顕現少女ミコトの禊奇譚 魔王 ルーレンジ
私とノウコは宇宙人の魔王と戦っている。
真昼の最中、巨大な都市を繋ぐ大きな橋の上で。
私は幽霊の様な白い肌を紫外線に贅沢に晒しながら、クリアな淡い紫の瞳をりんりんと輝かせて未知の存在を見つめている。
宇宙人なのか、魔王なのかは、はっきりはしない。
宇宙人の魔王としか言えないんだから仕方が無い。
――
突如現れたそれは、ずっと橋に居座って大勢の民衆の通行を威圧だけで簡単に遮った。
SNSのトレンド動画で見たが、その見た目は、どこかの世界の王であると誰が見ても分かる雰囲気だった。
背中の多数の真っ白な翼膜が異様な雰囲気を醸し出している。
政府の特殊部隊が討伐に当たろうとしたが、宇宙人は周囲の海水を左右で500メートル程、一つの素振りだけで持ち上げだして、特殊部隊に圧倒的な力を見せつけ威嚇した。
その力に恐れをなした政府は、対話路線で解決するしか無いと思い、なんとか試みたが、強い奴を呼べとしか返答してくれなかったらしく、
手あたり次第、政府が認識する凄腕の超常専門家達が呼び出された。
私達もそれで呼ばれた類なのだが、あまり乗り気では無かった……
何故なら、今日はノウコと、劇場版の魔法少女スピカ・マインドを見に行く予定だったからだ。
でも、一応立場的に放ってはおけないという事で現地へ向かった。
その閉鎖区域内には、幽明さんとドミノさん怪丘さんも居た。
恐らく幽明さんに呼ばれたであろう、シスイさんとヒノさんもいた。
橋の中央には例の宇宙人っぽいのがいて、他は無人の車がぽつぽつとある。
宇宙人の王から、しばらく距離を開けて、橋の入口と出口付近に特殊部隊が沢山居て、そこに私達もいるという感じだ。
閉鎖区域を出ると、大量の野次馬がわんさか湧いている。
――
自衛隊ですら追い払われ、特殊部隊が完全に、ここの指揮を執っている。
その戦闘服にはTASK-Vとプリントされている。
たまに、依頼関連で耳にするが、基本よく分から無い組織だ。
面構えを見ると、雰囲気的にこういう状況に慣れてる精鋭達だろうとは感じる。
あとは、超常関連の専門家っぽい人間がちらほら。
知らない顔がほとんどだが、みんなそれなりにツワモノ揃いと言う感じだ。
私とノウコは幽明さんに近寄った――
「幽明さん、来てたんですか」
「あぁ、うん。怪丘さんに呼ばれてね」
幽明さんはベージュのコートをなびかせ、眼鏡をくいっとあげた。
「もう大混乱のお手上げ状態よ。上の人間が今すぐどうにかしろって騒ぎまくってるわ。私の知る限りあんな奴相手に出来そうなの、灯ちゃんしかいないもん」
怪丘さんはコミカルにジェスチャーして話す。
「すばるさん、あなた政府直属の超常管轄エリート刑事なんでしょ?がっつり人任せにしちゃ駄目じゃないですか」
全くその通りだと思う。
「だってー私の手に負えないしー、ほっといて上司に怒られるのも、宇宙人に侵略されるのも、どっちも怖いんだもーん」
そう言って怪丘さんは、意地悪と言う様に幽明さんの肩を肘でツンツンと小突いた。
「はぁ……すばるさん、ホント子供ですねー」
「ナイスバディのお姉さんでーす!」
まるで緊張感の無い人だ。あの宇宙人下手したら、巨大隕石より危険なのに……
ドミノさんは何も話さず、幽明さんの横で、あの宇宙人を遠い目で眺めながら準備体操をしている。
「シスイちゃん、もう大丈夫?」
ノウコがシスイさんに近寄り優しく尋ねた。
相変わらずノウコは空気が読めるし優しいな。
「あ、はい。先日はご迷惑をおかけしました」
シスイさん顔赤くなってるの可愛い。
「ノウコ、シスイさんはスーパータフマンっぽいから心配ないわ」
私はいたずらっぽく言った。
「スーパータフマンですか……ちょっと失礼じゃないですか……?ミコト様」
あら、あなたシスイさんの味方するんだ。ふーん。
「そうだ、ミコトちゃん。スーパータフマンって暑苦しい感じの男みたいじゃないか。とうとう私の事いじりだして、最初の大人しい美少女のミコトちゃんはどこ行っちゃったのさ?」
シスイさんは、そういいつつも少し笑いながら嬉しそうにしている。
きっと、少し仲良くなれてるからだ。
「ミコトちゃんシスイはスーパータフマンじゃなくて、ハイパーダーリンよ?」
それもそれで違う様な。
ダーリンっての前から思うけど……この二人は……その……どんなスキンシップを……とるのかな……?
あ、だめ。鼻血出ちゃう。
「猫被ってただけですよーん てへ。美少女には変わりないですけどね ふふ」
私はウインクし盛大にべーっと舌を出した。
ちょっとやり過ぎたかな。
「やっぱりね」
シスイさんは腰に手を当て、自分の推理が正しかったと言いたげに、自慢げに頷いた。
「花岡っち……いや、ミコトちゃん……どんどん印象が変わっちまうぜ……最初の俺の友達が居なくなっちまったみたいでちょっと悲しいな……」
ごめんなさい、ドミノさん。
あなたを最初から今まで、ずっと騙してたわ。
友人なんかでも無く、ただただ観察してた。
その悪魔の右腕が脅威では無いかを……ホントにごめんね。でも楽しかったよ。
ノウコは嫉妬に狂って何度あなたを切ろうとしてたか……
「ドミノさんでしたっけ……?あなたみたいなガサツな感じの男が、ミコト様とデートできただけでも奇跡と思って下さい」
ノウコ……その言い方はちょっと……みんな引いてるよ。
「あ……はい。確かによく見ればすげーカワイイし……一緒に遊べるだけで奇跡だったかもしんないすね……ノウコさん」
あれ、珍しくドミノさん敬語じゃない?……あ、そういう事か。
ノウコの事色目で見やがっている……
色目でちらちら見やがっている。
少しムカつくじゃない。
「ふん……わかってるじゃないですか、素直なのは評価しますよ」
ノウコは、私を可愛いって言われるの凄い好きだからな、ドミノさん一気に気に入られたっぽいね。
「はい!ありがとうございます!」
ちょろ。
顔がすごい嬉しそう過ぎる、ドミノさん。
「痛てぇっ!何すんだよ幽明」
「あんたこんな時にニヤつき過ぎ」
あれ、今のジェラシー?まさかね……
幽明さんも可愛い所あるのかと思った。
でも、言葉そのままかもね。
この中であの宇宙人のやばさを理解してるの、私と幽明さんとヒノさんぐらいかな。
あと、野次馬の中の流図トドリと円環ミレア。
妙な気配がすると思って、私の眼と使役している妖魔でダブルチェックしてみたけど、やっぱり間違いない。
あれで、隠れてるつもりなのかな。
「はっ!?ニヤついてねーし」
どの顔が言ってるんだよ。笑いながらニヤついてねーしって言ってるのよあなた。
「そうよ、灯ちゃん。急に足踏むのはダメじゃない。理解無い男には、急に股間蹴り上げるぐらいしないと」
「ふふふ 次からそうします。 あっでも足穢れるからやめときます」
幽明さんは、鼻をつまんで吐きそうな顔をした。結構ひどい。
ドミノさんは真面目に落ち込んでいる。
「ねぇヒノ。どうしたのそんな難しい顔して?」
シスイさんが、手でスマホサイズの銀色の塊をお手玉の様に遊びながらヒノさんに聞いてる。
あれが、噂の異界の武器ゼスパか……気配が違うね……貸して欲しいなー
「あいつこっち来るかも……もう……」
全員が、ヒノさんの声を聞き奴を注視する。
ヒノさんの勘は異常なまで鋭い。私の事も、最初から時々見透かす眼をしていた。
宇宙人は、3メートル程ある体躯を一瞬ぐんと屈め、次の瞬間思いっきり跳躍し、
上空へ羽ばたいた。
宇宙人が巨大な翼膜で青い空を我が物と言わんばかりに飛んでいる――
最大限に洗練された肉体をぶるんとしならせ、左右で計8枚の真っ白で蝙蝠みたいな翼膜を贅沢に大きく広げて風を鋭く切る。
その速さは尋常では無く、全員が最大の警戒をする前に、既に私達の前にふわりと着地していた。
スゥーバタバタ……
全員が息を呑む……
……
近くで見ると、すごくスタンダードで古典的な宇宙人の顔をしている。
俗に知られる、グレイと言うタイプの様な顔だ。
肉体は完成された大理石の彫刻の様に滑らかで、エネルギーが敷き詰まった異質な筋肉が特徴的だ。
それは人に似ているが、根本的に仕組みが違う感じがする。
その上には、宝飾のあしらった遙未来のマシン的な甲冑をタイトに纏っている。
まさに魔王――
まさに宇宙人――
私達稀人の人外な気配の総和を前にしても、平然と余裕な雰囲気で近付いてくる。
皆、異常に完成された存在に、身動き出来ずただ睨むしか出来ていない。それは私を除いての話だが。
「何が目的?」
幽明さんが、銀色の瞳を鋭く光らせ辛うじて尋ねた。
「黙っておれ」
その宇宙人の魔王は流暢な日本語を喋り、しっしっと言う様に幽明さんの言葉を排除し、一人一人吟味するようにじーっと見ながら歩く……
何をするか分からないので、誰一人動こうとはしない。
私以外の全員を見終わり、とうとう私の前にやってきた。
……
見つめ合う――
宇宙人の魔王の真っ黒で大きな瞳に私の顔が映る。
まじまじと見つめてくる。
きっと、私の三白眼の間の抜けた淡い紫の瞳がなんとなく不思議なんだろう。
……
ふっ……
あ、笑っちゃった。
みんな私を、何故笑った?といいたげな驚きと不安の顔で見てる。とても心配そうに。
だって……意外と目がカワイイんだもの。
シスイさんは奴に攻撃すらしようとしてる。
絶対ダメだよ。死にたくないなら……と言う眼で私は最大限感情が伝わる様にシスイさんを見た。
それが伝わったのか、とても歯痒そうにしている。
……
宇宙人の魔王が口を開いた――
「お主、この星のなんじゃ?」
「知らないわね、そんなの……逆にお主はなんじゃ?」
みんなが、えっ!?と言う表情でさらに見てきた。
いいじゃないこのくらい。こんなノリで生きないと疲れちゃうでしょ?
「我か……我は……魔演王ルーレンジじゃ。お主らに呼ばれて我が船で遙彼方よりここへ参った」
「へー変わった名前ね。響が好きだわ。私はミコト。命って意味の名前」
「ほぅ……ミコトか……良い名だな。命……それは無限の世界に流れる不思議なモノ、我らの星もその一つとして繋がっておる」
よく分からないけど、わかってくれそうな宇宙人ね。
「なんでここに来たの?」
私は、みんなが気になっている事を代弁して聞いた。
「ん……何を言っている?先程も言ったではないか?お主らが我等を呼んだのであろう?」
私は皆を見る。みんな当然の様に首をぶんぶんと振る。
「誰も呼んでないって」
宇宙人の魔王は顔をしかめる。
呼んだ犯人は、ほぼ予想ついてるけど。
たぶん、流図トドリと円環ミレアね……
事の次第によっては、即効払う事にしましょ……
よく分からない事をして、私達の"イノチ"を脅かす者なんていらないから……
「確かに、お主らは我等を呼んだ。それを取り消す事は、もう可能では無い」
我等?他にもいるの……?
「そう……では、戦う?」
みんな、私を見て息を呑んだ。大丈夫かと言う顔で。みんな私を知らないから仕方ないか。
「そうだな……でなければ、我以外の者共は収まりがつかぬであろう……それに……我もこの星の限界が見たい」
限界って……ちょっと過激じゃない。
「……勝手に呼んでごめんね。私じゃないけど……呼んだの」
「構わぬ……それより不思議じゃ」
「何が?」
「お主と言う現象がじゃ。どんな縁があれば、お主みたいな存在が生まれるのだ」
「私みたい……?」
「そうだ……お主から溢れるイノチの気配。この我であろう者ですら、それには跪きたくなる……」
「いいわよ。跪いて」
皆、もはや目がテンになり私を見ている。ノウコは少し笑っている。
「ふんっ……フハハハハ!馬鹿者!いや……化け物よ。気に入ったぞ。お主に決めた」
なんか、面倒臭い事になりそう……
宇宙人の魔演王ルーレンジが私を指差し、クイクイと来いと言う様な素振りをする。
はぁ、やっぱりこうなるか……でも、仕方ないよね。
この中でこいつと戦って死なないのたぶん私だけだし。
「ミコトちゃん!!!ダメだ。私が行くよ!!!」
シスイさんが宇宙人の魔王を睨みつけて声を張り上げた。
その瞬間――
魔王ルーレンジは、私と話していた時と打って変わり、とても非情で冷酷なおぞましい眼でシスイさんをギロッと睨んだ。
それでも彼女は怯まずに、戦闘態勢に入ろうとする。
ヒノさんと、幽明さんは、そんな強情なシスイさんを抑えている。
命懸けで私を守ろうとしてくれてるのね……そういうのは結構好きよ。
「シスイ。ミコトちゃんは強いよ。気配を見られるなら分かるだろ?私達より可能性があるんだ……」
幽明さんは論理的な判断を促す。
「分かるけど……実際に見た事無いし、ミコトちゃんが痛い目に合うのがとても怖いんだよ」
この人は、異常なまでに仲間意識が強い人ね。
「シスイ、ミコトちゃん本当強いよ?実は私、最初から怖かったくらい……だから……任せよ?」
ヒノさん、やっぱり私の事ちょっと怖がってたんだ。観察力で言えば、この中でトップだね。
後、シスイさんが最優先の思考だ。本当に死ぬ程好きなんだろうね。
「でも……」
シスイさんは不安な顔で苦虫を嚙み潰す。
「じゃあ、俺が行こうか?」
覚悟した顔で、微笑みながら悪魔の右腕をぐるぐる回すドミノさん。
ドミノさんあなたは優し過ぎるわ。でも無茶はダメだよ。
現時点のあなたなら私の使役している妖魔にも勝て無い。
あくまで現時点だけど。
それが何かは分からないけど、あなたはかなり特殊な一族の末裔だからね、伸びしろと言う点では計り知れないモノがある感じがするわ……
「あんたまで……無理だって」
幽明さんが、みんな理解しろよと言う顔で見てる。
幽明さんの思考の仕方は好きだわ、正しい判断を無駄が無く下すもの。
「皆さん、ミコト様の戦いを間近で見てきた私が断言します。この方は誰にも負けません。あなた方はミコト様に少し思い違いをしております。この方は本当に奇跡の方なのです」
「奇跡?」
シスイさんが聞き返す。
「えぇ。奇跡は数あれど無二の奇跡です。どうか信じて下さい。それに、ミコト様の前に私がこの宇宙人の相手をします。命懸けでミコト様に傷一つ届かないように最善を尽くすつもりですから……きっと大丈夫です。私意外と強いんですよ ふふ」
ノウコはそう言って、皆を少し安心させた。
心からの決意の言葉と表情に、誰も言葉を返し辛い雰囲気になった。
「なぁ?良いだろう魔王よ?私はこの方に命を捧げ仕える者なのだから?」
魔王ルーレンジはノウコをじっと見て、覚悟を受け取ったかの様に言った。
「好きにせよ。容赦はせぬぞ」
そして、私とノウコはみんなに、大丈夫と言う笑顔を見せ、魔王ルーレンジと橋の中央に向かった――
私の肩まである薄紫が入った黒髪が、橋を吹き抜ける風に大きく揺れた。
……
はやく終わらそ――
橋中央――
「ミコト様、では私が」
本当は断りたいけど、さっきの手前ノウコを立てないとダメよね……
ノウコの危険を察知した瞬間、割り込むしか方法はなさそうね。
「大丈夫?あいつ弱くはないわよ?」
一応念押ししてみる。
「えぇ……とりあえずやってみます」
いっつも、場当たりなんだから。元令嬢なのに、すごく大胆なのよね。
「……そう、なら任せる。でも死なないでね?死んだら一緒にアニメ見れないもん。私、それは嫌なの」
正直、この場の誰よりあなたが一番傷ついて欲しくないの。ちゃんとそういう私の気持ち分かってるのかな?
「あなたを置いて、私がこの世界から去る事などありませんよ」
かっこいいじゃない。好きよノウコ。
「そっ。安心した」
「では、行ってきます」
「うん」
仕方ないわね……
――
ノウコは艶やかで長い黒髪を振り乱し、私から離れて魔演王ルーレンジに近付く。
私はノウコがどんな戦闘をするか大体分かる。
多分だけど、海の上って言う場所的に、使役している妖魔ウノビョークを出すわね。
それを補助にギリオドを体に憑依させて地上戦ね。
ノウコは妖刀を鞘から抜き、奇妙な恰好をする。
やっぱ当たり。あの妖刀に腕を蛇みたいに絡ます格好、ウノビョーク呼び出す構えだもん。
ほらほら、橋の下の海面がかなり膨れてるし。
「界守朱円、私の上に結界張って、少しも濡れたくないの」
私は空間に向かって、軽く呟く。
空間から顔中不気味なお札だらけの座敷童の様な女の子、界守朱円が現れ、にーっと笑っている。
「はーいミコトサマ。でもシューちゃんっていってね」
「シューちゃん早く。濡れるから」
「ほいほーい」
次の瞬間――
体長20メートル程の全身虹色の綺麗な鱗のウミヘビに似た存在が海中から飛びだし、そのまま宙を浮遊している。
形を自由に変え、体を雑巾を絞る様にひねり、水を橋に落としている。
界守朱円の結界バリアのおかげで濡れずに済んだ。
毎回思う……意味あるのかなウノビョークのあの動き。
魔王ルーレンジは少し楽しそうにそれを見ている。余興的な見方でだけど。
混乱に乗じて、ノウコはもうギリオドを憑依させている。トランス状態になり宙を見て固まっている。
恍惚な表情だ。体に強力な幽体を降ろすのはオーガズムに似た感覚になるのだ。
さて……こっからね。
ノウコ結構大胆に近寄っている。ちょっとやばい距離感ではあるんだけど。
でも、あいつは待ってくれている感じだね。何が出るか期待している感じにも近い。
そんな宇宙人の魔王の気持ちとは裏腹に、ノウコは一気に決める気でいる。
宙にいるウノビョークが激しく動き出した。
ウノビョークは体をうねらせ、私達の頭上で大きな風を起こしながら形を変形させて、まん丸な姿になった。
それがくるくると回転しだす。
虹色の鱗が回転し、強い日差しに当たりきらきら輝くものだから、まるで巨大なミラーボールみたいに見える。
幽明さん達や野次馬もかなり不思議がってる。
さぁ、始まるよ――
……
ビュンビュンビュンビュンビュンビュン――
それはおもむろに始まった。
ウノビョークは球体の体の隙間から、宇宙人の魔王に向かって、輝度が高くて鋭いレーザー光線を猛烈に連射しだす。
同時にノウコは、その光線を縫うように移動し、秒間100発以上もの斬撃を四方八方飛び回り、様々な角度から繰り出す。
ノウコは誰が見ても、もはや人間では無い。幽明さん達も驚愕している。
そうよ、ノウコは最強なの。
全く、惚れ惚れするね。
まるでノウコは巨大なミラーボールを頭上に置いて、激しい光の中、不穏な妖刀を振り回し、踊り狂っている様にも見える。
あの宇宙人が王と言う風格なら、ノウコは戦鬼。
しかし美しい煌めきもあるので、閃鬼と言ったところだろう。
こんな過激なディスコどこにも無いよ。
これが、財閥のご令嬢って誰が思うんだろうね?
広い屋敷の静かな部屋で、おしとやかに本を読んで、百名以上のメイドを持つ正真正銘の姫君だったと誰が思うんだろうね?
そんなご令嬢が、周囲の空間の塵一つも逃がしやしない斬撃を放っている……
全く不可思議ね……
そんなノウコが私の女執事になった日の事は、今でも鮮明に思い出すわ。
それはまた別の話。
ところで……
……何故全部避けれるんだろうね物理的に。あの宇宙人の魔王。
避けてるどころか、毎回背後とってる。それに術も同時発動してるし。
数秒先でも見えてるのかな……?
そういう相手は厄介よ、稀にいるんだけど大概とんでもない奴等。
幽体さん曰く、シスイさんはその能力が群を抜いてすごいらしい。
海面から巨大な穢れの塊みたいな爪の長い魔の手が二本出てきて、ウノビョークに迫ってるし……
ノウコ気づいて……
あぁ、でもノウコも完全に決める気だ。
最後の居合に入ったから。
あれ、最近一緒に考えたやつだ。
近距離の相手なら問答無用で強制的に逃げ場無くす居合。
あれ、結構自信作なんだ。
ほら、宇宙人の魔王の魔の手の動きが止まった。
全神経をノウコの居合の回避に注いでる。
宇宙人の魔王はある範囲内をずっとせわしなく超高速で動き続けている。
あれは、ノウコ本人は不動の状態に見えるけど、実は何百箇所から切ってるからなんだよね。
中心からあらゆる方向に放射型に斬撃を無数に放って、ほぼ同時に外側からも斬撃を内側に無数に放つ。段々と斬撃反響を繰り返し中心に収束させるんだ。
ある程度、真ん中まで収束したら一気にバネみたいに最後の一太刀で解放する。
一方通行で単発の居合に対して、無数の斬撃と反響エネルギーを掛け合わせてるから威力的には超ケタ外れなんだよね。
それに、まずあれは逃げれない。
ちなみに種花同在って技名つけたのは、私。
……
やっぱり。
逃げ続けるのやめる方向に持っていってるね、あの宇宙人の魔王。
時期に終わりが来るって理解したんだ。
さて、どうする?
ノウコはもう勝ちは貰ったって顔してるけど……
でも、このまま勝たせてくれる相手じゃないんだよね、たぶん。
――
宇宙人の魔王はノウコの周りを地に足を付けずにぐるりと一周した。
やっぱね。
あれやばいかも……
速すぎてノウコは見えてないかも知れないけど、あの両腕の鋭い爪で空間事切りっ取ってどこかにやった、ノウコだけを残して。
私がそう認識した瞬間、同時に真下の海があらゆる方向に数百メートル激しく避けだして、盛大に水しぶきを吹き上げた。
あんな芸当……どんな高度な魔術なんだろう。
でも、敢えてノウコを傷つけないようにした気がする……
上空では、巨大な魔の手が、ウノビョーク叩き潰しちゃったし、あれは一旦元の世界に戻っちゃうね。
……
って――
やばっ――ノウコやられる!
一発背中に蹴りを入れられ、地面に弾んだノウコをそのまま、鋭いあの爪で貫こうする。私にはそれがスローモーションで見える。
私は手に持った異界の宝飾が施された鉾を、おもむろに宇宙人の魔王へとビュっと投げた。
それは、ノウコの斬撃より速く、宇宙人の魔王の動きより速く、ほぼ光の線になり、奴の首元で止まった。
もう少し、遅ければノウコはかなり危なかった。
ノウコは刀で防御と受け身とったっぽいから蹴りのダメージは大丈夫だろうけど。
――
私はそのまま奇跡の力を使い、鉾から奴に幻術を見せる魔術を放ち、激しく光る裁きの糸を空間から出現させて、奴をがんじがらめにした。
この幻術は普通の存在なら3日は解けないし、この糸から脱する事は上位の異形でも私が許さなければ起こり得ない。
流図トドリと円環ミレアやシスイさん達も見てるから、あんまり使いたく無かったんだけどな。
今後どうなるか分からないので、手の内はあまり見せたくないの……
でも、ノウコの一大事だから仕方ないよね。
私はシスイさん達の方を見た。
案の定、ミコトちゃんって……ホントに何者?みたいな顔をして呆気にとられている。
ドミノさんに至っては、頭を抱えて現実を受け入れられてないみたい。あの人カワイイ。
流図トドリと円環ミレアは少し近寄って来てるね。きっとあの二人にとっては単純に興味深いんだろうね。この世界の存在もこんな事出来るんだと……
とり敢えず、政府にあの魔王は渡してノウコ病院に連れてこ。
その時だった――
縛られて倒れていた、宇宙人の魔王がムクッと立ち上がり、体中の筋肉を最大にうねらせ、目を恐ろしく吊り上げ、裁きの糸をブチブチと爪で裂き始めた……
へー……あれをほどけるんだ。
そして、私に近寄って来る。
「フハハハハハ!!!良い良い良いぞ!!!化け物巫女よ!!!」
「その言い方やめて。化け物はどちらかと言うと貴方でしょ?」
私は妖刀を持ち跪いて、息を荒げ苦しそうにするノウコの背中をさすり、そいつに言い返した。
「何を抜かす?お主正気か?我は様々な世界で色んな猛者を見てきたが、お前は明らかにおかしい。もし、自分で普通と思うておるなら、頭がいかれ切っておるぞ?フハハ!!!」
いつかのUFO特集番組で見たような宇宙人の顔で、シニカルな表情を大胆に披露する。
「そう……私はイカレてると言うのね?じゃあ、あなたに何するか分かんないわよ?」
私は瞳から、めらめらと奇跡の力を滲みださせ、やつを舐めあげる様に眺めてふふっと笑った。
「ほぅ……ほぅほぅほぅ!!!これは、ふざけている場合ではないやもしれん。
久しぶりに、背筋に冷たいもんが走ったぞ、この感覚は異冥府の王を相手にした時以来である。ぞくぞくするぞ!全く完成された化け物じゃ」
「……ミコト様に……近寄るな……」
ノウコは息を整えながら、奴を睨んだ。
「おう。お主、生きておったか。お主も弱くはないぞ?我の一撃を受けて、まだ生きており喋れるなど、この星の普通の人間とは思えん。褒美をくれてやる。逃げていいぞ」
奴は淡々とそう語りながら、腕を伸ばし、首の骨を鳴らしている。
「そうねー、逃げようかしら?」
私は正直、この相手と戦う事を面倒に感じていた。
さらに言えば、この橋に来た事を後悔してる。
きっと戦ったら、"少し"疲れれちゃうし。
それに、ノウコを危険にさらしたくないし。
あーあ……本当なら今頃、ノウコと映画館でポップコーン食べながら魔法少女に悶絶してたのに……
「ノーノ―ノーだ。お主は逃がさん。こんな高ぶりは久しぶりなのじゃ、心行くまで付き合って貰うぞ、可憐な皮を被った深淵の化王よ」
「え……面倒くさい。深淵とかあなたちょっと厨二っぽいし」
本音がつい出てしまった。
「チュウニ……なんじゃそれ?まぁそうゆうでない、我と戦える事は誇りであるぞ?」
「しかも、俺様キャラとか設定盛り過ぎよ。次は壁ドンでもする気?」
宇宙人の魔王は、よく分かってないはずだが、嬉しそうに頷いた。
「おい……お前!ミコト様に少しでも何かしてみろ……その瞬間、一滴の血も許さず切り刻んでやるからな……」
やだ、凄い気迫。ノウコ、本気で怒ってるじゃない。
ノウコは立ち上がり、以前から持っていた妖刀、怪乱桜を左手に持ち替え、もう一本腰につけている刀をようやく抜いた。
暗夜白冥だ。
以前の戦いで、守護者のような神秘的な存在から勝利の褒美で貰った宝刀。
ノウコは汚れるのが嫌と言う理由であまり使っていない。
「……フハハハハハ!よいぞよいぞ、その鬼の如く気迫。危ないやつじゃ。我は愉快過ぎる星に来てもうたかもしれん。刀女よ、その化け物を守りたければ、この魔王 ルーレンジを倒してみるがよい!ハーハッハッハッハ!!!」
ノウコ大丈夫かしら?こいつもう完全に私達との戦いに夢中になってるわよ?
私はノウコを見た。
「ミコト様。私を信じて下さい。出来れば応援もして下さい。もし、そうして頂ければ、この私があなたの傍になんぴとたりとも近づけなどさせませんから」
……
……とは言ってもね。
……信念でどうにかなる相手では無いと思うのだけれど。
……そんな事言っても今のノウコは聞いてくれなさそうな顔してるし……
……どうしましょ?
……私は、あなたが生きている事が大事なのよ?なんかいっつも誤解してるんだから。
「信じてはいるけど……あと、応援って何?」
よく考えれば、この状況で応援っておかしいわよね?
ノウコは、今までの戦闘の疲労など無かったかの様に、鼻の穴を広げ満面の笑みで答えた。
「とびっきりカワイイ応援です。それさえあれば、私はあなたの尊さにぐでんぐでん飲み込まれて、きっと何にも負けないでしょう」
どうゆう理論よ。
魔王ルーレンジに関しては、ふんふんってすごい聞いてるし。こいつも大概、変わった奴よね。
「まぁ……ノウコがそれで満足するなら良いけど」
「本当ですか!?」
「でも、相手は待ってくれないんじゃない?」
私は、魔王ルーレンジを見た。
「よいぞ」
いいんだ……もはや、戦う必要あるのかな……
仲直りしようよ……面倒臭いなー。
「……仕方ないわねノウコ、ちょっとだけだからね?」
「はい!!!動画撮っていいですか?」
「ダメ」
流石に私も少し怒った。
「じゃあ始めるからね」
私は渋々踊り出す。
まずは、左右の腕を交互に上下しシェイクする。
この時のポイントは、両眼も交互にウインクする。
……全員見てるの。ちょっと嫌だな。ノウコはこの段階で既に目がハートになっている。
段々激しく上下させ、ノウコにお尻を向け、お尻もフリフリする。
最近制服のスカートが成長期で少しきつくなってるから恥ずかしい……
この時のポイントは、あくまで卑猥でなくプリプリとカワイク見せる感じで。
……きっと全員が私を変な目で見てるんだろうな。
両腕を突き上げてから、ウサギの耳を手で作りぴょんぴょんと飛び跳ねる。
この時のポイントは、首を左右にあざとく振る事。
……正直、流図トドリと円環ミレアに隙を見せたくなかったんだけどね。
こんなダンス見られた後に、怖い顔して払いますって言っても説得力無いもん。
3人でアイドルやろ?って誘われる可能性だってあるじゃない。私、断れる自信ないわ。そうなったらノウコにマネージャーになって貰おう。
私は正面に向き直り、手を合わせて、インド映画みたいに首だけを横にくいくいと
動かす。
この時のポイントは、この動きに敬意を払い、真剣にやる事。あと寄り目。それと、
チュって感じのエアキッスをいれると最高よ。
……ノウコ、涙流してるじゃん。これはあれね。尊過ぎて流す涙だ、前も見た。
そのまま私は、口ばしの様な手を作り、口に当て、腰を低くしてアヒルの赤ちゃんの真似をして歩き出す。
……完璧。
……ノウコは地面叩いて、地球に私の尊さを訴えている。
心なしか、野次馬や特殊部隊から、ちらほらと拍手が聞こえた。
「今日はこれだけだよ?どう?満足した?ノウコ」
「えぇ……こんな尊い光景を私は見た事は御座いません。涙が止まらなくて、前が見えないです。今のはアカシックレコードに必ず記録されるべきです」
ダメじゃん、前見えないと。本末転倒過ぎるよノウコ。
あと、急にオカルトネタぶっこむのオタクばれるから辞めた方がいいよ。
「大袈裟だなーノウコは。続き見たいなら生き残ってね」
「えぇ、勿論です。あんな宇宙人はボッコボコにしてやりますよ!」
ボッコボコって……
でも、かなり効果あったみたい。ノウコの気配がかなり鋭く変化した。
「お主等……全く不可思議じゃな……我は嫌いではないぞ?フハハハ!踊りは我が星に帰還したくなる程に粗末過ぎるがな!フハハハ!!!」
え……私踊り下手なの?ノウコあんな感動してるのに?
「じゃあ、帰還しなさいよ。てか、もう戦うの辞めましょ?」
私は率直に言う。
「我を一瞬でも上回ればの……」
魔王ルーレンジは穏やかに微笑み、私達に言った。
そんな間に、ノウコはいつの間にか戦闘モードに切り替え、目を瞑り何やらブツブツ言っている。
恐らく、違う存在を体に憑依させようとしている。
抜群のスタイルの体から伸びる、左右の長い腕を大きく広げた。
右手には、宝刀 暗夜白冥を持ち、左手には、妖刀 怪乱桜を持ちながら。
ノウコは宙に向かって仰々しく喋り出す。
「デヨンヒメよ。ワレが代償により得た契約、果たす時が来たぞ。参れ。この身に稀なる奇跡の演舞を授けよ」
デヨンヒメか……考えたね、ノウコ。
空間から声が聞こえる。
「我が境界を越えし魔舞踏、命の限り踊り狂え」
あなたは、ギリオドの剣術にも適しているけど、持ち前のお嬢様スキル的にデヨンヒメも結構いけるって前から思ってたんだよねー。
二刀流になった今なら、尚更ね。
だって、あなたの踊りって本当に何より美しいから。
確か子供の頃、バレエか何かで世界一位にもなったんだっけ?
あなたのお嬢様の時期が凝縮されたモノが全部戦闘エネルギー変わるなんて、考えればすごい話よね。
それだけでは無く、秘刀二本と、舞踊の最高峰の妖魔を掛け合わせてるんだから。
「ほぅ、面白い気配じゃ戦乙女。次は我に何を見せてくれる?」
すると、ノウコは全身の腕の先から足の先まで、まるで骨が無いようにゆらりゆらりとものすごく色っぽく舞だした。
その踊りは、どの国の踊りにも似つかず、ただ相手を心底誘惑する様な踊り、相手の性別はおろか、存在になど一切関係なく。
一瞬の表情にしても、極限に艶やかだ。
「なんと……これは……信じられん程、美しい」
魔王ルーレンジはノウコの踊りに心底感銘している。
幽明さん達も、恐らく同じだろう。というか、この橋にいる全ての存在が今、ノウコに夢中だ。
歓声や大きな拍手が聞こえる。
……なんか私恥ずかしくなってきた。
「そうでしょ?あまり見ると帰ってこれないよ?」
私は魔王ルーレンジに、さも自分の事であるみたいに言った。
「それは、大袈裟では無さそうじゃな……」
魔王ルーレンジは指の骨を鳴らして、ノウコにじり寄る。
「ミコト様離れていて下さい」
「オッケー」
結構体力ギリギリそうね、よく見れば顔がしんどそう。二体連続降ろしなんて普通は無茶だから。その二体がかなりレベルの高い幽体の妖魔だし。
そして――
魔王ルーレンジや観衆がこれからどうなるのか?と期待しているその瞬間には、
既に魔王ルーレンジの首元直前に二本の刀が迫っていた。
それは、虚脱からの一閃だった。
「――!!!」
魔王ルーレンジは、ギリギリでブリッジをし、刀をなんとか避けた。そのまま追撃してくる刀にうまく対応できず、かなり後方にムーンサルトみたく飛んでった。
「フハハハハ!!!死ぬかと思うたわ。速い速い、洒落にならん速さじゃ!!!気持ちの良いぐらい無駄の無い太刀筋も堪らん!!!」
死にかけたのに、その攻撃を大絶賛してる。やっぱ変だ、この魔王。
ノウコは、何も言わずユラユラ揺れ続ける。
「そして、なんと美しい。武と美が真に共存する稀なるアーティファクト(遺産)を見せられているみたいじゃ!かー堪らん!」
しかし、ノウコは全く何も言わずにただゆらゆらと近寄る。
「あぁ心底不気味じゃ!!!恐ろしい!!!この踊りを前に、我が10分後に生きてるイメージができん フハハ!!!」
するとノウコは何やら、ブツブツ言いだし段々素早い横揺れに変化していく。
気付けば、魔王ルーレンジを四方から四体分身で取り囲んで揺れている。
「幻術ではないのぅ……下手に動くと腕が飛びそうじゃ。はて、どうするか」
魔王ルーレンジがそう言っている間、その頭上には小さな三日月が現れた。
分身したノウコ達の頭上には、血の様に赤い桜が散っている。
美しいわノウコ。武器に最大限頼る、あなたの判断も好き。デヨンヒメは武器由来で強さが変わるものね。その二つの刀の妖術を最大に引き出したら一体どんな事になるのかしら。
四体のノウコは、全員が虚脱からの一閃を不規則に繰り出す。
逃げ場の範囲を無くすという点では、種花同在ほどではないが、一瞬の隙も無いと言う点では、デヨンヒメの無境の魔舞踊の方が勝っている。
「これは、なかなか骨が折れるの フハハハ!!!」
魔王ルーレンジはそう言って、あらゆる角度から連発される一閃を器用にブレイクダンスの如く避ける。
避けれ無さそうな場合は、攻撃に転じて無理矢理ノウコの攻撃を強制終了させる。
まるでチェスのプロ同士のように、両者の一手一手に無駄が無い。
しかし……
やはり皆が王と感じるだけはあった。
「そうか……こうやるのじゃな……ふむふむ」
魔王ルーレンジは、ノウコの無境の魔舞踏をコピーし、自己のブレイクダンスの様な回避を昇華しだした。
この光景を見ていると、戦いは本来踊ってする方が効率が良いんじゃないかとさえ思えてくる。
ほぼ互角の舞踊から繰り出される攻防。
舞踊の完成度だけで言えば、勿論ノウコが上だが。
でも、ここにノウコが不利な点が一つだけある。
それは――
体力。
速さも、鋭さも、刀を含めたリーチもほぼ互角だが、段々とノウコが押されているのは、単純に人には耐えうるはずの無い動作を、先程から無尽蔵に繰り返しているからだ。
本来これは、長期戦で出せる物では無いのだろう。
よく見れば、ノウコの口から血が出ている。
「隙ありじゃ」
そう言って魔王ルーレンジは疲弊を即座に見抜き、分身したノウコ同士を鉢合わせさせ攻撃を躊躇させる。
分身はしているが、体が割れている訳ではない。もし間違って切ってしまったのならそれは自分の体なのだ。
それに、体力が底を尽きれば、ノウコは直ちに一人に戻る。
「クッ!!!」
ノウコはやってしまったと言う苦い表情をした。
「そこじゃ!」
魔王ルーレンジは隙が出来た二体のノウコの背後に、自分も同じく高速移動で分身しおもむろにを背後から大きく拳を振りかぶる。
――!!!
だが、二体のノウコは手品の様に物凄いスピードでスーツのジャケットを脱ぎ、背後の魔王ルーレンジの顔に被せ、空高く跳躍し回避した。
「クソ、見えん。とことん貪欲な奴じゃ……」
魔王ルーレンジがもたつき、一人に戻る。
その間に、ノウコは暗夜白冥を両手持ちに切り替え、魔王ルーレンジを、さらに増えた分身の八体のノウコで囲んで、居合の構えをしている。
「お主、決める気か……?」
「えぇ、でなければあなたには失礼かと……」
八体のノウコは、目を閉じ姿勢を低くし、静かに答える。
「どこまでも美しいやつじゃ……来い、戦乙女」
次の瞬間……
八本の三日月型の刀、暗夜白冥が一閃で中央に集中し、綺麗な満月の花を咲かせた。
グサッ――
……
……
「痛いのう……自分の血を見るのは久々じゃ……」
魔王ルーレンジは、右腕で全ての居合を止めていた。
しかし、鋭い刃は腕の中央に刺さっている。
「ごめんなさい」
一人になったノウコはそう言った。その時のノウコの表情はまるで、ご令嬢だった頃の顔と同じみたいだった。
そして……
ノウコは、思い切り体を捻じり刃を滑らせた。
グシャッ!!!ボトッ……
地面には、さっきまで盛大に動き回っていた、巨大な宇宙人の右腕が転がっている。
……
……
その光景に観衆は少し歓声をあげた。
が、しかし……
「ふん。我が腕を落としよったか……」
そう言って、魔王ルーレンジは何事も無いようにノウコに近寄る。
「幸い、痛みには慣れておる。お主……もう分身は出来ないようじゃな?」
そう言って、ルーレンジはノウコの胸ぐらを掴み、宙に持ち上げた。
これは……
そろそろ助けに入った方がいいかしら。
ノウコはもうぐったりして、何も出来ないみたいだ。
「お主は、なかなかじゃったの……我の腕を一本落とすなど、弱い星であるなら大勢でかかってきても限りなく不可能じゃ」
「フフフ……」
ノウコは心底薄気味悪く笑い出した。
「どうした?死を目前にし、恐怖でおかしくなりおったか?」
「いえ……そうではありません……ただ、おかしくって間違いが」
ケタケタと笑うその顔は、やはり私と同じ狂気を感じる。
「何がじゃ?」
魔王ルーレンジは目を見開きノウコに近づける。
「怪乱桜お願い」
「はい、ノウコヒメ」
空間から声がする。
魔王ルーレンジはそちらに目を向けるが、既にもう遅かった。
「一本じゃなくて、二本ですよ」
ノウコはそう言い、魔王ルーレンジに向けて口が裂ける程高笑いした。
「何ッ!!?」
地面に刺さっていた、ノウコの刀、怪乱桜は勝手に浮遊し、既に魔王ルーレンジのノウコを持ち上げている腕に到達していた。
「グアァッ!!!」
腕からは血が噴き出し、ノウコの顔は真っ赤に染まる。
ノウコは地面に着地して無表情で、魔王ルーレンジを見つめる。
地面にはもう一つの巨大な宇宙人の腕がボトりと転がった。
「怪乱桜は刀であるんですが、その前に私の使用している妖魔なんです。斬撃のスピードで言えば、私の肉体が邪魔しない状態の方が速いんですよ」
ノウコは、ズボンの後ろポケットからハンカチを取り出し、顔の血を吹きながら淡々と話す。
「……フハ……フハハハハ……あっぱれじゃ……真にあっぱれじゃ……」
そう言って、天を見つめ魔王ルーレンジは清々しく笑い出す。
「うむ。我の負けである」
「……はい?何を言っているのですか?私の負けです。真剣勝負に嘘は止めてください。あなたはやはり優しいですね」
「……」
「何故そう思う?」
「切り傷のスピードが治るのも、体力の回復も早すぎます。それに落ちている腕ですら治癒してますから。不死身なんでしょ?あと魔術も気を遣って、ほどんど使ってませんでしたしね」
「そうか……」
そう言って、ルーレンジは両方の肩を大きく広げた。
すると、切られた両腕が完璧元通りに再生した。
まっ……やっぱりそうよね。ノウコも分かってたのか。
「ミコト様。やれる事はやりましたが、無理でした。申し訳ございません。
私の最後の願いは、あなた様だけでも逃げて下さる事です。きっとこのお方ならそれを許して下さるでしょう……ね?」
「ノウコ……」
ノウコは魔王ルーレンジを見た。
「そうじゃな……もうよい……その戦乙女が十分満足させてくれたわ。お主らとは何故か、もうあまり戦いたくは無い。二人で行くが良い」
「私もですか?」
ノウコはただの女の子の様な顔で、魔王ルーレンジを見ている。
「ああ……勿論じゃ。お主は我が認めた存在じゃ、何処かで幸せに"イノチ"を全うせぇ」
魔王ルーレンジ、少し誇らしそうにノウコを見る。
「ありがとうございます……魔王様。これで、まだミコト様と一緒にいられる……」
ノウコは少し涙を流す。
「お主は良き従者を持っとるな。羨ましい程じゃ」
「えぇ。私の自慢できる数少ない内の一つよ」
「ふっ そうか。大事にしてやれ」
ノウコは急にふらっとなり地面に倒れた。
「ノウコ安心して気絶しちゃったみたいね……私達もう帰っていい?」
「好きにせぇ。我は少し休んでから去る」
「じゃあ、ノウコ……あれ?」
一瞬油断してしまった――
やってしまったわ……私とした事が。
「いかん!!!上じゃ、我が同胞じゃ!!!」
空を見上げると、30体程の魔王ルーレンジの格好に似た装いの、宇宙人の様な存在が空を飛んでいた。
見た目は様々で、クチバシが異様に大きい爬虫類のような者。全身真っ黒で人型であるだけの者。体の中央に大きな口があり腕が無数にある者、頭だけでカプセルに入り飛んでいる者など、あまり統率の無い集まりだ。
それらはまるで、少し古いSFホラーの洋画みたいな光景だった。
その内のノウコを掴んでいる、毛むくじゃらで蛇の顔に似た人型の半アンドロイドが喋り出した。
「我が王に傷を負わせた、この醜い存在に、直ちにこの場で無比な罰を下す。そして次はお前らの番であると思え、下等な者共よ」
そう言って両手でノウコを掴み、口を大きく開けてむしゃぶりつこうとした。
私は鉾に禁忌の術を纏わせ全力で投げる寸前だった。
ノウコ以外の上空の存在を微塵も無く消滅させようと思った。
しかし――
奴が口を開けた瞬間には、奴の腕は何処かから来た、光の輪に既に切断されていた。
……
あぁ、シスイさんがやってくれたのか……よかった……あれがゼスパかな……
ノウコは垂直に猛スピードで落ちる……が、ヒノさんがその下で待機していてノウコをキャッチしてくれ私に手を振っている。
シスイさんも、こっちに大きく手を振ってジャンプしている。
……借りできちゃったな。私やっぱりこの二人好きだ。
「ねぇ、魔王さん……先に謝っておくね。ノウコ私の本当に大切な存在なのよ」
「すまぬ……」
「だが……何をするのだ?お主の気配……魔の極みであるぞ?」
「獣を放つわ」
「……我等を許してはくれぬか?すぐに去ると約束の上で」
「こんな事言いたくないけど?あなた達は他の惑星で許しはしたの?それに、上の奴等はきっと収まらないでしょ?」
「……」
「あ、でもあなたは許すわ。命が惜しければなるべく遠くへ逃げて」
「……」
「ふん。侮られたな我も。それであれば我はそなたを討つ……」
「……と言いたい所だが、お主に勝てる未来が塵一つさえ見えん。生きてこその王じゃ」
「決断早いのね。部下は?」
「強ければ、我の元へ戻って来るだろう。それだけの事じゃ」
「そう」
「では、またいつか会おう。すまぬな」
「えぇ、その時はあなた一人で」
そう言って、魔王ルーレンジは光を体から発し、瞬間で居なくなった。
上空の宇宙人達は、稲妻を纏い超高速で回転して飛び回る巨大な鎌、シスイさんの武器ゼスパを警戒して狼狽えている。
「ねぇ、界守朱円出てきて」
「シューちゃんって言って」
「いいえ、界守朱円。あなたの名はとても立派だからそのまま呼ぶわ……こっちにおいで」
「……ミコトサマ。どしたの……ヤなことあった?」
「そうね。悲しい事されたの」
「あたしまもるよ」
「うん、ありがと。界守朱円はいっつも私に優しいね。大好きよ」
「ふふ……ミコトサマだいすき」
「ねぇ……それでなんだけど……久しぶりに顔のお札剥がしていい?」
「いいけど……ぜんぶたべるよ?」
「うん……でも、あの変な奴等を噛むだけにしてくれたら、もっと大好きになるかもね。シューちゃんの事」
「……やってみる」
「偉いね、界守朱円。じゃあ……いくよ」
私は界守朱円の顔中に張り付くお札を、数枚剝ぎ取った。
「全部は危ないから今日はこれだけ……頑張ってね界守朱円」
「……」
そう言って、私は即座に鉾を宙に投げてそれに飛び乗り、術で体を固定し飛行して幽明さん達の所へ向かった。
私と界守朱円が居た場所一帯は上空も含め、真っ赤な霧で満ち溢れて何も見えなくなっている。
――
「ミコトちゃん!!!大丈夫!?」
シスイさんが駆け寄ってくる。
「えぇ、大丈夫です。ノウコは?」
「ヒノが安全な場所へ連れてって休ましてるよ」
「そうですか……よかった。ありがとうございます」
と、答えてる私に赤い霧から飛び出て来た宇宙人二体が飛びかかろうとした。
ズド―――ン!!!!!
ドミノさんが、チーターの様に走って来て、その二体を同時に悪魔の右腕で殴りつけた。
その威力は凄まじく、二体は空に大きく吹き飛び、橋の向こうのビルに激突した。
「ミコトちゃん無事でよかった。雑魚は俺等に任せてノウコさんとこ行ってあげろよ」
「ドミノさん。ありがとうございます」
やっぱり、ドミノさんも好きだわ。損得無しの優しさがあるもの。
「ねぇ、あの赤い霧は何なのミコトちゃん?中に何かいるの?」
幽明さんは、あの死の霧に気を囚われている。見る人が見れば、あれは有り得ない程に奇妙で異常な呪いなのだろう。
全員が赤い霧の方を凝視する――
その霧はとても濃く、中で一体何が起こっているか全く分からない……
中からは、とても大きな大きな獣がゆっくり歩く様な音がする……
しかし、カサカサカサと無数の巨大で細い足が超高速で動いてる様な音もする……
巨大な肉食動物が、涎で張り付く喉を鳴らして、獲物に近付く音もする……
後は、悲鳴、絶叫、許しの懇願――
……
「中には……"獣"がいます……」
皆、赤い霧から聞こえる音と、私の言う"獣"という言葉に恐怖の想像を膨らませ、身震いしだした。
「皆さん決してです。決してですよ……赤い霧には何があっても入ってはいけません」
私は念の為に忠告はしておいた。
「言われなくても入んねーよ。あんな禍々しい場所。呪いで溢れてんじゃねーか」
ドミノさんは本能的に察知するタイプだ。
その時だった――
幽明さんの背後の足元から、黒い影が現れる。
「ちょっと灯ちゃん下!!!」
怪丘さんが目を見開き叫ぶ。
「大丈夫ですよ」
顔にも腕にも目が沢山ある、人型であり節足動物のようでもある宇宙人が、両手にククリみたいな武器を持ち幽明さんに襲い掛かる。
私とシスイさん、ドミノさんが反応するが……
その衝撃はそれらより速かった。
(パンパカパーン!!!)
空間から声がして、宇宙人の動きが止まった。まるで巨大な何かに鷲掴みされているみたいだ。
「ルオク……無駄に喋るなよ
幽明さんが、透明の主に言う。
(ひどいなー!ひどい!塩対応も行き過ぎると可愛く無いですよ?アカリサマ?
というOPが終わった所で、今回も宇宙人の呪いシリーズかけちゃいまーす!いざ、宇宙人の呪いpart3 ビギニング!!!)
そう、何かが言った瞬間、宇宙人は体がタコの様な生物に急激に変化した。
(おっと!言い忘れました!タコせんべいの巻!一丁あがりぃ!)
タコになってしまった宇宙人は、とても大きな何かに、そのまま叩き潰され地面にへばりつくみたいになった。少し焦げ臭い。どれだけの威力なんだろう。
「はぁ……五月蠅い」
と幽明さんが言うが、周りの人間は皆少し引いている。
「ルオク久ぶりじゃねーか。元気してたか?」
(あぁ!ドミノさん!お久しぶりですね!アカリサマのパンツの色教えてあげた依頼じゃないですか!僕は嫌なのに、どうしてもってアミノ酸が……あ、間違えた、ドミノさんが。フハハ。ちなみにアカリサマは今日はピンクです!ハッピーなピンク)
ピンクか、クールな癖にカワイイじゃないの。萌えるわ。
ノウコもピンクが多いわ。クールキャラって意外とそういう所あるわよね。
私は……ひみちゅだよ。ふふ
幽明さんが真っ赤で沸騰しそうな顔でドミノさんをキッと睨んだ。
「バカ!!!ルオク!!!冗談もマジでその辺にしとけ!!!俺達まとめて払われるぞ!!?」
「わかってんじゃんドミノ。仮に事実なら世界中の汚いパンツ1000枚集めて腸に詰め込むからな。ルオクお前は次喋ったら、ミコトちゃんに頼んで、あの霧の中に閉じ込めっからなマジで」
(はーい!おっと……危ない危ない……あれは流石に嫌ですね。あんな呪いにも嫌われる呪い。あー気持ち悪い 違法労働反対!!!エイエイオー!!!)
「どうせ死ぬんなら汚いパンツ1000枚は嫌だ!!!せめてお前のピンクのパンツ一枚抱えて誇らしく逝きてーわ!!!」
それじゃ、罰にならないじゃん。
で、幽明さんまた顔赤いし……
「ドミノ君、それじゃ罰にならないじゃん」
怪丘さんが言ってくれた。
「確かに……ご褒美っすね」
ドミノさんは能天気に言う。
「もういい!!!みんな黙って!!!」
幽明さんは恥ずかしさの限界に達し、眼鏡を光らせ俯く。
「幽明って、こんな技使うんだ……意外……なんかちょっと怖い……」
追い打ちをかける様に、シスイさんが地面のタコせんべいを見て言う。
「違う違う。違うのシスイ。これは私の使役してる妖魔の勝手な行動なの。あいつイカレてんの」
(呼びましたか?ハニー?)
「黙れ、呼んでない!」
「よかった……」
シスイさんは本気で安堵したように胸をなでおろすが、幽明さんから少し後ずさりする。
「あーもう!違うの!シスイ―!お願い引かないでちょーだい!」
そう言って、シスイさんの肩にすり寄る幽明さん。
「もうマジでルオクとの契約解除しよっかな」
「じゃあちょーだい幽明さん」
私はすかさずルオクと言う妖魔がいる空間を見て笑いながら言った。
(アカリサマー!!!やだやだやだ!!!特にあの人は絶対やだ!!!共演NGですー!!!)
「じゃあ、ちゃんと言う事聞けよ?」
(はい……かつては王子であったプライドをかけて。おいどん頑張るでごわす)
王子……あの能力……結構興味深いわね。
そんなこんなで、私達は霧の中からの悲鳴を聞きながら、少しの間他愛無い会話をしていた。
すると……
悲鳴が段々と止み、赤い霧が次第に晴れてきた。
界守朱円は、まずまず満足したのだろう。
全員がどうなってるのかと、宇宙人達を警戒しながら凝視する……
そこには……
上空を飛んでいる者は、一体として存在しなかった――
全員が地に蹲って悶えたり、口から血を吐いてる。
体が歪に曲がってる者も多い。
数が減っているのは、既に瞬間移動か何かで自分達の戦艦に帰還したのだろう。
そう思いたい所だ。
これでも、界守朱円はかなり控えめにしてくれたのがわかる。
全く良い子だ。
魔王ルーレンジ程では無いが、それぞれ気配的には強い部類の奴等なのにこのありさまなのだ。
もし、界守朱円のお札を全て剥がし"あれ"が全力で暴れてしまったら……
私ですら、それはあまり考えたくもない……
私達は蹲る奴らに徐々に近寄る――
それに気づいた奴等は、とても焦り出して、呪文を唱えたり、着ている宇宙的な装備のスーツに内蔵しているボタンを押したりして、次々その場から消えて行き、やがて全ての宇宙人がそこから消えた。
私はその場を茫然と見渡した後、振り返り遠くを見つめてみんなにお礼を言った。
「みなさん、ありがとうございました……」
「ミコトちゃん、ホントに怪我無い?大丈夫?」
シスイさんらしい返答だ。
「これで、一件落着ね。上に報告するわ。ミコトちゃんあなたは私達国民の救世主よ」
これは怪丘さんらしい。
「ミコトちゃん。早くノウコさん所行ってやれよ。後、いつでも俺に頼れよ。お前がどんなけ強くても、俺の中ではオタクの花岡っちなんだからよ」
ドミノさんらしく優しい。
「ミコトちゃん、何見てるの?」
誰とも視線が合わない私に、幽明さんが聞いてきた。
「みなさん優しいですね。ずっと仲間でいられたらと私は願います」
そう言って、私は微笑んだ。
皆、少し神妙な顔をしたが、そうであれるようにみんなで頑張ろうよと、温かな視線を返してくれた。
私は続けて呟く。
「幽明さん。私が見ているのは……」
……
みんなは少し息を呑む。
「……犯人ですよ」
私はそう言い、最大限の威嚇の気配を野次馬に紛れる二人に向けた。
すると――
二人の気配は蝋燭の火の様に、
ふっと消えた……
私達の世界や私の世界に大切な存在を傷つける者は、
こんな赤い霧如きでは済ませないからね……




