19:『明日から本気出します(小並感)』
どうも、皆さん。
石上直也です。
こういう始まり方、なんだか久々な気がします。
現在、見知らぬ双子が作ったと思われる落とし穴に嵌り、少し身動きが取れない状態です。誰か助けてぇ〜っ!!
「どうしよっか、紅葉」
「どうしよっか、紅葉」
とにかく、助けろください。あ、命令形と敬語を同居させてみましたが、言いにくいことこの上ない。
「あの〜、助けていただけると大変ありがたいのですが……」
「「えー」」
なんですか、その残念そうな声は。そんなに助けるのが不服ですか。
双子は顔を見合わせて、同時に肩をすくめる。
「せっかく作ったのにねー」
「簡単に助けちゃったらつまんないよねー」
おい……。やっぱりキミたちがこの落とし穴を作ったんかい。
僕はとりあえず壁に手を付けて体制を立て直します。地上までは約5メートル、と言ったところでしょうか。
それにしてもこの双子、顔つきからして小学生でしょうか。身長は大体150センチですかね、目測ですが。
とにかく、双子に助ける意思が無い以上、自力で抜け出さなければ。
「「あ、そうだ」」
そうこう考えてると、双子は何か思いついたのか、僕に笑顔を向けてくる。嫌な予感……。
「「ジャジャーン、熱湯入り特製水鉄砲〜〜」」
「……は?」
双子はどこからともなく水鉄砲を取り出し……って、え? 今、何入りって言った?
「「えいやー!」」
「熱っ?!」
水鉄砲から放たれた熱湯が、壁に付けてた手に命中し、そのせいで壁から手を放した結果、昇っていた分下へ再び落ちた。
「痛っ〜〜!!」
「「あははは!!」」
何が面白いのか、双子は声を揃えて笑ってます。
「ねえねえ、紅葉。今の見た? ズルって落ちてったよ!」
「見た見た! 紅葉、底に落っこちたお兄さんの顔も、面白かったよね!」
「「あはははは!!」」
く、こいつら……。
僕のことをオモチャにしてやがる。
もう一度昇るために壁に手を付けると、
「「えいっ!」」
「うわっ?!」
また、撃ってきやがった!!
ぐぬぬぬ………。
熱湯に命中しないようにフェイントしつつ、一気に昇るしかない……。
「「えいっ! えいっ!」」
「そう簡単に当たってたまるか!」
「「えい! ……あ」」
「よっし、弾切れならぬ熱湯切れですね! 今の内に――」
「「携帯用ポットで即満タンだけどね〜」」
「……うそ〜ん」
そうやって僕と双子の死闘は、約二時間ほど続いた。さすがに携帯用ポットとやらにも限界があるため、なんとか避けきって勝利です。V、です。
さて、落とし穴から抜け出すと、
――カチャ
……ん? カチャ?
首元に違和感を感じたので見てみると、なんと首には赤い首輪がセットされてました。わんわん。
……って、ちょっと。
見上げると、双子がニコニコしており、手には首輪と繋がってるリードのようなモノが。
「「じゃあ、次はお散歩だー!」」
「……まるで意味が分からんぞ…」
そのまま引きずられるような形で、僕は双子と一緒に公園を駆け回った(双子が一方的に)。
「「また遊んでねー!」」
二度とごめんです……。
やっと解放されて、ベンチでぐったりと倒れています。
公園から走り去る双子の後ろ姿を横目でチラッと確認し、腕時計で時間を確認。時刻は夕方の六時半です。早く家に帰りたいです。
さて、改めて公園を見渡します。すると、僕が引っかかった落とし穴を含め、いくつもの落とし穴の跡が見受けられます。僕以外の被害者の方も過去にいたようで。
最早、この公園はあの双子専用の遊び場と化してるようです。これからは近づかないようにしましょう。
えーと……はて、僕はなんで公園に寄ろうとしたんでしたっけ? あの強烈な双子のせいで一気に記憶が吹っ飛んだ気がします。
たしか……友里ちゃんと帰っていて、それで……
――お姉ちゃん、助けてよ
そうそう、なんか友里ちゃんの顔を見てたら、なんだか知らない少年の顔が脳裏に浮かんで……ということでしたね、確か。
一体、あの少年は何者なのか。どうして『お姉ちゃん』という存在に助けを求めていたのか。
――直也は、助けてくれないよね
不意に、友里ちゃんに言われた言葉が僕の中で響いた。
「助けてくれない……か」
そう呟いて、立ち上がる。
意味もなく空を見上げ、僕は思う。
なら、逆に聞きたい。
僕……いや、“俺”が助けを求めた時、なんで誰も手を差しのべてくれなかったんだ?
――石上弟は、ほら、脇役みたいなもんだし
――アイツじゃ、花がない。荷が重いだけだろう。
――キミが“あの”お兄さんより上の高校に行くなんて、無理な話だろう。下なら、いくらでもあり得るがね。
「いや……」
僕は頭を振る。頭に過る考えを捨てるように。
今の僕は脇役を受け入れたじゃないか。それでいいじゃないか。
だから……
――直也くんはただの脇役なんだから、私と付き合えただけでも幸せだよね?――
そう、全てが嘘だったと分かってしまったあの日を忘れよう。忘れてしまおう。
そうすれば、傷付かなくて済む。
「さあて、と」
頬を軽く叩いて笑顔を作る。いつも皆から胡散臭いと呼ばれている笑顔を。
明日からまた頑張ろう。
―――ピロリロリ♪
すると突然、携帯電話が鳴った。僕は慌てて通話ボタンを押して電話に出ると、なんと相手は新聞部部長の水原さんだった。
〈やあやあ、元気にしてるかな、直也〉
「水原さん、どうしましたか?」
〈いやぁ、実はラブレターの差出人が特定できたから、その報告〉
予想外の朗報に、僕は思わず驚嘆の声を出す。
「仕事が早いですね。もう特定できちゃったんですか?!」
〈我が新聞部の情報網を甘く見ない方がいいよ。フフフ……〉
思わず背筋が凍る。新聞部に隠し事は絶対にできない気がする。
「……それで、差出人は一体誰だったんです?」
〈それが聞いて驚きたまえよ。まさかのダークホースだ〉
「ダークホース?」
〈そう。差出人は文学少女の『鳴海李音』だったのさ〉
「な、なんだってー!?」
皆さんは覚えているだろうか?
第8話に登場した、我が校の図書委員を務めている文学少女の鳴海李音さんを。
まさか人見知りで恥ずかしがり屋で小心者な彼女が、ラブレターとは。まあ、これでラブレターに差出人の名前が書かれていなかったのにも頷けます。
恐らく、ラブレターは書けたものの、自分が差出人だと相手に知られるのが恥ずかしくなり、名前を書かなかったのでしょう。
しっかし、まさか、ねぇ……。
鳴海さんの本格参戦はもう少し後だと思っていたので、まさかこんな早くにアクションを起こしてくるとは。兄貴、いつの間にフラグを回収したんだい?
〈さあ、私は自分の仕事をきっちりこなしたんだ。そっちも神崎絢香の件、頼むよ〉
「新聞部ご自慢の情報網でも、絢香のことは調べられないんですか?」
〈無茶言わないでくれよ。神崎絢香はまだうちの高校に来て日が浅いんだ。そもそも情報があまりにも少なすぎるんだよ。せめて前の学校での彼女の記録があれば話は別なんだけどね〉
「水原さんだったら、ハッキングとかで学校のデータ端末から情報を閲覧できるのでは?」
〈私も完璧人間じゃないからね。なんでもできるわけじゃない。確かに、ちょっとしたハッキングなら可能だが、転校生の情報は一般生徒の情報より厳重に保管されてるんだ〉
「どうしてです?」
〈一般生徒と転校生じゃ、情報が漏洩した場合の被害が違うからさ。一般生徒の情報が漏洩した場合、被害はあくまでうちの高校限定だが、転校生の場合は、前いた学校の情報も漏洩してしまうわけだから、被害は格段に大きくなるというわけだ〉
「なるほど」
〈さあ、分かったら、きちんと自分の仕事をこなせよ。良い報告を期待してるよ〉
「もちろん、ベストは尽くしますよ」
〈それじゃあね、直也〉
「はい。わざわざ、連絡ありがとうございました」
――ブツッ
通話を切り、携帯電話を懐にしまう。
「明日から忙しくなりますね」
鳴海さんの様子を見つつ、絢香の観察。中々なハードなミッションですね。
でも、なんとかやりきりましょう。
なんてったって、僕は脇役なんですから。




