1-7.初めての換金
「いやー!美味かった!兄ちゃんすげぇな!まさかこんな高級肉が食えるとは思わなかったぜ!」
「だろ?一人でも多人数でも焼肉は最高だよな!」
「え?焼肉?あぁ、焼いた肉の事か」
「ん~。おしいっ。あ、今のは美味しいと掛けたわけじゃないぞ?焼肉ってのはだな、心意気の話でな……」
この焼肉の美味さがわかるとは、なかなか話の分かる奴だ。
俺は改めて門番の男を見る。
中肉中背。金髪に近い比較的薄い茶髪。
鎧は一部が金属製の革鎧。門番としては実用的な装備かもな。
そうなると腰に下げてるのは……多分、支給品の剣かな?
なんだか紋章みたいなのが付いてるのは、もしかしたら町や町の貴族の印かもしれない。
そう言えば、拾ったナイフにもそれらしいのがあったな?
なかなかのイケメン……もとい、イケオジだな。
話した感じだと、誠実そうな人物だ。
門番をしていたことを考えると、仲良くなっておいて損はないタイプの人種だ。
「それで、俺はこれからどうすればいいんですかね?」
「ん?まぁ、聴取は終わったし、基本的には自由にしてくれて問題ないと思う。これほどの魔物を狩って冒険者ではなかったのは驚きだったがな。明日、冒険者ギルドの職員に出張に来てもらえるようにしてやるから、さっきの肉と……できれば、そこにある魔物の死体から無事な革や牙を売って金銭を整えろ。どれだけ質が悪くても、ジャイアントボアなら銀貨一枚程度ならすぐ稼げるさ」
ジャイアントボア。そう言えばさっきもそんなことを言ってたな?
「あの?さっきも言われてましたがジャイアントボアってのはこのイノシシのことですか?」
「あぁ。Bランク、ジャイアントボア。タイラントラプトル、ヘビーウェイトコング、ブラッディヘビーホーンと並んでこの『暴君の森』の生態系の上位に君臨する魔物だ……って、知らなかったのか?」
「え、えぇ。すみません、なんか本当に運が良かっただけで」
「なるほどなぁ。まぁ、しかし運も実力の内と言うからな。将来有望な冒険者の誕生を我が町は歓迎するぞ」
え、冒険者?
ん~?あ、あれか。
マンガとかで主人公が仕事をもらうハローワークみたいな施設。
魔物を狩ったり、町で雑用したりするんだっけ?
やだなぁ。
あれだろ?さっきみたいなのと戦わなきゃいけないとか。
「はははっ。この森に長居でもしない限り、あんなのと戦う事は早々ねぇよ!」
などと笑って俺の肩を叩く。
いや、笑いこっちゃない。
逆を言えばここにキャンプを張っている限りはあんなのと戦う可能性があるって事じゃねぇか。冗談じゃねぇ!
意地でも町に入ってやる!
「ま、どっちにしても冒険者登録はしといた方が良いだろうな」
「ん?なんでだ?」
「簡単に言えば色々楽になるからだな。ギルド登録してると基本的な身分が簡単に証明できるんだ」
詳しく話を聞いてみると、ギルドの棒証と呼ばれる証書は様々な生体情報を登録できる装置になっているらしい。
小さなかけら程度の魔石という物が使用されており、それに生体情報……というか魔力波動とかいうものが登録できるらしい。
それを利用して簡易的な身分証明としているらしい。
と言っても、名前とどこで登録したか、今までどんな依頼をこなしたか、とかそんな基本情報が入っているらしい。
ギルドにお金を預ける時にも使えるらしい。
出たなファンタジー七不思議の一つ。
此処だけやたらと高度な技術が使われた文明の利器。
この設定見るたびに思うんだけど、実はファンタジーってSFなんじゃないかって思う。
昔のゲームでもたしかそんな設定あったけどな。
たしか、その作品ではレーザー銃が光の剣とか言われてたっけ。
それはそうと。
「それって一般人でも登録できるものなのか?」
いや、もしかしたら俺は一般人以下なんだが。
住民票とか国民登録があれば俺は浮浪者以下になってしまうな。
「まぁ、色々パターンってのはあるが」
聞けば一般的な町民でも登録自体はそう珍しいことではないらしい。
というのも、そもそもこの道具の歴史が関係しているらしく、まだ冒険者と一般的な町民の区別が曖昧だった頃。
時のなんとかって領主様が新しい村を建設する際、領民全員の職業が偏っていることに気づいたらしい。
それを是正しようと町人のうち、開拓村に送るメンバーの職業を把握しようとして当時の町の冒険者ギルドのギルドマスターで、元神殿の枢機卿に声をかけ実現したものらしい。
なんとその人は、今では珍しいハイエルフだったようでその偉業は今でも語り継がれているようだ。
そこから商人ギルドや輸送ギルドにも流用され、今に至るらしい。
ってことは、もしかしたらあの黒く乾いた死体にもそれがあったのかもしれない。
まぁ。今となっては、だが。
「さて、そろそろ遅くなってきたし、今日はもう帰らせてもらうよ」
「ん?あ、あぁ。引き留めたみたいで、すみません」
「いや、問題ないよ。むしろ、うまい肉を食わせてもらって助かった。こんな肉、一生に何度食えるかってレベルだからな」
「えぇ。またいつでも。……まぁその時はお代はいただきますが」
「……はははっ。手厳しい。意趣返しか?……まぁ、その機会があればな。それともう一つ」
ん?なんだろうか?
「できれば、剣は早々に替えておいたほうが良い。これから冒険者をするにしても、別の町に行くにしても、ほとんど確実に魔物や盗賊のいる領域を通ることになる。……命は一つしかないんだ。金で買えるものなら買っておいたほうがいい」
「ありがとうございます。肝に銘じておきます」
どうやら、俺の持ち合わせを見て心配してくれたらしい。
やはりいい人だ。
こうして、夜は更けていったのであった。
「お初にお目にかかります。私は冒険者ギルドのロス・セブスリングと申します」
翌日、恭しい礼と共に眼鏡をかけた男とカルバラ氏が俺のキャンプを訪れにきた。
「おぉ。にぃちゃん!約束通り、冒険者ギルドのヤツを連れて来たぜ」
あぁ、なるほど。ってことはこの人が昨日話してた、ギルドの人か。
「ロス。とりあえず、あっちの腐りかけのやつから見てやってくれ。匂いがきつくて敵わん」
「……ふぅ。カルバラ。いきなり呼び出して何かと思えば。アレは体液だのなんだの、ぶちまけた後だろう?まぁ二束三文にはなるとは思うがな。どちらにしても少し時間がかかる。カーティレイジ副ギルドマスターの元に送らなければならんが、今あの人は出張中だ」
え、まじか。
ってことは買い取れない?
っていうか強い魔物とか言ってたけど、やっぱこれだけダメになってると二束三文にしかならないか。
「そうですね。もし次があるなら、せめて適切な血抜きと内臓だけは分けておいてください。うちの副ギルドマスターはそういうのが大好きですから」
え……、血とか内臓が大好きなギルドマスターって……。
何それ。マッドサイエンティストか何かかな?
あぁ、でも。ミノとかハツとかは美味しいよな。
少し気持ちはわかるかも。
「それで?これだけなら私はもう帰るが?死骸は後で回収班にでも……」
「まぁ、そう焦るなって。おい、にぃちゃん!あれ、出せるか?」
「あれ?って、あぁ、そういう事ですか」
カルバラ氏の発言を聞いて俺は察し、昨日の肉の残りを出した。
「これでいいか?」
「おう。見てみろよロス」
「見てみろと言われても、あれから切り出した肉なら……っ!?」
ロス氏が驚愕で目を見開く。
そこには一昨日切り出して入れておいた肉がそのまま残っている。
鮮度も抜群なはずだ。
「……ばかな。なんだこの鮮度!?ついさっき切り出したばかりのような肉質に滴る血液だと!?君!これはいったい……」
俺の方に血液の滴る肉の塊を差し出してくる眼鏡の男。
若干、猟奇的に見えるのでやめてほしいのだが。
俺は彼が持っている肉とそこに出したすべての肉をいったんインベントリに収める。
「……あっ」
いや、深い意味はないんだ。ただ鷲掴みにされて目の前に突き出されるのに耐えられなかっただけで。
「……なるほど、魔法鞄……いや、空間魔法アイテムボックスか。カルバラ。貴方がわざわざ私を連れてきた理由がわかったよ」
カルバラ氏がその言葉にニヤリと返す。
「……失礼いたしました。改めて、換金の手筈を整えさせていただきます。売却されるものをご確認ください」
急に態度の変わった男の言葉に従って、俺はインベントリから肉を出して鑑定してもらうことにした。
金貨3枚。
それがこの世界で俺の初めての稼ぎである。




