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鎌の魔獣

夜の郊外は人の気配が全く無い


街灯の届く範囲だけが世界で、それ以外は暗闇に覆い尽くされている。


でも、よく考えれば日本も都心は狭い範囲だから、夜の日本の大半は暗闇なのかもしれない


人生だってそう、TVやSNSで煌びやかに生活する人は、ほんの一握りで、皆、暗闇の中で必死に生きてるのかもしれない。




私は裏山のふもとにある小道へ向かっていた。


団地の公園で異形を討伐した日の翌日――あるいは翌々日だったか。日付はどうでもいい。


世の中は勝手に流れて、勝手に夜になる。




スマホの画面には、依頼文が出ている。




【依頼:異形霊媒】


【場所:郊外・裏山近くの小道】


【内容:塾帰りの子が“巨大な鎌”を見た/紫の変な車ぐらいに大きい生物を見た】


【要望:倒してください。無理でも封印でお願いします、子供たちに近づけないようにして】


【依頼者:近隣の保護者(匿名)】


【報酬:¥100,000】




「……鎌.......10万か.......はぁ」




嫌な単語だ。


刃物とか血とか、そういう現実的で日常的なものは、そこまで怖くないが


鎌に触れる事は、都会に住んでたら殆ど無い。ちょっと特別な恐怖心が湧く




塾帰りか.......




私は、ふと、自分が「高校三年」だという事実を思い出す。


籍だけ。学校には行ってない。


塾帰りという言葉だけが、妙にまぶしい。


自分は学校に行かず、人の塾通いの手伝いをするのか.....笑えるな




小道に入ると、空気が変わった。


道路の匂いが薄れて、土と湿った草の匂いが濃くなる。


風が葉を擦る音が近い。街の音が遠い。




「……ここか」




道は細い。


軽自動車がギリギリ通れる程度の幅。左右は草が伸びていて、奥は裏山の斜面に吸い込まれていく。




噂の内容は、依頼文の追記にまとまっていた。再度読み返す




【鎌が落ちてた。二メートルくらい。】


【紫の生物がいた。ケンタウロスみたいな形。】


【軽自動車くらいの大きさ。四足で爬虫類の足。】


【胴がゴツゴツ、顔が十字の口だけ。アンテナみたいなのが出てた。】


【腕が四本くらい。】


【言葉が分からないカタカナみたいなのを吐いてた。】




……盛ってる、とは思わない。


むしろ、子どもの目撃談って、こういう時だけ変に正確だ。


怖いものを見たとき、人間は細部を覚える。





この依頼分を見て、承る私は、もしかしたらどうかしているのかもしれない。


自分でもよくわからないが、異形達をもっと見てみたいと思ってしまう


勝てる勝てないは置いといて、世界が広がるような気がして




私は足を止めた。




道の真ん中。


そこに“何か”が置かれていた。




銀色に近い塊。


月明かりを吸って、輪郭だけが浮く。


近づくにつれて、それが“鎌”だと分かる。




二メートル近い柄。


刃はやけに大きく、薄いのに、存在感が重い。


柄も刃もやけにメタリックだ。変な文字も刻まれている


鉄の質感じゃない。工業製品とも違う。この世界の物質ではなさそうだ


触れたら、指先が“向こう側”に持っていかれそうな嫌な感じがある。




「……異界の武器」




呟いた瞬間、背筋が冷えた。




気配。




私は視線を上げる。




道の先――街灯の光が途切れる境目に、紫の塊がいた。


最初は岩かと思う。


でも、それが“動いた”。




四足歩行。コモドドラゴンみたいな爬虫類の足。


胴体はゴツゴツした外殻で覆われていて筋骨隆々、軽自動車みたいな大きさ。


そして上半身から、腕が四本。太くて、関節が多い。




顔が……無い。




あるのは、十字に裂けた“口”だけ。


目がない


口の中心から、アンテナみたいな菱形の金属っぽい物が出てゆっくり揺れていた。




その口が、開く。




「――・シ・マ・ゾ……ファァル、ファァル、ラア……」




カタカナっぽい音。


言語?ではなさそう。異界言語か




私は急いで距離を取る





異形が動いた。


鎌に近寄る。しかし見てるだけだ


その後、距離があるのに、鎌がするっと地面から浮いた。


私の念動じゃない。相手の力だ。




鎌が、回転した。




刃が、月光をひとつだけ弾く。




嫌な予感より先に、身体が動いた。


私は横に跳ぶ。




――ブンッ。




空気が裂ける音。


鎌が私のいた場所を通り過ぎて、背後の草をまとめて刈った。


草が遅れて崩れる。


切断が、遅れて世界に反映される。




「……っ」




死ぬほど危なかった。判断が遅れてたら私はもういなかったかもしれない


ほんの一瞬で私は生きていることに感謝した




鎌は地面に落ちない。


回転したまま、弧を描いて――戻っていく。




ブーメランだ。




異形が、回転する鎌を“キャッチ”した。


手首がほんの少しもブレない。


慣れている。遊んでいる。




「逃げなきゃ.......久々のやばい奴だ」





「――・シ・マ・ゾ……ファァル、ファァル、ラア……」




また吐く。


音が増える。


私の頭の中に、意味のないノイズが流れ込んでくる感じがする。




視界が歪んだ。


目の奥が熱い。


パターン視が、勝手に起動しようとしている。




でも今は――まずい。


鎌がくる。


あれは触れたら終わるタイプだ。


一瞬の油断や隙も許されない




私は息を吸って、吐いた。




「……今」




判断は早い方がいい。


無理なものは無理。


封印?子供に近寄れないように?そんなの知らない


あれを誰が止めれる?過去に私を助けてくれた探偵の女の人ぐらいだろ?




私は背中を向けて、全速力で走り出した。


背後から来るなら直線はやばいと思いジグザグに走る




その瞬間。




――ブンッ、ブンッ、ブンッ。




鎌の音がした。




少し先の未来が見えた。


鎌は回転し角度を変えながら大回りする。私は鎌をしゃがんで避ける


 




真後ろで、気配がした


しゃがむ。


イメージ通り避けれた、


鎌は奴の手に戻る。


予知能力が無ければ私の物語は終わっていた





「……なんとか生きてる、奇跡だ。」




間髪入れず奴は鎌を投げる。


完全に遊んでいる。きっと私に脅威が1パーセントも感じられないのだろう


そんな気配がする。イライラする、怖いよりイライラする。私は変だ


見下されるのが無性にイライラする




速い




鎌が、私の目の前に来た。




――見える。




回転の中心。


刃の軌道。


それが、薄い光の輪として見える。




何故か、私は目の前で自分を切り裂く寸前の鎌を見て止まった。




鎌も止まる。




違う、スローモーションだ




胸の奥が、ひゅっと冷える。


「死ぬかもしれない」と思った瞬間、妙に落ち着いた


視界が、さらに歪む。


目の奥の熱が増える。


頭の内側に針を刺された痛み。


いつものやつだ。


だめだだめだだめだ、今この状況になると一秒以内に鎌が私を切断する




現実は超スローモーションでイメージは光速以上で浮かぶ




――“未来”が見えた。




私が生き残るルートがあった。




それに賭ける




「……集中しろ」




私は、覚悟を決める





私は“鎌”を見る。


刃。柄、回転。


それら全てを、頭の中で掴む。




「――言う事をきけ!!!」





次の瞬間。




鎌が、空中で“止まった”。





回転が鈍る。


刃が、ためらうみたいに揺れる。




異形の十字口が、ぎゅっと歪んだ。




「……ンアウ.......」




声にならない音。




私は指先を、わずかに動かした。




「.......いけ」




鎌が、反転した。




回転を保ったまま、軌道だけが裏返る。


ブーメランの帰り道が、持ち主へ向かう。




異形が腕を上げる。


受け取る動き――いつも通りの動き。




でも、そこに“ズレ”が生まれる。




鎌は、異形の受け取り位置を外し、胴体の中心へ向かった。




当たり前が操作してるのは私だ




奴の胴体に突き刺さる、紫の血が噴き出す




「キュオ゛オ゛オ!!!!!!ギルギルズマハギビビビィ.......グァ!!!!!」




言葉が途切れる。




そして私は指をクイッと動かして再度鎌を宙で回転さす。


異形が操ってた時よりも遙に高速で回り、月明かりを受けたそれは、満月の様だった





私の視界の奥で、紫の外殻の“内側”に、ひとつだけ濃く見えた。


上半身と下半身の接合部。


異界魔獣の“腰”の位置。


そこに、密度の違う点がある。




「……核だ」




鎌を、そこへ。




鎌は私の念動に噛み合い始めていた。


相手の武器なのに、私の手足みたいに動く。


怖いくらいに、しっくりくる。




私は一気に加速させた。




――ブンッ!!




鎌が、紫の外殻を裂く。




金属が骨を割るような音。


中から出たのは、黒い膜みたいなものと、焦げた匂い。




異形が、崩れかけた。




「カアアアア!!!!!!カアアア!!!」





爬虫類の脚がバラバラに力を失う。


腕が空を掴む。





異形の十字口が、完全に開いた。


声はもう出ない。


出せない。




そして、紫の巨体が、黒い霧みたいに崩れ落ちた。


外殻が粉になり、黒い膜が薄く散って、最後に“濃い点”がぱちん、と消える。




私はその場で、息を吐き呟く




……生きてる。私をみくびるからだ.......




なんてことを考えてるんだろう。みくびられた苛立ちが死の恐怖を上回ってたのか





鎌が、地面に落ちた。すごい音だ




「これは消えないんだ」




何故か、触れたくなった




私は、柄を指先で掴んだ。




冷たい。


なのに、手の中で“温度”が変わる。


私の脈と、鎌の脈が重なるみたいに。




なにかが伝わる




所有権の移動だ




「……私のもの」




言葉にした瞬間、胸の奥がざわつく。


嫌な予感じゃない。


もっと原始的な、“時期が来た”という感覚。




私は念動でその異界の鎌を浮かせる。先ほどの様にすごい勢いで回転させる。


楽しくなる


鎌も命を得たように楽しそうに回る


ふと気づいた。形を変えれるかもしれない




「なわけないか......でもやってみるか。どのみち持って帰れないし、この大きさじゃ」




私は鎌の構造を見る。




「これにも核があるのか」




私は各以外の部分を念動で圧縮するイメージをする




あ、未来が見えた。




この後鎌は圧縮に成功し、その後元のサイズに戻して喜んでる私がいる




私はイメージ通り圧縮した。




やはりできた。




再展開。




元のサイズに広げる......





「できた.......」




これなら、持ち運びできるな。


なんだか物凄く嬉しい


勿論、私の物だ。持ち主はもういないし。


悪い気もしたが、元はと言えば奴は私を一瞬で終わらせようとしたのだから同情の余地は無い。


私はひどいやつなのか?


今は考えないでおこう


でも、これは新しい戦力になってくれる気がする。それに予知や瞬発力、圧縮や展開の能力もパワーアップできた




「武器と能力と10万円ゲット.......」




生き抜けた喜びと手に入れた喜びで歓喜に満ち溢れていた




そして、私は目を細めて、暗い裏山を見た。




「……不気味な山だ、またあんなのを排出するかもな。奥にはもっとやばいのがいるかも」




スマホを取り出し、依頼完了のメッセージを打つ。




【対応完了しました。危険は排除しました。後日、お振込をお願いします】




送信。




画面を消して、私はスマホサイズにした銀色に光る鎌を見つめた。




なにかを手に入れて嬉しいの久しぶりだ。スマホを変えた時以来かも




夜の小道を戻る。


街灯の光が近づく。


現実が戻ってくる。




外灯は自分の白い指と、真っ黒なセーラー服を今夜のMVPの様に照らす




-----------------------




「ふーーーん。結構やるじゃん。」




その声は、一部始終を上空から見ていた真っ白なセーラー服を着た 霧島ヒノ


彼女は真っ赤で大きく蝙蝠みたいな羽を広げ、翼膜を月夜に光らせる


そして、羽の様に真っ赤なボブの髪にさらさらと夜風を受けてシスイを見つめる




「あれ、元はとんでもない存在っぽいね、おもしろ」


「今はあんな可愛らしい女の子だけど.........うん、すごく可愛いわ。私の友達に相応しい存在......ふふ」




霧島ヒノはピンクの瞳をキラキラさせながら、宝石を見るように冥 シスイの姿を眺めるのであった.......

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