5-2.大工のホワイエさん
朝に庭の掃除を終えた俺はギルドへと足を延ばした。
一旦、10匹ほどオークを引き渡し、古い棒証を渡し、金貨、ロスの紹介状を受け取ってきた。
ギルドマスターやロスは忙しいらしく会うことはできなかった。
ちなみにランプは午前中は家財の持ち込みで留守にしているので、午後からエースたちに付き合って買い物に行ってもらうように伝えている。
お金はエースに金貨3枚ほど渡しておいた。流石にこれで足りないほど買う事はないだろう。一人金貨1枚。服や簡単な家具なら十分揃えられるだろう。
一応、中央の市場に行くなら俺がお世話になっている目利き人に声をかけるようにその特徴と共に伝えておいた。
若干、金を手にしたエースが引いていた気がする。
で、俺は俺で別の仕事がある。
風呂場を作るためにロスの紹介してくれた大工のところに行く必要がある。
という事でやってきました。大工の事務所。西の木槌工房。
西の、と付いているがどちらかというと南と言った方が良い位置にある。
鉄板街灯亭の奥にある職人・工業エリアとは違い、南の端に近い城壁の側にある職人エリアだ。
アスタランテでは石工・大工・屋根工が同じ建築ギルドとしてひとまとめにされているらしく、俺のような新規の建築依頼なら本来ならそこを経由して建築依頼を出すらしい。
もちろん、なじみの店や紹介、お抱えの職人がいればこの限りではないし、ギルドに所属していないような親方もいるらしいので、その辺りは絶対ではないらしい。
まぁ、この辺りは町内で若い職人や外から来た職人にも平等に仕事を振る為のシステムらしい。
もっと言うと、これはアスタランテだけのギルドであって、他の町には関係ない。他の町には他の町のシステムがあるそうだ。
何てめんどくさい。
どこかの陰謀論絶えない世界規模の石工ギルドみたいに世界中にあれば統一したシステムでわかりやすかったのに。
……いや、その役割はこの世界ではもしかしたら冒険者ギルドなのかもしれないな。
「すみません。ロスの紹介で伺ったんですが」
「あぁ、ロスの坊ちゃんから聞いてるぞ。お前がリュウか。俺がホワイエだ。よろしく頼む」
「えぇ。よろしくお願いします。早速ですけど作ってほしいものが……」
事前に作ってほしい大枠の寸法は計ってある。
ロスから買った倉庫の中に入っていた板材がきれいな寸法だったのでそれの何個分、と言った感じでメモしておいたものだ。
庭の空いていた部分をそれなりに使ったので予想以上のサイズになってしまったが、せっかくなら足を延ばせる風呂が欲しい。
アスタランテにおいては水はあまり心配しなくてもいい。
となると、問題となるのは大量の湯を沸かす機能。
それも考えがある。
せっかく火の魔法道具をオークキングから分捕ったわけだし、せっかくなので二つ穴式の湯沸し器を作ろうと思う。
100度とかにするならともかく、風呂に入る程度の温度であれば40度から45度くらい。浴槽に蓋があればなんとかなるだろう。
俺がメモの内容を伝えると、羊皮紙にスラスラと設計図を書き始めた。
「風呂用の小屋か。珍しいこと考えるな?」
「あれ?風呂をご存じなんですか?」
「知識としてはな。俺の師匠が昔、帝国領を旅した時に何件か見たらしい。とはいえ、こんな形式のものはなかったがな」
ホワイエさんが後ろにあった棚から本を取り出す。
へぇ。この世界にも紙はあるのか。
中は今までの建設の設計図をまとめたようなものだった。
流石に日本風の銭湯はないよな。
どっちかって言うと露天風呂風というかローマ風というか。
まぁ、今回はそんな形式にする必要ない。
大体、浴室に過ぎないからな。
「ふむ。こんなところか」
おぉう。は、はやい。
あっという間に小屋の設計図を作り出してしまった。
「で、お前さんが考えている湯沸しの機能ってのはどんなもんだ?」
「あ、それはですね」
俺は簡単な二つ穴式の構造を書き出す。
残念ながら絵心はないので木の板に書き出した。
風呂の底に近い部分から斜め下に向かって配管を通して湯沸し槽を満たす。その下に湯沸しの機能を付ける。この槽だけは金属や熱を通しやすい素材が必要だ。湯沸し槽から上方向に向けて配管を伸ばすと、温められたお湯は勝手に上方向へと向かっていく。上に向かって表層に着いたお湯は下の水を押し出し水を送り出さなくても勝手に水とお湯が巡回する。これが二つ穴式の基本的な構造だ。
ポンプを使った1つ穴式が普及するまで日本の風呂を支えてきた技術だ。
というか、今でも現役の技術だろう。流石にバランス釜は俺の周りでは見なくなったが。
ポンプなどがないこの世界ではおそらくは最も簡単に大量の湯を作ることができる装置だと思う。
「今持っている材料は木材と石材だけだな?」
「はい。そうですね。確認しますか?」
「それは明日、現地ででもいい。残りの必要な材料はこっちで確保しておこう」
「ありがとうございます。それで、どのくらいでできそうですか?」
その言葉にホワイエさんが指を三つ立てる。
「ふっ、リュウは運がいいな。今は春の調査期と秋の補修期の間だから人員だけは居てな。小屋だけなら三日だな。湯沸し機構は現場で見てもらいながらになるぞ」
すげぇ。
3日で小屋が建つのか。
小屋と言っても結構大きかった気がするが。
「夕方にでも現地を確認したい」
「えぇ。お願いします」
俺とホワイエさんはそう握手を交わしたのであった。
さて、思った以上に早く終わってしまった。
夕方に来るならそれまでには戻るとして、何かいいものがないか町を軽くぶらついて帰るのもいいだろう。
そういえば職人街側の市場はあんまりきたこと無かったな。
エステルアリト商会やアスモス商会の時はそこを目当てに行くから、あまり周りは見てなかったからな。
いろいろとウインドウショッピングしながら歩く。
流石、職人街。
いろんなものが売られているなぁ。
陶器に絵画、食器、クローゼットなどの家具。お、ガラス瓶だ。それにあっちのは魔導コンロ。
!?
魔導コンロだとぅ!?
もしかしてアレか!魔力だけで動くコンロとかいうやつか?
欲しい。欲しすぎる!
けど、今日のエースたちの買い物次第だな。
今日はウインドウショッピングだけだ。
そんなこんなで南市場と呼ばれる新大通り沿いの市場までやって来た。
此処より北側にある新大通りの東西と南北の交差点の近くにあるのが、いつも行く中央市場。
こっちは規模は中央市場よりは小さいが、工業系の道具が多いみたいだ。
職人街が近いからだろうか?
鑢や金槌なんかが多いな。
アレは鉋か?なんか俺が知っているものと形が違うんだが。
アレって引いて使う物じゃないよな形状的に。
異世界特有の道具なのだろうか?それとも実は俺たちの世界にもあったりするのだろうか?
「親父さん、野菜をいくつかいただけませんか?」
「まいど。可愛い神官見習いさんにはサービスしておいてやるよ」
「ありがとうございます」
うん?
神官見習い?
振り向くとそこには市場の野菜屋で野菜を買っている神官服の少女がいた。
振り向いた瞬間、その少女にさらに二人が合流して三人になった。
「うん?あぁ、ありゃクロス神殿会の神官見習い達だよ」
へぇ。神官。
「なかなかかわいいだろ?去年神殿に入った娘でな、この辺じゃ三人娘っつって可愛がってんだよ」
三人娘、ねぇ。
「まぁ、孤児みたいな奴らを面倒見ていたり色々あって経営もあんまりうまくいってねぇって話だ」
ふーん。
「ちなみに今買い物してた髪の長い娘がパングリーヌ。後から来たのがエリーソンとアルマだな」
いや、聞いてません。
とはいえ三人娘とかいって有名なら名前を知っていてもいいことあるかもな。
「俺ら庶民にはこんなことくらいしかしてやれなくてなぁ。兄さん、もし手持ちが余ってたりするなら寄付でもしてやってくれや」
寄付。寄付ねぇ。
まぁ、神殿って多分、この世界の宗教か何かだよな。
異世界ものの定番と言えば神様に直接、とかよくあるよな。
しておいても損はないのか?
「お、ちょうど三人娘がこっちに来るぞ」
そんなことしていたら三人娘がこっちに来た。
どうやら工具が必要なようだ。
「親父さん、金槌を二つ、用立てていただけませんか?」
「親父さん、お久しぶりっす!」
「親父さん、釘と針も何本か欲しいだわさ」
「はいよ!ちょっと待ちな」
親父さんが背後の商品棚から金槌などを出すために引っ込んだ。
話しかけるなら今がチャンスかな?
「あの?すみません」
「はい?」
「クロス神殿会の関係者でよろしいでしょうか?寄付などを受け付けていると聞いたのですが」
「えぇ。確かに、頂けるなら助かりますが」
「おにーさん、ここいらじゃ見ない顔っすね?最近引っ越してきたっすか?」
「確かに見ない顔だわさ」
だわさって。すごい語尾だな。翻訳の影響か?
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
寄付しようって思ったのだって、信仰心とかではなく俺の勝手な打算的な思考だ。
これ以上深入りする前にさっさと立ち去ってしまおう。
俺は三人娘に雑に金貨を5枚ほど押し付け帰宅の途についたのであった。




