第25話 変わらないもの
「うん、ここなら丁度良さそうね」
フェリは今、辛うじて野営地を確認できる少し開けた場所に立っていた。
周囲は木々で囲まれていて、誰かに見られる心配も無い。
木の根が浮き出ていてあまり足場は良くないが、程よい広さがあるので目的に利用するには最適の場所だ。
しかし――
「フェリってばまた起きてんの?」
「それはこっちの台詞よ。また起きてたの?」
使用する場所は毎回違うにも関わらず、フェリがその場所を見つけた時には既にデュオが待っている。
そんな事を繰り返していたせいか、誰もいない場所を探していたフェリもデュオがいる事だけは認めざるを得なかった。
ちなみに野営地には常に気を配っているが、フェリが本気で結界を張っているので野党や魔物はそうそう近づけない。
「また魔力制御の修行? 結構頑張るね」
「そりゃあね。魔術師が魔力制御できませんなんて、いつまでも言ってられないでしょ?」
盗賊騒ぎで悔しい思いをしたのは、マリアーナだけではなかった。
フェリだって、マーゴスやガルデンと対峙して自分の未熟さを思い知ったのだ。
経験不足なのはもちろんだが、魔力が制御出来ない内は経験を重ねる事すら出来ない。知識だけあっても仕方が無いのだ。
「ふ~ん……なんかフェリ、変わったかもね」
「変わらなきゃ生き残れないって、気付いただけよ」
魔力制御さえ出来れば、戦いの幅も広がって仲間をサポートすることが出来る。
誰かのサポートをしたいなど、ラキアと静かに暮らしていた頃は考えた事もなかったが……勇者一行として旅をする中で、フェリも着実に変わっていたのだ。
「そういうアンタはいつも通りね。リサもだけど」
「俺様は今のままでも充分強いからね~」
「……深淵の魔手に言うセリフじゃなかったわ」
戦闘力について言えば、デュオに文句をつける必要は無い。
リサは相変わらず適当に過ごしているが、今後もそうするのかどうかは本人が決める事だとフェリは思っていた。
「ていうかアンタは寝なくて良いの?」
「へーきへーき。俺様夜型だから~」
「昼間寝てるトコも見たこと無いんだけど……。じゃ、始めるから邪魔しないでよ?」
「は~い」
デュオは返事と共に、巻き込まれない様に離れた木の上まで後退する。
それを確認したフェリは、ローブで抑えられていない自分の力だけで魔力を練り始めた。
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「も、ダメ……しぬ……」
「お疲れ。また派手にやったね~」
修行を始めて数時間が経過した頃、フェリは立ち上がれないほどクタクタになっていた。
周りを囲んでいた大木は焼け焦げ、氷の塊があちこちに転がり、割れた地面では残った雷がバチバチと音を鳴らしている。
デュオの言う通り、「また」派手にやり過ぎていた。フェリは修行の度にこうした状況を作り出していたのだ。
こんな危険な修行はアイト達には見せられない。それこそデュオくらいでないと、そばで見ていることは出来ないだろう。
「もう少しだけ……あっ!」
「おっと。大丈夫?」
疲労で思わず倒れそうになったフェリを、デュオがさり気なく受け止める。
しかしそのままへなへなと座り込んでしまったフェリの様子に、デュオは意外にも労る様に話しかけた。
「今日はもうやめとく? 野営地まで運ぼうか?」
「まだ、もう少しやるわ……ちょっと眠いけど」
「いいよ寝ても。しばらくは俺様が見張ったげる」
「……ごめん、30分経ったら起こして……」
「オッケー」
そうして、フェリはデュオに支えられたまま眠ってしまった。
デュオは屈んだ状態のままふと思う――このままの体勢は流石にキツイ。
「てかさ、やっぱ今日はもう休んだ方が良いよ」
そう言いながら、デュオはフェリを横抱きに抱え上げる。
後で確実に怒られるだろうが、野営地で寝かせようと思ったのだ。
だがデュオはそのまま振り返ろうとして……ふと動きを止める。
「……フェリ、知ってた?」
「…………」
「首都が近くなるにつれて魔物が強くなってる。だからフェリ達にはまだ倒せない魔物を優先的に仕留めてるんだけど……アイツもそうしようとしてるんだよね~」
「…………」
寝入っているフェリは何の反応も返さない。それでも構わないのか、デュオは話すのを続けた。
「ま、死にそうだから結局俺様がトドメ刺すんだけど。別にアイツが死のうがどうでも良いよ? でも……フェリはそういうの、嫌だよね?」
「すー……」
「……うん、独り言」
そうデュオが呟いた時、野営地方向から茂みを揺らす音が鳴った。
デュオでなければ気付かなかったであろう、誰かが歩き去る小さな音。
(ちょっとは理解したかな? しなくても俺様は困らないけど)
何も言わずにそっとその場を立ち去る影……と言っても、白銀の鎧は夜の闇に紛れるには少々不向きだ。
光を反射しながら隠れているつもりのアイトの背中を、デュオは面倒くさそうに眺めた。
「……やっぱ、変えるのは難しいのか……?」
デュオは少しだけ目を閉じた後、夜空に浮かぶ月を見上げた。
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「達人に弟子入りしたい? どうしたの急に」
「色々考えたんだが、ただ戦闘の場数を踏むだけでは心もとない。やはり剣術の心得のある者に師事した方が、修行になるだろう?」
「素晴らしい考えですわアイト様! わたしくも一度きちんと学びたいと思っていたんですの」
次の日の朝になって、アイトが急にそんな事を言い出した。
より強くなる為、剣術を使える人間に弟子入りしたいと言うのだ。
フェリには一体どういう心境の変化かわからなかったが、マリアーナはその意見に賛成の様だ。
「でも、達人なんてそうそういるかしら?」
「今から行く首都ジーハスは、商業の要だ。色々な人間が行き来しているから、可能性はある」
「なるほどね……デュオとリサはどう思う?」
「え、俺様? ん~、確かに我流じゃ限界あるし、このままヴェルヘルムへ入るよりは良いんじゃない? 俺様はやらないけど」
「あたしは宿で、アイト様の帰りを待ってまぁ~す!」
「ま、あんた達はそうでしょうね……私も魔術師を探してみようかな。参考になるかもしれないし」
デュオとリサは興味が無さそうだが、フェリは概ね賛成した。
今までラキア以外の魔術師とは殆ど話した事がないので、一般的な魔術師には興味がある。
それに運がよければ、魔力制御の手がかりが掴めるのではないかという希望的観測も抱いていた。
(でも、巨大な魔力の制御を教えてくれる魔術師なんているかしら……?)
世界一の大賢者でも抑えるだけだったフェリの魔力。
それを自力で制御する方法を知る人物など、探すと言ったものの望みは薄い。
「よし。では、私とマリアーナは剣術の師を、フェリは魔術の参考になりそうな協力者をジーハスで探そう」
「賛成ですわ!」
結局目的地は変わらないが、より大きな目標と共にフェリ達は首都ジーハスを目指した。




