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決戦 第三幕 冥 シスイの視点


ごめんね。でも、きっと君に私は倒せない。


そんな事を胸に秘めながら、私(冥 シスイ)は流図トドリと対峙している。

私は、彼女の流れるオーラを魔視で見ながら、自分の頭上に異形の鎌ゼスパを念動で光速回転さす。

円となったそれには、上位魔法属性のプリズムを纏わせている。

もはや、鎌では無く、守護の円だ。


「君、何者?」

流図トドリは、優しい笑顔で聞いてきた。


「学生かな?高校生。でも、学校行ってないんだー」

私は、光の円と化したゼスパを、流図トドリとの間に移動させる。

この無言の警告を、どうか素直に受け取って欲しい。


「違う違う。人なの?」

流図トドリは、蜂蜜の様に滑らかな金髪をかき上げて、武術の構えをする。

彼女の体中に眩いオーラが満ち溢れる。

この子のエネルギーの核は真っ白だ。素直な心の持ち主なんだろうな。


「うん、人。普通の人。両親はサラリーマンだし」

私は廃れた黄金の瞳に力を入れず、彼女に心底敵意は無いと無言で伝える。

ゼスパが巻き起こす旋風で、私の真っ白なボブの髪がさらりとゆれ、幽霊みたいに白い肌が冷えて蒼白を増した。


「その能力、その気配、その見た目、全部普通じゃないのにね。意外だよ」

流図トドリは、クリアゴールドの瞳をきらんと輝かせて、私にウインクする。

隠せないスター性だね。なんで敵にウインクするのさ。

実は、私、一時期アイドルであった君を猛烈に推してたんだよ?


「私には、これが普通なんだ。それに世界の数だけ普通はあると思っているよ?だから、君の考えも否定しない。阻止はするけど」


流図トドリは、私の阻止と言う言葉を聞いた瞬間、体のエネルギーを最大に増加させた。

その量から察するに、武術に魔力を絡ませて使う彼女なら、あの災害級の異形とも面と向かって素手で打ち合いをして勝てる可能性もあるかもしれない。

一瞬で私の元に来て、激しい猛連撃を繰り出すエネルギーなんていくらでもあるだろう。

異形配信の動画を見た感じなら、一発でも彼女の攻撃を受けるだけで簡単に死んでしまう。衝撃波ですらそうだろう。

近寄らせてはいけない。


「じゃあぁ……」

流図トドリは、何かを言おうとして、一歩踏み出そうとした。

ごめんね。まだ死ねないんだ。


私は、流図トドリの目前ギリギリに、空間から一閃の稲妻を落とした。

流図トドリは間一髪で踏みとどまる。

焦げ臭さが、コンマ以下の秒で辺りに広がる。

そして彼女は、バク宙で後方へ緊急回避しようと、一瞬しゃがむ動作を見せる。

しかし、私はもう一発、彼女の背後に、刹那の雷刃をズドンと落とした。


とうとう彼女は、全く動けず立ち尽くすしかなくなった。


彼女はとてもやりづらいだろう。

それもそのはず、私は、この戦いの最初から未来視が発動している。

彼女の数秒先の行動を、先回りしてあげく、回避不可の光速攻撃を加えているのだから。


「怖いね、君」

流図トドリは引きつった顔で笑っている。


「私の名前は冥 シスイだよ。トドリ、もうこんなのやめようよ?」

私は、彼女に手を伸ばす。


「シスイか……さっきも言ったけど、私達を完全に倒したら、ちゃんと仲間になるよ」

彼女は、私の手を取らなかった。


完全に倒したらって、なんなのさ?強い弱い、戦い、そんなのが本当に重要な事なの?


「じゃあ、もう降参してよ?」

私は、目の前の光の円とは別に、自分の背後の頭上に、灼熱で燃え滾る隕石を十個程生成した。

小さくとも、その威力は計り知れない。それを私は身を持って知っている。


「まだ、私の能力知らないだろ?侮らない方がいいよ?」


そう言いながらも、私の隕石に冷や汗搔いているじゃないか……

それに知っているんだよ、能力。

私は未来視が発動さえすれば、数秒でなく、少し先の未来も視えるんだから。

ただ、君の危険な攻撃が、起こり得ない因を施しているだけなんだ。

未来視の無い相手なら、君は本当に強い。スピードも威力も、今まで見て来た異形達より桁外れだ。


「侮ってないよ」


だから、これは本当の話。

でも、近接の物理攻撃を主とする君の戦い方は、私とは相性が最悪なんだ。

私は、その類の相手には、正直負ける気がしない。同じ未来視や念動使いで無い限りは。


私は光の円を自分の前だけではなく、自己の周囲全体に旋回する様にした。

その上で、彼女の頭上に、灼熱の隕石を全て移動させる。


これで、君は攻撃出来ないし。私はいつでも君を攻撃できる。


その状況を見て、私が一切動いていないのに、いつの間にか自分の負けが完全に確定した事に気づいたのか、流図トドリの表情はみるみると崩れていった。


「……ひどいよ」


よく見たら、瞳も涙で滲んでいるじゃないか。


「え?」


私は、手を顎に持っていき、首を傾げた。

わざと、とぼけるみたく。余裕綽綽な顔で。

そして、早く諦めてと言う気持ちを込めて。


流図トドリは、悲嘆に満ちた顔で叫んだ。


「これじゃ、動けないじゃないかっ!!!」



……え?


……もしかして、天然?


あ、そうか。


今、理解した。


世間のみんなも、私も、彼女を完璧すぎるアイドルと言う、偶像の姿だけを見て誤解していたんだ。

彼女は、なんの事は無い。

幼気で意地っ張りな女の子なんだ。

そうならば、接し方を変える必要がある。


「当たり前じゃん。そうしてるんだから」

私は雰囲気を少し変えて、強めに言い放った。


「……こんなのフェアじゃない。私達には救わないといけない子達がいるのに」


やっぱりだ。あまり周りが見えて無い。この状況下でも、自分のどうにも出来ない範囲の事を無理にしようとしている。その力や権利があると勘違いしている。


「出来ないなら仕方ないさ」


その凝り固まった思想に、君達はどれぐらいの人を巻き込もうとしたのさ?


私は、冷徹に言い放った後、トドリの遠く背後にあった、彼女達の壮大な計画に必須な召喚機、チャーチオルガンとヴァイオリンをめがけて、隕石を躊躇無く打ち放った。


「やめて!!!」


ズドドドドドド!!!!!


周りで戦っているみんなも、何事かと見ている。幽明は少し笑っていた。


流図トドリは叫んだが、その声も空しく、二つの召喚機は跡形も無く消え去った。

その場所のコンクリートすら、大きく抉れて無くなり、地中の土が剥き出しになっている。

これで、彼女達は再度計画をやり直すなんて事は、もう出来ないだろう。


「酷い酷い酷い!!!なんて事するんだ!!!やっぱり私達の考えなんてなんとも思って無いんだ!!!」


先程までカリスマ性に溢れ、底知れぬ雰囲気だった彼女だが、今は涙をポロポロ流し、私を睨みつけている。その様はただの思い通りにならなかった子供みたいだ。


「そうだね……でも、よかったじゃん。あれが君達を苦しめていたんでしょ?

そんなもの無くなった方がいいよ。君達の考えが、君達を苦しめてるのなら、私は敵になったってそれを潰すよ。大事にしたいのは、君の考えじゃ無く、君自身だからね」


私は淡々と泣きじゃくる彼女に告げる。


「……君は強いからそんな事が言えるんだ!!!恵まれてきたからそんな事が簡単に言えるんだ!!!」


彼女は自己のイメージを維持する為に、溜まりに溜まった感情を、今、涙と叫びによって解放しているみたいだった。


「もう一度聞くけど、君達は人を救いたいんだよね?それって、強く無くても、何も持って無くても出来る事じゃないの?なんで今できる事で無く、何かを手に入れてからやろうとしているのさ?」


私は、彼女から毒を吐き出させるように、きつい質問によって気づきを促そうとした。


「お前になんかわからないよ!!!」


流図トドリは叫ぶ。


「だから教えろって言ってるんだろ!!!」


私は叫び返す。


その時、流図トドリは少しハッとした顔をした。

きっと、円環ミレア以外の誰にも、本気で胸の内を吐き出せ、聞いてやる、受け入れてやると、言われた事が無いのかもしれない。


「……言ってもわかんないよ!」


トドリの声のトーンが少し弱まる。


「大丈夫だよ、トドリ。分かるまで聞くからさ」


私は、再び手を伸ばす。


すると、流図トドリは、ほんの少し、ほんの少しだけ、足を前に出した。

彼女が私達に真に歩み寄った、最初の一歩かもしれない。


「……シスイ」


「何?」


「本当に、信頼していいの?君達は怖くないのかな?」


……怖くない?変わった質問だな。


「信頼はたぶんしていいよ。私は、学校すら行ってないぐらいだから、何かを企む程の野望なんて更々ないし。ただ平穏に生きたいだけだもん」


そう言うと、流図トドリは目を見開く。


「私と同じだね。……平穏に生きたい。……平穏に生きさせてあげたい。ただそれだけなんだよね」


トドリは、ほんの少し笑う。きっとこれが本当の彼女だ。


「いぇーい、共通点あったね。ちなみに怖くはないってのは断言はできるよ。

その代わり、すごーく面白くて変な人ばっかだけど ふふ 違う意味で怖いぐらい ふふふ」


「なにそれ ふふ」


トドリは口角を大きく上げて喉の奥を見せ、まるで仲良しの友達みたいに笑った。


そして、私に少し近づいて来ている。


もう少しだ……


その時だった――


トドリの背後で、災害級の異形が、特大の咆哮を上げ、魔術を行いかけている。


その先には、見た事の無い、オレンジ髪の女の子。


「トドリ!こっちへ来るんだ!ここは危ないよ!私と行こ!」

私は、彼女に無防備に駆け寄り、その手を取った。


彼女は少し驚いた顔をしたが、拒否するでも無く、私について来た。


彼女と自分を何があっても守る様に、目前には、限界を超えた速度で、ゼスパを回転させる。こちらに魔術が飛んできた場合は、最大出力の極雷で吹き飛ばそう。


私達は、手を繋いだまま、災害級の異形の超魔術と、正体不明の女の子の不思議な魔術、輝くピラミッドの成り行きを見守った。


――


――


それは、とても意外な結末だった。


一瞬の出来事だったが、災害級の異形は、自ら発した魔術がピラミッド空間に反射してしまい、行き場を失ったそれは、何度も異形を貫きながら連鎖反射した。

後に、オレンジ髪の女の子が、その空間を聖剣の様なモノで切り裂いて、

膨大な結晶爆発を起こし、ネオンの様なガラスが無数に刺さり異形は倒れ込んだ。


流図トドリは、とても不安そうな表情に戻っている。


「トドリ、誤解しないで……」

私は彼女の目を見つめて言った。


彼女は、私の顔を見る。

その顔は、迷いだった。無垢で幼気で弱弱しい女の子の迷い。


「信じて。お願い」

私は、トドリの手を強く握る。


彼女は、災害級の異形を見る。

そして、また私を見る。

もう、何が何か分からないといった表情だ。


そして――


流図トドリは、災害級の異形の元へと全速力で走り出した。


「トドリ!!!行っちゃ駄目だ!!!」

私は、手を伸ばし叫んだ。


彼女は、異形の元に辿り着いた後、一瞬こっちを見た。

その時何かを言った気がする。

恐らく、その言葉は


「ごめんね」


だった様に思う。

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