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決戦 第三幕 花岡 命 の視点


決戦の倉庫――


そこには、誰も予想だにしなかった光景が広がっている。

例の配信に現れた、災害級の異形。

その存在は、秘密結社シェアプリズムのメンバーの誰もが、その規格外の力に圧倒されるだろうと考えていた相手だ。

しかし、現実は違った。

全くもって違った。

ありのままに起こった事実だけを述べると、


オレンジ色の外ハネ髪が特徴的な、可憐なる乙女が、端正な顔に似合わない罵声を振り撒き、電光石火の如く空間を飛び回り、耳を抑えたくなるような轟音を立てながら、何の変哲もない木材で災害級の異形を滅多打ちにしている。


そのさまは、不良少女が無抵抗な校舎のガラス窓を、激情のままに打ち砕き尽くしているかの様な光景である。

全てを破壊尽くしたい衝動、いくら潰しても癒えない渇き。


正体不明な不良少女。

正体不明な強さ。

その光景は、とてもヴァイオレンスの極みだ。

もう一度、確認すると、

オレンジ髪の乙女が圧倒している異形は、ただの異形では無い。


深い黒の洗練された肉体は、四足歩行の獣ではあるが、何処かの魔王と言っても遜色の無い風貌と威厳がある。

大きな角が四本生え、斑模様の長く太い尻尾が数本鞭の様にしなって、空間を刀の様に薙いでいる。

顔は巨大な狼の顔の骨の様でいて肉は無く、不気味な魔術文字が刻まれている。

最強格の霊長類を十倍にしたフォルムに近いその獣を見ると、人はその規格外さに本能的敗北を感じるだろう。

そんな肉体の節々には鋭利な骨が突き出て鎧になっている。

極めつけは、稀に存在する常時属性持ち。これらの個体は例外なく弱い者など皆無である。


そんな存在を、ただの風化した木材で圧倒する化物。

果たして彼女は一体何者なのだろうか……?


「根性見せやがれこらぁぁぁっ!!!」


人知を超えた規格外の異形は、罵詈雑言に激高し突っ込んでくる彼女を、

どうしても止めたく、そのヴァイオレンスな乙女の腕を、斑の毒蛇のみたいな尻尾でギュルルと巻き付け拘束した。


「うぜぇうぜぇ……超うぜぇよお前!!!だ・れ・も・私を!止めんじゃねー!!!クソバカッ!」


彼女は、血走って凶暴なマグマが溢れそうな、アンバー色の瞳を異形に向ける。


「いらねぇって事だよなぁっ!!?これ!!引きちぎっていいって事だよなぁっ!!?なぁっ!?」


異形は、その言葉に大きな咆哮を返し、体中に力を込め、血管がみちみちと浮き始める。絶対にこいつを力で屈服させてやると言わんばかりに。



「おおおおおおぉぉぉぉぉらああぁぁぁっっ!!!」


目が優しく、気の良さそうな顔を持つその乙女は、そんな自分を全否定するかの要に、顔中を怒りのみで染め上げ、歯を剥きだしにして食いしばりながら叫ぶ。


次の瞬間――


ブチチチチィーッ!!!


尋常じゃ無い粘着質のゴム素材が弾ける様な音がした。


まさかなのだが、

根は優しそうなその女の子は、自分の百倍の体積があろう異形相手に、超がいくらでもつく程の強引さの力のみで圧倒し、完全勝利したのだ。


異形は悲鳴の鐘の破撃を倉庫に鳴らす。。


「ブオオオオオオォォォォッッッ!!!」


それでも、彼女は止まらない。


「痛がってんじゃねーぞこらぁっっ!!!どうせさっきみたいに生えてくんだろ??何度でもやり直しが利くからって余裕こいてんだろ!?」


彼女は、先程も異形の体の一部を吹き飛ばしたのだ。

その時、瞬時に再生した状況を見て、当然の如くブチ切れた。

一体、彼女の怒りの矛先は何処なのだろうか?

恐らく、この異形相手では無く、もっと根深い話なのだろう。


それはまた別の話。


そんな彼女の体は半透明。

明らかな人外のスピードで、常に相手の背後をとり、一切の反撃すら許さない。

いや、この子には反撃は無意味なのかもしれない。

彼女の周りには薄いバリアが常にある。

まるで、なんぴとも自分へ一切侵入してくれるなと言わんばかりの徹底的壁。

見えにくいが、はっきりと存在する、拒絶。


それら全ての光景を見た者はきっとこう言うのだろう。


あの災害級の不良少女を怒らせるな……と。

あの災厄の女には決して関わるな……と。


実際、彼女は何度もそう言われて生きて来たのだ……

家族にも、信頼していた存在にも、無関係な他人にも……


それが彼女、慈十ジトウ キョウなのだ。




――――




「キョウちゃん……流石です」


ノウコが息を呑んで、目の前の圧倒劇を讃美する。


「そうね。私の従姉妹だけあるわ」


私(花岡 命)は、久しく見た従姉妹の成長ぶりに、少し嬉しい気持ちになる。


「花岡家と慈十家の血が合わせ持った上で、天性の剣と魔法のセンス……末恐ろしいですね」


「だからこそ、あんなになっちゃったってのもあるんだけどね」


「えぇ……傍から見ていて、心が痛みました。もっとキョウちゃんの助けになれれば良かったんですが、あの時の私にはそんな勇気が……」


「ううん。キョウは、ノウコの事、大好きって言ってたよ。ノウコのおかげで

まだ楽しくいれてるって言ってたの覚えてる」


「それは、本当に嬉しいです。私、あの子を妹みたいに思っていましたから」


「懐かしいわね……三人でいたあの頃」

私は、血統に刻まれた責務から逃れ、三人で楽しく過ごした日々を想起する。


しかし、それはとても荒々しい激情によって遮られた。

キョウが私の傍まで来ていた。


「あああぁぁぁ!!!もう、爆発しそうだ……ミコト、俺が暴走しちまったら止めてくれよ?」


「いやよ。めんどくさい。もう半ば暴走してるし」

この返しは、昔のままだ。彼女をからからうのが私はとても好きだった。

からかった時にする、困った顔がとてもいたいけな女の子みたいで。


「はっ!?お前が呼んだんだろ!?ざけんなミコト」

あ、一瞬あの時の顔をしたわ。


「じゃあ、ノウコお願い」


「ちょっ……え……荷が重すぎます」

このノウコも懐かしい、いつも私とキョウに振り回されて、あたふたしていた。


「んじゃっ、ノウコ姉ちゃんよろしく!」

キョウはノウコを見ると、少し冷静を取り戻し、明るくなる所があるのも同じ。


「さーて、化け物さんよ?息ついてる暇はねーぜ?これは命懸けの勝負だ、そんな時に休んでいいわけねーだろ!!!おら!!!」


慈十 叫は、ブイィンと音を鳴らして木材を振り回し、災害級の異形に突きつける。


すると、木材は琥珀色の粒子に包まれ、その中から、まるでおとぎ話の秘宝剣みたいな、勇者の聖剣に成り変わった。


琥珀色の粒子は波打ち、刃から絶えることなくドクドク滲み出ている。


それに反応した災害級の異形は、物凄い音量の遠吠えで叫び出した。

最大の危機へ対する、生存本能の絶叫。


「あぁ……キョウ、本気で暴れるつもりかも。あの異形もまだ何か隠してそうだし……」


「ミコト様。ここで、それらが起こるのは、かなり危険なのでは……?」


「ええ、最悪の事態になったら、こんな倉庫一瞬も、もたないわ……はぁ……なんでこんな事になっちゃったんだっけ?」


「……」


「ノウコ分かってるわ。私があの子を呼んだからだって言いたいんでしょ?」


「いいえ、ミコト様が彼女を呼んでいなければ、私は死んでいたかもしれませんし……今の状況が起こりうるベストな状況だったと私は思っています」

「ミコト様の采配で、ここまで生き続けられてきたので、私はそれを疑った事は一度も御座いません。きっと彼女がここに来るべき意味もあったのでしょうし」


「来るべき意味か……」


私は、薄っすら目を閉じ、数十分前を想起した。


--------------------------------------------------------------


数十分前――



私とノウコは、災害級の異形に対峙していた。

その存在は真紅の鎖から解放され、青白い息を吐きながら、のろりのろりと漆黒の王の様に、余裕の風格で私達に近寄って来た。

サイズ感は、超大型の霊長類の様で、まるで人みたく完璧な二足歩行。


「ノウコ、こいつの体から出てる爆発、気を付けてね」


「はい、様子を見ながら交戦します」


「何か隠している妙な感じもするし……とにかく警戒する事」


「隠しているですか?……わかりました、最大限に注意を払います」


ノウコは私の言葉を聞き、雰囲気が変わった。

突撃モードから、試行モードに入った感じだ。


だが、しかし――


奴は、私達に探る余裕すら与えず、一気にケリをつけにきた。


災害級の異形は、強靭な二足の足から発せられるワンステップで私達の所まで弓の様な跳躍をし、死神の鎌のみたいな巨大なかぎ爪の手を、私達二人の首元へ躊躇なく振りかざした。


私は咄嗟にノウコを見る。一番に守りたい彼女を。


ノウコの漆黒の瞳がぐらんと揺れている。


私はコマ送りで、彼女の動くを視た。


私の前に、幽霊の様にふらりと倒れてきて、その脱力とは正反対の爆発的な速さで、

上空に弧を描くように、三日月のフォルムの秘刀"暗夜白冥"を抜刀した。


ブシュウウ!!!


一瞬だった――


巨大な前腕は、ぼろりと宙を舞った後、池から飛び出た魚みたく、無害に地面に転がっている。


私は少し驚いている。

ノウコは、まだ何も降霊憑依はしていないはず。

しかし、この動きはギリオドやデヨンヒメに通じるモノがある。

彼女は伝記の存在達の動きをラーニングして自分のモノにしている……


ノウコは凄まじく強くなってきている……


「ゴオオオオォォォッッ!!!」


異形は、痛みと怒りでのたうち回っている。倉庫自体が揺れてしまいそうだ。


じゃあ、私も手伝いますか。


「ノウコ、ナイス。裁きの糸で拘束するわ」


「承知しました」


私は、鮮やかな宝飾があしらわれた金色の鉾を異形に向けた。


「拘束」


腕を無くして、絶叫しながら藻掻いている異形を、周囲の空間からにゅるにゅると際限なく放出される光の糸が、あらゆる方向からがんじがらめにする。


「これで大人しくしてくれたらいいけど……」


「そうですね……先程の攻撃もなかなか速かったですし、真っ向勝負は分が悪そうなので」


災害級の異形は、さらに足掻き悶える。


四肢をバタバタと猛烈に振り回し、絡みつこうとする光の糸に必死で抵抗する。

巨大な骨の顔の奥にあるその大きな瞳は、見るのも拒みたくなる程に血眼になり怒りに満ちている。


「なかなかの迫力だね、映画みたい」

私は、ノウコに淡々と呟いた。


「映画なら、マニアックなやつでしょうね」

私もノウコも一週間に一回は、一緒に洋画を見る。

それが、私の結構な楽しみだ。


「うん。間違いないわ」


私とノウコは、その光景を眺めながらも武器に力を込めた。


何故なら、目の前の禍々しい化け物は、動物的で凶暴な躍動だけで、私の裁きの糸をブチブチとちぎりだしたからだ。


「やっぱ拘束無理だね。この子規格外だ」


「ミコト様の裁きの糸が通じない相手ですか……」


「うん、ホント警戒して。前の宇宙人の魔王並みのポテンシャルがあるかもしれないよ、肉体のみの話だけどね。でも、こいつは容赦が無い分たちが悪いよ」


「はい。肝に銘じます。私は相手がなんであっても全身全霊で貴方を守るだけです」


「ふーん……死なないでね。大好きだから」


「珍しいですね……ミコト様がその様なストレートな言葉を吐かれるとは、いつもあざとく遠回りばかりですのに」


「悪かったわね、あざとくて」


私達は、笑って見つめ合う。


そうこうしている間に、目の前の災害級の異形は糸を全部ちぎり尽くしそうだ。


「ねぇ、ヒボシいる?」


私は使役している妖魔を呼んだ。


「エェ……イマストモ……ミコトオジョウサマ……ククク」


空間から、怪しさを秘めた古風な女性の声が聞こえる。


「ヒボシ、あいつをロックして。あなたなら確実にできるでしょ?祈りの星屑で?」


「……エェ……デキマス……ガ……」


「どうしたのヒボシ?今日は乗り気じゃなさそうね」


「……」


「ミコトオジョウサマ……コンニチハ……ゴカンベンヲ」


「何故?理由を聞かせて」


「……アノイマワシキモノニ……キヨキイノリ……フレサセトウアリマセン……」


「……そっか、そうだよね……」


「わかったわ、ヒボシ。ごめんね、配慮が足りなかったね」


「……セメテモノシュクフクヲ」


ヒボシがそう言うと、空間から半透明の星屑の小さな物体が、私とノウコの体に落ちて来た。


これは、不幸中の幸いね。


隣を見ると、ノウコの気配が凄まじく跳ね上がっている。属性持ちみたく色すら滲み出そうな程だ。

その効果は私にも表れた。


「ノウコ、ごめん。拘束無理だったわ。私達でやるしかないみたい」


「謝らないで下さい。いつだって二人でやってきたじゃないですか」


「そうね。出会った時からずっとね」

  



災害級の異形は、完全に裁きの糸を脱した。

さらには、ノウコに切られた腕まで、いつの間にか新しく生えてきて完全な姿に戻っている。

心なしかその腕は前より大きい。

この状況から見て、私は裁きの糸の連打追い打ち作戦は完全に辞めた。

奴は、私達の攻撃で成長する可能性もある。私の魔術の完全な耐性をつけられるのはまずい。

やっぱり、この相手、どうもおかしいわね……



「えぇ、ずっとです。懐かしいですね」


ノウコは、異形が完全再生し、今にも迫ろうとしているにも関わらず、目を瞑り、穏やかで幸せそうな表情をして過去を想起している。


これが、彼女なりの精神統一と私は知っている。


そして、ふぅと一息をついて、私を見て微笑んだ。


「では、行ってきます」


その微笑みは、今はもういない私の母の微笑みに似ていた。

ノウコはきっと母の笑い方が移っているのだろう。とても親しい間柄だったらしいから……


「……いかな……」


私が声を発し終わる前に、ノウコは既に異形の元へ向かって行った。

疾風が巻き起こる程の強烈な速度、私の髪が逆立つほどに満ち溢れる気迫。

速度は、奴に近付く程に急上昇する。

途中から臨界点を突破した様な速度になる。

きっとギリオドを肉体に憑依させたからだろう。秒間に無尽蔵な斬撃を叩き込んで一気に決める気だ。


負けてられない。私も行こう。

彼女の戦いの様は、純粋な戦闘意欲を搔き立てられる。


……ん。


待って。


やけに、やつの体の炎の粉塵がさっきより少ないわ……


ノウコもそれに反応し、突撃をした……


不自然ね。


まるで、攻撃を誘っているみたい。


そうか――


――


「ノウコッ!!!ダメ!!!下がって!!!」


ノウコは、一瞬何かを感じた動きをするが、軌道は変えず、刃を一直線に異形に向けて突き進む。


それに対して、かぎ爪を盛大に振りかざそうとしていた奴だが、急にそれを辞めて、

逆に体を縮める素振りをした後、一気に周囲に炎の粉塵を満たす。


次の瞬間――


火山の噴火の前の様な、鈍く壮大な、始まりみたいな轟音が、奴の周囲から響く。

音と同時に、奴の周囲は一瞬、焔色に輝いて染まった。

物凄く眩しい……


「ノウコーーー!!!」


私は喉が潰れてしまう程に叫んだ。

恐怖で胸がバクバクする。

嫌!ノウコがいなくなるのは絶対にイヤ!

私は、間に合わなくとも全力で向かう。

こんな事なら、最初からトクト―ロガミやシビャク、オリツセカイコウを降ろして、

全部片づけるべきだった……

私は、ノウコの顔が浮かび目尻から涙が滲む。

何もできぬまま、ただ爆炎の中に目を凝らす。


しかし、奇跡が垣間見えた。


灼熱の空間の中に、それが到達していない空間があるのだ。


そこには、まるで剃刀の竜巻みたいな現象が起きている。


千を超える、炎をも切り刻む斬撃。


ノウコが生きてた――


やっぱり、ノウコは死なないんだ。私の母親みたいにいなくならないんだ。


よかった……


ノウコは鬼人の様な形相で、マグマ程の熱風も恐れず、それに内勝とうとさえしていた。


ノウコが頑張っているのに、挫けている場合じゃないわね。


私は、もう一度叫んだ。今度は現実的な行動を。


「ウロバミ!ノウコをサポートして、奴の炎を一片も残さず飲み込んで!」


私がそう言った瞬間、近くの空間から、大蛇の様な肉の塊が出現し、

猛烈なスピードで、災害級の異形の元へ向かう。


久しぶりに見たその見た目は、相変わらずとてもグロテスクで、

人間の腸に、とても似ている。

しかし、その体には何やら文明の進化の過程の様な象形が浮かんでおり、神秘的な側面もある。怪しく緑色の瘴気を薄っすら纏い、底知れなさもある。


自分の妖魔だが、これがなんなのか全く分からない。私の血統に関するモノでは無い。

心当たりは一応あるのだが誰に言っても信じて貰えなかったし、夢だったかもしれない。

私は、小さい頃、家族旅行で訪れたとある日本の禁忌の森で想像も出来ない程に大きな存在に丸吞みにされた。

よく考えれば、家族でそんな所に旅行に行くのもおかしいし、何故、自分だけがはぐれたのかもおかしい。

しかし、どうやったか私は、そこから自力で這い出たのだ。恐らく降霊術が自動発動した。

私に憑依した、なんらかの幽体が、その巨大な存在と交渉していた気もする。夢うつつだが……

そして、今ですら類を見ないその存在は、鬼の様に血走った巨大な目で私を覗き見てこう言った。

「ツカエ……クレテヤル」

そして、口から臓物を吐いて何処かへ行ったのだ……


今思い出しても、現実とは思えない……でも、たぶん現実だ。


変な事思い出している場合じゃない。


気が付けばウロバミは、奴とノウコをぐるっととり囲むようにして、口かなんなのか分からない、闇の入り口で盛大に炎の粉塵を吸引している。


ノウコは片方の刀を、地面に突き刺し、その風圧に飲まれない様に必死に抵抗している。


災害級の異形の灼熱はその中にどんどん吸い込まれ、ほとんど爆発する前の状態に戻った。


奴は、今何が起こっているのか理解出来ない風だ。

とにかく、ウロバミに途轍もない嫌悪を抱いている。


その時だった、隙を見たノウコは、もう一本の刀、妖刀、怪乱桜で異形の両腕を、居合で一瞬の雷鳴が如く切り裂いた。大きな腕が宙を舞う。


ノウコは、着地と同時にステップを踏み、新体操の様な動きで、私の元まで軽やかに戻って来た。


「ミコト様、お怪我はありませんか?」


「こっちのセリフよ!久しぶりにヒヤッとしたじゃない……もう……生きてて良かった」


きっと私のまつ毛は、涙でまだ濡れているだろう。少し恥ずかしい。


「すみませんミコト様……」


ノウコは、久しぶりに私の頭を撫でてくれた。


私も静かにノウコを抱き締める。


両腕を切断された異形は地面に倒れ込んで絶叫し藻掻いている。

しかし、ウロバミは容赦無く、噴き出る血さえ吸い込もうとする。


「ウロバミ……やはり、気味が悪いですね」


ノウコはウロバミが生理的に受け付けないらしい、いつもあれを見た後は顔色が悪い。


「うん。でもちょっと可愛い所もあるのよ?」


「さすがに……ないです」


ノウコは首をぶんぶんと振る。今のは少し女の子っぽい仕草でカワイイ。


「あ……」


「どうしました、ミコト様?」


「あいつの、顔の封印っぽい包帯?ウロバミ飲んじゃった……」


「……それは、少しまずいのでは?」


「大マズ」


とりあえず……


「ウロバミ!撤収!」


そう言った瞬間、ウロバミは一瞬こっちを見て、ペコリとお辞儀をした様な仕草をし、空間に溶けて消えて行った。


「ほら、今のカワイイ」


「言ってる場合ですか!ミコト様!」


珍しいな、ノウコが私に突っ込むの。


次の瞬間――


奴の両腕は、またもや、にょきりとすごい速度で再生する。

しかも、今回の両腕はかなり長い。


体全体の骨格も変形している。


どうやら、四足歩行の何かに変わるらしい……


呻きながら、体がぐにょぐにょと動いている。


「……ミコト様、もう皆を連れて逃げた方が良いのでは?」


ノウコがそう言いだす程に、それは悪魔みたいな獣になりつつある。


「……そうね、でも」


私は、周りを見渡す。

各々が激しい交戦を繰り広げている。

私は、シスイを見た。あの子はホントに強い。

今回の災害級の異形との戦いも、最終的にはシスイがいるから、

私は血に受け継がれし三体のどれをも顕現する必要は無いと思っていたぐらいだ。

彼女は気分で揺れるが、安定して強力な合成召喚を繰り出せる様になったら、

きっと私の一族やその周りの界隈からも目をつけられる程の存在になるだろう。


続いて私は幽明 灯を見た。

幽明は……え……

えぇ!……ショタが踊っているわ。

アニメみたいな王子様ショタが……


「ノウコ、見て!あれ、幽明のとこ!」


私はいち早くノウコに伝えた。

何故なら、ノウコはショタや、少女漫画の王子様に目が無い。

彼女の車の助手席の前の収納ボックスにはBL本が所狭しと入っているぐらいだ。


「それどころじゃ……って……あああぁぁぁあああぁぁぁ!!!」


ノウコは、目が血走りおかしくなったみたいに奇声をあげる。

そして、今にも飛びつきそうな程に、食い入る様に魅入っている。

鼻息もとても荒い……


「ふふっ、ちょっと笑かさないでよノウコ!」


鳥の様に、角度を様々に変えてショタを目に焼き付けようとしている。


「だって、ミコト様が私に、あの尊い存在を見したんじゃないですか……罪です。罪過ぎます」


私は、ふと災害級の異形を見た。


やばっ、もうこっち来る寸前じゃないのよ。


「ウウォー―――ン!!!!!」


その獣は完成した新しい肉体で幻想的な遠吠えをしだした。


……どうしよ。


ノウコは完全に集中切れてるし……


この状況結構まずいわよ?


もう、降ろすしか無いかな。


しかし、その時。私の頭の中に懐かしい声が響いた……




――――やばい時は、俺を呼べよな。ミコト――――



ジトウ キョウ……


確か、そんな事を昔、"あの俺っ子"が言ってた気がする。


あ、そうだ。


そうだ、そうだ!


この作戦なら全て解決するかもしれない。


妖魔では無いけど、現役の生きた人間だけど、まだ昔の契約は残っているかも。


「ノウコ聞いて」


「はい、どうされました?もう逃げますか?」


ノウコはチラチラと、まだ例のショタを気にしている。


「いいえ……慈十ジトウ キョウを呼ぶわ……キョウの能力なら、きっとあいつに勝てるわ……今、あの子がどんなレベルか全然知らないけど……」


「……キョウちゃんですか……それは、可能なのですか?」


「わかんない。でもやってみる。ノウコ、私、電話するから援護してくれない?」


「はい、仰せのままに。どうしましょうか?」


「電話している間、私をおんぶして、奴から逃げ回って」


「ふふっ、私達らしい戦い方ですね!」


「そうでしょ ふふふ」


ノウコはすぐさま私をおんぶして、奴を警戒しながらポンポンと跳ねる様に、辺りを

跳ねまわり出す。


獣になった異形は、神獣みたいな四足で地面をバリバリ裂いている。


私はスマホを取り出す。


そして、電話帳から久しく会っていない従姉妹を見つけ出し、電話を掛けた。


トゥルルルル――


「もしもし、誰だ?」


繋がった。


「ミコト」


「おう!久しぶりじゃねーか、ちびっ子。どした?」


「もうチビじゃない。緊急事態なの。今何してるの?」


「お前がそう言うってんなら、まじもんそうだな。部屋で寝る所だよ」


「幽体でこっちに召喚させて?契約まだ切れてないはずだから」


「おいおい、いきなり無茶言うなよ!確かに、クソジジイ達の懲罰で、お前の使役対象にされた事あるけど、あれはジョークみたいなもんだろ?それに、もう流石に効果無いって」


「やってみないとわからない」


「……まじで言ってんの?俺生きてんだよ?幽霊でそっちに行けって言ってんだよお前」


「そう。幽霊でこっち来てって言ってる」


災害級の異形は、突進して来るでも無く、魔法陣を自己の前に出現させ始めた。


あれはまずいわね、急がなきゃ……


「ミコト様……」


ノウコも、焦った表情をしだす。


「あほかバカミコト。ムーリ!!!お前やっぱサイコパスだろ」


「あの、約束嘘だったんだ……ヤバイ時は俺を呼べって言ってくれたやつ……ずっと信じてたのに……」


それは、嘘じゃない。ノウコとキョウは、ずっと信じてきた。


「……あぁぁぁもう!!!クソッ!!!お・れ・は嘘はつかねーえ!!!」

「呼ぶなら、勝手に呼べ!上手く行ったら、行ってやるだけだ!お前にそんな言い方されたら断れっかよ!!!ずりーなマジで!」


私にされたらか……やっぱ嘘じゃなかったんだ。



異形の魔法陣には、エネルギーが満ち溢れてだしている……もういつ放出されてもおかしくない……


「じゃあ、呼ぶわ。キョウも念じて」


「……おう」


私はスマホをしまい、鉾を天に掲げ、ノウコの背中で召喚の呪文を唱える。


「慈十 叫よ。我が奇跡の力を糧に、契約を履行せよ。今こそ、その稀なる力を持って我が目前に顕現し給へ。この場において、我等に魔を覆す奇跡を授けよ。慈十 叫よ、そなたの崇高なる異能、目の前で拝見したいと切に願う。出でん事をこの我が真に許さん。さぁ出でよ、ジトウ キョウ!!!」


私が唱え終わると同時に、魔獣は、とてつもないエネルギーの光の束を私達に打ち放った……きっとこれは誘導魔法だ。私達が逃げ切れる速度でも無い。


私はギュっとノウコの背中を抱き締める。


「お願い……」


周囲が光で満ちる。

眩しくて何も見えない……

でも……

私達の前で誰かが笑った気がした……


音が止む。

私は目を薄っすら開ける。

開いた目に、まだ私が生きていると理解する。

耳に音が聞こえる。それもまた生の証明だった。

その音はとても懐かしい、優しい声……


「よおっ!久しぶりだなミコト、ノウコ姉ちゃん」


目の前には、オレンジ色の明るい髪を外ハネにした、スラっとしたジャージ姿の半透明の女が微笑んでいる。

彼女は右手を異形に向けている。

私は確信した。きっと、あの手が私達を守ってくれたのだろう。


「キョウ……雰囲気変わったわね、背が伸びた」


「だろ?二人も結構変わってるけどな」


「キョウちゃん……こんな大きくなって、お姉ちゃん感動です!」


ノウコがすぐに、キョウにすり寄る。感動の再会に異形の事など忘れているみたいだ。


「まぁまぁ、あとにしようぜ?今やばいんだろ?どれをぶちのめせばいいんだ?あの真っ白な髪の女か?あいつやべー気配だな。寒気がするぜ」


キョウはアンバーな瞳を光らせ、チンピラみたくシスイを舐める様に見る。


「ちがう、あれは味方。目の前の獣」


「あぁ!こいつか。うん……まずまずだな。まずまずのバケモンだ」


キョウは、ポケットに手を突っ込み、災害級の異形にメンチを切った。


「じゃっ、やるとしますか」


そう言って、キョウは準備運動を始める。


災害級の異形は、自己の魔術を片腕で止めた、異様な雰囲気のキョウを警戒して近寄ってこない。


「武器武器っとー……あれでいいや」


次の瞬間、キョウは災害級の異形の後ろにあった、木製のバット程の木材を手にとって、私達の元まで戻って来た。


ほぼ瞬間移動。


ノウコが目を丸くしている。


私は、まだノウコの背中にしがみつき、温かさを噛み締めている。ノウコに甘えん坊だと思われているかもしれない。


「じゃっ一丁やるか。二人は見物でもしてな」


そして、今日は大声で異形に叫ぶ。


「なぁお前、俺の仲間に嫌がらせしたんだって?代償。高くつくぜ?歯ぁ食いしばれよ」


そして、キョウの一方的な猛攻が始まった。


-----------------------------------------------------


そうだ、私が原因だ。


あまりのキョウの激しい猛攻に、さっきまでの記憶飛んでいたわ。


災害級の異形は、獣が命懸けで抗う様な獰猛なポーズで構えながら、顔に刻まれている不気味な魔術を光らせている。


その深く黒い体は、まだ変化を欲す様に、グネグネとあらゆる部位が唸っている。


対してキョウは、琥珀に輝き周囲に眩い焔光を放つ聖剣を騎士の様に構える。


その不良少女の見た目とは裏腹に、現在の彼女の雰囲気は、どんな魔にも恐れず、どんな悪も退ける、不屈の勇者のようだ。


「お前に恨みはねーが、いかせてもらうぜ……」


漆黒の異形は、その意味を理解したのか、地面を砕く程に踏み込んで、大きくのけ反り特大の咆哮をした。

そして、その態勢のまま、口の中に膨大なエネルギーを収束し始めている。

先程、私達に向けた魔術光線とは桁違いエネルギーの流れだ。


「決める気ね……キョウ、大丈夫?」


「あぁ、任せろ。巻き込まねぇ保証はできねぇから、お前等は離れとけ」


キョウは、こちらを見ず、剣を顔の前に立てて、精神を集中している。


「キョウちゃん……気をつけてね」


ノウコはとても心配そうにしている。


私達はキョウを信じ、その場から離れた。


次の瞬間――


異形の頭上に、多層からなるネオン色の巨大な菱形が現れた。それは丁度、夜になり

店の看板のライトが点灯した様に、突然現れて倉庫の中を、エモく照らした。


異形は、自分の術の途中なので反応はしたが、その場から動かない。


その一瞬の我が、異形にとっての命取りだった。


そして、そのネオンの菱形は、3D映像の様に、スラスラと素早く、奴の体を含めた周囲を覆った。


派手な彩りからなる、透明色のピラミッドみたいだ……


「ノウコあんな技、見た事ある?」


「いいえ、御座いません。花岡家や慈十家の秘儀でも無さそうですし……」


「えぇ……恐らく、キョウの自己流」


「現代的な雰囲気の魔術ですね、過去の叡智から引き出さず、自作の魔術など人に可能なのですか?」


「あの子なら……出来るんじゃない?」


ネオンのピラミッドは激しく回転しだす。


危機を感じた異形は、エネルギーの収束をおもむろに完成させ、さらにのけ反って、大きく開口した。


キョウはボソッと何か呟いた。


それと同時に、災害級の異形の、全力の魔術が今、解き放たれた。


この戦闘で最大の咆哮が倉庫に響く――


「ウゴオオオオオオオオオオォォォォッッッ!!!!!」


光の柱が浸食するように、ゆっくり一直線に伸びる。


倉庫が、壊滅する可能性もあるので、ノウコは逃げ出す。

周りの各々も、出口へ向かう。


キョウだけが、一人狼狽えず立ち尽くす。


……


しかし、その太陽フレアの如く光線は、キョウの召喚した空間内で反射され軌道を変えた。


反射された光線は、災害級の異形を貫きながら、さらに空間内で反射を繰り返す。


気が付けば、速度は光のそれに達し、目にもとまらぬ反射の連鎖が巻き起こる。


次の瞬間――


キョウは盛大に飛び上がった。


異形とそれを囲む不可思議な檻の上で、一瞬止まる。


そして……


「あああぁぁぁっっ!!!」


そのネオンピラミッドの頂点に、琥珀に輝く聖剣を力の限り突き刺した。。


ガラス細工が砕ける様な巨大なバリィンと言う音が幾重にも絡まって響く。


その刺さる音は、透き通る宝石を肌で感じているみたいな気分になる。


次の瞬間――


ピラミッドの形を成していたネオンの線は、全てが内向きの棘になり、

尋常じゃ無いエネルギーで中心に向かった。


災害級の異形は、その結晶の大爆発に飲み込まれた。


煙すら立たない、幻想的な光景。


意味を感じるエフェクト。


私が次に見た時には、もうそこには、倒れた傷だらけの異形しか無かった……


キョウはいつの間にか、上空に花びらの様な魔法陣を出現さして、ポンポンとその上を伝い駆け下りてくる。


そして、私とノウコに一言。


「おまたせ、大丈夫か?」


私は、そのおまたせが、今の話では無いような気がした。

かつて、親密な間柄だった私達三人が戻ってきたかの様な感覚になった。


「おかえり。遅かったね」

私は皮肉交じりに笑う。


「おかえりなさい。キョウちゃん。怪我は無い?」

ノウコは優しい姉の様に尋ねる。


そんな会話をしている隙に、事態は起こった。


シスイと戦っていたはずの、流図トドリが雷光の様に、災害級の異形に駆け寄る。

そして、何かを言っている。

異形は微かに動いた。まだ生きていたのだ。やはりかなりの生命力。

すると、流図トドリは首に着けていたネックレスを外し、それを食べさせた。

あれは……恐らく、幽界ノ勾玉だ。


これは、とても面倒な事になりそうだ……


シスイもそれを見て、そちらに向かおうとしている。

私の視線に気づいた、ノウコとキョウも同じく。

幽明は円環ミレアと何やら話し込んでいる。


災害級の異形は、みるみる体を再生させ始めた。


そして、流図トドリは、おもむろにその背中に乗った。


異形は、即座に動き出し、円環ミレアの方へ行く。


流図トドリは必死な顔をしながら、円環ミレアに手を差し伸ばす。


円環ミレアは、何故か少し戸惑っている。


流図トドリは、悲壮な顔で何かを訴えかけている。


円環ミレアは、幽明を見た後、悲しそうな顔をし、流図トドリと同じく、異形に乗った。


そして、私達が何をできる時間も無いまま、壊れた倉庫の壁から、彼女達は逃走した。

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