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ニュータウンの幽霊達

この街には幽霊が多いな……




私は自宅からそう遠く無い、大きな団地群のニュータウンで、夕暮れにぼんやりそう考えていた。




「ねぇ、ヒノ。あのシーソーにいる子供の幽霊視える?」




「当たり前じゃない、そこにいるんだから。それより私、お腹空いたからコンビニで唐揚げ買ってくるね」




ヒノは、団地内に併設されているコンビニに走って行った。影が長く傾いている。




「うん……いってらっしゃい」




――当たり前なんだ……






私は最近、幽体が以前より、よく見える様になってきた。




そんな話を、つい先日もヒノと幽明にしたら特別驚く訳でも無く、あそこにはあんな幽霊がいるよね?だとか、あの店の前に異形の幽体と人間の子供の幽霊がずっと一緒にいるだとかで盛り上がり出して、なかなかアウェイな雰囲気だった。




私、冥 シスイは異形霊媒をきっかけに様々な存在を見て、念動や魔術まで使えるようになったのだけれど、この幽体と言うのは未だに中々、どう理解すればいいのか分からず戸惑っている。




幼い頃から、幽霊だったり、透けた何かだったり、妖怪みたいな存在は一瞬視えたり、気配を感じたりしていた。




でも、それはノイズぐらいの感覚だった。




今の視えるは全く別物で、そこにいるのならくっきり見えると言う感じだ。




かといって、それが怖いとかどうとかいう訳でも無い。




私は輪廻転生を信じているし、世界は無限にあるとも思っているのだから。




でも、こうはっきり見えてしまうと、物事の価値観とかが結構変わってしまうのだ。





陽がさらに落ちる――




もうそろそろ、この夕焼けも暮れていき逢魔ヶ時になる。




逢魔ヶ時とは、昼と夜が交わる時間帯で、世界がどっちつかずな状況らしい。




こんな時間に、陸の孤島の忘れられたニュータウンでヒノとぶらついているのは、久々の依頼を承ったからだ。




――






依頼内容はこうだった――




私は幽霊が視えるんです。


そんな私から言わせてもらえば、私の住んでいるニュータウンは明らかに数が多いです。


しかも、色んなタイプの幽霊が集まっている気がします。


夜になると、一箇所に集まって行くような感じもするし、複数で集まってコソコソしてる幽霊もいます。


それは幽霊達の勝手ですが、気になって学業が手につきません。


どうか真相を探って下さい。


ついでに、幽霊達が普段何考えているか、インタビューもして欲しいです。


謝礼は、2万円で宜しくお願い致します。


バイト代が入ったら直ちに入金します。




と言う感じで、大学生の女性からの依頼だった……




学業が手につかないのは、幽霊は関係無い気もすると、この話を聞いた瞬間、切に思った。




幽霊もそんな責任を押し付けられるのはいい迷惑だろう。




正直、メールだけのやりとりでも癖の強い人だったし、依頼料もそこまで多くないので断ろうとも思ったが、この話をヒノにした途端、探偵モードに入ってしまったから後戻りは出来なくなってしまったのだ。




まっ、私はこの依頼を受ける宿命だったと受け入れよう……





「お待たせ―!揚げたてだったわ!売り切れだったけど、店員さんの男の子


にお願いしたら、ほっぺ赤くして急いで作ってくれたわ。カワイイって得ね。モグモグモグ……」




ヒノは帰って来る前に、既に唐揚げを頬張っている。私はベンチに座りながら呆れた様に返答した。




「色仕掛け禁止。はしたないよ」




「いいの。たまにはプリティーを発散しないと溢れて爆発しちゃうもーん。ドッカーン!てね」




そう言って、ヒノは火山の爆発みたいなポーズをして、寄り目をした。




「ふふふ 今の面白い」




思わず笑ってしまった。




私は、ヒノのオリジナリティ溢れるギャグが結構好きだ。




ヒノは味を占めた様に、ベンチの周りをぐるぐる回りながら同じギャグを連発しだした。




「ちょっと、恥ずかしいからやめてよヒノ。 ふふふ」




「そうね、疲れたわ。唐揚げが冷めちゃうしね」




ヒノは急に真顔に戻り、言葉を続ける。




「とりあえず、あのシーソーのとこにいる子供の幽霊にインタビューしましょうよ?」




「えぇ……」




いきなりじゃん……




「はいはい、依頼でしょ?頑張ろう?ダーリン」




ヒノは私の隣に座り、アーンと言って口の中に唐揚げを一つ入れてくれた。




そして、じゃっ行きましょ!と促してきた。




仕方ない……行くか。




私はシーソーに近付く、夕暮れの風が私の銀色の髪に吹き抜け、ふっと揺れる……




「あ……あの……こんばんわ」




私はタジタジで声を掛けた。




幽霊の子供は黙って俯いてる。





「何してるのー?もう暗くなっちゃう時間だよ?」




ヒノは、まるで生きてる子供に尋ねるように言った。




子供の幽霊はヒノを見る。




ヒノは優しい笑顔を返す。




子供の幽霊は僅かに口を開いた。




「……待ってる」




「誰を待ってるの?」




ヒノは続ける。




「ママ……待ってる」




……




私達は沈黙し、子供の幽霊をただ眺めた。




子供の幽霊はまるで、普通の生きている子供の様に、いつか母親が帰って来るのが当然と言う感じの素振りだ。




しかし、楽しそうに遊ぶのではなく、ママ早く帰って来ないかな……という風な暇潰し見える。




寂しさをじっと堪えた背中で、砂場に行ったり遊具に行ったりウロチョロしてる。




私はヒノを見る。




ヒノは、頬に一筋涙をつらりと流して言った。




「次……行こっか……?」




「あ……うん……」







私達は、とりあえずこのニュータウンの頂上に車で向かう事にした。




その都度、重要な手掛かりのありそうな場所があれば寄ってみて、全体を満遍なくざっくりと観察するのだ。






私とヒノは車に乗り込む――




私は室内ライトをつけ、ヒノがコンビニで買ってきてくれたジュースをドリンクホルダーに入れて、車を発進させた。




車のライトが暗がりの閑静な団地街を照らし出す。




私とヒノは車に揺られ、流れてく街並みをぼんやり見つめる。




もう陽が完全に暮れ、確かに暗いのだが、




街灯のオレンジの薄明りや、ちらほらいる幽体達の淡い発光色が地面に落ちて


輝いてるので、真っ暗って感じでは無い。




幽体達の多さが、ニュータウンの無機質な暗闇を別世界に変えている。




まるで、アクリル絵の具で描かれた幻想的な世界の絵本みたいな風景だ。





「綺麗ね」




ヒノがぽつりと呟いた。




「そうだね。ちょっと幻想的。やっぱり数、結構多いね」




「そうね。同じ場所に向かってそうな幽体もちらほらといるわね」




ヒノは窓ガラス越しに、幽体達を見て何か考えている様だ。




その真っ赤な無垢な瞳には、彼等はどう映っているのだろうか?




「こうやって見てみれば、なんか散歩する私達と変わんないよね。普通の存在が普通に透明っぽくなっただけにも感じる」




私は車内の空気を明るくする風に言った。




「うん。体があるか無いかだけの違いみたい」




そうだ、人も幽霊も別個の物と言うより、ただの状態の変化みたいなもので、大して何かが違う訳でも無いのかもしれない……





車は綺麗に舗装されたアスファルトを心地よく進んで行き、窓から見える風景が少しずつ高くなる。





すると――




傍目に少し大きめな市民公園のグラウンドが見えた。




その中央に、割と大きな異形の幽体がぼーと立っている。薄い紫の様な光を放って。




もしかしたら日本古来の妖魔かもしれない。




「ねぇ、シスイ」




「ん……」




「ここで、一旦車停めましょ?」




「あぁ、うん。どしたの?」




私は返答を待つ前に、既に公園の駐車場入り口に進入した。




「さっきの、大きな幽体にインタビューしたいわ」




「えーーー……ちょっと嫌かも……」




私は銀色の髪をかき上げ、頭を抱える様にして、バックミラーでヒノの顔を見た。




ヒノは口を一文字に締めて、鼻の穴を広げ、絶対譲らないと言う表情をしている。




「駄々こねないで。あなたにとって良いタイミングかもよ?異形との対話を深めるね。何事も話し合いが一番大事!争いはNOだよ」




ヒノの言いたい事は分かるけど、さっき見えた異形は結構迫力があったんだよなー……




「確かにそうだけど……滅茶苦茶凶暴だったらどうするのさ?」





私はバックミラーで自分の顔を見る。




暗さで眼が疲れてか、黄金の瞳がいつもよりくすんでいる。


元から幽霊みたいに蒼白な肌も、血の気がさらに薄い。




これじゃ、まるで私が幽霊みたいだ。




「その時は、全力で逃げますわよ」




ヒノは、深紅の髪を耳にかけて、冗談っぽくお嬢様みたいに言った。




「作戦皆無じゃーん。最初っから関わらないでおこうよー」




私は首をぶんぶんと振る。




「ほら!あなたバイアスかかってるよ?見た目で判断しちゃってる。もしかしたら滅茶苦茶優しいかもよ?あの異形」




あの鬼みたいな見た目で……?




「なんかヒノ無理矢理だよー」






私は抵抗しながらも、渋々車を降りた――




ヒノと一緒に夜のグラウンドを歩きだす。




夜風の澄んだ匂いが、昼の現実から私を遠ざける。




満月の輝きの粒子が、グラウンド一杯に落ちている。




ヒノはなんて良い夜なんだろうと言いたげな表情だ。




私もそう思いたいんだけど、グラウンド中央に視える大型の異形が気になり、そんな気分になれない。




その異形は中央にぼーっと立って空を見ている……




「ホントに行くの?今なら引き返せるよヒノ?」




「レッツゴーなりー」




どんなテンションなの……






私達は大型の異形に近寄る――




そして、その存在を見上げた――






すごい見た目だ……




河童にとても似ている。しかし体がかなり滲んだ血みたいな赤だ。




まるで赤鬼。




混ぜた感じの何にも似つかない存在ってのが正確な表現だ。




すごい迫力がある……




体長は4メートル程あり、鼻がびろんと長いのも特徴的だ。




これは……




妖怪かな……?





私は、この妖魔に染みついた日本独自の気配に、そう確信した。




私達は近い距離でじーっと見つめる。




しかし、その妖怪は全く無反応で、ただただ満月を眺めている。




その瞳は、憧れや救いを見る様な感じだった。





そして、数分が経つ――




そろそろ車に戻りたいな……




そんな気持ちでヒノを見る。





すると――




「あのー……すみませんが……聞こえますか?」




――ッ!!!




「ちょっと!ヒノ!」




巨体の異形におもむろに声を掛けだすヒノを、私は小さな声で必死に止める。




「あのー……聞こえたら返事を……」




しかし、彼女はグイグイと責めだす。




「ヒノ!もう行こ!だめだめ」




私は首をぶんぶん振りながら、もうやめてとヒノに懇願のNGを出し続ける。







その時だった――






「……キコエトル……ナンジャ」





――!!!






私とヒノは顔を見合わせ、目を見開く。




ヒノはチャンスと言わんばかりに、セールスマンの様に言葉を挟み込む。




「宜しければ、少しお話したいなーと……」




ヒノやばいって!もう!いっつも訳わかんない所で、パワフルに猪突猛進するんだから!





「……ハナシ?ナンノジャ」





しかしその鬼の異形は、見た目に依らず意外と話が繋がる……




ヒノはここまで来て、私のお尻をぽんっと押し、早くっ!と言わんばかりに質問をさせようと促してくる。




えぇ……もう……すごい嫌だ。何を話せっていうのさ。




……




そんな今にもここから逃げ出したい私が、必死に生み出した質問は……





「あの……妖怪さんですか?」





とてもバカっぽい質問だ。





ヒノはうぅっと嬉しそうにグッドと親指を立てているが。





「チガウワ。ムカシハ……ヒトジャ」





……へー意外だ。





ヒノは、すかさず興味津々にインタビューを続ける。





「何をしてるんですか、そこで?」





鬼は少しため息を尽き答えた。きっとこの鬼もヒノに少し呆れている。





「……マッテオル、ツキノミチビキヲ」





また、待ってるのか……




幽霊は待つ事が多いいのかな?





ヒノはリスの様に機敏に動き、位置を変えて鬼の正面周る。




そして、マイクを持っている様な手で次の質問をした。




ちょっと、鬼が可哀想になってきた……




「月の導きってなんですか?」




そうそう、それは私も少し気になった。幽体だけが知る何か特殊な状況なのだろうか?




「シラン」




知らんのかい!どういう事!?




「そうですか。良い事あると良いですね」




意外とあっさりしてるねヒノ。きっと本当にセールスマンに向いてるよ。




……




少し沈黙が続く。




ヒノは相変わらずその妖魔に、にっこり微笑む。




妖魔はピクリとも動かず月を眺めているが、心なしかヒノに対する波動が穏やかに変化している気がする……




……




その時だった――




前方グラウンド端に、明らかに人間の幽霊達が複数いて、こっちを見ている。




その幽霊達はこちらに向かって手を振りだした。




当然、私とヒノにでは無いだろう――





「イク」





ぽつりと一言だけ残して、赤い大きな河童は、手を振る幽霊達の方へどしどし歩いて行った……




……




グラウンド中央には、私達二人がぽつんと取り残された。





「ほら、大丈夫だったでしょ?」




ヒノはしたり顔だ。




「うん……まぁ。でも……ヒノ怖くなかったの?」




私は、度胸の強さに感心した顔で聞いてみた。




「少し怖かったよ」




ヒノはちょっぴりと指で仕草をとり、私の腕に絡みついて笑って歩き出す。




「悪い存在じゃ無かったぽいね全然。悲しそうではあったけど」




私はヒノと手を繋ぎながら、満月を見て言った。。




「悪かったけど、今はもう抜け殻……みたいな感じだったね。人である時に心が鬼なって、幽霊になって体もそうなっちゃたんじゃない?それで長い時間だけが過ぎ去ってった……勝手な想像だけど」




「なんかそれっぽいね」




ヒノの解釈って、いつでも説得力あるな。




私はなんとなく納得してスッキリした。







私達は程なく車に戻り、さらに頂上を目指す――




ブーーーン……




車は、真っ白で無機質な団地群の間をどんどん駆け抜けて進む。




西洋の建築を交えて作られたこの団地の見た目は、結構芸術的だ。




夜をも味方につけて、映えた印象を私達に与える。




やけに人が少ないのは、この場所にはそもそもあんまり人が住んでないからだ。




電車か車ぐらいしか、山に囲まれた要塞の様なこの街にアクセスする方法は無いし、出来た当初はバブル絶頂期で、今のニーズとは全然違うからだ。




でも、ベッドタウンとしての役割はあるのだが、雰囲気で言えば、本当に街その物が眠っているようなんだ。




でも、私はこんな街をとても気に入っている。




五月蠅く無いのはとてもいい事だから……







……




……おっと、一人で考え過ぎていた。




車内は沈黙と、単調な走行音で満たされている。




室内ライトだけが、ここでは明るさを主張している。




……




その時だった――




「あ、シスイ!あっち!あっち行って」




ヒノが指さす方向は、頂上へ向かう道では無く、途中の脇道であり、山の内部へ繋がる今は使用されていないトンネルへの道だ。




内部と言っても100メートル程で、その先は工事の途中でほったらかされており、巨大な削られた岩の壁が現れ、そこで行き止まりになっている。




私は一度依頼関連で行った事がある。




本当に何も無い、ただ薄暗いだけの場所だった記憶がある。





「え?あそこ?何も無いよホントに。真っ暗で危ないから辞めたほうがいいと思うけど……」




遠回しに断ろうする私。わざわざ真夜中に行きたい場所では無いからだ。




「いいの!あそこには何かありそうな気がする。それにライトは私が魔法でつけるから」




そう言って、ヒノはバチンと指を鳴らし、掌から綺麗に輝くプリズムを出現させた。




車内がプラネタリウムの様に輝く。




「んー……でもなー……」




迷いながらも、車の速度を落とす。




「幽霊達、たぶんあそこに集まって行ってるよ?ほら、見て」




私は路肩に停車し、車から眼を凝らす。




……




……確かに。




ちらほらと、淡く発光している幽体達が、あのトンネルの中に入って行ってる……





「確かにそうだね。でもさ、あんな暗くて狭い空間で沢山の幽体達と鉢合わせてするって大丈夫なのかな?」





わざわざ危険に飛び込む行為で間違いないと私は思う。


普通に考えればそうなんだ。





「大丈夫大丈夫!この街に入ってから悪い気配は一度も感じて無いよ?


この街全体がそう言う場所なのかも……穏やかな幽体しか住めない、一種の世界みたいなものかもしれないわ」





ヒノの顔にはまるっきり不安が無い。これは信頼に当たる。


何故なら、ヒノの気配察知能力は凄まじく、それはまるで広範囲に無数に張られたピアノ線に等しいからだ。


だから、彼女の本能の直感はいつも正しい。





「一種の世界……」





その言葉も気になる……





「真相があるかもよ?インタビューもしまくれるかもよ?」





インタビューしまくれるか……それはいらないけど。





「……」





でも、やっぱりちょっと真相知りたいしな。





「じゃあ、ちょっとだけ行こっか。危なかったらすぐ帰るけど」





「うん!一体何をしてるのかしらね!ちょっと雰囲気が幻想的な異界っぽくて私好きだわここ」




ヒノが楽しそうなら、まっいっか。







私達は車を脇道に停車させて、トンネルまで歩く――




トンネル付近には、もう住宅は一切無い。




鬱蒼とした大森林に囲まれた、ただの山の中だ。




私達はそんな道をくっついてじゃれ合って歩く。まるで肝試しを楽しんでいるカップルの様に。





「ちょっとシスイ!さきさきいかないで」




「このまま走って逃げちゃおっかなー? ふふふ」




「もう!いじわるやめて。後で仕返しするからね。唐揚げ100個奢りの刑よ!」




「どんなけ食べる気なのさ ははは」




「もう!!!」




顔を真っ赤にして、ぺしぺし私の肩を叩いて来る。




なんやかんやで、少し怖がりなのカワイイな。




私達の傍らには沢山の幽体もその道を進んでいる。歩いたり、浮遊したりだ。




間違いなく、この場所には五月蠅すぎる私達。




それでも全く構わないという感じの幽体達。




彼等は様々な色に淡く発光して、集まるととても綺麗だ。




そんな幻想的な光が、今この場所も、トンネル内もずっと続いている。




まるで、別世界へ続く階段を歩いている気分になる。





「ねぇ、シスイは"みんな"何しにトンネルへ向かってると思う?」





「さぁ……自分をこの世界に引き留めてるっぽい未練を上回る程の目的なんだから、とても大事な事の気はするけど……全く分からないね」





ヒノは、ザクザクと地面の砂利をリズムよく踏んで、俯きながら何かをじっと考えている。





「そうだよね……とても大事な事なんだろうね」





「うん……自分の意思と言うよりは、引き寄せられてる感じもするけど」





幽霊の意思と言うより、大きな自然の流れを私はここに感じる。





「そんな感じもするわね。未練も自分の意思かって言われると少し分からないよね……自分の積み上げてきた行いの反射だったりするのかもね」





ヒノは過去を思い出している様な眼をし、一瞬寂しい顔になった。





私はそれを振り払ってあげたくなり、月でほんのり色づくヒノの頬をツンとつついていたずらっぽく言った。




「確かにそうだね。私達は何に左右されて、私達は何を選択できるんだろうね?」





「ふふ わかんないね。でも……色んな事の積み重ねで起こった、今って奇跡は愛おしいわ」





「うんうん。私達が、お互い愛おしい感情で寄り添いながら、今こんな風な話をしているのは、全然ランダムなんかで起きた事とは思えないよね」





「私も本当にそう思うわ。ちゃんと意味があってこうなったて思う」





私達は同じ事を考えていたのが嬉しくなり、肩をくっつけ弾むように歩いた。




りんりんと光る幽体達の中を、さも楽しそうに……







気がつけば私達はトンネルの中に入っていた――




トンネルの中は、無数の幽体で溢れかえっている。




動物や鳥の様な幽体もいるし、虫の幽体や、植物の幽体もいる。




もっと言えば、恐らく小さく光っているのは細胞とかのレベルの幽体なんじゃないかと思う。




おかげで、トンネル内はこの世界に無い光が幾重にも合わさってプリズムの様になり、煌々と輝いて物凄く明るい。





とは言っても、幽体が見えない人には真っ暗に見えているに違い無い。





第六感やそんな感じの、認識のモノなんだろう。





「すごく綺麗……」





ヒノは、真っ赤でクリア瞳を輝かせ、物理的世界にはあり得ない、目の前の光の波の光景に魅入っている。





「これは……命の輝きみたいなものなのかな?」





私はぽつりと呟いた。





「そうかもね……凄くいい例えだねシスイ。だとしたら私達の世界も、もしかしたら神様や大きな存在から見たら、とてもきれいな輝きとか別の風に見えてるのかもね……」





「うん……物凄く単純で、それでいて美しいのかも。美しいって表現では表せられない別種の感覚なのかもね」





ヒノは私に顔を向けた、真剣な面持ちだ……





「ダーリン……私ねホントにあなたが好き」





「どうしたのヒノ?急に改まって」





「あなたって存在が堪らなく好きって話よ……」





「……そっか。私もだよ。さっきの感じで言うなら、命としての君が好きだよ。


君のみんなに優しい輝きがとても好きなんだ、他にも君の好きな輝きは沢山あるけど」





「そんな事言われたら、私あなたを思って忘れれなくて死んでもずっと幽霊になっちゃうじゃない」





「大丈夫、ヒノならそんな事は起こらないよ。君はどう進んでも穏やかな道にしか進まない。そんな気がする……そんな命の輝きだとも思う……」





「嬉しい……ありがと。そうならいいわね。もしそうならシスイが迷ってたらちゃんと助けに行くからね?」




「ふふ。よろしくお願いします」





……







私達は、トンネル内をどんどん歩く――




幽体達はさらに多くなる、天井や壁を歩いているのもいる。




浮遊している幽体達は空間を分け合うかの様に列になり、同じ様な動きで進む。





「もうそろそろ、行き止まりだよ?」




私はヒノに言う。幽体達で見えずらいが、立ちはだかる壁がようやく認識出来た。




「そうね、きっと真相がそこにあるはずだわ」




「あるかなー?」




そう言った時だった――




私は、久しぶりに未来視が発動した。




数分先に自分が何をするのかが分かった。




それに伴い、この件の真相が薄っすらと理解できた。




悪い気分じゃない。とても不思議な気分だ。




なんで今未来視が起きたんだろう……?




……まぁいいか。




とにかく、ヒノには内緒にしよう。






私達はとうとう最奥まで辿り着いた――




しかし、そこには山の岩肌があるだけで何にも無い。




幽体達はそこを通り抜けて、先へ進んでいる。




「えーーー!物理的に私達はこの先見れないって事!?」




ヒノはすごく悔しそうな声を上げて、ジタバタした。




トンネルにヒノの声が反響する。




「そうだね……でも、もしかしたら気配でわかるかもよ?」


私は、未来視の映像からヒントをヒノに出す。




「気配……あ、そっか。壁に触れて、感覚で奥の状況を感じ取ればいいんだ」




正解だよ。私達は二人して壁に耳を当てて、眼を閉じるんだ。




その後は……びっくりするよ。




私とヒノは壁に両手を触れて、耳をくっつけ目を閉じる。




……




……




――




ドクン。ドクン。ドクン……




――




……




……




私とヒノは目を閉じていたが、感覚で視た光景は恐らく同じ物だろう。






「鼓動ね……山の鼓動。無数の命の関係性から出来た、山の鼓動」





ヒノは、その音がとても心地良いと言う風な表情をしながら言った。






「うん……すごいエネルギーだね。これに引き寄せられて、さらにその幽体達も鼓動を生み出す一つになってるんだ」





私は、今まで色んな強い力を見て来たけど、それらとは別種の、この命の壮大な煌めきに圧倒されていた。






ヒノは、少し理知的な表情になり岩の壁を撫でながら言った。




「これがなんでこうなってるのか分からないけど……きっとこれが答えね」




私は少し笑いながら返す。




「うん、私達には分からない事なのかもね」




ヒノは微笑みを私に返した。






私達はプリズムに輝く幽体達の中で、山の鼓動を背中に感じながら、座って手を繋いだ――





「ねぇ、シスイ。この今をちゃんと覚えていようね。いつか私達の日々が過ぎ去ったとしても」





「うん、勿論。きっと忘れなんかしないよ」





ヒノは目を瞑りながら続けて言う。





「この今さえしっかり感じられたのなら、いつか悲しみが私達に降りかかっても、


きっと大丈夫よ。迷いの中の道しるべの因になってくれる思うわ」





「そうだね。こんな瞬間が起こる奇跡があるって思えるなら、希望は消えないよ。何が起きたとしても」




私は強く締めくくった。





ヒノはさらにぎゅっと私の手を強く握り、それはまるで今を噛み締めるようだった。




「きっと私達は遠回りして"何か"を探しているんだろうけど、こんな風に遠回りしないと見つけられない事もあるのかもね」





確かに……色んな辛い事があったけど、そうでなきゃ気づけなかった事が沢山ある。





「確かにね……」





私達は座りながら僅かな会話を交わした後、お互いにもたれかかり相手の


鼓動を、命の感覚を確かめるように耳をすました。





……




……




ヒノの音はとても穏やかで優しい音だ……




……




……




私は、彼女の音を聞いてる内に少し眠たくなって、ウトウトしていた。





……




……




「……スイ……スイ……シスイ……ねぇシスイってば!こんなとこで寝ちゃ風邪引くよ?さっ!帰りましょ!」




ヒノがルビー色の瞳をきらんと輝かせ、何かに吹っ切れた風な顔で私を覗き込み言った。




私寝ちゃってたんだ……




どのくらい時間が経ったのか曖昧だ……





「あ、うん。ごめん。寝ちゃってたね。行こうか」




「せっかくだから、街の頂上の夜景見て帰りたいわ。そんな遠く無いし」




「うん、そうしよっか」





私は立ち上がった――




そしてヒノと二人、山の鼓動の気配を背後に感じながら入口へ戻って行く。




不意に私とヒノは同時に振り返る。




それに共鳴したかの様に、幽体達が鼓動みたく、一瞬ドクンと輝きを放った。




まるで、私達と繋がっているとでも言いたげな脈動だった……






私達は車へ戻った――




私は室内ライトを付け、少しジュースを飲み、車のエンジンを点ける。




さっきまでの事が夢みたいに、現実の流れに認識が戻った。




私は少し窓を開けて車を発進させる。




真夜中のさらに真夜中、街灯と幽体達だけが淡く光る道。




巨大で無機質な団地群が夜の静寂の中、ひっそり息をしている。




私とヒノは、窓から入る澄んだ外気にトンネルの出来事を想い出す……




すごく静かで満たされた瞬間がそこにもあった。






気が付けば、私達は頂上に到着していた――





そこは、この街の中心に位置する大きな公園であり、市に管理されていて、とても綺麗な場所だ。




様々なアスレチックがあったり、大きなグラウンドや、県の中でも屈指の絶景が見れる場所としても有名だ。




三百六十度、様々で壮大な街の景色を、天空と言っても過言で無い場所から見降ろせるのだ。




私も幼少期には両親とよくここへ来た。車を運転できる様になってからは、たまに一人で来たりもする。




心が落ち着く、お気に入りの場所だ。







私はいつもの駐車場に車を停めた――




「とうちゃーく」




私は車を停車させたと同時にそう声を上げた。




「よき、うんてんであったぞ」




ヒノは同じようなトーンで私に笑いながら言った。






私達は車を降り、歩いて数分の展望台まで歩く――





「ねぇ、ヒノはここ初めて?」





「そうよ」





「そっか……」





初めてなのか……じゃあとても貴重な体験じゃないか。





この場所を初めて見る瞬間は格別なんだ。それがこんな雲一つない澄んだ真夜中ならより素晴らしいはずだ。





ただ見るのは少し勿体無いよね……





「ヒノ、ちょっと」





私はヒノの後ろに回る。





「ちょっとちょっと何!?怖い事やめてよ?苦手なんだから」





さっき、無数の幽霊見たばっかじゃないか……





「違うよ。私を信じて」





私はそう言って、ヒノを両手で目隠しする。





「きゃー!暗くて何も見えない。怖いの嫌なのに―」





「大丈夫だって。この方が絶対良いから」





「ホント……?信じるよ?嘘ついたらちょっと叩くからね?」





反撃がカワイイな。





「いいよ。ほら、歩いて。ちゃんと私があの場所までヒノ連れてくから」





「……転びそうになっても絶対離さないでね?」





「うん。離さないよ。何があってもね」





「うん……」






そして――




私達は展望台に到着し、一番端の柵ギリギリまで進んだ。




ここには、もう何の遮りも無い。




まるで、星屑の街達の上空を飛んでいるみたいだ。




「ヒノ、外すよ?心の準備は良い?」




「いいわ。さて、ダーリンは何を見せてくれるのかしらね」




君にはなんでも見せてあげたいよ。




「じゃあ、いくよ?3・2・1……はい」




私はヒノの目から両手を外した。




……




……




「……あ……あぁ……凄く……凄く綺麗よ……こんなに綺麗だったのね……」





ヒノは瞳に涙を浮かべている。目の前に広がる世界の灯を瞳に反射させながら。




私達はどこを見ても無限に広がる街の光をぐるりと見渡す。




地平線が青白い。




空は暗いと言うより、もの凄く蒼い。




深い蒼が際限無く広がる空をじんわり染め上げ、地平線に近づくにつれて徐々に輝度が高くなる。




そして、最後には一直線の光と融合している。





そうだ、思いだした……




いつか、この景色をヒノにプレゼントしたいと思ってたんだ。




夢は意外な瞬間に叶うものなんだな。





「この景色、ヒノに見せられてよかったよ。私の夢の一つだったって今思い出した」





「ありがと……あなたと一緒に見れた事が、私物凄く嬉しい……」





「うん……」





私はヒノの前に立ち、茫然と景色を眺める。




そして、振り返り言った。




「人も変わらないのかもね。沢山の輝きが集まって一つの現象を作るって感じなのは……」




「えぇ。この景色に私は街の鼓動を感じるわ」




「街の鼓動か……」




全ては関係しているのかもな。




明確な境界なんて無く。




まるで、あの空のグラデーションの様に。




そして、全ては続いているかもな。




縦にも下にも横にも前にも後ろにも、途切れる事は無く……




もしそうなら、ヒノがトンネルで言った、あの瞬間がいつか私達を救ってくれるって話も本当に確かなモノかもしれない。




私達はあの瞬間の続きを生きているのだから……




あの奇跡的な瞬間が私達の未来を作る因になってくれるはずだ。




そう思った私は、壮大な景色を背景にしヒノに言った。




「一緒に進もう、ヒノ。きっと君となら特別な答えが見つけられると思うんだ」




「うん、言われなくても。もう、そのつもりだったよダーリン」




ヒノは目の前に広がる無類の絶景に腕を伸ばす様な仕草をした。




しかし……ふと手を止め腕を降ろした。




その変わり私の手を握る。




「今は、この繋がりだけで十分だわ」




私は何も言わず、優しく握り返した。

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