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異世界焼肉道  作者: グッチ
5.自分の焼肉を夢見てはいけない。作るのだ
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5-6.友人との別れ

少し短いですがキリが良いので。

 エルとトマスの馬車に兵士たちが荷物を積み込んでいく。

 明らかに豪華な箱馬車と小さな荷馬車がいくらか。

「あんなに荷物があったのか?」

「ん?いや、アレはここの領主からの餞別だ。必要ないといったんだがな」

 エルが目配せすると兵士の一人が包みを持ってきてくれた。

 エルがその包みを開いて見せてくれる。

 中には透明度の高い幅7cm長さが40cmくらいの塊。

 透明度が高くなければ金属のインゴットのように見える。

 うん?

 仄かに花の香りがする。

 これは何だろうか?

「石鹸だよ。アスタランテの名産だ」

 石鹸?

 あぁ、確かに言われたら石鹸だ。

 この棒を2cm~3cmくらいに切ると、もうまんま石鹸になるな。

 え、石鹸ってこれ全部石鹸?

 あの箱にみっちり入ってるとして、5つくらい箱があるからかなりの量じゃないか?

 それにしても、石鹸はこの町の名産なのか。

 結構過ごしているが知らないことも多いな。

 思い返すとアスタランテのギルドの依頼書には灰の収集とか材料運びとかもあったな。

「王都で買ったらこれだけで琥珀貨5枚はするだろうな」

 えぇ!?高いなそれは。


 アスタランテは灰を石鹸に再利用し、それを特産としているらしい。

 ただし、この世界では固形石鹸は一般的ではなく液体石鹸が主流だ。

 実際、俺が買う際も液体洗剤の方がはるかに多かった。

 固形石鹸はそれだけで料金が跳ね上がる。

 俺が買っていたのは同じ固形石鹸でも端材も端材。

 切る際に粉のようになったものを型に入れて液体石鹸に浸けて圧縮、乾燥させたものだ。

 俺が買った物はそれでも銀貨2枚だったな。

 液体石鹸は壺売りだったしな。

 ちゃんとしたものはアスタランテ市内で買っても卸値で銀貨5枚が最低金額。

 もちろんこれは切る前の卸値の価格であり、そこから何個かに分けて販売されるため、実質の金額はもっと高いのだろう。

 アスタランテがあるサフィラ公爵領内で買うと卸値で琥珀貨数枚。

 公爵領外で買うと関税の関係もありもっとするらしい。

 国内でも数少ない固形石鹸であるアスタランテの石鹸は通常の固形石鹸のほかに、透幻石(クリスタル・ソープ)と呼ばれる超高級品があり、今持っているこれは透幻石。

 この透幻石はきれいな緑の半透明でハーブや花の香りがする。

 そうとうに丁寧に作った品なのだろう。

 透幻石は町の中で手に入ったとしても、琥珀貨1枚以上はかかるそうだ。

 トンデモナイ高級品だな。

「これはこの町の代官もかかわっている特別な品だからな」

 へぇ。それはよっぽどの品だな。


 そういえばさっきから代官の話は出ているがこの町の代官がどんな人かってのは聞いた記憶がないな。

 代官って事は本来の領主の代わりって事だよな?

「まぁ、アスタランテはサフィラ公爵の直轄地だから、実質公爵の代わりだな」

 公爵……って貴族か。

 えっと……、たしか公侯伯子男……だから、え?公爵?

「なぁ、エル?ここの本来の領主って公爵って言った?」

「うん?あぁ。公爵だな」

「……貴族の一番上の?」

「貴族の一番上の」

 まじか。ここってそんな重要な拠点の町だったのか。

 公爵と言えば国内のパワーバランス次第では王族かそれ以上の権力を、みたいな描写も漫画や小説では多いよな。

「私の祖母と母はここサフィラ公爵家の出身でな。まぁ、そんな縁で結構融通を利かせてくれるんだ」

 へぇ。サフィラ公爵家から王家に二代連続で嫁いだのか。

 それならサフィラ公爵は国内でもかなり発言力を持ってるのかな?

 それの代官って実はとんでもない人物なのではないだろうか?

 ……聞かないでおこう。下手にかかわって権力争いに巻き込まれたりしたらシャレにならん。

「ちなみにこの町の代官はサフィラ公爵家の重鎮で……」

「いや、言うなよ!?聞かなかったんだから!」

「ははは、ただの戯れだ」

 こいつ……。


 そんな戯れもそこそこに。

「エル。出立の準備が整ったぞ」

 そうトマスが声をかけて来た。

「あぁ、わかった」

「エル、道中気をつけてください。アスタランテの近隣で買った場合は、鳥便を忘れずに」

「わかっている。ありがとう、ロス」

 続けてロスが鳥かごに入った二羽のハトのような鳥を渡した。

 鳥便と言っているし、アレは伝書鳩か何かだろうか?

「それじゃ、我々はもう出るよ」

「あぁ、気をつけて」

 そう言葉を交わしてエルとトマスは馬車に乗り込んだ。

 ローズさんのように弁当を思いつけばよかったが、特に思いつかなかったのでトマスが好きだと言っていたエピスセルフの腿肉のヨーグルト漬けとオークのバラ肉、それに魚醤とニンニク、ショウガで作った簡易的なタレを壺に用意して渡した。

 タレは使おうと思って作ってはみたものの醤油や味醂を使ったタレとは比べ物にすらならず断念したものだが、エースやランプには十分な味と言われた物なので、この世界の人にとっては不味くはないと思う。

 ヨーグルト漬けはマスタードを入れた刺激と甘みのあるタレを使っているが、こちらは魚醤により塩とコクのタレで味変にはちょうどいいと思うしな。

「ありがたくもらっていくよ」

 エルたち一行は、兵士たちを数人引き連れて馬車を進める。

 俺達の使ったことがある馬車よりガタガタとした車体の音が少ない。

 それよりも上等なものというのが車輪の音からもわかる。

 お付きは兵士三人だが、まぁ、エルはBランクの冒険者、トマスは騎士団長なんだろ?そうそう心配はないだろうな。


 俺はエルとトマスの馬車を見送りながら、ギルドマスターが持ち出してきた串焼きに口をつけるのであった。



 ……いや、なんで串焼きやねん。

「ふむ。落ち込んでいるかと思ってな」

「こどもじゃねぇんだから」

 まぁ、気晴らしさせてくれたんだろうな。

 初夏から夏になる空を見上げつつ、そう思う。


 フィルフィリア王国の夏はエルたちとの別れのようにカラリとした湿気の少ない空だった。

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