第22話 竜巻
「さっすがお頭! こんな所に隠れてやがるとは思わなかったぜ」
「おっ、マーゴスの兄貴も捕まってるぞ!」
「…………」
白髪の青年に脅されるまま、フェリとアイトは外へと引っ立てられた。
建物の前にある少し開けた場所で、数十人はいる盗賊達が2人を取り囲む。
嵐はいつの間にか過ぎ去っていて、太陽の昇り始めた周囲には湿気の残る空気だけが漂っている。
(まさか本当の頭が別にいたなんて……)
マーゴスと言うらしい捕まえた大男の力量を考えても、頭で間違いないと思っていたのに。
目の前の青年が拳にまとう魔力の質は、彼がマーゴス以上の攻撃力を持つことを物語っていた。
目つきが悪く荒々しい雰囲気を持つ青年は、猿ぐつわと縄を解かれた大男を横目で見やる。
「こんな奴らにまんまと捕まりやがって。ざまぁねーなぁ? マーゴス!」
「わ、悪かったおかし……ぐああああっ!?」
青年がマーゴスに手をかざすと同時に、周囲に爆音が響き渡った。
顔を押さえながらのたうち回るマーゴスを見て、フェリは思わず声を上げる。
「ちょっ……なにしてるのよ! 仲間なんでしょう!?」
「負けた手下に罰を与えんのは当然だろうが! 生き残ればまだ使ってやるよ!」
彼はそう言いながら、拳の魔力を威嚇するように爆ぜさせた。
容赦のない青年の振る舞いに、盗賊達も心なしかビクついている。
「俺が奴と連絡を取ってる間に、このガルデン様を随分とコケにしてくれたじゃねぇか。この礼はたっぷりしねーとなぁ!?」
「フェリ! 避けろ!」
「きゃ!?」
耳元で聞こえた爆音に一瞬目を閉じたが、フェリは自分が倒れてすぐに、押された方へ目を向ける。
目に入って来たのは、肩を押さえてうずくまっているアイト……フェリは縋り付く様に近づいた。
「アイト! しっかりして!」
フェリは慌ててアイトを揺さぶったが、気絶してしまったようだ。
息はあるのを確認して安心したのも束の間、後ろで小さな爆発音が唸る。
「安心しな! 仲良く送ってやるぜ」
「……させない!」
フェリは立ち上がり、ローブを脱ぎ捨てた。
長い銀の髪がシンプルな白いワンピースの背に滑り落ちるのを見て、盗賊達が冷やかす様な声を上げる。
この行為が何を意味するのか……それを今理解できるのは、この場でフェリだけだ。
フェリは胸の前で、ボールを持つ様に手を構えた。
(魔力の制御はまだ出来ない。炎や雷だと被害が大きすぎるわ。でも風くらいだったら……全力じゃなければきっと……!)
周囲の空気が急に収束し始めたのを感じた盗賊達が、フェリから距離を取る様に後ずさる。
ガルデンは動かなかったが、先程までの舐め切った態度が警戒へと変わった。
「ちっ……魔術師だったのか」
フェリがどの程度の力を持っているのか測りかねているのか、誰もその魔術師を止めようとはしない。
それが仇となり、彼等はフェリの手に充分な魔力を宿す時間を与えてしまったことに気付かなかった。
(大丈夫、本気じゃない。村の人達は床下にいるし……あ!)
唐突にある事に気付き、フェリは魔術を放とうとしていた手を止める。
自分の背後には、気絶したアイトがいるのだ。魔術を放つのは前方だが、巻き添えを喰らうかもしれない。
……だがその心配は、緊張感のない『あの声』によって吹き飛んだ。
「なんかやるの? フェリ」
「!? デュオ! どうして……まぁいいわ」
相変わらず軽い調子のデュオが、気絶しているアイトの上に腰かけている。『どうしてここに』などと聞いても無意味だろう。
彼は来たい時に来るし、かと思えばこうして絶妙のタイミングで現れる。フェリは安堵の表情を浮かべて前を見た。
「しばらく、そのまま座ってて。……いくわよ!」
デュオなら大丈夫――そう確信したフェリは両手を下に突き出し、地面に向かって魔力を放出した。
収束した空気が渦の様にウネり、周りを囲んでいた盗賊も、廃墟と化した建物も……全てを吹き上げていく。
「わぁぁああ!!」
「た、竜巻がぁ!?」
「飛ばされるぞーー!!」
盗賊達の絶叫をも巻き込むその竜巻は、しばらくの間その周囲を薙ぎ払った後、ゆっくりと消失した。
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「やるね~フェリ。魔力の制御、上手くなったんじゃない?」
「そう、かしら……これで?」
目の前の惨状を眺めていたフェリは、デュオの言葉に同意しかねた。
かつての村を形成していた物は跡形もなく消え去り、暴風に振り回された盗賊達が、詰み上がった瓦礫の上で伸びている。
「だといいけど」
「あ。フェリ、後ろ後ろ」
「へ? 後ろ? ……あ!」
「てめぇ……このクソ女がぁ……!」
デュオが指差した瓦礫から、ガルデンが這い出してきていた。
その怒りに満ちた表情を見て、全く戦意が失われていない事を感じ取ったフェリは、慌ててデュオの背に隠れる。
「ぶ、無事だったの……!? ちょっとデュオ! なんとかして!」
「ええ? 俺様がやるの?」
「あんた深淵の魔手でしょ! 強いんだからササっとやっちゃって!」
「深淵の魔手、だと……?」
すっかり緊張感の無くなったフェリとは裏腹に、ガルデンは急に狼狽し始めた。
フェリの前に立つ黒装束の男――その姿を見て、近付こうとしていたハズの足が少しずつ後ずさって行く。
(……なるほど。これはいけるかも)
冷や汗をかいている様子のガルデンに、フェリはふと思いついて畳み掛けた。
「いいの? これ以上私達に何かしたら、世界一の暗殺者がアンタをあの世に葬り去るわよ!」
「ハッ、本物とは限らねーだろうが! ……ぐ……だが……」
「さぁ、大人しくお縄に……ってああ!? あれって……!」
フェリの視線はガルデンを通り越し、その遥か後方に向けられた。村に向かって近付く複数の影と蹄の音――ついに来たのだ。
「騎士団! 来てくれたのね!」
「何!? クソッ、退き時か……いいか! 俺はソイツにビビった訳じゃねぇ! いずれクソ女もろとも消してやるからなぁ!」
月並みな台詞を吐きながら、ガルデンが盗賊達を置いて走り去る。
フェリが騎士団に向かって大きく手を振っていると、デュオがいじけた様な声を出した。
「フェリ酷い……俺様の名前だけが目的だったの?」
「へ? ちょっ……人聞きの悪いこと言わないでよ! 助かったんだから良いじゃない。名前だけなら依頼料はいらないんでしょ?」
「そりゃそうだけど、俺様超かなし~」
「アンタねぇ……ん?」
いじけるデュオにフォローをするべきか悩んでいると、フェリの胸に何か黒いものが落ちて来た。
フェリはしばらくそれを凝視した後、その用途に思い至って慌ててデュオを見る。
(……よし、気付いてないわね)
こちらに背を向けながら、ナイフでいじいじと地面をいじるデュオに気付かれない様に。
フェリは手に持っていたそれをそっと……気絶している勇者の頭に被せた。




