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14:『気の緩みは時に大変な結末を招くのですよ、皆さん』

「ん〜」


 現在、昼休みの新聞部の部室。

 前回から一日が経ちました。

 どうも、石上直也です。


 昨日起きた絢香との追いかけっこ騒動により、風紀委員長の日比谷さんからのありがたーいお説教を長々と聞き、最終的には反省文を提出しろと言われました。

 昨日の今日なので、絢香も割りと教室では大人しかったです。まあ、反省文は下僕に書かせてたけど。

 僕はとりあえず、絢香に妨害されないように避難場所である新聞部の部室で反省文を書いているというわけです。トホホ。


「でもなー……」


 昨日のことを何度思い返しても、反省の言葉が全くと言っていいほど出てこないのですよ。

 当たり前です、僕は被害者なのですから。

 絢香のとばっちりが原因の反省文。何度破り捨てようと思ったことか。

 そうしてずっと四苦八苦していると、


「苦戦してるみたいだねぇ」


 横から陽気に笑う水原さんが顔を覗かせました。


「水原さん、完全に他人事ですね」


「だって他人だし。それに、神崎絢香に先に勝負を挑んだのは直也なんだから、自業自得じゃないかい?」


「……きっかけを与えたのは水原さんのような…」


「さあてね、どうだろう」


 うわー。無かったことにされたー。

 僕は泣きたい思いで、感情の籠らない反省文を書いていく。

 一方の水原さんは、新聞作りに精を出していた。

 昨日の騒動は、既に今日の朝の段階で掲示板に貼り出されていたので、おそらく別件だろう。

 見出しに、“絢香”の二文字を発見。


「……また、絢香が問題でも起こしたんですか?」


「ん? やっぱ気になるか?」


「いいえ、別に」


「ふーん。……まあ、これは問題とかではないよ。神崎絢香がもうすぐうちの高校の記録を更新しそうなんだよ」


「……何の記録ですか?」


「女子人気ランキング。転校二日目の今日で早くも、二位だよ」


「ええっ?!」


 思わず、マス〇さんもびっくりの仰け反りをしてしまった。


「なんの冗談ですか……?」


「まあ、そう言いたくなるのも分かるよ。私自身、目を疑ったからね」


 水原さんは作業の手を止め、僕の方を向く。


「でも、数字としてはっきり出ているのも事実だよ」


 水原さんは何かを思案していた。


「……直也。中学時代の神崎絢香は、今の神崎絢香と同じかい?」


「………」


 どうだろうか。

 中学時代の絢香は、とにかく百面相だった。

 攻略相手によってキャラを巧みに変える。

 瞬時に相手の好みのタイプを見抜く能力に長け、人心を掌握する不可思議なオーラを纏っていた。

 だが、その本性は極めて傲慢だ。自分という存在は、“選ばれる”のではなく“選ぶ”立ち位置に存在すると思っている。

 これこそが、中学時代の絢香にとっての絶対不変の真理だったはずだ。

 だからこそ、当時付き合っていた僕に対しても、それは揺るぎ無かった。

 そして、利用価値の無くなったモノを容赦なく切り捨てる冷酷さ。


 しかし、今のアイツから伝わってくるのは、得体の知れない不気味な感情だ。

 一見、平然を装っているが、何か危ないモノを抱えているのかもしれない。



「分かりません。ただ、アイツの根本は変わってないと思いますよ」


 人間の性格なんて、数年で変わるほど甘くはない。


「へー。それはとても興味深いね」


「取材はお断りですよ」


「ちぇー」


 さて、反省文がやっと半分終わりました。

 この分なら、放課後までには全部書けそうです。


「くぅ〜、あと少しだぁ」


 ずっと書きっぱなしで疲れてしまったのか、思わず屈伸していると、とある男女の声が聞こえてきたのです。


「まったく石上。アンタ、自分の弟の躾ぐらいきちんとしなさいよね!」


「そう言われてもなぁ、直也にも事情があるんだろうし」


 ツンデレ日比谷風紀委員長と兄貴の話し声です。

 思わず体が反射的に声のする方向に動き、新聞部の部室の扉に耳をくっつけて話の内容を盗み聞きします。

 どうやら二人は廊下で世間話をしているようだ。

 まあ、日比谷さんの愚痴が大半だけど。

 兄貴、ごめん……。

 まあ、盗み聞きをやめる気は更々ないんですがね(笑)


「とにかく、アンタからもなんか言っておきなさいよ? アンタの弟、HR前でも平気で三年の校舎を徘徊してるんだから!」


「んー、そう言われてもなぁ」


 兄貴は優しい。特に身内には。あざーっす。


「そうやって甘やかすから図に乗るのよ、全く。……あ、アンタがそんなんだから…周りの奴らが……(ボソボソ)」


 最後の部分は聞こえませんでしたが、内容は大体把握しました。

 兄貴の優しさは年中無休の大安売りですからね。


「ん? なんか言ったか?」


 そして安定の、デレ発言だけ聞き漏らす兄貴。凄い耳だ。


「うっさい! なんでもない!」


「……お前、そうやって怒ってると…シワ増えるぞ」


 あ、爆弾投下した。


「だ〜れ〜のせいだと……思ってんのよバカ!!」


「痛っ!? お、おいそんな殴んなって!」


 わあ、微笑ましい。

 会話が微笑ましい。

 ただの夫婦漫才にしか聞こえなーい。



――キンコーンカーンコーン――


 あ、チャイムだ。



「っと、じゃあな。俺、次は体育だからさ」


「フンッ。……怪我、しないようにね」


「へいへい」


 日比谷さん、素直じゃないなぁ。

 僕が感傷に浸っていると、


「直也、お前も授業に行った方がいいんじゃないか?」


 水原さんが声をかけてきた。


「あ、はい。そうですね」


 水原さんに言われて僕も慌てて鞄に手をかけ、部室を去ることにしました。


「それじゃあ、水原さん! お邪魔しました!」


 フゥ、さてさて。お勤めもこなしましたし、午後の授業も頑張りますか。



◇◇◇◇◇◇




 直也が去った新聞部部室。

 机の上には、アイツが残した反省文の原稿が置かれている。


 それを手に取り、私『水原結衣』はニヤリと微笑む。



「駄目だなぁ、直也は。仕方ない、私がこれを風紀委員長様に届けてあげようじゃないか。なぁに、足りない部分は上手く補ってやるさ」



――クククッ



◇◇◇◇◇◇




 どうも、石上直也です。

 現在、放課後。


 校庭が草むしりをしています。

 外、とても暑いです。

 夕方なのに炎天下です。


「はあ……」


 溜め息を吐いて一言。



「忘れ物しないように、もっと注意すべきだったなぁ」


 青々と生い茂る草を、僕はひたすら抜いていく。

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