仲良し三人組奇譚
「うきゃきゃきゃきゃ!どうですか!?参りましたか!?」
「私は、お二人に勝つため毎日15回も腕立て伏せをして、鍛えていたのです」
「どうですかどうですか!この私の力がそんなに恐ろしいですか!?」
響はそう言って、長い手足を贅沢に使い、ヒノの体に絞め技をかけている。
「いーーーたいっ!いたいいいたいいたい!!シスイ!この馬鹿力のバカちゃんを私から引き離してー!!!」
「もうー、私の部屋散らかるじゃんかー、二人共やめてよー」
私は二人が読み散らかした漫画や、騒いで蹴っ飛ばしたトランプを片付けながら言う。
「違うの!私は被害者なの!このバカちゃんが暴走してるだけ!」
ヒノは響に絞め上げあられ、顔を赤くしながら苦しそうに私に言う。
「ハハハハハ、この期に及んで、この響様をバカ呼ばわりするとは、なんと余裕な事だことですね、ヒノさん」
響は、エキゾチックな顔にある、大きく野性的な瞳をぎらぎらさせ、ヒノを絞め上げて高笑いしている。
「これは、必殺をお見舞いしてあげる必要がありそうですね」
響は、うつ伏せ状態のヒノの真っ赤な蝙蝠みたいな羽を足で挟み、両腕を背後から引っ張り言った。
「きゃーいたいいたい!!!あんた本当は化け物なんじゃないの」
ヒノのルビー色の瞳は涙目になっている。
「化け物はあなたでしょうが!ほら、こんな巨大な羽生やしちゃって……いやらしい」
響はヒノの羽をこしょこしょとくすぐる。
「きゃーーー!羽はダメ!うぅ!羽はダメなの!シースーイー!この子今、化け物呼ばわりまでしてきたわ!お願ーい!早くやっつけて!」
はぁ……騒がしいな。
事の発端は、プロレスのゲームソフトをヒノと響が対戦していて、ヒノが盛大に負けた後、悔し過ぎたヒノは現実は私の方が強いと暴論を吐いて、響がじゃあ勝負しましょうと言い出し、今に至る。
しかし、今日の響はどうも暴走し過ぎている。
そろそろ止めるべきかな……
「響、そろそろやめなよ。ヒノ泣いちゃうよ」
「泣かないわよ!」
なんで私にキレるのさ……
「どうしても私を止めたければ、シスイさんここまで来てください……」
響はそう言って、私に"おいでおいでポーズ"をした。
「えー……なんかそのポーズ超不気味だからやだなー……」
「シスイ!私が泣いちゃってもいいの!?」
どっちなのさヒノ!
「もう……仕方ないなー」
私は響に警戒しながら少しずつ近づく。響は顔を俯けながらにやにやし、やけに静かだ……超怪しい……
「ほら、これでいいか響」
私は響の手の届く位置まで近づいた。
「かかったな!」
次の瞬間――
響はおもむろに私の胸に手を伸ばしてきた。
「きゃっっ!おい!何するんだ変態響!」
「ちょっと何してんの!変態響!シスイに触って良いのは私だけなんだからね!」
「おっと失礼、変態のゾンビの霊が乗り移ってしまったもんでねぇ……えぇ……」
「お前正真正銘の馬鹿だろ!馬鹿エロ響」
私は響のゾンビ憑依ネタに思わず笑ってしまった。
「なんと!!!そんな事言っていいんですか!?こっちの姉ちゃんがどうなってもいいんですか!?」
響はヒノの足の裏に器用に手を伸ばし、こしょこしょとくすぐる。
「きゃー!!!ムリムリムリムリムリ!!!足の裏こしょばいのムーリー!!!シスイお願いなんでもするから助けてー!」
「なんでもだって!?任せてヒノ!!今のなんでも絶対忘れないでね!?」
「忘れないから早く―!!!」
ヒノはこしょばいのが本当に苦手だ。それは私が一番知っている。
「さて、変態はどっちなんですかねーシスイさん」
響は、私達が普段どうイチャついてるかをまるで見透かしてるかの様に言った。
クソっこいつ……精神的揺さぶり攻撃をしてきてるな。
しかも迂闊に近寄れない。下手に近寄ると、さっきみたいに胸を触られる恐れがある。食虫植物並みの早さだったぞあれは。
……ふぅ。
これは未来視を使うしかないな――
……
……
クソ……
どの未来も私の胸が触られる最低の未来しか見えない。
しかも、その後ヒノのお尻をパチンと叩いて下衆に笑っている。
こいつ……下手したら異形より強いかもしれない。
対話路線に切り替えるか……
――
「響、何が目的だ?」
きっとここまでするのは、裏にとんでもない野望を隠しているからに違いない。
超なんとなくそんな気がする……
「よくぞ聞いてくれました……やっと気づきましたね?……私には崇高なる目的がある事を……」
やっぱりなんか企んでたんだ。普通の暴走じゃないからな今日の響は……
「それは……」
「まさか、私をシスイから奪うつもり!?私のカワイさが問題!?」
ヒノは私は演劇みたいな言い方をした。
「違います」
響きは早口で即答する。私は少し笑いかけた。
「それは……」
私とヒノは息を呑む。
「この家を乗っ取る事です!!!」
なんと!!!図々しい奴め。
この前、私の両親に丁寧に挨拶して褒められて照れていたくせに、もうそんな野望を……
悲しき怪物め……
「この家はやれない……」
「ほぅ、出し渋ってる状況なんですかねー」
響はヒノのお尻をツンツンとする。私が止めようとすると、ゾンビの真似をして牽制する。
「だって……住むとこが無くなるじゃないか!!!」
私は至極当然は反論をする。
「そうよ!!!シスイの部屋が無くなると、私達は何処でイチャつくの!?私は何処でお菓子を食べればいいの!?」
お菓子はどこでも食べれるじゃないか。
「全く腐敗しきっている。この世界は腐敗しきっている。私が変えねば。
私が正しい世界に作り変えねば。私もプリティーな女の子とイチャイチャして、お菓子を沢山頬張れる世界に!!!」
響は、部屋のライトに手を伸ばし、拳を握りしめる。
響のモデルみたいな豊満なスタイルが一連の動作に、妙な説得力を持たせる。
なんて、強欲な!!!
もしかして魔王か?響は魔王になってしまったのか?
「響……君はそんな魔王みたいな女の子じゃなかったはずだ、何が君を狂わせた?」
私はジュースを飲み、スナック菓子をボリボリ頬張りながら真剣に言う。
「全部食べないでよシスイ!もうっ響!そろそろ本気でどいて!足痺れちゃったじゃない!」
「だまらっしゃい!」
響はヒノのお尻をパチンと叩いた。
「えーーーん。もう本当に泣いちゃうからね。知らないんだからねー」
ヒノはとうとう本当に泣き出した。顔を床に突っ伏し、駄々をこねるように首を何度も振って足をジタバタしている。
ヒノが泣いたんだ、響もさすがにやめるだろう……
「女の涙は、良い酒になるぜ」
……
ダメだ……全然反省してない。
これはもう――
念動を使うか……
私は部屋にあるミドル価格帯のフィギュアを響に向かって飛ばした。
さすがにこれには驚くだろう。私やヒノのように超常的な能力を見慣れていないのだから。
「響ちゃーん!!!スプラッシュ!!!」
響はそう叫び、腕をクロスしてフィギュアに勢いよくぶつけ、地面に叩き落とした。
フィギュアのパーツがぶっ飛んで、ベッドの下に入り込んだ。
あーあ……面倒臭いパターンのどっか行き方だ。あのフィギュアまずまず気に入ってたのに。
「フハハハハハ。力を持つって素晴らしいですね、シスイさん。私は自分の力に飲み込まれてしまいそうなぐらいですよ。ちなみに今の響ちゃんスプラッシュは、後3段階進化しますよ ククク……」
響はお尻を突き出し片腕をグッドと掲げる変なポーズをした。
3段階って……もう想像すらできないじゃないか。
「えーーーん。幽明かミコトちゃん呼ぼ!もう私達の手に負えないわ」
「ククク呼べば良いじゃないですか。皆、まとめて跪いてもらうだけですから。私の代わりに、たこ焼き屋さんのバイトも是非行ってもらいましょう」
「えっ!響、たこ焼き屋さんのバイトしてたの!?いつから!?今度ご馳走して!」
ヒノは急にケロッとして、響に言う。
「いいですよ!是非みんなで来てください!超美味しいの作りますから!」
響……まだ心に、あの頃の響が残っていたんだね。
「響バイトしてたんだ偉いね」
「全然ですよ。学校まだあんまり行ってないですし、一応家にお金は入れてますけど、全然大した額じゃありませんし。でも……母さんのクソみたいなヒモ男が居た時よりかは、遙に生活が安定しましたけど」
すごい……偉すぎる。
魔王どころか、二宮金次郎じゃないか!
「困った事あったら言ってね」
ヒノが不意に真剣な顔で響に言う。
響は嬉しそうに頷く。
よかった。これで今日の騒動は一件落着になりそうだ。
「はい、ありがとうございます。結構自信あるのでホントに皆さんで食べに来てください。私奢っちゃいますから!……たこ焼きの中に、大量のワサビと憎しみを詰め込んでね!!!」
クソっ!途中からぶり返した。
「醤油マヨあるー?」
強く絞め上げられているにも関わらず、ヒノはたこ焼きのレパートリーをキョロッとした目で尋ねている。
「ありますよ。だし醤油に特製からしマヨをつけると絶品なんですよ!」
「超おいしそうなんですけどー!絶対行くわ!」
「絶対来てください!私ヒノさんの為に腕によりをかけて作りますから!あなたが失神する程のとんでもないやつをね!!!」
情緒不安定か!響、キャラがもうブレブレすぎるよ!
その時――
誰かのスマホが鳴る。
恐らく響だ。
響はとうとうヒノを離して電話に出た。
ヒノはすかさず響から離れ、私に駆け寄り頭を撫でてとせがむ。
「ママどしたの?……うん……うん……友達の家……うん……みんな優しいから凄く楽しいよ……帰り?……ふんふん……なんか買って帰ろうか?……ふんふん……甘いやつね。はーい」
聞いてる私達が恥ずかしくなるくらい、良い子だ。
「すみませんお二方……ママちょっと最近心配し過ぎで」
「どうしたの?また何かあった?」
ヒノが響を心配そうに見る。
「いえ……またと言うか……UFOに連れ去られた一件以来ですかね……」
「子供がUFOに連れ去られて普通でいられる親なんていないもんね」
私は響のママの気持ちを考えると胸が痛くなった。
「あぁでも、割とウウそんな事起こる家系ですし」
どんな家系……
「ママなんて言ってた?」
ヒノが響に尋ねる。
「ママも天狗に連れ去られた事あるから気持ち分かるって言ってました」
「滅茶苦茶超越した会話じゃん!えっ、てか天狗っているの!?」
私は思わず突っ込みを入れてしまった。
「いますよ。見た事ありますもん」
淡々と言う響。
私とヒノは顔を見合わせる。
「響あんた底知れないわねホント……」
ヒノは信じられないわ……という顔する。
「もっと衝撃的な事実知りたいですか?」
響は瑠璃色の瞳をキラリと輝かせて、すごい秘密があるんです聞いて下さい!と目で訴えかけてくる。
「何?ちょっと怖いよ。響」
私は少し躊躇する。この子からは何が出てくるか分からない。
「怖いのいやよ?」
ヒノは私にしがみつく。
「怖くは無いですよ……ただ……」
「ただ……」
私とヒノは同時に聞き返す。
「ただ……私の見方が変わるかもしれません」
「怖い怖い。その時点でただ事じゃなさそうだよ」
私は聞きたくないと耳を抑える。
「何っ!?実はUFOですり替わっていた宇宙人とかやめてよ」
うわぁヒノ……それすごい怖い。それだけは絶対やだ。
「惜しいですね。ヒノさん」
「きゃー!!!宇宙人よ!!!」
決めつけ早っ!
「惜しいってどう言う事、響?」
「それは……」
響は手を伸ばし、ゾンビみたいに近寄って来る。
私とヒノは部屋の隅に後退りする。
「私完全な人間じゃないかもしれないんです」
――っ!!!
「きゃー!!!宇宙人よ!!!」
それ、二回目だよヒノ。わざとやってるな。
「響どう言う事?教えて」
私は、ここまで来たら全部受け止めてやろうと踏み込む。
「えーっとですねぇ……私には母親しかいないんですが、どうやら幼い頃出て行った父親が人間では無い可能性がありそうなんです」
「えぇ……それはどう言う」
「はい。ママから父親のエピソード聞くに、一見人間ぽかったりするんですが、どうもちょっと普通じゃ無い感じがするんです。写真を見るからには、普通の人間なんですが、ちょっと外国人ぽい見た目ですが」
「普通じゃ無いってどんなの?」
「例えば、結構色んな存在に変身するらしいです。それにママ曰くかなり腕の立つエクソシストでもあるらしいです。最初の出会いはママを何かと勘違いして、除霊しようとしたらしいです」
「それは普通じゃ無いね」
結構変身って何?ママを除霊って何?
「除霊しようとしたのに、愛し合う関係になったの?」
ヒノは不思議そうに言った。
確かに……そんな青年漫画見たいな出会いが現実にあってたまるか。
人に言えないけど……
「ママ曰く、許されない恋に燃え上がっちゃったらしいです」
「許されない?敵と味方みたいな?」
「そこはママもいつも濁すから分からないんですが……たぶんママも普通じゃ無い何かなんです。ママに関しては写真を見て貰えば分かると思うんですが……」
響はスマホを取り出し、お母さんとのツーショットを見せてくれた。
「……」
私とヒノは無言になる。
「この人さ……お姉ちゃんじゃないよね?」
響のママはどう見ても二十歳過ぎたあたりで、怪丘さんやノウコさんと同じぐらいか、少し若いぐらいの見た目だ。
それに、西洋風の整った美人でとても血の気が薄い感じの人。ヒノや円環ミレアの様なこの世界には無い美しさを持っている感じ……
……もしかして
異形かな……?
私はヒノをチラッと見た。
案の定、複雑な顔をしている。
もしそうなら、目の前の私の友達"宇空木 響"は、
不老の異形の母を持ち、変身する凄腕のエクソシストの父を持ち、女神と言う奇跡の存在が守護についてると言う、あらゆる奇跡の塊みたいな女の子だ……
私や、幽明、ミコトちゃんは人と言う範囲には収まらない能力を持っているが、響は能力は無いにせよ、明らかに一般人では無いのかもしれない。
いや……能力本当に無いのかな?
「ねぇ、響。パパとママがそんなすごい感じなら、響もなんか能力使えるんじゃない?」
私はストレートに聞いてみた。友達の事はなんでも知っておきたいから。
「そうよ、響。思い当たる事無い?」
ヒノも響の能力に興味深々だ。
「ありますよ」
響は真顔でそう答えた。
――!!!
私とヒノは、ドキッとし響の事をぐっと見つめる。
響は急に怖い顔をしだす……
「ねぇ、響。なんだか怖いわ。その顔やめて」
響は顎と首をくっつけ、顔を俯けながら、鼻の穴を盛大に広げて不気味に笑っている。
ヒノは、そのとてつもなく気味が悪い表情に怯えている。
「……やめれません」
「やめなよ……ホント不気味だよ?てか、鼻の穴広がるよ?」
私も、さすがに気味が悪くなってきたので、響を止める。
「この時をずっと待っていたんですから……二人に見せてあげたくてね……私の恐ろしい能力……」
「そんな……」
ヒノは悲壮な顔をする。
「響……」
私は響の鼻の穴が広がらないか本当に心配だった。せっかく美人なのに……
私とヒノは迫りくる脅威に警戒し、戦闘態勢に入る。
「では……行きます……」
ゴクリ……
……
「今までありがとうございました……そしてこれからもよろしくお願い致します」
……
これは、やるつもりだな……
――
「響ちゃーん!!!スプラッシュ!!!二人共ずっと一緒にいようね大好きビーム!!!」
そう言って響は、これ以上は無いという笑顔で私とヒノに思いっきり抱き着いてきた。
「きゃーーー!!!体が愛で麻痺するわーーー!!!もっとちょうだーい!!!」
ヒノは感電したみたいなポーズをする。
「うわぁ!!!チューしたくなっちゃうよ!!!なんなのさこれ!!!誰か助けて―!!!」
私もヒノのポーズを真似る。
なんだこの三人。
……でも、心底可笑しくて幸せだ。
「どんな能力よりも、私はあなた達を好きなこの気持ちの方が大切です!!!」
ホンモノの人間かどうかは分からないが、ホンモノの気持ちである事は私もヒノも、
その腕の温かさと私達が大好きなその笑顔ではっきりと分かった。
それ以外に何が必要だというのだろうか?
私達三人の笑い声はこの後もずっとずっと続いた。




