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第13話 神器を投げたらマズいでしょう


「そういう事なら仕方ない。キミも我々の旅に同行してくれ」

「めんどいからヤダ」


 一応知り合いであることをフェリが説明すると、アイトは渋々といった様子でデュオの勧誘を始めた。

 魔王との戦いに必要な力だと言っていたので、神器を手に入れた人間は是が非でも引き入れたいのだろう。


(いや『深淵の魔手』を仲間にって……知らないって怖いわ……)


 軽い調子に忘れがちではあったが、デュオは世界中に名が知れ渡るほどの暗殺者だ。フェリには彼が仲間に入るとは到底思えなかった。

 実際デュオはアイトの説明を殆ど耳に入れず、大樹に寄り掛かってどうでも良さそうに神器を弄っている。


「めんどいとはなんだ! その神器は世界の平和の為に、魔王を倒す為に使うべきものだ。見た所キミはアサシンの様だが、今後は神器を持つ者として相応の振る舞いをしてもらおう」

「アサシン? 相応の振る舞いってなに」

「殺人などと言う非人道的な行為をやめろ」

「商売上がったりじゃん」

「…………」


 デュオの言い分は全くもって正論だと、フェリは思った。

 人殺しが正しいとは言わないが、暗殺者に人を殺すなというのも変な話だ。

 そう思うのは、やはり自分が闇ギルドと関りを持つ人間だからなのかもしれないが、勇者の考え方には個人的にも抵抗を感じた。

 暗殺だって世界の平和の為になることはある、というのがフェリの持論だったからだ。


「あの、勇者様。デュオは色々と忙しいので旅は無理ですよ。それにあの、神器って厳密には魔王を倒すための武器って訳じゃないし……」


 神器とはあくまで『神に認められた者』に与えられる武器であり、必ずしも世界平和の為に使われてきた訳では無い。

 何を基準に選ばれているのかは不明だが、その用途については善行悪行様々な形で各国に言い伝えられている。世界を救う勇者が代々受け継いできたという聖剣とは、本質的に異なっているのだ。

 もちろん、かつての勇者が何かしらの神器を携えていた事は伝えられているので、全く無関係という訳では無いのだが……そこまで言おうとしてふと、フェリに単純な疑問が浮かぶ。


「あれ? でもどうして槍と斧はダメだったのかしら……。勇者様なら、割と無条件で神器を扱えますよね? 『神に認められた者』の代表格ですし」

「認められてないんじゃない? カミサマに」

「ばっバカなことを言うんじゃない!」

「あ、いえ、そんなつもりじゃ……すみません」

「い、いやフェリ! キミに怒っている訳では無い。……デュオと言ったな、そのナイフを貸してみろ!」


 フェリに悪意は無かったのだが、要らぬ補足もあってスイッチが入ってしまったらしい。

 心外だとばかりに、デュオの持つ神器(ナイフ)をもぎ取ろうと手を伸ばすアイト――しかし。


「な、何をする!!」


 指先がナイフに触れる寸前、デュオが手首を捻って神器を地面に放った。

 自分の足のすぐ傍に突き刺さったナイフに、アイトは驚きながら身を引く。

 その場の全員が、まるで水を打ったようにしんとなった。


(あれ? あそこだけ草の色が違う……)


 大樹の周りには芝生が広がっていたが、ナイフが刺さった周囲だけ草の色が明るい。何かあるのかと思い覗き込むが、フェリには特に何も見当たらない。

 アイトも訝しむ様な表情を浮かべたが、すぐに思い直してナイフの柄を握った。そしてどうにか引き抜こうとするも……神器は大樹に刺さっていた時と同じように、びくともしない。


「ぐっ……抜けな、いっ……ぐわっ!?」

「ん~~」


 アイトが四苦八苦している間に、横から伸びたデュオの指が、柄の頭部分にある輪っかをヒョイと引き上げた。

 ナイフを抜かれたと同時に手を放してしまったアイトは、抵抗を失って憐れにも尻餅をつく。


「なっ……貴様! よくも……」

「やっぱダメだ。これいらない」

「何ぃ!?」


 輪っかに指を通したままクルクルとナイフを眺めていたデュオだったが、今度は飛ばすのではなく放る様にして、神器を投げ捨てた。

 柔らかい音を立てて、ナイフが芝生の上に落ちる。


「しょ、正気か貴様!? なんて馬鹿なことを……ぐっ、持ち上がらない……!」


 慌ててナイフを拾い上げようとしたアイトだが、今度は持ち上げる事が出来ない。

 ここまでくると、本当に神に認められていない勇者なのではという空気になって来た。

 マリアーナだけは「アイト様! 頑張って下さいませ!」と声援を送っていたが……。因みにリサは興味無さそうに爪の手入れをしている。

 微妙な空気を感じたのか、アイトはハッとしてナイフから手を放す。

 そして取り繕ったように腕組みをして、デュオを睨みつけた。


「なんのつもりだ!」

「な~んかそのナイフ、しっくり来ないんだよね」

「だからと言って聖なる武器を投げ捨てるな! ……もういい。私は既に聖剣に『選ばれて』いるんだ。()()()()神器の1つと相性が悪いからと言って、どうと言う事は無い」


(さっき神器は必須の力だって言ってなかったっけ……?)


 言い分が先程と真逆になったアイトに、フェリはなんだかなぁという気分になる。

 最初は勇者っぽい雰囲気を感じていたのだが、言動の端々に軟派な気配を感じ始めていた。


「んー……じゃフェリ、これ貸してあげる」

「え? わっ、とと……危ないじゃない!」


 フェリがアイトに呆れた様な視線を送っていると、デュオがナイフを拾いざまに放り投げて来た。

 危険な行為に抗議するフェリだったが、不思議な事に、咄嗟に受け取ったその手には柄の部分だけが収まっている。


「だから投げるなと言っているだろう!」

「ナイフって投げるもんだし~」

「神器は別だ! 普通に使え普通に! ……い、いやまて。なぜ彼女は持てているんだ?」


 不思議な事はもう1つあった。

 アイトがいくら頑張っても持ち上がらなかったにも関わらず、フェリの握るナイフは小枝の様に軽かったのだ。

 先程抜こうとした時に微動だにしなかったのが嘘のように、持ち手の動きに何の抵抗も示さない。


「俺様が渡す分にはいいんじゃない?」

「ばかな……」

「いや、ていうか私、ナイフの扱いは得意じゃないんだけど……」

「果物切るのに使ったらいいよ。美味しく切れそうだし」

「果物ナイフだと!? 貴様いい加減に……」

「ねぇ、フェリはコレと一緒に行くの?」

「…………」


 台詞を遮られ、その上コレ呼ばわりされたアイトは絶句したが、デュオの興味は既にフェリへ移っている。

 すっかりデュオのペースにはまっているアイトを気の毒に思いながら、フェリは頷いた。


「ええ。当分帰れないと思うわ」

「ふ~ん、まぁ俺様はいつでも会いにいけるからいいけど」

「会いにって、ついて来るつもりなの? 仕事はどうすんのよ」

「今まで通り。依頼を受けたら仕事して、フェリに会いたくなったら行くよ」

「アンタねぇ……」


 これから国から国へ渡ろうと言うのに、仕事の合間に会いに来るつもりなのだろうか。

 そう言えば、確かに旅立つと決めた昨夜も「またね」と言われた気がする。さすがにそういう意味だとは思わなかったが。


「なんか魔王を倒しに行くんだっけ? なんなら俺様がサクッと殺って来ようか?」

「そんな軽いノリで出来る訳が無いだろう! こういうことはまず世界を回り、神器や仲間を集め、心も体も成長してからするものだ!」

「いや、そのくらいわけないし。めんどいからさっさと済ませればいいじゃん」

「貴様は何もわかってない!」

「はぁ……」


 フェリは眩暈がした。アイトがいくら抗議した所で、デュオはやると言ったらやる。

 短い付き合いだが、彼が人の都合を全く加味しないことは身に染みてわかっていた。

 だがフェリは、言っても無駄だと諦めると同時に、抗議する理由は無いような気もしてくる。


(ま、いっか。苦手なタイプばっかりで気が滅入ってたし……ん?)


 デュオも苦手なタイプに含まれるのではないだろうか――そう考えそうになって、やめる。

 自覚したところで、余計な気苦労が増えるだけだ。


「ま、良いんじゃない? 補欠要員ってことで」

「オッケ~」

「良くない!」


 アイトの抗議空しく、結局デュオは勇者一行の補欠要員に納まった。

 動機はあくまでフェリに会うことの様だが、不思議とフェリの気持ちは明るい。ちなみに……


(あ、そう言えばコレどうしよ……)


 神器のナイフはその後何度返そうとしても受け取って貰えなかったので、最終的にはデュオの言う通り、果物ナイフとして落ち着いた。


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