタイルの良さも誇る彼女は、もはや、近くで見て良いのかと不安になるぐらい、あらゆる面が大胆にはみ出ている。


「君は少しハレンチ過ぎるぞ、ミレア」

そう言う幽明は、腕で胸を隠し、足をクロスさせ、完全防御で顔を赤くしている。

青みがかった黒髪が、恥ずかしそうに揺れ、ダイヤモンドみたいな銀色の瞳がうるうるとしている。

メンバーの中で、一番頭脳タイプの幽明だが、意外と女の子らしい体形なんだと、

今更気づいた。正直言えばギャップのせいで、その本人こそかなりハレンチだと思った。


「灯ちゃんも、相当えっちだと思うけど?後で一枚写真撮らせてね?うふふ」

怪丘すばるさんは、普段の刑事の格好とは真逆の、この装いを完璧に着こなしている。

モデルでも脱帽する様な、足の長さなのに、ハイヒールを履いているのはなかなか憎い。胸は突出し服が悲鳴を上げそうなぐらいで、くびれは異常に細い。


「すばるさん、あなたに言われたくありませんっ!写真は絶対NGです!」

幽明は、胸を覆った腕のまま大きくバツ印を作る。

残念だな。私もすごく写真撮りたかったのに。幽明が、こんな服着る機会二度とないかもしれない……あぁ悔しい。


取敢えず、みんなの勇姿を少しでも目に焼き付けよう。うん。それがいい。

私は、ぐるりとみんなを見渡した。


「ねーシスイー。ちょっーっと見過ぎじゃ無いかなぁー?私って言う恋人がありながら、みんなの太ももチラチラ見てるのは、どういうつもりかなぁ?」

ヒノは、真っ赤な翼膜をバサッと広げ、ルビー色の瞳を鋭く閃光させて、私にドタドタ近づいて来る。

ミコトちゃんは、それに反応し回転が止まる。

すぐさまヒノの羽を触ろうと寄って来ようとする。

しかし、全然違う方に走って行った。

目、回ってたんじゃん……


てか、私、みんなに一気に変な目で見られてる……


「なんでそんな根も葉も茎も無い事言うのさ!私は無実だよ。太ももも胸もお尻だって、見てなんかいやしないさっ!」

私は無罪を主張した。


「きゃーっ!この子ったら、胸やお尻までも……みんな、ごめんなさい……私のダーリンが、びっくりする程の変態ちゃんで」

ヒノは、舞台の様に大袈裟に、オロオロと泣き真似をして、その場に崩れ落ちる。


全員が私を見て、胸やお尻を腕で隠した。


「シスイ……君は、私と同じ常識人だったと思っていたのに……悔しいよ」

幽明は、眼鏡を寂しく光らせ、俯く。


「ヒ―ノーっ!なんて事言ってくれたのさ!私のイメージが、一気に変態さんになっちゃったじゃないかー!」

私は、腕をばたつかせ、ぴょんぴょんと跳ねながら抗議した。


「シスイ……あの時、私を強く説得してくれたのも、もしかして……違う目的があったの?」

トドリが、悲劇の顔をした。


「ちがうちがう!あんな大事な場面で、そんな事考えてたら、サイコパスじゃないか!?」


「うふふ。でも、シスイの思考は、さっきから、少しいやらしいですねー。うんうん、プンプン匂います。変態怖ーいのっちゅ!」

円環ミレアは、真紅の鎖をちょろっと出し、ダウジングみたいにする。


「君、そんな能力あったの?……さっきのは、絶対言わないでね?」

私は、目をぱちぱちと泳がせ、両手を合わせて、ミレアに懇願する。


「うそぴょーんのっちゅ!自白しちゃったね、うふふふふふ」


全員が、さらに怪しいと言う目で、私を見る。心無しか、みんな私から離れている。


「シスイが、変態なサイコパスなんて、最初から分かってたじゃない?あー怖い怖い」

ミコトちゃんは、飛行機の真似をして、私の前を通り、三白眼の淡い紫な瞳であざ笑う。

私は咄嗟に掴もうとした。


そこに、手が割って入る。


ノウコさんだ。


「シスイさん。ミコト様は勘弁してあげて下さい。私で我慢できないでしょうか?」


手をギュっと握られ、体にぐっと引き寄せられる……

我慢も何も、ご褒美じゃないか。

いやいや駄目だ。これは罠だ。みんなが私をいじる罠。

ヒノへの愛が試される罠。


「ダメです、ノウコさん。あなたに触れると我慢どころか、大爆発して、私の物語は終わっちゃいます。私は、変態の汚名を受け入れて、陽の当らない場所で、こそこそ生きていきますから……」


「シスイちゃん……」

ノウコさんは、慈しみに溢れた顔で私を抱き寄せた。

むふ。

ラッキー。

匂い沢山嗅いでおこう。


ヒノも、私に手を伸ばし、おいでとしてくれる。

「可哀想なダーリン……でも、心配には及ばないわよ!秘策を用意してるから」


「秘策?」


私は、ヒノに駆け寄って抱き着く。

嗅ぎ慣れた匂い。新鮮な果物みたいな、甘い匂い。

生まれ変わってもずっと嗅いでいたい大好きな匂い……


「響!!!出番よ!!!」


ヒノの声に反応して、大広間の扉がガチャンと開く。


「こんにちわーみなさーんっ!!!今日は仮装パーティーとお聞きしたのですが、

私の衣装はどう……」


早口で喋りながら、巨大なトウモロコシの衣装を着て、てちてちと出て来た響だが、私達と衣装が全然違う事に、言葉を失った。


みんなは固まり、響を見る。

ヒノだけ、薄っすら怪しく口角を上げている。


「うわぁーーー!!!嵌められたーーー!!!みんなカワイイ衣装なのに、私だけ粒々じゃないですかーーー!!!えーーーん!!」

響は、細長いシルエットで、床をコロコロと縦横無尽に転がって、悲痛な叫び声をあげる。


その光景を見て、みんなは一斉に笑い出した。

仲良しも初対面も関係無く。


「あはは、大丈夫かい君?」

トドリが響を起こす。


「あ、はい。ありがとうございます……って!!!流図トドリじゃないですか!!!配信ずっと見てますよ!!!」

響は瑠璃色の目をまん丸に輝かせ、何度も握手する。


「えへへ、ありがと」

トドリはほんの少し罰が悪そうに、ミレアを見た。

ミレアは、これでいいじゃないと言う風に優しく笑い返す。


「でも、最近、異形配信更新してませんねー?前回の配信で二人が唱えてって言ってた呪文ちゃんと唱えてましたよ私?バイトの休憩中に」


お前も関わってたのかよ!と、全員が顔を見合わせ吹き出す。


響はキョトンとして周りを見た後、こう言った。

「まっ!なんでもいいですね!笑顔が一番!幸せ一番!」


みんなは、その通りと、笑顔で頷いた。


「それにしても、この後のダンスパーティー、私ちゃんと踊れますかね?こんな格好で?」


ダンスパーティー?

幾人かがざわつき、ミコトちゃんが待ってましたと。響のコーンに抱き着きながら言う。


「響、良く言ってくれたわね。そうよ、今日は特別豪華なディナーをシェフに頼んだから、その前にお腹を空かそうと思うわ。ダンス勝負するわよ」


そんな無茶振りなー……


「加えて言うと、シスイが私のダンスを下手と罵ってから、対決したくて仕方なかったの」


うわぁ、ミコトちゃん私の事、すごい睨んでるし。


「ミコト重いよー!離れろですー!」

響はコーンの体を捻じり、ミコトちゃんを振り回す。

実は、この二人は、結構仲が良いらしい。

知り合ったその日から、ちょくちょくメールしたり、二人で出掛けてるらしい。


よし、きっぱり言ってやろう。


「だって滅茶苦茶下手だったじゃないか!この際、はっきり言うよ!もはや下手を通り越して、不気味だったよ!見た目の可愛さで全部誤魔化してただけだよあのダンスは!」

私は、普段のミコトちゃんの理不尽ないじりの腹いせに、ガツンと言ってやった。


みんなは、そんな事言っていいの?と、驚きながら口を抑えている。


「ムカムカムカー!!!」

ミコトちゃんは、響のコーンを何度も叩く。


「痛い痛い!あたし、関係無いじゃないですか!!!」


「コーンは同罪よ!!!」


なんで?と誰かが言った。


「ムカムカって自分で言う子いるのね……」

怪丘さんは、推理する様な眼差しで言った。


「おっほ、ムカムカコーン。うっけるぅー」

ミレアの瞳は、ぐるぐる回り、スリーセブンならぬ、ツーセブンになる。


「ミコト様ー!大丈夫で御座いますかっ!?」

ノウコさんは、俊足の動きを見せ、ミコトちゃんに駆け寄る。


「あぁっ!ノウコさん!下着見えちゃってますよ!」

幽明が叫んだ。しかし、その口元は少し笑っている。


「きゃっ!」

ノウコさんは、お嬢様みたいな、上品な悲鳴を短く上げて、立ち止まる。

頬を真っ赤に染め上げ、その場にしゃがみ込んだ。


「ピンクとは意外ね……」

ヒノが私を見て言った。


「うん。意外と乙女だよねあの人……」

さっきの手前、少し反応しづらい。目が泳いだ。


そんな私を見て、ヒノはクスっと笑いデコピンしてきた。



「もう怒った。こんな怒り、今まで感じた事無いわ。ダンスは絶対全員強制参加よ。

参加しない人は、豪華ディナーは無し。この際、誰が一番か、はっきりさせるわよ?」


怒りの経験浅すぎだろ……と、きっと冗談だろうけどツッコミたくなった。


「いいわねぇ。誰が一番か、そろそろみんなに知って欲しいとこだったのよ」

ヒノは、腕組みして笑う。


「お嬢ちゃん達も、いい線いってるけど、ちょっと惜しいと、前から思ってたのよね?大人の魅力教えてあげる」

怪丘さんは胸を寄せて言った。


「えーーー……マジでヤなんだけど……でも、富豪のディナーは絶対食べたいし……」

幽明は食欲に抗えず葛藤している。


「コーンの恐怖見せてあげますから!」

響は、既に一番変人だってみんな知ってるよ。


「元トップアイドルにダンス勝負申し込むのは、ちょっとハードル高くし過ぎじゃ無いかな?」

トドリは、その場でバク宙し、決めポーズをとる。

パンツ見えてるよ。羞恥心どこ行ったのトドリ。


「あ・ざ・と・さ、なら負けないかもね。うふ、うふふ」

ミレアは、瞳の中のハートマークを揺らめかせ、蠱惑的に笑った。


「ダンスですか……下着が見えない程度に頑張ります」

ノウコさんは、スカートを引っ張りもじもじして言う。


ミコトちゃんは真っすぐに私を見て、私に敵うのかな?みたいな笑みを浮かべるが

本当に下手なんだから、君にだけは負けないと私は思った。


「ミコトちゃんには勝てるかもなぁ……」

私は煽る様に大きな声で呟いた。


「きーーー泥棒猫!泣かせてやるわ」

そんな意味不明な反応を無表情でするミコトちゃん。


――かくもこうして、ダンスバトルの幕が上がった。





一時間の間、各々は自分の演目を練習する時間を与えられた。


皆、必死に動画を見たり、音楽を聞いたり、中庭で瞑想する者まで現れた(響)


そして、遂に意地とプライドを懸けた宿命の決戦が訪れる――





場所は移動し、少し狭い映画の上映室の様な部屋―


実際、週に一度、ミコトちゃんとノウコさんはここで一緒に映画を見るらしい。

仲が良くて微笑ましい。


人数分の椅子が用意されている。

室内は暗がりで、巨大なモニターの前にだけ、スポットライトが当たっている。

部屋の隅には大きなスピーカー。


「さて、順番はノウコに独断と偏見で決めて貰ったわ。ノウコお願い」

ミコトちゃんは椅子に座り、小さな体で、大人みたいに足を組んだ。


「では、失礼します。一番手から順に発表します」

みんなは、絶妙に緊張して発表を待っている。


「響ちゃん→ミレアちゃん→ミコト様→幽明さん→怪丘さん→ヒノちゃん→トドリちゃん→私→シスイちゃんの順番でよろしくお願いします」


トリかよー……絶対ミコトちゃんが決めてんじゃん。

みんなもあーだこーだ言っている。

そんな間に、響がステージにささっと上がった。

狭い室内で、あの服は少々暑苦しい。


「じゃあ、いきます!ミュージックスタート」

響が手をぺこりと上げる。

一体どうやってあの服で踊るんだ?


すると、軽快でPOPな、教育番組の子どもの歌みたいなのが流れ出した。

響はリズムに合わせ、腕をぐるぐる回し、屈んだり、伸びたりを繰り返す。

悪くは無い。響らしい明るいダンスだ。

でも、動きのレパートリーがびっくりするぐらい少ない。

そして、合間合間に顔で主張しようとするのは解せない。

無駄な変顔が減点だ。


そして響のダンスはあっさりと終わった。


「いやー、ダンス、深いですねー」

響は、眉間に皺を寄せ、ドキュメンタリー番組みたいに呟く。

みんなは、本人が満足してるから良いかと、適当に頷く。


続いて、円環ミレアが前に立つ。

この時点で映えている。はち切れそうなメイド服が、健全な何かを感じさせる。

みんなが前のめりになった。


「じゃー、ミュージックどうぞ!」


アイドルソングだ。こてこてに甘い奴。びっくりする程、あざとい奴。

彼女はリズム良く、女の子らしいポーズをとって、私達観客を魅了する。

柔軟で健康的な体を最大限に生かし、伸びの良い滑らかなダンスを披露する。

大胆に、腰をシェイクしたり、魔法をかける様な仕草をとったり、

その度に、蒼白で女性的な肉体がライトに照らされ、観客を悩殺させる。


あっと言う間に、時間は過ぎた。

正直満足度では、かなり高い。

ミレアのダンスMVがあれば、私はブルーレイで買うだろう。


「みーんなありがとうっ!大好きのっちゅ!」


盛大な拍手が起こる。


「悪く無かったわ、ミレア。でも、ごめんね。次が私で」

ミコトちゃんは申し訳なさそうに言う。なんの謝罪だ。


ミレアは、少し引き笑いで、えぇ……頑張ってと言った。

性格もいいな。

もう、ミレアが優勝でいいんじゃないかと思う私。


皆の前に、えっへんと立つ、ミコトちゃん。


「じゃあ、ミュージックスタート。煌めく世界へご招待」

ミコトちゃんはそう言って、私に、ほくそ笑んだ。


室内に音がエコーする。

しかし、メロディは無く、ドゥッチドゥッチと鳴る、低いリズムのみだ。

みんなは緊迫して、ミコトちゃんに注視する。


すると……


ミコトちゃんは、何を思ったか、腕を鼻に当て、ゾウの真似をし出す。リズムも相まってすごく不気味だ。みんなこれで良いのかと、ノウコさんを見るが、ノウコさんだけ、タテノリで、目を嬉々と輝かせている。


たまーに、もう片方の腕を鼻に当てて切り替えるの何なの?


そして、素早く体制を変えて、サメの尾びれみたく、頭の上に掌を立て、

室内を泳ぎ回る。

もはや、カルト映画を見ているみたいじゃないか……

再び、前方に立つ。

お尻を突き出し、フリフリする。キュートなメイド服のおかげもあってこれはカワイイ。

みんなもミコトちゃん可愛いと歓声を上げる。しかし、手を無駄にツイストさせてるから、やはりなんか違う。

そして最後、後ろを向いたまま、足を大きく広げ、その間から私達を静止したままじっと見つめる。

場に、変な空気が流れる。

ほら、やっぱりやばいじゃん。


ミコトちゃんは大きくお辞儀をして、満足そうに笑う。

皆は、妹を見守るかの様な温かい賛辞を贈った。


「シスイ。届くといいね私に」


えっ……

私が下?みんなを見回す。

みんなは、まぁまぁ大人になってと言わん感じだ。

仕方ない。微妙に癪に障ったが、許そう。


「ミコトちゃん、可愛いダンスだったよ」


「可愛い?何を見てたの?不安を表現したんだけど?」


「……へぇ」

もう知らない、この子。


周りから、クスクス笑い声が聞こえる。


次は幽明だ。


短いスカートを気にしながら、嫌そうに立つ彼女。

胸もあんまり見えない様に腕で隠す。

それが、逆に可愛くてみんなはウキウキと待っている。


「あー……え……ダンスとから知らないから、適当にやります」


メロディが流れる。今風のテンポの速いエレクトロなタイプの曲で、

エモーショナルな歌詞が、場の雰囲気を変えた。


幽明は動画で、急いで見て勉強したっぽい、ぎこちない動きを、

下手ながら一生懸命やってる。

スカートがはだけないかを常に心配してるのが、とても可愛い。

こんな幽明が見れた事だけでも、このダンス大会の意味はあったかもしれない。


「灯ーーー!可愛いのに恥ずかしがってちゃ勿体ないよぉー!!!えいっと。ふふっ」

ミレアが指を鳴らすと、極彩色のエフェクトが幽明を包んだ。

エフェクトは変化し、幽明のベストショットの写真を空間に多数映し出す。

中には、実在したのか、キス顔まであるじゃないか……

後で、ミレアに聞いてみよう。


「うわぁぁぁ、なんだこれぇーーー」

幽明は困り果て、頭を抱えて座り込んだ。


その終始キュートであどけない彼女を、盛大な拍手が包んだ。


涙目になりながら、席に座る幽明。

「もう一生踊らないもん……」


「そんな灯ちゃんに、お・と・なのダンスを見せてあげる」

怪丘さんは、ハイヒールをコツコツ言わせて、みんなの前に立った。


「じゃあ、お願い」


ハイテンポのテクノポップが流れ出す、シャリシャリと宝石が割れる様なお洒落な音が、この部屋を満たした。

怪丘さんは、抜群のスタイルを惜しげも無く、私達に見せ付ける。

一つ一つの所作が、その色気を際立たせる様に、艶やかにゆっくり動く。

そんな所に手をやって良いのか?と叫びたくなった私は、まだまだ子供だ。

そして、この人、かなり動ける人だな。実は身体能力抜群に高いのかも……

蛇の様に、あらゆる関節にタイムラグがなく、滑らかに動いて、その度にすらっとした無垢白の腕や太ももが、ダイナミックに現れる。

大人の魅力って恐ろしい……

ちょっと鼻血出そうだった。


「こんな感じかな?」

怪丘さんはすっぱりとダンスを終わらせる。


「えっち過ぎます。おねぇさん」

響が、コーンのまま、顎をあんぐりと開けて、くるみ割り人形っぽくなっている。


「あら、ありがと!コーンちゃん」

怪丘さんは、響の頭を優しく撫でた。


「じゃあ、次は私ね。一番貰っちゃうんだから」

ヒノは腰に手を当てて、盛大に宣言する。


みんな、私の彼女の可愛さを存分に思い知ってくれ。

ヒノは本当に本当に可愛い過ぎるんだから。

出会った、その日からずっと大好きなんだ。

あれ……出会う前から好きだった気がした……

デジャブみたいなもんかな?


「ミュージックスタート!!!」


さぞ、カワイイ音楽を選択するんだろうな、と誰もが思っている中、予想外のリズムが流れる。


クラシックだ。これは、エリーゼのために、ヒノのお気に入りの曲だ。


ヒノは、ルビー色の髪と瞳を艶艶に輝かせ、もの悲しい踊りを始めた。

ヒノのメイド服も彼女のオーラに酔わされ、煌々と光を放つ。

そこには、一切の不純が無く、ただ純粋な体の奥底にある感情を表現している様だった。

みんなは思わず息を呑む。もしかしたらヒノが一番かもと思ってもおかしくない演技だ。

私は、ヒノを見つめて過去を思い返していた……

短いけれど、色々あったな……

……ん、物凄く長く感じるのは何故だろう?


その時だった――


一瞬、ほんの一瞬。

彼女に魔術師の様な女性が被って見えた。顔はヒノに似ていたが、髪が私みたく、真っ白だった……

私は急な出来事に、戸惑う。

突如、頭に言葉が浮かんだ。

"ゾア……"

何の言葉だ?胸がすごく痛い。締め付けられる……

私は息を吐いて落ち着こうとする。

……

……はぁ。

今はこの事に触れないでおこう。

とても、根深い何かの様な気がする。たまに夢に出てくる、恐らく私の前世、宇宙の棺の女神と関係がある気がする……


あまりに巨大な心の何かに、ぼーっとしてる内に、ヒノの演技は終わってしまった。


ヒノはニコッと笑って、みんなにピースする。


ヒノの芸術性を賛美する、盛大な拍手が、彼女を包み込む。


「ダーリン?私のダンスどうだった?」

ヒノが隣に来て、私に言う。


私は耳元で囁く。

「今すぐ抱きしめたいぐらい可愛かったよ」


「もう、シスイったら。また今度二人でデートする時まで我慢してね?大好きちゅっっちゅ」

ヒノは私に、ぱちくりとウインクした。


「聞こえてますよ」

響が後ろから、コーンの頭で私をつつく。


「嘘つけ、コーン響」


「ホントですよ!私、読唇術出来るんですから」


「じゃあ言ってみなさいよ」

ヒノも私に加勢する。


「今度のデートの時、二人で中華食べるんでしょ?ずるいなー」


私とヒノは、顔を見合わせて、お腹を抱えて笑った。


「やっぱり図星でしたか!私に見えない物は無いんです!」

響は腕組みして、威張り出した。


「じゃあ、私を占って」

ミコトちゃんが、響に跨り、そう言った。


「うーん……三体の影が視えます」

響は、口を一文字に縛り、難しい顔でそう言った。


ミコトちゃんと、ノウコさんは驚いた顔をする。


「あんた……天性の巫女なんじゃない?」


「えぇ……この力には理由があって……実は私……お賽銭弾む方なんです」

響は、感慨深い顔をしながら言う。


「あんた最高ね」

ミコトちゃんはそう言って、ククっと笑った。


「じゃあ、次は私だね」

トドリが、ポンっと席を立った。


みんなの前で、準備運動をしだし、これから始まる奇跡の躍動を匂わせる。


「トドリ―頑張ってー!」

ミレアが、魔術でペンライト代わりの発光体を出して、両手で振っている。


「レッツスタート」

トドリは、綺麗な唇をにっーと横に広げて、ガッツポーズをする。


音楽が流れた――


これは、彼女がトップアイドルだった時の曲だ。

彼女が主人公の声優を務めたアニメの、彼女が歌ったオープニング。


流石プロ。リズムの乗り方が素人とはまるで違う。

目の前に流れる音符が見えていて、それを体に沁み込んだ動きで、寸分狂わず、表現しきっているかのようだ。

動きのレパートリーも豊富で、アイドルっぽい蠱惑的に惹きつける表現だったり、ロボットダンスやブレイクダンスの様な、ハードでリズミカルな動きだったり、

まさに、なんの曲でも、どんなダンスでも可能と言う感じだ。

光を周囲に散りばめる、クリアな金色の瞳が、芸の神に祝福されていると如実に思わせてくる。

私達がトドリに勝つのは百年早い。


満場一致の大拍手が起こった。


「ふぅー。この感じ久々だなー」

トドリは、汗を拭って言う。


「うーん。あんな楽しそうに踊るトドリひっさしぶりー!」

ミレアはトドリをぎゅっと抱き締める。


「暑い暑い、ミレアー暑いよー」

二人は楽しそうにじゃれ合っている。私はこの未来を掴みとれて本当によかったと

思った。幽明もそんな顔をしている。


「次は私ですね。ディナーの時間が迫ってますので、手短に済ませましょう」

ノウコさんはそう言って立ち上がった。


「あ、そういや!!!」

幽明がいきなり、大声を出した。


みんなが幽明を見る。


「ルリメアちゃんは!!?」

幽明が発したその名前に、何人かが忘れてたと言う風に固まる。


「心配いらないわ。ディナーの時間に合わせてくるらしいわよ」

ヒノがキョロッとした顔で言った。


「そうなんだ。はは マイペースだね、あのヴァンパイア少女」

幽明は、良かったと胸をなでおろす。


「なんか、昼は大概寝てるか、ゲームしてるらしいのよ」

ヒノは続ける。


「ちょっとその方、ニートみたいですね」

響は言葉を選ぶが、中々失礼な語彙を選んだ。


みんながクスクスと笑う。


「……では、そろそろ。……音楽、お願いします」

ノウコさんはそう言って、目を閉じ、深く息をついた。


「この踊りを、トドリちゃん、ミレアちゃんに送ります」


「えっ!私達ですか?」

二人はハテナを頭に浮かべ、同時に首を傾げる。


ピアノの美しいメロディが流れ出す。


これは……


テクラ・バダジェフスカの「乙女の祈り」だ。


かつて、二人が異形配信で、この曲を演奏し、災害級の異形を苦しめた、二人にとって、私達にとって、あまり良くない意味のある曲。


二人は、表情がほんの少し暗くなる。


しかし……


ノウコさんはそれを気にせず、ただ自分の表現でこの曲の私達のイメージを塗り替える。

長く伸びた白磁の様な四肢を、とても優し気に動かし、バレエの様な動きをする。


二人はそれに目を凝らす――


ノウコさんの動きには、硬い線が一つも無く、体の全てが甘美な曲線を紡いでいる。

体の芯が非常に強く、どんな体勢でも、ふわっとつま先で直立する。

ジャンプだって、体重が無いみたいに、羽みたいに軽く浮き上がる。


二人はいつの間にか、暗い表情が消えて、その優しい動きに釘付けになっている。


同じ曲での表現でも、世界の見方でこうも変わるのか……


――やがて、曲が終わった。



「大袈裟な事は言えませんが、辛い時、頼ってくれてもいいんですよ?一緒に色んな世界、見て行きましょう」

ノウコさんは、二人に優しく微笑んだ。


二人は、ハイッ!と元気よく頷き、ノウコさんの両腕に二人で抱き着いた。


「さすがノウコ、元バレエの世界チャンピオンね」

ミコトちゃんが言う。


「いえ、すぐ辞めてしまいましたし」

ノウコさんは恥ずかしそうに言う。


すぐ辞めて、世界チャンピオン?どんな化け物なんですか?


視線が私に集まる……


とうとう来たか。


オオトリって……しかもトドリとノウコさんの後って……


絶望じゃん。


私の選曲、アニソンだし。


あーもう。ホント嫌だ……


「さー、シスイ。あなたがどのぐらい上手いか見せて頂戴。

つまんない踊り見せたら、私の怒りぶちまける為に、今度あんたの家

泊まりに行くから……」


泊まり?それが怒りと、どう関係するんだ?


ノウコさんがこそっと私に耳打ちする。

「許してあげて下さい。ミコト様流の愛情表現なんです。どうやら、ミコト様はシスイさんの事がとても大好きみたいなんです」


そういう事か……


今までの、訳の分からない挑戦や、いじりは、好意の裏返しだったのか……


なんだ、すごいかわいいじゃないか。


私はスタスタとミコトちゃんの前に行く。


「何よ?家に来られるのが怖いの?」


「いいや。いつでも遊びにおいで」

私はミコトちゃんの、綺麗な髪を優しく撫でた。


「……」

ミコトちゃんは、何も言わず立ち尽くしている。


「じゃあ、始めるね。私のダンスは……みんなと出会えた奇跡に捧げます」


下手でもいいや。


一番下手っぴでも。


恥ずかしくとも。


目の前にみんながいてくれるなら……


私はみんなをゆっくり見渡す。


みんなが、穏やかな顔で拍手してくれている。


あぁ……ありがとう神様。私、幸せだよ。

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