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決戦 第一幕 黒煙咲くダンスマカブル



私達、秘密結社シェアプリズム一同は流図トドリと円環ミレアのアジトの倉庫へ到着した。


怪丘さんは「幸運を祈るわ」と私達を激励しガッツポーズをした後、私達を降ろしそのままワゴン車を走らせ、政府の特殊部隊の拠点へと向かった。




全員で不穏な気配が漂う倉庫を見上げる……


実際に見てみるとこの倉庫は物凄く巨大だ。


幽明曰く、昔はここで大規模に人を雇って名産品を加工してたらしい。

ぱっと見た感じでも、50メートル立方ぐらいのキャパシティがありそうだ。

その当時の活況が容易に想像できる。

しかし、今はもう外壁はかなり風化しているし、高い位置にある窓ガラスは大概が割れている。


「雰囲気あるね……」

私はみんなに言った。


「えぇ……ホーンテッドな倉庫ね」

ミコトちゃんがぽつりと返してた。


「アトラクションみたいね!」

ヒノが急に楽しそうになり反応した。ミコトちゃんの変な言い回しのせいだろう。


「出そうですね、幽霊」

ノウコさんが腰の妖刀を片手で少し触る。


幽明は黙って、周囲や窓を世話しなく見回している。



そして――


私達は倉庫正面の端にある、申し訳程度の小ささの鉄製の扉の前へ移動した。


「じゃあ、みんな行くよ?……いい?」

みんなは黙って深く頷いた。


今更、姑息な動きは出来なさそうだ。招かれてる気さえもする。


まるで……さぁどうぞと言う風に。


であれば、堂々と正面から入るのが礼儀だ。


愚行かもしれないが、彼女達と対話すると言う作戦の上では、尚更重要な事だろう。


……


……


ギイィーーー――


重い鉄サビの音が、沈黙の中を駆け巡り不協和音で満たした。


幽明は勢いよく扉を開け放ち、中に飛び込んだ。

後ろに続く私達も続々と中へ突入する。




そして、素早く全体を見渡した――


私はこの場所を見て思った。

動画配信で使用されていたのは倉庫内の一部だけであり、全体で見ればかなり印象は変わる。単純に、横幅も奥行きも高さもイメージしていた雰囲気より全然広い。

何か"巨大な実験"をするなら最適な場所って感じだ。



「これは見覚えのある景色だね……」

幽明が眼鏡をクイッとあげ、考古学者みたく言った。


「えぇ、でも……思ってたよりずっと大きいわ」

ヒノが私の背中に触れながら後ろから呟く。手から僅かな不安が伝わる。


しかし、二人の視線は倉庫では無く、きっと私と同じ所を見ているのであろう。


そう確信できる。


私達全員は一点に視線を集中させている――


動画に出て来た古びたチャーチオルガン。


その椅子に黒いローブを纏い深くフードを被った人型が座っているのだ。


そして、オルガンの前にもう一人。


同じく、黒いローブを纏いフードで顔を隠している人型がヴァイオリンを持って立っている。


その二人はピクリとも動かない。私達全員は凝視して様子を見た。




沈黙。


……




すると――


二人はまるで、電源スイッチが入ったかの様に突然音色を奏で出した。


タンタンタンタン……トッタトッタトッタトッタ……


単調な伴奏。弦を引っ搔いて弾く音。


時計の針の様な音。


しかし……


突然に曲調が変わる。


小気味の良い、不穏の中に愉快さを込めた旋律がぬるぬると倉庫内を満たし出す。


暗く美しい夜の鮮やかな発色さえ見せてくれる様だ。


怪しくもあり甘美でもあるヴァイオリンのメロディが、チャーチオルガンの揺るがない伴奏の上を、ふざけながらも完璧に滑るように息もつかずに放たれる。


「ダンスマカブルね……悪くないわ」

ミコトちゃんが不意に呟いた。


「素晴らしいわ……争いだって息を呑んで止まりそうな音……」

ヒノは感激してルビー色の瞳を潤ませ聞き入っている。


しかし私は、この演奏に彼女等の言葉以上の怪しげな意思を感じ、一抹の不安が過ぎった。


次の瞬間、私は異変に気づいた――


倉庫の真ん中に、とても不自然な黒煙が立ち始めたのだ……


程なく全員がそれに気づき、目配せし警戒の姿勢をとる。


そんな私達に、堪えきれず笑っているかの様に、曲はさらに愉快に荒々しくなる。


それに反応するかの様に、黒煙は少しずつ色付き形を成していく。


大体の形が出来上がっている。


煙だったはずが、今では受肉し物体となっている。


とても大きい……天井に着きそうなぐらいだ。


「なにあれ……」

私は見た事も無い"それ"の理解をみんなに求めた。


「シャチ……サウルス?」

ミコトちゃんがまたおかしな事を言う。しかし今回はその表現は正確だ。



その骨格はティラノサウルスの形状に似ている。

だが、図太い足は四本もあり、地面を絶対的にどっしり踏んづけている。

質感や見た目で言えばミコトちゃんの言う通りシャチだ。

ぬべっとした深く黒色の巨体が本能の不安を煽ってくる。

顔もシャチそのものなのだが、口が十字に開閉を繰り返している点では全く異なる。ちなみに口の中の舌は、かなり巨大で真っ赤であり、至極不気味だ。


「趣味の良いお出迎えな事だね」

幽明はそう言って軽く鼻で笑う。


「どうする……?」

私はポケットの中のゼスパを握りながら、みんなの判断を確かめた。


しかし――


その時にはもう、ノウコさんはその魔獣に閃光の速さで走って切りかかりに行っていた。


「ノウコさん!!!」


私は叫ぶと同時に、手に握り締めていた白銀の塊ゼスパを宙に放り投げ、異冥府の秘武器である本来の形、異形の鎌ゼスパ・ヴェスぺラに展開した。

私の鎌はノウコさんの後ろから追い越す勢いで、雷光を纏い光速回転しながら例の魔獣に向かう。


ノウコさんは恐ろしく速く、その魔獣の腹の下一直線に瞬時に潜り込み、そこから垂直に落雷みたく切りかかった。


ビュバッッッ!!!


激しい風圧の音が、流れる演奏を切り裂く。


しかし……


肝心の物体に当たる音がしなかった。


私のゼスパも何をも切り裂く事が出来ず、ただ倉庫の上空をショッキングな程に明るく輝いて漂っているだけだ。


「消えた……」

ヒノが警戒の糸を張り巡らさながら呟く。


ノウコさんは鮮やかに着地をし、油断する事無くステップで回転しながら周囲を見渡す。


それでも、何も無かったか様に演奏は激しさを増してゆく。


あの巨体が急に無くなる、途轍もない違和感。


……


――


歪な気配の匂いは充満したままだ。


……


……


急な拍子、ミコトちゃんの気配が波動の様に強く広がる。


「どうし……」

幽明が言葉は放つ瞬間に遮られた。


――


「伏せて!!!!!」

ミコトちゃんが聞いた事無い声で絶叫する。


――!!!!!!


全員がほぼ同時にその言葉通りの動きをする。


次の瞬間には、私達の目の前に黒い物体が現れていた。


私は唐突に未来視が発動した。



この後、全員がミコトちゃんの声のおかげで魔獣の尻尾の超撃を避けきる。

しかし、奴はそのまま勢いを利用して一回転し、宙を舞った後、地面の私達にあの十字の口を下品に大きく平げ全員丸ごと飲み込もうとする。


嫌なイメージだ……


そうはさせるか――


未来視と併発で起こる私の能力"スローモーション"全てが止まっている様な、その時間に、私はいくつかの打開策と解決した未来が視えた。




現在が動き出す――


目の前に黒い物体が迫る。ぶつかるまで一秒も無い。


私達全員が最大限の反応を使い地面に即行で伏せる。


未来視通り巨大な魔獣は宙を舞う。


幽かに見えた、ノウコさんは悲壮な顔をして手を伸ばしている。


大丈夫だよ……


「うおおおおおおぁぁぁぁ!!!」


私は大声を上げ、瞬時に光速でゼスパを呼び寄せ奴の尻尾の辺りを通過させた。


ボスン!!!!!


真っ黒でぶりんとした巨大な尻尾は勢いよく本体から離れて宙を舞った。


無表情に見えた魔獣の顔が苦しく歪み、本体の位置も私達の上からずれる。


私以外は、この光景を見れていないのだろう。


ミコトちゃんはわからないが……


全ての一連の現象がコマ送りの様に視える。まるで並列した映画のフィルムみたいだ。


私はすかさず体制を仰向けに変え、焦点を奴の巨体に合わし、魔術で生成した超小型隕石を数発、消えない火炎で燃やしながら光速で発射した。


「いけぇぇぇぇ!!!」


ドドドドドン!!!


それは見事全弾命中し、巨大な黒い魔獣は倉庫の端へと吹っ飛び壁にめり込んだ。


倉庫の壁は破損し、煙が立ち込めその奥に外が見える。


煙の中にいる例の魔獣は、動けないと言う風にぐったりしながらも足掻いている。


「シスイ流石だ!助かった」

幽明は寝転んだまま私を見た。


「ひぃーーー危なかったわ。やっぱダーリン……ホント凄いわね」

ヒノはそう言いながら、飛び上がり翼膜をバタバタと羽ばたかせ庫内を浮遊しだす。

そして、例の魔獣にいつでも魔術を放てるような手の構えをしている。


「シスイ……やるじゃない。今のは未来視?」

ミコトちゃんは立ち上がり、手に持った煌びやかな宝飾の鉾を演奏者に向けた。


「そうだよ。あいつばっくり私達全員食おうとしてたから」

私はミコトちゃんに任せてと言う様にウインクした。


「かっこいいじゃん。負けてらんないわね」

ミコトちゃんは下手なウインクもどきを私に返す。


「皆さん無事ですか!?」

ノウコさんは跳ねるように数歩で私達の位置まで戻って来る。



演奏者達は少しテンポを緩め、警戒の色を見せる。



そんな束の間の安心に浸る時間も無いまま、ミコトちゃんが言った。


「また消えるわ」


私は黒い魔獣に視線を戻す。

奴は頭からまた黒煙になっている。


ミコトちゃんは言葉を発したと同時に鉾を魔獣に向け、魔獣を包むように周囲から激しく光る糸を無数に出現させた。あれは宇宙人の魔王を拘束した奴と同じ術だ。

それら光の糸は魔獣の体を隅々まで強く縛る。

魔獣は頭と尻尾が無い状態で、地に落ちた魚の様に藻掻く。

しかし光の糸は尚、その体を絶対的に拘束し藻掻く事すら許さない。


「頭逃げられちゃった。気をつけて」

ミコトちゃんが目を吊り上げて少し怖い顔をして言う。


私達は背中合わせに立ち、周囲を隈なく警戒する。


演奏はフィナーレの前の引き込みに入る。


私は考える……


あの魔獣は誰を狙うか?


この奇怪なクラシックにあったフィナーレには何が起こるか?


一体あの魔獣は何を今思っているか……?


……


魔獣が最後の一撃を向かわせる、怒りの矛先は一体何処へ?


奴の身になって考えろ私。


理不尽な戦いへの参加。


それをあざ笑うかの様な楽しそうな高い音色……


考えている内に、私は未来視がもう一度発動した。


そうか、そうなるよな。


ごめんな。


せめて安らかに……


それは私の解釈と一致した。


私は叫ぶ。


「円環ミレア!!!伏せろ!!!」


その言葉と同時にヴァイオリン奏者は最後の音色間近でピタッと止まり、盛大にブリッジした。


その一秒後。


ヴァイオリン奏者の胴があった場所に、巨大な黒い魔獣の頭が現れ、怒りが凝縮した貪りを見せた。


だが……それは空間を透かした。


そのまま、その頭は地面に転がる。


「ごめん」

私は一言呟き、指揮をとる様に一直線に指を振り、ゼスパをそこに向かわした。


黒い魔獣は激しく光る私の鎌、ゼスパに真っ二つに切り裂かれた。


倉庫はまたも沈黙で満たされた。


ただ、転がる異形の残骸。


それを見た私の胸は少しキンと傷んだ……


「今のも未来視?」

ミコトちゃんが聞いてきた。


「いや……こうなる気がしたんだ」

私はそう答えた。


「こうなる気か……あの短時間で魔獣視点に立ったんだね君は……」

幽明は私の肩をポンポンと叩いた。


私達は奏者たちを見る。


ヴァイオリン奏者はむくりと元の立ち姿に戻る。


そしてヴァイオリンを地面に置いた。


チャーチオルガンの奏者は椅子から立ち上がりその隣へ向かう。


私達はその二人に距離を少しずつ詰める。


上空のヒノは、倉庫内を飛び回って状況を確認している。

よく見れば、チャーチオルガンの奥に部屋がある。ヒノはそこを気にしている。


二人の奏者は、おもむろに手を上げた後、仰々しくお辞儀をした。


私達はその奇妙な光景をじっと見つめる。


そして、二人の奏者は黒いローブを手品の様に一瞬で脱ぎ、宙へ放り投げた。


そこには、絹の様になめらかで鮮やかな金髪の少女と濃いピンクの髪にオレンジのメッシュが入った少女が爽やかに微笑んで立っていた。


流図トドリと円環ミレアだ――

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