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慈十 叫の異形霊媒譚 ―魔法少女討伐――


ブロロロロロローーーー……




俺は、"おかしな"依頼の為に学校をサボって、海岸線を単車で走っている。




一応俺は、異形関連の探偵だ。




依頼の為ってのは、半分本当だが、半分は学校がクソつまんねーからばっくれたってのが本当。


俺をお嬢様学校なんかに通わせるってのが、そもそも正気な判断じゃねーっつーの。




色々下らねーなー、と思いながら、俺は走る。


生暖かい潮風と、自分がちっぽけに見えちまう程、デカくて眩い海。


延々と伸びる海に並行した道路。


ほんの少し不完全燃焼な排ガスの気配。


ただ、今を感じている……




俺の単車は、ボロいなりに機動力はある。ついでに、思い入れもある。


何も考えず、ぶっ飛ばしたい時には、ずっと世話になってきた相棒だ。


ウザい事言う奴ばっかの世の中で、こいつはただずっと傍にいてくれてきた。




はぁ……世の中、ぶっ飛ばしたい事で溢れてるわ。




俺は、ふと、サイドミラーで自分の顔を見た。


クリアでオレンジな髪が、半ヘルからはみ出して、外ハネしている。


俺は、この髪型も色も結構気に入ってる。


ちなみに、この髪色はファイアオパールっつー宝石の色なんだって。なんかかっこいいじゃんそれ。


琥珀の瞳は陽射しで赤く閃光してる。琥珀色って言うより、アンバーって言われる方が俺的には嬉しい。




なんか、気分が上がってきたぜ。




俺は、自分の服をチラッと見た。


お気に入りの、アクアマリン色のタイトなジャージ。これは動きやすいし、洒落てると思う。胸がきついし、強調されるのが、難点だが……


てか、俺、四肢長げぇーな。




やっぱさ、俺はもう大人になったよな。


だから……誰にも指図されず、誰にも不快にさせられず、静かに生きてっていいよな?




何も考えず……




「キョウちゃん!!!聞こえてるーーー!!?」




何も考えず……




「キョウちゃんってばっ!!!今の海鳥すごい大きかったよ!!!」




何も考えず……




「わざと無視してるでしょ!!?もうっ!!!ひどいひどいひどいひどーいっ!!!」




「あああっもうっ!!!うっせぇ!!!マジでお前降りろ」




俺は、サイドミラーをちらりと見て叫んだ。


それが分かっていたかの様に、単車の後ろに乗った悪友、万上リョク(バンジョウ  リョク)は、サイドミラーに向かって八重歯を見せ満面の笑みを浮かべている。


ペリドットみたく、透き通る緑色の瞳を一つ輝かせながら。


そう……一つだ。


もう片方は、黒い眼帯をしている。


気品あるお嬢様学校の制服が、こいつの異質な特徴を際立たせてる。





「あーっ!?悪態またついたぁ!!!これはお仕置きが必要ねっ!!?えいっ!!」




リョクは俺の脇腹を思いっきりつねりやがった。意外と馬鹿力だから洒落になんねー痛みが走った。


単車が大きくグラッと揺れる。




「バッカ!!!バカリョク!!!マジで死にてぇのかお前!?」




このバカは、俺と同じく、クソみてぇなお嬢様学校の生徒で、その凛とした白磁なご令嬢みたいな見た目の割に、簡単にサボりはするし、モラルもかなり欠けている。


闇のお姉さま、とか言われて、一部の後輩女子から人気があるらしい……みんなバカだな。


そう、あの学校はバカばっかなんだ。バカがつく程の真面目しかいねぇ。


高校生にもなるのに、全生徒に彼氏がいない様な清廉な学校だ。


そんな中で、真面目な色が機能してないモニターのドットが二つあれば、否応なしに距離が縮むのは当然だった。それが俺とリョクだ。




「生きたいですーーーだ!それより、まだなの目的地!?あたし寝そうなんですけどぉー?」




サイドミラーのリョクは、パッツンの前髪と、漆黒の幕みたいなストレートな黒髪をブルルルルルと靡かせて、口に手を当て、欠伸をしている。


その両手の甲には、不穏な目の文様がでかでかとある。生まれつきあったらしい……


噂では、呪われた一族の出身だとか言われているらしい。


俺の学校は超常とか霊媒とか、そんな関連の家系の奴等が結構通っているから、それ系統の噂がよく広がる。下らねぇぜ。


でも、確かにその噂は当たっていると思う。


間近で、リョクの能力を最初に見た時は、俺もそう思ったからだ。




てか、でけぇ欠伸イラつく。


自分がついて来たいと言った癖に、この態度だぜ?


でも、今に始まった事じゃねーんだよな。


出会ったその日から、こいつはずっとこんな感じだ。


無害なお嬢様の皮を被った、破滅の女王様だ。道化の冠をプレゼントしたいぐらいだ




「あと、一時間ぐれーだから我慢しろ。例の依頼の山は、そんなデカくねーから頂上まで登んのは時間かかんねーよ」


俺は、風の音に負けない大声でリョクに言った。




リョクは俺にくっつきワクワクした感じで返す。。


「りょうかーい!てかさー、魔法少女なんてホントにいるのかなぁ!!?」




さらに、半笑いで返す。


「いるんじゃねーのー?あの山、結構そっち関連で有名だしよー」




今回の依頼は、魔法少女を討伐して欲しいとの事だ。


最近山で、超危険な魔法を連発している少女がいるらしい。


人に危害を加える前に、どうにかして欲しいとの事だ。


依頼主は……あんま口に出してはいけない組織だ。




問題の場所は、最近よくUFO騒動のニュースが流れてた山だ。


あそこは、なんか色々匂うと前から思ってた。近所でもあったし。


一回ちゃんと調べてみようと、前々から思ってたから、いい機会だった。


後、俺の実家は金持ちだが、小遣いが貰えないんだ。


俺が態度を改めない限り、くれないんだと。


いらねーよ。クソくらえ。


……ってな感じで、俺は常に金欠だ。だから依頼に関しては結構ウェルカムな方。


たんまり稼がないと。化粧品とか服に金がかかるし。あと飯も。


俺は、性格も雰囲気も男寄りだが、その……可愛くは……ありたいと思っている……


意外だろ?





「てか、キョウちゃーん。魔法少女にホントに攻撃できんの?相手少女だよー?」


俺の背中を太鼓みたいにドタドタ叩きながらリョクが言った。




「あぁ……わからん。うーん……無理かもしんねぇ……」


そこを考えて無かった。


てか、一瞬、ミコトの顔が浮かんで、胸が超痛んだ。ミコトと同い年ぐらいの子なら、マジで無理かも。




「なんじゃそりゃ。はは。でも、それがふつーだよーん」


今度はドリルみたいに、俺の背中を顔でほじくり出す。




「そうかー……そうだよなぁ」


自分の計算の浅はかさに、がっくりきた。




「じゃあ、そいつが超悪だったらボコボコに退治してー、普通ならサクッと捕獲してー。いい子ならナデナデして仲間にしよ!!!魔法少女のダチ超欲しぃーよー」


なんか適当だが、でも、分かりやすくていいな。




「あぁ、いいねそれ。採用!!」


俺は、そう言って単車をさらに加速した。




「やっりぃー」


リョクはそう言って、俺の背中を持ち上げようとしてくる。




「おぉやめろバカ!!!」




そうこうしてる間に、俺達は例の山がある街に入った。


海岸線とはおさらばし、街の奥に見える、青々と光る山の峰を目指して、バイクを走らせる。




「キョウちゃーん!!あたしお腹空いたー!!」


恐らく、美味そうな店の看板ばかりが目に入ってきたから、リョクは腹が減ったんだろう。


まぁでも、我慢だな。これでもれっきとした仕事だからな。お出掛けじゃないんだし。




「我慢しろってリョク。もうすぐ山の入り口だぜ?遊んでたら日が暮れちまうって」




「えぇー、せっかくのお出掛けなのにー。ラーメン食べようよーキョウちゃーん。私奢るからさぁ!?」




お出掛けだったんだ……




ん?奢る?




「えっ!?マジで奢ってくれんの!!?」




「マジの大マジー!炒飯も頼んでいいよ!」




「やりぃ!!!行こうぜラーメン。リョクお前、ホンットいい奴だよなぁ!」




「そなた……今頃気づくとは、まだまだよなぁ…… うふふ。」




「なんだそれ!?じじいの真似か?」




「しんなーい!!!あはは!!」




俺達は、例の山に繋がる大きな国道沿いに、大きなラーメン屋の看板が見えたので、


その店に入ることにした。




意外と空いている駐車場に、バイクを大胆に停車させる。


ドドドドド……と、いつもより長旅に荒い息を立てていたので、エンジンを切ったと同時に、俺は心の中で、お疲れと言ってやった。




リョクは勢いよく単車から飛び降りる。


半ヘルを外し、黒曜石みたいな漆黒の長い髪をぶるぶると振りほどく。




「ふぅ、久々の地上なりー。あたし降臨」


リョクが両手を広げ、仰々しく言った。


眼帯と両手の文様が、こいつの、一つ一つの変な行動に妙な説得力を持たす。




「ずっと地上だったぞ。まぁいいや演劇は後だ、早く入ろうぜ」




「うん。私ペコペコのはらー」


そう言って、リョクは俺の肩を背後から掴んで列車の様に押してくる。




「シュッシュポッポシュッポッポ。キョウちゃん号の発進だー」




「あーもう!恥ずかしいなお前……」




俺達はラーメン屋に入った――




大衆向けのチェーン店で、店内は広い。


テーブル席に待ち時間無しで座れた。


テーブルの端に、お冷、ラー油、餃子のたれ、お酢などが、清潔に整頓されて置かれている。


こういう、微妙な所がちゃんとしている店は大抵美味い。きっと当たりだ。




席に着くなり、女の店員さんが、すかさずやって来た。


簡易的な説明を終えた後、


「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」


と言って去ろうとする。




「はーい、決まってまーす。濃厚味噌ラーメンの、全部のせの、麵大盛りで!後、餃子もお願いしまーす」


リョクが慣れた様に言う。




「あ、俺も同じで。俺は餃子じゃ無くて、炒飯でお願いしまーす」


餃子はリョクから一個貰おう。




店員さんは、注文を繰り返した後、伝票をテーブルに置き、厨房に注文らしき言葉を言い放った。若い女の子なのに、骨のある声だった




リョクが、両手でテーブルをこつんこつん叩いて、窓の外を見ている。


俺は、両手の目の文様をじっと見た。確かにリョクの手なのだが、その目は全く別の存在に感じる。




俺の視線に気づいたリョクは、ほんの少し口角を上げ、瞳孔を広げてじーと見返してくる。




こいつの宝石みたいな目に吸い込まれそうだ……




「なぁ、眼帯の下の奴、見せてくれよ。あの呪われたっぽいの久しぶりに見たい」


俺は、テーブルに肘をつきながら、腑抜けた感じで言った。




リョクは、俯いてクククと笑う。


「いいよ。でもさー、友達の体を呪われたっぽいやつって言うのはどーなのかなー?」




「えー、いいじゃん。俺、お前の呪いっぽいとこ好きだぜ?」




……




リョクはなんとも言えない顔をしている。




「キョウちゃんって、たまに反応に困る事言うよね……?」




「あんま相手の気持ち考えねーからな」




「自分で言わないの」




割り箸を一直線に俺の口に突きつける。




「早く見してよ」




俺は、リョクを優しく見つめた。




「もうっ……ちょっとだけね」




リョクは黒い眼帯を、親指でぐりっとめくりあげた。




そして、閉じた瞼をゆっくり、広げる……




俺の目の前に、それは現れた――




真っ赤な球体。


綺麗に潤って、照明を反射させている。ガラス玉に近い。


リョク曰く、義眼ではないらしい。眼球と同じく、瞼の中にしっかりと張り付いているし、実際、視力もあるらしい。


眼帯をしているのは、単純に驚かれるのが嫌だかららしい。


確かに、言い方は悪いがぞっとする。


見た目がとかでは無く、その異質な気配に……


まるで、それ自体が、一つの世界や惑星みたいな、計れない感じがあって、少し寒気がする。


やっぱり、リョクのあの能力に関係するんだろうか……?




「なんか言いなさいよ」




「あ……あぁ、目、痒くなったりする?」




「ばっかじゃないのキョウちゃん」


リョクは呆れた顔でやれやれと首を振った。




「お待たせしましたー。濃厚味噌ラーメン麵大盛り全部のせが二つに、餃子と炒飯です。――ご注文は以上でお揃いでしょうか?」


店員さんが両手一杯にラーメン達を持って来た。




「はい。ありがとうございます」


リョクが笑顔で受け取る。


店員の女の子の顔がホッと赤くなった。


相変わらず、刺さる層には刺さるんだよな。




俺達は声を揃えて言った――


「いっただきまーす!!」




スープは脂が浮いてるほどこってりしている。


コク深い味噌のスープは口に入れれば旨味がとろけて一瞬で広がる。


そんなスープに、ちぢれ麵が良く絡む。


スープに浸った、太くてトロトロのチャーシューはタンパク質を欲してる体にダイレクトに染みわたる。




俺とリョクは、想像以上に美味いラーメンを無言ですすった。


餃子と炒飯は仲良くシェアして食べた。


予想はしていたが、サブメニューもこれまた美味い。


餃子は噛めば、香りの高いニラと肉汁がぎゅっと染み出して絡み合い、ラーメンの主役の座すら奪いそうだ。炒飯はそれら全てを完璧に引き立てようと主張を控えているが、一粒一粒が主役の最高峰のオーケストラみたいだ……




そう、俺はラーメンに五月蠅い。





「はぁーっ食べた食べた!滅茶苦茶美味しかったねキョウちゃん?」




「まじな。やばすぎて、ちょっと焦ったわ」




「わかるー。なにやつ!!?って感じだよね。ふわー満足した……じゃっ、そろそろ帰ろっか?」




「おいおいおい。今から仕事だろ?何言いだしてんだよ」




「冗談だよ!会計しとくから、先出てて」


リョクは舌をペロっと出し、無邪気に笑った。




「マジで奢ってくれんだ」




「約束だかんね」




約束か……




その言葉に、一瞬俺達は固まる。




「……ありがとなリョク」




俺は、沈黙を礼で断ち切った。




リョクは何も言わず、軽く手を振った。


その手の文様の色は少し変わっていた。





俺は、先に店を出てバイクのエンジンを入れて、吹かした。


リョクをベストな状態で出迎えてやりたいからだ。


ラーメンを奢って貰ったからだけじゃない。


あいつは、絡みはうぜー時あるが、ホントに誰にでも優しい気のいい奴だ。


呪われていようが、なんだろうが、俺だけはあいつの味方だってずっと思える自信がある。




「お待たせ―、さて、魔法少女ボッコンボッコンにしますか!?」




「いや、可哀想だな、なんか……」




「ふふ じゃあ魔法少女ぺっろぺっろしますか!?」




「キモイなお前……」




「ちょっ!ガチで引かないで」




「とにかく行くか!」




「おーいぇー」




俺達は再びバイクを轟かせ、もうそこまで遠く無い、青々と緑がみなぎる山へ向かった――




少し陽が落ちて、風がほんのり冷たくなっている。


綺麗に並ぶ街路樹が、一つ飛ばしで明るく陽射しを纏っている。


様々なタイプの、家屋、マンション、ビル、アパート、飲食店が通り過ぎる。


街と言うのは、目を凝らせば、何処かしこも一つとして同じ物は無い。


それぞれに、息づいてきた歴史を感じる。


先入観を捨てる事が大事だ。


人だって同じで、よく見ればみんな、見た目も、考えも、人生も、全く違うんだ。




などと、感傷に浸って、人生を考えたりしている内に、例の山へ入った。






「もう少しだぜリョク」




……




「おーい」




……




えっ……まじ。




「おーい」




こいつ寝てんの……ガチで?




「マジで寝てねーよな?」




「ふふふふふ。寝たふり作戦大成功なのじゃ」




「いやいやいや、そんな作戦すんな。心臓五個あっても足りねーわ。飛ばしてた時もずっと寝てたのかと思ってめちゃぞっとしたわ」




「キョウちゃんの驚く顔、超面白いもん。あと、心臓五個は盛り過ぎ、最高でも三個でしょ?」




「四個で足りるのかよ、基準がわからんわ」




「キョウちゃんのツッコミ好きー。じゃあおやすみー」




「は?羊、ホーム画面にしてんの?」




「くははははは。最高!ホント大好き!!!」




そう言って、リョクは俺の背中をギューっと抱き締めた。




「そのまましっかり捕まっとけよ。頂上まで一気に行くかんな」




俺は、ギアを切り替え、加速した。




狭い山道を、俺達と言う針で縫っていく。この道に俺達と言う物語の軌跡が刻まれて行く。




頂上はもうすぐだ――






……




やっぱ、この山の上なんかあるわ。滅茶苦茶変な気配がする……




まぁいいや。登ってみればなんか分かるだろう……






山の頂上、展望公園付属駐車場――




俺達はバイクから降りて、メットを外し、伸びをする。




「いい空気だねー」


リョクは口角をにっと広げ八重歯を見せ、しんみりと言う。




「あぁ、プラスイオンが一個もねーな」




「え?キョウちゃんイオン見えるの!?」


リョクがバッと振り向いてきた。想像以上に反応されて少し困る。




「ごめん。今のガチの適当」




「だよね。プラスイオンが一個も無いとか有り得ないもん」




「……お前、意外と頭良いのな」




「キョウちゃんよりかわね」


さらっと真顔で言われた……




「は!?イラつくな!褒めたの返せよ!褒め泥棒!」




「しっ……いるよ。やっぱ。なんかいる」




「んだな。飛び抜けた気配が一つ。……結構近いな。展望公園辺りか?」




「どうする?即行行く?隠れて様子見る?」




「そりゃもう……ぶっこんでくさ。なんで俺が隠れなきゃいけねーんだよ」


俺は、ジャージの袖を捲り、腰に手を当てて、笑って見せた。


俺の気配で、鳥が飛び立つ。




「でた、俺様キャラ。自分で言うとかっこつかないよ?幾ら花岡家と慈十家の期待のエースだからって。謙虚さを忘れちゃダサいちゃんだよ?」




花岡家と慈十家。霊媒関連の名家の二台巨頭。


花岡家は、代々受け継がれてきた底の全く知れねぇ化け物を顕現できる能力を持つのが特徴だ。それは、当主のみだが、それだけで人の世界では十分な程の禁忌なレベルだ。


他には、多数のこの国に根付いた妖魔を使役していたり、奇跡の力を使った、自由度が高い術が特徴的。


党首は花岡 ミコト、こいつの奇跡の力は次元が違う。ちなみに俺の従姉妹だ。普段は変わったちゃんでカワイイやつ。




慈十家は異界や太古の世界の魔術や召喚が得意だ。


特に、武器に関する顕現を得意とし、未知の秘武器の召喚術を代々受け継いできている。魔術に対しても、いにしえの原初の魔術を得意としている




俺は、そんな二つの名家のハイブリッドだ。誕生した時は、さぞ期待されたらしい。


でも、今はこの通り全然言う事を聞かないから、両家から白い目で見られ、あからさまにハブられてる。


ひどいよな……俺がそんなに悪い事したか……?


あいつらと話すとマジでイラついてくる。


ちなみに、俺の特異なジャンルは武器顕現と創作魔術。




「俺が、おしとやかで謙虚なお嬢様になったらお前は退屈だろ?」




「まぁね。想像できないけど。てか、逆に見てみたい。髪伸ばして黒髪にしてよ!めちゃモテるかもよ?顔かなり女の子だもんキョウちゃん。まつ毛なんか私より長いし」




「うっ……うっせ!ほらいくぞ」


俺はわざとガニ股で歩き、展望公園に向かう。


リョクは後ろから、クスクスと笑っている。




展望台、大広場――




360度、他県まで見渡せる、絶景スポットとして有名なこの場所。


この展望広場はかなり広い。


まるで巨大な天空の塔の頂上にいるみたいだ。


しかし、最近の不気味なニュースによりほぼほぼ人がいない。


暗黙の了解で、面白半分でもここには近寄らない方がいいと思われているのだろう。




そんな場所に、明らかにここにいるべきで無い存在がぽつんと一つあった。





異質な髪色の異界的少女――





腰まである長い髪の色が人工的で、天辺から、濃い青、薄い水色、白、黄色、濃いオレンジと、まるで、陽の沈む瞬間を模したかの様な美しい色合い。


背はそこまで大きく無いが、胴や四肢の線がとても滑らかで、少し人間離れした出で立ち。


黒を基調とした異国の制服みたく、タイトなドレス。少し近未来。






「絶対あれじゃん。思ってたよりシックな魔法少女だね。てか、髪おっしゃれー」


リョクが双眼鏡みたいに手を丸めて覗いている。




「なんつーか、かっこいい魔法少女だな。ドジっ子的な羽生えた感じの想像してたわ」




「わかるー!」


リョクはポンと掌を打つ。




その少女は俺達の声に振り向いた――




そして、淡々と物怖じせず近づく――




「げっ!どうしよリョク、来たぞ」




「キョウちゃんの依頼でしょ!?早く行って!」


リョクは肘で小突いて前に押してくる。




魔法少女は俺達の二メートル程先で立ち止まり一言。




「ここは、危ないですよ。帰った方が良いです」


中性的な優しい声だ。




魔法少女の顔は、無造作に長い前髪に覆われている。


その隙間から見える、ライムグリーンのジト目は何処か機械的だ。


鼻や口は小さく可愛らしい。


手には、古代の魔術師が使っていそうな威厳のある煌びやかな杖。先端の宝玉が無尽蔵なエネルギーの気配を俺に知覚させる。




「どうする、キョウちゃん?」


魔法少女の感情の無い圧に、リョクが気まずそうに言う。




「帰れねーな。だって俺等お前を探しに来たんだもん。やっと見つけて帰れっかよ」


俺は、魔法少女に指を差した。




「私を探して……?」




「あぁそうだ。この山で暴れてる魔法少女を討伐してくれってな」


俺は、魔法少女に一歩近づく。




「ちょっと、キョウちゃん。いきなり失礼だよ!」


リョクは、すらりと伸びた白磁の腕をばたつかせ、あわわと慌てる。


お前ボッコンボッコンにするとか言ってたじゃねーか。




「あぁ、そういう事ですか。では……今後控えます。申し訳ありませんでした」


魔法少女は、何の言い訳もせず、淡々と謝罪をした。




場に沈黙が落ちる……




「えっと……君……名前は?」


リョクは腰を低くし、迷子の子供に尋ねる様に言った。




「名前ですか?……私の名は勇者 クリア……いえ、間違えました。勇者 クオリアです」




「クオリアかー、いい名前だな。かっけー。でも、お前、勇者って言うか、魔法少女だろどう見ても?なぁリョク?」




「うん。勇者にはちょっと可愛すぎるかなぁ……」




「じゃ……じゃあ、私の名は魔法少女 クオリアです」


クオリアは伏し目がちになりながら、こっちをチラチラ見て言う。




「じゃあってなんだよ、はは」


意外と面白いやつだな。




「クオリアちゃん天然、ウケる」


リョクは手をパチパチと叩いて笑った。


リョクの手の文様を見て、少し身構えるクオリア。





「で、クオリア。お前は一体何者で、ここで何してんだ?」


俺は、率直に本題に入る。こいつが黒か白かを早めに決めておきたい、仲良くなる前に……





「それを、あなた達に言う義務は無いと思うのですが、しいて言えば……"愛"の為です」




「愛!!!???」


俺とリョクは予想外の答えに、二人揃って変な声を出した。




「はい。愛です。愛する人を守る為に強くなりたいんです」


その目は真剣で、一切ブレる事無く、俺達を貫いた。




「え?特定の人?魔法少女でよくある、世界を救うとかじゃなくて?」


リョクは、ずっこけたオーバーリアクションで尋ねる。




「はい。そうですが、何かおかしいですか?」


純粋無垢な瞳で返す、クオリア。




「おかしかねーよ。俺は気に入ったぜお前の考え、言葉が嘘っぽくねーからな」


俺は拳を突き出した。クオリアは一瞬理解しかねた表情をしたが、その後、杖で俺の拳をこつんと叩いた。




「その大好きな男の子はどんな子なの?」


リョクは切り替え、クオリアに顔を近づけて興味津々に恋バナを繰り広げる。




「女の子です」




……




「……そっか。うん、分かるよその気持ち。色々あるよね、年頃だもん。私もクオリアちゃん気に入った。その恋、応援したい」


リョクは勝手に妄想を膨らませて、拳にぐっと力を入れる。




「リョクも分かるのか、そういうの?」




「ズボラは黙ってて!」




「はい、すんません。……で、クオリア、その相手に、想いは伝えたのか?」




「いえ……きっと嫌われていますし、もう会う事もないかもしれませんし……」


機械的な言葉に、感情が宿り出した。




リョクは、ペリドットみたいな瞳に涙をうるうるさせて、さらに輝かた。


そして、クオリアを抱き締めて頭を撫でている。いきなり距離が近いやつだ。


クオリアは、それを嫌がりもせず、ただ無表情に、されるがままだ。




「伝えないと何も始まらないぜ?人生は短いんだ、ネガティブな予測だけしてゼロのまま終わんのはホントつまんねーぞ?」




「……そうですね。でも、私は彼女が幸せでいてくれたら、それでいいんです。


私は愛を教えて貰った、それだけで十分です」


ライムグリーンの瞳が誇らしげに遠くを見る。




リョクは一人で号泣してる。


クオリアの髪はわしゃわしゃされ過ぎて、もはや前が見えているのかわからない状態だ。




「お前超いい奴だな」


俺は、クオリアを覗き込み、じっと見つめて、そう言った。




「ありがとうございます。……ですが、私はあなた方が思っている様な存在ではないですよ」




「ねぇー、キョウちゃん。クオリアちゃんの恋応援しよーよ?」


今回の依頼と正反対な気がするが……討伐しねーといけねーってやつではなさそうだな。




「そうだな。なんかほっとけねー感じのやつだし。俺達にできる事あるかクオリア?あ、もう討伐とかはしねーから、安心しろ。でも、その代わり、ここでの魔法連発はやめてくれよな」


俺は、クオリアの肩をポンッと叩く。




「わかりました。今後気をつけます。……できる事ですか……そうですね……あなた達、恐らくかなりお強いですよね?」


クオリアは、俺達を鋭いジト目で見つめる。




「あぁ、そうだな」


俺は迷いなく頷く。




「私はどうかな……?わかんない」


嘘をつけ。俺から見てもお前バケモンだぞ。




「リョクは、あれだ。お前が魔法少女なら、魔法少女の最後のボスぐらいつえーぞ」


俺はリョクを見て、したり顔で笑ってやった。




「ちょっ!キョウちゃん。変な事吹き込まないでよ。なんで私が最後のボスなのよ?こんないい子なのに」




「最後のボス……ですか」




「クオリアちゃん、ボスって言わないでー」


リョクはいやー、と耳を抑える。




「あぁ、リョクは呪われし一族の出身だからな」




「もう馬鹿!キョウちゃんひどいよ」


リョクは割と強めに俺の肩を、殴ってきた。




「呪われし一族……」


クオリアはスキャナーの如く、リョクを精査する。




リョクは、恥ずかしそうに手を突き出して、それを遮る。




「リョクさん……一度手合わせ、お願いできませんか?」




「えぇー……」


リョクは、口角を下げうぇーと言う顔をしてこっちを見た。




「やってやれよ。恋、応援したいんだろ?」


俺は笑顔で頷く。




「キョウちゃんムカつくんですけどー。はぁ……」


リョクは、俺を睨んだが、クオリアの真剣な眼差しに圧倒され、諦めのため息をついた。




「うーん……それがホントにクオリアちゃんの恋路の助けになるの?」




「なります。他の何よりも」


クオリアはきっぱりと言い切った。




「そう。でも他の何よりは偏り過ぎじゃない?強いだけが大事な事じゃないよ?」




クオリアは、少し思うところがあるのか、切なそうに俯いた。




「まぁいいじゃん相手してやれよリョク」




「もう、他人事だと思ってー」




クオリアは再度顔をあげ、幼気な瞳に懇願を滲ませた。


リョクはタジタジになる。




「はぁ……でも、私結構強いよ?大丈夫クオリアちゃん?」




「はい。これでも、数多のツワモノを見て来ましたし、それらの存在のあらゆる術をラーニングしてきましたので」




「そう……じゃあ……ほんのちょっとだけなら……でも、あんまり怪我しないようにしようね」




「大丈夫だって。最悪、俺が止めに入ってやるから」




「本当お願いね?何かあったらキョウちゃんのせいだからね?」




「大丈夫大丈夫。気配的にクオリアもまずまずつえーから。手ぇ抜いてたらお前がやられるぞ?」




「なるべく、傷つけないようにしますので、是非よろしくお願いします」


クオリアはぺこりと頭を下げた。




「傷つけないようにか……優しいんだね、クオリアちゃん」


リョクは少し影のある眼差しをクオリアに注いだ。




「あ……いや……はい」


少し、頬を赤くするクオリア。




「じゃあ、両者離れて。ルールは簡単。相手を降参させた方が勝ち。でも、間違ってもトドメは刺さない事!!!刺そうとした方は俺が容赦無くぶん殴るから」




「なーんか、野蛮な言い方ー。ムカつくんですけどー」


リョクはブーブー言いながら後ろに五歩程下がった。




「すみません……無理を言いまして。後でお礼はしますから」


クオリアは、ジト目を髪の間から覗かせ、申し訳なさそうに会釈する。




「おぉ期待してるぜクオリア」


お礼か……俺は、良い事を思いついた。




「なんでキョウちゃんがお礼一番に貰おうとしてんのよ」




「いいじゃん。欲深くなるなってリョク」




「ラーメン奢って貰っといてよく言えるわね」




「うっ……は……はじめ!!!」




「ちょっと、誤魔化すな!!!」


リョクは俺に向かって、納得がいかないと言いたげに、地面をどしどしと踏んだ。




その一瞬に、クオリアの雰囲気が変わった。




こいつは、かなりの手練れだ。


普通、リョクがこんな感じなら、油断するだろうが、リョクに何かやばいものを感じて、一切の侮りを捨てている。




さて、リョクはどうするんだろうな……




「ワン・チェアー」


リョクはいつの間にか眼帯を外しており、簡潔にそう唱えた。




コイツも、戦闘に関してはかなり切り替える方だからな。


さっきの言葉とは裏腹に、一瞬の迷いも無く、片づけようとしてるぜ。


この潔さが惚れ惚れする。俺がこいつを好きな理由の一つだ。




クオリアは周囲の雰囲気が、ガラッと変わった事に少々戸惑っている。




だだっ広い展望公園は、この瞬間から、天空の闘技場と化した。


陽の陰りが、二人のこれからの戦いに、感傷を差し込む。




リョクは女王の様に優雅に両手を掲げる。


両手の目の文様が、紅く閃光している。


同時に、足元からドクドクと暗黒物質が溢れだし、リョクの周囲の空間を別の世界に塗り替える。


その一部が椅子となり、リョクを座らせ、十メートル程、上空に持ち上げる。


それらは、一瞬の出来事だった……




「なんて禍々しい……」


クオリアは小さな声でそう言い、目を細めた。俺が最初見た時を同じ反応だ。




クオリアも負けじと、呪文を唱えだす。




それをリョクが、上空から人が変わった様に、あの異質な真紅の目を光らせ見下ろしている。


そのままじっと何をするでも無く、クオリアの攻撃を待っている。





クオリアは杖を高々と掲げ、体からオーロラ色の魔力を垂れ流している。




「我が内なる焔よ、遥かなる時を越え、古の魔炎と響き合え。そして、この場に未だ見ぬ火種を顕現せよ……」




……





クオリアの杖の宝玉に、純粋な青と緑が入り混じった、眩い炎が渦となって、吸い込まれて行く。


杖は桁外れのオーラを放ちだし、四方八方に、無数の白い光線を放ちだす。


やがてその光線は螺旋を描き、一点に収束し、リョクを見定める。


クオリアは、鋭くリョクを睨みつけ、大きく息を吸い込んだ……




あれ……なんかやばくね?俺、トドメ刺すなって言ったよな?この炎、異形とかが使うレベルじゃねーし、神炎に近いじゃん。完全に仕留めにいってるだろこいつ?




「アンカーニフィーユッ!!!!!」




次の瞬間――




螺旋状の奇妙な色の光線が、ズドンッ!!!とリョク目掛けて一直線に飛んだ。


それは、とても粘着質な炎で、スピードこそ光に及ばないが、絶対捉えると言う


執念に満ちたな意思を孕んだ、危うく破滅的な攻撃だった。




リョクは、ただ顔色変えずその原初の炎を見ていた。




その炎が空間すら焼き尽くし、リョクに到達する手前、リョクの椅子を持ち上げている暗黒物質が、にょろにょろっと信じられないスピードで障壁の役割を果たす。


得体の知れない漆黒が、原初の炎に対抗している。


炎は負けまいと、激昂したうねりを見せる。


……だが、暗黒物質はどこから溢れ出ているのか……焼き尽くされた瞬間から無限に増殖し、深淵の濁流となる。


そして、瞬く間に、全ての炎を飲み込んだ。




茫然とするクオリア――




「……そんな。かつて魔の王と倒した大魔術師の奥義ですよ……?」




「単純に、リョクがその魔王より強いんじゃね?」


俺は、何の難し気も無く答える。




「それよりお前、やばいぞ。あいつ戦闘モードに入っちまったかもしんねー。ぼーっとしてたら、一瞬で終わんぞ?」




「クオリアちゃーん!凄いわね!びっくりしちゃったよ!それなら恋人守れると思うわ!……じゃーあ、次はこっちの番だよ!?」


真紅の瞳をギラギラと輝かせ、上空の椅子の上から手を振るリョク。


魔の垂れ幕みたいな、不穏な黒髪が、黄昏の風に怪しく舞っている……




「最悪、お前逃げた方が良いよ?」




「……まだまだです」


クオリアは髪をかき上げて、悔しそうに、唇を噛む。




「命は大事にな」


はぁ、だるいがギリで止めるしかないか……言い出した俺も悪いし。




リョクはとても恍惚に浸った様に、天を仰ぎ、街をぐるっと見渡す。


そして、両手の文様から溢れる光で、宙に指揮をとっている。


見える全ては、自分の手中にあるかのように……


リョクに呪文はいらない。


リョクの手が振られるたび、地面の暗黒物質から、途轍もなくデカい何かが、


浮かびあがって来る。


姿がはっきり見える度に、クオリアは後退りして息を呑む。




「あぁ……お前、運悪いな。逃げろ」




「……はい?」




「逃げろ。あれはお前じゃダメだ」




「……」




こいつ聞く気ないな。


てか、"あれ"に即行反応してぶつぶつ何か言い出しやがった。


小手先で敵う相手じゃねーのに。




クオリアは、地に手を当てて呪文と言うより、コードを唱えている様だ。




暗黒物質から出て来た、"何か"は、この展望公園では狭すぎる程の巨体だった。


俺やクオリアを上手く避けて、リョクの周りにとぐろを巻いて、何を考えているかわからない不気味な表情であちらこちらを見ている。




その顔は、例えるモノがないんだが、しいて言えば、宇宙の怪獣。宇宙の獣。


巨木ぐらいの鋭い牙が、口に所狭しと生えていて、その上にある両目はリョクと同じ真紅のまん丸な寒気のする目。体の鱗は、人工的な鉱物に見えるが、羽が巨大な天使の羽みたくかなり神秘的だ。


そんな、未曾有の化け物をまるでペットみたいに撫でて笑っている女がいる。


あれこそが、リョクだ。


きっとあいつは呪われている。




「おーいリョク!ちょっとやり過ぎじゃねーかーっ!」


俺は叫んだ。




「やばくなったら止めてくれるんでしょ?それがキョウちゃんの役目でしょ?」


あいつ、ちょっと俺に怒ってんなー……面倒だ……




この化け物止めるってなったら、魔法少女討伐の100倍は面倒だぞ。




「……生成モード……禁断魔法生成、魔蔵使用。最大トークン数???。


目の前のイメージ対象を葬れる可能性のある術を推論。既知の候補……ルミナフレアアウリア……100%生成不可。代替案。エンドレイン。召喚可能」




あれ?こいつもやばそうな事言ってない?




クオリアのライムグリーンの瞳は光が弾け、杖は壊れる程にガタガタを震え、宝玉からは、放射状にオーロラ色の魔力が天に昇っている。




俺達の上空だけ、魔力の層で出来た積乱雲に覆われる。




積乱雲は極雷を帯びながら、形を変えて、この世界ではほぼ見る事の無い、異界の竜の姿を取った。




悠々と上空を舞いながら、空の一点に、異次元のエネルギーを溜めている……




それを、リョクとその傍らの宇宙の獣みたいな化け物が、ぎらついた真紅の目で見惚れるように眺めている。今にも飛びついて喰らい尽きたいと言わんばかりの様子だ。


獣の口からは、赤い霧状の息が駄々洩れている。すぐにでも、やばい事しそうな事この上無い……




はぁ。




お終いだ。




終わりって意味じゃないぜ。




こいつらやり過ぎ。




俺は、一瞬の判断で、クオリアの背後に回り、手刀を後頭部に一撃。


クオリアは電池の切れた人形のようにパタッと倒れた。


上空で漂ってた禁忌の魔法も、まるでシャボン玉や夢の様に、あっさりと無くなり、


元の夕暮れを取り戻す。




リョクと化け物は、上空の禁忌の魔法が消失した瞬間、同時にケロッと地上を見た。


そのさまは、少し可愛かった。




「こいつ気絶したからもう終わりな!お前等全員、もうちょっと周りの事考えながら戦えバカ!」


俺は、大声で叫ぶ。リョクの心まで声が届くように。




リョクはハッとして、我に帰った顔をした。


間もなく、傍らの化け物のペットを数回撫でて、何か言ってる。


化け物は、体をうねらせ、あっさりと暗黒物質の中に帰って行き出す。


その時の顔は、リョクと離れたく無いかの様な寂しそうな顔をしていた。


まるで、王女とそれに忠誠を誓っている兵士って雰囲気にも見えた。




リョクの椅子が地に降りてくる。




リョクはぴょんっと飛び降り俺達に近づいて来る。




「ごめーん。ちょっとやり過ぎたよね?」




「お前、世界征服でもするつもりかよ?」




「違うわよ。でも、クオリアちゃんいきなり、あんな炎出すから、びっくりしちゃったの!」




「確かに、いきなりあれは無いな。軽い手合わせとかのレベルじゃなかったわ」




「でしょ?だから、行為には代償が伴うって教えてあげようと思って……」




「そりゃ正しいわ」




「……う……ここは」


クオリアは薄目を開ける。




「やっほ。喧嘩両成敗って感じで俺がお前気絶させた」


俺はクオリアの顔を覗き込む。




「はぁ……すみません。やり過ぎました……」




「そうだよ。女の子にあんな容赦無い攻撃、いきなりするのはダメだよ?」


リョクがめっ!と軽く叱った。




「配慮が出りませんでした。自分の事だけに夢中になって……本当に申し訳ありませんでした」




「まぁそれがわかってるなら、大丈夫だよ」


今度はグーッとするリョク。




「リョクに感謝しろよ?お前は今の戦いで大事な事を教えて貰ったぞ?


お前の全力を受けきってくれて、ここまで優しい奴なんか出会えること、まずねーからな」




リョクは俺を見て嬉しそうに笑う。




「リョクさん。本当にごめんなさい。お怪我は無いですか?」




「大丈夫だよ。クオリアちゃんは大丈夫?不良の空手チョップ効いたでしょ?」




俺とリョクは笑って顔を見合わせた。




「はい。かなり効きました」


初めてクオリアは笑った。




「これで一件落着だな。クオリア、お前は十分強いよ」




「いえ……未熟です」




「これから頑張ればいいわよ、君はいい子だからきっと大丈夫」


リョクはクオリアの頭を撫でる。




「……はい。ありがとうございます」




「あ、そう言えば、お礼してくれるんだよな?」




「あ、はい。お金はあんまりありませんが、趣味でちょっと集めてる物とかなら譲渡できます」




「へーなんの趣味?」


リョクが聞いた。




「異界のクラシックのデータです」




「……なんか意外だね」


リョクは含み笑いをする。




「クラシックってのは、俺等あんま聞かねーな……金もねーなら、やっぱ労働で払って貰うしかねーよなリョク?」




俺とリョクは顔を見合わせ、瞳をきらんっと輝かせて笑い、クオリアにそろり近付いた。


クオリアの体に手を伸ばす俺達。


クオリアは、少し後ずさりし、腕で体を覆う様にする。




「その……そーゆーのは」




「ねーんだろ金?」


俺はぐっと近づく。




「無いんでしょ、お金?」


リョクは手を揉み揉みとして近づく。




「……そ……そんな」


女の子らしいか細い声で、声にならない声をあげる。




俺達はクオリアをバッと掴んだ。




クオリアは、目をギュっと閉じる。




「じゃあ!俺達と仲間になって稼いで貰わねーとな!」




「うんうん!沢山依頼手伝って貰わなきゃね!」




「え……仲間?……依頼?」


クオリアは薄っすら目を開ける。




「鈍い奴だな、ダチになろうって事だ」




「ダチ……ですか?」




「そうよ。私達、なんだかあなたがすごく気に入っちゃったみたい。良かったらお友達になってくれないかな?恋もちゃんと応援するよ?」




落ちる陽射しに影を伸ばしながら、クオリアは、ぽかーんとした後、


艶やかなグラデーションの髪も、無垢な少女の顔も、夕陽の色に染まり尽くした。




そして一瞬、ライムグリーンの瞳をぐるりと煌めかせ、恥ずかしそうに俯いた。




「私でよければ……是非」




そうして、俺達は魔法少女と友達になった。

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