第26話 布教活動?
「凄い……これが都会ってやつなのね……」
ラキアの家から1ヶ月かけて、フェリ達はようやく首都ジーハスへ辿り着いた。
商業大国ゲルトは、イグスロード大陸南側の中心に位置する世界流通の要でもある。
辺境のアリナリやリーフの村などまだまだ未発達の地域はあるが、首都ジーハスまで来れば何でも手に入る――そう言われていた。
「にしても、正規ギルドっていつもこんなに混んでるの? ……うぅ、吐き気が……」
まずは通行証を発行しようと中心部にある正規ギルドへやって来たのだが、フェリはその迫力に気圧されそうになっていた。
リーフの村よりも大きな建物の中には、10ヵ所近くある窓口を先頭にものすごい数の人々が列を成している。
今までこれだけの人間が集まる所を見たことが無かったフェリは、酔いを感じて近くの壁際へ避難していた。
「フェリ。ここにいたのか」
「あ、アイト。どうだった?」
案内係に通行証について聞いていたアイトが、少しだけ疲れた様子で戻って来た。
相変わらず両側を固めているマリアーナとリサも、どこか浮かない表情をしている。
「それが……今の我々にはヴェルヘルムへの通行証を発行できないと言われた。入国の条件を満たしていないらしい」
「入国の条件って?」
「ギルドの依頼を一定数こなしている事だ。内容は商売や盗賊の捕縛など、色々あるらしいが……」
「盗賊の捕縛はやったけど、それじゃダメなの?」
「正式な依頼は出ていなかったからな。ギルドにある依頼を受けて、完了後にギルドカードへ記録しなければならないらしい」
「そうなの……」
ギルドカード――それは、産まれた時に国から支給される一種の身分証明書だ。
本名や身元保証国などの個人情報が記録されており、他国へ渡る許可を得るには必ずこのカードの提示が必要になる。
依頼達成率や資産等の実績も記録出来るが、フェリは今まで大森林からアリナリへ入る時くらいしか使用したことが無かった。
「依頼の掲示板を見てきましたけれど、どれも難しそうですわ」
「こなさなきゃいけない依頼って、どのくらいあるの?」
「Cランク以上の依頼を1回か、Dランク80回か、Eランク200回をこなす必要がある。Fランクは含まれない」
「やだぁ~、厳し過ぎますよぉ~。Dって言ったら殆ど魔物討伐じゃないですかぁ~」
他国がほぼ規制無く行き来できるのに対し、ヴェルヘルム帝国にはこうした一定の入国条件がある。
出て行くのは自由だが入る者にはそれなりの価値が求められるという、良く言えば実力主義、悪く言えば排他的な国だ。
しかし、規定が厳しいのには他にも理由がある。
「ヴェルヘルムは世界で一番魔物が多い国だもの。そのくらい出来なきゃ生き残れないってことね、きっと」
凶悪な魔物が跋扈する魔界・ヴェルヘルム帝国――それが、皇帝ユベルギアスが魔王と言われる所以でもある。
入国出来るのはそれなりの戦士か、護衛を雇えるだけの資産を持つ商人等、とにかく身を守る手段がある者に限られているのだ。
「それでしたら、やはり戦闘力の強化は必須ですわ。修行と並行して依頼を受けるしかありませんわね」
「よし、では早速達人を探そう。広場に行くぞ!」
「はぁ~い!」
「お供しますわ!」
「あ、ちょっと3人とも……はぁ」
言うが早いか、アイト達はギルドを飛び出してしまった。
フェリはすっかり置いて行かれたが、特に急ぐ理由も無いのでのんびりと出口へ向かう。
……しかしその途中で、何かを思い出したかの様にふと歩みを止めた。
「…………」
フェリはおもむろに、ローブからギルドカードを取り出した。
そしてそこに記載されている文字を、忌々しそうな目で眺める。
(……いつかは、みんなにも言わなきゃいけないのかしら)
フェリシア・エルクラウド――その文字を見ながら少しだけ考えた後、フェリはカードをローブにしまった。
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「フェリ、人混み苦手? 俺様も煩いのは好きじゃないんだよね~」
「あの3人は全然そんな事なさそうだけどね」
人の波にすっかり疲れてしまったフェリは、いつの間にか合流したデュオと広場を遠巻きに眺めていた。
デュオはどうやらもう一つのギルドに用があったらしいが、詳しい理由はフェリにもわからない。
「でも、アレはちょっとどうかと思うよ?」
「……まぁね」
2人の視線の先には、広場の中心で人々に呼びかけているアイト、マリアーナ、リサの姿があった。
人混みでも全く動じない3人をフェリは少しだけ羨ましく思ったが、仲間に入ろうとは思わない。
何故なら3人がしているのは人探し……と言うよりも、布教活動に近かったからだ。
「このお方こそ、神に遣わされし勇者・アイト様! 剣の技を高める為に達人をお探しですわ!」
「は~い、勇者一行でぇ~す! アイト様に剣術を教えてくれる人はぁ、あたしの所に来てね~? あ、女は除外で」
「誰か、この私に剣を教えようと言う猛者はいないか!」
誰もが何事かと集まってくるので、ただでさえ人の多い広場の人口密度は高まる一方だ。
勇者モードで群衆に働きかけるアイトを、フェリは生暖かい目で見守る。
「あんな偉そうに師匠を探すヤツも、珍しいね~」
「そうね」
「はぁ~い! 愛の伝道師アイト様の、師匠になりたい人はいるぅ?」
「愛の伝道師というより、ナンパ師みたいな性格してない?」
「……わからなくはないけど、その辺にしておきなさい」
「誰か、この若獅子の君に剣を教える栄誉が欲しい者はいませんの!?」
「若獅子の君だってさ。若獅子と言うよりは若ハ」
「や・め・な・さ・い!」
何人かの見物人が、3人の足元に小銭を投げているのが見える。
完全に見世物扱いされている3人を止める勇気は、フェリには無い。
「……でもホント、アイトったらどうして急に弟子入りする気になったのかしら?」
「さぁね。偽勇者くんの考えることはわかんないよ」
「偽勇者? ……そんなこと無いと思う」
今までデュオの言葉に反感を覚えた事は無かったが、フェリは珍しくムッとした。
本当に神に認められた召喚では無かったとしても、アイトの勇者であろうとする姿勢には好感を持っていたのだ。
「アイトだって頑張ってるもの。偽者なんて言わないであげて」
「……ふ~ん。やっぱそんな感じになっちゃうのか……」
「そんな感じ? どういう意味?」
「…………」
フェリの質問に、デュオは答えようとしない。
その様子にフェリがしばらく首を傾げていると、デュオが急に思い立ったかの様に壁から離れた。
「ねぇフェリ、俺様とちょっと出掛けない?」
「へ? 出掛けるってどこに?」
「ん~……デート?」
「で!? でででデート!?」
突拍子も無い提案にあわあわと慌てだすフェリ。
それをデュオは笑いながら見ていたが、何を考えているのかは全く読めなかった。




