21:『僕が望まずとも、日常は変化していく』
どうもどうも、いつもニコニコ、主役の背後に這い寄る脇役、石上直也です。
さてさて、今日もはりきって参りましょうか。
今日は色々と忙しいですよ。なんてったって、兄貴の実況しつつ絢香の観察もして、おまけに鳴海さんの様子も確認しなければならないのですから!
いやぁ、なんと充実した脇役ライフだろうか。僕は幸せ者ですね。
さて、現在は兄貴達の登校の様子をチェックですよ。
兄貴の両サイドを陣取る友里ちゃんと幼馴染みの理恵さん。二人とも、楽しそうに兄貴と会話してます。微笑ましいですね。
「……フフフ」
――ぞくっ
な、なんだ……?
今、なんか寒気が……
「見つけたよ、直也くーん!!」
「のわっ!?」
突然、背中から降りかかってくる重さ。中腰だった姿勢が崩れて、危うくコンクリートとフォーリンラブになるところでした。
寸でのところで踏み止まり、背中から抱きついてきている悪魔――絢香を引き剥がす。
「僕は今とっても忙しいんだ! はーなーせー!!」
「いーやーだー!!」
引き剥がそうと力を込めれば、それと同等の力でくっついてこようとする絢香。力を入れつつ、横目で兄貴達の方を見ると、なんとまあもうあんな遠くに……
ん? 一瞬、友里ちゃんがこちらを睨んでいたような……気のせいですかね?
まあ、本当に睨まれていたとしたら、原因は昨日のやりとりのせいですね。結局、あれから友里とは会話してませんから。……まあしてないというより、向こうが一方的に僕を避けてるだけなんですけどね。
難儀なものです。
……まあ、それはそれとして。
「絢香、早くどいてくれないか?」
「やだー」
「……」
僕の中で、何かが切れた。ブチッと。
「あんま調子こいてんじゃねえぞゴラァァァァ!!!」
我ながら何とお下品な。皆様、どうも失礼しました。
◆◆◆
現在、学校。自分のクラスです。
あれから絢香を無理矢理引き剥がして全力で逃げ、無事登校しました。
ε=┏(; ̄▽ ̄)┛←こんな感じに。
そんなこんなでぐったりと机にもたれていると、隣の席の瑛さんが恐る恐る話しかけてきました。
「……大丈夫?」
「ええ、なんとか。体力には、そこそこ自信ありますから。それより、瑛さんの方こそ大丈夫ですか?」
「え、……うん。大丈夫だけど、どうして?」
首を傾げる瑛さんに、僕は安堵の声を出す。
「ほら、瑛さんは……中学時代、色々大変だったじゃないですか。絢香の親友……っていう肩書きでしたから」
「あー、そういえば、そうだったね」
絢香の親友……たったそれだけの肩書きで、瑛さんはいくつもの心ない人間の悪意に晒された。それらは本来、絢香が受けるべきもので、なのに、なぜか矛先は瑛さんに向く。
「別に今は神崎さんの親友ってわけでもないし、それに、神崎さんは直也の方に意識が行ってるから」
「なら、今度は僕の番なんでしょうね」
当時の僕は、そういう境遇にあった瑛さんに対して、何もしなかったんです。知ってたのに、見て見ぬフリをしてたんです。
皆さんには話してませんでしたが、現在のクラスにおける僕の評価はあまり良くありません。
原因は、言わなくても分かりますね、絢香です。
絢香は意外とリーダーシップがあり、クラスの中ではその優れた容姿も相まって人気者の部類に入ります。
人気者だと、当然周りには男女関係なく人が集まるものです。
その人気者が自分達を差し置いて一人の男子生徒に盲目的だと、やはり面白くないんでしょうね。
瑛さんに危害を加えてたのは絢香の能力・美貌に嫉妬した者たちでしたが、僕の場合は逆に絢香に羨望する者たち。故に、あまり陰湿なことはされてません。時々、軽い嫌味を言われるくらいです。
僕の返答に、瑛さんは悲しそうな表情を浮かべます。
「……一応、私の方でも注意してるんだけどね」
「あー、無駄ですよ、そういうの。他人に注意されたぐらいでやめるなら、そもそもそんなことしませんって」
「確かにそうかもしれないけど……でも」
「納得できないかもしれませんが、瑛さんが気に病むことじゃないです。全部、僕の責任ですから」
そう。全部僕の責任。それだけです。
せっかくですから、絢香の普段の行動……僕がいない時の彼女の学校での過ごし方について、少し話しましょうか。
まず前提条件として、絢香のスペックはかなり高いです。それも、もしかしたら兄貴以上かもしれません。
絢香の性質を一言で言えば、逆ハー女。別の言い方をすれば、八方美人。
つまり、場の空気を読む能力と相手の本質を見抜く能力が抜群に高いのです。
極めつけは、他者を魅了する話術とその優れた容姿。
だからこそ、絢香と会話した人は、「この人は本当の自分を分かってくれる。この人は信じられる!」と、思うわけだ。
まるで洗脳みたいだが、これは万人に通用するわけではないらしい。
絢香の観察をしてる最中に、たまたま気づいたことだが、そもそも絢香にあまり興味がない人間には全くと言っていいほど効果がないのだ。例えば、僕とかね。
昔は違った。興味ある無しに、まるで一種の強制力のように、それは発動されていた。
そう。僕には、絢香には最早逆ハー女として必須な“強制力”が失われてるように思えるのだ。
絢香の話術は確かに優れているが、それぐらいなら社会に出ればいくらでもいるだろう。空気を読む能力、本質を見抜く能力も、別段珍しいモノではない。鍛えれば、誰だって身に付けられる処世術なのだから。
でも、“強制力”は違う。
あれは、主役を主役たらしめる、一種の神のご加護みたいなものだ。
運命の矛先を全て自分に向けさせる強制力。勿論、兄貴も持っている。
ラッキースケベっていう名前ですがね。
「瑛さんから見て、今の絢香はどんな感じですか?」
「え? うーん……」
瑛さんは少し難しい表情を浮かべる。まあ、複雑ではあるでしょうね。
数秒の後、考えがまとまったのか、口を開いた。
「まあ、頑張ってるとは思う、かな。うん、そんな感じ。中学の時の刺々しさは無くなったと思うわ」
「そう……ですか」
僕は一体、どんな返答を期待していたのでしょうか。
絢香はやっぱり絢香だと、傲慢な女だと聞きたかったのか、それとも……。
僕は彼女を決して見なかった。あくまでも、僕の日常をひたすら突き進んだだけ。
その間に、絢香はどんどん周りに馴染んでいっている。
僕の知らない所で、絢香は少しずつ、僕の日常に侵食してきている。
「皆、おっはよー!」
物思いに耽っていると、教室の扉が開き、絢香が入ってきました。
途端にクラス中が笑顔に包まれる。皆、口々に「おはよう」と声をかけています。
そんな中、絢香は僕を見つけると、頬を膨らませてこちらにやってきた。
「もう、置いてっちゃうなんてひどいよ、直也くん!」
「絢香……」
僕はただ、ボーッとした表情で絢香を見つめ、名前を呼んだ。
絢香は首を傾げる。
「なーにー?」
「絢香、お前は、…………」
なんで、また僕の前に現れたんだ?
なんで、ここへ来たんだ?
人の本質は決して変わらない。
皆は僕が昔と比べて性格が変わったと言いますが、そんなことはないのです。
根本は変わらない。変わるはずがない。そうでなければならない。もし、変わったように見えるのならそれはきっと……――
ボクハ、モノガタリニ、カカワリタクナイ
ダッテ、シュヤクジャナイカラ
ニドト、カンチガイシタクナイカラ
モウ、キズツクノハ、イヤダカラ
なぜか一瞬、景色にノイズが走った。
次回、直也は1つの決意したりしなかったり……




