二十九話
「頼みたいことがあるの。」
一人の少女は、そうすがる様に頼んでいた。
仮装大会が終わった後、着替えもせずに彼女は、今日カメラ小僧に交じって傍観していた人物に声を掛けた。
「こんなくだらない仮装大会のために俺を呼んだわけ?」
髪の毛がオレンジのその人は、めんどくさそうに髪を引っ搔いた。
「違う。あなたに桃子を守ってほしいの。」
「誰?」
「私の恋人。頼れる人はあなたしかいないの。」
「ただの事務の女の恋人をなんで俺が。」
「さきゅばすもいるのよ。」
「ああ、いたな。変な格好してたけど。」
「お願い。あの人何か企んでるの。彼女の隣の女の子を使って、桃子に何かしようとしてる。」
「見返りはあるの?」
「お金ならまだそれなりに払えるわ。」
「ふーん…。」
その人はしばらく唸った後、顔を上げた。
「まあ、俺もさきゅばすの研究に興味あったからな…。」
「お願い。あなたしかあの子の暴挙を止められないと思うの。あのミシルってロボットに気を付けて。」
「ああ。まあ、あいつの性格が変わったのも、俺のせいかもしれないしな。」
と、にやにや笑っていた。
「俺もアンタの言うこと聞いてやるけど、金の切れ目が縁の切れ目だって事を肝に銘じておけよ。」
「桃子を守ってくれるなら…。」
彼女は俯きながら、つばを飲み込んで喉をキュッと鳴らした。
次の日
「おはよう。ミシルちゃん。」
さきゅばすはいつも通りあくびをしながら教室に入ってきた。
「おはよう…。」
ミシルもそのあくびにつられそうになる。
「全く。イベントの次の日は休みにしてほしいわね。衣装代で結構すっ飛んだから働くけどさ。」
「ごめんね。さきゅばすちゃんのお金使わせちゃって。」
「いいのよ。おかげで可愛いのが見れたんだから。私のカメラにも写してもらうんだったなー。」
さきゅばすはそうため息をついた。
教室では今、桃子が昨日の騎士だったのかそれで持ち切りだ。
もちろん本人は否定している。
宮桜も、あれは桃子じゃないと否定をしている。
2人の作戦にまんまとはまった過激派達は、桃子たちの言葉を無理やりにでも信じようとしていた。
「哀れね。」
さきゅばすはそう鼻で笑った。
「昨日の私のキスが効いたとはね。桃子さんも細かくチェックしてるもんよね。」
「…。」
「どうしたの?」
「ううん。」
ミシルはその囲まれている桃子を見つめている。
さきゅばすはその横顔を見つめていた。
「ねえさきゅばすちゃん。私、桃子さんと一緒になれる?」
「なれるわ。」
「手はつなげる?」
「それは無理じゃない?だって一心同体になるんだもの。」
「そうしたら、桃子さんは喜ぶのかな。」
「喜ぶわ。大好きなミシルちゃんと一緒になれるんだもの。」
「でも、昨日きょうりんちゃんが嫌だって。」
「…。」
一瞬、さきゅばすの目が本気で殺意に変わった。
「やあね。経験したことない癖に妄想で語ってること本気にしちゃダメよ。」
「…。」
「気にしてる?」
「少し。」
「桃子さんは確実にミシルちゃんの事好きになってる。それは間違いないから安心して。」
「…。」
ミシルは桃子を好きになるたびいろんな矛盾に気づいていった。
その矛盾が上がるたび、桃子が本当に幸せになれるのか分からなくなるからだ。
「わからないの。さきゅばすちゃんの言うそれが、幸せになれるものなのか。」
「私が不幸にするとでも言いたいの?」
「そうじゃないけど…。」
「今は楽しんで。」
さきゅばすはまたそれを言った。
今は。
今じゃなくなったら、どうなるんだろうか。
「ねえ聞いた?今日新しく誰かここに来るらしいわよ。」
「そうなの?かっこいい人かな?」
また違う女子のグループではそんな会話があった。
「へえ。誰だろう。」
「どっちかな。」
ミシルは残り一分でなるチャイムにワクワクしていた。
転職はコロラドのように転校と言う形でやってくる。
それがロボットなのか、不死身なのかは本人に聞くまでは分からない。
「血が美味しい子だったらいいなあ。」
さきゅばすは頬杖をついてそう言った時
予鈴が鳴り、椅子から離れていた女子達は一斉に元の場所へと散った。
ガラガラ
戸が開き、先生が入ってくる。
だがその生徒の姿に、クラス中がどよめき始めた。
「皆静かに!」
先生は騒々しさを一掃した。
「なんで男子生徒の服…?」
誰かがそう言った。
そう、その人物はこの女子中学校に何故か、誰も見たことない男子の制服を着てきたのだった。
「安心してください。彼女は女の子です。ただ、事情があってこういう格好をしているだけなんです。」
先生はそう言い切った。
「橙。よろしく。」
彼女はそう言ってニコッと笑った。




