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22:『とりあえず水原さんに喧嘩売った奴、死刑』

 更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。

 今話は残酷な表現があるので、閲覧注意です。

 どうも、石上直也です。

 現在、携帯電話を開いてニュースを見つつ廊下を歩いています。

 放課後、生徒がほとんどいないそこを歩いていると、窓の外から聞こえる運動部の元気な声の中に、少し異質な喧騒が混じっているのを認識し、足を止めて外に意識を向けます。


 ……おや?

 複数の女子達に追い掛けられてる兄貴の姿を確認。

 追い掛けている女子達の顔が般若であることから察するに、恐らくまた兄貴のラッキースケベが発動したのでしょう。

 いつも通りの光景ですね。

 そういえば先程アナウンスで、女子更衣室から変態がどうのこうの、という内容の放送があったような気がします。……まさか兄貴じゃありませんよね?

 軽く笑いつつ、再び携帯電話の液晶に注目します。

 携帯電話の画面を切り替え、電話帳を開いて水原さんの電話番号を選択します。

 ピピピという数秒のコール音の後、水原さんが電話に出ました。


〈もしもし?〉


「どうも、水原さん。石上ですけど」


〈直也? おやおや、良いのかい校内で電話なんか使っちゃって。また風紀委員長様に指導されちゃうよ〉


「こっちから電話するように仕向けた人の台詞とは思えませんね」


〈……あぁ、アレ、見てくれたんだね〉


「ええ。メールに添付された記事を見ましたし、“見たのなら電話してほしい”というメッセージもしっかり拝見しました」


〈直也のことだからメールを確認するのはあと五時間後くらいと思ってたけど、感心感心〉


「僕としては、どうしてあんな記事をメールに添付したのか知りたいので、すぐに連絡した次第です」


〈別に他意はないよ。ただ、キミと同じ中学出身の生徒が起こした事件だから気になってね。それも4件。これについての直也の意見が聞きたかったのさ〉


「僕の意見ですか?」


〈そう〉


 僕は、水原さんのメールに添付されていた記事を頭に思い描く。

 記事の内容は、比較的最近に起きた4件の殺傷事件に関するモノだった。

 その加害者被害者共に、僕と同じ中学出身の高校生。

 加害者は全員男子、一方で被害者は全員女子である。

 4件の事件はそれぞれ個々で関連性は無いが、上記の通り加害者と被害者の出身が同じことと、4件全ての事件の発端が“復縁を断られた男子生徒が女子生徒に危害を加えた”という共通点があるため、メディアはこの事件を連続殺傷事件として取り扱った。

 1つ目の事件は、かの有名な財閥の御曹司が起こしたもの。彼は中学時代、生徒会長であった。

 そんな彼は、女子生徒に復縁を断られると、懐からナイフを取り出して女子生徒を切りつけたという。幸い、巡回中だった警官に取り押さえられたことで、殺人未遂となった。女子生徒も、腕を軽く切られる程度で済んだ。

 しかし、続く2つ目以降の事件は、こんな生易しいものではなかった。

 2つ目の事件、この事件の加害者は、かつてバスケ部に所属していた男子生徒。部長でありエースでもあった。

 復縁を断られた彼は、1つ目の事件同様に女子生徒を刃物で刺した。

 残念ながら、女子生徒はそのまま死亡してしまった。彼は現在、少年院に入所しているらしい。

 3つ目の事件は、風紀委員長を務めるほど、真面目を人に体現した男子生徒だった。実は4件の中で、彼の事件が最もお茶の間を騒がせた。

 彼が行なった犯行は、拉致監禁。屋内から漏れ聞こえてくる女子生徒の断抹魔を聞いた近隣住人の通報によって、事件が露呈した。

 現在、男子生徒女子生徒共に精神病院に入院している。特に女子生徒の方が深刻で、両手両足を切り落とされたショックからか、入院後も発狂しているらしい。そういえば、彼女は将来、有望なテニスプレーヤーとして期待されていた気がする。

 さて、最後の4つ目。これは、少々女癖の悪かった男子生徒による犯行。

 一言で言えば、無理心中だ。

 嫌がる少女にナイフを突き付け蹂躙し暴いて、その屍に重なるようにして息絶えていたらしい。


 ニュース記事を見ているだけでも、吐き気がする事件である。

 さて、水原さんはそんな胸糞の悪い4件の事件に対して僕がどんな考えを抱いたのか、それが知りたいようですね。


「そうですね。“壊れた”人間の末路としては、妥当だと思いますよ」


〈壊れた、人間?〉


「ええ。本物だと思ってた感情が偽物だと気づいた人間からしたら、衝撃的だったのではないですか」


〈……なるほどねぇ。なら、直也。キミも彼らと同じ口かい?〉


「僕が彼らと同じ? ……フフ」


 全く、何を言ってるんですかね、水原さんは。


「彼らみたいな、無意味な終り方を迎えるつもりはありませんよ、僕は」


〈無意味、ねぇ。中々辛口な評価だね〉


「どうせ死ぬなら、神に一矢報いたいと思いませんか。仏教じゃ、命ある者には、主役脇役関係なく、何かしらの使命が与えられるらしいですから。使命を果たしもせず、ドロップアウトするような人達に何の興味も沸きませんよ」


〈ふーん。随分とまあ、高尚な論理をお持ちで〉


 水原さんの言葉から溢れ出る皮肉に、思わず笑ってしまいます。


「一応、僕の考えは以上ですよ」


〈そう。参考にならない意見をどうもありがとう。最後に一つだけ、聞かせてほしいのだけれど〉


「なんでしょうか?」


〈あんたはどっちの人間なのかな? 正常か、それともキミの言うような“壊れた”側か〉


「……さあて、それはどうですかね。僕にも今一つ、よく分かっていない部分がありますから。正常の認識なんて、人の価値観で容易く変わりますからね」


〈そういう屁理屈はいいよ。キミなら、私の言う正常の範囲内は分かるだろ?〉


「だとしても、僕がどっち側であるかは水原さんには無意味な答えでしょう」


 そこまで言って、僕は自嘲気味に笑う。

 クルッと回り、背後の掲示板に付けられた新聞に目を向けながら水原さんに話しかける。


「別にいいじゃないですか。過去は過去、現在は現在……そうでしょう?」


〈ふーん。一番それに拘ってる人の台詞とは思えないね、何か悪い物でも食べたかい〉


「むしろ逆ですよ、今日は久々に先着10名限定の激レア定食を食べられましたし」


〈ああ、ごめん。悪かったのはキミの頭の方だったね〉


「……そろそろ泣いちゃいますよ?」


〈どうぞご勝手に〉


「水原さんは相変わらず辛辣ですよね……。あ、あと、絢香の記録、メールにファイルを添付して送ったんですが、見てくれました?」


〈勿論、キミの苦しんでる姿が容易に想像できて爆笑ものだったよ〉


「……左様で」


〈まあ、ともかく。これで神崎絢香がここへやってきた理由は案外単純なものだと予想できたよ〉


「え、男漁りに来たんじゃないんですか?」


 僕の言葉に水原さんは溜め息を漏らす。


〈キミね…いい加減その発想から離れないかい?〉


「むしろその発想以外の何も思い浮かばないのですが、一切」


〈あのねぇ……〉


 呆れた声を出しつつも、水原さんは本題に入る。


〈結論から言うよ。神崎絢香の転校理由は、前の学校でのイジメの可能性が極めて高い〉


「え……絢香が、イジメ?」


 僕は思わず鼻で笑う。


「何の冗談ですか? 絢香は常に取り巻き共に守られてるんですよ? イジメの標的になんて、なるはずがない」


〈じゃあ直也に質問だけど、今の彼女に、他者を徹底的に自分に魅了させる能力――キミの言う“強制力”は存在しない、キミからの報告にはそう書いてあったよね?〉


「それは、そうですけど……」


〈仮に神崎絢香が本当に強制力を失ったと仮定しよう。そうなった場合、彼女はどうなる? 今まで魅了されていた取り巻き共が正気に戻ったとしたら、その後の彼女の学校生活は、どうなると思う?〉


「イジメの標的、でしょうね。それも、学校全体からの」


〈そう、その仕打ちに耐えきれなかった彼女は、ここへやってきた。きっとイジメに関することは言いたくなかったのだろうね、それで親の仕事の都合という嘘を吐いた。どうだい、色々と辻褄が合わないかい?〉


「……仮にそうだったとして、何だって言うんです? 絢香がイジメに遭おうが遭うまいが、関係ないことですよね」


〈いやぁ、実は一度だけ神崎絢香と桜坂さんと一緒にクレープを食べに行ったことがあってね、その時の帰り道に、なんと神崎絢香の元取り巻き連中に遭遇したんだよ〉


「……それで?」


 なんか、水原さんの声が段々低くなっていってるような……


〈そしたら彼ら、何て言ったと思う? 爆笑ものだよ〉


――『3人で男漁りの算段でもしてるのか? 懲りない連中だな。………フンッ、如何にも男運の無さそうな顔だ』――



〈最後の台詞、明らかに私に対して言ったんだよなぁ。男運の無さそうな顔ぉ? 好き勝手言ってくれるよなぁ〉


 やばい、水原さんがかなり怒ってる。


〈別に自分の顔が姉さんみたいに整ってるなんて思っちゃいないさ。でもさ、男運の無さそうな顔? 流石にそれはカッチーンときたね〉


 怖い。凄く怖い。電話越しなのに今にも殺されそうな威圧感がひしひしと伝わってきます。


〈というわけで、直也。奴らの本拠地に近々乗り込むから準備しておいてね〉


「え、本拠地?」


〈神崎絢香の前の学校だよ。潜入して、あいつらの醜聞や弱味を握るのさ。この水原結衣、中途半端な報復は一切しないから〉


 やだなにこのイケメン。怖いけど、言ってること、なんかかっこいい。たぶん恐怖から来る勘違いでしょうけど。


「あの…それ、僕も参加しなきゃ駄目ですか?」


〈別に参加したくないならそれでもいいよ。どうなっても知らないけど〉


「はい、是非とも参加させて下さい!!」


〈そう、じゃあ日曜に集合で。詳しい集合場所と時間は追って連絡するよ。それでは、良き週末を〉


「はい……」


 通話ボタンを切り、直也は脱力する。


「なんで、僕がこんな目に……」


 本当に、絢香が来てから僕の運気が下がっているような気がする今日この頃です。

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