第23話 見た。いや見てない
駆け付けた騎士団によって盗賊達は捕えられ、村人も救出された。
騎士は盗賊達を整列させ、村人は散らばった瓦礫の撤去作業を行っている。
「本当にありがとうございました。なんとお礼を言えば良いか……」
「いや。我々は当然の事をしたまでだ。助け出せて良かった」
既に村人達から充分なお礼の言葉を受けたというのに、村長はフェリ達に何度も何度も頭を下げた。
村長は床下で少し話した老齢の獣人で、鳥の様な白い羽根を持つ老婆だ。頭にある赤いふさふさはトサカらしい。
ちなみに目が覚めたマリアーナは少し離れた場所で手当てを受けていて、リサはいつの間にか仲良くなった騎士と楽しそうに話している。彼の馬にちゃっかり乗せて来て貰ったそうだ。
「あの……ごめんなさい。村を壊してしまって……」
「いえいえ、いいんですよ」
フェリが全てを吹き飛ばしたせいで、村はまた一から作り直さなくてはならない。
にも関わらず、村長は気まずそうな顔をしているフェリを見て笑いながら首を横に振った。
「盗賊によって家はどれも全焼していましたし、また建てられます。村人全員がこれからも暮らしていけるのは、あなた方のおかげです」
「いえ、そんな……無事で本当に良かったです」
「勇者様!」
村長の言葉にフェリがホッと胸を撫で下ろしていると、元気な声がアイトを呼んだ。
犬耳の男性を伴って駆け寄って来たのは、リサと共に駐屯地へ向かったリーフだった。
「勇者様! 父さんや村のみんなを助けてくれてありがとう!」
「リーフ。キミが騎士団を呼んで来てくれたおかげだ。それに、礼なら私よりフェリに言ってくれ。一番の功労者は彼女だ」
「お姉ちゃんが?」
「言っていなかったが、フェリは魔術師なんだ。キミの怪我を治療し、盗賊達を魔術で吹き飛ばした」
「わぁ! スゴイや! ありがとうお姉ちゃん!」
リーフは目を輝かせながら、アイトに向けるのと同じ尊敬するような眼差しでフェリを見上げた。
それを受けたフェリは、物凄くこそばゆいような気分になる。ここまで純粋に誰かに感謝されたのは初めてだった。
「そ、そんな大層なもんじゃないから気にしないで。それより、もしかしてその人がリーフのお父さん?」
「うん! そうだよ!」
そう言って、リーフは自分の被っていた帽子を脱いだ。
頭に生えた焦げ茶色の小さな犬耳が、彼らが親子である事を証明する。
しかし不思議な事に、リーフは耳以外は殆ど人間と変わらない見た目をしていた。
「お母さんが人間だったんだ。僕が小さい頃に死んじゃったけど」
「そうだったの……。そういう事もあるのね」
疑問が顔に出ていたのか、リーフは笑顔で事情を話してくれた。
フェリの中に更なる疑問が湧いたが、聞いて良いことでは無いだろうと何も言わないことにする。
「アイト様ひどぉ~い! あたしの事も褒めて下さいよぉ」
「リサ、無理をさせてすまなかった。もちろんキミもよくやってくれたさ」
「や~ん、もっと褒めて下さぁい」
先程まで騎士と話していたリサが、猫なで声と共にアイトに飛びついた。アイトも微笑みを浮かべてそれに応える。
複雑な顔でこちらを見ていたマリアーナの目が険悪なものに変わったが、リサはワザと見せつけるかのようにアイトの腕に巻き付いていた。
「ん? リーフ? どうしたの?」
「……なんでもない」
先程まで嬉しそうにしていたリーフが、何故か複雑な顔で父親の影に隠れた。
フェリは不思議に思ったが、騎士達に副団長と呼ばれていた男性が近づいて来たのを見て、そちらに意識を移す。
「君達かね? 盗賊から村人を助けたというのは?」
「ええっと……まぁそうですね」
「ありがとう。遅くなってしまってすまなかったね」
そう言って、副団長は綺麗に腰を折った。
ピシリと固めた白髪交じりの髪に、清潔な白い騎士服を着た彼の礼には、寸分の乱れも無い。
自分より遥かに年上の紳士に頭を下げられ、フェリはすっかり慌ててしまった。
「い、いえ! 全然! 騎士団が来てくれなかったら、危なかったですから! ね、アイト?」
「ああ、確かにそうだ。騎士団が急いで駆け付けてくれたから、盗賊も捕まえる事が出来たんだからな」
「あらぁ、全然急いで無かったですよぉ?」
「え……?」
思わぬことを告げられ、アイトが驚いてリサを見る。
副団長が緊張した様に姿勢を正し、村人が悲しそうに目を伏せたのを見て、フェリは何となく事情を察した。
「どういうことだ? リサ」
「だって騎士団の人達、最初は全然動かなかったんですよぉ。ホントならもう半日くらい早く来れたはずなのに……ね~? 副団長様?」
「ちょっとリサ。そんな言い方は……」
「そちらのお嬢さんが言っている事は事実だ。団長や部下達は、そもそもここへ来る気が無かった。私が宿直で駐屯地へやって来た時には、報告を受けてから半日近く経っていたのだよ」
「そんなバカな……何故そんなことになったんだ?」
「我々が獣人だからです」
副団長に詰め寄ろうとするアイトを、リーフの父親が止めた。
その場の全員の視線がその顔に集中し、彼は重々しく口を開く。
「騎士団にも、獣人を良く思わない人は沢山います。だからリーフも駐屯地では無く、正規ギルドを目指したのでしょう」
「そうか、正規ギルドを……。本当に申し訳ない事をした。どうにか差別意識の薄い者をかき集めたが、新兵ばかりで行軍が遅くなり……」
「いいえ。それでも来て下さいました。あなた様のような方がいらっしゃるから、我々はこの国で暮らしていけるのです」
「……そうか」
リーフの父親の言葉を噛み締める様に、副団長は目を閉じた。
雰囲気が和やかになったのを感じ、フェリはふと気になっていたことを聞いてみる。
「あの、副団長様。ガルデン……盗賊の頭は見つかりましたか?」
「確か白髪の青年だったか……部下が追跡しているのだが、まだ報告が無い。どうもマーゴスと言う大男も消えていたらしくてな」
「そうですか……早く捕まると良いけど……」
「む? 部下が話がある様だ。悪いが失礼するよ」
「あ、はい」
「ありがとう騎士様!」
副団長はお礼を言うリーフに笑顔で手を振り返しながら、少し離れた所にいる騎士の下へ歩いて行った。
あの騎士はずっと何か言いたげにこちらを見ていたが、獣人が集まっているこの場に近づき難さを感じていたのだろう。
(獣人差別、か……)
ずっと大森林で暮らしていたフェリは、話には聞いていたが実感が無かった。
フェリ自身、初めて獣人を目にした時は驚きを隠せなかったが、彼等はずっとそんな奇異の目に晒されてきたのかもしれない。
「副団長殿は信用出来そうな方だな。……ところでフェリ。私が気を失っている間、何か変わったことは無かったか?」
「え!?」
深刻なことを考えていたフェリは、予想していなかったアイトの言葉にギクリとした。
アイトの言う『変わったこと』が何を指しているのか、わかるようなわからないような……そんな焦りが生じる。
「か、変わったこと……って?」
「いや、何という訳では無いんだが……気になった事があれば……」
「あれ~? なんかズレてる」
「!?」
「ズレ……てる……?」
突然割って入った危うい言葉を耳にし、フェリは驚いた様に、アイトはショックを受けた様に硬直した。
すぐ近くでずっとイジけていたデュオが、地面に描いていた何かとナイフを交互に見つめている。
「あ。刃が欠けてる。最近手入れサボってたもんな~」
「欠けてる……手入れ……」
「あ、アイト! 特に気になるような事は無かったわよ!? 不自然な事なんてなんっっにも無かったわ!」
「不自然……なんにも無い……」
「ちょ、ちょっとアイト……? そうだ! マリアーナの様子を見て来たら? アイトが来るのを待ってるみたいだし!」
「あ、ああ……そうしよう……」
「アイトさまぁ? どうしたんですかぁ?」
近くに落ちていた鏡の破片を凝視していたアイトが、リサに支えられながらフラフラとした足取りで歩き出す。
フェリがドキドキしながらそれを見送っていると、さっきより近い位置からデュオの暢気な声が聞こえた。
「神にも髪にも認められなかったんだね~」
「!! デュオ!? ……アンタまさか……見て……?」
「んー? 何の話?」
隣に立ってとぼけた顔をするデュオを見て、フェリに冷や汗が滲む。
デュオが地面に描いていた波線の塊は、何故か勇者の髪型によく似ていた。




