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第二十三話 【星空への誓い】

第二十三話


 宴が開かれてから数時間が経過し、空には無数の星が瞬く頃、一人の男性が大広間の外の廊下に出ていた。

 その視線は、空に浮かぶ無数の星々に注がれている。表情は満足げな微笑みを浮かべている。


「あれ? 父さん」

 不意に後ろから聞こえてきた声に、視線を空からそちらに移す。

「一刀か……」

 声の主が自分の息子であることを確認すると、その表情は先程と同じ微笑みになる。

「星を観てたの?」

「ああ……。一刀は、酔い醒ましか?」

「というよりは……腹ごなし、に近いかな?」

 そう話す一刀の表情は、幾分苦しそうに見える。

「大変だな、モテる男は?」

「ハハハ……。まあ、せっかく作ってくれた物を、残す訳にはいかないし……」

「フッ。……なあ、一刀」

「何?」

「綺麗だな……。この世界の星空は……」

 視線は再び、夜空へと向けられた。

「うん、凄く…………」

「この世界には、私達の世界には当たり前に存在する、数多くの物が無い。だが、この星空のように、私達の世界で失われてしまった数多くの物が、ここにはあるんだ……」

「…………」

 少し心苦しそうに語る父親の言葉を、一刀は黙って聞いている。

「こちらの世界と私達の世界。どちらの方が良いか悪いか、という話では無いんだ。ただ、何を思い、何を感じ、何をするか……。それが大切なんだと、私は考えてたんだ…………」

「うん……。俺も、いきなりこの世界にやってきて、色々と大変な事に直面して……。でも、俺なりに……大切なものを、見つけたんだ…………」

「そうか……。それはちゃんと、守れてるか?」

「まだ不安だらけだけど、そう易々と手放すつもりはないさ……」

「…………わかった」

 二人は意味深長な笑みを交わすと、視線をほぼ同時に星空へと向けた。



「……二人して、天体観測か?」

 しばらくして、二人の後ろからまた違う声が聞こえてきた。

「ああ、お義父さん……」

「爺ちゃんも、酔い醒まし?」

「まあ、な…………」

 声の主は、腕組みをしながら二人の横に並んだ。

 一刀を挟むように、両脇に父親と祖父が立っている。

「やはりこの世界は、まだ空気が澄んでいるのだな。眩しいくらいに、星がよく見える……」

「ええ、本当に綺麗ですよ……」

 祖父も二人と同じように、自然に顔を夜空へと向けた。

「爺ちゃん、まだ元気みたいだね……」

「フッ、まだまだお前に負けんよ」

 口元だけで笑う耕作の姿に、燎一はふと思い出し笑いを浮かべた。

「ですが、曾孫には負けているようでしたよ?」

「そ、それを言うでない!!」

「ハハハッ、すいません……」

 顔を真っ赤にした祖父を、軽く笑いながら眺める父親と息子。

 と、父親の方が何か感慨に浸るように目を細めた。

「まあ、しかし。まさか一刀に子供が居るなんてな……。驚いたぞ…………」

「うむ…………」

「驚かせるつもりは無かったんだけど……。ていうか、皆が来るなんて思ってもみなかったし」

「まあ、確かにな……」

「それよりも、三国志の登場人物が女性だったのが、爺ちゃんにしてみれば驚きだったんじゃないの?」

「いや、それに関してはあまり驚かなかったぞ」

「あれ? 意外だな」

 その言葉通り、一刀は目を見開いて祖父を見ている。

「歴史的、人間的観点から観れば、こういう事は良くある事だ。史実と事実の違いとも言うな」

「と言いますと?」

 祖父からの興味深い意見に、残る二人の好奇心が揺さぶられた。

「劉備玄徳が実は女性だったのではないか、というのは聞いたことがあるか?」

「ええ、あります」

「それと似た話だ。元々三国志の登場人物全員が、この世界のように女性だったという可能性も考えられるのだ」

「だとしたら、何で書物の記録は男性になってんの?」

「それも様々な理由付けが出来る。その勇猛さを聞き伝っていく内に男性と認識された……。男性と言ってしまえば本人達の身を守ることが出来る……。もしくは彼女達に負けた男兵士どもが、女に負けたという事実を認めたくないが為に、敢えて男性にした……しかし、歴史書の記録と事実に違いがあると、様々ないざこざが生じる故、例え真実であっても表沙汰になりにくい、という具合にな……」

「へぇ~…………」

「なるほど……。考えられなくもないですね」

 聞き終わった二人は、感心したように深く頷く。

「……と、思ってはみたのじゃが」

「へ?」

「あの貂蝉と卑弥呼は……。嘘であってほしい……」

「ああ……あれは流石に……」

 嫌なことを思い出して渋い顔をする老人を、二人は苦笑いで眺めた。



「あっ、三人ともいた……」

「あらあら、お揃いで」

 また後ろの方から、今度は女性二人の声が聞こえた。

「あ、佳乃……。母さん……」

「可愛い孫娘は、疲れてみーんな寝ちゃったから、少し休憩に涼みに来たの」

「佳乃は……確か紫苑と桔梗と祭さんと話していたけど……。大丈夫か?」

「…………うん、大丈夫」

 とは言いつつも、その足元は微かにふらついている。予想通り少し酒の匂いにやられた感じになっているみたいで、一刀は苦笑した。

「ハァ…………。綺麗…………!!」

「アラ……本当…………!!」

 二人もやはり同じように、満天の星空に釘付けになる。

「ああ……これは写真じゃなく、頭の中に収める方が良いな…………」

「…………よし、決めた!」

 少し強めに喋った祖父に、全員の視線が集中する。

「何だよ、爺ちゃん?」

「この件が全て解決したら、家族全員で月見酒をするぞ」

「お爺ちゃん、私お酒呑めないんだけど……」

「分かっとるわ、無粋な……。ささやかながら祝いの宴をしよう、と言っとるんだ!」

「あら、素敵ねー!」

「ハハハ、お義父さんは相変わらずの風流人ですねー……」

 和やかな空気の中、一人浮かない顔をして下を向いている人物がいた。


 一刀である。


「全て……。解決したら…………」

 その瞬間、言葉の意味を、全員が理解した。


 解決するという事は、つまり…………


「……どうじゃ、一刀?」

 その言葉に顔を上げると、家族の視線が自分に集中している。

「…………うん、やろう! 家族全員で!!」

 その瞳に、決意の色が映るのが見えたのか、残る四人は一刀に穏やかな表情を向けた。



 そのやりとりを、五十名の女性達と、三名の男性が、大広間の中から心配そうな顔で見つめていた。






-続く-

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