第24話 変化したもの
「では、我々はこれで失礼する。使命を全うする為、先を急いでいるからな」
「そうですか……充分なお礼も出来ず申し訳ないです。旅が終わりましたら、是非またお立ち寄り下さい」
「さようなら勇者様! お姉ちゃん達も!」
「ええ、リーフも元気でね!」
晴れやかな笑顔の村人と騎士団に見送られ、フェリ達はリーフの村を後にした。
騎士団に約1名、名残惜しそうな視線を送っている騎士がいたが、リサは当然の如くアイトの右側に収まっている。
遠くなるフェリ達を見ながら、騎士の1人が隣に立つ副団長に話しかけた。
「ハイゼン様。新しい勇者が召喚されたという話は聞いていませんが……」
「ふむ。なかなか秘密の多そうな一行だったな」
副団長は遠くなるフェリ達をずっと見送っていたが、部下の怪しむ声に視線を下げた。
その目はどこか厳し気で、何かを迷っている様に見える。
「まさかあの噂は本当に……? 国へ報告しますか?」
「……いや、報告はしなくていい」
「ですが……」
「そこまで深刻に考える必要は無い。この村の小さな少年にとっては、彼等は勇者だった……それだけの話であろう」
そう言って、副団長ハイゼンは再度顔を上げる。
旅立ったフェリ達の背は、もう見えなくなっていた。
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リーフの村を発ってから約2週間が経過し、フェリ達は首都ジーハスまであと少しと言う所まで迫っていた。
この2週間の間に、勇者一行には盗賊騒動が起きる前と比べていくつかの変化が起こっている。その変化とは――
「いい加減にしろ! これでは我々に力がつかないだろう!」
「急所狙ったら死ぬの当たり前じゃん。ワザと外せっての?」
「そんなことは言ってない! もう少し周りとのバランスを考えろと言ってるんだ!」
まず1つ目の変化は、デュオがあれからずっと勇者一行の旅に同行している事だ。
フェリは当初、いつもの様にさっさと帰るだろうと思っていたのだが、どうやらヴェルヘルムまで一緒に行くつもりらしい。
それ自体は問題無いのだが、現れた魔物をデュオが殆ど一撃で仕留めてしまうので、アイトは自分の修行が進まないと腹を立てていた。
今フェリ達の目の前には、霧化し始めた魔物の亡骸が強弱関わらずゴロゴロと転がっている。
「アイト。強くなりたい気持ちはわかるけど少し落ち着いたら? デュオも少しは手を抜けば良いじゃない」
「えー……じゃあフェリ、ノロいナイフの投げ方教えてよ」
「の、ノロくて悪かったわね! ケンカ売ってんの!?」
「フェリ、落ち着け」
仲裁しようとして逆にキレるフェリを、今度はアイトが宥める。
そもそもデュオは、手加減しようと思えばいくらでもそうする事が出来るはずなのだ。
参戦している間も魔物の注意を逸らす程度のフォローに徹しているし、どうしても危ない時だけ魔物を仕留めるようにしている。
ただアイトが戦っている魔物だけは高確率で仕留めてしまうので、ワザとやっていると疑われるのも仕方ないことではあった。
「ま、倒さない方がいいならそうするけど。じゃあ俺様は戦闘になったらズラかるか~」
「ヅ!?」
「はいストーーップ!! アイト、そろそろ野営の準備を始めないと! マリアーナとリサを呼んできてくれる?」
「あ、ああ……わかった」
少々息切れを起こしながら、アイトは逃げるようにその場を離れて行った。
変化したことの2つ目は、アイトの秘密についてフェリが触れない様にしている事だ。
彼の前では風系の魔術は控えていたし、際どい言葉は極力使わない。食事の油分を減らしたのもさりげない優しさのつもりだ。
「デュオ。言いたかないけど、アイトをイジメるのはやめなさいよ」
「全然イジメてないけど」
「言い方が悪かったわ。イジるのをやめなさい」
「…………」
やはり心当たりがあるのか、デュオが言葉に詰まった。
なぜ彼がアイトにばかりちょっかいをかけるのか、フェリには全くわからない。
(まさかヤキモ……って、流石にそこまで自惚れたくはないわね)
正直その考えは何度か過ったが、惚れ薬にそこまでの効果があるとはフェリの把握している成分からも考え難い。
そもそもデュオの性格的に特定の人間を敵視するとも思えないのだが……本人が理由を言わない以上、考えていても答えは出ない。
「とにかく、仲間なんだからちゃんと協力して。アイトも強くならなきゃ、魔王と戦えないんだから」
「……は~い」
微妙な間を置いて返事をするデュオ。
フェリの心労は、ここのところ増えるばかりであった。
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「まあ! 魔物が出たんですの? 呼んで下さればよかったのに!」
「すまない。キミ達の修行の邪魔をしてまで、呼ぶ必要は無いと思ったんだ」
夕食後、焚火を囲んで今日の出来事を話していると、魔物の件でマリアーナが腹を立てた。
この2週間で起こった3つ目の変化は、マリアーナが真面目に剣の修行を始めた事だ。
盗賊騒動でずっと気絶していた事が悔しかったらしく、暇があれば剣の素振りを行い、戦闘にも積極的に参加している。
しかし、その努力が報われているかと言うと……そうでも無い。
「アンタが行っても意味無いじゃないのぉ。どうせ当たらないしぃ?」
「や、やかましいのですわリサ! 貴女は当たっても意味ないじゃありませんの!」
「あたしはかく乱くらいにはなるわよぉ? ウロウロ邪魔なだけの羊と違って」
「邪魔ですって!? わたくしはアイト様をお守りしたくて……!」
真面目に修行を始めたマリアーナと、それに嫌々付き合っているリサの成果は対照的だった。
疲れない程度にちょいちょい弓の練習をしているリサは、慣れによって命中率が上がって来ているものの「今なんか当たった?」という程に威力が弱い。
対して肉体的な鍛錬を中心とするマリアーナは、威力は着実に上がっているのだろうが、その命中率は低いままだった。
「よすんだ、2人共。キミ達が私を守ろうとしてくれているのはわかっている」
「アイト様……でもわたくし……」
「大切な人を守りたいのは、私も同じだ」
「やん、アイト様。大切な人って、あたしのことですかぁ?」
「それを口にすることは、今の私には出来ない。だが、使命を果たしたその時は……。待っていてくれ、フェリ、マリアーナ、リサ」
「はぁい。待ってまぁ~す!」
「アイト様……! わたくし、その日を心待ちにしておりますわ!」
(一体この茶番はいつまで続くのかしら……)
焚火に薪をくべながら、フェリは毎度お馴染みとなったこのやり取りにウンザリしていた。
マリアーナが怒りだし、アイトがそれを軟派な調子で宥めるのが、就寝前の定番になりつつある。
ちなみにマリアーナとリサにとっては、アイトがいつも3人分の名前を口にすることは大した問題では無い様だ。
「はいはいおしまい! 明日も早いんだから、もう寝ましょ。見張りは私が最初にするから」
「フェリ。昨日もキミが最初にやって、結局起こさなかっただろう。今日は私が……」
「ちゃんと結界が張ってあるから大丈夫よ。いいからさっさと寝る!」
「う、わかった……後で必ず起こしてくれ」
そう言って、アイト達はフェリの張った魔除けの結界の中で横になった。
しばらくして3人の寝息が聞こえ始め、それを確認したフェリはローブを脱いで立ち上がる。
「よしっ、今夜も行きますか」
拳を胸の前でグッと握りしめた後、フェリは結界の外に出た。
それはリーフの村を旅立ってから4つ目の――最後の変化だった。




