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幽玄のクシャナビーチ



秘密結社シェアプリズムを結成した日から数日後。




私達はシェアプリズムのメンバー全員で、流図トドリと円環ミレアのアジトの倉庫近くまで来ていた。




怪丘さんが政府から支給されたワゴン車を運転し、私、ヒノ、幽明、ミコトちゃん、ノウコさんを乗せて、人里離れた海辺の街まで来ている。




この街は時が止まっているかの様だ。それは古いと言う意味では無い。




ただ、日本の一般社会とは全く別の時間が流れている様な街。




静寂シジマの果て、限りなく少ない文明のノイズ、自分と向き合う為の街。




そんな空気感だ……





私は意外だった。




あの二人の事であるから、もっと都心をアジトにしていそうだったのだが、こんな辺境の土地を根城にしていたなんて。




それだけでも分かる。彼女達は、ただの愉快犯では無い。無暗に支配を企む存在では無いと。




こんな所に居たいと言う事は、心を静かにしていたいと言う意思の表れであり、心を静かにしていたいという事は、無駄な欲望を起こしたくは無い、しいてはそれらから浮かぶ悪い考えなどは湧かせたくないのであろうと私は思うからだ。




文字通り静かに居たい人は、何もしないはずなんだ。







静寂の浜辺にて、刹那なる想い出――




私達は海浜公園駐車場にワゴンを止め、最後の打ち合わせ、と言うか心の準備をする為浜辺にいた。




例の二人のアジトまでは、ここから車で十五分ぐらいの距離だそうだ。




怪丘さん、ヒノ、幽明は近くの古びたコンビニへ向かった。




その様子はあまり緊張感が無く、まるで旅行とでも言う雰囲気だった。




私は正直、流図トドリと円環ミレアに鉢合わせしたらどうするんだと、気が気ではなかった。




溢れんばかりの原初の森林に囲まれ、奥まった場所にあるこの浜辺――




誰もいない流木だらけの白い砂浜――




清涼飲料水のコマーシャルでしか見た事の無い、とても透明度の高い海。




私はそこに座って考え事をしていた。




流図トドリと円環ミレアもこの街にいるのなら、恐らくここに何度か来ているはずだ、彼女達はこの景色を観て何を話したのだろう?




彼女達は何に傷つき、絶望し、新しい世界を作ろうなどと思うに至ったのだろう。




新しい世界……




世界はその存在の見方によって変化する。




だから、新しい世界を作りたいなら、物の見方を変えるべきなんじゃないかと私は思う。




私は取り留めのない事を考えながら砂浜をじーっ満遍なく眺める……




「黄昏に浸っちゃってますね」




麦わら帽子を被ったミコトちゃんが私の背後からヒョコっと顔を出して、そのまま前に立ちはだかり、白いワンピースのスカートをふわりと風に躍らしながら尋ねてきた。




「びっくりした。ミコトちゃんか……天使かと思ったよ。そのワンピースすごく似合ってるね」




「ほぼ天使ですよ私。羽が無いだけ、でもあったら飛ん出っちゃうから授けられてないだけだと思うんです」




「相変わらずふわふわしてるねミコトちゃん。羽が無いのに」




「ふふ 面白い」




ミコトちゃんは私の前で、フリルをひらひらと揺らしながら踊りを始めた。




バレエに似ているが全然違う。まるでいつか見たヒドラ細胞を模しているかの様な動きだ。




私はそのシュールな光景に見惚れていた。




脈打つ様なテンポで踊りながら、ミコトちゃんは随分と楽しそうな顔で言う。




「さっき何考えてたんですか?」




「流図トドリ達もこの砂浜に来てたのかなって……そもそも何に絶望して新しい世界を作りたいなんて思ったのかなって」




ミコトちゃんは動きを止め、手を太陽にかざす、白過ぎて光に透けている自分の肌の脈動をじーっと見だした。




本当に神秘的な子だな……




そしてミコトちゃんは唐突に言った。




「ねぇシスイ。タメ口でいい?」




「いいよ。てかもう既にタメ口じゃん」




「ふふ シスイ面白い」




「そりゃどうも」




ミコトちゃんは麦わら帽子を頭からは取り左手に持つ。




しゃがみ込んで、右手に沢山の砂を掬い、砂時計みたく麦わら帽子に注いでいく。




砂は網目から全て零れ落ち、地面に落ちる……




「シスイはきっと考え過ぎだよ。もしかしたら特に理由は無いかもしれないのに。油断してたらパクっと食べられるよ?」




そう言って、ミコトちゃんは近くに居た小さな蟹を拾い上げ、じっと見つめる。




私はすぐさま彼女の手を取り、蟹を逃がしてあげ、代わりに小さな小枝をその手に挟む。




ミコトちゃんは納得した様に、それでアニメキャラの絵を砂浜に書きだす。




「ミコトちゃんってさ、結構偏見激しいよね。なんで異形をそんなに目の敵にするの?」




「うーん……それは私がそう生まれたから」




「そう生まれたか……異形が憎く?」




「いえ、全然。憎しみと言うより責任。憎しみが沸くのはノウコを傷つけられたりした時ぐらい」




「確かに、ミコトちゃん大体の事どうでも良さそうだもんね」




「うん失礼ね、当たってるけど。でも少し違うかな……どうにもできないからこそ、どうでもいいの」




「達観してるねー……」




ミコトちゃんは不意に浜辺に咲く珍しい花を見つけ、摘んで匂いを嗅ぎ出した。




「うーん良い匂い」と言う様な満たされた顔をしてから、麦わら帽子を押さえて、蒼い空をまるで心は飛んでいるかの様に見上げた。




彼女の透き通る様な紫の髪が潮風に踊る。




「ミコトちゃん……ほんと君、可愛いね」




「あら、ありがと。言われ飽きてるけど、シスイから言われると嬉しいわ」




そう言って私に近寄る。




しゃがんで私を真正面から見る。




淡い紫の三白眼が微々たる動きもせず、私の廃れた黄金の瞳をぼーっと覗き込む。




二人の間には波音しか存在しない。




そしてミコトちゃんは、そろりと腕を上げて先程摘んだ花を、私の鼻にピタッとくっつけてきて無邪気に笑った。




「こしょばいよ」




「ふふ」




ノウコさんの気持ちが少し分かった。




この幻想的な少女は、あまり近くにいるとどうも魅入られる。




ミコトちゃんは、とても楽しくなってきたみたいに突然海辺に走り出し、広い舞台でワルツを踊っているみたいに自由に駆け回る。




「ミコト様ー!日焼け止めも付けずにそんな場所にいたら、尊いお肌が痛みますよー!」




ノウコさんが私の後ろから大きな声を上げ突っ走って来る。




私はその声に振り向く。




今日のノウコさんには違和感がある。




全身青いスポーティなジャージ姿で、赤いリボンで艶やかなロングの黒髪をポニーテルにしている。




腰に革製の戦闘用ベルトをつけ、刀を二本装着している。




その出で立ちは、あまりにスタイルの良さが際立つ。




まるで、完成したアンドロイドみたいに機動力も高そうだ。




私はまたもや少し見惚れてしまった。




「どうしたんですかシスイちゃん?もしかして、この服変ですか?」


ノウコさんが少し恥ずかしそうに自分の服を見回す。




「いえいえ、ノウコさんって凄いスタイル良いし、ホント綺麗だなーって見てただけですよ」




「それは嬉しいですね。そんな事あまり言われないから新鮮です」




「ノウコさんは、優しいしカッコいいし綺麗だし、実は私結構憧れてるんですよ」




「シスイちゃんたら褒め上手ですね。ふふ。シスイちゃんこそ童話に出て来そうな女の子みたいですごく可愛いですよ。その真っ白な髪、最高です」




「ありがとうございます」




私は、ノウコさんの真っすぐな瞳に照れて俯いた。




「それと……」




ノウコさんは何かを言いかけてから、私の傍に寄ってしゃがみ込み、耳元でこう言った。




「女の子らしいシスイちゃんの性格、すごく守ってあげたくなります」




とニコッと笑って言い、私の肩をぎゅっと抱き寄せた。




!!!




私は突然の抱擁にびっくりして固まってしまった。




線は細いし、触れごごちも柔らかく女性的なのだが、凄く芯ががっしりした体だ……




爽やかなバラみたいな清潔でいい香りもする。




この人凄く可愛いな……




この胸のドキドキが聞こえて無いと良いが……




そしてノウコさん……意外と大胆かも……




ノウコさんは私にじゃあねと軽く手を振り、引き続き砂浜のミコトちゃんを追っかけだした。




……




ふぅ。




とんでもない二人だな。




でも……なんだか凄く好きだ二人共。







すると――





駐車場と繋がる浜辺の入り口から、例のコンビニ組が戻って来た。




「お待たせ―!!」




ヒノは沢山の荷物が入った袋を両手に持ち走ってくる。




何処で買ったのか分からない、いつも着ている真っ白な制服が砂浜の色とマッチしてアイドルのMVみたいだ。




ミコトちゃんの透ける様な白のワンピースとは違い、可愛さ重視の濃い無垢の純白。




「お帰りー」


私は両手を広げ、ヒノの帰りを受け止める。




「みてみて、珍しいお菓子沢山あったよ!」




袋の中身はお菓子とジュースだらけだ。




「へー美味しそうだね。全部頂戴」




「ダメ!」




ヒノはぷくっと口を膨らませ、お菓子の袋を後ろに隠す。




「冗談だよ、全部ヒノが食べなよ。私は海岸のワカメを食べるからさ」




「ワカメ!私も食べたい!」




「意外な反応だね……ワカメ好きなの?」




「ワカメって何?辛い?」




「ワカメにその印象は無いね。どちらかと言うと出汁が美味しいかな」




「へー、お味噌汁に合いそうね」




「うん……」




私はちぐはぐな会話をよそに、楽しそうに食べ物の想像をするヒノを見ながら苦笑いをした。




ヒノはこの世界のカルチャーをまだ抜け抜けで解釈している所がある。


人生のほとんどを異界で過ごしてきたのだから当たり前だが。





ヒノは一般人の目が無い事を確認して、普段はリュックで隠している真っ赤な翼膜をリュックから解放し、目一杯ザバッと広げた。




「うーーーん!気持ち良い場所ね!」




真っ赤な翼膜は陽ざしを受けて、ルビー色に煌々と輝きながら砂浜に大きな影を落とす。




ミコトちゃんはそれに気づき、すぐさまヒノに近寄ると、ぼーっとした顔で手を伸ばして触ろうとする。




ヒノはその手に、ガウッとふざけた恐竜の様なポーズをして威嚇した。




ミコトちゃんはそれが気に入ったらしく、同じように恐竜のポーズをし返した。




意外と気の合うコンビかもしれない。




「たまにはバカンスもいいものねー!!!」


怪丘さんはサングラスをかけて着崩したスーツ姿でアイスを食べながら海を見て言う。




「すばるさん。この後命懸けの戦闘になるかもしれないんですよ?ちょっと緊張感無さ過ぎじゃないですか?」




幽明は太陽に眼鏡をきらんと光らして怪丘さんに言う。




「灯ちゃんかたーい!眼鏡が光ってビーム光線打ち出しそうよ。準備万端だから大丈夫だって。政府の精鋭特殊部隊が既にこの街に潜入しているしね」




「ビーム光線なんか打つか!いや、むしろすばるさんに打ってやろうか!さて……その精鋭特殊部隊さん達とやらがどのくらいあの二人に通用するかですね……間違っても勝手な行動は控えさせてくださいね?」




幽明はいつもの制服姿では無く、カラフルなパーカーを着てタイトなジーンズを履きキャップを被っている。


右手には自作のAIデバイスを持っている。





「わかってるって灯ちゃん。足手まといなんかにはならないわよ、私を含め特殊部隊はバックアップに勤めるわ。もし倉庫街で何か起こった時、迅速に民間人を守る為にね」




「正直それが一番有難いです。とにかくすばるさんは民間人を第一に考えて動いて下さい。私達は私達でやりますから」




「イエッサー灯ちゃん」


怪丘さんは敬礼のポーズをして、煽る様に、にやっと笑う。




「なんか不安だなー……」


幽明はしかめっ面をして怪丘さんを見る。




怪丘さんは、そんな事言わないでと言う様に、私に任せろ!みたいな戦隊物のポーズを何度も幽明に決め込み機嫌を戻そうとする。




終いにはお色気担当ピーンク!と谷間を強調し叫ぶ始末だ。この人は笑いに貪欲だ。




根負けした幽明は少し噴き出して笑う。




それが怪しいんですよ、と幽明は半笑い状態でボヤキながら海辺に一人歩いて行った。





そんなやり取りの傍らでは、ヒノがミコトちゃんを抱えて楽しそうに砂浜を飛び回っている。




それを見てノウコさんは気が気じゃないと言う風に慌てている。




まるで過保護な母親だ。ノウコさんには無防備な可愛さまである。




「ねぇ、怪丘さん。怪丘さんと幽明っていつそんな親しくなったんですか?」




私は如何にもキャリアウーマンな出で立ちの、少し動き過ぎて息を切らしている怪丘さんに聞いた。




「よくぞ聞いてくれたわねシスイちゃん!なんと私達は歴史上の超難事件を一緒に解決した仲なのよ!」




「超難事件?」




「そうよ!聞いた事無い?怪人フュージョンって都市伝説?」




「あります。ネットでかなり有名な都市伝説ですよね」




「そうよそれ!その真相を解決したのよ!恐らく人類初だわ!」




「えぇー……あれ実話だったんですか」




「そういう反応になるわよね。でも残念ながら実話だったの。とても奇妙ってだけじゃ語り尽くせない事件だったわ……灯ちゃんは、そんな超昔からどんな天才も解決できなかった未知の問題を命懸けで解決してみせたわ」




「へー……やっぱり幽明ってすごいんだ。普通じゃ無いとは思ってたけど」




「えぇ。彼女はすごいも良い所よ!私達に関しても彼女と同じチームであるって時点で、宝くじを何度も連続で引いたぐらい運が良いかもしれないわ。彼女さえいれば、きっと私達は未来のアカリに進める事は間違いないとさえ思うわ!」




「ダジャレですか……」




「半分ね ふふふ」




「怪丘さんて凄く喋りやすい人なんですね。会話がスルスル続きますし、面白いです」




「お世辞が上手ねシスイちゃん。勿論それは相手にもよるわよ。好きな相手が条件」




そう言って、私にウインクをする。チャーミングな茶色瞳とくっきりとした二重瞼が印象的だ。




「それは私もですよ」




「あたし達仲良くなれそうね」




ぐっと私の顔を覗き込み、実の妹であるみたく私の頭を優しく撫でてくれた。


まだ関係性は薄いが、不思議と嫌じゃない。




「色々教えて下さい、お姉ちゃん」


私は冗談ぽく微笑んで親しみを返す。




「妹大歓迎よ!ふふ」


すごく喜んだようだ。ハグまでしてきた。






プルプルプル――




突然、怪丘さんの電話が鳴り、ごめんねと言う顔をして怪丘さんは何処かへ行った。




私は砂浜を見渡す。




海辺を一人歩く幽明を見た。




その背中にほんの少し不安の滲んだ重みを感じる。




彼女は私と同い年にもかかわらず、あらゆる未知で危険な事件や正体不明の奇怪な存在と対峙し続けて来たんだろうな。




きっと重圧も計り知れなかったはずだ……




私は砂浜についた幽明の足跡を辿り、海辺の彼女に近付く。




「幽明何してんの?」




「あぁ……シスイ。なんてことは無いさ。ただ歩いてただけだよ」




幽明は俯いた言葉を返す。彼女の艶やかな濃い青に近い黒髪が風に揺れる。




「一緒に歩いていい?」




「あぁいいよ。でも靴汚れるけどいいの?」




「いいよ」




私は証拠にと言わんばかりに小さな石ころを蹴っ飛ばした。




「幽明はさ……目指してる事とかあるの」




少しありきたりな質問だったと後悔した。




「あるよ」




「教えてよ」




「えぇ……ちょっと恥ずかしいな」




幽明は私をチラッと見て、はにかむ。




「いいじゃん。私メンバーのそう言うの知っときたいなー」




少しねだる感じで、幽明の肩に自分の肩をすり寄せる。幽明はこういうのに弱い。




「うーん……」




少し静寂があった後、静かに私に言った。




「生まれた意味かな……それを解決したい」




「それは……なかなかな話だね」




「でしょ。だから恥ずかしかったんだって」




ほんの少しむくれて、なんで言わせたんだよと言う顔で笑いながら怒る。




「変じゃないよ。幽明らしくてかっこいいよ」




私は答えてくれた礼儀に真剣な眼差しでお礼を言った。




「ありがとう……」




幽明はそれを受け取ってくれたみたいだ。




「私はね全ての物事には原因があって結果があるって考えなんだ。実際、世界はそういう風に秩序だって出来ているでしょ?」




「うんうん」




「だから、私が生まれた事にも必ず何かの原因や意味があるんだと思う。だってこの世界に原因が無くて突如現れる物なんて一つも存在しないからね。私はそれを探りたい。解決したいんだ」




あまりの、スケールの大きさと幽明の本気さに私は圧倒された。




「教えてくれてありがとね。でもちゃんと分かるよ、私も少し似た事思ってるから。


私の場合は心の声にそう命じられたりするんだけど」




私はヒノにしか言っていない秘密を幽明に話す。




「心の声にそう命じられる……?」




「前世って言うのかな?よく分からないけど、自分の様な自分で無いような心の声が昔からするんだ。私に何かを達成させたいって感じで」




「……少しびっくりだね」




幽明は意外と驚く顔と同時に、興味深い顔もしている。




「ふふ。おかしいでしょ。私の能力が現れたのも、この声と関係していると思うんだ。たまに同じような不思議な夢も見るし」




「不思議な夢?」




「うん。宇宙に棺があって、そこから真っ赤な機械みたいな体の女神様が出てきて私に何かを告げるんだ」




「それは……とても重要なメッセージなのかもね」




「うん。そんな感じは私もする」




幽明は立ち止まり、私を不思議そうに見だした。




「ねぇシスイ」




「うん?」




「シスイの黄金の瞳ちょっとじっくり見せてくれないかな?」




少し私達二人の間に緊張が流れる。




……




程なくして、私は彼女に受け入れの顔を見せる。




「いいよ全然。実は私も幽明の銀色の瞳、近くで見たかったんだ」




私達はそっと顔を近づけて、お互いの瞳を見つめ合う。




幽明の瞳は、ダイヤモンドに曇り空を閉じ込めて砕いた様な神秘的な銀色だ。




近くで見ると巨大な宝石みたいでその輝きにため息が出そうだ。




彼女はこの瞳でどんな世界を見ているのだろう……




「虹彩ってね、誰とも被る事は無いんだって。過去にも現在にも未来にも。


自分と全く同じ虹彩の人は存在しないんだって」




幽明が私の瞳の奥を見ながら言った。




「そうなんだ。人って造形が似てたりするけど、もしかしたら一人一人唯一無二って事かもしれないね」




「そうだね……私は各個人がオリジナルだと思っているよ。大きい世界の中の一つのピースであり、唯一無二のピース。よく考えれば、生まれにせよ人生の歩み方にせよ、全く同じ人なんかいないしね」




「幽明の話、すごく共感できるよ。出来ればこれからも沢山一緒に話ていきたいな」




「そう言ってくれるとありがたいね。たまにこんな事を一人で考えていると凄く孤独や不安になるんだ……」




完全無欠な彼女の瞳に一瞬のゆらぎが視えた。




「大丈夫だよ幽明」




私は幽明の手を取り両手で優しく握りしめた。




「冷たくて細い手だ……でも……すごくあったかい」




私は幽明に微笑んだ。上手く言い表せられないこの気持ちを出来るだけ表情に詰め込んで。








その時、砂浜の中央にいるヒノが私達に叫んだ――




「ちょっとそこの良い感じのお二人さん!こっちにおいでよ」


少し皮肉めいた言い方でケラケラ笑いながら言っている。




「おっと、ヒノがジェラシー燃やしちゃってるよ」




「行こうか?浮気だと勘ぐられるのもあれだしね」




その幽明が発した浮気と言うワードに見つめ合っていた私達は、急に恥ずかしくなり視線を逸らし合った。




「うん」


私は照れ隠しに淡白な返事をし、戻ろうとする。




「ねぇ……シスイ」


幽明が背中越しに私を呼び止めた。




「また、私の話聞いて貰っていいかな?」




「いいよ。何かあるなら一緒に背負うから、いつでも言ってよね」




「……うん」




私達は吹きすさぶ潮風に煽られながらも、強く砂浜を踏み抜いて歩く。




それはまるで、確かに私達はこの時を生きたのだと言う様に。強く強く。






砂浜の中央にシェアプリズムのメンバー全員が円形になる――





「ねぇシスイ、ミコトちゃんったらホントおっかしいの」


ヒノが笑いを堪えるかの様に口を押さえて言う。




「何が?なんとなくわかるけど」


わたしは先程のヒドラのダンスを思い出した。夢に出て来そうだ。




「もう全部よ ふふふ」


ヒノは堪えきれなくなり、目尻から涙を流し笑いだす。




「全部とは人聞き悪いわねヒノ」


ミコトちゃんが、真顔で突っ立って言う。




「あ、もうヒノにもタメ口なんだ」


私は即座に突っ込む。




「当たり前だわ。ヒノなんだから」


タメというより、いきなり上に位置しようとするのが既に面白いミコトちゃん。




「ちょっと何よ!その言い方。まぁいいわ、所詮ミコトちゃんはちびっこのちゃんなんだからそれぐらいは譲歩してあげますわオホホ」


ヒノは赤ちゃんをあやす様にミコトちゃんの両手を取り、お遊戯会みたいに横揺れする。





スッとヒノの顔に自分の顔をギリギリまで近づけ、ミコトちゃんがボソッと言う。




「羽とるよ?」





「きゃーこわいー!サイコパス過ぎ!ノウコさんも大変ね」


ヒノはザザッと後退りする。




「いえ。そこがミコト様のチャームポイントで御座いますから」


ノウコさんは含み笑いをする辺り、やはり少し変わっているかもしれない。




「変わったチャームポイントだなぁ」


幽明は腕を組み頷く。




「幽明は黙って」




「えっ私にもタメ口!?許可してないのに……」


唐突なタメ口に拍子抜けした顔だ。




「へー……じゃあ借りは別の形で返して貰おうかしら」


ミコトちゃんは幽明の周りをゆっくり歩き回る。




「わかった、わかったよ!いいよタメ口で。ミコトお嬢様!」




「よし、一つ借り返して貰えたわ」




「まだあるのかよ!とんだお嬢様だ」


幽明は少し呆れて笑う。




「それはそうとヒノ。ノウコも空に飛ばしてあげくれない?」


唐突過ぎるミコトちゃんのお願いに、一同ペースがついていけない。




「ええー!もう疲れたー」




「そうですよ!ミコト様。ヒノさんに悪いですよ。私重いですし……」


ノウコさんは恥ずかしそうに砂を蹴る。




「ノウコさんは重くなんか無いですって。ナイスバディなだけです」


そんなノウコさんが愛らしくて、私は思わず言ってしまった。




「うわぁ、今のちょっとセクハラよシスイ」


ヒノがチッチッチと指を振る。




「えっでも、事実を述べたまでなのに……」




「セクハラは大抵本人に自覚無いの!」




「あーあ、せっかくノウコのナイスバディジャンプ切りの必殺開発しようと思ったのに」


ミコトちゃんは、空を見ながらつまんなそうな顔をする。




「ミコトちゃん、それ真面目なやつ?」


幽明が少し苦笑いで聞く。




「えぇ真面目よ?流図トドリと円環ミレアと戦うために、一つぐらいは全員の連携技


あった方がいいと思ったの」




みんなは確かにといきなりの正論に頷く。




「でもさー私達の能力って全部連携しずらいタイプじゃない?」


私がそう言うと、皆はまたもやそうだと同時に頷く。





「私とヒノは一回した事あるけどね、それででっかい鬼みたいなの撃退したよね」


私はヒノに、ほらあの時のと促す。




「したわね!虹のビッグバン。あれは結構頑張ったわよねシスイ!二人そろって笑えるぐらいヘトヘトになっちゃったし。そういやあの時のネオメデュラってやつ怖かったわねー」




「うん、超不気味だった」


思い出しても寒気がするあの造形。日本のホラーに近い恐怖だった。




「でっかい鬼……」


ミコトちゃんは少し神妙な顔つきをした。




「ネオメデュラ……不思議な名前だね。異形?」


幽明は探偵の様な素振りで鼻に手を当て私達に尋ねる。




「あぁ……うん。でもよく分からない存在だったよねヒノ?」




「あれは……ホント未知って言葉がしっくりくるわ」




「へー今度詳しく教えてよ」


幽明はふんふんと頷く。




「いいよ。でっかい呪い洋館の話また今度したげるよ。その依頼者が似たような別の依頼もあるって言ってたからまた紹介してもいいよ」


私は幽明に言うった。




「頼むよ。出来れば一緒にその依頼行けたら嬉しいな」




「うん、行こうよ」


私は、ああいう依頼を解決する幽明を間近で見てみたいと思った。







少し沈黙が降り、幽明が切り替える様に言い出した――




「じゃあ、みんなもう少ししたら倉庫へ突入するわけだけど、作戦は大丈夫?」




ヒノがはい!と手を上げて答える。


「えぇ!まずは第一に対話よね。出来る限り敵意を見せない事が大事」





「そうだね間違いない。じゃあ、他は?」




「倉庫内の状況を確認します。召喚機の場所や、災害級の異形の位置や動き、紫血王ルリメアがどこに囚われているかを即座に判断します」


ノウコさんがAIの様に正確な判断を答える。




「どれだけ素早くこれをこなせるかにより、作戦の成功度が変わりますね。ではそれ以外は?」




「戦闘になった場合は、なるべく素早く圧倒的に制圧する。同時に召喚機と幽界ノ勾玉の即時破壊、ヴァンパイア少女の奪還をこなす必要があるわ。災害級の異形は彼女達を止めて間接的に止めるのが効率的かな?」




怪丘さんが上司への報告の様に言った。




「その考えで問題ありません。戦闘の混乱時こそ、相手に油断が生まれますので」




幽明は続ける。


「じゃあ、戦闘になった場合のポイントは?」





「流図トドリと円環ミレアの引き剝がしかな?片方だけになれば、戦闘力は大幅にダウンするかもしれない……片方が捕まれば片方は迂闊に暴れられなくなるから」




私はそう言った。少し残酷だが二人共かなりの能力使いだから、それが弱体化する方法が絶対に必要だ。




「そうだねシスイ、それが一番妥当な判断だよ。私達の全員の能力で圧倒すればその作戦もなんら難しい事では無いと私は思うよ」




「ちなみに流図トドリと円環ミレアの能力ってどんなだっけ?」


ヒノが顎に人差し指を当て可愛らしく言う。どんな時も可愛らしさを忘れないストイックさに感服する。




「動画を見るに、流図トドリは属性を纏った武術。動きは超速いよ。それを生かした破壊力もバカにならない程凄まじいので、先手を取られたり、少しの油断が命取りになる。純粋な体術だけで言うと、私達を含めた中でも一番かもしれない。


しかし、光速の遠距離攻撃や魔術自体を苦手とするタイプにも見えるね」




幽明は動画だけでそこまで簡単に分析しちゃうんだもんな、本当にすごい。




「じゃあ、相手はシスイね」


ミコトちゃんがあっさりと言う。




「え!!!私!!!」




「だって、あなた光速で鎌飛ばせるし、念動でなんでも動かせるでしょ?稲妻まで扱えるって聞いたわよ?それに未来視ができるから流図トドリのスピードにも概念的に上回れるでしょ?」




「確かにそうだけど……」




私の能力駄々洩れじゃないか……いいけど。いや、もしかして私を観察してそこまで知り抜いたのかも……恐るべきミコトちゃん。




「色々思う所があるのだろうけど、私達を守る為に全力で行動して頂戴。メンバーになるってそういう事でしょ?あなたの躊躇を相手に付け込まれて仲間がやられるって事はチームになった今、あってはならないわよ。力を出し惜しみして仲間が傷つくのもあってはならないのよ。それが私が思うチームよ」




「うん……そうだよね。確かにそうだ。少し目が覚めたよ、ありがとうミコトちゃん。私みんなを守る事を最優先で考えて行動するよ」





「勿論それさえ守ってくれれば、私達もあなたを守る為に出来る限りバックアップはするつもりだけどね。ね?ノウコ」




「はい。勿論です。シスイさんがみなさんを守るのに尽力されるのであれば、幾ら相手が速かろうと指一本触れさせない様に援護する自信が私にはあります」




私はこの二人の気迫を見習わないといけないし、今までの自分は少し甘かったと反省した。







幽明は続ける。




「じゃあ、次に円環ミレアだね。彼女はかなりの策略家だと思うんだ。相手を取り込むのがとても上手だ。もしかしたら私達が知らないそういう能力を隠し持っているかもしれない。既知の能力としては、鎖の召喚。あの巨大な海坊主や災害級の異形を拘束する程の圧倒的な無力化の攻撃。


それと、ヴァンパイア少女の能力の無効化攻撃すらも強制で無力化する能力を彼女は持っている。私的には彼女が動画やっていたあの"カウント"が少し怪しいと思う。


ぐるぐる動く特異な眼とカウントが条件になっている気がするんだ……」




ミコトちゃんは一瞬の躊躇いも無く幽明に言う。淡い紫の瞳はとても鋭い。




「そこまで分かっているなら幽明が円環ミレアの相手をした方がいいと思うわ。お互い計算タイプだろうし。計算ならあなたが負けるはずは無いでしょ。それにどちらも姑息な技タイプだろうし」




「姑息って……一応褒めてくれてると受け取るとしよう。そうだよね、私もあの子を止めるには私がいいと思ってたよ。一応秘策もあるし」






これであの二人の相手はもう決まった。残るは……




幽明が切り出す。




「災害級の異形はどうする?あれは恐らくかなりのパワータイプだろうけど、


霊長類の最強格を十数倍にしたスケールの見た目だし、体に火炎の小爆発を纏ってる事から考えると属性が宿った珍しいタイプな感じもする。顔に巻いてある不明な文字の包帯も気になるわね、あれはちょっと禁断魔法って類の何かかもしれない……そこまで詳しくはないけど」




ミコトちゃんは、いつしかの未曾有の獣の妖魔の話を持ち出した。


「禁断魔法……界守朱円と同じタイプかもね。じゃああれが本体じゃないかもね。禁断呪文で封じられた状態かも……」




少し考えた後、ミコトちゃんは続ける。


「災害級の異形は私がいくわ。ノウコは全体的なフォローに入って。なるべく、あいつが暴れる前に流図トドリ達を降参させて欲しいけど。あのタイプの異形は長引けばかなり厄介なタイプが多いから……街には一般人だっているのだし。広がる前に潰さないと」




「わかった、頑張ってみるよ」


私はミコトちゃんに張り切って答える。




幽明は納得した面持ちだ。




「てな感じかな。問題は倉庫のスペースさ。あの場所を如何に掌握するかで軍配が変わるよ。相手も含め全員が戦闘するには、かなり小さ過ぎるキャパだから。


だから敢えて外に彼女らの内の一人を誘う攻撃をしても良いかもね、彼女等の引き剥がしパターンが実行できるからかなり有利になるだろう。中のままなら言い方は悪いけど、人質みたく片方を拘束か圧倒する事で、もう片方の戦力も大幅に削げるしね。状況によって使い分けよう」




「ちなみに私は政府の特殊部隊と連携し民間人の保護を最優先するから。その他はあなた達の救護や援護、状況の報告などバックアップ関連は遠慮なく任せて頂戴。細かい事はきにせず思いっきりやっちゃいなさい」


怪丘さんは自分に親指を向けて笑った。





みんなは今までの話を頭で整理し、大体把握したと言う顔をする。






そこで、場に明るい声が通る。




「しつもーん!私はどうするの?」


ヒノが手を上げ、目をクリっとして言った。




「うーん……ヒノの能力あんまり知らないからなー」


幽明は判断しかねている。




私も一度、例の"終末の鬼"の時に見た事があるが、あの虹色の爆発の攻撃しか知らない。あれだけでも類を見ない威力だったが……




空間がプリズムで満たされ、おとぎ話の世界みたいになった事を覚えている。





「私の能力は赤翼の一族の並外れた基礎魔力よ。それに加え魔蔵にもアクセスできるわ。それを生かした上位属性魔術と召喚かな」




「ヒノも魔蔵にアクセスできるんだ?」


幽明が拍子抜けした顔をする。ちなみに私はその存在を知らない。




「ええ、そうよ。私からしたら人である幽明がアクセスできる方が不思議なんだけど……。シスイが混乱してた時、魔蔵にアクセスした力で呪いを浄化してくれてたもんね」




「魔蔵とはなんなのですか?以前戦闘した別次元の強さの守護者達に、私はそれを扱えばもっと強くなれると告げられたのですが……」


ノウコさんがヒノと幽明に尋ねた。




「そうですか。上手く説明しずらいんですが、世界にある別の層とでも言いますか……幽界とはまた別なんですが、魔力が満ち溢れてるだけの世界があるんです」




「そうね、そんな感じ」


ヒノもその説明に賛同する。




「どうすれば、アクセスできるのですか?」




「極一部の資格のある存在が、主に魔術と瞑想を極度に鍛錬すると可能だわ」


ヒノが端的に答える。




「資格ですか……私には少し難しいかもしれませんね」




「もし、やってみたいならダメ元で今度一緒に修行してみる?ノウコさん」




「ホントですかヒノさん!?是非やってみたいです!よろしくお願い致します」




「きっとノウコにはできるわよ。でなければあんな存在がわざわざノウコにそんな事言わないもの」


ミコトちゃんは当然の事の様に言った。




「ミコト様ありがとうございます」




「で、ヒノ。具体的にどんな技使えるか見して」


ミコトちゃんが海辺を指差して、魔術を使ってと言い出す。




「……」




ヒノは少し渋る。私にはそれが何故か分かっている。




それは、きっと私に見られたくないからだ。今までヒノはずっと私に守られる存在として横に居た。しかし本当の自分を見せてしまうと、その関係性が崩れると思ってるんだろう。




彼女が強い事なんて私は一番最初から知っていたのに。




初めて出会ったあの時、私は屋上に帝王が舞い降りた気配がしたぐらいだった。




もっと言えば、彼女は私を追っている魔族組織の重要な存在なのだろうとも私は思っている。今までの出来事から考えれば必然的な話だ。




本当にもしかしたらだけど、彼女はその魔族組織の頂点に君臨する魔王と言う奴なのかもしれないとまで思っている……




これは単なる直感だが……




でも、もしそうでも別にいい。きっと事情があるんだ。




私はなんであれ、ヒノの事を本当に愛している。




彼女が同じ女の子でも、人で無くとも、私の命を狙う組織のボスだとしても。




――どうでもいいくらい、大好きなのだ……








私はヒノに近付き、耳元でこう言った――




「ヒノ。君がいくら強くても私は君を守るよ?大好きだからね」




「ダーリン……」


彼女は私の言葉に何かを察したらしたい。




そして、吹っ切れた様に大きな声を出す。




「仕方ないわね……みんな引かないでよね!」




そう言ってヒノはみんなより五歩程、海に近寄り呪文を唱えだした。




みんなは海を凝視する。




すると波打ち際から30立方メートルぐらいの空間が、濃いプリズムで満ち溢れ出した。




段々その様相は変化し、プリズムが幾重にも重なりながら、氷の柱が空間内に無数に形成される。




そして、それらの間を鮮やかな炎が大小多数、轟轟と流動しだした。




更には、その空間内は際限なく巨大な音を立てて弾けて溢れる、大きな雷光の属性で満ち溢れた。




そして、真ん中に隕石の様な巨岩が現れ、光速でぐるぐる回転しだした。




その幻想的な状況に全員が固唾を呑む。




まるで小さな世界を作っているかの様だ。




やがて、その岩は周囲の満ち溢れる属性をどんどん吸収していく。




最後には臨界点を迎えた様に、一気に収縮した。




まるでブラックホールみたいに……




波打ち際には何も無くなり、元の静かな浜辺に戻る。




しかし、一つだけ宙に浮かんでいる何かがある……




それが、ヒノの手元にスーッと飛んで来る。これはきっと先程の全てを詰め込んだ巨石が変化した球体だ……




「こんな感じ!」


ヒノはあっさりと声を上げる。




みんなは、その流れた非現実な光景にしばし黙り込んでいた。




「ヒノ凄く綺麗な魔法だね」


私は心の思うままにそう言った。ヒノの魔法には一切の禍々しさが無い。




「ありがと!でも私弱いからちゃんと守ってねダーリン」


ヒノがすり寄って来る。




「勿論だよ。よく頑張ったね偉い」


私はヒノの頭を撫でる。




「ヒノってこんな尋常じゃないレベルだったんだ……」


幽明が愕然としている。




「凄まじいです」


ノウコさんも、脱帽する様な表情だ。




「ヒノちゃんだけで勝てるんじゃない?」


怪丘さんはそんな事まで言い出した。




「ふーん……やるわね。ヒノのくせに。ついでに召喚見してちょーだい」


ミコトちゃんもそんな言い方はしているが、凄くヒノの魔術に興味があるみたいでワクワクしているのが見てわかる。




「いいわよ。ホント特別にね!あんまり誰にも見せない超レアなんだから。


 後、幽明この玉あげるわ。ちょっと魔術加えればさっきのやつが簡単に展開できるから、もし緊急事態起きたら使ってよ」




「ホント!!!ありがとヒノ。作戦の幅が広がるよ。てか、これホントすごいね。一体なんなんだろう」


幽明はヒノに貰った球体にとても夢中だ。




そしてヒノは再び海に向かって何やら唱えだした。




すると、さっきと同じ範囲の海面に大きな黒い穴が現れる。





次の瞬間――




その穴から、十数体の大型の妖精の様な存在が次々現れた……




それらは明らかに聖属性と言う感じで、綺麗なプリズム色の透けたヴェールを纏っている。




いきなりの圧倒的な光景に、異界の舞台でも見せられている様な気分だった。




異界の存在が見るファンタジーな夢はきっとこんな感じなんだろう。




その中でも目立つ存在がいつくかいる。




白無垢の魔術師のローブを着た美しい女性。しかし下半身が竜の様であり、


両腕には巨大で荘厳な白の槍と盾を持ち、体の周囲には勾玉の様な物が眩い光を放ち体の周囲を回っている。


竜の体の部分から気体の様の物を噴出し、それがゆらゆらと浮遊して、美しい花の結晶の形になったり気体に戻ったりしている。




かなり個性的で神秘的だ……




しかし他に個性的な存在はいる。




大きく真っ白な両手部分だけの存在もいる。爪が長い。


その存在はいくつか超巨大な指輪をしており、指輪には水晶に似た大きな石がはめ込まれている。その中に地球か何処かの星のドキュメンタリーの様な映像が淡々と流れ続けている。




なんて存在だと……みんなうまく感情を表現出来ずにいる。




それ以外私が気になったのは、重厚感のある虹彩色の金属の卵。


たまにカタカタと揺れている。


一件素朴だが、得体の知れない可能性を私は肌で感じた。





「みんな久しぶりね!特に用はないんだけど」


ヒノは大声で召喚達に手を振る。




その召喚達は何も言わなかったが、こくりとヒノに一礼をした。




「……ヒノこれらは異形?」


幽明はヒノを見つめ、茫然とした顔で尋ねる。




「少し違うかな」


ヒノは、微笑みながら首を振る。




「これらの存在をヒノは使役しているの?」


ミコトちゃんが中々見せない真剣みのある表情でヒノに聞く。




「いいえ。上下関係などでは無いわ。でも代償を払ってるわけでもないの。


私の赤翼の血の特権てとこかな」




「そう。それは少し私に似ているわね……」


ミコトちゃんは少しシンパシーを感じたみたいだ。生まれた世界が違うだけで似たような境遇の存在かもしれない。




「ヒノちゃん……アメイジングとしかもはや言葉がでないんだけど……」


怪丘さん、驚きの最終形態がアメイジングなんだ。




「世界は広いんですね……自分がちっぽけに見えます」


ノウコさんはそう言って少し俯く。




「いいえ、ノウコさん。確かに世界は広いし、私なんか比にならない存在は無数にいるけど、でもあなたはとても特異よ?それにちっぽけなんかではなく、かなり強い存在と思うわ。だってまだまだ強くなる余地がある風に見えるもの」




「ヒノちゃん……いえ、ヒノ師匠」


ノウコさんは少し明るくなり、ヒノに輝きを見る。




「そうね、ノウコを少し私以外に鍛えて貰ってもいいかしらね」


ミコトちゃんは顎に手を当てながら、考える素振りをする。




「師匠はいやー!おっさんぽいもん!」


ヒノはぶんぶんと首を振る。




「これは失礼しました はは」


ノウコさんは口を開け、スカッと爽やかに笑う。




「ヒノ、喧嘩してもあんなの出さないでよ?」


私はヒノに気を遣わせない様に、わざと軽口を叩いた。




ヒノは私の顔を見て安心した様に言い返してくる。




「浮気したら出すかもね!?」




私と幽明はさっきの手前少しギクッとした。




幽明ははぐらかす様に言い出す。


「まぁまぁ、とにかくヒノの能力を見て少し安心出来たよ。とにかくあの二人に気づかれるとまずいから、あの召喚はしまってよヒノ。後、ヒノはノウコさんと同じくみんなのフォローを頼むよ」




「はーい」


そう言った後、ヒノは幽明に近寄り耳元で何かを言った。




すると突然幽明の顔は真っ赤になった。




何を言ったのか凄く気になるが、聞くのは野暮だろう。




そして幽明は咳ばらいをして切り替え、みんなに言った。




「こんなとこだね。みんな心の準備は出来た?」




みんなはそれぞれ頷き、後はやり切るだけだと言う顔をしている。




「じゃあ、いこっか。シェアプリズムの初陣だ。気合い入れてこー」


幽明は腕を掲げる。




それにならって、みんなもオーと腕を掲げ笑い合う。




そして、幽明は海を見て数秒固まる。




さっきまでの私達全員の浜辺での出来事を胸に刻み込むみたく。




全員同じく海を見る。




みんなも同じく今をしっかり刻み込むように。




そして――




私達、秘密結社シェアプリズムは流図トドリと円環ミレアのアジトに全員揃って強い意志の瞳を向けて出発した。



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