16:『観察任務を与えられました』
再び、サンドイッチフォーメーションで挟まれている石上直也です、どうも。
「わー、相変わらずこの芸人のシャレは面白いですよね二人共!」
『………』
はい、スルー。
間に挟まれた僕は、テレビを指差しながら兄貴と友里ちゃんに声をかけましたが、やはり華麗にスルーです。
ねえ、キミ達ホントになんなの?
脇役を間に挟んで楽しいかい?
そもそも、なんなの?
キミ達確か仲直りしたはずだよね?
なんでまたギスギスした空気になってんの?
そういう悪態を心の内で呟いていると、
「あ! 皆、直也ちゃんにくっついててずるーい!!」
と、母さんが背後から抱きついてきた。ぐはっ!!
「なんで母さんまでくっついてくる?!」
「ママだけ仲間外れなんて嫌ぁ!」
「別に仲間外れにしてるわけじゃないから!!」
僕は母さんを引き剥がしつつ、隣でただ黙ってテレビを見ている兄貴に話しかける。
「ていうか兄貴、一体友里と何があったの?!」
「……友里の奴が、友里の奴が……」
兄貴はブツブツ呟きながら理由を話す。
「俺の人生史上2枚目のラブレターを……破り捨てたんだよ」
なぬ?! ラブレター!?
僕が草むしりをしてる間に、そんなイベントが!!
一方、兄貴の言葉を聞いた友里が話し始めた。
「だって、また不良のフェイクかもしれないし…………それに、本物だったら尚更許せない……」
後半は声が小さくて兄貴には聞こえていないようだが、僕にはしっかりと聞こえました。
友里、いつからキミはそんなに黒くなっちゃったの?
お兄ちゃん、すごく悲しい……。
まあ、それは置いておいて。
「それで兄貴。ラブレターの差出人は、誰だったの?」
「知らん……。読む前に破られたんだ……」
「あらまあ……」
友里の方へ視線を向けると、プイッと顔を背けられてしまった。
しかし、兄貴にラブレターを送るような相手は…………いっぱい居すぎて誰か特定できないですね。
「ま、まあ……また相手から何らかのアプローチがあるよ、きっと!」
「こんな平凡な俺にアプローチしてくれる女子がいるとは思えないんだが」
「兄貴、もっと周りを見てあげて下さい」
「?」
首を傾げる兄貴に、僕はただただ乾いた笑いしか出せませんでした。
ヒロインの皆さんが不憫すぎる。
◇◇◇◇◇◇
「ということがあったので、調べてもらえないでしょうか?」
「うん、嫌だね」
次の日、僕は兄貴にラブレターを送った相手を探し出すために新聞部の部室に足を運び、水原さんに交渉を持ち掛けたのですが……断られた。
「どうしてですか? 水原さんは知りたくないんですか?! あの兄貴に勇敢にもラブレターを送った相手を!!」
「まあ、知りたいのは山々なんだけどさ……それでまた【実は不良のフェイクでしたー】みたいなオチだったら流石の私でもキレるよ?」
「うっ……」
思わず口を閉じてしまいました。
「「………」」
しばらく続く沈黙を破ったのは、意外にも水原さんだった。
「フゥ、仕方ないね。じゃあ、一応調べてあげるよ」
「ほ、本当ですか?!」
「うん、その代わり交換条件があるけれど」
「…………僕は、何をやればいいんですか?」
「なーに、簡単なことさ。神崎絢香を観察してほしい」
「お断りします」
「じゃあ私も調べるの、やーめた」
「ぐっ…」
それを言われると、痛いです。
僕は渋々……本当に渋々、頷きました。
「……分かりました。絢香を観察します」
「交渉成立だね。じゃあ、頼んだよ」
「ですが!」
1つ、納得がいかないので尋ねます。
「絢香を観察してどうするんです?」
「神崎絢香がわざわざこの学校に転校した理由を知りたくてね。直也は知りたくないのかい?」
「別に、興味ないので」
「そう……」
水原さんは小さく笑うと、手元のキーボードを軽やかなリズムで叩いてPCに入力していく。
「観察してみると、意外と面白いことが分かるかもよ?」
「面白いこと……ですか?」
「うん。例えば、彼女は人気の無い場所で時々独り言を呟くことがある。それに耳を澄ませると、まるで誰かと会話しているかのようにも聞こえる。不思議だよねぇ」
「………」
「『直也くんがいないと私はヒロインになれない』」
「……え?」
「この言葉。廊下を歩いてる時にたまたま聞いちゃったんだよね。一体、どういう意味だと思う?」
「……さあ」
特に何とも思わない……が、なんか引っ掛かる。
絢香がヒロインになるには、僕より……兄貴にちょっかいを出した方がいいはずだ。
メインにはなれなくても、サブヒロイン的な立ち位置にはなれるはずだ。
なのに、どうして……。
「心底分からない……って顔だね」
顔を上げると、こちらに視線を向ける水原さんと目が合った。
彼女の言う通り、心底分からないのです。
「ええ。なぜそこで絢香の口から僕の名前が出てくるのか、皆目見当もつきません」
「ふーん。じゃあさ、高1の時に直也のキャラが急に変わったのとは……何か関係あったりするのかな?」
「……」
水原さんの質問に、僕は思わず口をつぐみました。
なんと答えたらいいか分からない……といったところでしょうか。
「……さあ、どうでしょうかね。関係あるかもしれませんし、全く無いかもしれませんし」
ただ、1つ言えることは。
「絢香はなぜ転校したのか、前の学校で何があったのか……それを調べるのが先では?」
「うん。だから、こうしてPCで調べているわけさ」
「何か有力な情報は見つかりましたか?」
僕の問いに、水原さんは「にひひ」と笑う。
「ん? やっぱ気になる?」
「いえ、別に。水原さんの作業がどれほど進んだのか、気になっただけです」
「ふーん。まあ、いいけどさ」
水原さんはそう言うと、再びパソコンに向き直り、作業を続ける。
「何か分かったらこっちから連絡するから、それまでは観察よろしく」
「はいはい。……あ、ラブレターの差出人のことも調べておいて下さいよ」
「りょーかい」
僕は溜め息を吐き、新聞部の部室を後にした。
あ、そうそう。
今日で草むしり終了です。
いやぁ、頑張っちゃいました。
やっぱり、面倒事はいくつも重ねるわけにはいきませんからね。




