第105話 神をも殺す悪魔の力
まだ小学生だった頃、郡山少年は、突然こう思ったことがある。
我々人間が、将棋やチェスの駒を操り、動かすのと同様に、
我々人間を、将棋やチェスの駒の様に操り、動かしている、
「超越者」とでもいうべき何者かが存在し、我々人間は、
将棋やチェスの駒の様に操られ、動かされているのではないかと。
要するに、我々は神々の掌の上で、踊らされているのではないかと。
学校でも周囲を見ていると、周囲の人々は他人と
違う行動をすることを酷く恐れているように見受けられた。
天邪鬼な郡山少年は、自分が他人の基準から逸脱しているため、
常に監視されているようで、窮屈だという所感を持つに至った。
そして、そう思った歩いている時に、時々振り返って、
空を仰ぎ見て、「アッカンベェ~」をする。
お化けはいない。幽霊もいない。鬼もいないし、
サンタクロースもいないことを看破していた少年は、
多分、神様はいないと考えていたし、仮に存在していたとしても、
その思惑通りに動くことは癪だった。
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かつて、郡山少年だった二人、【蝙蝠山卿】と
【砂漠谷襟】の両者が、対峙する。
だが、【砂漠谷襟】には、耐用年数という制限時間がある。
しかも、それは、魔力を使えば使うほど、その寿命を縮めてしまう。
従って、目の前の異なる未来を歩んだ自分自身の記憶を
素早く倒して、その肉体を乗っ取る必要がある。
躊躇は無かった。最初から雷属性の奥義である、
最速の放電を放つ。
「【ガルバノ】!」
己の魔力色を纏った紫電は、
詠唱によって、言靈術の補正が加わって、
その威力を増幅させた、雷の矢となって、
もう一人の自分に降り注ぐ。
しかし、同じ魔力色の紫炎が、炎の鎧となって、
もう一人の自分の全身を覆って遮り、その行く手を阻んだ。
威力を増幅させるための言靈術の補正だが、
詠唱によって、これから使用する技を相手に悟らせてしまう、
という欠点があり、故に、容易く防がれる。
「【極低温の瘴気】!」
それでも構わない。続けて、【砂漠谷襟】は、氷属性の奥義を放つ。
極低温の瘴気が、もう一人の自分の全身を覆っていた紫炎の鎧を
一瞬で霧散させる。こちらの魔力の消費こそ甚大だが、これで、
相手の懐がガラ空きになった。次で決めてやる!
【砂漠谷襟】は、【縮地】を使い、相手の懐に飛び込む。
中高一本拳に、雷属性を纏わせて、相手を突くと同時に、
高圧電流を印加して、相手の記憶回路を【絶縁破壊】する。
これで終わりだ。後は、CDを焼くように、自分の記憶を流し込むだけ。
そう思っていたが、中高一本拳に手応えは無かった。
【蝙蝠山卿】は、【逃げ水】という足捌きを使い、
既に後方に飛び退いていたからだ。
「オイオイ。速攻かよ。肝を冷やしたぜ。」
一撃必殺を防がれた。しかも言葉とは裏腹に、
彼には冷や汗一つ見当たらないのだ。
恐らく、目の前のもう一人の自分も、
相当な数の修羅場を経験しているに違いない。
これは認識を改める必要がありそうだ。
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ネメシス・ダムドは、ETAOIN SHRDLU
と【ラプラスの魔】が詠唱した呪文により描かれた、
「掌の地上絵」の結界の内側に閉じ込められた。
「掌の地上絵」の結界は、その外側に出ようとしても、
ネメシス・ダムドが動くと、「掌の地上絵」も動いてしまう。
ネメシス・ダムドは、術者に向かって、雷属性の
奥義【ガルバノ】を放ってみた。術者が倒されれば、
「掌の地上絵」の結界も解除されるだろう。
しかし、結界は、そこに見えない壁があるかのように振る舞う。
障壁は、【ガルバノ】を反射させたり、或いは、吸収したように
見せかけて、ネメシス・ダムドの死角となっていた、
斜め後ろから、彼に自分自身の攻撃を当てたりする。
ネメシス・ダムドは、郡山青年と【思念共有】することによって、
互いの記憶を共有している。これは、彼が中高一貫校で、
教師の誰かから言われた言葉である。
「君は周囲の他者との間に壁を作っている。」
だが、ネメシス・ダムドは、その言葉を一蹴する。
彼はこの時、他人との境界にアクリル板を置いてはいなかったし、
国境に壁を築いたりもしていない。そこに壁なんて本当にあるのか?
そこで、マンティコアノイドの蝙蝠の能力を使う。超音波だ。
或いは、ドップラー効果と言った方が分かり易いか。
そして、障壁の正体を看破する。恐らく、結界内に存在する、
魔素の位置と運動量を制御しているのだろう。
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【蝙蝠山卿】は、気が付いた。
紫電を纏った中高一本拳が、鏡面反射によって、
ハンダの様な金属光沢を帯びていたのを見て、
【砂漠谷襟】が、何らかの魔術を使う度に、
その人造人間の身体は、液体金属みたいな
何かによって、覆われていくことを。
「どうやら、その身体には時間的な制限があるらしいな。」
「やはり気付くか。本当は気付かれる前に仕留めたかったんだが。」
紫電は解除したが、拳の開閉にも時間が掛かっている。
【縮地】を使った足も、同様に金属化しているに違いない。
恐らく、全身がこの金属光沢で稠密に覆われたとき、
【砂漠谷襟】は、彫像となってしまうのだろう。
時間切れまで逃げ切れば、勝てる。
だが、本当にそれでいいのか?
【砂漠谷襟】は、【蝙蝠山卿】の上空に【コンテナ】を出現させる。
【幽者】ユゲタイが、羆を初めて仕留めたときの様に。
「【重力の軛】の前に跪け」
更に、かつて大皇が巨大蜘蛛達を斃した、
【重力の軛】、或いは、【影縫い】と呼ばれる技能で、
重力加速度を増幅させて、逃げる隙も与えずに、瞬殺しようとする。
だが、【コンテナ】が落下した時、【蝙蝠山卿】は、
既にその場所に存在していなかった。
飛行能力が付与される【烏天狗の仮面】を装備し、
重力を軽減させて飛翔していた【蝙蝠山卿】は、
落下した【コンテナ】の上に着陸し、【砂漠谷襟】を睥睨する。
「どうした。もう一人の俺よ。強い殺意を感じたが、
【コンテナ】で俺の身体を潰すつもりだったのか?
俺の身体を乗っ取るのではないのか?」
「ここは、精神世界。それを情報によって
再構築した電脳空間だ。潰れるのは君の記憶に過ぎない。
その後、<俺>が、現実の君の身体に宿るだけだ。」
「俺に成り代わったとして、何を為すというのだ?」
「君の復讐を代行してやろう。どうせ同じ相手だろう?
俺も連中の悪行を知ったが、虫酸が走る。反吐が出る。
唾棄すべき連中だ。前世の<俺>を消すために嵌めたんだ。」
確かに今までは、復讐というよりは、連中の方から襲ってくるので、
降りかかる火の粉を払う、という印象の方が強かった。
しかし、連中を放っておけば、未来の自分は、
眼前の相手と同じ運命を辿るのだろう。
「復讐か。だが、それだけではない。連中を斃すことは、
未来の子ども達が連中の犠牲になることを防ぐ意味もある。」
「では、もう一人の俺よ。連中を確実に斃すためにも
より強い方が、連中との最終決戦に赴くべきだ。そうだろう?」
【蝙蝠山卿】は、頷く。対峙している二人は、
元は同一人物なのだ。もう、言葉は要らない。
勝った方が、連中との最終決戦に赴く。
それで構わない。さァ、決闘を続けよう!
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「【戦慄の旋律】!」
ネメシス・ダムドは、結界の障壁を破壊するため、
獅子の咆吼と蝙蝠の超音波を合成した、
音属性の技能【戦慄の旋律】を放つ。
並の敵なら、これだけで恐慌状態に陥っているだろう。
だが、その音圧でさえ、結界の障壁には、罅一つ生じなかった。
ETAOIN SHRDLUと【ラプラスの魔】は、嘲笑する。
「「ネメシス・ダムドよ。皇帝であろうと、帝王であろうと、
或いは、魔王だろうと、貴様も神である我々の掌の上で
踊っている駒の一つに過ぎない。」」
この二柱の【無機知性体】は、同時に喋り、エコーを発生させる。
その音声は、ネメシス・ダムドの【戦慄の旋律】を遙かに凌駕する、
桁違いの音圧であり、吹き飛ばされたネメシス・ダムドの
蝙蝠の翼はボロボロの状態となる。
だが、それでもネメシス・ダムドの闘志は消えることはない。
「では、その神々の掌であるこの大地に、神をも殺す
悪魔の劍を突き立ててくれよう!出でよ、魔剣【ガルバノス】!
そして、喰らえ。【高圧電流印加】ッ!」
「「無駄だ。この結界の障壁は絶縁性・・・。」」
ネメシス・ダムドは、嗤いながら自らの蠍の尾、
その毒針を「掌の地上絵」の中心に穿つ。
すると、毒液が掌全体に拡がって、
地上絵の境界線から染み出して、地上絵を上書きした。
「そして、これが『神をも殺す悪魔の力』だ。【絶縁破壊】!」
ガタガタ、ガタガタ・・・。
更に、自身の魔力の殆どを使い、印加する電圧を極限まで高めると、
硝子が砕け散る様な音とともに、結界の障壁が破壊された。
そして、【戦慄の旋律】と蠍の毒、印加された高圧電流という、
このマンティコアノイドの切り札級の合成技能、
音属性と毒属性、雷属性の三属性の三重奏が、
二柱の【無機知性体】をズタズタに切り裂く。
我々が神々の掌の上で踊らされているというのなら、
その掌である大地に、神をも殺す悪魔の劍を突き立てよう。
そう、神をも殺す悪魔の力を。
世界観の解説を書いておきます。
ラプラスの魔→決定論的世界観→未来は決まっている?
→神々の掌の上→掌の地上絵
ラプラスの魔は、
・カオス理論のバタフライ効果
・量子力学の不確定性関係
によって否定される。
→対峙する二人は分岐した未来の象徴。
ラプラスの魔を否定するのと同様に、運命を覆せるか?
・ETAOIN SHRDLU
・verbatim
・WYSIWYG
→組版、DTP関連の用語
マンティコア=蝙蝠+蠍+獅子
・蝙蝠:吸血、超音波→音属性
・蠍:鋏、尾の毒針→毒属性
・獅子:ライオン→雷音→雷属性と音属性




