表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/67

第二十四話 【夢と現の狭間】

これで第一日目の話が終わります。長かった……

第二十四話


 北郷一家の星空の約束の後、全員の雰囲気がしんみりとして、誰が言うでもなく宴会が何となくお開きになった。

 宴会場が元の大広間の佇まいを取り戻し、全員が自分の寝所や持ち場に戻るとなった時、また違う争いが静かに起こった。


 “誰が北郷一家を、部屋へと案内するか?”


 三国の君主は、それぞれの言い分を持ち寄り、その役目を獲得しようとした。

 一人が子供の世話をしてくれたせめてもの御礼をと言えば、一人が城内の仕組みを理解しているのは自分だと言い、一人が料理の事に関して詳しい話をしたいと言う。

 先程までの和やかな雰囲気から一転、下手すれば激しく火花が散りかねない空気へと変わる。

 しかし結果として、夜も遅く平和的かつ平等に、と言うことで、妹の佳乃を桃香と愛紗が、父親の燎一と母親の泉美を孫呉の三姉妹が、祖父の耕作を華琳が案内する事となった。

 ちなみに、護衛の男二人は一刀が案内することになり、二人はその扱いの違いに苦笑したとか。




-佳乃の部屋-


「ここが佳乃ちゃんの部屋だよ」

「何か用件があれば、この鈴を鳴らすと良い。侍女が来てくれるからな」

「ありがとうございます……」

「もう、愛紗ちゃん。佳乃ちゃんと喋るときは、もう少し優しくしなきゃ……」

「で、ですが……」

「あの、私は気にしていませんよ。真面目な人だっていうのは、ちゃんと伝わりますし、愛紗お姉ちゃんみたいなしっかりした女性には憧れますし……」

「そ、そうか……」

「あー、佳乃ちゃんひどいよ~! それって私がダメなお姉ちゃんってこと?」

「イ、イエ、あの、そういう事じゃなくてですね……!」

「ウフフッ、冗談だよ。佳乃ちゃんはそんな事言わないもんね?」

「桃香さま、あまりからかってはいけません!」

「もう、怒らないでよ~愛紗ちゃん。じゃあ、佳乃ちゃん。おやすみなさい……」

「邪魔したな、ゆっくり身体を休めると良い」

「はい……。おやすみなさい……」




-耕作の部屋-


「ほぉ……。なんと豪勢な……」

「慣れない部屋で不便かと思いますが、こちらの部屋をお使い下さい。寝台近くの鈴で侍女を呼ぶことも出来ますので、何かの御用の際には……」

「かたじけない……。曹孟徳殿……」

「それでは、失礼致します……」

「ああ、曹孟徳殿。一つ宜しいですかな?」

「何でしょう?」

「ワシに敬意を払う必要はありませんぞ。こんな老いぼれなど、貴女様にかかれば一捻りでしょう?」

「……私も一人の女に過ぎない、という事です」

「は?」

「心奪われた男の家族には、嫌われたくありませんので……」

「……ハハハハッ、我々がそのような軽い人間だとお思いで?」

「いえ、思ってはおりませんが……」

「ならば、他の皆にするように、もっと友好的な言葉遣いで構いませんぞ?」

「では私も一つ」

「何ですかな?」

「あなたは、いつ真名を呼んでくださるのかしら?」

「おやおや、これはこれは……」

「あなたが真名を呼んでくださるまで、私もこの態度を崩しません……」

「……では、貴女とワシの我慢比べになりますかな?」

「譲る気はありませんから……」

「臨むところです……」

「……では、失礼致します」




-燎一・泉美の部屋-


「こちらです。少々狭いかと思われますが……」

「あらあら、凄く素敵な部屋~!」

「何か困った事があったら、鈴を鳴らせば侍女が来てくれるからね」

「ありがとうございます。恩に着ます」

「もう、お義父さまったら! 私達の仲じゃないの~。そんなに堅くならなくても良いのに~!」

「ハア、努力します……」

「姉様が緩過ぎるんです! せっかく一刀のご両親が来てくださったというのに、ずーっとだらしない姿を見せて……!」

「なによ~、蓮華が真面目すぎるのよ~? お義父さまとお義母さまの前で、良いカッコしようとして張り切っちゃって……」

「そ、そそそういう事ではなくて! 普段からきちんとしてくれれば、私だって……」

「あの……。お二人を止めなくてよろしいんですか?」

「二人が言い争うのはいつもの事だから。それに、二人が喧嘩していれば、シャオの方が分別あるように見えるでしょ?」

「シャオ!! 聞こえてるわよ!!」

「あー、もうウルサイなぁ……」

「あの、一つ訊いても良いかしら?」

「あ、はい! 何でしょう?」

「今更ですが……。皆さんは、どうして私達を信じてくれたんですか?」

「え?」

「佳乃ちゃんの事もそうですけど、どうして私達をカズ君の家族だと信じてくれたのか……。もしかしたら、誰かの命を奪おうとして近付いたのかもしれないですし……」

「……私達が、信じたかったから。……でしょうか?」

「信じたかったから……?」

「お母様が一刀を抱きしめていた時の、一刀の雰囲気を見ていたら……。偽者であるなんて、言える訳無くって……。そんな事したら、一刀が凄く辛いですから……」

「蓮華ちゃん……」

「それに、何となーくですけど、私達のお母様に似ていますのよ……」

「三人のお母様と仰いますと……。孫堅文台様、でしょうか?」

「うん……。シャオもよく分かんないけど、なんか似ているの……」

「だから、あたし達がお母様を疑ってはいけない。そんな感じがしましたの」

「……ごめんなさいね、変なことを訊いてしまって。それに、皆さんのお母様の事も……」

「お気になさらないで下さい。私達は、大丈夫ですから……」

「皆さんのお母さんとして認められるように、私頑張りますから……」

「それもだーいじょーぶ! みーんな大歓迎だよ!」

「そうそう。多分他の皆も、同じような理由で信じて下さってますわよ」

「……ありがとうございます」

「父親の私からも、信じてくれてありがとうございます」

「いえ……。それでは、ゆっくりとお休み下さい……」

「あ、あともう一つ訊きたい事が。カズ君の部屋って、どこにありますか……?」




-コンコンッ-


 自室の寝台で休んでいた一刀の耳に、扉をノックする音が聞こえてきた。


「ん? はーい、誰?」


-カズ君、寝ていた?-


 聞こえてきたのは、母親の声だった。

「母さん? ちょっと待って……」

 寝台から身を起こし、扉の方に歩み寄る。

 念のために扉から少し身を離して、ゆっくりと開いた。

「ごめんね? もう寝ようとしてた?」

 少し開いた隙間から見えたのは、間違いなく自分の母親だった。

「いや、大丈夫だよ。ちょっと待って……」

 扉を更に開いて中へ招き入れる。ゆっくりとした足取りで、片手に小さな手提げ袋を持った泉美が入ってきた。

「ごめん、疑うような真似して。一応警戒しといてくれって、ヤナギさん達に言われてたから……」

「じゃあ、これも二人が貼ったものかしら?」

 そういう泉美の手には、一枚の紙があった。

「何それ?」

「カズ君の部屋の扉に貼ってあったの」


 そう言って見せられた紙には墨文字で荒々しく


 “夜這い、朝駆け、北郷一刀様を想うのなら辛抱せよ!!”


 と書かれていた。


「多分、そうだろうね……」

「そういえば……。ここに来る途中に何人か女の子とすれ違ったけど、みんなガッカリしたような顔してたわね」

 母親の言葉で、肩を落として去っていく女性陣の姿がくっきりと想像できた。

「きっと、これ見たんだろうな……。てか、これ日本語なのに良く分かったな……」

「じゃあ、これ剥がしておきましょうか?」

「いや、皆が帰っていったんなら、効果はあるんだと思う。多分、漢字とこの字の迫力で伝わったんじゃないかな?」

「フフフ……愛されてるのねー」

 微かに肩を揺らしている泉美とは対照的に、一刀の表情は曇っていた。

「でも今回は、皆を守らなきゃ……。俺が……何か出来る訳じゃないけど……けど、何か出来るんだったら……力になりたいんだ……!」

「カズ君…………」

 紙を持つ息子の手が小刻みに震えているのを、母親は心配そうに見つめている。

「……あ、そう言えば母さん。俺に何か用だったんじゃ?」

「……あ、そうそう! これ……」

 一刀は注意書きの紙を仕事机の上に置き、泉美は手提げ袋に手を入れた。


 泉美が手提げ袋から出したのは、木製の写真立てだった。

「これ…………」

 差し出されたそれを受け取った一刀は、中の写真に目を奪われた。

 飾られているそれには、幼い一刀と妹、そして両親と祖父が写っていた。

 切り取られた季節は夏。その暑い日差しの中、目一杯の笑顔で並んで地べたに座っている自分と妹。その後ろで彼らを見守るように、優しく微笑んでいる両親と祖父の姿。

「もう十年くらい前のだけど、皆が写っているので、綺麗なのがそれぐらいだったから……」

 泉美は、写真を見つめる一刀に優しく微笑んだ。

「確か、鹿児島の爺ちゃんの家だったね……。近くの川辺でバーベキューした時のだったっけ?」

「そうそう……。カズ君がはしゃいでずぶ濡れになって、浅い川なのにそれを見た佳乃ちゃんが“お兄ちゃんが溺れた!”って泣いちゃって……」

「懐かしいな…………」

 写真を見ながら、一刀も柔らかな微笑みになる。

「…………母さん」

「何?」

 写真から顔を上げた一刀の顔は、泉美にはどこか凛々しく感じた。

「俺、決めたよ……。こういう思い出を、皆と沢山作っていくんだ。その為にも……誰一人欠けちゃいけないんだ……。だから……俺……」

 終わりの言葉が途切れがちになる。息を詰まらせながらのその言葉に、泉美はただ微笑みを崩さないでいる。


「…………そう、分かったわ」


 その意志は、ちゃんと伝わった。


 そう言わんばかりに、一刀の顔を見つめ返した。

「ごめんなさいね、夜遅くに……」

「いや、いいよ。写真……ありがとう……」

「…………おやすみなさい」

「うん……。母さんも、おやすみ……」

 就寝の挨拶を交わして、泉美がゆっくりと一刀に背を向けて、扉の方へと歩み寄る。


「…………母さんっ!!」


 扉を開こうとした時、突然大声を上げる一刀。

 ピタリと泉美の動きが止まり、次の言葉を待つ。


「俺……、その……。大丈夫……だから……」

「…………………………そう」


 振り向きもせずに、そう呟くように話すと、泉美は部屋を出ていった。


「……………………」


 静かに扉が閉まるのを確認すると、一刀は深い溜め息を吐く。


「…………おかしいな、今日の俺」

 最後にどうしてあんな事言ったのか、自分でも分からなかった。

 視線を落とすと、先程受け取った写真立てが目に入る。

 自分と家族が揃っている写真。

 これが今自分の手にある事も、何より自分の家族が今この世界にいる事もまだ信じられない。

「………………ハァ」

 また溜め息を吐いて、とりあえず仕事机の上に写真立てを置く。

「寝る…………か…………」

 体を投げ出すように寝台に横になると、一刀は思いを巡らす。


 今日一日の出来事は、全て自分の夢ではないか。

 夢だったら、どんなに楽だろうか。

 今悩んでいるモヤモヤが、全て夢のせいだったと言い訳が出来る。

 突拍子のないSFじみた話も。元いた世界でしか味わえない料理や便利な道具も。

 しかし、もし夢なら、自分が家族に会えた事も嘘になってしまう。

 夢だとすれば、あまりにも残酷だ。

 いっそのこと、このままずっと起き続けていれば……


 そう考えている内に、まどろみがやって来た。

 これは果たして夢からの目覚めか、それとも本当に夢へと誘う合図か。

 考える暇を与えずに、まどろみはどんどん強くなる。


「…………なるように……なるさ」

 まるで呪文のように、戦乱の時期に自分に言い聞かせてきた言葉。

 実際に呟いたのか、頭に浮かべたのか。

 その言葉を最後に、一刀はまどろみへ身を委ねた。






-続く-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ