1-8.始まりの都市アスタランテ
「では、これがとりあえず金貨三枚になります」
ロス氏が俺の前に三枚の金でできたコインを差し出す。
「お分かりだと思いますが、これはあくまで最大値での話です。ここから本日の出張料というものが差し引かれます。今回の場合は町から離れていないので……、まぁ今回は町のすぐそばという事で、銀貨一枚といったところでしょうか」
なるほど?
と言っても貨幣価値も分からないんだが。
銀貨って金貨の一つ低いくらいの価値かな?
そもそも金貨って銀貨何枚分?
「……念のためにお伝えしますが、聖金貨、金貨、琥珀貨、銀貨、青銅貨、リン貨とあり、あとに申し上げた方が価値の低い貨幣です」
あ、はい。
ロス氏が何かを察したのか教えてくれた。
「青銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で琥珀貨1枚、琥珀貨10枚で金貨1枚、金貨100枚で聖金貨1枚となりますがこれは単位が大きすぎてあまり使用されていません。また青銅貨の下にリン貨という端数銭が存在しています。これも10枚で青銅貨1枚ですね」
なるほど。
つまり、これを当てはめると、金貨は上から二番目の貨幣、という訳か。
あまり使用されていないってことは実質一番高い貨幣って事だな。
……え?まじで?
そんなにもらっていいの?
これで一泊金貨一枚二枚とかだったら泣けてくるんだが。
あともう一つ。これからわかることがある。
10枚で1つ上の硬貨に代わるという事は、この世界でも10進数が有効だという事だ。
これはかなり大きい。
俺の算数レベルの常識なら最低限通じるって事だからな。
「さて、ここで一つ問題です。まぁ、これはギルドに登録する際に受けてもらう物なのですが、間違えても問題はありません」
ロス氏が懐から一枚の木札を出した。
鉄製のわっかで繋がった薄い木札だ。
なにあれ?
俺の知識で近いものだと……単語帳?
「まずは金貨10枚をもって金貨3枚と琥珀貨6枚の商品を買った時、手元に残っている金額は?」
……はい?
なんだ、これ?
俺は馬鹿にされているのだろうか?
「……えっと、金貨6枚と琥珀貨4枚」
「ふむ。なるほど。最低限の教養があるようですね」
は?教養?
え、教養?小学生低学年のレベルじゃ……。
「次は……」
俺はロス氏が出した問題を次々と答えていく。
だんだん問題は複雑化していくが、別段どうという事はない。
せいぜいが掛け算レベル。
流石に俺が高卒でも凡ミス以外で間違えるようなレベルではない。
「ぜ……、全問正解……。貴方はどこかの商家の出身なのですか?」
「あー、いや商家というか、割と一般的な知識だと思うのですが」
「いやいや、にぃちゃん。普通の平民にしちゃありえないほど計算も早いじゃねぇか」
おふぅ。まじか。
この世界の平民ってそんな感じなのか。
「えっと……、その簡単な計算だったら子供の頃に仕込まれたもんで」
「……なるほど。これなら実務の手伝いも出来そうですね。ぜひ、ギルド登録をしてください。歓迎しますよ」
「ははは。ありがとうございます」
出来れば危ないことはしたくないけど、仕事は必要だしな。
それにカルバラ氏の話によればギルドの棒証って身分証明になるって話だったし。
登録しておいて損はないだろ。
「はい、では金貨3枚から銀貨1枚分を引いて、金貨1枚を琥珀貨9枚と銀貨10枚に両替して、合計金貨2枚と琥珀貨9枚、銀貨9枚になります。両替料金は今回はサービスにしておきます」
「すみません。ロスさん。ありがとうございます」
「ロスで結構ですよ。私はギルド職員としてきておりますので。敬称も不要です。こちらこそ良い取引をさせていただきました。……ただ」
うん?なんだろう?
「老婆心ながら、一つご忠告を。せっかくの魔物の素材です。もう少々、血抜きや解体に関しての知識を身につけられた方がよろしいかと。今回のように本来なら良い毛皮になったであろう素材までダメにしてしまいますので」
なるほど。
本当に忠告だった。
確かに、血抜きや毛皮を剥ぐことに関しては俺も全く知識がないからな。
このロスという男。カルバラに続いていい奴だな。
うん。間違いない。
「ほい、確かに。銀貨1枚」
俺達は三人で歩きながら町の門を目指しながらお金のやり取りをする。
今の銀貨1枚は入市税の分だ。
銀貨は少し大きめの銀色の四角い硬貨で表面には獅子のようなもの、裏には剣と盾の刻印がされている。
対して琥珀貨は素材は分からないが、銅のような色の金属でできた楕円型に、束ねた麦のような作物、裏には籠の刻印がされている。
金貨は金色の正円に近い丸で横顔のような裏には太陽と紋章が刻印されている。
どれも俺の想像するコインより少しサイズが大きく、大体5cmくらいだろうか。
俺はロスからおまけとしてもらった麻の袋にそれらのコインを詰めておく。
どうやらロスはわざわざ換金の為にそれ専用のカバンを持ってきてくれたらしい。
やはり良い奴なのだろう。
そうこうしているうちに俺達は町の門へとたどりついた。
「それじゃ、ここで必要書類を記入してもらうぞ。少し待っていてくれ。おーい、書類を持ってきてくれ!」
カルバラが門の横の窓に待機していた男に声をかける。
どうやら書類記入が必要らしい。
そりゃそうか。
金を払ったらハイ終了とはいかないよな。
「では、私はすこし離れておきますので。終わりましたら声をかけてください」
「あ、あぁ。了解」
ロスが俺にそう声をかける。
彼は書類記入とか、入市税は必要ないのだろうか。
「今回はギルドへの依頼のために外出しているので入市税は免除となっています。ギルドの棒証を持っているとこういう時に便利ですよ。書類記入が必要ありませんから」
あ、そう。
俺の心のツッコミが聞こえたのかロスがそう返してくれた。
便利なのね。ファンタジー。
「ほれ。これが書類だ」
そこには氏名を書く欄しかない。いや、これ書類って言うかただの記名では?
というか、普通に読めるな。文字。
俺は備え付けられている羽ペンをつかって文字を書く。
カルバラがロス呼びしているってことは多分西洋と同じでファミリーネームが後だよな?
てことは、リュウ・シノダ……っと。
何の問題もなくかけた。
かけてしまった。
七不思議パワー、恐るべし。
これ、現代に持ち帰れたら最強の翻訳機になれるんじゃなかろうか。
「へぇ。リュウ・シノダっていうのか。この辺りじゃ聞かない響だな?このシノダってのは苗字か?」
「えぇ、まぁ。かなり遠くから来たんでこの辺じゃ珍しいかもしれません」
……そういう事にしておいた。
正直、世界の事情なんてものはさっぱり分からないからどこ出身とか聞かれたらアウトだけどな!!そうなったら、適当に誤魔化すしかない。
「そうか、リュウ、リュウか。これからよろしくな!リュウ!俺は交代勤の休日以外はたいていはここにいるから、何か困ったことがあったら声をかけてくれ!」
そういって、カルバラが俺の肩を叩く。
いたっいたた……。
我慢できないほどじゃないけど目一杯叩くのはやめてほしい。
「ありがとうございます。カルバラさん」
「よせやい。さん付けなんて。俺もロスと同じでカルバラで良い。敬称も敬語も気にすんな」
がははっとそう笑って更に叩いてくる。
多分、根は良い人なんだろうけど。
ちょっとこれは困る。
「さて、手続きも済んだところで」
カルバラが少し町のほうに歩きだし、振り返って俺を見る。
門の先から見える風景が逆光で輝いて見える。
「ようこそ!フィルフィリア王国、サフィラ公爵領、『鉄壁の要塞都市』アスタランテへ。この町はお前を歓迎するぞ!リュウ!」
そういわれた瞬間、さっと風が抜け目が、明暗に慣れて来て奥の町の様子がわかるようになってきた。
まるで、町全体が歓迎してくれているような、そんな光景だった。
「別名『地獄の曲がり角』たっぷり堪能してくれ」
そうカルバラがニヤリと笑った。
……ん?




