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第54話 引き裂く者


「あの時は随分とコケにしてくれたなぁ……約束通り消しに来てやったぜ!」

「な、なによ。そんな事の為にわざわざ追って来たっての?」


 爆発の起きた神殿から、神官や信者達の逃げ惑う声が聞こえてくる……。

 フェリ達がいるのは神殿の裏であるせいか、誰もここで起きている事に気付いていない。

 崩れかけた神殿を覆う煙の中から、ガルデンを中心に複数の影が浮かび上がる――。


(また暗殺者……でも何でこの男と一緒に……?)


 フェリの経験上、音も無く現れるのは暗殺者と相場が決まっている。

 しかし、ガルデンは元盗賊の頭だ。裏家業の人間には変わりないが、何故この男が暗殺者を引き連れているのだろう。


「おい、生け捕りにしろとの命令だろう。消したりしたら……」

「うっせぇ! わぁってるよクソがぁ!」

「ぐわああ!?」


 小さな爆発音と共に、ガルデンに忠告した暗殺者が吹き飛んだ。

 リーフの村の時もそうであったように、ガルデンは自分に意見する者に寛容ではない。

 煙を上げたままうめき声をあげる男の姿に、他の暗殺者達が殺気立った。


「貴様っ、正気か!?」

「裏切るつもりなのか!」

「俺はフリードの話に乗っただけで、てめぇらを殺るなとは言われてねぇ。だがてめぇらは俺に逆らうなって言われてるよなあ?」

「ぐっ、それは……確かにそうだが……!」


(仲間って訳じゃないの……?)


 一見この襲撃の中心人物である様に見えるが、暗殺者達は明らかにガルデンを煙たがっている。

 しかしこうして自分達を囲んでいると言う事は、少なくとも目的は同じなのだろう。


「フェリ、接近戦は私がやる。キミは後方から魔術で……あ」


 フェリを庇う様に立っていたアイトが、聖剣を抜こうとした手を止める。

 聖剣が無い。


(しまった! 聖剣は部屋に……!)


 アイトは今、聖剣を装備していなかった。

 元々少し神殿内を歩くだけのつもりだった為、置いて来たのだ。

 フェリも狼狽するアイトを見て聖剣が無い事に気付いたが、先にそれを指摘したのはガルデンの方だった。


「バカが! 探してるのはこいつか?」

「!? それは……!」


 ガルデンのすぐ脇に立つ暗殺者が、アイトの聖剣を抱える様に持っていた。

 吹き飛ばされた男とは別の、フードを目深に被ったその暗殺者は、何を言うでも無くただ佇んでいる。


「私の剣をどうするつもりだ!」

「てめぇの剣はついでだ。おいクソ女! 俺と一緒に来い!」

「え? 一緒にって……」


 自分に向かって指で手招きするガルデンに、フェリは目を丸くした。

 てっきり以前の件で復讐に来たのかと思ったが、彼等は自分を連れて行くつもりらしい。

 理由はわからないが、ガルデンが暗殺者を引連れていることと関係があるのかも――そう思ったフェリの脳裏に、ある繋がりが浮かび上がった。


(そう言えば、あの時も……)


 思い当たるのは、以前デュオやハードルドと共に首都グランツへ不法入国した時のこと。

 あの時も森で、暗殺者に襲われた。そしてその目的は……


≪アイツ等が狙ってたのはおめーだ≫


 アリナリを旅立つ前にハードルドに言われた言葉が、今になって思い出される。

 フェリは今までそんな事はすっかり忘れていて、ヴェルヘルム帝国へ入ってからも全く警戒していなかった。

 もしかしたら暗殺者達はガルデンの目的の為に集まったのではなく、暗殺者達の目的にガルデンが便乗しているだけなのかもしれない。


「狙いはフェリか! そうはさせない!」

「ハッ。丸腰でどうする気だぁ? テメーに用はねーんだよ!」


 ガルデンの手から、小さな炎の塊が放たれる。

 それは身を屈ませたフェリとアイトのすぐ上で爆発し、灰色の煙がフェリ達を包み込んだ。


「けほっけほっ……くっ、煙で視界が……」

「!? アイト! 前!」

「なに……? ぐ!?」

「バカが! それでも勇者かよ!」


 煙に乗じて素早く近づいたガルデンが、アイトの首をガシリと掴んだ。

 フェリはガルデンのその手が、徐々に魔力を溜めていくのに気付いて青ざめる。


「やめて!」

「テメーが大人しくついて来るなら、殺さないでいてやる。ゴミには興味ねーからな」

「ぐ、う……バカなことを……」


 アイトの首をギリギリ締め上げながら、ガルデンが横目でフェリを見下ろす。

 この状況で魔術を使おうものなら、暗にアイトを殺すと言っているのだろう。


「……わかったわ。ついて行くからアイトを放して!」

「フェ、リ……よせ……!」


 いずれにせよ、フェリにはガルデンより速く魔術を放てる自信は無い。

 いくら修行して速度を上げたとは言え、発動までの時間とガルデンとの距離は致命的だ。

 緊張した表情で頷くフェリを見て、ガルデンはアイトの首から手を放す――しかし次の瞬間、爆発音と共にアイトの体が吹き飛んだ。


「ぐああああ!!」

「アイト!」


 アイトの首から手を放したガルデンは、代わりに膝でアイトの腹を蹴り上げた。

 瓦礫だらけの地面をゴロゴロと転がされたアイトに駆け寄るも、屈み込んだフェリの腕をガルデンが乱暴に引き上げる。


「殺さないとは言ったが、痛めつけねーとは言ってねぇんだよバーカ! 追って来られない様にそこで寝てろ! カスが!」

「放してよ! 一緒に行くから、その前にせめて治療させて!」

「フェ……リ……行くな……」

「! アイト……」


 ガルデンに引っ張られそうなフェリの足を、アイトが弱々しく掴んだ。

 もう一方の手で押さえている腹部の鎧はボロボロに砕け、指の間から赤く染まった布が見える。


「ちゃんと生かしてやったろーが。これ以上テメーの命乞いを聞く必要はねーよ!」

「でもこのままじゃ…………あ!?」


 すぐに治療しなければ危険な事は明らかだったが、ガルデンにとって人一人の命など重くは無いのだろう。

 必死にアイトへ近づこうとするフェリの腕に、近付いて来た暗殺者の1人が重い鉄の塊をはめる……。

 フェリはその重さと冷たさに覚えがあった。かつての自分が常に身に着けていた手枷――魔力制御装置だ。


「おい、そろそろ行くぞ。気付かれる」

「わぁってるよでくの坊ども。サッサと行くぞ!」


 仲間の言葉を合図に、ガルデンが神殿に向かって巨大な炎を放つ。

 目くらましのつもりなのだろうか。既に崩壊している神殿の瓦礫が、轟音と共に落下し始める。


「アイト!」

「っ……フェリ……!」


 フェリがうずくまるアイトに向かって、手枷を嵌められた手を伸ばす。

 しかし同じ様に手を伸ばすアイトの姿は、落下し続ける瓦礫と土煙によって見えなくなった。


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