三十九話
「ん…。」
ミシルはゆっくり目を開けた。
「…!」
ふと左腕に温かさを感じ、首を横に向けると桃子の顔があった。
その寝顔にドキッとする。
彼女はまるで自分の左腕をまるでお気に入りの抱き枕のように抱きしめているからだ。
「可愛い…。」
ミシルは思わず呟いた。
あれだけカッコよかった彼女が、今こうやって丸まっているのが不思議に感じる。
その目には濡れた跡があり、また恋人の死に泣いていたのだろう。
「…さきゅばすちゃん!」
ミシルはその幸せに浸っていたが、その前に起きたとんでも無いことを思い出した。
「あ、起きた?」
すると、隣で寝ていた桃子も体を起こした。
「ごめんね。寝てたみたい。よかった。ミシルちゃんが動いてくれて。」
「ここはどこですか?」
「さきゅばすさんの家。バッテリー切れのミシルちゃんをどうにかしたくて、彼女の家なら何かあるかなってね。そうしたら、ご丁寧に彼女のリビングに何本かロボットのバッテリーが置いてあって。」
と、そのバッテリーがあるスカートのポケットを軽く叩いた。
「すいません。重かったですよね。」
「なんとか、通りがかりの人にもここまで手伝ってもらったよ。バッテリーの場所わからなかったから君の体を色々見ちゃったけど…。」
桃子は目を伏せ頰を紅潮させた。
「わざわざありがとうございます。」
「本当良かったよ。復活してくれて。」
「緊急センターに連絡しなかったんですね。」
「うん。前持ってた旧式の犬ロボットを修理に行った時、新しい犬ロボットに変えられた事もあってね。ミシルちゃんも新しくされるのかなって…。あ、誤解しないでね。今のままのミシルちゃんが好きって意味だから。」
桃子はそう自分で言っておきながら顔を真っ赤にさせていた。
「ごめん。忘れて。それよりこれからどうしよう。」
「さきゅばすちゃんが心配。」
「あの学校の子達も、あのままだと実験の道具にされるしね。どこかに駆け込んで訴えた方がいいのかな。」
「!」
ミシルは何かを感じ取った。
「窓の方に気配を感じる。」
「え?」
ミシルは一階の寝室の窓からこっそり外を覗く。
すると、外にはさきゅばすが玄関に立っていて、チャイムを鳴らした。
ピンポーン
と、この部屋にもチャイムが聞こえる。
「さきゅばすちゃんがいます。」
「え?戻ってきたの?」
「…。」
ミシルは彼女の体温をサーモグラフィーに切り替えて見てみる。
不死身と同じ体温の流れだとミシルの中の機械は判定した。
「さきゅばすちゃん率99%です。」
「戻ってきたんだね!良かった!」
桃子とミシルは玄関に走る。
だが、桃子は開ける直前にとある違和感を感じた。
「待ってミシルちゃん。一つ疑問があるんだけど、自分の家なのにインターホンなんか押すかな。」
「…。」
ウィーン
と、玄関越しに機械音が聞こえた。
その音にすぐ勘付いたミシルは、桃子をお姫様抱っこして、その場を離れた。
「わあ!?」
ドドドドドドドド!!!!!
その直後、沢山の薬莢が光線のように飛んできて、扉をボロボロの蜂の巣にした。
その薬莢はミシルの背中に当たったが、彼女は華麗に桃子をお姫様抱っこしながら裏口から逃げた。
「私たちを殺す気なんだね。」
桃子が抱きかかえられながら震えていた。
「私が桃子さんを守ります。宮桜さんを悲しませないために。」
「ミシルちゃん…。」
「もうこうなったら学校に行って元凶を打ち砕くしかないです。私も、24時間桃子さんを守れる程性能も優れてないので…。」
ミシルは突如足を止めた。
「桃子さん。遠くへ逃げて下さい。私がなんとかしますから。」
「ダメだよ。私も行く。宮桜を殺されて黙っていられない。ミシルちゃんも置いていきたく無い。」
「ロボットは死にませんよ。でも不死身は沢山血を流してしまったら死んでしまいます。」
「ロボットだって壊れてなくなるのは一緒だよ。不死身もロボットも関係なく一緒。私はミシルちゃんを分けて考えてないよ。1人の大切な人だと思ってる。その大切な人を置いていけない。もう誰も失いたく無い…。」
桃子はまた目に涙を溜めながら彼女にそう訴えた。
「ミシルちゃんが行くなら行くよ。このまま私1人逃げても危ないし、周りに被害を出すかもしれないし…。」
「…わかりました。いきましょう。」
ミシルはそのまま彼女を抱きかかえられながらまた学校に戻ることにした。




