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第二十五話 【事実との遭遇】

今回から第二部に入ります。

第二十五話


 窓から差し込む朝日が、寝台に寝ている人物の顔を容赦なく照らし、目覚めに導こうとしている。

「ん~………………」

 人物、北郷一刀は光に顔をしかめ、身じろぎをする。

 それに伴い意識が徐々に覚醒し、ゆっくりと瞳を開く。

「………………朝か」

 飛び込んできた景色にピントを合わせて、もう一度身じろぎをして身体をならす。

 目覚めに見るいつもの見慣れた光景に、一刀は現状を確認する。

「…………いつも通り、か」

 自分が三国志の時代に来ている事が、寝台の様式で確認できた。

 そして、ゆっくりと記憶を遡る。

 昨日、と表現するのが正しいかはまだ分からないが……

 その日は、自分の妹がいきなり現れた。

 自分の城に彼女を連れて帰ると、今度は家族全員が現れた。

 その理由を、スーツの男二人に説明された。

 自分の家族がやって来た歓迎会を行った。

 と考えている内に、軽い頭痛が走る。

 夕べ酒を呑んだせいか、それとも睡眠を多くとりすぎたのか。

 理由はともかく、一刀はその痛みに上半身を起こした。

「ハァ………………」

 後頭部を掻きながら、深く溜め息を吐く。

 まだぼやけている視界は、当たり前の景色を一刀に見せつける。

「……………………!」

 彼の意識が、ある一点に集中する。

 それが見間違いかと思い、頬を両手で叩き、目を擦る。

「…………………………」

 もう一度そこに目をやり、しっかりと見つめる。

 飛び出すように寝台から離れると、そこに近付いて手を伸ばす。

 手にした物を見つめて、一刀は呟いた。

「…………夢じゃない、か」

 彼の手にあるのは、木製の写真立て。

 飾ってある写真は、十年程前の自分と自分の家族が写っている。

 昨夜、母親から手渡され、仕事机の上に置いた物だ。

 事実を一気に実感して、熱いものがこみ上げてくる。

 写真立てを持つ手も微かに震え、咄嗟に視線を逸らした。

「………………はは」

 逸らした先に目に入った物に、今度は苦笑を浮かべる。


 それは、紙に墨文字で荒々しく書かれた注意書き。

 確かにこれも、昨夜の出来事を証明付ける物である。

 ただ、変なタイミングで出て来たので、一刀の心情が一気に下がった。

「……まあ、俺らしいな」

 普段の自分の待遇と照らし合わせて、一刀は苦笑した。

「さて……。どうしようかな?」

 自分の部屋にある物証だけでは、やはりどうも不安なのか、手にした写真立てを机に置き直して一刀は扉の方を見る。

「…………もう起きているのかな?」

 いつもの服装のまま眠りに就いたので、そのまま一刀は部屋を出る。


 願わくば、自分の家族に会えることを祈って。




 歩いて一分としない内に、一刀はとある人物たちに出くわす。

 場所は東屋の中。その人物たちは似たスーツを着て、互いに睨み合っている。

「さあアキラ、お前の番だ」

「うぐぐぐ……。くそぉ」

「……懐かしい事やってますね?」

 一刀がそう訊いたのも当然だ。

 男たちがやっているのは、一刀の世界では当たり前になっているトランプゲーム、“ババ抜き”である。

 しかも、遊んでいるのも正真正銘、本物のトランプだ。

「申し訳ありませんが、北郷一刀様。これは真剣勝負なのです」

「……ババ抜きが?」

「ただのババ抜きではございません。昨夜の宴会に使用した数多くの食材と名酒。その費用をどちらが受け持つかの勝負なのです!」

「……それをババ抜きで決めるの?」

「はい。予想外に手痛い出費となりましたので、平等に勝負を決めるために……」

 と、喋っている途中で、対戦相手が不服そうに口を開いた。

「何が平等っすか!? 主任はこの手のゲームは大得意じゃないっす……かっ!?」

「それを忘れていたお前が悪い。それに、トランプ勝負を持ち掛けたのはお前だから……なっ!」

 互いの手札を取りながらも、二人は会話を続ける。

 不敵な笑みを浮かべながら反論する上司に、言い負かされた部下は半泣きになる。

「さあ、お前が引く番だ」

 そういう男の手札は一枚、対戦相手のアキラは二枚。

「アキラさんの負けだね」

 一刀がそう呟いた瞬間、敗者のアキラは一刀に助けを求めた。

「そこを何とか天の御遣いのお力で……!!」

「じゃあ、ポーカーとか他のゲームをしてみれば……」

「それも僕が惨敗しました!」

「あぁ、やってたの……」

 負けた割には元気の良い返事に、幾分気が抜ける。

「それ以外で何か……」

「じゃあ、諦めたら?」

「試合終了!?」

 いとも容易く突き放されたアキラは、その絶望感を顔一杯に表していた。

「たぶん、アキラさんがしつこく勝負を長引かせたんでしょ、ヤナギさん?」

「仰るとおりです」

 心強い味方を手に入れたヤナギは、勝ち誇った気持ちを不敵な笑みで表していた。

「だったら、俺が口出す道理は無いですよ。じゃあ、俺はこれで……」

「はい、了解致しました」

「ち、ちょっとー! 見捨てんといてーーー

!!」

 悲痛は叫びは、一刀の耳からどんどん遠ざかった。




 二人と別れてからほんの少し歩くと、また一刀の耳に違う音が聞こえてきた。

 金属が数回ぶつかり合う鋭い音と、その合間に聞こえる掛け声。

 おそらく誰かが朝稽古でもしているのだろう、と一刀は予想して音の出所を探る。



 音の発信源は中庭からだった。一刀の予想通り、二名の人物が朝稽古をしていた。

 稽古中の人物は白髪の道着姿の老人、北郷耕作。一刀の祖父である。

 そして、その対戦相手は神速との名高い女性、張遼文遠。真名を霞という。

「どないしたん? もうバテたんかっ!?」

「まだまだぁっ!!」

 -ガキィィン!!-

 朝の澄み切った空気の中、二人の声と撃ち合う音が響き渡る。

「…………夢じゃないよな?」

 頬を抓りながら、目の前の光景が現実であることを確認する。

「……どうせなら、最初にこれを見たかったな~」

 涙目で少し赤くなった頬をさすりながら、先程の少しみっともない戦いを思い返していた。

 苦笑を浮かべながらも、目の前の光景が嘘でないことを実感して一刀は嬉しくなった。

「おーい、霞ーっ、爺ちゃーん!!」

 二人の方へ歩み寄りながら、一刀は声を掛けた。

「ッ!!!?」

「おお、一刀。お前も早い…………な?」

 一刀へ話しかける途中で、耕作は何かが横を猛スピードで通り過ぎるのを風圧で感じ、そちらに目をやる。


 見ると、先程までの対戦相手が姿を消していた。



 呼びかけた一刀の目に飛び込んできたのは、轟音と共に砂埃を巻き上げて近付いてくる女性の姿。

 見れば満面の笑みでこちらに駆け寄ってくる。


「…………かーーーーずとーーーーっ!!!!」

 良い間合いを見計らい、その勢いを維持したまま踏み切って、両手を広げて飛び込んでいく。

 しかも、一刀の名前を大声で叫びながら。

「……霞? どうしたんダァーーーーーー!!!?」


-ズサーーーーーッ!!-


 凄まじい勢いで飛びかかるように抱きついてきた霞を、一刀は文字通り全身で受け止めた。

 砂埃が、倒れ込んだ二人を包み込むように舞い上がる。

「かずとっ、かーずとーっ♪」

「ゴホッ、ゴホッ! し、霞! いきなり何だよ!?」

 いきなり抱きしめられた苦しさと、舞い上がる砂埃に咳き込みながらも、唐突に訪れた意味不明な状況を理解しようと、仰向けのまま相手に問い掛ける。

「一刀っ、おおきに!!」

「……はい?」

 いきなりの感謝の言葉をかけられて、一刀は更に混乱している。

「ウチとの約束、守ってくれたやろ?」

 そこまで言われて、やっとの事で一刀は思い当たった。

「…………ああ、日本酒の事か。いや、別に大した事じゃ無いだろ?」

「そんな事無いっ! ウチめっちゃ嬉しかったんや! 一刀が覚えててくれて……」

 仰向けの一刀を見下ろす形で、霞は真剣な眼差しで見つめている。

 顔は少し朱くなり、瞳も少し潤んでいる。

「忘れる訳無いだろ? 霞との約束なんだから……」

 無意識なのか。

 霞の右頬に手を触れながら微笑んでいた一刀の姿に、霞の胸はどんどん高鳴っていく。

「……一刀はホンマにズルいわ。そんなん言われたら適わへんやん……」

 一刀の手に自分の手を重ねて、微かな涙声で霞は呟いた。

「ハハ……。確かに、少しズルいよな」

「でも、ホンマに嬉しいわ。おおきに……」

「霞…………」

「一刀…………」




「…………ゴホンッ!!!!」




「!!!?」


 近付こうとしていた二つの影が、素早く離れて立ち上がる。

「仲が良いのが悪いとは言わん。……が、ちと場を弁えて貰えんかの?」

 こめかみを掻きながら、呆れたように溜め息を吐く。その片方の手には、霞の愛用している飛龍偃月刀を模した、刃の潰れた模擬刀が握られている。

「いくら模擬刀とはいえ、自分の武器を放り出すとは…………」

「ニャ、ニャハハハ! いやー、その何ていうんやろ…………」

 気まずそうに頭を掻く霞。その目はあちらこちらに泳いで定まろうとしない。

「天下の張文遠殿も、惚れた男の前ではただの猫、という事ですかな?」

「うぅ~…………」

 少し意地悪そうに笑う耕作の言葉に、霞は真っ赤な顔で細かく手遊びをしていた。

「じ、爺ちゃん。あまり霞を苛めないでくれよ…………」

「しかし、一刀の嫁にするならワシは反対はせんぞ?」

「……へっ?」

 いきなりの話題転換に、二人して間の抜けた声を上げる。

「張文遠殿は武だけでなく、知力も中々のものらしいじゃないか。文武両道を備えた女性は、ワシは歓迎するぞ。実際、端から見ても二人はお似合いだと思うがな?」

「イ、イヤやわ~爺ちゃん! そんなに褒められたら、ウチ、どないしたらええか、わからへんや~ん!」

「痛い痛い痛い痛いッ! 霞痛いって!!」

 頬に手を当てて、これまで以上に顔を真っ赤にした霞は、あまりに照れたせいか隣にいる一刀の背中をひっきりなしに叩いている。




 あまりに和やかな雰囲気の為か、まだ三人とも気付いていなかった。



 城壁の上に立つ、怪しい人影に…………






-続く-

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