18:『シリアスに徹すると思った〜? ざんね〜ん、オチました! まさに外道!!』
結局あの後、僕は早々に絢香の観察を切り上げた。
たしかに水原さんの言う通り、絢香は何者かと会話をしていた。
その正体に関することは、まだ分からない。
これは、長期戦になりそうだと、僕は思った。
「直也」
そう思案しながら学校の下駄箱を開けて靴を取り出していると、声をかけられました。
声の主の方へ顔を向けると、
「ゆ、友里ちゃん……?」
なんと、友里ちゃんでした。
「友里ちゃん。どうしたの?」
「別に……。たまには一緒に帰ってあげようと思って」
「も、もしかして……僕のこと待っててくれてたの?」
「……」
友里ちゃんは無言のまま、だが少し眉間に皺を寄せて僕を睨む。
はい、すみません。そうですよね、わざわざ僕なんかを待ってませんよね。トホホ……。
そこで、兄貴の姿が無いことに気付いた僕は辺りを見渡す。
「あれ? 兄貴は?」
「柔道部」
「ああ、なるほど」
そう納得していると、友里ちゃんはスタスタと先に行ってしまわれた。
「直也、おっそい。私、先に行くから」
「ちょ、ちょっと待って?!」
慌てて靴を履き替え、友里ちゃんの後を追う。
意外と足が速いんですね……こっちが走ってやっと追いつくレベルの速さです。向こうは歩いてるだけなのに……
「ふぅ……」
やっと追いついて、息を整える。
友里ちゃんの方は、特に気にすることなく淡々と歩いています。
せっかく一緒に帰っているのですから、何か話そうと思うのですが、何を話していいのか、全く分かりません。
よくよく考えてみれば、僕と友里ちゃんはモブとヒロイン……そもそも共通の話題がありませんね。家族関連以外の話題が。
「あのさ……」
すると、友里ちゃんが口を開きました。
これ、僕に話しかけてるんですかね?
様子見するために無口を貫いていると、友里ちゃんは再び口を開きました。
「ちょっと、聞いてんの直也?!」
大変ご立腹でした。
「え、あ、……え?!」
え、やっぱり僕に話しかけてたんですか? マジで?
内心パニック状態に陥っていると、友里ちゃんは盛大に溜め息を漏らして呆れ顔で僕を見つめます。
「なんでコイツが私のもう一人の兄なんだろ……」
「どう、いたしまして?」
「褒めてないから!」
「す、すみません……」
いや、でもですね。
今までずっと避けられてた人物から話しかけられたら、かなり緊張しますよ?
とりあえず、もう一度深呼吸してリズムを整えます。
友里ちゃんの声色からして、恐らく真面目な話題なのだと思うので、僕も真面目に応対することにします。
「それで、友里ちゃん。僕に何か話でもあるんですか?」
「え? いや、もう別にいいよ。直也、真面目に聞いてくんないし、そもそも、直也に言ったところで意味ないと思うから」
あれえぇぇぇぇ?!
結構、シリアスモードに移行できるように準備してたんだけどなぁ!
僕は慌てて友里ちゃんの機嫌を直そうと奮闘する。
「いやいやいや! 今の石上直也は真面目に友里ちゃんの話を聞くよ! それはもう的確なアドバイスができるくらいに! さあ、カモン!!」
「ホントに、ちゃんと答えてくれる?」
「勿論ですとも!」
「じゃあ……」
友里ちゃんが僕をまっすぐに見つめて、尋ねてきました。
「なんで直也は、そんな風になっちゃったの?」
「え……?」
「昔は、中3の夏頃だと、まだ、そんな性格じゃなかったよね? もっと私に冷たかったよね?」
「あ、いや、……僕は、昔からこういう性格で……」
「……」
友里は少し先を歩いて僕の方を振り向いた。
その表情には、少しばかりの寂しさのようなものがあった。
「今日、一緒に帰ろうと思ったのはさ、一度きちんと直也と話そうと思ったからなんだよね」
「え……」
「私、直也のことが分からなくなっちゃったんだよね。だから、少しでも知りたい、なんでそんなに性格が変わっちゃったのか。だって一応家族だし」
「…………」
特に、何も言えませんでした。
というか、友里が色々と僕に対して思うことがあったことに、驚いていたりします。
無言を貫く僕をどう思ったのか、友里は溜め息を吐きました。
「やっぱり話してくれないんだね。だったらきっと、直也に私の悩みはきっと解決できないよ、話すだけ無駄。だってそうでしょ?」
彼女は、悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔をする。
「お兄ちゃんが不良達に囲まれてた時……あの時、私が助けを求めたのに、直也は無視したもんね。私を、助けてくれなかったよね?」
――お姉ちゃん、助けてよ
――僕が、僕でなくなっちゃうよ
視界にノイズが走る。
見知らぬ少年の顔と声が、友里と重なる。
助けを求める少年と、助けを諦めた友里。
二種類の視線が、僕の身体を射抜く。
「うっ…………」
吐き気にも似た気持ち悪さに襲われる。
ノイズで脳裏に浮かび上がる少年の顔は、記憶に無いはずなのに、なぜか僕の心を掻き乱す。悲しみと後悔の念が、僕の身体を支配する。
その感覚に浸ってたのはどれぐらいだろうか。
ノイズが収まる頃には、既に友里は目の前にいなかった。恐らく、何も言わない僕に愛想をつかして、先に帰ってしまったのだろう。
しかし一体、先程の少年は誰だったのだろうか。
「僕は、脇役なんだ。そう、だから……僕に助けを求めないでくれ」
どちらにせよ、僕は誰の期待にも応えられない。
脇役じゃ、世界は救えない。
脇役じゃ、悪役は倒せない。
脇役じゃ、未来は開けない。
いつだって物語は、兄貴を中心に進んでいくんだから。
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さて、少し思考に疲れたので、近所の公園で休むとしましょうか。
こういうときは、ベンチでのんびりくつろぐに限ります。
そう思って足を公園の方に運び、入口を通って敷地内に侵入すると、
――ミシミシ
なにやら軋む音が聞こえ、
――ボコッ
地面が、沈んだ。
そのまま僕は勢いよく下降して、穴の底に腰を強く打ち付けた。
「痛っ?!」
早い話が、落とし穴。
さすがですよ、笑いの神様。どうやら神様は素直にシリアスを貫き通させてはくれないようだ。思わず馬鹿野郎と罵りたいです。
「「あれー? 誰かひっかかってるー」」
上から聞こえてくる子供の声。
見上げてみると、全く瓜二つの子供二人の顔が、僕を見つめていた。
「どうする、紅葉?」
「どうしようか、紅葉?」
とりあえず、助けていただけると大変ありがたいです。




